最近更に忙しくなり続きを書く時間を確保しにくくなりましたが、失踪はしません(断言)。
ここまで書いて失踪したら私もスッキリしないので、更新頻度がどうなるかは不明ですが更新はします。
日が傾き始めた頃、僕は北海道旭川市の雪花がいるはずの街に到着した。
約4年前、この街で僕と千景は雪花と出会った。
あの頃とは見る影もない光景だが。そこら中でバーテックスが漂っている。
離れた場所から見渡すと、降り積もる雪による真っ白な景色に星屑が擬態しているみたいだ。
きっとここで血が流れても少し周囲を赤く染めるだけで、またすぐに雪で白く掻き消されるのだろう。
「ん……?」
辺りを見回して疑問を覚える。人の気配が無い。
死体はある。しかし、ここまでの道中と比較すると圧倒的に少ない。
それに関しては雪花が守ったからと納得はできるが、死んでいないのならなぜこんなにも人がいないのか。
既にどこかに移動したのか。
しばらく探索していると、少し離れた所で黒い棒状の物が空に向かって飛んでいき星屑を貫いたのが見えた。
見つけた。
急いで戦闘の場へ向かうと、黒い衣を纏った少女が槍を手にバーテックスと対峙していた。
とても成長しているが、4年前に出会った時と変わらない面影の少女。
「雪花!」
「えっ、まだこんな所に人が!?危ないから隠れてて!!」
落ち着いて話をする為に、まずは周囲のバーテックスを片付ける必要がある。
速やかに判断して行動し、数分で周囲の敵の掃討を終えた。速戦即決だ。
「…………は?」
「どうした?」
「あなたも勇者なんですか?」
「……似たようなものだけど違うよ。僕は勇者だなんて名乗れるような人間じゃない」
僕は勇者の子達のような、どんな人間でも助けるような精神性は持ち合わせていない。
しかし、雪花の初対面かのようなこの反応。
「もしかして僕のこと憶えてない?」
「え?」
「……まあしょうがないか。出会ったのが4年前で数時間一緒にいただけだもんね」
「4年前?」
顎に手を当てて考え込む雪花。やがて驚いたように極限まで丸くした目をこちらに向けた。
「……え……ああ!!蓮花さんだ!!」
「思い出してくれたようでなにより」
「すみません、4年も前だから顔がうろ憶えで」
あはははー…と後頭部に手を当てて苦笑いをする雪花。
「むしろ蓮花さんはよく私だとわかりましたね。結構背も伸びたのに」
「まあね」
僕からすれば小学2年生の雪花よりも、背が伸びて勇者服を着ている今の方が馴染みがある。もはや懐かしい記憶ではあるが。
「……あのー蓮花さん」
「ん?」
「さっきから私の精霊がめちゃくちゃあなたを警戒してるんですが」
「え」
雪花の隣に紫色の狐のような精霊が姿を現す。確かコシンプだったか。
今にも吠えてきそうな様子で僕を見ている。
「こ、怖くないよ〜ほれほれ〜……あ」
「あははは…」
警戒心を解いてもらおうと思い撫でようと手を伸ばすが、さらに距離を取られてしまった。
「というか精霊が見えるんですね」
「ああ、うん」
コシンプにはすぐには懐いてもらえなさそうだし、今は置いておこう。
「雪花、聞きたい事が色々あるんだけど」
「どうぞどうぞ、歩きながら話しましょう」
少し離れた道の端に置いていたリュックサックを背負い歩き出す雪花について行く。
「他に生きている人はいないの?」
「いますよ?今はそこに向かってます」
「一人で何をしていたの?」
「食料を集めていたんです。この通り街はもうバーテックスでいっぱいだから、ここにいた人達は皆で山の方に隠れてまして。食べる物が減ってくる度に私が探しに出てきてます」
「だから人がいなかったのか」
北海道は既に結構ギリギリな状況だったのかもしれない。
通り道に擦れ違うバーテックスを二人で薙ぎ倒しながら、山の方に向かって歩き続ける。
「そういえば、私も聞きたいことがあるんですけど」
