花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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休日はすることなくて筆が進む。


第36話 死別と休息

 あの瓦礫と化しているのは乃木家なのか……?

 

 隣に見覚えのある上里家があるから、そうなのだろう。上里家は少し崩れているが全壊はしていない。

 

 乃木家前に人だかりができている。それは皆知っている顔、商店街の人達だ。

 

 建物の上から乃木家前に降りると、そこにいた琴音さんがすぐこちらに気づいた。

 

「れんちゃん!?よかった、無事なんですね!?」

 

「ああ。どうして商店街の人達が?」

 

「楓ちゃん達が家の下敷きになってしまって、助けを呼んできたんです!!」

 

「下敷き!?」

 

 皆が瓦礫を動かそうとしているのはそのためか。

 

「全員、ちょっと離れてて」

 

「蓮花さん、どうするつもりだ?」

 

「瓦礫を片付けるんでしょ?」

 

 大きな瓦礫を片っ端から隅へ移動させていく。

 

「すげえ力持ちだ……!」

 

 やがて、瓦礫を動かした下からガタイのいい男性が見つかった。誠司さんだ。

 さらに誠司さんの下には楓さんがいた。

 

「楓ちゃん!!誠司さん!!」

 

 皆が駆け寄り容態を確認する。

 

「……私は大丈夫だ。誠司が庇ってくれたから……」

 

「でも楓ちゃん、足が折れてますよ!病院に連れていきますね!」

 

 楓さんは足を骨折しているが、命に別状は無さそうだ。

 しかし、誠司さんは違った。

 

「誠司さん!!おい、誠司さん!!」

 

「救急車を呼べ!!」

 

「……」

 

 沢山の瓦礫から楓さんを守った背中は、背骨が折れており内臓は破裂している。横腹には柱が刺さっており、辺りは血で染まっている。

 

「もう……息が無いよ……」

 

「……ぇ」

 

「じ、人工呼吸とかは!」

 

「肺が破れているから無意味だ……血も流しすぎている……」

 

 誠司さんは既に死んでいる。おそらくもっと前から。

 それでもなお、楓さんに覆いかぶさり、楓さんを瓦礫から守ったのだろう。助け出されるまで。

 

「……せ、誠司…?目を…開けてくれ……若葉を泣かせる気か……?」

 

 足を引き摺って誠司さんの元へ這う楓さん。しかし、遺体は目を開けず何も話さない。

 

 遠くから、救急車のサイレンが聞こえる。こちらに向かってきている。

 

「……誠司さんは、最後まで愛する妻を守り抜いた。だから、楓さんは生きてくれ。誠司さんと若葉の為にも」

 

「…ああぁ……うあ゙ぁああ゙ぁあぁ゙ああぁぁあ゙ぁあ゙ぁぁ──!!」

 

 

 

 その後、おばあちゃんの自室辺りの瓦礫を動かしたところ、おばあちゃんの遺体が発見された。

 若葉と楓さんは、遺されてしまった。

 

 

 この被害が化け物によるものであれば、結局若葉は復讐に囚われたかもしれない。

 しかし、人が喰われていないところを見るに、地震による被害であったようだ。

 

 

 

 

 楓さんの運ばれた病院にやって来ると、同じように怪我をした人々で溢れかえっていた。

 今は楓さんの病室にいる。先程手術を終えたばかりだ。

 

「……そういえば、千景はどうした…?」

 

「家にいるよ。多分寝てる」

 

「離れていて大丈夫なんですか?」

 

「ああ。一緒にいてくれている人達がいるから」

 

 久美子以外は信頼できる子達だ。大丈夫だろう。

 

「……琴音さん、伊織さんはどうしたの?」

 

 ふと気がついて、隣に座る琴音さんに問いかける。

 

「……昨日の夜は残業していて、帰ってきていないんです」

 

「連絡は?」

 

「取れません……」

 

 嫌な予感がする。大抵こういう時、僕の嫌な予感は当たるのだ。

 

「会社の場所を教えて。直接行って見てくるよ」

 

「はい…」

 

 

