花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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連日更新なんて久々だ。


第35話 心配と信頼

 明けない夜闇の中、私はハンドルを握りバスを走らせ続ける。

 出発してからかれこれ数十分経つが、外の景色は何処も彼処も瓦礫や人の肉片が散乱している。

 

 想定されていた私の人生のレールは、今日あっさりと壊された。

 

 こんな状況、楽しくないわけがない。私は今、バス遠足を楽しむ子供のような気持ちだ。

 

 遠回りして終わらせないようにしよう、と考えていたが、蓮花に真っ直ぐ四国へ向かわなければ運転を代わると釘を刺されたため、渋々四国へ向かっている。

 

 蓮花も運転ができるとなれば、私がいなければ避難できないというこの集団内での優位性が失われてしまう。私の発言力も弱まるだろう。ここは従うしかない。

 

「友奈、茉莉、おにぎり食べる?」

 

「食べる!」

 

「ありがとう、ございます」

 

 その蓮花は今、私の後ろの席で友奈達におにぎりを与えている。

 確かに避難にはこいつらが必要だ。餌付けするのは構わない。

 

「私には無いのか?」

 

「あるよ?でも今運転中だから、後でね」

 

 

 

 

 

 また少し進んだところで、道路が瓦礫で塞がれていた。

 

「蓮花」

 

「あいよ」

 

 バスを停めて蓮花の名を呼ぶと、すぐに察した蓮花がバスを降りていく。

 そして走行の邪魔となる大きな瓦礫を持ち上げ、道の端へと片付ける。

 

 既にこれを何度か繰り返している。

 瓦礫や化け物で通れない時、蓮花が降りて片付けるので、私達は遠回りをする必要が無く最短距離を進んでいる。今のところ、蓮花は一切友奈に戦わせようとはしない。

 

 バスに戻ってきた蓮花に手を伸ばす。

 

「ん?……ああ」

 

 そして私の手にはラップで包まれたおにぎりが乗せられた。食べてから進むとしよう。

 

「……美味いな」

 

 

 

 あまりにも順調な走行により、2時間程度で明石海峡大橋付近まで辿り着いてしまった。

 すると、茉莉が何かをスケッチブックに描き始めた。

 

「……へぇ、上手いね」

 

「ありがとう、でもそんな場合じゃないです」

 

 茉莉が描いたページが蓮花、友奈から私へと回ってくる。

 一旦路上にバスを停めて受け取ると、それはこの辺りの簡単な地図のようで、明石海峡大橋の途中が黒く塗り潰されている。

 

「……ここに化け物がいると?」

 

「はい、多分……」

 

 相変わらず自信なさげな茉莉だが、ここに来るまでも茉莉の予測は全て当たっていた。そしてその全てを蓮花が片付けて進んできた。

 

「どうする蓮花?」

 

「行こう。問題無い」

 

「わかった」

 

 蓮花の返事を聞き、またバスを発進させる。ここまでの道のりから、私は蓮花の戦闘能力を信頼している。蓮花が問題無いと言ったのだ、大丈夫だろう。

 

 明石海峡大橋に入っていくと、確かに遠くの上空に何かが見えた。

 より近づくと、見覚えのある大きな口の化け物もいるが、初めて見る形状の化け物も複数体浮遊している。

 

「初めて見るやつだな」

 

「僕は奈良に行く途中で見たよ」

 

 運転席の横に立ち、前方を観察する蓮花。

 

「何だあれは?」

 

「あの普通のやつが複数体合体した進化体だ」

 

「なるほど……本当に大丈夫か?」

 

 ほんの少し不安になり蓮花に問うが、その横顔に不安なんて欠片も感じられなかった。

 

「大丈夫だ。行ってくる」

 

 ある程度近づきバスを停めてドアを開けると、蓮花が飛び出していく。そして敵に向かっていく様子を、私達はバスの中から眺める。

 

 蓮花に気がつき、大きな口の化け物が接近するが、その歯が蓮花に触れる前に蓮花の拳が化け物に触れ、爆散していく。

 これはもう何度も見てきた光景だ。

 

