見切り発車で始めたので正直こんなに続くとは思ってなかったです。
今後もよろしくお願いします。
「ふっ!」
息を吐くと共に勢いよく踵を振り下ろし、正面の星屑を粉砕する。
そして他のバーテックスを探して建物の上を駆ける。
子供達の負担を少しでも無くす為に、諏訪に向かう前に四国周辺のバーテックスを一体でも多く狩っておきたい。
「……臭いな」
嗅覚を刺激する腐乱臭。
天災時の死体がずっと放置されているが故に、現状の四国外はあちこちで人だったモノが腐りハエがたかっている。
新鮮な死体が目の前で沢山転がった天災時は地獄と呼ぶに相応しい光景だったが、人によっては今の状態の方が吐き気を催すだろう。
「……急ごう」
凄惨な光景に足を止めている時間は無い。早くバーテックスを片付けて歌野達の所に行かなければ。
事前に四国を一周しておいたので、今日はあまり数は多くない。
本来バーテックスは数ヶ月かけて戦力を揃えてから攻めてくる。
しかし今、四国周辺のバーテックスはほぼ殲滅しているため、たとえ僕が離れている間に攻めてきたとしても大した戦力ではないだろう。
もし急いで他所から戦力を集めてきたとしても、黄道十二星座のような大型の進化体は作ることができないはずだ。
普段より広く四国の周囲を回ってから、僕は諏訪へ向かって走り出した。
しばらくして、滋賀を越えた辺りで少し足を止めた。
「……何だ?」
ここまでの道中と比較して、急にバーテックスの数が増えた。
周囲、というより僕の前方を塞ぐようにバーテックスが群れを成していた。群れの過半数は星屑だが進化体も混ざっている。
少し思考し、僕を足止めして時間を稼ごうとしているという結論に至った。
何故か。僕が諏訪に合流すれば、諏訪を落とせなくなるからだ。
諏訪を落とす最後の機会。その為の時間稼ぎか。
ならば今頃、諏訪が猛攻を受けているかもしれない。
しかし、敵は選択を間違えた。
本気で諏訪を落とすのなら、僕の足止めに戦力を割かず、全てを諏訪の攻撃に回すべきだった。
この程度で僕は止められない。
「押し通る……!」
この辺りに人はいないので、今更建物の損壊など気にする必要もないだろう。
右脚を下げて腰を落とし、大きく息を吸いながら右腕を引く。
じっとしているとバーテックスは次々と僕に襲いかかる。勝手に集まってくれて、良い的だ。
「ぬぅん!!」
螺旋の回転を加えながら、全力を込めて大気を押し出し右拳を突き出す。
触れたバーテックスとその周囲のものを粉砕し、押し出された大気は腕を中心に渦となり、前方広範囲の建造物も瓦礫もバーテックスも悉くを巻き込んで捻じ切り挽き潰した。
渦が止む頃には前方のあらゆるものが塵と化し、綺麗に道が出来ていた。
そして再び足を動かし走り出す。急いで諏訪に合流しなければ。
やがて見えた目的の地で、一人の少女が必死に未来に手を伸ばしていた。
──────────
全身で鞭を振るい、周囲のバーテックスを纏めて薙ぐ。
これは建御名方神の持っていた『藤蔓』の力を宿す鞭だ。
鞭とは、おそらく人力のみで扱える中で最速の武器である。質量は小さいが圧倒的な速度でその威力を補う。
扱いは難しいが、手元で発生させたエネルギーが先端に伝わるにつれて速度に変換され、熟練した使い手であれば先端の速度は音速を超えるという。
私にそこまでの熟練度は無いが、勇者の身体能力で振るわれた鞭は容易に敵を打ち砕き引き裂く。
けれど。
「はぁ……はぁ……今日はいつにも増してメニーだわ」
敵の数が多すぎる。倒しても倒しても減っている気がしないくらいだ。
まるで、今諏訪を落とさないといけなくて総攻撃を仕掛けてきているようだ。
「ここが正念場かしらね……」
結界を構成する御柱を破壊しようとするバーテックス達を叩き落とす。
しかし数体落としたところで、大群の猛攻は止まらない。
「うぐっ!!」
空中で動きが止まってしまった瞬間、大量の星屑達の突撃を諸に受けて突き飛ばされ地面を転がる。
