花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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第30話 大丈夫

 ひなたが帰ってきていない。

 琴音さんからそう告げられ、僕の思考が一瞬止まる。

 

 

「ひなたが帰ってきていない?」

 

『はい。学校から帰って直接楓ちゃんの家に行って若葉ちゃんと遊んでいるのかと思っていたんですが、夕食の時間になっても帰ってこないので迎えに行ったんですけどいなくて、若葉ちゃんに聞いたらいつものように一緒に帰ってきて家の前で別れたって…』

 

 通学路で帰ってくると、家の並び的に乃木家の前に先に着き、もう少し進んで上里家に着く。

 乃木家の前で若葉とひなたが別れ、そこまでは一緒にいたということは、乃木家の前から隣の上里家の前までの間に何かがあったということか。

 

「警察には?」

 

『今伊織さんが電話してくれています。ひなたがそちらにいれば必要ないと思っていたんですが、いないと聞いてすぐ電話をかけてくれました』

 

「そうか」

 

 立ち上がり、上着の袖に腕を通す。

 

「僕も捜しに出る」

 

『ありがとうございます!こちらに何か情報が入ったらまた電話します!』

 

 そして通話を切り、ポケットにスマホを入れる。

 

「どうしたの?」

 

 電話の様子から何かあったことを察したらしい千景がこちらを見上げる。

 

「ひなたが帰ってきてないらしいから、僕も捜しに行ってくるね」

 

「え!?私も一緒に捜すわ」

 

 そう言って立ち上がろうとする千景を手で制止する。

 

「千景は留守番を頼む、僕の晩ご飯にラップしておいてくれ。すぐ戻るから」

 

「…わかった」

 

 大人しく言うことを聞いてくれた千景の頭を撫で、玄関の扉を開けて外に出る。

 

 

 神による少女の選別は既に行われているはずだ。ならば、見初めた少女のことは常に見守っているのではないだろうか。

 

 

「──ひなたは何処にいる」

 

 目を閉じ虚空に問いかける。

 そして脳に流れ込んでくるのは、ここから少し離れ、路地裏を抜けて行った先にある倉庫の風景。

 

 徒歩なら1時間くらいの距離か。

 しかし千景にすぐ戻ると言ったからには、そんなにかけていられない。

 

 マンションの塀の上に立ち、壊さない程度に力を込めて踏み込み、塀を蹴って飛び出す。

 建物の屋根や電柱を足場として最短距離で駆け抜ける。既に日は沈んでいる、夜空を駆けても気づかれないだろう。

 

 10分も経たないうちに、目的の倉庫を視界に捉えた。

 

 ──────────

 

 知らない倉庫の中で椅子に座らされ、口をテープで塞がれ手首を後ろ手に縛られている。

 

 私は誘拐されたのだろう。この状況で他が思いつかない。

 私の周囲には、男が4人立っている。

 

「でもよぉ、なんで隣の屋敷のガキにしなかったんだ?」

 

「デカい家を狙うのは多少リスクも高くなる。そういう家の人間は、大抵地域の人間によく知られているからな」

 

「確かに、地域総出で捜されちゃあ大変だな」

 

 その会話から、手慣れているように感じる。

 この誘拐犯達は、若葉ちゃんのことも標的に入れかけたのだろうか。

 攫われたのが私で、若葉ちゃんは無事でよかった…。

 

「そろそろ身代金の電話するか?」

 

「そうだな」

 

 目的は身代金か。いかにもといった感じの誘拐だ。

 

「にしても可愛い嬢ちゃんだな。ガキにはあまり興味は無いが、ちょっと味見でもするか」

 

「向こうが金を用意するまでの時間暇だしな」

 

 そう言って私の方を向く男達。その視線に震えが止まらない。

 

 

 

 次の瞬間、大きな音を立てて倉庫の扉がぶち抜かれた。

 

「何だ!?何が起き」

 

 1人の男が言い終える前に、男達は吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。

 

 

「……ぇ?」

 

 そして砂埃が落ち着いた頃、私の前にはれんちゃんが立っていた。

 

「迎えに来たよ、ひなた」

 

 ──────────

 

 ひなたの口を塞ぐテープを剥がし、手首を縛っていたベルトを外すと、勢いよく僕の胸に飛び込んでくる。

 

「れんちゃんっ!!」

 

「ひなた、怪我とかしてないか?」

 

 ひなたを抱き締め返すと、その小さな体も、僕の背中に回された手も、震えていた。

 

「もう大丈夫。僕がいる」

 

 

 突如、物音がした方へ振り向けば、男が1人立ち上がっていた。

 全員殺すつもりで拳を撃ち込んだが、1人狙いを外したか。他の3人は四肢が異常な方向へ曲がっている。内1人は脊髄をやったか。

 

「ひなた、ちょっとだけ待っててくれ。すぐ終わらせて帰ろう」

 

 ひなたに怖い思いをさせた奴等を生かしておく必要はないだろう。

 

「れんちゃん、殺すのは駄目です!!れんちゃんが人殺しになっちゃう!!」

 

「……わかった」

 

 どうして君はそんなに優しいんだ。

 

 話している間に、男は懐からナイフを取り出す。そんな物で僕の肌は切れないのに。

 

「何だよお前!!こ、こっち来んじゃねーよ!!」

「…フッ!!」

 

 男が瞬きをした刹那、一気に距離を詰め左手でナイフを握り潰し、右手で顎に掌打を入れる。

 その感触から、男の顎が砕けたのを感じ取る。

 脳震盪により気絶した男は、そのまま地面に崩れ落ちた。

 

 ──────────

 

 砕けたナイフを捨て、れんちゃんが私の元へ戻ってくる。

 一撃で男は崩れ落ちた。れんちゃんの身体が凄いのは知っているが、今の動きは相当な技術も伴っていると素人目にもわかる。

 

「…れんちゃんって、武術の達人とかですか?」

 

「うーん…まあそんな感じかな。さあ、帰ろう。おんぶしてあげるからおいで」

 

 そう言って私に背を向けてしゃがむれんちゃん。首に腕を回し、その背中に寄りかかる。

 

 私を背負って立ち上がり、歩き出すれんちゃん。その大きな背中は私の震えなんてかき消して、とても安心させてくれた。

 

 ──────────

 

 ひなたを背負って上里家まで帰ってくると、未だ落ち着かない様子の琴音さん達と楓さん達、警察がそこにいた。

 

 僕に気がついた琴音さんは、その背中に見えたひなたに安堵してその場に座り込んでしまった。

 

「お母さん!!」

 

 僕がしゃがんでひなたを下ろすと、ひなたは琴音さんのところへ走った。

 

「ひなたぁ…良かった…本当に良かった……」

 

 ひなたを抱き締め、安堵の涙を流す琴音さん。

 ひなたも遂に、ずっと我慢していた涙を溢れさせていた。

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