花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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どうしよう、想定していたより久美子がヒロインすぎる。
でも照れる久美子を想像すると可愛くて興が乗る…。


第38話 夢と嫉妬

 目を覚まし、視線を横に向けると茉莉がいた。テーブルで何かを描いている。

 

「…おはよう」

 

「あ、起きたんだ。おはよう」

 

 体を起こし、ソファの上から茉莉の隣に移動する。

 

「何してるの?」

 

「えっと、絵の練習」

 

 手元を覗き込むと、スケッチブックには可愛らしい絵が描かれている。

 

「将来、絵本作家になりたくて」

 

「……そっか」

 

 この子は明確な夢を持っていて、世界がこんな状況になっても、変わらず夢を追いかけている。

 なんとなく、茉莉の頭をそっと撫でる。

 

「ふぇ…?」

 

「何か僕にできることがあれば言ってね。夢を叶える為に頑張る君を支えたい」

 

「……ありがとう」

 

「とりあえず、すぐに朝ご飯作るね」

 

 立ち上がり、朝食の準備をするためにキッチン、の前に顔を洗う為に洗面所へ向かった。

 途中で、起きてきた久美子とすれ違って目が合い、彼女は顔を真っ赤に染めて目を逸らした。

 

 ──────────

 

 数日が経過し、突如四国を囲うように大きな壁が現れ、世間では大社という組織が表に出てきた。

 四国に現れた、土地神の集合体である神樹を信仰する宗教組織だという。

 避難所の運営や街中の瓦礫の撤去、道路の修繕や治安維持等、各地の役所と連携して様々な事業を行いつつ、日本中に出現した化け物の対策も行っていく。というのが、ニュース等で流れている大社の情報だ。

 

 ちょうど今も、ニュースで流れている。

 皆で朝食をとりながらニュースを眺める。

 

「大社ねぇ……」

 

「……おそらく大社は、お前達を探しに来るだろうな」

 

 久美子さんはそう言いながら、隣に座る友奈ちゃんの髪をわしゃわしゃと撫でる。

 

「そうだね……。化け物の対策をする上で、若葉達の戦う力とひなた達の能力は必要だろう」

 

「何を他人事みたいに。お前も探される側だろうが」

 

「え?……ああ、確かに」

 

 忘れていたと言わんばかりに一瞬ポカンとするれんちゃん。

 

「……それって、若葉達が化け物と戦わされるってこと?」

 

「ひなたや茉莉はともかく、若葉と友奈と蓮花はそうなるだろうな」

 

「僕が全員守るから大丈夫」

 

 そうは言われても、大切な人と親友が戦場に立たされるというのは心配である。

 

「そもそも大社は、化け物を倒せる人がいるって知っているの?」

 

「知っているだろうな。避難所で聞き込みをすればすぐにわかる。四国外から来た人間が、どうやって生きて四国に避難したのかをな」

 

「そうだね」

 

 化け物の対策をするというのなら、話を聞くために実際にあれに遭遇した人間を探すだろう。そしてどうやって生き延びたのかを聞く。

 自動車等で振り切ったという話も聞けるだろう。しかしその中に、『化け物を倒した』という回答をした人がいれば、質問は『生き延びた方法』から『倒した方法』に変わる。『誰』が『どうやって』倒したのか。

 

「役所と情報を共有できるなら、個人の特定もできるんだろうな」

 

「そう遠くないうちに、この家に訪ねてくるかもしれないね」

 

 ──────────

 

「蓮花、ちょっと話がある」

 

 その日の夜。他の皆は寝室に向かい、僕も1人リビングで寝る体勢に入った時、久美子が茉莉を連れてリビングに戻ってきた。

 

「何?告白?」

 

「え!?そうなの!?」

 

「違う。告白なら茉莉を連れてこない」

 

「それもそうか。それで?」

 

 横になっていた体を起こすと、隣に座る2人。茉莉はよくわからないまま連れてこられたようだが、久美子の表情は真剣なものだ。

 

「もし、大社がこいつらを探しに来た時は、私が茉莉の変わりに名乗り出る」

 