受け身を取ったが衝撃を軽減し切れずに左腕を痛めた。骨が折れなかっただけマシか。
痛がっている暇は無い。顔を上げて敵を見据えると、中型の進化体達が一斉に私に矢を向けていた。
「やばっ!!」
即座に飛び退くと同時に元いた場所に大量の矢が射出された。
土煙が舞い上がり、収まった時には大きなクレーターが出来ていた。
「今までで一番のピンチだわ……」
足を止めると矢の的になり、一撃で捌き切れる数でも無いから攻撃した瞬間の隙に物量で押される。
どうしたものか。
「……考えたってしょうがないわね」
再び敵に向かって鞭を振るう。別方向からの攻撃を身を捻ってどうにか躱しながら次の攻撃に繋げる。
有効な策を思いつかなくても、命尽きるまで戦い続ける。私は勇者だから。
それに、確か今日は蓮花さんが諏訪に来る日のはず。もしかしたら途中で蓮花さんが到着するかもしれない。
蓮花さんが来るまで持ち堪えられれば、たとえ私が死んだとしても諏訪の人々は助かるかもしれない。
皆の未来を、繋がなければ。
「が、がんばれ歌野お姉ちゃん!!」
「ダメだよ遥香ちゃん!!そっちは危ないよ!!」
「!?」
声が聞こえた方に振り返ると、一人の女の子がそこにいた。天災で家族を亡くし、諏訪の皆で面倒を見ている5歳の女の子。
そしてその後ろにはこちらに向かって走ってくるみーちゃんが見えた。
遥香ちゃんの大きな声に、一体の矢を放つバーテックスが反応した。
「危ない!!」
遥香ちゃんを庇うようにみーちゃんが抱き締める。
私は必死で手を伸ばした。けれど、この足が放たれた矢の速度に適うはずもなく、この手が二人に届くこともなく。
そして、二人が矢に貫かれることはなかった。
二人の前に、空から人が降ってきたからだ。
「ギリギリセーフかな」
「ぇ……?」
その人は矢を受け止めていた。そしてそれをバーテックスの群れに投げ返し、複数体を貫いた。
御柱を攻撃していたバーテックスも動きを止めた。後退する個体さえいる。
彼に会ったのは何年ぶりだろうか。私とみーちゃんを繋いでくれた人。
「……蓮花…さん……?」
「遅くなってすまない、歌野。全員無事かな?」
「え、ええ。大丈夫」
「なら良かった」
そう言うと、蓮花さんは持っていた荷物をみーちゃんに預けた。
「水都、ちょっとこれをお願い」
「は、はい!」
「歌野は二人を連れて他の人達の所に戻るんだ」
「私も一緒に戦います!まだ、やれます!」
「いや、戻るんだ」
強固な意思を感じる声に言葉が詰まる。
そして蓮花さんは敵に向かって歩き出した。
「後は任せて」
その言葉と後ろ姿は、私に絶対的な安心感を与えてくれた。
──────────
「終わったよー」
戦闘を終えて歌野達の所に向かうと、歌野は傷の手当てを受けていた。
諏訪の人々もざっと見たところ百人近く集まっている。これで全員なのかはわからないが、歌野が守りやすいように一箇所に集まっていたのだろう。
中には僕に対して疑心の目を向ける者もいる。
「え、もう!?」
「うん。一匹残らず片付けておいたよ」
「乃木さんが、蓮花さんは凄い人だってよく言っていたけれど、本当だったのね」
「若葉がそんなことを言っていたのか」
若葉……思い出したら会いたくなってきた。まだ離れて数時間しか経っていないのに。
「蓮花さんが四国から助けに来てくれた人だってことは、既に皆に説明してます」
「ありがとう水都」
水都から預けていた荷物を受け取っていると、一人の年配男性を先頭に数人が僕の元に歩いてきた。おそらくこの人が諏訪の人々を纏めているのだろう。温和な雰囲気のお爺さんだ。
そしてお爺さんが頭を下げると、後ろの人々も頭を下げた。
「諏訪を、この子達を助けて下さり、ありがとうございます」
「……どういたしまして」
僕がお爺さんと握手をすると、周囲の人々の疑心も少し晴れたように感じた。
夜になり、僕は歌野と水都が寝泊まりしている家に来ていた。今夜はここに泊めてもらうことになっている。
