花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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時々最初のほうの話から細かいところを書き直してます。
日常ばっかり描いてて話が進まない……まあ日常系だからいいか。


第46話 交友の広がり

 目を覚ます。隣にはまだ眠っている久美子と、さらにその隣に眠っている茉莉。

 リビングに行くと、既に起きていた琴音さんがキッチンに立っている。ほぼ毎朝最初に起きて、朝食を作ってくれている。

 

「おはよう」

 

「おはようございます。もうすぐできるので、顔を洗って皆を起こしてきてください」

 

「ああ」

 

 洗面所に向かい顔を洗っていると、キッチンの方から話し声が聞こえた。楓さんが起きたのだろう。

 顔を洗いに来た楓さんとすれ違い、僕は寝室に向かう。

 キッチンから漂う美味しそうな匂いを感じながら、まだ眠っている二人を揺すって起こす。

 

「茉莉、久美子、朝だよ。もうすぐ朝ご飯できるよ」

 

「んん……」

 

 二人共、起こせばすんなりと起きてくれるのでとても助かる。

 リビングに戻りキッチンから朝食を運び、茉莉と久美子が顔を洗って戻ってくるとテーブルを囲い、朝食を食べ始める。

 これが、最近の我が家の朝だ。

 

 

 

 

 

 

「平和だねぇ」

 

「うん」

 

 琴音さんが淹れてくれた茶を飲みながら、のほほんとテレビを眺める。最近は街の様子も、ようやく少し落ち着いてきたように感じる。

 目の前では茉莉がテーブルに向かって座り、参考書を読みながら問題集を解いている。

 いつかまた学校に通えるようになった時に困らないよう、こうして平日は勉強を進めているのだ。

 ちなみに参考書等は久美子が選んだ。

 

「丸亀城の皆は平和なのかな」

 

「平和だよ。久美子の唐突な思いつきで運動会をできるくらいには余裕もある」

 

「確かにな」

 

 僕と同じく茶を啜っている楓さんが同意する。茶が似合う。

 

「ズズ……しかし、入院していた時は外がどうなっているのか気になって仕方なかったが、この家は平和過ぎないか?」

 

「家が無事だったし、家具も無事だったし、貯金もあるし、大社の支援もあるからね。食料や生活に必要な物資には困らないよ」

 

「最初は久美子さんの下着に困っていたけど」

 

「そんな時期もあったね」

 

 天災から約二ヶ月経過したが、我が家は人が増えたこと以外は、以前と特に変わらない。

 街の瓦礫等は少しずつ片付けられ、天災直後と比較するとそこそこ綺麗になってきている。

 避難所には職を失った人が大勢いるため、人手はある。時間と道具さえあれば、街並みは修復されていく。

 

「皆が高校生になる頃には、だいぶ街も元通りになるんじゃないかな」

 

「茉莉ちゃんが高校生になるまでに、学校に通えるようになるのかしら……」

 

「学校を再開するよりも、多くの人が普通に生活できるようにすることが優先されるだろうから、難しいだろうな……」

 

「先に学校を再開しても、通える子供が少ないだろうしね」

 

 未だに各避難所には多くの人々がいる。これを放置したまま学校に税金を使うのは難しいだろう。

 

「最悪、丸亀城で卒業式だけでもやろう」

 

「なるほどな」

 

「ボ、ボクはそういうの無くても大丈夫だよ」

 

 僕の方に振り向いてすぐに遠慮する茉莉。この子はいつも欲張らず、遠慮をする。美徳と言えなくもないのかもしれないが。

 

「遠慮しなくていいから。茉莉が本気で嫌がるならしないけど、そうじゃないなら僕がしたい」

 

「嫌ではないけど……」

 

「ならよかった。君はもっと、普段から我儘言っていいと思うよ?我儘言われたい」

 

「言われたいのか」

 

「気持ちはわからなくもないです」

 

 子供に我儘を言われたいこの気持ちは琴音さんもわかるらしい。流石母性の権化。

 

「我儘……思いつかない……」

 

