花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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基本的に深夜に書いてるので、時々深夜テンションで変なこと書いてるかも。


第51話 思い出とカワウソ

 千景の卒業から約一週間後、僕達は卒業旅行と称して、旅行先である高知県に電車で向かっていた。

 幸運にも車内は空いており、子供達と久美子の八人は座席に座ることができた。僕と楓さん、琴音さんはその横に立っている。

 ちなみに座席は、千景・茉莉と友奈・久美子、球子・杏と若葉・ひなたが向かい合って座っている。

 

「あんず、きのこの里食べるか?」

 

「ありがとうタマっち先輩」

 

「若葉も食べるか?」

 

 球子が用意してきた菓子を鞄から取り出して杏に分け、ついでに正面に座る若葉にも差し出して尋ねる。しかし、若葉はそれを受け取らなかった。

 

「すまない球子。気持ちは嬉しいが、私はたけのこ派だ」

 

「な、なんだと!?お前はたけのこ派だったのか!?」

 

「私もたけのこ派です」

 

「ひなたさんも!?」

 

 きのこ派かたけのこ派か。いつの時代もこの二つが相容れることはない。今ここに、一つの争いの火種が生まれようとしていた。

 

「お前ら、一応公共の場なんだから騒ぐな」

 

「はーい」

 

「すみません……」

 

 争いの火種は、担任教師によって即座に鎮火された。

 一方うちの子達は、千景が鞄からクッキーを取り出した。

 

「ゆうちゃん、茉莉さん。クッキーを焼いて持ってきたけど、食べる?」

 

「食べる!」

 

「ありがとう千景ちゃん」

 

 千景、友奈、茉莉が三人でクッキーを食べ始める。その様子を見て、久美子がひたすらに千景を見つめていた。

 

「私の分は無いのか?」

 

「久美子さんの分は計算に入れてないけれど」

 

「……そうか」

 

 軽く落ち込んだ様子を見せる久美子。とりあえず、頭を撫でておいた。

 

「蓮花……千景が冷たい」

 

「おーよしよし、代わりに僕がまた今度何か作ってあげるよ」

 

「ん」

 

 しばらく、触り心地の良い髪を撫で続けておくことにした。

 

 

 

 

 

 目的の駅に到着し、僕達は順に電車を降りていく。

 

「タマ、高知は初めて来た!」

 

「私も!」

 

 ずっとテンションが高い球子や友奈は其処等中を見渡している。

 楓さん達に先導されて皆が駅を出て歩いていく中、一番後ろを歩く僕は、千景の歩みが少しずつ遅くなっていることに気がついた。

 隣に立ってその顔を見ると、楽しみ半分、不安半分といった表情をしている。

 

「大丈夫だよ、千景。あの村からは離れてるし、僕もいるし皆もいる。楽しもう」

 

「……ええ!」

 

 千景の手を引いて歩き出す。千景は前進する。ここには、千景の笑顔を妨げるものなど存在しない。

 

 

 ──────────

 

 

 私達はまず、高知県の観光スポットの一つである龍河洞にやってきた。

 入口には龍河洞観光センターがあり、そこから龍河洞までの道には商店街がある。高知の名物が並ぶ土産店や土佐打刃物の専門店、手打ちそば屋やカフェ等、様々な店が並んでいる。

 

「今買うと龍河洞に入る時に邪魔になるから、後で見て回ろうか」

 

「そうね」

 

 店を見て回るのは後にし、私達は真っ直ぐ龍河洞に向かった。

 日本三大鍾乳洞の一つである龍河洞、その入口に到着し、チケットを買って入場する。

 卒業式はしたが、今月末まで私は小学生料金だ。

 洞窟に入り遊歩道を歩いていくと、見たことの無い光景がそこにあった。

 

「これは…凄いな」

 

「不思議な造形ですねぇ」

 

「なんか、冒険してるみたいでワクワクするな!」

 

 不規則な形の石の壁が広がる空間もあれば、規則的な形をした石柱が上下に伸びている空間もある。

 そして奥には、とても長い滝があった。鍾乳石を照らす青い照明が流水に反射され、幻想的な光景だった。

 