「何?」
隣を歩く雪花が顔をこちらに向けて問う。
「なんで北海道には生きている人がいるって知ってたんですか?」
「え?えっと……四国には神樹っていう神様の集合体があって、そいつから聞いたんだ」
「へぇー、そんなのあるんだ」
よし、それっぽい答えを返せたはずだ。
「ていうか神様をそいつって言っていいんですか」
「いいのいいの」
「いいんかい」
千景達を勇者に選んで敵と戦わせようとする奴なんて『あいつ』や『そいつ』でいい。集合体だから複数形で呼ぶべきだろうか。
「どうやってここまで来たんですか?」
「徒歩」
「徒歩!?」
互いの状況を知る為に質疑応答を繰り返していると、やがて山の中に掘られた大きな洞窟に辿り着いた。
確かにここには人の気配があり、周囲にバーテックスはいない。
「着きました」
「ここで生活してるのか」
中に入ると、そこには数十人の人がいた。高齢者から小さな子供まで様々だ。
「ただいま帰りましたー」
「勇者様!」
「おかえりなさい!ご無事で何よりです」
勇者の帰還を歓迎する人々。その視線はやがて僕に向けられる。
「勇者様、こちらの方は……?」
「あ、この人は郡蓮花さんって言って、四国から私達を助けに来てくれた人です」
「四国から!?」
「いったいどうやって!?外には化け物がうじゃうじゃといるはずなのに……」
想像通りの反応をする人々。正直人に会う度に同じ説明をするのは面倒くさい。
「もしかしてこの方も勇者様……?」
「似たようなものです。どうぞよろしく」
希望を見つけたように湧き上がる人々。
歓迎してくれるのは嬉しいが、今日は諏訪からここまで走ってきたので一旦座らせてほしい。
「さっき助けに来てくれたって……」
「はい。四国は結界があって安全です。だから僕は皆さんをそこまで連れていきます」
そして、皆にできるだけ早く移動を始めたいこと、途中で諏訪の人々と合流すること等を説明する。休むより先に説明だけして、準備をしてもらわなければ。
「何で移動しますか?さすがに郡さんのように徒歩というのは無理があるでしょう」
「計画では、フェリーや大型漁船に車両を積んで途中まで海路を移動しようと考えていたけれど……」
周囲を見回し、人数を数える。せいぜい30人前後か。
この人数で大きな船を使うのは燃料等が無駄な気がする。
「……バスで行こう。雪花、街にバスはあったかな?」
「確か公民館の駐車場で見かけた気がする」
「今日はもう暗いから明日確認しに行こう」
北海道に着いた時点で陽が落ちかけていたのだ。洞窟の外は既に暗くなっている。
「この中にバスを運転できる人はいますか?」
「俺できます!大型二種免許持ってます!」
「じゃあお願いします」
最悪、運転さえできれば免許は無くてもいいかと思ったが、あるに越したことはない。
「できれば明日の午後には出発したいです。食料等、持っていく荷物の準備はそれまでにお願いします」
「わかりました」
スムーズに話し合いは進み、無事に終わった。ここの人々が協力的でよかった。
面倒な人がいれば置いて行こうかと思っていたが、その必要は無さそうだ。
雪花が集めてきた食料を皆で分け合い夕食を済ませた後、僕は小さな女の子と遊ぶ雪花の隣に腰を下ろしていた。
ちなみに僕は食料は受け取らず、諏訪で作ってきたおにぎりを食べた。
「……想定していたより人は少なかったな」
「……ここにいた人皆を守れたわけじゃないから。少し前だって……」
顔を上げず、沈んだ声で話す雪花。やはりここも色々と大変だったようだ。
普通の子供なら、他人の命なんて背負う必要は無いのに。
「及川さんは勇者様のせいじゃないですよ。あの人が勝手な行動をしたせいなんだから、自業自得です」
「それは、そうかもしれないけど……」
近くにいた中年男性が励ますが割り切れない様子の雪花。
