花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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第34話 地獄での再会

 蓮花さんに貫かれた白い化け物は、光の粒子となり消滅していく。

 周囲を見回せば同じような光が複数、そして元は人だっただろう肉片もいくつか落ちていた。

 

「ふっ」

 

 蓮花さんは動きを止めず、すぐに他の化け物へ攻撃していく。

 殴られた化け物、蹴り飛ばされた化け物は全て等しく文字通り木っ端微塵となっていく。

 

 その間に、私達はクラスメイト達の元へ駆け寄った。

 

「皆無事か!?」

 

「乃木さん…」

 

「大丈夫だよ。あの人が助けてくれたから」

 

 そう言った女の子が指をさす先では、今も蓮花さんが一方的に化け物を屠っている。

 

「あの人、何?……本当に人間なの?」

 

「…優しい人ですよ」

 

 昔から蓮花さんの身体能力は色々おかしかったが、その優しさは本物であると私達はわかっている。

 

 瞬く間に神楽殿内の化け物は殲滅され、その光景に人々は静まり返っていた。

 

「蓮花さん!!」

 

「若葉、ひなた。怪我は無いか?」

 

「私達は大丈夫ですが……」

 

 ひなたが肉片へ視線を向ける。おそらくさっきの化け物に喰い殺されたのだろう。

 

「…少し遅れてしまったな。僕は外の化け物を片付けてくるから、2人はここにいてくれ」

 

「私も一緒に…!」

 

「危ないから駄目だ」

 

「それでも、蓮花さんだけに危険を負わせるわけには……」

 

 蓮花さんの言うことは正しい。私が一緒にいたところで、素手の子供に何ができるというのか。

 

「……若葉は頑固だな。……この神楽殿の中に、刀があるはずだ。僕は具体的な場所を知らないが、ひなたならわかるだろう」

 

 そう言うと、すぐに蓮花さんは外へと走り出して行った。

 

「刀?ひなた、何か知っているか?」

 

「私は何も……いえ、そこです!!」

 

 ひなたは社殿奥の祭壇を指さす。なぜそうだとわかるのか、ひなたにも聞きたいことは色々あるが、他に手がかりも無い。

 

 化け物によって壊されたらしき祭壇の中には、確かに錆びついた刀と鞘があった。

 

 私がその刀の柄を握った瞬間、ドクン、と急激に血が全身を巡り始めた。

 体が熱く息苦しくなると同時に、感じたことのない力が湧き出してきた。

 錆びていたはずの刀身は、いつの間にか生きているような瑞々しい輝きを帯びている。

 

「これなら、戦える……!」

 

「若葉ちゃん……」

 

 心配そうに私を見つめるひなた。

 

「ひなた、しばらく皆の傍にいてくれ。行ってくる」

 

 神楽殿の隅に集まっているクラスメイト達は、今もまだ震えている。

 

「……わかりました。お気をつけて」

 

「ああ」

 

 そして私は外へ駆け出す。蓮花さんと並んで戦う為に。

 

 

 

 

 

 外に出ると、巨大な口のある白い化け物が混ざり合い姿を変えていた。

 しかし残る化け物はそれら数体のみしか見当たらない。既に蓮花さんが倒したのだろう。

 

「蓮花さん!」

 

「来たか。刀はあったか」

 

「ああ。……あれは?」

 

 私は姿を変えた化け物を指さし、蓮花さんに尋ねる。

 

「そのままじゃ僕に勝てないと学習して、進化してるんだ」

 

「進化?」

 

「うん。まあ、無駄だが」

 

 体表面に矢のようなものを発生させた進化体が、その矢を周囲の人々に向かって射出した。

 その時には既に、私の横にいたはずの蓮花さんはいなかった。

 

「ぬんっ!」

 

 矢が人々に当たる前に、蓮花さんはその矢を片手で掴んで受け止め、化け物へと投げ返した。その力強さに周囲の空気が揺れる。

 

 矢を放った化け物は、投げ返された矢によって貫かれ消滅した。

 

「あんなの…私ではどうにもならないんじゃ……」

 

「大丈夫だ若葉、お前は生き残っている人達を神楽殿内に集めて、守ってくれ。進化体は全部僕がやる」

 

「……わかった」

 

 人々を守る。任された事は、遂行しなければ。

 

「全員、神楽殿の中へ!!こっちはもう安全だ!!」

 

 周囲の人々へ大声で呼びかける。恐怖で立ち上がれない人には手を貸して共に歩く。時折近づいてくる化け物を切り伏せる。

 

 そうして全員が神楽殿への避難が完了する頃にはとっくに、蓮花さんは全ての進化体を倒し終えていた。

 

 

 

 

 

 安全となった神楽殿の中で、私達はようやく落ち着いて話をしていた。

 

「どうして蓮花さんがここに?」

 

「お前達が心配になって追いかけてきたんだ」

 

「こうなることがわかっていたんですか?」

 

