花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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第69話 桜と最愛

「んん……」

 

「ん、起きたか」

 

「ふあぁ……おはよう……ん?」

 

 目を覚ますと、仰向けで寝ていた僕を久美子が跨いでいた。

 久美子が僕より先に起きていることも珍しくて驚きだが、それよりも……。

 

「……なんで僕は半裸なんだ?」

 

 昨日の夜はちゃんと服を着てから寝たはずだが。なぜパンツしか履いていないのか。

 隣を見ると僕の着ていた服が置いてある。

 顔の向きを元に戻して久美子を見つめると、久美子は目を逸らした。

 

「……ここがこんなに元気になっていたから、ついな」

 

「これは朝の生理現象で健康な証だから放っておいてほしいな」

 

 もう少し目覚めるのが遅かったらどうなっていたのだろうか。

 

「ほら、顔洗って朝ご飯食べよう?」

 

「……続きは夜に」

 

「今夜は千景の部屋に泊まるけど」

 

「そうだった……」

 

 意気消沈している久美子を抱きかかえてリビングに向かった。服は……どうせ着替えるからいいだろう。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

「じゃあ大社と病院に行ってくるから、準備お願いね」

 

「ああ、行ってらっしゃい」

 

「行ってらっしゃーい」

 

「行ってきまーす」

 

 楓さん、琴音さんと共に蓮花を見送り、部屋の中に戻る。

 今日は昨年同様、丸亀城で花見をする。

 蓮花は前回と同じく安芸と花本、そして球子を迎えに行った。球子は医者と相談したところ、脚以外は悪いところは無いから一時的な外出は許可してもらえたらしい。

 

 私達は今から弁当や飲み物、レジャーシート等を持って丸亀城に向かう。

 しかしその前に弁当を完成させなければならない。

 メインのおかずは蓮花が作っていってくれたので、サラダ等は今から作るのだ。

 

「久美子、蓮花がいない間は寂しくて面倒臭い感じになっていたと茉莉から聞いたが、もう大丈夫か?」

 

「ああ、大丈夫。それにしてもあいつ、そんなに話して回っていたのか……」

 

「どうすれば元気づけられるかと相談されたんですよ」

 

「……そうか」

 

 茉莉に知らないところで気を使われていたとは。

 今度骨付鳥でも食べに連れて行ってやるとしよう。

 

 話しながらもそれぞれ手を動かす。

 料理は二人に任せて、私は持っていく荷物を纏めていく。キッチンに大人が三人並んでも邪魔だろう。酒は……よし、買い忘れていないな。

 

「そういえば最近、蓮花と何か進展はあったか?」

 

「進展?……なぜそんなことを聞く」

 

「この歳になると、娘の成長や周りのそういう話しか楽しみが無くてな」

 

「さすがにそれは言い過ぎですよ楓ちゃん。私達はまだ三十代半ばなんですから」

 

 

 楓さんの絡み方がちょっと面倒臭い近所か親戚のおばさんみたいだ。近所のおばさんだから合ってはいるのか。

 

「……これといった進展はない」

 

「ふむ、そうか……。昨夜は二人きりだったんだろう?何もしなかったのか?」

 

「いや、まぁ……色々と……」

 

「楓ちゃん、デリカシーが無いです」

 

「すまん」

 

 弁当以外の荷物は準備し終えてひと息つく。キッチンの様子を見ると、さほど時間はかからなそうだ。

 完成次第丸亀城に行くのは少し早いだろうか。

 いや、早ければ談話室でゲームをするなり誰かの部屋に突撃するなりして時間を潰そう。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

「というわけで来たぞ」

 

「なんでよ」

 

 若葉、ひなたと一緒に部屋のキッチンで弁当のおかずを作っていると、唐突に久美子さんがやってきた。

 

「若葉がキッチンに立っているのを見るのは珍しいな」

 

「クリスマスにお揃いのエプロンを貰ってからは時々料理している」

 

「そしてその度にひなたの被写体になるのよね」

 

「まあ……もう慣れた」

 

 クリスマス以降、私達三人で料理をする時は始める前に撮影から入ることが多い。それでひなたが嬉しそうなので、私達は何も言えない。

 

「そういえば母さん達は?」

 

「談話室にいる」

 

「皆と一緒にいるのね」

 

 昨日は皆で談話室で眠り、朝食も一緒に食べたのでそのまま弁当も作ろうかと思ったが、食材のほとんどが私の部屋の冷蔵庫に入っているため私達だけ部屋に戻ったのだ。

 わざわざこれらを談話室に持っていって料理するのは面倒である。

 

「…………」

 

「……そんなに見られても私達は構ってあげられないけれど」

 

「気にするな」

 

「ずっと見られていたら気になります」

 

 いったい何がしたいのだろうか。私にベッドに腰掛けてずっとこちらを見ている久美子さん。

 

「……お前達はしっかりしているな。私が中1くらいの頃なんて料理なんてできなかったし、もっと好き勝手にやっていた」

 

「今でも結構好き勝手にやっているのでは……」

 

「人生を楽しもうとしていると言え」

 

「あっそ」

 

