花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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今回で計10万字を超えましたね。


第32話 桜下の約束

「千景、玉子焼きの味付けは醤油、だし、砂糖のどれがいい?」

 

「全部作ってみたら?多分皆食べるでしょ」

 

「そうだね」

 

 朝から千景と2人でキッチンに立ち、弁当と朝食を作る。今日は皆で花見をするのだ。

 

「朝ご飯できたわ」

 

「ありがとう。一段落したら冷める前に食べるよ」

 

 千景が朝食を作ってリビングのテーブルへ運んでいく。料理の腕は2年前と比較して随分と上達し、主婦レベルに到達しつつある。

 料理以外にも家事全般を教えてきたので、既に家事万能と言っても差し支えない。

 どこに出しても恥ずかしくない立派な子だ。

 玉子焼きを巻きながら、そんなことを思った。

 

 ──────────

 

 春が来て、千景は小学6年生、若葉とひなたは5年生になった。

 丸亀城の桜は満開を迎えており、時折吹く風に花弁が舞う。

 

 桜の下に1枚の大きなレジャーシートを広げ、その上に全員で座る。

 今日はいつもの乃木親子、上里親子に加え、珍しくおばあちゃんも一緒である。

 

「あと何回、孫達と一緒に花見できるかねぇ」

 

「縁起でもないことを言うなよ、母さん」

 

 丸亀城は有名な花見スポットで、周囲には同じように花見をしている人達がたくさんいる。

 

「弁当たくさん作ってきたから、皆も食べてね」

 

「ああ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 自分達の弁当そっちのけで僕達の弁当へ箸を伸ばす若葉達。お母さん達が作ってくれた弁当も食べてあげてね。

 

 

 そんなことを一瞬思ったが、その楓さん達も一緒になって僕達の弁当をつつき始める。別に構わないが、それでいいのか。

 

「このポテトサラダは千景が作ったんだよ」

 

「何!?母さんが作るサラダより美味いな」

 

「確かに私のより美味いな」

 

「あはは…」

 

 

 

 女性陣が談笑する中、誠司さんは持ってきた酒を開けて紙コップに注いでいた。

 

「伊織と蓮花はどうだ?」

 

「貰う」

 

「僕はいいかな」

 

 速攻で紙コップを差し出す伊織さんと対照的に、僕は酒を遠慮する。

 

「酒は苦手か?」

 

「苦手っていうか、千景に酒臭いとか言われたら嫌だから」

 

 だから僕は千景の前で酒を飲んだことはない。というか千景と暮らし始めてから一切飲んでいない。

 

「そんなこと言わないけど」

 

「思われるだけでも嫌なんだ」

 

「蓮花さんの代わりに私に入れておくれ」

 

「1杯だけですよ、お義母さん?」

 

 おばあちゃんの紙コップを受け取り、酒を注ぐ誠司さん。

 

「ケチ臭いこと言わんでくれ」

 

「健康の為です。来年も若葉達と花見するんでしょう?」

 

「…ならしょうがないね」

 

 今の飲酒欲より孫との未来を優先するおばあちゃん。乃木家の人間の意志の強さは、そう簡単に欲に負けることは無い。

 

 

「れんちゃん、ここ空いてますか?」

 

「空いてるよ」

 

「では失礼します」

 

 確認を取って僕の足の間に座るひなた。2年半前、初めて運動会に行った時と比べると、ひなたも背が伸びていることがよくわかる。

 ちなみに若葉は最近とても背が伸びている。成長期が来たのだろう。2年生の時はひなたと大差無かった身長は、今では千景を少し追い抜いている。

 

 カシャッ。

 

 突如カメラのシャッター音がした方へ目線を向けると、琴音さんがこちらにカメラを向けていた。

 

「いきなりだね」

 

「こっそり撮ったほうが自然体が撮れるので」

 

「なるほど」

 

 おかずを箸でひなたの口に運びながら、撮れた写真を見せてもらう。

 

「確かに自然だ」

 

「自然体で甘えているひなたを写真に収めることができました」

 

「えっ!?」

 

 すぐさま飲み込み、写真を覗き込むひなた。

 

「消してください!」

 

「消していいの?」

 

「……やっぱり消さなくていいです」

 

