花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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第55話 All Hallows' Eve

「んぁ……ん……」

 

 朝から久美子に求められ、キッチンで抱き合いディープキスを交わす。まだ少し寝ぼけ気味だった頭が一気に冴え渡る。

 

 僕も久美子もキスに夢中で、故に茉莉の起床に気がつかなかった。

 リビングの扉が開いた瞬間、驚いた久美子は僕の舌を思いっきり噛んだ。

 

「ア゙ッッ!!……痛ぇ……」

 

「すまない蓮花、大丈夫か?……血の味がするんだが」

 

「僕も血の味がする……」

 

「お、おはよう。……何事?」

 

「なんでもないよ、おはよう……痛い」

 

 こんな激痛を味わったのは何年ぶりだろうか。

 

「……これが蓮花の血の味か」

 

 なんだか久美子が怖いことを呟いた気がした。

 

 

 ──────────

 

 

 10月31日、今日はハロウィンだ。クリスマスほど目立つ日ではないが、代わり映えしない毎日を過ごす私達にとっては少しテンションが上がる。

 ホームルームの時間を待っていると、今日も今日とて廊下から烏丸先生の足音が聞こえ、やがて教室の扉が開かれた。

 

「席に着けー、ホームルームを始めるぞ」

 

「「トリック・オア・トリート!!」」

 

「は?」

 

 教壇に立った烏丸先生に先制攻撃をしかける球子とゆうちゃん。

 

「そういえば今日はハロウィンか。一体私にどんなイタズラをしてくれるんだ?」

 

 どうしてこの人はイタズラを求めているのだろう。ここは私が提案してみよう。

 

「久美子さんの気持ちをれんちゃんにバラそうかしら」

 

「ちょうどここにクッキーがある。欲しい奴は並べ」

 

「やったあ!」

 

 一瞬で掌を返した烏丸先生の元に球子とゆうちゃんが駆け寄る。

 

「お前達は要らないのか?蓮花の手作りクッキーだぞ?」

 

「「「え!?」」」

 

 即座に全員が席を立ち、教壇の前に一列に並ぶ。

 

「どうしてれんちゃんのクッキーを持っているの?」

 

「時々何か作っては、間食として持たせてくれている」

 

「今日だけ、というわけではないんですね」

 

「ああ」

 

 全員がクッキーを貰うと、席に戻って口に入れる。授業前の糖分補給だ。

 

「それから、その脅しはあまり意味が無いぞ」

 

「どうして?」

 

「蓮花はきっと、もう私の想いに気付いている」

 

「……ふーん」

 

「ついでに、あいつには恋をしている相手がいるらしい」

 

「「「えっ!?」」」

 

 烏丸先生の口から衝撃の発言が飛び出し、私の口からは飲み込もうとしていたクッキーが飛び出しかける。

 

「五年程前からその人に恋をしているらしい」

 

「……え、五年前?」

 

「千景さんですか?」

 

「私がれんちゃんと知り合ったのは四年前だから、違う……」

 

「思い当たるような人物はいないのか?」

 

「……いないわ」

 

 必死に頭を回して考えるが、そんな人は思い当たらない。

 そもそも私は、私と出会ってからのれんちゃんしか知らない。

 

「……よく考えたら、私はれんちゃんの過去を何も知らないわ。どこで生まれて、どこで育って、私と出会うまで何をしていたのか……何も知らない」

 

「千景が知らないなら、私達にもわからないな」

 

 四年間一緒にいて何も話してくれていないのは、話したくないからかもしれない。それでもいつか、少しでもいいから聞いてみたい。あの人のことを少しでも知りたい。

 

「……おっと、もう一時間目の開始時間か。ホームルームはしていないが、まぁいいだろう。授業を始めるぞ」

 

「起立」

 

 若葉の号令で全員が席を立つ。そしていつものように礼をして、今日も授業が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、私は自室でれんちゃんと談笑していた。れんちゃんは訓練の後、よく私の部屋でお茶して帰るのだ。

 

「一年間の訓練でかなり鎌を振れるようになったね」

 

「れんちゃんの教え方が上手だから」

 

「それはよかった」

 

 アイスコーヒーのおかわりを入れる為に立ち上がろうとした時、部屋の扉がノックされた。今日は誰が来たのだろうと思いながら、キッチンに向かおうとした足の方向を変えて扉に向かう。

 扉を開けると、『誰』というか全員いた。

 

「どうしたの?」

 

「れんちゃんはいますか?」

 

「いるけど」

 

 とりあえず全員を部屋に入れる。すると皆はれんちゃんを囲うように座った。

 

「「「トリック・オア・ トリート!」」」

 

「お菓子はあげるからイタズラしてくれ」

 

「どういうことよ」

 