「凄い……綺麗って表現で合っているかわからないけれど……」

 

 不思議な光景に言葉を無くす者、スマホを取り出して写真を撮る者様々だ。

 

「……久美子さん?」

 

「……なんだ?」

 

「いや、初めて見るくらい真剣な目で見てたから」

 

「鍾乳洞というのは知っていたが、直接見るのは初めてでな。正直、少し興奮している」

 

 普段はよく退屈だのなんだの言っている久美子さんが、こんなに興味を示すのは珍しい。普通に生活していては見ることの無い光景に、非日常を感じたのだろうか。

 

「これが自然の神秘か……」

 

 その様子が面白かったのか、何人かは鍾乳石ではなく、鍾乳石を見る久美子さんを撮り始めた。

 

 

 ──────────

 

 

 龍河洞を出ると、次は桂浜にやってきた。坂本龍馬の銅像が立っている場所だ。

 ここも観光スポットなだけあって、土産店がいくつも並んでいる。

 そして桂浜の浜辺には桂浜水族館がある。子供達には、観光地よりもこういった所のほうが楽しめるだろう。

 

 奥に進んでいくと、コツメカワウソのコーナーがあった。

 

「きゃぁ〜可愛い〜!」

 

「写真撮りましょう杏さん!」

 

 

「うおっ、こっちにはカピバラがいるぞ!」

 

「カピバラって水族動物だったのか……」

 

 子供達は可愛い動物に夢中なようだ。その様子を僕達は後ろで見守っている。

 

「……千景ってさ」

 

「ん?」

 

「可愛いよね」

 

「そうだな」

 

「てか勇者も巫女も皆可愛いよね。なんだ?神樹は面食いロリコンか?」

 

「お前バチが当たるぞ」

 

 しばらくカワウソとカピバラを見て楽しんだ後、さらに進むとお土産コーナーがあった。そしてそこは、大きな棚から大量のカワウソのぬいぐるみが顔を出していた。

 

「さすがにこんなにいると気持ち悪いな……」

 

「くじ引きで貰えるんだって。誰か引いてみる?」

 

「私やりたい!」

 

 勢いよく手を挙げた友奈がくじを引いてみる。

 

「……え!?1等!?やったぁ!!」

 

「おめでとうゆうちゃん!」

 

 そして店員から渡された1等の景品は、90cmのカワウソのぬいぐるみ。

 

「でけぇ」

 

「でかいな」

 

「頑張って持って帰れよ」

 

「うん!」

 

 そして、どうやらこのカワウソくじは外れが無く、大きさに違いはあるが絶対にカワウソのぬいぐるみが貰えるらしい。

 それを知った少女達は皆くじを引き、それぞれのカワウソを手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 高知市の旅館にて、入浴を済ませた後に豪勢な夕食を頂き、今は部屋でのんびり過ごしている。

 

「カツオ、美味しかったですねぇ」

 

「うむ」

 

「明日の朝ご飯も楽しみですね」

 

 既に部屋には布団が敷いてあり、友奈が大きなカワウソを抱き締めてゴロゴロしている。可愛いので写真を撮っておこう。

 最近また画像フォルダが溜まってきている。今少し整理しようと思い、広縁の椅子に腰を下ろしてアルバムアプリを開く。

 

「何をしているんだ?」

 

「写真を整理してるんだ」

 

 正面の椅子に座る楓さん。その手には酒を持っている。

 

「楓さんって酒飲むの?」

 

「たまにな。お前の家ではよく酒の缶を見かけるが、最近よく飲むのか?」

 

「飲むのは久美子だよ。時々一緒に飲んでるけど」

 

 その久美子は今は飲んでいない。……しかし途中で寄った店で買っていた気がする。

 

「せっかく子供達といるのだから、写真の整理は後にして、皆と遊んではどうだ?」

 

「……そうだね。これは家でやろう」

 

 スマホの画面を消して椅子から立ち上がる。

 

「よし。皆、ババ抜きやろうか!一抜けした子には烏丸先生から愛情たっぷりのハグで」

 