昼間には諏訪の土地を見て回った。
ここの人々には生気があった。皆で協力して必死に生き抜こうとする心持ちがあった。
最初の頃の勇者通信で歌野から、未来を諦めている人も多いと聞いていたが、きっと諦めずに頑張る歌野に鼓舞されたのだろう。凄い子だ。
既に夕食は済ませ、今は居間でのんびりと過ごしている。
約三年ぶりに二人に会ったのだ。話したいことは色々ある。
「二人とも大きくなったね」
「だいぶ身長は伸びたわ」
「蓮花さんは全然変わってないね」
「まぁ……この歳になると三年くらいじゃ変わらないね」
小学校高学年女子の三年間はとても大きい。成長期が来て一気に背が伸びる子も多い。
「千景さんも大きくなったのかな」
「ああ、色々大きくなったよ。写真見るかい?」
「見たい!」
スマホを取り出してアルバムを開き、千景が写っている良さげな写真を探す。といっても、大半の写真は千景が写っているが。どうしよう、画面が可愛いでいっぱいだ。
「あら美人」
「本当だ。というか千景さんの写真凄く多いね」
「まあね」
スマホを三人で覗き込みながら画像をスライドさせていると、この前の卒業式の日に撮った集合写真が表示された。
せっかくだから丸亀城の皆のことを紹介しておこう。
「この背の高い金髪が若葉だよ」
「へぇー、なんだかイメージ通りね」
「この人がいつもうたのんと熱く論争してるんだね……」
子供達の事を順に紹介していく。4月からは歌野達もこの子達と一緒に授業を受けるのだ。
「この乃木さんにそっくりの人はお母さんかしら」
「こっちの人もひなたさんにそっくりだよ」
「その二人はそれぞれのお母さんだよ」
楓さんと琴音さんはやはり誰が見ても母親だとわかるくらいに似ているのだ。綺麗で若く見えるから姉妹でも通るかもしれない。
「この人が蓮花さんの奥さん?」
歌野はそう言って久美子を指さす。そんなふうに見えるのだろうか。単に歳が近いからか。
「僕は独身だよ。この人は烏丸久美子って言って、僕らの家族であり皆の担任の先生だ」
「ティーチャー!ということは私達の先生もこの人になるのね」
「というか家族増えたんだね」
「久美子と友奈とこっちの茉莉は、天災の時に奈良から四国に避難してきたんだ。で、行く宛てが無いから一緒に暮らすことにした」
「なるほど」
あれから一年半経ったのか。早いものだ。
「久美子は変な人だけど、面白い人だから楽しみにしててね」
「変な人なんだ」
再びスマホに視線を戻す。
写真をたくさん見ていると懐かしい気持ちになってくる。
子供達の成長もパッとわかるので嬉しくもなるのだ。
「そういえば、諏訪の人達には避難のことは話してあるんだよね?」
「ええ、準備はしてくれているはずよ」
「そうか、ならいい」
消灯し、布団に入って寝る体勢になる。明日の朝も早い。北海道までは距離がある。
「何日かかるかわからないけど、僕が北海道の人達を連れて諏訪に合流したら、一泊して次の日に皆で移動しよう」
「うん」
「千景達も皆に会いたがってる」
「私達も会いたいわ。そして皆で蕎麦を食べるの」
「そ、そうか」
まあ若葉達はうどんが上だと言い張りたいだけで、蕎麦が嫌いなわけではないだろう。
「じゃあ、おやすみ」
一日目は無事に終わった。
目を閉じ、移動経路等を瞼の裏に思い出し確認する。
やがて聞こえてくる歌野と水都の安らかな寝息にどこか安心しながら、僕も眠りについた。
「さて、じゃあ僕は諏訪の結界の周囲を回ってから北海道に向かうね」
早朝。玄関でブーツを履いて荷物を持つ。
振り返ると、歌野と水都が見送る為にそこに立っている。
そこそこ早い時間だが、二人は早起きに慣れているようだ。農作業が理由か。
「ええ、また数日後」
「行ってらっしゃい、蓮花さん」
「行ってきます」
扉を開いて外へ出る。
早朝故にあまり人を見かけない道を歩き、僕は次の目的地に向けて進み出した。
北海道の、雪花の元へ。