花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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ゆゆゆい5周年お祝いイラストを応募して貰える壁紙、とても良かったです。


第7話 仕事と子供

 8月頭の朝、上里家の玄関にて。

 

「千景をお願いします」

 

「はい。ひなた、ちーちゃんが来ましたよ」

 

 リビングから裸足でぺたぺた歩いてくるひなた。口元にケチャップらしき赤いものが付いている。朝食中だっただろうか。

 

「ちーちゃん、おはようございます!」

 

「おはよう、ひなた」

 

 朝からにこにこ元気な子だ。朝は弱い千景とは反対なようだ。

 

「もうひなた、ほっぺにケチャップ付いてますよ」

 

 琴音さんが指摘する。ケチャップで合っていた。

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

「行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃーい」

 

 少し不安そうな顔をする千景の頭を撫でて上里家を出る。向かうは仕事先である。

 ちなみに隣にはお屋敷のような家が建っている。乃木家である。

 

 ──────────

 

 貯金はある。千景と二人でなら数年は働かなくても生活できるくらいにはある。

 しかし、いつかは尽きてしまう。千景にちょっと贅沢をさせるならなおさら。なので、働くことにした。

 収入はあまり考慮せず、9月以降は学校の行事があることをふまえて、時間に融通がきく働き方をすることにした。アルバイトである。

 乃木家と上里家が我が家から徒歩十数分の距離にあったので、千景を一人にすることがないように、夏休みの間は仕事に行っている時は預かってもらうこととなった。

 

 ──────────

 

 連れてこられた二階にあるひなたの部屋は、程よくクーラーがつけられて、外とは違い過ごしやすい温度だ。

 

「さて、何しましょうか」

 

「うーん……夏休みの宿題は終わった?」

 

 言ってから思ったけど、宿題を指摘してくる友達ってなんか嫌かも。間違えたかもしれない。

 

「まだですけど、わたしが宿題してる間、ちーちゃんはひまじゃないですか?」

 

「ゲームしてるから大丈夫」

 

 特に気にした様子もなく返してくるひなたに、持ってきたリュックサックからゲーム機を取り出して見せる。

 どこでも持ち運べるのが携帯ゲーム機のいいところである。

 

「じゃあ、わかばちゃんが来るまで宿題します」

 

「若葉来るの?」

 

「多分来ると思います」

 

 家が隣同士だし、きっとよくお互いの家で集まるのだろう。

 

 

 

 少しした頃、階段を登る軽い足音が聞こえてきた。

 ひなたの部屋のドアが開かれる。入ってきたのは若葉だった。

 

「おはよう二人とも」

 

「おはようございますわかばちゃん、おけいこ終わったんですね」

 

「おけいこ?」

 

 若葉は何か習い事でもしているのだろうか。

 

「わかばちゃんは毎朝居合のおけいこしてるんです」

 

「居合!?刀を抜くやつ!?」

 

「ああ」

 

 そんなことをしている小学生がいるのか。

 居合に関してはゲームで得た知識しかないけれど、確かに若葉に似合っていると思った。

 そんなことを考えている横で、ひなたはさっき開いたばかりの宿題を片付けていた。

 

「じゃあわかばちゃんが来たので宿題終わります」

 

「まだ5分くらいしかしてないけど」

 

「だいたい終わってるので大丈夫です」

 

 ならいいか。

 

「さて、何しましょうか」

 

「5分前にも聞いたセリフ」

 

「ちかげもいると聞いていたから人生ゲームを持ってきたぞ」

 

 そう言いながら、持ってきた手提げバッグから人生ゲームを取り出す若葉。

 人生ゲーム。友達がいたらやってみたかったことの一つだ。ボードゲームも好きだけど一人ではできない。最近はれんちゃんと色々やっているが。

 

「じゃあそれをやりましょうか」

 

 

 

 

 

「あ、また子供が生まれました!」

 

 ゲーム開始から数十分後。ひなたは五人の子宝に恵まれていた。

 

「すごいなひなた。わたしなんてまだ独身なのに」

 

 若葉は独身街道驀進中である。

 

「次はわたしね。…4ね」

 

 ルーレットの針が4に止まったので、私の駒を4マス進める。

 

「『宝くじが当たって5万円もらう』だって」

 