 この為にここに来たのか。まあ構わないが。というかイタズラしてくれって何だ。

 

「でも、今はお菓子持ってないな……。今から皆でスーパーに買いに行く?金は出すよ」

 

「「行く!」」

 

「いいの?」

 

「いいよ。元々買い物して帰る予定だったし」

 

 れんちゃんは残りのコーヒーを飲み干して立ち上がる。

 私も軽く出かける準備をして、皆で寮を出た。

 

「ちょっと職員室に寄っていくね」

 

「どうして?」

 

「久美子にもいる物あるか聞いていく」

 

 七人で職員室に向かう。全員で入るとさすがに邪魔なので、れんちゃん以外は扉の前で待つことにした。

 中に入っていくれんちゃんを見送り、扉から皆で中を覗き込む。

 

「久美子、お疲れ様」

 

「どうした蓮花?」

 

「今から皆を連れてスーパーに行ってくるね。久美子は何かいる物ある?」

 

「いや、特には無い」

 

 二人をやり取りを見ていると、久美子さんがこちらに気がつき目が合った。

 

「お前達は何か用か?」

 

「いえ、私達はただの野次馬なのでお気になさらず!」

 

 久美子さんの問いに杏が返答する。私達は野次馬だったらしい。

 

 

 

 

「久美子さん、いつもの悪い笑みではなく自然な笑顔ですね」

 

「きっと好きな人が会いに来てくれて嬉しいんだよ」

 

 ひなたやゆうちゃんがひそひそと呟く隣で、杏が鼻息を荒くしている。

 

「少年少女の甘酸っぱい青春とはまた違った、大人の恋愛……!!」

 

「楽しそうだな、あんず」

 

「郡家の観葉植物になって恋の行方を見守りたいです……」

 

「うちに観葉植物はいらないわ」

 

 一応静かに騒いでいるが、二人には聞こえていないだろうか。

 

 

 

 

「今日の晩ご飯は何がいい?」

 

「……な──」

 

「なんでもいい以外で」

 

「……肉」

 

「広いな。まぁいいや、食材見ながらメニュー考えるか」

 

 

 

 

「なんでもいいって言われると困るのよね」

 

「タマ、時々母ちゃんになんでもいいって言ってたぞ」

 

「私も」

 

「これからは出来る限り考えて答えてあげなさい」

 

 私も最初の一年くらいはれんちゃんになんでもいいと答えていたが。考えるのが面倒なのではなく、れんちゃんは何を作っても美味しいので決められないのだ。

 

 

 

 

「それじゃあ、仕事頑張ってね」

 

「ん……ああ」

 

 れんちゃんは久美子さんの髪を撫でてそう言うと、職員室から出てきた。

 

「あ、今のいいですね……!!」

 

「ん?どうした?」

 

「あ、いえ、何でも」

 

 興奮する杏を、れんちゃんは面白いものを見る目で見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一人五百円までで好きな物選んでおいで」

 

「「はーい」」

 

 スーパーに入りれんちゃんがそう言うと、皆それぞれ散開していく。

 

「あ、千景と友奈。茉莉の分も選んであげてくれ」

 

「わかったわ」

 

 ひとまず、ゆうちゃんと共にお菓子コーナーに向かう。

 私は大体ゲームをしながら食べるため、手を汚さずに食べられる物を選ぶことが多い。箸を使えば済む話だが、洗い物を増やしたくない。

 今日も例に漏れず、個包装されているクッキーの箱を何種類か選ぶ。

 

「ちーちゃんはクッキー好きなの?」

 

「ええ。手を汚さずに済むし」

 

「なるほど」

 

 ゆうちゃんが悩んでいる隣で、私は茉莉さんの分を考える。どういうものが好きなのだろうか。チョコチップクッキー等は皆好きだろうか。

 

「……ねぇゆうちゃん。三人でいろんな種類のクッキーを買って、ちょっとずつ分けない?」

 

「そうする!いろんな味が楽しめていいね!」

 

 そういうわけで、私達は沢山のクッキーの箱を抱えてれんちゃんの元へ戻った。

 

 

 畜産コーナーで豚肉を眺めているれんちゃんを見つけ、そのカゴにクッキーを入れる。

 

「色々持ってきたね」

 

「三人で分けるの!」

 

「そっか」

 

「れんちゃんは今日の晩ご飯は決まった?」

 

「う〜ん……」

 

 少し唸った後、れんちゃんは豚バラ肉を手に取った。

 

「……今日は回鍋肉にしようかな。最近中華食べてないし」

 

「そういえば私達も中華料理は最近食べてないね」

 

「一日三食うどんの日も珍しくないわね」

 

「また千景の部屋に泊まりに行った時に中華作ってあげようか」

 

「やったぁ!」

 