「…いや、僕が家を出たのは夕方だ。島根では大きな地震が起きていただろう?」

 

「そういえばそうだった。色々あって忘れかけていた」

 

 化け物が出現して以来、地震は収まっている。まだ地震のほうがマシだったが。

 

「とりあえず、2人共おにぎり食べるか?」

 

「なぜ今おにぎり」

 

 背負っていたボディバッグからおにぎりを2つ取り出す蓮花さん。周囲には見えないように私達へと渡してきた。さすがにこの場の全員に配れるような数はないからだろう。

 

「これから帰るまで、ちゃんと食事ができるかわからないからね。今のうちに食べておきなさい」

 

「わかりました」

 

 やたらと美味しいおにぎりを食べながら、今後について相談を始める。

 

「これからどうする?」

 

「若葉とひなは、ここの人達を連れて香川に帰ってくれ。四国はこの辺りよりは安全だ」

 

「どうやって帰るんだ?」

 

「交通機関は機能していないし、この人数だから、徒歩で帰るしかない。安全な道はひながわかるだろう」

 

 私と蓮花さんがひなたへ向くと、ひなたは目を丸くする。

 

「私、わかるんですか?」

 

「本人はこう言ってるが」

 

「大丈夫、わかるはずだ。刀の場所もわかっただろう?」

 

 そうだ、どうしてひなたはこの刀の場所がわかったのだろう。それをひなたに聞いてみるが、ひなたははっきりとしない表情をする。

 

「なんとなく、です。でも、どうしてか確信できるんです」

 

「そのなんとなくを信じるんだ。それで大丈夫」

 

 蓮花さんがそう言ったことで、ひなたの表情に迷いは無くなっていった。

 食べ終えたおにぎりを包んでいたラップを片付けながら、次の質問を蓮花さんにする。

 

「さっき私とひなたは香川に帰れと言ったが、蓮花さんはどうするんだ?一緒に帰らないのか?」

 

「ああ、僕は今から行くところがある」

 

「こんな状況でどこに?」

 

「奈良だ」

 

「「奈良っ!?」」

 

 驚いて大きな声を出してしまったことで、周囲の人々が私達に視線を向ける。

 

「さっき交通機関は機能していないって言ってたじゃないですか、どうやって行くんですか!?」

 

「もちろん走っていくさ」

 

「ここからどれだけ距離があると思っているんだ!?」

 

「問題無い、僕の足なら2時間もあれば着く」

 

 私達の質問に淡々と返していく蓮花さん。その表情からは揺るがない意志を感じる。

 

「どうしてそこまでして…」

 

「あっちにも、助けたい人がいるんだ」

 

 奈良に知り合いがいるのだろうか。一緒に帰れると思っていたゆえに、ひなたは寂しげな表情になっていく。

 

「ひなたが示す安全な道なら、たとえ化け物が出たとしても少数だろう。若葉なら問題無く倒せる」

 

「……わかった。ひなたと一緒に頑張って帰るよ」

 

 

「……ごめんな。一緒にいてやれなくて」

 

 蓮花さんが私達の頭へ手を乗せ、優しく撫でた後に私達を抱き寄せる。

 

「お前達2人なら大丈夫だ」

 

「ああ」

 

「はい」

 

 少ししてから私達を放した蓮花さんは、ポケットからスマホを取り出した。

 

「ひなた、スマホは持ってきているか?」

 

「はい、持ってますけど…」

 

「もしもの時は、僕に電話してくれ。助けに戻るから」

 

「…わかりました」

 

 ひなたが頷き、蓮花さんはポケットにスマホをしまって立ち上がる。

 

「れんちゃん…無事に帰ってきてくださいね…」

 

「ああ、行ってくる。また香川で会おう」

 

「行ってらっしゃい」

 

 神楽殿を出ていく蓮花さんを見送った後、私は立ち上がって、これから香川へ向かうことを皆に伝えた。

 そして全員の準備が整ったことを確認すると、私達は神楽殿を出た。

 

 ──────────

 

 島根を出て、すれ違う敵を処理しながら、足を止めずに走り続ける。見渡す限り、何処も彼処も地獄のようだ。

 

 若葉のクラスメイト達を救ったことで、若葉が復讐に囚われることはないだろう。

 

 探している人物の気配を辿っていくと、御所市のスーパーマーケットに到着した。

 

 

 

 

 

 

 そこの駐車場にも、他の場所と変わらず死体や車の残骸が落ちていた。

 そして端に停まっているマイクロバスの前には、見覚えのある少女達が立っていた。

 少女達へ歩み寄ると、あちらも僕に気がついた。

 

「ん?あんたはスーパーの中にはいなかったな。まさか他の場所から来たのか?」

 

 白衣の女性に訝しげな視線を向けられる。当然だ、こんな状況で出歩けるのは普通ではないだろう。

 

「ああ。君達は何をしているの?」

 

「これからこのバスで四国へ避難する」

 