 そして僕は病院を出て、教えてもらった場所へ移動した。

 その場所の周辺は、食い荒らされたように人の肉片が散乱していた。

 

 そして伊織さんが勤めていたらしい会社も、外と同じく肉片と血が飛び散っていた。

 

「……まさかまだこの辺りにいるのか?」

 

 その思った瞬間、天井を崩して化け物が現れた。数は一体。

 

「本当に僕が見に来てよかった」

 

 速攻で消滅させ、社内を探索する。

 オフィスらしき部屋に入ると、かなり濃い血の臭いがした。人が集まっていたところを襲われたのか。

 

「……ん?」

 

 その部屋を見て回っていると、床に落ちていた腕に目が止まった。

 腕しか無いが、それが伊織さんであると僕には瞬時にわかってしまった。

 見覚えのある腕時計をしていたから。

 

 腕時計を外して裏を見ると、幼児向けアニメのシールが貼られていた。

 

 ひなたが小さい頃に貼ってしまったが、可愛いからそのままにしている、と伊織さんは笑いながら言っていた。

 その時に見せてもらったのと同じシールだ。

 

「伊織さん……」

 

 この腕時計は持って帰ろう。伊織さんの形見だ。

 琴音さんとひなたには、伊織さんは地震で会社が崩れて下敷きになって死んだと伝えよう。

 ひなたにも、復讐に囚われてほしくはない。

 

 愛する人が自分のいない所で死んでいた、と伝えるのか。伝える側も辛いな。

 しかし、いつまでも帰ってくる可能性を信じて待ち続けるのは、もっと可哀想だ。

 

 

 病院に戻ると、まだ楓さんの病室に琴音さんはいた。

 伊織さんの死を伝え腕時計を渡すと、琴音さんは膝から崩れ落ち、腕時計を抱えて泣き続けた。

 

 

 琴音さんが泣き止んだ頃、僕は今後のことについて話し始める。

 

「2人は、これからどうするの?」

 

 上里家も、乃木家ほどではないが崩れている。そのうちさらに崩れない保証は無く危険なため、あの家では暮らせない。

 

「……どうするかな」

 

「家も無くなりましたし……」

 

「……とりあえず、うちに来てくれないか?そうしてくれたら、千景を安心して任せられる」

 

「お前は千景の傍にいてやらないのか?」

 

 不思議そうな目でこちらを見る楓さん。

 僕はスマホでSNSを開き、その画面を2人に見せる。

 

「今、四国の外ではこんな化け物が大量に出現してて、沢山の人が喰われて死んでいる」

 

「……え?」

 

「四国はこれらがあまり出現してなくて、外から沢山の人達が避難してきているんだ」

 

 日本の現状を簡単に説明する。2人は驚いて声を発さない。

 

「でも四国も全くいないわけじゃなくて、少ないけど出現している。だから僕はこれから、四国中を回ってこれを狩りに行く」

 

「……だから家にはいられないと?」

 

「ああ。これ一体いるだけで、人が数十人、数百人と殺される。同じように家族を失う人が沢山出てくる」

 

「それでお前が死んだら、千景はきっと立ち直れないぞ」

 

「大丈夫。僕は四国の外で既に沢山こいつらを倒してきた」

 

「……どういうことですか?」

 

「僕は昨日の夜、若葉達が心配になって島根まで行ってきたんだ」

 

 そしてそこであった事を簡単に話す。僕と若葉は化け物を倒せること、若葉達が他の人達と共に香川へ向かっていることも。

 

「……そんなことが」

 

「だから、若葉とひなたは大丈夫。あの子達は神に愛されている。話を戻すけど、この後琴音さんを家まで送ったら、僕はそのまま四国を回るね」

 

「……わかりました。ちーちゃんは任せてください」

 

 先程夫が死んだと聞いたばかりなのに、もう前を向いている。本当に強い人だ。

 ひなたの芯の強さは母親譲りか。

 

 

 

 

 

「多分、中では奈良から避難してきた子達と千景が寝てると思う。琴音さんも昨日の夜から寝てないでしょ?」

 

