花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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3月上旬辺りまで投稿頻度が下がるかもしれません。


第58話 願い事

「年が、明けたねぇ」

 

「そうね」

 

 正月のお笑い番組を見ながらみかんの皮を剥き、とりあえず僕の脚の間に座っているひなたにあげる。

 隣を見ると、同じように茉莉が友奈にみかんをあげている。

 

「愛媛のみかん美味しいね」

 

「そうだね。いっぱいあるから、どんどん食べないとカビが生えちゃう」

 

 部屋の隅に置かれたダンボール、その中に入っている大量のみかん。毎月球子や杏のご両親が送ってくれるのだ。これでも皆で分けた後なのだが、多い。正月だから多めに送ってくれたのだろうか。

 

「いいじゃないか。こたつと大量のみかんがある正月は最高だ」

 

「それには同意するわ」

 

「うちにもこたつが欲しいな……」

 

 こたつに入ってみかんを食べ続ける久美子、千景、若葉。狭くないのだろうか。

 

「球子達はまだ寝てる?」

 

「はい。昨日は年明けまで皆で起きていたので」

 

「まあ大晦日はそうだよなぁ」

 

 昨晩は若葉達の家に泊まった球子と杏はまだ寝ているらしい。寝正月も幸せだろう。

 みかんをもぐもぐと咀嚼するひなたの髪を撫でていると、若葉の視線がひなに向けられる。

 

「どうかしましたか若葉ちゃん?」

 

「いや、ひなたは昔からよくそこに座っているなと思ってな」

 

『そこ』とは僕の脚の間を指すのだろうか。思い返せば、ひなたは確かによくここに座る。

 

「ここが一番好きなんです」

 

「そうか」

 

「勝手に餌付けしてもらえるからか」

 

「ち、違いますよっ!確かにいつも何か食べさせてくれますけど……」

 

 最近はみかんをあげることが多い。愛媛から送られてくるみかんがほぼ常にあるからだ。

 

「ここが一番、安心できるんです」

 

 そう答えるひなたの表情は後ろからでは見えない。僕の元が一番安心できると言ってもらえるのはとても嬉しい。

 

「わかるわ」

 

「物理的にも世界一安全な場所だろうな」

 

「そういう意味じゃないってわかっているくせに」

 

 僕が次のみかんの皮を剥こうとすると、リビングの扉が開かれた。球子達が起きてきたのだ。

 

「おっすあけおめー!!」

 

「あけましておめでとうございます」

 

「あけおめ〜。新年も朝から元気だね」

 

「あけましておめでとう」

 

 球子達の後ろに続いて楓さんと琴音さんも入ってくる。二人が起きるまで見ていたのだろう。

僕は用意していたポチ袋を取り出すと、二人に手渡した。

 

「球子、杏。はい、お年玉」

 

「「ありがとうございます!」」

 

「じゃあ皆揃ったし、初詣行こうか」

 

「「「はーい」」」

 

「皆、和室で晴れ着に着替えておいで」

 

 昨年は無理だったが、今年は全員分の晴れ着を用意できている。皆が和室に入って着替え始める中、僕はスマホのカメラアプリを起動する。

 

「……あれ、久美子は着てくれないの?」

 

「私も着ないと駄目か?動きにくくて嫌なんだが」

 

 久美子は一人和室に入らず、今もまだこたつに入っている。

 

「せっかく用意したし着てほしいな。久美子の晴れ着姿も見たいし」

 

「……わかったよ」

 

 久美子は渋々といった様子で立ち上がり、和室に入っていった。

 了承してくれたことを嬉しく思う。久美子の晴れ着姿を見られるのは生涯で一度きりになるかもしれないから。

 

 

 

 

 

 しばらくして和室の襖が開き、続々と晴れ着に身を包んだ少女達が姿を見せる。皆それぞれの色や柄がよく似合っている。

 

「着付け終わりました〜」

 

「ああ……良い……最高だ……」

 

 シャッターボタンを長押しして連写する。後で良い写真を選ぼう。

 千景や若葉、茉莉は普段より少し大人びた様子で綺麗だ。ひなたはもはや若女将と呼んでも差し支えないような貫禄がある。

 やはり黒髪に着物は合う。

 皆それぞれ髪を纏めたりしているが、珍しく球子は髪を下ろしていて可愛らしい。

 久美子も例に漏れず、長い黒髪を纏めている。

 

「……なんだ」

 

「……綺麗だ」

 

「ふん……」

 

 顔を逸らす久美子は珍しく照れているようだ。そんな様子もしっかり写真に収める。

 

「一人ずつ写真を撮りたいけど、球子は脱ぎたそうだし初詣行こうか」

 

「おう!動きにくいから早く脱ぎたいぞ」

 

「せっかく可愛いんだからしばらくそのままでいようよ〜」

 

 僕も杏に同意したいが、嫌がっているのを強要したくもない。外でも沢山写真を撮ろう。

 家を出ると、僕達は最寄りの神社に向かった。

 

 

 ──────────

 

 