「人を勝手に景品にするな」

 

「……ボク、棄権しようかな……」

 

「それ誰が喜ぶの?」

 

「やめろ」

 

 僕がパッと思いついた提案は怒涛の如く否定され、採用されることはなかった。

 

 

「というかれんちゃんもこの部屋で寝るの?」

 

「そうだよ?」

 

「私は構わないけれど、皆はいいの?」

 

 確かに、今ここにいるのは千景だけではない。しかも皆女の子。完全に頭から抜けていた。

 

「皆が着替える時は外に出るよ」

 

「なら私は構わない」

 

「タマもいいぞ」

 

「私は一緒に着替えても気にしませんが」

 

 どうやら許容されたらしい。しかし次からは部屋を分けたほうがいいだろうか。今後の検討事項だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜にふと目を覚ます。時計を見ると時間は1時過ぎ。

 隣を見ると千景が安らかな寝顔で眠っている。良い夢を見ているだろうか。なんとなく、その髪を撫でておく。

 部屋を見渡すと、一つだけ布団が空いている。久美子が寝ていたはずの布団だ。

 広縁を見ると、そこの椅子に久美子は座っていた。

 

「……ん?起こしてしまったか?」

 

「いや、なんか目が覚めた」

 

 布団から立ち上がり、久美子の向かいの椅子に座る。

 久美子は昼間に買った酒を飲んでいた。

 

「……なんでこんな時間に飲んでるの?」

 

「ふと目が覚めて、眠れなくてな。眠くなるまで飲もうかと」

 

「そっか」

 

 窓から射し込む月明かりが久美子を照らす。部屋の中も少し照らされ、皆の寝顔が見える。

 

「皆の寝顔を見る機会ってなかなか無いな。可愛い寝顔だ」

 

「私の寝顔はほぼ毎日見ているだろうに」

 

「ああ。久美子の寝顔も可愛いよ」

 

「……」

 

 久美子が差し出してきた酒の缶を受け取り、少しだけ飲む。

 

「お前と千景は、よく旅行をしていたのか?」

 

「そうだね。一緒に旅行をするのはこれで六回目かな」

 

「多いな」

 

「いろんな場所に連れて行ってあげたいんだ。知らない土地に行って見たことの無い景色を見るのは楽しいだろう?」

 

「……ああ」

 

 久美子も今日は鍾乳洞で目を輝かせていた。きっと初めて見る光景を楽しめたのだろう。

 

「この旅行は思い出になったか?」

 

「……まぁ、そうだな。……だが、もう少し思い出を彩るとしよう」

 

「ん?」

 

 久美子はそう言うと立ち上がり、僕に近づいてくる。そして僕は首に両腕を回され、唇を奪われた。

 甘えるように入れようとしてくる久美子の舌を受け入れる。

 長いキスの後、呼吸が苦しくなり互いの唇を離す。

 

「……なんか、久美子とのキスはいつも酒の味がする」

 

「キスの前に飲んでいるからな」

 

 綺麗な顔が間近にある。照らす明かりは月光だけだが、紅潮しているのがわかる。

 

「久美子は、攻めている時の方が良い顔をするね」

 

「そうか?」

 

「そうだよ。生き生きしてる」

 

 僕の太腿の上に跨る久美子は、もう一度僕の唇を奪う。僕は手持ち無沙汰な両手を久美子の腰に回し、さらに抱き寄せる。

 皆が寝ている近くでこんな事をしている背徳感がスパイスとなり、余計に気分を昂らせる。

 

「ん……」

 

 人は初めは躊躇っていたことでも一度経験してしまえば、それ以降は躊躇いを無くすものだ。

 

「……はぁ」

 

 唇を離すと、互いの唇を唾液が糸を引いて繋ぐ。

 いつの間にか久美子の浴衣の帯が緩み、浴衣が左肩からずれ落ちかける。気づいてすぐに久美子の浴衣を元に戻す。

 

「危ない、零れるところだった」

 

「見たければ見ても構わないが」

 

「嫁入り前の女の子がはしたないよ」

 