 そして蓮花は全身のバネを使って上空へ飛び、降りてこない化け物へ攻撃を始めた。

 百足のような長い体形の化け物を引きちぎり、付近を飛ぶ化け物を足場にして空を駆け、別の化け物へ攻撃を仕掛ける。

 

「凄いね……」

 

「……そうだな」

 

 瞬きも忘れて感嘆の声を漏らす友奈に同意する。

 友奈の戦いを初めて見た時もかなり驚いたが、蓮花はその比ではない。人間離れしすぎている。

 普通の人間が踏み込んだだけで十数メートルも飛べるものか。

 

 そんな事を考えている間に、それなりにいた進化体も掃討されていた。

 

 

「もう大丈夫、進めるよ」

 

 戦闘を終え、バスに戻ってきた蓮花。あれだけ動いたにも関わらず、大して息も切れていない。

 

「……お前は非現実の権化みたいな奴だな」

 

「それは褒めてる?」

 

「褒めてる褒めてる」

 

 何をどうすればそんな身体能力になるのか疑問は尽きないが、ひとまずは置いておいてバスを進めることにした。

 

 その後、淡路島を走り大鳴門橋から四国へと入った。

 大鳴門橋にもそれなりの数の化け物がいたが、特に何事も無く蓮花が一掃した。

 

「四国には着いたが、ここからどうする?」

 

「ひとまず一番近い避難所に行こう」

 

 スマホで避難所の情報を調べ、一番近いところへバスを走らせる。

 到着すると、そこには既に多くの避難民がいた。大鳴門橋から一番近い避難所故に、同じように外から避難してきた人々が集まっているのだろう。

 

「皆、避難所に着いたぞ。ここはもう安全だ」

 

 私が皆に呼びかけバスのドアを開くと、順番にバスを降りていく。去り際に礼を言っていく者もいた。

 危険から脱したことに安堵する者、これからの生活をどうするか頭を抱える者、様々だ。

 

 私も一度バスを降り、少し避難所で休憩する。

 蓮花は友奈と茉莉を連れて、食料の配給を受け取っている。主にインスタントカップ麺のようだ。

 

「久美子も食べる?」

 

「ああ」

 

 戻ってきた蓮花がこちらに手渡してきた一つを受け取る。

 

「今はどこにいるの?」

 

「今は徳島だね」

 

「蓮花さんはこれから香川に帰るんですか?」

 

「ああ」

 

 そういえばこいつは香川から来たんだった。もう少し運転する必要があるのか。

 

「君達は、どこか行く当てはあるの?」

 

「無いです…」

 

「私も」

 

 行く当てのない友奈と茉莉。祖父母が四国に住んでいるとかならともかく、そうでないならしょうがない。

 

「久美子は?」

 

「私は……実家が香川にあるが、帰るつもりはない」

 

「えぇ……帰ってあげてよ、心配してるよ」

 

「面倒だ」

 

 別に喧嘩別れをしたとかではない。ただ実家に帰ってもつまらないだけだ。両親と話す話題も無い。

 

「……じゃあ、とりあえず皆うちに来るか?」

 

「いいんですか?」

 

「頼れる大人がいないんじゃ、これから生きていくの大変でしょ?放っておけないよ」

 

「行く!」

 

「久美子は?」

 

 色々考えながら、カップ麺を食べ終えて返事をする。

 

「……私も行くよ」

 

 こいつらと一緒にいれば、これからもっと面白いものが見られるかもしれない。

 

 ──────────

 

 また少しバスで移動して、ようやく家に帰り着く。

 今は深夜だ。千景が寝ていることを考慮して静かに玄関の扉を開く。

 

「ただいまー……」

 

 中に入ると、同じタイミングでリビングの扉が開かれた。

 

「あれ?千景起きてたの?」

 

「……れんちゃん……れんちゃん!!」

 

 飛び込んできた千景を受け止める。

 

「こんな時にどこに行っていたのよ……なんかテレビやSNSで地獄みたいな光景が流れてるし……寝られるわけないじゃない……」

 

「……ごめんな、もう大丈夫。帰ってきたよ」

 

 今にも泣き出しそうな千景の髪を撫でていると、後ろから声をかけられる。

 

「早く入ってくれ」

 

「ああ、ごめん」

 