 銀行役を兼任するひなたから5万円を受け取る。

 私は結婚して子供が一人、所持金は一番稼いでいた。職業は総理大臣。

 

「次はわたしか、…10だ!」

 

 ルーレットで一番数字が大きい10を引いた若葉は一気に進み、私とひなたに大きく差をつけた。…かに思われた。

 

「えっと…『恐慌が起きて職を失う』!?」

 

 恋愛をすることもなく仕事一筋だったキャリアウーマン若葉は、その仕事さえ唐突に失うのだった。

 

 

 

 最終的に一位になったのは私だった。総理大臣のお給料は強かった。

 

 ──────────

 

 夕方、仕事を終えて上里家へ千景を迎えに行く。いい子にしているだろうか。千景のことだから大丈夫だろうけど。

 

 上里家に到着しインターホンを押すと、すぐに琴音さんが出迎えてくれた。

 

「おかえりなさい蓮ちゃん。ちーちゃん呼んでくるので、リビングでお茶でも飲んで待っててください」

 

「わかりました」

 

 言われてリビングに入ると、楓さんがソファに座っていた。

 

「おや、こんばんは」

 

「ああ、仕事お疲れ様」

 

 楓さんが労いながら茶を淹れてくれる。

 千景が来るまで飲みながら少し話でもしようか。

 

「楓さんと琴音さんはいつから仲良いの?」

 

「そうだな…幼稚園から一緒だったか」

 

 顎に手を当て思い出す楓さん。そんなに小さい頃からなのか。

 

「そこから小中高と一緒でね。まあ高校は自分達で同じ学校を選んだが」

 

「ずっと仲良しなんだね。家はずっと隣同士?」

 

「いや、結婚する時に家は隣同士がいいという話になってね。乃木家は昔からあれだから、琴音とその旦那が隣に家を建てた」

 

 なるほど。確かに由緒ある家の一人娘が出ていくわけにもいかないだろう。

 

 そうこう話しているうちに千景が二階から降りてきた。ひなたと若葉も一緒だ。

 

「おかえりなさい」

 

「ただいま。今日は何してたの?」

 

 しゃがんで目の高さを合わせ、千景の髪を撫でてみる。

 

「ひなたに五人の子供ができた」

 

「………ん?」

 

「どうかした?」

 

「何でもないよ…ひなたがなんだって?」

 

 一応聞き返す。凄いことを聞いた気がする。

 

「五人の子供が生まれ…あっ、人生ゲームの話ね」

 

「ああ、なるほど」

 

 それなら理解できた。人生ゲームでも子供五人は多い気がするが、置いておこう。

 

「人生ゲームしてたんだね」

 

「うん、他にもボードゲームとか色々」

 

 今日のことをとても楽しそうに話す千景。これなら、これからも仕事の間は預かってもらっても大丈夫だろう。

 

「じゃあそろそろ帰ろうか」

 

「うん」

 

 お母さん方にも挨拶しておかねば。

 

「今日はありがとう。明日からも千景をよろしくお願いします」

 

「はい」

 

「ああ、明日はこっちで預かろう」

 

 じゃあ明日の朝は乃木家のインターホンを押そう。

 

「若葉、ひなた、また明日」

 

「ちーちゃん、れんちゃん、さようなら」

 

「また明日な」

 

 手を振り合いながら上里家を出る。ここに来るまでにスーパーに寄ってきたので、千景と手を繋いでまっすぐ家に帰る。

 

「お仕事おつかれさま」

 

「ありがとう、千景を見たら疲れも吹き飛んだよ」

 

 僕にとって千景は万病に効くかもしれない。

 

「今日の晩御飯は肉じゃがにしようかな」

 

「お肉多めで」

 

「ああ、わかった」

 

 最初の頃に比べて増えた口数に、距離が少しずつ縮んでいるのを感じた。




乃木若葉
 落ち着いた金髪ロングの女の子。小学2年生。家の敷地内に道場があり、居合を習っている。生真面目だかちょっと天然なところがある。まだ成長期は来ていないので、身長はひなたより少し高い程度。

上里ひなた
 艶のある黒髪ロングの女の子。小学2年生。若葉とは赤ん坊の頃からの付き合いであり大親友。いつもにこにこしていてほんわかする。
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