花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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あけましておめでとうございます。


第52話 変遷と写真

「えーっと、鶏肉入れた、じゃがいも入れた、ウインナー入れた、卵は……そろそろ無くなるか、買おう」

 

「ん」

 

 卵のコーナーに向かい、十個入りの卵を買い物カゴに二つ入れる。これもすぐに使い切るかもしれないが、無くなればまた買いに来ればいい。

 子供達に弁当に入れるおかずのアンケートを取り、久美子と共に必要な食材をスーパーに買いに来たのだ。

 子供九人、大人四人分の食材を買う為、既に買い物カゴはいっぱいである。子供が九人なのは、真鈴と美佳も呼ぶ予定だからだ。

 

「必要なのはこれくらいかな?他に何か欲しい物はある?」

 

「酒」

 

「……まあいいか」

 

 久美子の要望を受けて酒のコーナーに向かう。楓さん達の分は必要だろうか。

 

 

 ──────────

 

 

 作ったおかずを弁当箱に入れ、茶を入れた水筒と共に持って部屋を出る。

 寮を出て少し歩くと、桜の下で球子達がブルーシートを広げている。

 

「お、千景ー!こっちは準備できてるぞ!」

 

「丸亀城の桜を独占してお花見ができるのは嬉しいですね」

 

「そうね、去年は人がたくさんいたけれど」

 

 天災以降、丸亀城は関係者以外立ち入り禁止となっているため、ここで花見ができるのは私達だけだ。

 

「お待たせしました〜」

 

 声のした方に振り向くと、若葉とひなたが手提げ袋を持って歩いてくる。

 弁当のおかずは私、ひなた、れんちゃん、琴音さんで分担しているため、それが手提げ袋に入っているのだろう。

 

「蓮花さん達はまだなのか?」

 

「まだよ。もうすぐ約束の時間のはずだけど」

 

 どうしたのかと思っていると、遠くから見覚えのある人達が歩いてくるのが見えた。茉莉さん達だ。

 

「おはよう皆。準備万端だね」

 

「おはよう!タマは弁当が楽しみでもう待ちきれないぞ!」

 

「花より団子だね」

 

「れんちゃんは?」

 

「大社に安芸と花本を迎えに行ってる。これを持って行っといてくれってさ」

 

 そう言って久美子さんは、おそらく弁当が入った鞄とクーラーボックスをブルーシートに置いた。

 

「このクーラーボックス、何が入ってるの?」

 

「飲み物」

 

 ゆうちゃんがクーラーボックスを開けると、酒の缶とペットボトルのジュースが数本入っていた。

 

「さて、蓮花は先に食べ始めていていいと言っていたから、もう弁当を開けるぞ」

 

「よっしゃ!」

 

「タマっち先輩、一人で食べすぎちゃ駄目だよ?真鈴さん達の分も残しておかないと」

 

「わかってるわかってる」

 

 球子が皆に割り箸と紙皿を配り、私達は弁当箱の蓋を開ける。一応れんちゃんに、早く来ないと弁当が無くなると連絡しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせー」

 

「皆久しぶりー!」

 

 ほどなくして、れんちゃんが安芸さんと花本さんを連れてやってきた。

 

「本日はお誘い頂き、ありがとうございます」

 

「こらこら固いよ花本ちゃん」

 

 とても固い挨拶をした花本さんは私の元へ歩いてくると、持っていた鞄から長方形の箱を一つ取り出し、私に差し出してきた。

 

「郡様、ご卒業おめでとうございます。こちら私から、つまらない物ですが、御祝いの品でございます」

 

「えっと…ありがとう、花本さん」

 

 箱を開けてみると、うどんの束が三本入っていた。いかにも高そうだ。こんなものを受け取っていいのだろうか。

 

「ちなみに、値段を聞いてもいいかしら?」

 

「大したものではなく申し訳ないのですが、千円です」

 

「え?じゃあこのうどん一束で三百円ちょっと?」

 