「……え!?なんで!?」

 

 先程から驚いてばかりの茉莉。寝る前なのに興奮して、この後寝られるのだろうか。

 

「どうして?」

 

「こいつはきっと、友奈達が戦って傷付いていくのを傍で見ることに耐えられない」

 

「……っ!」

 

「それに、大社に所属するとなったら、絵を描いたりしていられないだろう」

 

「……茉莉が心配なのと、夢を応援したいんだね」

 

「……そうかもしれないな」

 

 そう言って微笑む久美子は、もしかしたら何か考えがあるのかもしれないが、少なくとも今は優しく見えた。

 

「ちょっと待ってよ!」

 

「なんだ?」

 

「ボクは確かにこれ以上怖い思いはしたくないけど、そもそもゆうちゃん達にも戦ってほしくないよ……皆まだ子供なんだよ……?」

 

 そうだ。それが普通の感情なんだ。

 

「そうだね。僕もそう思うよ」

 

「だがな、友奈や若葉は、自分が戦うことで傷付く人が少しでも減るなら、自分が傷付くことを厭わないタイプの人間だ。あいつらは人々の為に戦うかどうか2択を迫られたら、迷わず戦うことを選ぶ」

 

「そんな……」

 

「お前には、普通の日常の中で生きてほしい」

 

「ボクは……その普通の日常を皆で過ごしたいのに……」

 

「でも、世の中もあの子達も、きっとそれを赦してはくれない」

 

「蓮花さんも……久美子さんに賛成するの……?」

 

「ああ」

 

 俯く茉莉を抱き締める。震えている。泣いている。

 友達が戦うことを止められないからだろうか。

 普通の人間にとって、自分や周囲の人が傷付くことは、見知らぬ他人が傷付くことより辛い。僕もそうだ。

 

「すまない……皆のことは、僕が守るから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 泣き疲れて眠った茉莉を寝室に運び、リビングに戻る。そこではなぜか、久美子が寝室から持ってきた1枚の布団を敷いている。

 

「……何してるの?寝ないの?」

 

「寝るぞ?ここで」

 

 ここで?

 

「お前と少し話したいと思ってな。ほら、ここ空いてるぞ?」

 

 布団に横になり、自分の隣を手でポンポンと叩く久美子。

 

「……僕はソファでいいよ」

 

「ずっとソファだと体を壊さないか?今日は構わないぞ」

 

「……そんなに僕と寝たいならしょうがない」

 

 いつまでも布団の半分を空けて待ち続ける久美子の誘いに乗り、リビングの明かりを消して久々の布団で横になる。

 

「君ねぇ、出会って2週間程度の男との距離感バグってない?」

 

「なんだ、意識しているのか?」

 

「そりゃするよ。……明日の朝、千景に凄い目で見られそう……」

 

 布団1枚に大人が2人。流石に狭く距離が近い。今日は酒臭いわけではないので、普通に女性の甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 

「で?茉莉の代わりをする本当の理由は?」

 

「あいつが心配なのと夢を応援したいのは本当だが」

 

「他には?」

 

「そのほうが面白そうだから。こんな時でも普通の日常を過ごすなんて、私には御免だ」

 

「なるほどね」

 

 やはりそういう企みもあったのか。久美子らしいといえばらしいか。

 少し動くだけで触れ合ってしまうこの距離、手の置き場に困ってしまう。

 

「……やっぱり今もノーブラなのか?」

 

「ああ。寝る前だし普通だろう?揉んでみるか?」

 

「……………………遠慮しておきます」

 

「かなり悩んだな」

 

「僕だって人間なんだよ。性欲だってある」

 

 久美子は自分がいい女である自覚はあるのだろうか。

 

「……お前は、もし戦うかどうか選べたとしても、戦うのか?」

 

「ああ。友奈達は見ず知らずの他人でも全力で助けようとする子達だから止められない。なら僕は傍で戦って自分で皆を守る。それが一番確実だから」

 

「……確かに確実だな」

 

 結局、一番信じられるのは自分の力なのだ。

 僕の力は守りたいモノを守りきるためにあ……。

 

