花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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戦闘シーン書くの疲れる……ずっと日常だけ書いていたい……。
次は正月くらいで更新したいです(できるとは言ってない)。


第67話 初陣

「これが樹海化……」

 

 四国の土地全体が不思議な色の植物組織に覆われている。

 丸亀城や高層ビル等の大型建造物はわずかに原形を残しているが、生物も非生物も植物に覆われ同化している。この状態では人は敵の攻撃で被害を受けることは無いらしい。

 しかし、樹海が傷つくと現実に何らかの形で悪い事が起こるとも聞いている。

 

「何これ!?四国凄っ!?」

 

「これなら人を守りながらバトる必要も無いのね!」

 

「確かレーダーで敵を確認できるんでしたっけ」

 

「いや、もう見えてるゾ」

 

「え?あっ」

 

 スマホを取り出す杏の隣で、球子が遠くの空を指差した。釣られて私達もそちらへ目を向ける。

 遠くの空に白い物体が蠢いている。しかし数は多くない。

 

「あれくらいなら四国の外だと日常茶飯事だね」

 

「勇者もこれだけいるし、問題無さそうね」

 

「歌野ちゃん達は落ち着いていて頼りになるね、ちーちゃん!」

 

「そうね。おかげでこっちも冷静でいられるわ」

 

 今ここにいる勇者は七人。ずっと一人で戦っていた歌野と雪花が問題ないと言うのなら、大丈夫だろう。

 

「それでも絶対に油断はするな。全員で生き残るぞ」

 

 若葉はそう言うと勇者システムを起動した。そして光に包まれると先程まで着ていた衣服が青い勇者装束に変化した。

 

「ええ、わかってる」

 

 続いて私達も勇者システムを起動し、変身をする。

 全身に力が漲るのを感じる。これが神の力を身に纏う勇者か。

 

「私も!変ッ身!!」

 

 わざわざポーズを決めながら勇者システムを起動する歌野。そして黄と緑がベースの勇者装束を身に纏う。

 

「感動だわっ!なんて楽ちんなのかしらっ!」

 

「全員変身は済んだな」

 

「おう!」

 

 全員が変身したのを確認すると、若葉は先頭に立ち迫り来る敵を見据えた。

 

「事前に決めていた通り、私と千景、友奈と歌野でそれぞれ左右で前衛。球子は中衛をしつつ応援が必要そうなところを手伝う。そして杏と雪花が後衛で、私達の撃ち漏らしを落としつつ全体を見て指揮をする。いいな?」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

 上から見るとY字型の配置になる陣形だ。前衛は無理して全ての敵を落とす必要はなく、多少後ろに流しても問題ない。負担を分散できているように思う。

 

「蓮花さんに言われている通り、切り札はできるだけ使わず、しかし使わなければ危険だと判断したら躊躇せずに使うように。命には替えられないからな」

 

 切り札。精霊を自分の身に降ろし強大な力を得ると大社からは説明された。

 ならばどんどん使うべきではないのかと思った子もいた。けれどれんちゃんは副作用があるから極力使うなと、使うと決めたら躊躇わずに使えと言われた。使うか悩んでいる間に状況が悪化する可能性もあるからだ。

 そういえば、どうして誰も使ったことがないのにそんなことを知っていたのだろう。

 

「よし、では行くぞ!!」

 

 若葉の声を皮切りに、それぞれが自分のポジションへ走り出す。

 地を踏み込んで飛べば、体感した事の無い高さまで飛び上がり、一瞬の浮遊感の後に再び地を踏みしめる。

 

「凄いわね……今なら何でもできそうだわ」

 

「そうだな。……一年半ぶりの戦闘か」

 

「緊張しているの?」

 

「当然だ。しかしこの時の為に鍛錬を重ねてきたんだ」

 

 持ち場に着き、回りを見渡すと全員の移動が完了しているのを確認した。

 

「安心してくれ、千景。私がお前を守る。誰も死なせない」

 

「ええ、信頼してる。そしてあなたのことは私が守るわ」

 