「スーパーでうどん十玉くらい買えるじゃん、花本ちゃんそれ自分で買ったの?」

 

「もちろんです」

 

 小学生の千円は大金だ。本当に受け取ってもいいのだろうか。

 ……いや、これは花本さんが私の為に買ってくれたのだ。受け取らないほうが良くない。

 

「……ありがとう花本さん。大事に食べるわ」

 

「御礼だなんてそんな!ただ私が勝手に差し上げたかっただけなので!」

 

「でも私は貰って嬉しいから、ありがとう」

 

「喜んでいただけて何よりです……!」

 

 何度も深く頭を下げる花本さん。なんとも忙しい子だ。そして礼儀正しい。

 

「でも、様はやめてちょうだい」

 

「え、では……郡さん?」

 

「僕も郡だよ」

 

「あ……千景…さん?しかしそんな恐れ多い……」

 

「そうね、それでいいわ」

 

「……!!」

 

 顔を両手で抑え感激している様子の花本さん。今にも泣き出してしまいそうだ。

 

「ほら、お弁当食べましょう?このきんぴらごぼうは私が作ったんだけどどう?」

 

「千景さんの手料理ですか!?!?」

 

「え、ええ」

 

「そんな、私なんかが食べていいのでしょうか……」

 

「いいから食べてみて」

 

 その後も花本さんは感情の動きが激しく、落ち着くまでに時間がかかった。

 そんな様子を、皆は弁当を食べながら見守っていた。

 

 

「花本さんって面白い人ですね」

 

「でしょ?アタシには卒業祝いなんてくれなかったけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 満開の桜の下、皆で弁当を食べたりはしゃいだり。その『皆』は、昨年にはいなかった人もいれば、いなくなった人もいる。

 そんな顔ぶれを見渡して、この一年であった出来事を思い返す。

 多発した地震と、空から現れたバーテックスにより、沢山の人々が家や家族を失った。

 私の周りでは、伊織さんと誠司さん、若葉のおばあちゃんが亡くなった。おばあちゃんは、来年も孫達と一緒に花見をするのを楽しみにしていたのに。

 そして私は、新しい家族と友達ができた。

 多くの出会いと別れを、夏の数日の間に経験した。

 願わくば、これ以上別れを経験したくはない。

 

「どうした千景?春の陽気で眠いの?」

 

「……ううん、少し考え事をしていただけ」

 

 れんちゃんはいつも、私のことをよく見てくれている。些細なことでも、誰よりも早く気がついてくれる。

 

 時折思う。私はきっと、この人がいなくなったら生きていけないだろう。生活力等ではなく、精神的な問題で。

 そして、もし私がいなくなったら、れんちゃんは生きていけるのだろうか。

 

 そんな事にならない為に、護ってくれているのだろう。

 

 

「……あぁ、美味い」

 

「久美子さんは事ある毎にお酒を飲んでいる印象がありますね」

 

「こういう場で飲む酒は美味いんだ」

 

「家でもよく飲んでるけど」

 

「どこで飲んでも味は同じだからな」

 

「即行で矛盾したな」

 

「もう酔っ払ってるね」

 

 れんちゃんには、辛い時に精神的に寄りかかれる人はいるのだろうか。誰かに弱音を吐いているのを見た事がない気がする。

 れんちゃんが寄りかかるには、私はまだ幼いのだろうか。

 

「……眠くなってきた。茉莉、膝を貸してくれ」

 

「え、嫌だよ」

 

 即座に茉莉さんは立ち上がり、久美子さんから距離を取った。

 

「……蓮花」

 

「はいはい、おいで」

 

 茉莉さんの膝を諦めた久美子さんは、横になってれんちゃんの腿に頭を乗せた。

 

「ますず!今度一緒に骨付鳥を食べに行こう!めちゃくちゃ美味いんだ!」

 

「いいわね!ゴールデンウィーク辺りにでも外出申請しようかな」

 