「そうなんです。一緒に行きませんか?」

 

 知らない相手にも自然と手を差し伸べる赤毛の少女。やはりとても優しい子だ。

 

「ありがとう、一緒に行くよ」

 

「私は高嶋友奈です!…って、あれ?もしかして会ったことある?」

 

「そうなのか?」

 

「そういえば、神社で遊んでいた君にボールを拾ってあげたね」

 

「あ、そっか!ボールの人!」

 

 思い出してくれたのはいいが、そんな憶え方をされていたのか。

 

「僕は郡蓮花。ボールの人じゃないよ」

 

「蓮花さん!」

 

「てか怪我してるじゃないか。消毒して絆創膏を貼るから、じっとしてて」

 

「大丈夫だよ、ただの擦り傷だし」

 

「いいから」

 

 バッグから消毒液と絆創膏を取り出し、友奈の傷口を軽く手当する。

 

「あと、君も初対面じゃないよ」

 

「私か?」

 

 長い黒髪に赤いインナーカラーが入っていて、白衣を着ている綺麗な女性。忘れられないだろう。

 

「正月に大阪のコンビニでハンカチを拾った」

 

「……思い出した。あの時の子連れか。娘はどうした?」

 

「家で留守番してもらってる」

 

「こんな時に1人でか?」

 

 最もな疑問だ。『こんな時に子供を置いて自分だけバスで逃げようとしている』ように見えるかもしれない。

 

「大丈夫、僕の家は香川にある」

 

「なるほどな。ではなぜわざわざ危険を負って四国から出てきた?」

 

「ちょっと用事でね」

 

 白衣の女性の問いに回答しながら、さっきからずっと黙っている少女へ目を向ける。初めて見る子だ。

 

「君の名前は?」

 

「えっと……ボクは横手茉莉と言います」

 

「こいつは化け物の場所がわかるそうだ」

 

「……なんだって?……本当に?」

 

「はい……一応……」

 

 僕の確認に自信なさげに答える茉莉。

 これは驚いた。想定外だ。友奈を見出した巫女は久美子ではなかったのか。

 

「私からもう少し質問がある。あんたはいかにも戦いそうな格好をしているが、まさかあんたも化け物を倒せるのか?」

 

「ああ。でなきゃここまで来れてないよ」

 

「…そうか。そうだな」

 

 話が一区切りしたところで、スーパーの中から黒シャツの男が出てきた。

 

「おい、まだか!?この後どうするんだ!このバスで逃げるのか!?まさかお前らだけで逃げようとしてたんじゃないだろうな!?」

 

 大声で怒鳴りながらこちらを睨みつける黒シャツ男。その剣幕に茉莉は怯えてしまっている。

 

 これは、邪魔だな。

 

 これから集団で逃げようというのに、この男はおそらく和を乱す。今のうちに処理しておいた方がいいだろう。

 

 黒シャツ男に近づき、相手にしか聞こえない小さな声で話しかける。

 

「ちょっといいか?あっちでいい物を見つけたんだ。これから役立つかもしれない。2人で山分けしないか?」

 

「ああ?……いいだろう」

 

 乗り気になった男を連れて、スーパーマーケットから離れていく。

 

「で?こっちで何を見つけたんだ?」

 

「あれさ」

 

 僕が指をさした先には、人間を探して漂っている化け物がいた。それを見た瞬間逃げようとした男の頭を鷲掴みにする。

 

「放せ!!何しようってんだ!?」

 

「お前は邪魔になりそうだから、あれの餌にでもしようかと思って」

 

「な、なんだと!?待ってくれ、やめ──」

 

 男が言い終える前に、化け物の方へ投げ飛ばす。

 そして男が喰われている間に、化け物も狩っておく。これも逃げる時に邪魔になるかもしれない。

 

 

 スーパーの駐車場に戻ると、既に中にいた人々がバスへ乗り込み始めていた。

 

「戻ってきたか。……さっきの男はどうした?」

 

「そのまま逃げたよ」

 

「……そうか。あんたは私と同類かもしれないな」

 

「一緒にするのはやめてほしい」

 

 全員乗り込んだことを確認すると、最後に僕達もバスに乗り込む。

 

「あ、そうだ。久美子」

 

「ん?どうして私の名前を知っている?教えてないが」

 

「友奈から聞いた。それより、ここから大鳴門橋まで早ければ2時間ちょっと、遅くても朝までには着くはずだ」

 

「……そうだな。それがどうかしたか?」

 

 こんな状況で、久美子の為のバスツアーに何日も付き合うわけにはいかない。企みは潰しておかないと。

 

「寄り道せず、真っ直ぐ四国へ向かってくれ。もし朝になっても着かないようなら、君を全身縛ってでも僕が運転する」

 

「……わかったよ。にしても、あんたにそんな趣味が「無いよ」」

 

 そして、ようやく僕達の乗ったバスは四国へ出発した。

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