「大丈夫。こんな状況ですから、誰かが起きていたほうが安心です。もし急に電話がかかってきても、皆寝ていたら困りますから」

 

「……ありがとう。でも、ちゃんと時間を見つけて寝てね」

 

 玄関の前で琴音さんと別れ、暗い世界へ飛び出していく。もうすぐ夜明けの時間だが、全く朝日は見えない。時間確認のためにスマホの充電には気をつけよう。

 

 ──────────

 

「ん……」

 

 目を覚ます。時計を見ると9時だが、外は未だに暗い。太陽が登っていないのか。

 

 襖を開けてリビングに出ると、既に起きていた久美子さんと、琴音さんがいた。

 

「ん、起きたか」

 

「おはよう、ちーちゃん」

 

「おはよう……どうして琴音さんがここに?」

 

 私の朝食を準備してくれようとする琴音さんに問いかける。

 

「れんちゃんから、ちーちゃんのことを頼まれまして。私の家は潰れちゃいましたし」

 

「え?」

 

 話す琴音さんの横顔はとても悲しそうで、何かあったのだと私にもわかった。

 

 顔を洗ってリビングに戻ると、既にうどんが準備されていた。

 

「いただきます」

 

 うどんを啜る私の横で、久美子さんがスマホとテレビを一緒に見ている。目が忙しそうだ。

 

「何をしているの?」

 

「情報収集だ。私が寝ている間に何か状況が変わったりしていないか調べている」

 

 テレビでは、相変わらずどこの番組も悲惨な光景を映している。世界はどうなってしまったのだろう。

 

「私もさっき起きたんだが、起きたら知らない人がいて少し焦った。災害発生時は泥棒がよく出ると聞いたことがあるから」

 

「驚かせてすみません」

 

 テレビは今生中継をしている番組が多く、リアルタイムで情報が届けられている。

 

「あ、四国」

 

 今は多くの人が避難してきた徳島を映している。その避難所はどこも人で溢れている。

 

『あ、あちらをご覧ください!何やら黒い人影が建物の上を高速で移動しています!あ、早すぎてもう見えなくなりました。あれも化け物なんでしょうか…?』

 

「……」

 

「今の…れんちゃんですか?」

 

「あいつ化け物か疑われてるぞ」

 

 れんちゃんは今、徳島にいるらしい。本当に寝ずに四国中を回っているようだ。こんな形で生存確認をするとは。

 

「…心配か?」

 

「……大丈夫。れんちゃんが大丈夫って言ったから」

 

 私はれんちゃんを信じている。今は、信じて待つしかできない。

 

 

 

 そして日が登らぬまま一日が終わる。

 

 翌日の昼、れんちゃんが帰宅した。若葉とひなたを連れて。

 

「四国を回った後、若葉達を迎えに行ってきたんだ」

 

「お母さん、ただいま帰りました!!」

 

「ひなた!!おかえりなさい!!無事でよかったぁ……」

 

 玄関で琴音さんがひなたを抱き締める。

 

「若葉ちゃんもおかえりなさい!お母さんは今──」

 

「入院していると蓮花さんから聞きました。後で会いに行きます」

 

 若葉は所々擦り傷等があるが、大きな怪我はしていないようだ。2人共無事で帰ってきてくれたことに私も安堵する。

 

「若葉、ひなた。ご飯作っておくから風呂に入ってきなさい」

 

「「はい」」

 

「れんちゃんもよ。ご飯は私が作るから」

 

「…わかった。ありがとう千景。でも先に若葉達が入ってね」

 

 若葉達が風呂入っている間に、2人の着替えを用意する。

 ……私の服は足りるだろうか。

 

「おかえりなさい蓮花さん!」

 

「おかえりなさい」

 

「ただいま。いい子にしてた?」

 

「うん!」

 

 リビングに入ると、ちょうど昼食を食べていた友奈ちゃん達がれんちゃんを迎える。

 

「そういえば、お前徳島でテレビの生中継に映っていたぞ」

 

「え、そうなの?」

 

「そうよ。あれも化け物なんでしょうか!?って言われていたわ」

 