「今更だろう」

 

 依然久美子の両腕は僕の首に回されたまま、僕の首元に顔を埋めた久美子は鎖骨下に吸い付き始めた。

 なんとなくそのまま久美子の髪を撫でていると、久美子が唇を離した頃には、僕の鎖骨下に内出血による痣ができていた。

 

「……生まれて初めてキスマークをつけられたよ」

 

「私もキスマークをつけたのは初めてだ」

 

「だろうね」

 

 つけられたのが鎖骨下でよかった。首だったら隠せない。

 

「千景とはこういうことはしないのか?」

 

「するわけないよ。娘と熱いキスをする父親がいるか?」

 

「お前にとって千景は娘か」

 

「そんな感じ。ずっとそんな風に接してきたつもりだ」

 

 僕は保護者として千景を育て、あの子が大人になって誰かに恋をして、家を出ていくその時まで支え見守るのだ。それでいい。

 

「朝は八時から朝食だから、そろそろ寝ようよ」

 

「わかっているが、もう少しだけ……」

 

「……しょうがない子だ」

 

 久美子の両手が僕の頬に添えられる。満足するまで寝ないというのなら、もう少しだけ応えてあげよう。

 右手は久美子の腰のまま、左手を後頭部に添えて顔を引き寄せ、今宵三度目の口付けを交わした。

 

 

 ──────────

 

 

 目を覚ます。時計を見ると今は七時前で、周囲を見るとまだ眠っている子も多い。

 隣にいるれんちゃんもまだ眠っている。この人の寝顔を見るのはとても久しぶりな気がする。二週間に一回くらいの間隔で私の部屋に泊まってくれるが、いつも私より先に起きているのだ。

 逆隣ではゆうちゃんがカワウソのぬいぐるみを抱き締めて眠っている。とても気に入っているようだ。可愛らしいので写真を一枚撮っておく。

 さらにその向こうの布団は茉莉さんが寝ていたはずだが、空いている。既に起きているようだが部屋にはいない。そして若葉も部屋にいないことに気がつく。

 どこに行ったのかと思っていると、静かに扉が開かれた。入ってきたのは若葉と茉莉さんだった。

 

「あ、千景ちゃんおはよう」

 

「おはよう千景」

 

「おはよう。二人でどこに行っていたの?」

 

「自販機に飲み物を買いに行ってきたんだ」

 

 若葉はそう言って緑茶のペットボトルを掲げた。

 

「他の皆はまだ寝てるんだね」

 

 若葉と茉莉さんは広縁の椅子に座り、ペットボトルの蓋を開けて口をつける。

 私もその近くに座り、昨日買って冷蔵庫に入れていた水を飲む。

 

「そういえば、ふと思ったんだが」

 

「何?」

 

「蓮花さんと烏丸先生って、なんとなく似てないか?」

 

「え?」

 

 若葉の言葉に、私と茉莉さんは振り返ってれんちゃんと久美子さんを見比べる。

 確かになんとなく似ている。地毛の色はもちろん、顔のパーツもなんとなく似ている。久美子さんが男だったらこんな感じだろう。

 

「外見もそうだが、大抵の事はこなせるのも共通している。レベルに違いはあるが」

 

「確かにそうね」

 

「不思議だね」

 

 れんちゃんが髪を伸ばしてマスクをして白衣を着たら、球子辺りは久美子さんと間違えそうだ。今度、白衣だけでも着てみてもらおうか。

 そんな事を考えていたら球子が目を覚まし、他の子もだんだんと目を覚ましていき朝の静寂は終わっていく。

 

 誰かがつけたテレビでは、朝の情報番組でもうすぐ桜が満開になると放送している。

 

「旅行が終わったら、今度はお花見ね」

 

 なんとなく弁当に入れるおかずを考える。しかしまだ旅行は終わっていない。おかずを考えるより、今日一日を目一杯楽しむとしよう。




今日の郡家
 帰りの電車では、ゆうちゃんのカワウソが荷物棚を占拠していた。きっと他の乗客達は、何だこれはと不思議に思ったことだろう。
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