花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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本編もう少しかかるので場繋ぎの幕間投稿。
深夜テンションかつムラムラしながら書いたのでちょっとR17くらいかも。
時系列的には59話と60話の間くらいの2月頃です。


幕間 非叶

 目を覚ます。

 左には久美子、右には千景がまだ眠っている。さらにその隣に友奈、茉莉と並んでいる。

 今日は日曜日。千景達は昨日帰ってきて我が家で一泊したのだ。

 

 起き上がろうにも動けない。両腕で腕枕をしているのだ。いつもの事だが。

 そして僕の上には久美子の左半身が乗っかっている。柔らかい。これもあまり珍しい事では無い。久美子は寝相が悪いのだ。

 

 しかし、どうしてこんなに密着してくるのか。冬の空気が寒いからだろうか。

 

 左右を見れば、幸せそうな寝顔。

 そんな千景達を起こしたくはないので、僕も二度寝をすることにした。日曜日くらい構わないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、見つけた。ペイントボール投げるわ」

 

「了解、すぐに向かう」

 

「私も」

 

 昼食を終え、子供達は狩猟中のようだ。

 同じように帰ってきていた若葉達も集まっており、リビングは人でいっぱいだ。

 

「私も昔はよく友人と狩りをしたものだ」

 

 ソファで隣に座る久美子が昔を懐かしむように話す。

 

「……オヤジ狩りとかですか?」

 

「お前は私を何だと思っているんだ」

 

「ヤバい事してた過去がありそうな人?」

 

「……少なくとも犯罪になるようなことはしていない」

 

 犯罪ではなくとも、はっきりとは否定し切れないらしい。

 しかしここに来てからはそういう事は一切していない。

 

「良い子になったねぇ」

 

「ん……子供扱いするな」

 

 頭を撫でてあげると、口ではそんな事を言いつつも嫌がる様子はない。

 

「あっ、逃げたよ!」

 

「追えー!追えー!」

 

 球子達から貰ったみかんの皮を剥いては、近くの子の口に入れていく。

 愛媛の実家から結構な量のみかんが送られてくるらしく、カビが生える前に食べなければとしょっちゅう食べている。

 みかんを使ったスイーツ等を作ってみてもいいかもしれない。

 

「皆、晩ご飯は食べてから丸亀城に戻るの?」

 

「私はそのつもりよ」

 

「じゃあ私も!」

 

「そうですねぇ」

 

「そっか。何にしようかな」

 

 鍋とかでいいだろうか。寒いし。すき焼きにしようか。

 買ってこないといけないものを考えていると、膝の上に座るひなたがこちらを向いて口を開けた。みかん待ちか。

 

「はいはい、あーん」

 

「あーん……いくらでも食べられますね」

 

「いっぱいあるから好きなだけ食べてくれ」

 

 次のみかんに手を伸ばすと、既に久美子が口を開けて待っている。

 

「皮剥くからちょっと待ってね」

 

「あー……」

 

 口を開けたまま待ち続ける久美子。閉じて待てばいいのに。

 皮を剥くのを止めたらどうするのだろうか。

 

「あー……」

 

「……」

 

 

「……あー……」

 

「……」

 

 

「……どうして手を止める」

 

「ごめんごめん」

 

 結果は「顎が疲れるまで開け続ける」だった。

 皮を剥いてみかんを久美子の口に放り込むと、人差し指ごと口に含んで放してくれなくなった。報復だろうか。

 

「指を開放してくれないと次のが渡せないよ」

 

「ん……」

 

「あっ、こらっ」

 

 口に含んだみかんを飲み込んだ後、そのまま僕の人差し指を舐め始める久美子。

 

「……そういう事は夜にしなさい」

 

「……みかんを剥き続けるお前の指が甘かっただけだが?そういう事とはどういう事なんだ?」

 

「くっ……」

 

 指を開放すると少しニヤつきながらからかってくる。

 

「そういう事って何ですか?」

 

「え?」

 

 不思議そうにこちらを見上げてくるひなた。

 久美子に視線を向けると悪い笑みを浮かべている。後でお仕置きするべきか。

 

「……何でもないよ、気にしないで」

 

「はぁ、そうですか」

 

 

「これでトドメだ!」

 

「ナイス若葉!」

 

 どうやらひと狩り終えたらしい。

 この空気から抜け出す為に、僕も狩りに参加することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の晩ご飯は何にするの?」

 

「今夜はすき焼き。何入れたい?」

 

「うどん」

 

 スーパーにて、必要な食材を買い物カゴに入れていく。というか僕がせずとも、一緒に来ている千景とひなたが勝手に食材を集めて来てくれる。

 白菜、糸こんにゃく、うどん、牛肉、麩、ネギ、細うどん、椎茸。

 

「……うどんと細うどんってどっちかだけじゃ駄目なの?」

 

「駄目です。両方食べたいです」

 

「さようか。まあいいけど」

 