 こんなに騒がしい中で眠れるのだろうか。

 そう思ったが、久美子さんはれんちゃんに髪を撫でられながらすぐに寝息を立て始めた。

 

「凄いな。もう寝たのか」

 

「酒を飲むとすんなりと寝やすくなるんだ」

 

 若葉にそう話す楓さんも、久美子さんが持ってきた酒を飲んでいる。しかしその目はどこか寂しげだ。亡き母親と夫を思い出しているのだろうか。

 

「……千景さん、どうかされましたか?先程から黙り込まれていますが」

 

「いえ、大丈夫よ。私は基本的に静かだから」

 

「常に落ち着いた振る舞い……全人類は千景さんを見習うべきです。特に安芸先輩は」

 

「何よ花本ちゃん、アタシから明るさを取ったら何が残るのよ」

 

「自分で言っていて悲しくないんですか?」

 

「悲しい」

 

「フフッ……」

 

 花本さんと安芸さんはいいコンビだと私は思う。大人になっても、なんだかんだ時々一緒にお酒を飲んでいそうだ。

 

「ちーちゃん、ヒナちゃんの作った玉子焼き美味しいよ?」

 

「ええ、いただくわ」

 

 

 歌野達の避難は来年の春になるとれんちゃんは言っていた。来年は、ここに歌野達もいるのだろうか。

 遠い地で暮らす友達を、早く皆にも会ってもらいたいものだ。来年の花見は今よりも騒がしさが増すのだろう。きっとそれは、幸せなものだ。

 

 

 ──────────

 

 

「何してるんだ?」

 

 唐突に後ろから左肩に顎を乗せられる。風呂上がりの久美子からは甘い香りが漂う。

 

「千景のアルバムに写真を追加してるんだ」

 

「ほう」

 

 クリスマス辺りから溜まっていた写真を整理し、何枚かはプリントしてアルバムに貼っていく。

 僕の肩から顎を下ろした久美子は、僕の隣に座ってアルバムを眺め始める。ちなみに正面では茉莉が他のアルバムを見ている。

 

「……何冊あるんだ?」

 

「今は三冊目だけど、もうすぐ四冊目に入る」

 

「多いな」

 

 一年間で約一冊のアルバムになる。イベント事だけでなく普段から色々撮っているため、写真が多いのだ。

 

「この千景ちゃんは何歳?」

 

「それは9歳の時だね」

 

「じゃあ隣の若葉ちゃん達は8歳?」

 

「……いや、これは夏の写真だから、若葉は9歳だな。若葉と千景って学年は違うけど誕生日は4ヶ月しか違わないんだよね。一年の内8ヶ月は同じ歳」

 

「なるほど、確かにな」

 

 茉莉達と一緒に写真を眺めて懐かしく思いながらも、手は止めずに新しい写真を貼っていく。今年は千景の友達が増えたのもあり、その分写真も増えている。

 

「……蓮花が一緒に写っている写真はほぼ無いな。まるで蓮花はここにはいないみたいだ」

 

 アルバムをパラパラと捲りながら久美子は言う。

 

「いいんだ。僕は撮る側だからしょうがないよ」

 

 千景には、僕がいなくても笑えるようになってほしい。これらの写真を見ている限りでは、それが叶っているように見える。

 

「……蓮花」

 

「ん?」

 

 久美子の方に振り向くと同時に聞こえたシャッター音。久美子がスマホのカメラをこちらに向けていた。

 

「ちっ、ブレた。少しじっとしていろ」

 

「え……まぁ、いいか」

 

 少しの間、僕は久美子の被写体となった。茉莉は不思議そうにこちらを見ている。

 

「私がお前を写真に残しておく」

 

「そう……ありがとう」

 

「ん」

 

 

 写真を貼り終え、アルバムを元の場所に片付ける。そして僕はまだ風呂に入っていないことを思い出し、脱衣場に向かった。




今日の郡家
 髪に桜の花弁が付いたゆうちゃんはとても可愛くて、ゆうちゃんには桜がよく似合うなぁと思った。
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