「今じゃなくていいよ。行きたい場所、欲しい物、やりたい事、食べたい料理、何でもいい。思いついたら遠慮なく言ってくれ」

 

 最初の頃の千景のようだ。とても甘やかしたくなる。

 そっと茉莉の髪を撫でる。膝まで伸びる長い黒髪。

 

「……わかった」

 

「うん」

 

 どんな我儘がこの子から出るのか、楽しみに待つことにした。

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ。蓮花」

 

「ん?」

 

「私と琴音は、近いうちにこの家を出ようと思う」

 

「……ん?」

 

 夕食時、ふと楓さんにそんなことを言われた。思わず箸と頭の回転が止まる。

 それに気がついた久美子が代わりに返答をする。

 

「そうなのか。どうしてだ?」

 

「いつまでも世話になり続けるわけにはいかないさ」

 

「……まじか。そんなこと気にしなくていいのに」

 

「私達が気にする」

 

 正直、僕が不在の時に安心して家を任せられるので助かっていたのだが。本人達がそう言うなら仕方ない。

 

「ちなみにどの辺で暮らすの?」

 

「このマンションの上の階に空き部屋がありまして」

 

「近っ!?それ引っ越す意味あるの?」

 

「場所はどこでもいい。この家から出ることに意味がある」

 

 大人達が話している間も、茉莉は黙々と食べ進める。もぐもぐと咀嚼している姿が可愛い。

 

「私達がここにいると、時々ちーちゃん達が帰ってきた時に狭いでしょうし」

 

「ん……」

 

 否定はできない。千景達の丸亀城での生活が始まるまでは僕だけリビングで寝るほどに狭かった。

 

「それに、場所は近いほうが何かと都合がいいだろう?」

 

「まあ確かに。僕が一日中いない時に茉莉のご飯をお願いできるし」

 

 僕がそう言うと、茉莉が少し口を開いた。

 

「自分のお昼ご飯くらいなら、自分でなんとかするよ?」

 

「お前は料理できるのか?」

 

「……おにぎりくらいなら」

 

「可愛い」

 

 思わず考えが口から出てしまった。頑張って米を握っている茉莉を想像すると、なお可愛い。

 

「若葉でももう少し何か作れるぞ」

 

「うっ……」

 

「なんてことを言うんだ久美子」

 

 久美子の容赦ない一言に茉莉がショックを受ける。しかし、中学二年生でおにぎりくらいか。

 

「……これから、一緒に晩ご飯を作るようにしようか」

 

「はい……」

 

 まずはうどんを茹でることから始めてみよう。……さすがにそれはできるだろうか。

 

「そういえば、次の土曜日はバーベキューをするんだったか?」

 

「うん」

 

 久美子が次の話題へ切り替える。次の土曜日は丸亀城でバーベキューをするのだ。真鈴と美佳も呼ぶ予定である。

 

「食材は?」

 

「午前中に皆を連れて久美子に買ってきてもらおうかな」

 

「金は?」

 

「僕が出すから、好きなの買ってきていいよ」

 

「わかった。お前は行かないのか?」

 

「僕は大社に真鈴と美佳を迎えに行くから」

 

「そういえば言っていたな」

 

 久美子との会話はとてもスムーズに進んでいく。いつの間にか茉莉は食べ終えており、思い出したように僕も食べ進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして土曜日。大社の入口前で待っていると、やがて二人の巫女が姿を現した。

 遠くから僕を視認して手を振る真鈴に、僕も手を振り返す。

 

「おはよう!」

 

「本日はよろしくお願いいたします」

 

「おはよう、そんなに畏まらなくていいよ。もっと柔らかく、ね?」

 

 深々と頭を下げた美佳に、頭を上げさせる。まだ小学生なのに、なんと礼儀正しいことか。しかし、もっとフランクに接してほしい。

 

「それじゃ、行こうか」

 

 ここまで乗ってきたタクシーに乗り込み、まずは最寄り駅に向かった。

 

 ──────────

 

