花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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タイトル考えるの苦手……。
『今日の郡家』は絵本の物語のアイデアを見つけるために、茉莉が一言日記をつけ始めたようなものです。


第39話 愛しさと神性

「やっと皆の服買えたね。よかったよかった」

 

「久美子さん、これからはちゃんとブラ着けてよ?」

 

「わかったよ」

 

 数日が経過し、私達はようやく営業を再開した近くの服屋を訪れ、それぞれの服を数着購入した。

 これで私の服も帰ってくるだろう。

 

 ついでに食料品の買い物も済ませマンションへ帰ってくると、マンションの前に一台の車が停まっていた。

 そしてその横に、変な面を付けた人が立っていた。

 その人はこちらに気がつくと、深くお辞儀をしてから言葉を発した。

 

「郡様方でございますか?」

 

「違います」

 

「違わないだろ、息をするように嘘をつくな」

 

 ノータイムで否定したれんちゃんにツッコミを入れる久美子さん。

 

「私は大社から参った神官です。あなた方に大事なお話があり、こうしてお待ちしておりました」

 

 

 

 

 

「お茶をどうぞ」

 

「これはどうもありがとうございます」

 

 大社の神官を名乗る男を家に入れ、話を聞くためにリビングに集まる。

 気が利く琴音さんは神官にお茶を出している。

 

「それで、話とは?」

 

「はい。私は今日、勇者である乃木若葉様と高嶋友奈様、それに巫女である上里ひなた様に大社に所属していただきたく、お話に参りました」

 

 それから神官は、様々なことを説明し始めた。

 まず、あの化け物を大社は『バーテックス』と呼称していること。

 そして、バーテックスを倒すことができる人間を『勇者』、神の声を聞くことができる人間を『巫女』と呼ぶこと。

 若葉の刀は『生大刀』、ゆうちゃんの篭手は『天ノ逆手』という神器だということも教えてくれた。

 

「勇者とは、神器を扱える人のことを指します。勇者と言えど神器が無ければバーテックスを倒せませんので、バーテックスを倒せるということは神器を扱えることになります」

 

「え?でも、れんちゃんは素手でいっぱい倒してましたよ?」

 

「え?」

 

 驚いて素の声が漏れる神官。

 

「……そうなんですか?」

 

「違います」

 

「違わないだろ、お前素手で無双していたじゃないか」

 

 またノータイムで否定するれんちゃんにツッコミを入れる久美子さん。

 

「……この件は、一度他の神官と共有させていただきます。またお話を伺うことがあるかもしれません」

 

「ないと思いま…」

 

「お前は少し黙っていろ」

 

 遂にれんちゃんは久美子さんに黙らされてしまった。

 

「……話を戻しますが、この度、高知のとある神社から発見、回収された神器『大葉刈』の勇者に、神樹様は神託で郡千景様を示されました」

 

「……え?私?」

 

 急に私の名前を出されたことに驚く。皆も驚いている。

 

「私が、勇者?」

 

「はい。私が今日ここに参った理由の一つとして、貴女様に勇者になっていただきたくお願いに参りました」

 

「……それに、拒否権は無いんだろう?」

 

「え?」

 

 重い声を発するれんちゃん。その表情はいつになく真剣だ。

 

「お願いとは言いつつも、人類の為に戦ってもらうことになったと、報告をしに来ただけだろう?」

 

「……否定はしません」

 

「そうなの……?」

 

 私に、命をかけて戦う以外の選択肢はない?

 

「大丈夫だ、千景。選択肢なら僕が作る」

 

「どういうこと?」

 

「お前が嫌なら、勇者にならなくていい。僕が全部どうにかするから。とりあえず大社は潰す」

 

「いきなり潰すのはやめてやれよ」

 

 ……私が勇者になって戦えば、若葉やゆうちゃんを守って、れんちゃんの負担を減らせるのだろうか。

 

「……私、勇者になるわ」

 

「……本当にいいのか?」

 

「ええ」

 

「……そうか」

 

「ありがとうございます。そして、本当に申し訳ございません……」

 

 頭を床につけて、消え入りそうな声で感謝と謝罪をする神官。この人はおそらく、子供を戦わせることに罪悪感を感じているのだろう。

 

「そして次に、勇者様巫女様方には大社に所属していただきたいのです」

 