 神社に到着し、中に入っていく。数年前程多くはないが、元旦ということもありそれなりに人で賑わい、屋台も出ている。

 

「先に参拝してから屋台を見て回ろうか」

 

「参拝って、神樹様にお願いをすることになるのかしら?」

 

「そうかもしれないね。神樹はいろんな神様の集合体だから、ここの神様も含まれてるかもね」

 

「お前達は神に見初められた勇者と巫女なのだから、もしかしたら本当に願いを叶えてくれるかもしれないな」

 

 手水所で両手や口を清めて拝殿に向かい、参拝の列に並ぶ。

 

「真冬に冷水で手を洗うのは冷たいね〜」

 

「じゃあボクが手を握っててあげるね」

 

「ありがとう。茉莉さんの手、温かい」

 

 数分後、参拝の順番が来た私達は賽銭を入れて鈴を鳴らし、二礼二拍手一礼をしてお参りした。

 全員の参拝が終わると一旦自由行動となり、各々が興味のある屋台へ歩いていく。

 

「やっぱり屋台といえばまずはベビーカステラだよな!」

 

「定番だね」

 

 そう言って球子と杏はベビーカステラの屋台に向かった。迷子になっても困るため、楓さんがその後ろをついて行った。

 

「私は唐揚げ食べたい!」

 

「一緒に買いに行こっか」

 

「私も少しつつきたい」

 

「嫌だよ、久美子さんは自分で買いなよ」

 

「チッ、わかったよ」

 

 ゆうちゃんと茉莉さん、久美子さんは唐揚げを買いに行った。あの三人でいると、久美子さんは大人というより年上の友達といった感じだ。

 

「あっちにはクレープがありますよ若葉ちゃん」

 

「おお、いいな。買いに行くか」

 

「甘いものが大好きですもんね」

 

「あ、ああ」

 

 少し離れたところにあるクレープの屋台に向かう若葉とひなた。その後をついて行く琴音さん。若葉は昔から甘いものに目がない。

 そして私の隣にはれんちゃんが立っている。

 

「……れんちゃんはどんな願い事をしたの?」

 

「ん?僕は……皆がずっと幸せでいられますように、ってね。千景は?」

 

「私は……」

 

 問い返され、答えかけて口を噤む。

 

「……内緒よ」

 

「えぇー聞きたいなぁ、千景の願い事」

 

 言えるわけがない。皆の幸せを願ったあなたの前で。

『あなたとずっと一緒にいたい』なんて自分の為の願いを。

 話を逸らそうとして屋台に目を向ける。

 

「れんちゃんは屋台を見に行かないの?」

 

「千景は何か気になるものはある?」

 

「まあ、ベビーカステラも唐揚げもクレープも、美味しそうだし食べたいけれど……」

 

 食べたいものは色々あるが、途中で満腹になって全ては食べられなさそうだ。そう伝えるとれんちゃんは微笑んだ。

 

「そっか。じゃあ食べたいもの全部買って、二人で半分こしよう」

 

「そんなにお金を使っていいの?屋台ってそこそこ高くない?」

 

「気にするな、今日くらい贅沢しよう。ほら、行こう」

 

 れんちゃんに手を引かれ屋台の方に歩き出す。草履を履きなれていない私の歩く速さに合わせてくれる。

 

 

「……一緒に過ごせる正月はこれが最後かもしれないから……」

 

 喧騒に紛れたれんちゃんの独り言を、私は聞こえなかったふりをした。

 

 

 ──────────

 

 

 新年最初の金曜日、僕はひなたと共に大社を訪れていた。新年最初の神託の儀を執り行うらしい。

 多くの神官達が集まり、巫女達が儀式を行う様子を、僕は後方から見守っていた。

 

 それが終わると、僕は応接室に通された。唐突な訪問ではなかったため、テーブルの上には茶も用意されている。

 ソファに腰を下ろし、対面に座るお偉方の神官達と向かい合う。

 話を始める前に、ひとまず茶を少し口にする。

 

「このお茶美味しいね」

 

「最高級の茶葉を使っておりますので」

 

「そう」

 

 湯呑みを置き、神官達を見据える。

 

「進捗を聞こうか」

 

 僕が話を切り出すと、資料を持った一人の神官が口を開く。

 

「集合住宅の建設や食料、生活用品の確保等、予定通り3月上旬には完了いたします」

 

「そうか」

 

 では次の勇者通信で、3月中旬辺りで迎えに行くと歌野に伝えておこう。迎えに行ったらすぐに避難できるよう、そこで暮らしている人々に荷物を纏めておくように伝えてもらおう。

 僕も移動経路の確認や緊急事態の想定等、できることをしておこう。この辺は久美子と相談しようか。

 

 あと、2ヶ月。この物語はそこから加速する。




今日の郡家
 お正月は楽しい。皆で一緒に家にいられるから。
 こんな風に平和な毎日を過ごしていると、時々、四国の外は今も地獄だということを忘れそうになる。でも、蓮花さんや久美子さんは、ボクがそれを忘れて生きることを望んでいるみたいだ。
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