花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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新年明けましておめでとうございます。
蓮花が四国を出発した60話を投稿したのが3月末……9ヶ月ちょっと前?
大変遅くなりました。


第68話 帰還と疑念

 粉砕され形を保てなくなった蠍座が、崩壊し光の粒子となって散っていく。

 私達が何度斬っても斬れなかった大型バーテックスが、一瞬で粉々になった。

 

「御霊は無いけど中が空洞じゃない……御霊以外は完成しているのか。一番倒しやすい状態だな」

 

 そして砂塵が舞う中、私の目の前には郡蓮花が立っていた。

 

「れん…ちゃん……?」

 

「ああ、ぎりぎり間に合ってよかった。沖縄の人達を急かした甲斐があったな」

 

 突然の出来事に誰もが驚き動きを止めている。射手座に至っては後方へ下がり出した。まさか逃げているのか。

 

「れ、れんちゃん!!球子が脚に蠍座の毒を受けて……!!」

 

「えっ!?」

 

 私の隣でしゃがみこみ、球子の状態を確認するれんちゃん。

 

「タマは大丈夫だ、ちょっと左脚の感覚が無いだけで……」

 

「……すぐにサジタリウスも倒して病院に連れていく。棗、球子を頼む」

 

「ああ」

 

 れんちゃんが立ち上がりそう言うと、後方から白い少女が私達の元へ飛んできた。

 高い身長、落ち着いた声、そして褐色肌。

 

「……棗?」

 

「久しぶりだな、千景」

 

 私はこの人を知っている。

 そうだ。髪の色は全く違うけれど、沖縄旅行で出会って一緒に祭りに行った棗だ。雰囲気はあまり変わっていないようで少し安心する。

 

『またそっちに狙撃が行くわ!!』

 

 再会を喜んでいる場合ではないことを歌野の声が知らせてくる。

 そのまま逃げるのかと思われた射手座が、離れた位置から狙撃準備に入っていた。

 

「棗!球子を連れて早く後ろに……」

 

「大丈夫だ、千景」

 

「え……?」

 

 こんな状況でどうして棗はこんなに落ち着いていられるのか。

 前に出たれんちゃんが少し腰を落とす。

 

「三人とも動かないように。纏まってくれているほうが守りやすい」

 

「ま、まさか受け止める気!?」

 

「問題無い」

 

 もう射手座は発射寸前だ。球子を連れて機敏に避けるのは無理なので、れんちゃんを信じることにした。

 そういえば雪花が言っていた。世界で一番安全なのはれんちゃんの傍だと。

 

 目で追えないような速さで撃ち出された射手座の矢を、れんちゃんは右手で受け止めた。

 踏ん張りながらもズザザザザと後退していくが、やがて勢いを殺し切り止まった。

 

「ふっ!!」

 

 全身を躍動させしっかりと踏み込んで振りかぶり、今度はその矢を全力で投げ返した。

 射手座が撃ち出したよりも速く投げ出された矢は、遠く離れた射手座の中心を貫いた。

 

「……嘘でしょ」

 

「私も最初は驚いた。もう慣れたが」

 

 沖縄からここに来るまでにも激しい戦闘があったのだろうか。

 中心に大きく穴が空いた射手座だが、まだ崩壊するほどのダメージではないのか、光の粒子にはならず後退を続けていた。

 

「逃がすかッ!!」

 

 れんちゃんが地を踏み締めて前へ飛び出す。変身した私達よりも速く遠い跳躍で射手座まで数秒で距離を詰める。

 北海道まで徒歩で行くなんて言い出すのも納得だ。車両を使うより走った方が圧倒的に速い。

 

 射手座が小さい方の口から大量の矢が発射するが、それが彼に当たる訳もなく。

 全ての矢を躱し、勢いをそのままに右拳を叩き込む。

 巨大な破砕音と共に上半分が消し飛んだ射手座は、今度こそ崩れていった。

 

 そんな異様な光景に言葉を失い見入っていると、やがて戦闘終了を告げるように世界が元に戻り始めた。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