「ああ。ひなたを泣かせてはいけないからな」

 

 若葉と拳をコツンと軽く合わせる。そして前を向く。

 もう敵はすぐそこだ。

 

「行くぞ!勇者達よ、私に続け!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ…!!」

 

 大葉刈を振るって迫り来る星屑を切り裂き、勢いをそのままに流れるように振るい次の敵を引き裂く。

 

「…はぁっ!!」

 

 基本的には力を込めず遠心力に身を任せ、刃が敵に触れる瞬間に力を込めてぶった斬る。

 力み続けないことで疲労を軽減する。

 

 私のすぐ近くでは若葉が無駄の無い動作でスパスパと敵を切断していく。

 

「これなら問題なさそうね」

 

「そうだな。少し慣れてきて他の所を見る余裕も出てきた。友奈達も大丈夫そうだ」

 

 離れた場所にいるゆうちゃんと歌野の方へ少し目を向ける。

 近接戦闘が得意なゆうちゃんが届く範囲の敵は全て落とし、届かない敵は無理して追わず、中距離にも対応できる歌野が処理する。

 

「いいコンビかもね」

 

「私達は違うのか?」

 

「いいえ……ふっ!」

 

 私が前に出て片っ端から薙ぎ倒し、私の届かない敵は小回りが利く若葉が切る。

 

「私達もよ」

 

「ああ、昔からそうだった」

 

 私達は三人でよく一緒にいたが、私と若葉が何かをしているところをひなたが写真を撮っているという構図も珍しくなかった。

 私達は互いに、二人で息を合わせることに慣れている。

 

 私が撃ち漏らしても、若葉が拾ってくれると信頼しているから、私は無理をしない。

 私が全て倒さなければと気負う必要が無い。故に心にゆとりがあり、落ち着いて、冷静に迫り来る敵と向き合える。

 私はただ、届く範囲の敵を確実に切ることだけに専念すればいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十分程経った頃、敵の勢いがかなり落ちていることに気がついた。

 

「だいぶ数が減ってきたわね。そろそろ終わりかしら?」

 

「そうだな……ん?後方のバーテックスが外へ引き返している」

 

「え?」

 

 若葉に言われて敵の後方へ目を凝らすと、バーテックス達が入ってきた瀬戸大橋の方へ後退し始めている。

 レーダーを見てもわかる通り、どんどん四国から出て行っている。

 

「逃げているの?」

 

「私の勝ち、ということなのか……?」

 

 周囲を見回すと、皆が敵の変化に気がついたらしく一旦手を止めている。既に近くに敵はいない。

 

『これはタマ達の勝利ってことでいいんだよな!?』

 

『でも外に逃げたやつはどうするの?』

 

『蓮花さんが帰ってきたら片付けてくれるでしょ』

 

 スマホから聞こえる仲間達の声。

 皆の緊張が少しずつ解けていく。

 

 

 

「……いや待て。戦闘が終わりなら樹海化が解けるはずだ」

 

「それは、確かにそうね」

 

 まだ気を抜いてはいけない。

 そんな気がした次の瞬間、見たことの無いものが大橋の方から現れた。

 

『レーダーに反応!……蠍座と射手座?』

 

「どうして星座なんだ?」

 

 遠く離れていてもわかる、その巨体。

 きっと、バーテックスの合体、進化の先に辿り着いた形態だ。

 

「……星の集合体だから星座なんでしょうね。固有の名前が付く程に完成された姿なのかしら」

 

『あんなビッグなのは初めて見るわね』

 

『しかも二体かぁ。ちょっとヤバいかも』

 

 諏訪や北海道、そこから四国への道中でも現れたことの無い進化体のようだ。

 

「あんな戦力、どこに隠していたのかしら。四国の周りはれんちゃんが何度も片付けているはずなのに」

 

『……海上とかでしょうか』

 

 北海道から四国までは陸路を移動して来たと聞いている。もし最初に計画していた通り歌野達が海路で避難しようとしていたら、途中であれらに遭遇していたのだろうか。

 

『……来ちゃったからには相手しなきゃな』

 