 次の土曜日の夕食が中華に決まった。おそらく、夕食時には私の部屋に全員集合するのだろう。

 豚バラ肉をカゴに入れ、次は野菜を求めて農産コーナーに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千景、そのクッキーを一枚くれないか。代わりにこのみたらし団子を一つ交換しよう」

 

「ええ、いいわ」

 

 夜は私の部屋にそれぞれ選んだ菓子を持ち寄り、のんびりと過ごしている。なぜ私の部屋なのか。談話室のようなものを増設してもらうべきか。

 

『いっけなーい遅刻遅刻っ!』

 

「なんか選択肢が出たぞ」

 

「こんな序盤で珍しいですね」

 

 テレビでは恋愛シュミレーションゲームが映っている。乙女ゲームというやつだ。

 適当なゲーム五本セット千円で買った中に入っていたがやらなかったゲームなのだが、杏が興味を持ったので、プレイしているところを皆で眺めている。

 今は、主人公が寝坊し、トーストを咥えて学校までの道程を走っており、もうすぐ曲がり角に差し掛かるというよくある状況だ。

 

「A.このまま全力で走る。B.一旦止まって左右を確認する。C.引き返す」

 

「引き返すって何だ?」

 

「よくあるラブコメではこのまま走って、曲がり角を走ってきた異性とぶつかる展開ですね」

 

「Aを選んだら青春が始まりそうだけど、他の選択肢が気になりすぎるわね」

 

 Bを選んだ場合は、誰かとぶつかることはなく恋愛に発展することもないのだろう。Cは何だ。

 

「ちょっとCを選んでみます。気になるので」

 

「ええ」

 

 杏がCを選択すると、主人公は立ち止まり、後ろを向いて来た道を全力で走り出した。

 

『登校途中で気が変わり、遅刻するかもしれないなら、いっその事仮病で休んでしまおうと思い家に帰った。BAD END』

 

 

 

 

「いや遅刻しそうでも学校行けよ!」

 

「悩んだ結果、振り切れちゃったんですね」

 

「このゲーム面白いね」

 

 面白いゲームとは、思わぬ所で見つかることもあるのだと知った。

 

 

 

 

 

「そういえば、四国は敵の襲撃が全く無いな」

 

 杏のプレイを眺めながら菓子を食べて談笑していると、ふと若葉がそんなことを言った。

 

「言われてみれば確かに」

 

「敵は全部諏訪に行ってるとか?」

 

「だが、四国の方が圧倒的に生き残っている人口が多い。そんな場所を完全に放置するとも思えないが」

 

 丸亀城での生活が始まって一年と少しが経過し、勇者として敵と戦うことを覚悟して毎日訓練しているが、今の所敵は全く攻めてこない。

 

「四国には神樹様があるから、外でめちゃくちゃ戦力を溜めて準備しているとかでしょうか?」

 

「小さい地域から先に潰しておこうとしてるとか?」

 

「もしくは誰かがこっそり倒してくれているとか?」

 

 杏の言葉に首を傾げる。バーテックスを倒せる人なんてそうそういるわけではない。

 

「誰かって?」

 

「えっと……私達勇者以外だと、バーテックスを倒せるのは蓮花さんだけですね」

 

「でもれんちゃんはちーちゃんの訓練で毎日丸亀城に来てるよ?」

 

「土日もよくここに来ているな」

 

 

 

「……毎日じゃないわ」

 

「え?」

 

 れんちゃんの行動を全て知っているわけではないが、大体何曜日の何時頃に何をしているかはなんとなくわかる。そして、時折よくわからない時間の穴があることに気がついた。

 

「れんちゃんは時々、用事があるからって訓練に来ない日があるわ」

 

「そういえばそうだね」

 

「そしてそれは、よく考えてみればいつも毎月第一月曜日。定期的に謎の『用事』でどこかに行っている」

 

 きっちり決まった日にどこかに行く。おそらく向かう先も同じ場所ではないだろうか。

 

「……千景はその『用事』が何か聞いていないのか?」

 

「何も聞いていないわ」

 

「久美子さんは知ってたりしないかな?」

 

「……明日、久美子さんに聞いてみましょう」

 

「で、でももしかしたらって可能性の話ですよ?」

 

「『用事』が何なのか聞くくらいは問題ないでしょう」

 

 私の一番身近な人が、裏で危険な事に身を投じ続けているかもしれない。

 そんな可能性に気がついた後は、談笑なんてしていられなかった。

 不安や心配が少しずつ生まれ出す。嫌なモノが背筋を冷たく走った。




今日の郡家

 夜。

「トリック・オア・トリート」

「え、久美子の分は買ってきてないよ?」

「……なら、イタズラしなければな」

 久美子さんはそう言うと蓮花さんを押し倒したので、ボクは風呂に入ることにした。
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