 ひなたに確固たる意思で断言されてしまった。こだわりがあるらしい。

 まああれだけ人数がいると、それぞれ好みがあるのだろう。

 

「他に何か買いたいものはある?何でもいいよ」

 

「じゃあ、ゆうちゃんと一緒に食べるお菓子も買っておこうかしら」

 

「私は特に無いですけど、寮の談話室に置いておくお菓子でも選びましょうか」

 

 お菓子のコーナーに向かう千景とひなたを見送り、僕はお酒コーナーへ向かった。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

「……お酒?」

 

「うん。お酒」

 

「なんで?」

 

 ひなたと共にお菓子を選びれんちゃんを探していると、こちらに歩いてくるれんちゃんを見つけた。

 そして手に持つ買い物カゴにはお酒が四つも入っていた。

 

「楓さん達に今夜一緒に飲まないかって誘われてさ。まあいいかと思って、ついでにおつかいを頼まれたんだ」

 

「お母さん達でしたか」

 

「久美子さんがめちゃくちゃ飲むのかと思ったわ」

 

「そんなに飲んでるイメージある?」

 

「事ある毎に飲んでますね」

 

「そうだった」

 

 ああいうのを酒カスというのだろうか。それともあれくらいは珍しい事では無いのだろうか。れんちゃんは全然飲まないため、基準がわからない。

 

 

 レジで会計を済ませてスーパーを出ると、既に日が傾きかけていた。そもそも家を出たのが3時過ぎだったので仕方ない。

 

「帰ったらすぐに晩ご飯の準備しようか」

 

「ええ」

 

 どんな世界になろうとも、この景色は変わらない。

 昔も、今も、この先も。夕日に照らされたこの家路を蓮花さんと一緒に歩けたら。

 出来ればその近くに親友達もいてくれたら、きっと幸せだと思った。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 夕食を終え、子供達を丸亀城まで送り届けて家に帰り玄関のドアを開くと、ちょうど入浴を終えて脱衣場から出てきた茉莉と目が合った。

 

「あ、おかえりなさい」

 

「ただいま。お風呂入ったんだね、髪乾かしてあげようか」

 

「大丈夫、今日は自分で乾かすよ。久美子さんもお風呂待ってるし」

 

「そうか」

 

 茉莉に続いてリビングに入ると、久美子がソファでくつろいでいた。

 

「ただいま。わざわざ待ってたの?先に入っててよかったのに」

 

「おかえり。どうせすぐ帰ってくると思ってな」

 

 丸亀城に着いた後、千景達と話していて結局帰ってきたのは一時間弱後だったが。

 

「そんなに一緒に入りたかったのか」

 

「うるさい。ほら行くぞ」

 

 立ち上がった久美子に腕を引っ張られて僕も脱衣場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゙あ゙〜あったまる〜……」

 

「オッサンみたいだな」

 

「やめてよ、久美子もそんなに歳変わらないんだから」

 

 狭い湯船に大人二人。これも慣れたものだ。

 狭いけれど脚は伸ばしたいので、基本的には僕の脚の間に久美子が入る形になる。遠慮されることもなく僕は背もたれにされるのだ。

 

「……あ」

 

「何?」

 

「ふと『そういう事は夜にしなさい』と言われたなと思ってな」

 

「え?いや、まぁ…言ったけれども」

 

 久美子は体ごとこちらに向くと、僕の腰の上に座り直した。

 

「結局、そういう事とはどういう事なんだ?」

 

「18禁になりそうな事」

 

「直球だな……こういう事か?」

 

 そう言って久美子は僕の右手を掴むと、自らの胸へ触れさせた。しっとりとした肌、柔らかい感触が掌から伝わる。

 

「………………はしたないよ」

 

「今更だろう」

 

「今更だけど、やめなさい」

 

 手を離そうとしても、しっかり掴まれていて離せない。

 胸に触れることで彼女の心臓の鼓動が伝わってくる。

 

「……嫌か?」

 

「そういう訳じゃないけど……」

 

「私は、もう少しお前に求められ、触れられたい……」

 

 不意に見せたしおらしい表情が僕の理性を掻き乱す。

 

「……僕がいつもどれだけ鋼の意思を持って我慢していると思ってるんだ……」

 

「わかっているさ。現にここはこんなに硬くなっている」

 

「くっ……」

 

 久美子に腰を揺すられて刺激される。これ以上は本当にシャレにならない。

 

 

 少し強引に僕の右手を掴んでいた久美子の手を引き離し、腰に両手を回して抱き寄せる。

 

「久美子……駄目だ……」

 

「……すまない。冗談が過ぎた」

 

「うん」

 

 僕の首元に頭を乗せると、首筋に軽く吸い付く久美子。

 キスマークはつけるならもう少し隠れるところにつけてほしい。

 

「しかし、これだけしても我慢して襲わないとは。ヘタレか?据え膳食わぬは男の恥と言うだろう?」

 