「……何?どうしたの?」

 

「そういえば、若葉達がお前の筋肉は凄いと言っていたのを思い出してな」

 

 僕の体をベタベタ触り回る久美子。本当にこの子の距離感はどうなっているのだろう。

 次第にシャツの下に手を入れ、直接触り始める。くすぐったい。

 

「服を着ていると分かりずらいが、かなりしっかりと筋肉が付いているな」

 

「血反吐を吐きながら死ぬ気で鍛えたからね。……くすぐったい」

 

「すまん」

 

「そんなに僕の体が気になるなら、今度一緒に風呂に入るか?」

 

「お前は何を言っているんだ?」

 

「……僕には君の距離感が理解できないよ」

 

 最近久美子に振り回されることが多い気がする。

 胸筋や腹筋に満足したのか、次は腕や足に手を伸ばそうとする。

 もうこの手は握っておこう。そうすれば体中をまさぐられずに済む。

 

「……そういえば、久美子って何歳?」

 

「今年で24だ」

 

「じゃあ2つ歳下なのか」

 

「もっと離れていると思っていた」

 

 失礼な。

 

「……いつまで手を握っているつもりだ?」

 

「久美子が寝るまで」

 

「……まだ足が空いているが」

 

「大人しくしなさい、縛るよ?」

 

「やっぱりそういうのが好きなんじゃ「違うよ」」

 

 ……久美子ってこんな人だっただろうか。第一印象となんか違う。

 

「大人しくするから手を放してくれ」

 

「わかったわかった。もう寝るよ」

 

「せっかく布団で寝られるのに、もう寝てしまうのか?」

 

「布団で寝られるからこそ早く寝るべきなんじゃないの?」

 

 この子は何を言っているんだろう。

 

「言い方を変えよう。せっかく私と寝られるのに、もう寝てしまうのか?」

 

「…………ずるい女」

 

「まあそう言うな」

 

「でも起きてて何するのさ?」

 

 無駄に起きてどうでもいいことを長々と駄弁るのも幸せではあるが、流石にそろそろ寝てもいい時間だ。

 

「ふむ……」

 

 一言呟き、僕の唇に人差し指を当てる久美子。

 

「……私と何がしたい?……なんてな」

 

「……なんで今日はそんなに小悪魔的なんだ」

 

「この前のお返しだ。お前の赤面を拝んでやろうと思ってな」

 

 久美子はふふっと笑いながら指を離す。

 

 

 

 

 その余裕を奪ってみたら、一体どんな表情を見せてくれるのか、少し気になってしまった。

 

「…ん?ちょっ……!」

 

 久美子の背中に片腕を回し、こちらに抱き寄せる。

 そしてもう片方の手を久美子の頬に添える。

 

「お返しだよ。……ほら、もう真っ赤だ」

 

 抱き締めているが故に、心音の速さの変化もよく伝わってくる。

 

「急に心音が速くなったね。緊張してる?」

 

「……こんな状況は初めてだからな」

 

「そういえば恋人いたこと無いんだったね」

 

 先程までの勢いはどこに行ったのだろう。

 

「……久美子って鍛えてるんだっけ?」

 

「多少な…」

 

「だからこんなに引き締まってるんだね」

 

 久美子の頬に添えた手を放し、腹部や腰回りをそっと撫でる。引き締まっているが、女性らしい柔らかさも兼ね備えている。

 下半身の肉付きはとても僕好みだ。太腿を撫で、臀部をそっと揉んでみると、その揉み心地の良さに心が躍る。

 

「んっ……」

 

「……可愛い声が出たね」

 

 窓から差し込む月明かりに照らされる久美子は顔を真っ赤に染め、少し蕩けたような瞳をこちらに向ける。

 求めるような瞳に応え、首筋に口づけし、徐々に下に降りていき鎖骨に到達する。

 

「ん……蓮花……」

 

 久美子に名前を呼ばれ、ふと冷静になる。

 ……これ以上はいけない。久美子を蕩けさせておいて何だが、この辺りでやめておこう。

 

 