「戦争の為に戦力を集めていると?」

 

「……それも、否定はできません」

 

 とても辛そうに声を出す神官。この人はきっと、本当にいい人なのだろう。立場上、どうしようもないだけで。

 

「……実は、私の娘も巫女として大社に所属することになりました。人類の為だと言われ、拒否することもできず……」

 

「なるほど……娘さんの名前は?」

 

「花本美佳と言います。どうか皆様、娘と仲良くしていただけると幸いです……」

 

「覚えておきますね」

 

 そう言って微笑むのは、いつもの優しいひなただった。

 

「……それから、乃木様にとっての上里様のように、高嶋様の傍にも巫女の方がおられるはずなのですが」

 

「それは私だ」

 

「貴女様のお名前は…?」

 

「烏丸久美子だ」

 

 神官の言葉に名乗り出る久美子さん。ゆうちゃんの巫女は茉莉さんのはずでは……。

 当の茉莉さんは、俯き口を開かない。ただ、手を握りしめている。

 

「だが、私はここに来てすぐに能力を失った。こいつらのような歳ではないからな」

 

「なるほど、そうでしたか。では、事情を知る身として、皆様とご一緒に大社に所属されてはいかがですか?巫女ではなく神官の立場になるかと思いますが」

 

「……いいだろう」

 

「ありがとうございます」

 

 かなりあっさりと話に乗る久美子さん。もしかして大社に入りたかったのだろうか。

 

「では、最後に。3日後、皆様には大社にお越しいただきます。こちらから迎えの車をご用意いたします。そこで、他の勇者様方と共に今後について説明をさせていただきます。烏丸様の入社手続き等もその時に行いましょう」

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。私は寝室ではなく、リビングに布団を敷いていた。

 今日は、久々にれんちゃんと一緒に寝たい。

 

 ──────────

 

「電気消すよ?」

 

「うん」

 

 部屋の明かりを消し、千景の入っている布団に潜り込む。

 こうして一緒に寝るのは、なんだか久々な気がする。

 

「……これでよかったのかな」

 

「大丈夫。何があっても僕が守るから」

 

 千景の背中に腕を回して抱き寄せる。もう慣れたものだ。

 しかし昔と違い、今の千景には女性の柔らかさが備わってきている。

 

「それに、歳の近い子と友達になれるかもしれないよ」

 

「そうね。他の勇者の子もいるもんね」

 

 

 千景を抱いていると、どうしてこんなにも安心するのだろう。

 

「……ねぇ」

 

「ん?」

 

「最近私が、よく久美子さんに嫉妬していたの、気づいてた?」

 

 そう言って僕の胸に顔を埋める千景。

 

「ああ。嫉妬して怒った千景は怖かったな」

 

「しょうがないじゃない。れんちゃんが久美子さんとイチャイチャするんだもの」

 

「ごめんね」

 

 千景の頬に手を添えて、少し顔を上げた千景の額に、僕の額をくっつける。

 

 

「……じゃあ、寝ようか。おやすみ、千景。……好きだよ」

 

「……その『好き』は、どういう『好き』なのかしら……おやすみなさい、れんちゃん」

 

 千景の額にキスをして、僕は瞼を閉じた。

 この『好き』は、正直僕にもはっきりとはわからない。

 ただ、千景が愛おしいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 3日後。僕達は大社の用意した車で大社へやってきた。

 この前、家で神官から聞いた話は、既に楓さんには見舞いに行った際に伝えてある。ただ『若葉に任せる』とだけ言われた。

 

「大っきいね!!」

 

「こんな建物、急造なんてできないし、前からあっただろうか……」

 

 各々が様々な感想を抱きながら、車を降りて大社の中へ入っていく。

 しばらく歩き、案内された大部屋に入ると、知っている顔があった。

 

「お、もしかして他の勇者の人達か!?……あれ?」

 

「タマっち、もうちょっと大人しくしてて……って、あれ?」

 

 そこにいたのは、愛媛で出会った、みかんをあげた子と本屋で迷子になっていた子だった。

 

「もしかして、杏ちゃんと……みかんをあげた子?」

 

「おお!やっぱりあの時の親子だ!!」

 

「蓮花さんと千景さん!!タマっちも知ってるの?」

 

「ああ、みかんを買ってたから後ろをついて行ったら1個くれた人」

 