 目を覚ます。

 ゆっくりと瞼を開くと、視界は肌色に染まっていた。

 まだ少し寝ぼけている頭で今の状況を整理する。

 

 昨日家に帰ってきて、夕食と入浴を済ませた後は疲れていたから早々に寝たのを覚えている。

 そして今はとてもよく知る匂いに包まれている。顔は柔らかいものに埋まっている。

 

 理解した。僕は今、久美子に抱き枕にされているのか。

 とても強く抱き締められている。

 久美子の規則的な寝息が聞こえる。まだよく眠っているようだ。

 こんなにしっかり抱き締められていては、起き上がろうとすれば久美子を起こしてしまうかもしれない。

 

 僕は、久美子が起きるまでこのままでいることにした。

 久美子の胸の谷間に顔を埋めたまま深呼吸をすると、女性の甘い香りが鼻腔を通り頭を満たしていく。とても幸せな感じがする。

 寝ぼけている頭がまた眠気に誘われる。

 

 

 そういえば今は何時だろうか。

 それだけ確認しようと思い、スマホを探して少し顔を上げると、こちらを見ていた千景と目が合った。

 

「……おはよう、千景」

 

「ええ、おはよう」

 

「…………不可抗力なんだ。僕は今動けない」

 

「さっき胸に顔を埋めて深呼吸してなかった?それって必要?」

 

「………………」

 

 言い返せない。動けないことと久美子の匂いを嗅いだことは確かに関係ない。

 一瞬で頭が冴えていく。もう二度寝はできない。

 

「……あ、そうだ」

 

「ん?」

 

 千景が何かを思い出したように声を発する。

 追撃が来るのかと少し覚悟したが、それは杞憂だった。

 

「おかえりなさい、れんちゃん」

 

 そう言って微笑んでくれた千景を、今すぐ抱き締めたいと思った。

 久美子を起こさないように腕から抜け出して起き上がり、僕の大切を抱き締めた。

 

「ただいま……千景」

 

「ん……」

 

 たった数日離れていただけなのに、とても長い間離れていたかと思うほどに寂しかった。会いたかった。触れたかった。声を聞きたかった。

 

 たくさん話そう。この数日間、僕がいなかった間のことや、僕が見たもの、経験したことを。

 

 

 

 

 

 

 

「改めて紹介するね。沖縄から来た棗ちゃんです」

 

「古波蔵棗だ……よろしく」

 

 寮の談話室で集まっている皆に、新しい入居者を紹介する。

 ちなみに球子は入院中のため、ビデオ通話で話に参加している。

 戦闘終了後すぐに病院に連れていき、幸い命に別状は無かったが治療の為に少し入院することになった。

 

「写真で見たことありますね」

 

「沖縄旅行で千景と一緒に写っていたな」

 

「そうそう、あの子」

 

 その千景は今、久美子と共にキッチンで昼食を作っている。

 珍しく二人とも髪を纏めてエプロンをつけている。特に久美子はかなりレアだ。二人とも可愛い。写真に収めなければ。

 

「玉ねぎは切れた?え、まだ?早くしてよ久美子さん」

 

「こいつ……次のテストを楽しみにしていろ。……くっ……目が痛い……」

 

 千景と玉ねぎが久美子を泣かせているようだ。仲は良い、と言えるのだろうか。

 

「久美子、代わろうか?」

 

「いや、大丈夫だ。座っててくれ」

 

「わかった」

 

 珍しくやる気を出している久美子の言葉に甘え、僕はソファに座り膝の上にひなたを乗せて皆とゲームをして昼食を待つ。

 ちなみに今日は茉莉にも棗を紹介するために来てもらっている。

 

「……どうしてひなたちゃんは蓮花さんの膝の上に座ってるの?」

 

「ここは昔から私の定位置だからです」

 

「そうだっけ?まあいいけど」

 