「……ねえ、久美子」

 

「……ん…?」

 

「…このまま寝てもいい?」

 

「……よくこの状況で…寝られるな」

 

「…久美子の心音で眠くなってきた」

 

 誰かを抱き締めて心音を聞いていると、とても安心して眠くなる。

 両手を久美子の背中に回し、より強く抱き締め、密着する。

 久美子の両腕も僕の背中に回され、さらに2人の間の隙間は無くなる。

 

「……久美子は眠れそう?」

 

「……ああ」

 

「なら、このままで…。おやすみ、久美子」

 

「ああ…おやすみ……」

 

 久美子の体温と香りを傍に感じながら、興奮する心を抑えて眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。目を覚ますと、寝る前と変わらず久美子は僕の腕の中で眠っていた。僕の背中に回された久美子の両腕もそのままだ。

 

 少しその髪を撫でる。やはり触り心地が良く、千景の髪といい勝負だ。

 

 上半身を起こし、後ろを見るとソファに千景が座っていた。逸らしてしまいたい目でこちらを見ている。

 

「あ……えっと、おはよう」

 

「……おはよう、れんちゃん」

 

 千景の声が、重い。こんな『おはよう』を聞いたのは初めてだ。

 

「久美子さんと遅くまでエッチなことをしていたの……?」

 

 微妙に笑っていない目で尋ねてくる千景。

 

「そんなことは……してない、です」

 

「本当に……?」

 

「うん……。久美子がからかってきたから、ちょっと仕返しで抱き締めたりしたら、眠くなってそのまま寝た」

 

 他にも色々した記憶はとても強く残っているが、黙っておこう。言ったところでこの場は好転しない。

 

「そもそも、どうして久美子さんがここにいるの?布団も1枚持ってきて」

 

「色々話したいからここで寝るって言って敷いてた」

 

「色々って何?」

 

「年齢の話とか筋肉の話、とか……」

 

「なんで筋肉」

 

 どうしよう、千景が怖い。こんなにお怒りなのは初めてだ。

 

「他の皆はまだ寝てるの?」

 

「ええ。私だけ早く目が覚めたから起きてきたら、れんちゃんと久美子さんが抱き合って寝ていたのよ」

 

「さ、さようで…ございます、か……」

 

 この状況をどうしようかと悩んでいると、布団が動いた。

 隣を見れば、久美子が少し目を覚ました。

 

「ん……朝か。……ふぁ…ぁあ!!」

 

「あら、おはよう久美子さん」

 

 起き上がった久美子が目の笑っていない千景を視認し、欠伸をしながら驚いた。なんだ今の。

 

「おお、おはよう……」

 

「じゃあ、僕は顔洗って朝ご飯作るね!」

 

 そして洗面所へ逃げようとしたところ、背後から久美子に抱き締められたことで立ち上がるのを阻止された。

 

(待て、逃げるな。私だけ置いていくな)

 

(そんなつもりはないから放してほしい)

 

 千景に聞こえないよう小声で久美子とやり取りをする。この距離では意味が無いかもしれないが。

 僕を抱き締める久美子を見て、千景の表情がより険しいものとなる。

 

(……こうなったら、僕に考えがある。手を放してくれ)

 

(……わかった)

 

 久美子の手が放され、僕は立ち上がり千景に対して両手を広げる。

 

「千景、ごめんね。おいで」

 

「……」

 

 ほんの少しだけ考えた後、千景はソファから立ち上がり僕を抱き締めてくれた。

 

「……こんなんじゃ許さないんだから」

 

「ごめんよ、僕は千景が大好きだよ」

 

「……知っているけど」

 

 しばらく抱き締めていると、僕と千景の腹が空腹で鳴った。

 

「……朝ご飯にしようか」

 

「……うん」

 

 いつの間にか洗面所に逃げていた久美子を追って、顔を洗う為に僕も洗面所へ向かう。

 朝からとても疲れた気がした。




今日の郡家
 朝起きたら、蓮花さんと久美子さんがなんだか疲れた顔をしていた。朝から何かあったのだろうか。
                   茉莉
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