 久美子さんに連れ出され、私達は商店街に来ていた。球子と杏はバーベキューの機材を準備するため、丸亀城に残っている。

 

「ここに来るの、久しぶりね」

 

「そうですねぇ」

 

 丸亀城で暮らし始めてから、商店街にはほとんど来ていなかった。見渡せば、まだシャッターを下ろしている店もあるが、いくつかの店は営業を再開している。

 

「まずは肉だな」

 

「お肉!」

 

 肉屋に向かうと、以前と変わらず営業していた。こちらに気がついた肉屋のおじさんが手を振ってくる。

 

「皆いらっしゃい!久しぶりだなぁ、元気にしてたか?」

 

「はい、元気です」

 

「コロッケ食べるかい?」

 

「食べる!」

 

 勢いよく返事をしたのはゆうちゃんだが、久美子さん以外全員にコロッケが渡された。ありがたいが。

 

「今日は初めましての子もいるし、蓮花さんはいないのかい?」

 

「おつかいです。バーベキューをするので」

 

「バーベキューか、いいね。このステーキとかどうだい?分厚くて柔らかいぞ〜」

 

 おじさんの示すステーキは確かにとても美味しそうだが、相応の値段でもあった。しかしゆうちゃんは目を輝かせ、若葉も目を逸らせずにいる。

 

「よし、買うか」

 

「え、買うの?そこそこ高いけれど」

 

「蓮花から食材代として一万円預かっている。使い切っていいと言われているから問題ない」

 

「太っ腹だぁ」

 

 そしてステーキを含む大量の肉を購入し、残った金で野菜等を買って回った。

 

 

 

 

 

 丸亀城に戻ると、既に球子達は火の準備等を済ませて待っていた。

 

「おかえり!後は焼くだけだぞ!」

 

「タマちゃんアンちゃん、これ見て!!おっきいステーキ買ってきたの!!」

 

 ゆうちゃんが肉の袋の中からステーキを取り出し、二人に見せると、二人はそれぞれの反応を見せた。

 

「すげー!!うまそうだ!!」

 

「美味しそうだけど、高そう」

 

「一枚千円よ」

 

「……大事に食べないと」

 

 れんちゃん達がまだ来ていないので、とりあえず紙皿や割り箸の準備をしておく。

 

 そうこうしているうちに、れんちゃんが丸亀城にやってきた。知らない女の子を二人連れて。

 

「お、準備できてるね」

 

「球子ー!!杏ちゃん!!元気にしてた!?」

 

「真鈴さん!!」

 

「ますずー!!久しぶりだな!!タマもあんずも元気だぞ!!」

 

 背が高いほうの女の子が球子と杏の元へ駆け寄る。この二人と知り合いということは、愛媛の人だろうか。

 

「あの子は安芸真鈴、球子と杏の巫女だよ。そしてこの子は花本美佳」

 

「は、初めまして、郡千景様!私は、花本美佳と申します!」

 

 れんちゃんが二人のことを軽く紹介すると、眼鏡をかけた子が緊張した様子で私に自己紹介をした。郡千景様?

 

「えっと……」

 

 その勢いに困惑していると、れんちゃんが話を繋いだ。

 

「この子は、千景の大葉刈を見つけた巫女だよ」

 

「え、そうなの?」

 

「……はい」

 

 れんちゃんがそのことを話すと、花本さんは先程までの勢いが無くなり、怒られるのを震えて待つ子供のようになった。

 

「……ありがとう、大葉刈を見つけてくれて。おかげで私は、家族や友達を守ることができるわ」

 

「え……?」

 

 花本さんの手を取り握手をすると、花本さんは拍子抜けしたような表情になった。

 

「立場的には私の巫女ということになるのかしら?」

 

「多分そうだね」

 

 私に戦う力をくれた、私の巫女。きっとこれからも、関わることがあるだろう。

 

「これからよろしくね、花本さん」

 

「は、はい!!こちらこそ、よろしくお願いいたします!!」

 

 花本さんは瞳を潤ませ、満開の笑顔を見せた。

 