 確かに、僕の膝に一番よく乗っているのは千景かひなたかもしれない。

 若葉も昔は乗ってくれていたのになぁ、と懐かしんでいると「蓮花さん、蓮花さん」と茉莉に耳元で囁かれた。一応僕も小声で話す。

 

「どうしたの?」

 

「久美子さんのことなんだけど、たくさん構ってあげてね。蓮花さんがいない間、ずっと寂しがってて面倒臭い感じになってたから。今だって、蓮花さんは疲れてるだろうからって気を使ってる」

 

「そうだったのか……面倒臭い感じって?」

 

「後で動画送ってあげる」

 

「ありがとう」

 

 茉莉と秘密の取り引きをしていると、何か勘づいたのか久美子がキッチンから話しかけてくる。

 

「茉莉、何の話をしているんだ?」

 

「久美子さんが寂しがってたって話」

 

「……別にそんなことはなかったが?」

 

「よく言うわ、ずっと溜息をついていたくせに」

 

「千景には言われたくないな」

 

 千景もか。まあ想像はしていたが。

 少し自惚れているかもしれないが、僕が千景や久美子に大切に想われているのは理解している。そして離れると寂しがることも。僕もそうだから。

 まだやらなければいけないことは残っているが、ひとまず今は皆の傍にいよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば久美子、インナーカラー落ちてきたね」

 

「ん?ああ、そうだな」

 

 風呂上がり、リビングでテレビでも見ながら久美子の髪をドライヤーで乾かす。

 ちなみに子供達は寮の談話室でお泊まり会をするとのことで、茉莉も丸亀城に泊まっている。

 本当は僕も行きたかったが、久美子を一人で放っておくわけにもいかず、かといって久美子もお泊まり会に連れていくのもどうかと思い、こうして二人で家にいる。

 年頃の女の子達のお泊まり会に大人がいては、話しにくいこともあるかもしれない。

 明日の夜は千景の部屋に泊まりに行くことになっているので、まあいいだろう。

 

「染め直すか、このまま色を落とすか、お前はどっちがいいと思う?」

 

「ふむ……僕としては、この綺麗な黒髪が傷むのはもったいないから染めないほうがいいんじゃないかと思う」

 

「そうか、ならそうしよう。お前は黒髪が好きだもんな」

 

 僕は黒髪が好きなのか?……好きかもしれない。

 ドライヤーを止めて久美子の髪を櫛で梳く。

 

「ふと思ったんだけどさ」

 

「ん?」

 

「今更なんだけど、久美子って出会ってすぐの頃から僕をお前って言うよね」

 

「そういえばそうだな。駄目か?」

 

「別に構わないけどさ」

 

 僕は一応歳上なのだ。出会ってすぐの歳上をお前呼びしていたのはどうなんだろう。僕は慣れていたから気にも留めなかったが。

 

「……あなた?」

 

「ん"ん"ッ…………似合わないよ」

 

「刺さっているように見えたが?」

 

「……少し」

 

 正直かなり良かったが、それを言うと調子に乗ってからかってくるだろうから黙っておく。

 

「……時々言ってやろうか」

 

「子供達の前ではやめてね」

 

 からかい方を一つ学んでしまったようだ。

 櫛を持つ手を止めると、久美子は身体をこちらに向けて振り返り、僕の胸にポンと頭を預けた。

 

 

「……寂しかった?」

 

 その頭を撫でながら尋ねる。

 

「……ああ。寂しかった」

 

 両手を僕の背中に回される。ずっとこうしたかったのかもしれない。

 僕も空いている片手を久美子の背中に回して抱き寄せる。

 

「ひとまずやる事は済んだから、傍にいるよ」

 

「ん……」

 

 きっと、こんな久美子は僕以外は知らないだろう。

 離れていたのは一週間だけだが、されど一週間。傍にいる幸福を知ってしまえば、たとえ短期間でも離れるのは辛いのだ。

 

「久美子は遠距離恋愛とかできなさそうだね」

 

「そうだな……だから、傍にいてくれ……」

 

「……ああ」

 