「ちょっと傷つくからやめて」

 

 ヘタレて。久美子がグイグイ来過ぎなだけだと思う。

 

「久美子って、性欲強いよね」

 

「……お前が欲しいだけだ」

 

「え?んむ……」

 

 一頻りキスマークをつけ終えて満足したらしい久美子に、次は唇を塞がれる。

 両手を頬に添えられがっちりと顔を掴まれて逸らせない。

 

「んぁ……」

 

 少し呼吸が苦しくなってきた頃に、一度唇を離して酸素を取り込み、今度は舌を絡ませる。

 初めてのキスでディープキスをしたのがハマったのか知らないが、久美子はよく舌を入れてくる。

 甘えるように唇を求めてくる久美子が、今は堪らなく愛おしい。

 

「……はぁ……楓さん達との約束もあるし、あまり長風呂はしないよ?」

 

「ああ、わかっている……」

 

「これはわかってないな……」

 

 体を密着させて離れない久美子の熱が冷めるまで、彼女の求めるものに僕は応じ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅かったな、もう飲み始めているぞ」

 

「ごめん、久美子が放してくれなくて」

 

「……」

 

「あらあら、ふふっ」

 

 リビングに戻ると、既に楓さんと琴音さんは酒缶片手にくつろいでいた。

 テーブルの上には少しおつまみも広げてある。

 

「茉莉は?」

 

「さっき寝ましたよ。良い子です」

 

「そうだね」

 

 千景はおそらくまだ起きてゲームをしているだろうか。

 冷蔵庫から缶を二つ取り出し、久美子に一つ渡して僕も腰を下ろす。

 

「しかし首回りが痕だらけだな。包帯でも巻いておくか?」

 

「厨二病みたいで嫌だし、茉莉に心配されちゃうよ」

 

 絆創膏を貼るか。それも心配されそうか。

 マフラーかネックウォーマーでもしていようか。室内では変かもしれないが、季節的には問題ないだろう。

 

 少しずつ飲む僕とは対照的に、隣の久美子はグビっと缶を傾けている。

 早々に飲み切って僕の分を取られるかもしれない。

 

「同棲してもう一年半くらいになりますね」

 

「楓さんと琴音さんが?」

 

「いやお前達だろ。結婚はまだか?」

 

「ん?」

 

 久美子と顔を見合わせる。照れた久美子が先に目を逸らした。

 

「もしかしてもう酔ってる?」

 

「酔ってはいる」

 

「うふふふ」

 

 楽しそうでなにより。

 

「まさかまだそういう関係じゃないとでも言うつもりですか?」

 

「そんなくっついて腕組んで……」

 

 久美子が勝手に腕を組んで左肩に頭を乗せてきただけだが。

 それを受け入れている僕も大概かもしれないが。

 

「私がどれだけ誘惑しても襲ってくれないんだ」

 

「ヘタレか」

 

「ヘタレですね」

 

 ヘタレやめて。

 

 

 

 

 

 

 飲み始めて一時間程が経過した。

 僕達はまだちまちまと酒を飲みながら話しているが、久美子は僕の膝枕で眠ってしまった。

 琴音さんは酒に強いようだが、楓さんは結構酔いが回ってきているようだ。

 

「私達はなぁ〜蓮花を弟のように思っているんだぁ……」

 

「だから早くパートナーを見つけて、家庭を持ってくれたほうが、安心なんです」

 

「パートナーはいないけど家庭は持ってるよ」

 

「久美子はどうなんだぁ?優良物件だろう?」

 

 静かに寝息を立てる久美子。幸せそうに眠っている。

 その艶やかな黒髪に触れ、優しく撫でる。

 

「……優良物件かはともかく、僕は好きだよ」

 

 それがどんな形かはともかく、この想いは嘘じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 酔っ払い二人を家まで送り、リビングで寝てしまっていた久美子を抱きかかえて寝室に運ぶ。

 茉莉が眠る隣の布団に寝かせ、その寝顔を見つめる。

 

 

「久美子……」

 

 

 眠りが深いのか、名前を呼んでも反応はない。

 今はきっと何を言っても、誰にも聞かれていない。

 

 

「……愛してるよ…………」

 

 

 嫌っているわけではない。彼女の想いを否定したいわけでもない。

 本当は応えてあげたい。将来も傍にいられたらとも思う。

 けれど、どうやら僕は屑なようで千景への想いもずっと心に残っている。

 

 そして、そのどちらも叶えてあげられない。

 

 

 

「…………ごめんね……」

 

 

 

 僕の恋した千景はもういない。

 そして僕は久美子とも共に未来を歩けない。隣にいてあげられない。

 僕はただ、皆の幸福を願うことしかできない。

 

 でも、大丈夫。きっと彼女達は、僕の事を忘れてくれるから。




 微睡む意識の中で、あいつの声が聞こえた気がした。
 愛してるよと。ごめんね、と。
 私の中に、不安の火種が生まれた。
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