 ──────────

 

「……ほれ、いい焼き加減だぞ、あんず」

 

「ありがとうタマっち先輩」

 

 球子が焼けた肉を杏の紙皿に入れる。とてもいい焼き加減だ。

 アウトドア大好きな球子は、キャンプやバーベキューといったことにも精通している。

 

 球子に全て任せるわけにもいかないので、隣で僕も肉を焼いて、皆の皿に入れていく。

 真鈴や美佳もだいぶ皆と馴染んできたようだ。普通に談笑している。その横で。

 

「ゴクッゴクッ……ぷはぁ!!やはりこういう場で飲む酒は美味い」

 

 久美子は肉と共に酒を味わっていた。いい飲みっぷりである。

 

「その酒どうしたの?」

 

「余った金で買ってきた」

 

「えぇ……まぁいいや。いつも皆のことを見守ってくれているお礼、ということにしておこう」

 

「一応人数分あるが、楓さんと琴音さんは飲むか?」

 

 そう言ってクーラーボックスから酒の缶を取り出す久美子。そのクーラーボックスはどうした。

 

「せっかくだし、貰おうか」

 

「では私も」

 

 楓さんと琴音さんが一本ずつ、久美子から缶を受け取る。

 

「お前も飲むか?」

 

「いや、いいよ」

 

「そうか。じゃあこの一本も私が飲む」

 

 帰る頃にはそこそこ酔っていそうだ。酒に強いわけではないのに。

 

「お酒って美味しいの?」

 

「ああ。飲んでみるか?」

 

「駄目だよ」

 

 茉莉に飲酒を勧める久美子を止める。茉莉は確か14歳、まだ早い。

 

「あ、そうだ。若葉、ひなた」

 

「ん?」

 

 楓さんが若葉とひなたを手招きする。ひなたは今咀嚼中で返事ができない。柔らかいほっぺたを少し膨らませているのが可愛い。

 

「私達は引っ越すことになった」

 

「え?」

 

 先程から若葉が疑問符を浮かべてばかりいる。というか言ってなかったのか。

 

「いつですか?」

 

「来週」

 

「早っ!?」

 

「どこにですか?」

 

「郡家のマンションの上の階」

 

「近っ!?」

 

 ひたすら若葉が驚いている。やがてしゃっくりが出そうだ。

 

「言うのを忘れていた」

 

「いつでも帰ってきていいですからね?」

 

「いつでもいいのか?」

 

 若葉はそう言いながら久美子に視線を向ける。視線に気がついた久美子は、口に入れようとしていた肉を一旦止めた。

 

「近いし、家に帰るくらいいつでも構わないぞ。一応言っておいてほしいが」

 

「わかりました」

 

 久美子は言い終えると、今度こそ肉を口に入れた。咀嚼して美味しさに口角が上がる様子は、見ていて可愛らしい。

 

「ちーちゃん、このステーキ凄く美味しいね!」

 

「そうね。高かっただけあるわ」

 

 友奈達の方を見ると、球子がステーキを焼き始めていた。焼ける肉の匂いは食欲を唆る。

 

「若葉とひなたも来いよ、今いい感じだぞ!」

 

「はい!」

 

「ありがとう球子」

 

 皆が球子を囲い、順番にステーキを食べている。その輪の中に、真鈴と美佳もいる。茉莉は一人歳上ということもあり、一歩引いて見ているようだ。

 

「茉莉さんもステーキ食べてみて!すっごく美味しいよ!」

 

「う、うん。ありがとう」

 

 友奈がステーキの載った皿を茉莉に渡す。それを食べた茉莉がとてもいい笑顔になる。

 そんな様子を、大人達は微笑ましげに見守っていた。




今日の郡家
 バーベキューはとても楽しかったし、お肉も美味しかった。皆に会えたのも嬉しかった。とても良い日だ。
 あと、久美子さんはこういう場で飲む酒は美味いと言っていたけど、家でもよく美味しそうに飲んでるよねと思った。
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