『大丈夫だよ!私達ならきっと…』

 

 ゆうちゃんが皆を鼓舞しようとしたその時、射手座の青い巨大な口のような部位がゆっくりと光った。まるで何かを放つ力を溜めているような……。

 

「……ッ!!全員避けろ!!」

 

 若葉が叫ぶと同時に射手座から巨大な一本の矢が撃ち出され、全員が地を蹴ってその場から飛び退いた。

 幸い誰にも命中することはなかったが、矢が当たった樹海の植物組織が大きく抉れた。

 あまりにも強力な一撃。掠っただけで手足くらい軽く吹き飛びそうだと容易に想像できる。

 

「なんて威力の狙撃だ……」

 

「さっきまでとは比べ物にならないわね」

 

 バーテックスは進化するとこれほどまでに強くなるのか。

 射手座の狙撃は連発できないようで、蠍座と共にゆっくりとこちらへ前進を続けている。

 

「全員、一旦集合だ」

 

 若葉の招集の元、杏達後衛の所に全員が集まる。

 

「あれらと戦うにあたり、陣形を変える必要があると思うんだが、どうだ?」

 

「そうね、わらわらと大量にいるわけじゃないもの」

 

 元々は星屑の群れを相手にする想定であったため、あれら大型を相手にするのなら相性も考慮するべきだろう。

 

「あんず、なんかいい案ないか?」

 

「そうですね……相手の情報が外見から得られるものしか無いですけど、先程の狙撃や名称からして射手座は遠距離攻撃主体、逆に蠍座は遠距離攻撃手段を持っていなさそうですね」

 

「そうだね」

 

「なので、蠍座は私と雪花さんとタマっちと千景さんで、私達の遠距離攻撃で攻めます。逆に射手座は若葉さんと友奈さん、歌野さんで接近戦をするのが安全かと思います」

 

 確かに、射手座は接近してしまえば体当たりくらいしか攻撃手段が無さそうだが、あの巨体なら俊敏ではなさそうだし躱せるだろう。

 私と球子は蠍座が後衛に近づくのを防ぐ役か。

 

「……ふむ。それで行こう」

 

「あと、おそらくですが蠍座というからには針に毒があるかもしれません」

 

「気をつけるわ」

 

 短い作戦会議を終えて前を向く。まだ接敵までには距離があるが、また狙撃されても困るのでこちらから接近したほうがいいだろう。

 

「全員、まずいと思ったら切り札を躊躇うな。行くぞ!!」

 

 

 

 

 二手に分かれて敵に接近する。やがて目論見通り敵も分かれ、私達の方に蠍座が向かってくる。

 

「射手座がこっちに来てたら困ってたナ」

 

「……そうね。まあその時は向こうの三人と急いで位置を変わるしかないわね」

 

 楯を持つ球子は言わずもがな、私の切り札である七人御先は耐久に向いている。それも加味しての配置なのだろう。

 七人に分身し、その全てが同時に殺されない限り死ぬことは無い能力。一人を離れた場所にでも隠れてしまえばおそらく私は死なないだろう。

 

「……最悪、私が切り札を使って全員を庇うわ」

 

「……でもそれって、凄く痛いんじゃないのか?」

 

「使ったことが無いからわからないけれど、死ぬよりはマシでしょう」

 

 七人で感覚を共有したりするのだろうか。六人死んだら、殺される激痛を六回体験するのだろうか。

 ほぼ不死身という強力な能力なのだから、そういうデメリットがあってもおかしくはない。……できれば使いたくは無い。

 

「安心しろ、千景!お前に無理させたりなんかしないし、敵も進ませない!タマはこう見えて多分千景よりパワーあるからな、踏ん張るのは得意だ!」

 

 そう言って笑顔でサムズアップする球子からは、不安なんて感じない。不安を感じていないわけないだろうに。

 とても強い子だ。

 

「……ありがとう。頼りにしているわ」

 

「おう!じゃあ行くか!」

 