「球子……何してるんだ……」

 

 球子の父親らしき人が今の話を聞いて落胆している。

 

「実はね、僕らが2人と出会ったのは同じ日なんだよ」

 

「え、そうなんですか!?」

 

「そうだったわね。イネス2階の本屋で杏ちゃんと出会った後、1階で球子と出会ったのよ」

 

「え、まじか。あの日、タマとあんずはめちゃくちゃ近くにいたのか」

 

 懐かしい顔に再会し、思い出話に花を咲かせる。

 若葉達は空気と化していた。

 

 

 その後、数人の神官がやってきて、まずは動画を見せられた。自衛隊とバーテックスの戦闘だ。

 現存する兵器ではバーテックスに傷をつけることができないという説明だ。

 

 それから、今後の生活についての説明がされた。

 勇者達は皆が丸亀城で共同生活をすること。そこでは普通の授業を受けながら、戦闘の訓練も行っていくこと。巫女達は基本的に大社の寮で生活すること。

 勇者の保護者は毎月大社から手当金が給付されること等。

 

「丸亀城なら、家からすぐじゃないか」

 

「僕入り浸るよ」

 

「流石に駄目でしょ」

 

 

 

 

「以上で説明は終了となります。ここからは、手続き等をしていただきます。烏丸様はこちらへ」

 

 そうして入社手続きのために別の部屋へ移動する久美子。

 

「すみませんが、郡蓮花様はこちらへお願いします」

 

「え?ああ」

 

 皆の方を振り返ると、琴音さんが微笑んで送り出してくれた。

 

「皆のことは心配なさらず、私に任せてください」

 

「わかった。ありがとう」

 

 そして僕は神官に案内され、久美子とはまた別の部屋へ移動した。

 

 

 

 

 

「お連れしました」

 

 ここは応接室、だろうか。

 中心のテーブルを挟み、高価そうなソファが設置されている。

 

 そして正面には、厳かな雰囲気を漂わせる初老辺りの男達。

 

「……なるほど、お偉いさんかな」

 

「郡蓮花様でお間違いありませんか?」

 

 1人の男が口を開き、よく通る低い声で話し出す。

 

「はい」

 

「……この間、貴方のお宅へ訪ねた神官から、貴方は素手でバーテックスを倒したらしいと聞きました。それは本当ですか?」

 

「ええ、本当です」

 

 周囲がざわめく。しかしまた別の男が話し出した瞬間、室内は静まり返った。

 

「ならば、貴方がどうやってバーテックスを倒したのか、説明していただけますか?少女ではなく勇者でもない貴方がなぜ、バーテックスを倒せたのか」

 

「そうだな……」

 

 全て話してしまってもいいものだろうか。しかしこちらから答えのみを渡してしまってもつまらない。

 

「まずそもそも、勇者の扱う神器は、神性があるからバーテックスを倒せるわけですよね?」

 

「…そうですね。なぜ貴方がその事を……?」

 

「まあ、それは置いといて。要するに、バーテックスを倒すのに必要なのは武器とかではなく、神性です」

 

 あまり表情がパッとしない男達。周りに立っている神官達も同様のようだ。

 

「……神性を宿していれば、それが何であれバーテックスに傷をつけられる、ということですか?」

 

「そうです」

 

「しかし貴方は、何も使わず素手で倒したと言いましたね?」

 

「うーん……難しく考える必要は無いんだけど」

 

 そう言うと、何人かは理解したのか、驚きの声をあげる者、僕に頭や膝をつく者が現れた。

 

 しかし初老の男達はまだ理解できないようだ。歳のせいで頭が回っていないのだろうか。

 

「簡単な話だ。僕はこの『手』や『足』でバーテックスを倒した」

 

「……つまり、貴方の体が神性を帯びている……と?」

 

「し、しかし…それでは……まさか……!!」

 

 流石に初老の男達も理解し始める。僕が何なのか。

 

「理解したのなら、とりあえずいくつか頼みを聞いてもらおうか」

 

「は、はい!!何なりとお申し付けください……!!」

 

 この場にいる全ての人間が、僕の前に頭を垂れた。




今日の郡家
 夜、リビングに布団を敷く千景ちゃんは、とても嬉しそうだった。本当に蓮花さんが大好きなんだと思った。
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