 ブーツを脱いで家に上がると、友奈達も玄関へ入ってくる。それを見た千景は驚き、涙は一瞬で引っ込んでいた。

 

「……え?誰?……と思ったけど全員見たことあるわね」

 

「え?友奈と久美子はあるけど、茉莉も会ったことあったっけ?」

 

 僕が茉莉を指さすと、千景は確かに頷く。

 

「奈良で鹿にせんべいをあげようとした時、鹿せんべいを食べようとしていた人だわ」

 

「え?」

 

「え!?あの時いたの!?あれはどんな味か気になっただけで食べようとはしてないよ!?」

 

 どうやら僕は、気づかない間に茉莉とも遭遇していたようだ。

 

「というかこの人達どうしたの?れんちゃんがナンパしてきたの?」

 

「違うよ。四国の外から避難してきて、行くところが無いから連れてきたんだ」

 

「……外は今、どうなってるの?」

 

「地獄だ。人が沢山死んでいる」

 

 久美子がド直球に教える。しかし事実だ。

 

「……とりあえず皆、風呂入って。着替えは友奈と茉莉は千景の服を貸そう。久美子は…僕の服でいい?」

 

「ああ。なんでもいい」

 

 着替えを用意して、順番に風呂に行かせる。その間に僕は、軽食を作ることにした。

 

 

 

 

 

「上がったぞー。……何を食べてるんだ?」

 

「ホットケーキ!」

 

 友奈、茉莉に続いて久美子が風呂から上がってくる。

 現在僕はキッチンでホットケーキを焼いている。

 

「久美子も食べる?」

 

「……食べる」

 

 一通り焼き終え、ホットケーキを乗せた皿をリビングに運ぶ。既に久美子はテーブルの前に鎮座している。

 

「焼けたよ。……ちょっと僕の服は大きかったか」

 

「千景のは流石に入らないし、しょうがない。私は別に構わない」

 

 久美子が着ている僕のTシャツは少しサイズが合わず、ダボっとしている。それ故に、上から見下ろすと胸の谷間がよく見える。

 

「これは……いけないな。早めに服を買いに行こう」

 

「れんちゃん、どこを見ているの……」

 

「偶然視界に入っただけさ」

 

 千景の視線が痛い。この状況で服屋は営業しているのだろうか。

 

「まあそんな事は置いといて。今この家には食材は沢山あるから、節約しながら使えば少しは食事に困らない」

 

「そうね」

 

 食材を買い込んでおいてよかった。この人数での食事を想定した量ではないが。

 

「で、これからなんだけど。とりあえず皆は寝ていてくれ。ここまで寝てないでしょ?」

 

「そうだな。疲れた」

 

「蓮花さんは寝ないの?」

 

「僕は外に出てくるよ。四国内にも、少数とはいえ化け物が出現している。だから見回ってくる」

 

「化け物ってこれのこと?」

 

 千景がスマホの画面を見せてくる。そこには、SNSに投稿された化け物の写真が写っていた。

 

「そう、それ」

 

「大丈夫なの?危なくないの?」

 

 心配そうな顔をする千景。友奈と茉莉も少しだけそんな顔になるが、久美子の表情は全く変わらない。それが信頼から来るものであれば嬉しいが。

 

「大丈夫だよ」

 

「お前の親父はアホほど強いから、心配いらないぞ」

 

「……そう。父親ではないけど」

 

「ん?違うのか?」

 

「そうなの?」

 

「違うわ」

 

 数年前はお父さんだと言ってくれたはずなのに、はっきりと否定されてしまった。

 

「なんかショック受けてるぞ」

 

「大丈夫だ……行ってくるね。朝には帰るよ」

 

「わかったわ。行ってらっしゃい」

 

 また千景を置いて外へ出る。今度は友奈達がいるから、千景への心配は少しマシだ。

 

 

 

 

「そういえば若葉達はもう帰ってきたのか?……流石にまだか。数時間で島根から徒歩で帰って来れるわけがない」

 

 若葉達で思い出したが、乃木家と上里家の皆はどうなっているのだろう。

 

 状況を確認するために僕は乃木家へ向かい、崩れて瓦礫と化した屋敷を見た。

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