 球子と共に蠍座へ向かって走り出す。私達の頭上を杏の矢と雪花の槍が飛んでいく。

 それらを蠍座は巨大な尾を横薙ぎにして弾き落とす。

 

「はあっ!」

 

 本体ではなく、邪魔な尾を先に落とすために斬り掛かる。が、斬れない。

 すぐに刃を離し、振り回される尾を柄で防御しつつ距離を取る。

 

「硬いわね……星屑とは大違いだわ」

 

「一点を集中して攻撃し続けるとかしないとダメか?」

 

「そうね。後衛二人の武器でそれは難しいと思うから、矢と槍を防いでいる隙を狙って私達でやるわよ」

 

 後衛の攻撃に合わせて、蠍座の尾の繋ぎ目のような細い所を攻撃する。

 接近し続けていては危険なためヒットアンドアウェイに徹しながら、球子と共に少しずつ削っていく。

 しかし硬い。全く傷がつかない訳ではないが、気が遠くなる。まるで持久戦だ。

 

 しかし集中を切らしてはいけない。相手の攻撃はとても重く、防御もせずに直接喰らえば骨くらい簡単に折れてしまうだろう。

 一人でも戦線を離脱すれば決壊しかねない。

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく経った頃、唐突にスマホから若葉の声が聞こえた。

 

 

『気をつけろ!!射手座がそっちに照準を定めた!!』

 

 

「なっ!?」

 

 離れた場所で戦闘している筈の若葉達の方へ目を向けると、既に射手座が大きな口をこちらに向けて光らせていた。

 接近し続けている前衛三人相手では倒す手段が無いから、状況を変える為に蠍座に加勢しようとしたのだろうか。

 

「まじかよ!?!?」

 

「くっ……」

 

 

 しかし、ゆうちゃんも既に切り札を発動していた。

 

「墜ちろ!!千回連続勇者パァァァンチ!!」

 

 離れていても直接聞こえる程大きな声で叫び、凄まじい速さで射手座に拳を叩き込み続ける。

 そのお陰で射手座の狙撃の軌道がずれ、私達に当たることはなく近くの植物組織を抉った。

 

 その瞬間、私と球子は蠍座から視線を外してしまっていた。

 そして射手座の狙撃が当たらなかったことに安堵し、一瞬緊張が解れてしまった。

 

 

「タマっち!!千景さん!!」

 

 杏の声を聞いた時には、既に蠍座の尾が迫っていた。

 

「千景!!」

 

 球子に突き飛ばされ、私に尾が当たることはなかった。

 そして球子も盾で上手く尾を防ぎつつ、なんとか躱せていた。

 しかし蠍座は止まらない。このまま押し切ると言わんばかりに、後衛の攻撃も意に介さず私達に追撃を仕掛けてくる。

 

「ありがとう球子、一旦距離を取るわ!」

 

「ああ!!……ぐっ……」

 

 球子と共に後方へ跳躍しようとしたが、球子が片膝をついたままその場から動かない。左脚が腫れて爛れている。

 冷や汗が流れた。

 まさか、躱しきれずに毒針が当たったのか。私を助けたから。

 蠍の針は、もうすぐそこまで迫ってきている。

 

 私は咄嗟に、球子を庇うように抱き締めた。

 

「球子!!」

 

「ダメだ千景!!タマなんかほっといて逃げろ!!」

 

「できるわけないでしょう!?!?」

 

 咄嗟に動いてしまった。冷静に判断をすることもできず。

 今から切り札を使ったら間に合うだろうか。無理だ。間に合わない。

 よく考えたら、あんな大きな針なら私ごと球子も貫いてしまうんじゃないか。

 なんて、今更ながら思った。

 

 

 

 

 

 

 あ……れんちゃんにおかえりなさいって言えないな……。

 

 

 

 

 

「せぇぇぇぇぇぇぇぇえええい!!!」

 

 

 

 

 

 上空から、ここにいるはずのない人の、聞こえるはずのない声が聞こえた。

 

 

 

 思わず顔を上げて振り返ると────。

 

 

 

 

 

 

 ────大きな音と共に、蠍座が砕け散った。

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