勝手な行動をする人はたとえ生きていたとしても連れていくつもりはなかったが、そんな事を言うと印象が悪くなりそうだから黙っておこう。
一見飄々としているように思われることもあるだろうが、その実人の命を大切に思い、理性では投げ出したくても心の底では投げ出せない。
それが秋原雪花という少女だと僕は思う。
「そういえば、千景さんは元気?」
「ああ、元気だよ。写真見る?」
「見る見る」
諏訪の時と同じように、スマホのアルバムアプリを開いて雪花に見せる。
「お〜美少女。四国に行ったらまた更衣室ファッションショーやりたいな」
「いいね、金は僕が出すから最高のコーディネートを頼む」
「頼まれました」
またいつかのように、困り顔で似合っているか聞きたげな目を向けてくる千景を見たい。
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
「なっがいため息。どうしたの?」
「千景の事考えたら会いたくなった。千景の声を聞きたい……」
千景と一緒に暮らし始めてから今までで一番長い時間離れている。もう会いたくて堪らない。
千景は寂しくて泣いていたりしないだろうか。さすがに無いか。
むしろ久美子の方が寂しさを紛らわせる為にいつもより酒に浸っていそうだ。そして茉莉にウザ絡みして鬱陶しがられるのだ。
……茉莉の為にも早く帰ってあげなければ。
「あ、そうだ。昔の雪花の写真もあるはず」
「そういえば千景さんと一緒に撮りましたね」
画像フォルダをひたすら遡り、4年前の写真を見つけた。そこに写っているのは、買ったばかりの服を着て少し嬉しそうな千景ととても満足気な雪花。
「おお、この時の私って小2だっけ」
「そうだね。……本当に大きくなったね」
「へへっ、まあ4年も経ちましたからね」
笑う雪花の少しウェーブがかりふわっとした髪を撫でる。
前にも、こんな風に撫でてあげたことがある気がする。
君が心の内を隠す為の笑顔の仮面ではなく、心からの笑顔を見せてくれたら、そこはきっと温かい場所なのだろう。
これから連れていく所は、きっとそんな場所のはずだ。
夜が明けた。まだ薄暗い時間帯ではあるが、僕は雪花や運転手含む数人と共に街に下り、公民館へやって来た。
そこの駐車場には、雪花の言った通りバスが停まっていた。一応全員乗れそうな中型バスだ。
僕と雪花が周囲を警戒している中、運転手の青年がバスのドアを開けて入っていく。
「鍵はありますか?」
「刺さったままになっています!」
外から問い掛けると返答してくれる青年。鍵が無ければ別のバスを探すことになっていたため助かった。
「ガソリンスタンドまで行く燃料はあるかな?」
「多少残ってるんで行けそうです」
「じゃあバスに乗ってガソリンスタンドまで行こうか」
皆でバスに乗り込んでエンジンを掛けて走り出し、特に問題なくガソリンスタンドに到着した。車体にこれといった異常は無いようだ。
給油を済ませた後、山の麓にバスを停めた。
そして洞窟に迎えに行った雪花と共に下りてきた人々と必要最低限の荷物を乗せ、バスは走り出した。
再び諏訪に戻り、歌野達と合流する為に。
「蓮花さーん。本当にそこでいいんですかー?」
雪花がバスの窓を開け、屋根の上に座る僕に呼び掛ける。
「いいのいいの。何かある度にいちいちバスを停めて降りるより、この方が早いと学んだ」
給油と運転手の休憩以外、出来る限りバスは停めずに走り続けたい。少しでも早く帰りたい。
それに、最初からバスの外にいた方がバーテックスを見つけた時に対応しやすい。
朝日を全身で浴びながら周囲を見渡す。
給油や休憩を挟む事も計算して、諏訪に着くのは明日の早朝くらいだろうか。
僕が焦ったところでどうにもならない。
早く、早くと焦る心を落ち着かせながら、僕は朝食のおにぎりを食べた。