「えぇ…」

 

 相変わらずれんちゃんの服を着てソファに座る久美子さん。その隣にれんちゃんも腰を下ろした。

 

「…………疲れた……」

 

「お疲れ様」

 

 何日か寝ずに動き回っていたのだ。流石のれんちゃんでも疲れて当然だ。

 

 

 うどんが茹で上がる頃、若葉とひなたが風呂から上がってきた。若葉に私の服は少し小さいかもしれない。昔は私のほうが背が高かったのに。

 

「れんちゃん、お次どうぞ」

 

「ああ」

 

 風呂に向かったれんちゃんと入れ替わり、若葉達がテーブルに着く。

 

「……疲れた」

 

「そうですね……」

 

「食べたら寝なさい。ずっと寝てないんでしょう?」

 

 2人共、目の下に薄くクマができている。その疲れた目で周囲を見回す若葉。

 

「……今更だが、知らない人達がいるな」

 

「あ、私は高嶋友奈って言います!」

 

「横手茉莉、です」

 

「烏丸久美子だ。お前達のことは千景から聞いている」

 

 若葉の問いに怒涛のジェットストリーム自己紹介をする友奈ちゃん達。この3人には、既に私から若葉達のことを話している。

 

「お前が若葉か……なぜ日本刀を持っている?銃刀法違反だぞ?」

 

「ん?ああ、これは私の大事な物だ。これで化け物を倒してここまで帰ってきた」

 

「……なるほどな。お前も友奈と同じか」

 

「同じ?」

 

「私もこれでお化けを倒すの!」

 

 そう言って篭手を若葉達に見せる友奈ちゃん。

 

「なんと、この刀以外にもあれを倒せる武器があるのか!」

 

「若葉ちゃん、うどん伸びちゃいますよ?」

 

「あ、ああ」

 

 刀を置き、ひとまずうどんを食べることに専念する若葉。

 その間に友奈ちゃんと茉莉さんが、若葉達に対して自分達の経緯を話す。

 久美子さんは友奈ちゃんの抽象的な説明を聞いて笑っていた。友奈ちゃんの説明だけでは伝わらないかもしれない。

 

 2人の説明が終わる頃、れんちゃんが風呂から上がってきた。

 既にテーブルの上にうどんは準備している。

 

「ありがとう千景。いただきます」

 

「どうぞ」

 

 うどんを啜るれんちゃんに、久美子さんが尋ねる。

 

「今後どうするんだ?」

 

「……とりあえず明日、皆の服を買いに行こう。千景の服が足りなくなるし、いつまでも久美子に僕の服を着させるわけにもいかない」

 

「大きくて着心地が良いから私は構わないが」

 

 そう言って立ち上がり、シャツの裾を持って揺らす久美子さん。

 

「ふとした時に僕の理性が削られるから駄目」

 

「……れんちゃん、久美子さんをそんな目で見ていたのね」

 

「違うんだ千景」

 

「冗談よ。確かに久美子さんは無防備だから、しょうがないわ」

 

「私が無防備…?」

 

「女性の恥じらいが少し欠けてると思う」

 

 茉莉さんは久美子さんに対してはあまり遠慮が無い。

 

「話を戻すが、服を買いに行った後はどうする?」

 

「……しばらく社会の動きを見るかな。人の動きもそうだけど、食料とか資源の扱いも。またすぐにスーパーとかで買い物ができるようになるかはわからないし」

 

「確かにこの人数だから、食材の確保は優先すべきですね」

 

「むしろ服よりもそっちを優先すべきだろう」

 

「そんな格好で久美子を外で歩かせられない」

 

「そうね」

 

「そうですね」

 

 これに関しては久美子さん以外満場一致らしい。

 

 

 

 昼食を終え、れんちゃん達は布団で眠りにつく。

 おそらく、れんちゃんや若葉達はこれから忙しくなる。他の人にできないことができるから。

 せめて今はしっかり休んでほしい。

 そう思った私は、れんちゃんの隣で添い寝をすることにした。良い夢が見られるように。

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