 

 

 久しぶりの久美子とのキスは、普段よりも強く求めるように熱く濃密で。

 今はただ、この子の心を満たしてあげたくて。

 一線は越えない。けれどそれ以外なら、と。いつもより少し羽目を外したかもしれない。

 僕達以外は誰もいないから、寝室にも向かわずにそのままリビングで遅くまで求め合った。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

「どうして私達を呼んだの?」

 

 夜、なぜか私と雪花だけが杏の部屋に呼ばれていた。

 談話室では皆でゲームしているだろうに、私もそっちに混ざりたい。

 

「お話がありまして」

 

「皆と一緒じゃ駄目なの?」

 

「大事な話なので、口が固くて顔にも出さなそうなお二人に。蓮花さんのことなんですが」

 

「惚れたの?」

 

「いえ、違います。……あ、別に嫌いというわけではないですけど、そういうのじゃないです」

 

 即否定されてしまったれんちゃんが可哀想だが、少しホッとした。

 正座をする杏が真面目な表情で話を続ける。

 

「蓮花さんって、異様じゃないですか?」

 

「強すぎるってこと?」

 

「確かに身体能力が異常だけど」

 

「それもあるんですけど、一旦それは置いておくとして」

 

 それは置いておいていいことなのだろうか。

 

「そもそも、どうして蓮花さんはバーテックスを倒せるのかと。身体能力とかの物理的要因でどうにかなるなら、自衛隊が為す術なく蹂躙されることもなかったでしょう」

 

「……確かに」

 

「私は色々考えました。バーテックスを倒せる勇者にあって、他に無いもの。それは神の力だと思います」

 

 確かに私達の持つ神器や、カムイや海の神の加護を受けている雪花や棗等、形は違えど神の力を借りて戦う。しかし自衛隊の戦車等には神の力はない。

 

「蓮花さんも神の力というか、神性を持ってるって言いたいの?」

 

「おそらく」

 

「……そういえばあの人、コシンプのこと見えてたし警戒されてたっけ」

 

「精霊がれんちゃんを警戒したの?」

 

「うん」

 

 そんなことがあるのか。

 これ以上、この話を続けていいのだろうか。

 知りたくないことに辿り着いてしまう気がする。全て私達の想像でしかないとしても。

 

「神樹がれんちゃんにも加護を与えている可能性は?」

 

「それも考えたんですけど、女性でも子供でもない成人男性にも力を与えられるなら、私達みたいな子供よりアスリートとかに勇者の力を与えたほうがいいじゃないですか」

 

「実際には不可能で、神が力を与えられるのはやっぱり少女だけってことだよね……」

 

「つまり、蓮花さんが持つ神性は他者から与えられたものではないということです。もちろん全て推測でしかありませんけど」

 

 杏が私を見る。私は何も知らないのに。

 

「そこで、蓮花さんと一番長く一緒にいる千景さんをお呼びしたわけです」

 

 

「……何が言いたいの?」

 

 

 

「蓮花さんは、本当に『人』ですか?」

 

 

 

 今まで気にすることもなかった問いを突きつけられる。

 しかし一緒に過ごしてきた時間を振り返るが、何もおかしかったことは思い当たらない。

 

「……彼は人よ。風邪をひくこともあったし、普通に病院で診察を受けていたわ。他人の気持ちもよく理解してくれる。何もおかしいところは無いわ」

 

「そうですか……それならいいんですが」

 

「でも戦闘では人間離れした動きしてるけど」

 

「…………」

 

 それは本当によくわからない。勇者でもあんな動きはおそらくできない。

 けれど、私にとってはれんちゃんが何だって構わない。

 

「もしもれんちゃんが人ではなかったとしても……私にとって彼は大切な存在で、ずっと傍に居続けるわ」

 

「千景さん……」

 

 話は終わりだ。立ち上がり、三人で皆のいる談話室に戻る。

 顔に出さずに、いられるだろうか。




この作品のタイトルって何て略すんだろうか。
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