 上里母娘が微笑ましいやり取りをしている横で、乃木母娘は弁当を食べながら千景に作り方を聞いている。

 人に教えられるほどに成長したのだと、千景の成長を1人静かに喜んでいると、背後から見知った声が聞こえた。

 

「あ、やっぱり郡親子だ!」

 

「こんにちは〜」

 

 振り返ると、そこには美琴ちゃんと凜ちゃんがいた。その手には屋台で買ったらしき唐揚げを持っている。

 

「久しぶりだね。2人も花見?」

 

「はい、凜と一緒に遊びに来ました」

 

 確かこの2人は家が隣同士で、小さい頃から仲がいいのだったか。若葉とひなたのような関係だろうか。

 

「千景、唐揚げ1個いる?」

 

「いる」

 

 紙皿に唐揚げを1つ貰う千景。屋台の唐揚げは大抵大きい。

 

「ありがとう、お返しにお弁当のおかずをちょっとあげる」

 

「ありがとう!」

 

「あ、私もベビーカステラちょっとあげる」

 

 千景の紙皿に凜ちゃんのベビーカステラが追加される。その代わりに紙皿におかずを乗せ、割り箸と共に2人に渡す千景。

 

「何このふわふわの玉子焼き!?凄く美味しい!」

 

「それはれんちゃんが作ったの」

 

「この生姜焼きも美味しい!」

 

「そっちは千景が作ったんだ」

 

 箸が止まらない様子の2人。素直な反応を見せてくれて嬉しくなる。

 

「こんなの毎日食べてるとか、もう私郡さんちの子になる!!」

 

「それは駄目よ」

 

「駄目か」

 

 とてもエネルギッシュな美琴ちゃんを前に、若葉とひなたはポカンとしていた。無理もない。

 

「そっちの2人は、もしかしてよく千景と一緒に帰ってる子?」

 

「ええ」

 

「乃木若葉です」

 

「上里ひなたです」

 

「わぁ、礼儀正しくていい子達」

 

「見習ってちょっと落ち着いてね、美琴」

 

 凜ちゃんに宥められる美琴ちゃん。なるほど、凜ちゃんが美琴ちゃんを制御するのか。

 

「私は弥勒美琴、こっちは橋本凜。千景のクラスメイトだよ」

 

「今年も同じクラスになれるといいね」

 

「そうね」

 

 凜ちゃんの言葉に同意する千景。今のところ3年連続同じクラスである。

 

「若葉ちゃん達は千景とどういう関係?」

 

「香川に来て、最初にできた友達よ」

 

「そうだったんだ」

 

 

 

 その後、美琴ちゃんの人柄もあってか子供達はすぐに仲良くなり、和気藹々と過ごしていた。そして僕達保護者はそれを微笑ましく見守り、琴音さんは時折写真を撮っていた。

 

 そして日が傾き始める頃、僕達は帰り支度を始めた。

 

「じゃあ私達も帰るね、また学校で」

 

「またね」

 

「さようなら」

 

 美琴ちゃん達を見送り、弁当箱を片付ける。だいぶ多めに作っておいた弁当もとっくに空になっている。

 

「ほら伊織さん、そろそろ帰りますよ」

 

「ん……ああ」

 

 少し前に酔って寝ていた伊織さんを起こす琴音さん。あの騒がしさの中、よく眠れたものだ。

 

 荷物を片付け、レジャーシートを畳む誠司さん。

 周りを見渡せば、屋台も少しずつ店仕舞いを始めている。

 

 今日の夕食はどうしようかと思い千景の方へ振り向くと、千景は夕風に靡く桜を見上げていた。

 長く綺麗な黒髪に桜の花弁が少し付いていることに気がつき、千景の髪から花弁を取る。

 

「髪に花弁付いてたよ」

 

「あら、いつの間に。ありがとう」

 

 まだ付いていないかと髪を揺らす千景。

 桜の下、夕陽に照らされて煌めく髪はとても綺麗で、僕は写真に収めることも忘れ、その美しさを目に焼き付けた。

 

 

「また来年も、ここで花見をしよう」

 

「ええ、約束よ」

 

 

 桜下で交わした約束を、二度と破らないと心に誓った。

 

 

 

 

 季節は移り変わり、あっという間に夏が来る。

 

 そして、運命の日がやってくる。

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