 久美子さんの子供の頃、か。さぞ両親の手を焼かせたのだろう。

 そういえば前に、久美子さんは香川出身だと言っていたような気がする。

 

「久美子さん、香川出身って言ってなかった?ずっとうちにいるけど、実家に帰らなくていいの?」

 

「今更、別にいいんじゃないか?」

 

「天災から約一年半、娘が帰ってこなければ心配しているんじゃないか?」

 

「久美子さんだって友奈さんや茉莉さんが音信不通になったら心配するでしょう?」

 

「ん……なるほど」

 

「会いに行けるところに親がいるなら、会っておいた方がいいぞ」

 

 そう話す若葉の目は寂しげだ。

 若葉もひなたも、なんならここには家族を亡くした子の方が多い。

 会えるのなら会いたいと、皆思っているのかもしれない。

 

「……そうだな。そのうち、帰ってみるか」

 

「それがいいです」

 

 

 話している間にも調理は進む。れんちゃんが三人を連れて来るまでには間に合いそうだ。

 私はもう、生みの親には興味は無い。今更会いたいとも思わない。

 私の傍にはれんちゃんがいる。それだけで十分だ。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

「いやーいつぶりだっけ丸亀城!」

 

「一年ぶりですね。去年のお花見以来です」

 

「もうあれから一年も経ったんだなー」

 

 球子が座る車椅子を押して丸亀城の門を通る。

 桜は満開とはいかないが、散ってしまう前に帰って来れて良かった。

 少し登っていくと少女達の楽しげな話し声が聞こえてくる。既に準備は出来ているようだ。

 

「皆久しぶり!元気してた?」

 

「あんず、いい子にしてたか?」

 

「真鈴さん!タマっち!」

 

「こんにちは、ご無沙汰しております」

 

「花本さんも元気そうでなによりです」

 

 こうも大人数で集まると言葉が渋滞する。しかしそれが、誰も欠けることなくまた一緒に花見をできることを実感させてくれる。

 

「……嬉しいな」

 

「どうした?突っ立ってないでお前も座れ」

 

「ああ、うん」

 

 しれっと久美子が自分の隣にスペースを空けてくれたのでそこに腰を下ろす。隣には自然と千景がいる。

 

「そういえば花本さんも小学校を卒業よね、おめでとう。お祝いも兼ねてお弁当を豪勢にしたわ」

 

「ああ、千景さんからお祝いの言葉を頂けるなんて……!!今日を祝日としたいです……」

 

「だからこんなに弁当が凄いんだね……」

 

 16人で食べるからというのもあるが、物凄い量と品目である。

 

「タマ唐揚げ食べたい!……どこだ?」

 

「……あった、若葉の前だね」

 

「ああ、取ってやろう。皿を貸してくれ」

 

 レジャーシートもかなり大きいのだが、その上の弁当が占める面積も広く、端の方は届かない。協力が必要だ。

 

「……どうして蕎麦が入った弁当箱があるんだ?」

 

「うどんが入った弁当箱だってあるじゃない!」

 

「香川なんだからいいだろう!?つゆもあるぞ!」

 

「サンクス!……デリシャス!」

 

 

 

 

「……元気だなぁ」

 

「こういう騒がしさは嫌いじゃないわ」

 

 千景も微笑んでいて楽しそうだ。

 そっとスマホのカメラを向けて写真を撮り、それに気づいた千景がこちらを向いた瞬間に再びシャッターを押す。

 

「……凄く撮るわね」

 

「帰ったらプリントしてアルバムに追加しておくね」

 

 千景だけでなく、楽しそうな皆も写真に収めたい。

 既に同じようにスマホを構えている琴音さんとひなたも写真を撮る気満々なのだろう。後で共有してもらおう。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

「……ねぇ球子」

 

「ん?」

 

「あんた本当に入院患者?」

 

 きっと誰もが心の中で安芸さんと同じことを思っただろう。

 あまりにも球子がたくさん食べる。

 

「そうだけど、どうかしたか?」

 

「食べ過ぎでしょ」

 

「病院食は味薄いし少ないから今は食欲が止まらないんだ!」

 

「ほどほどにね……」

 

 あんなにあったお弁当がどんどん減っていく。……まあいいか。足りなければ何か追加で作ればいい。

 とても美味しそうに食べてくれるから、作った側としては満足だ。

 

 

 

「あ、そういえば蓮花さんに言うの忘れてた」

 

「ん?」

 

「ボク、高校入試受かったよ」

 

「ええ!?」

 

 茉莉さんの言葉に驚き立ち上がるれんちゃん。

 私達は昨日の夜に聞いたのだが、れんちゃんはまだ聞いていなかったのか。帰ってきてすぐでタイミングが無かったのかもしれない。

 

「やったじゃん茉莉!!この春から高校生か!!」

 

「うん」

 

「地道に頑張って勉強してきたもんね!よかったよかった」

 

 自分の事のように喜び、茉莉さんの頭をわしゃわしゃ〜っと撫でるれんちゃん。

 髪型が少し崩れているが、茉莉さんもとても嬉しそうなので気にしないでおこう。

 

「皆無事に進学、進級できるな」

 

「そうねぇ、よかった」

 

 4月から茉莉さんが高校一年生で私と棗と安芸さんが中学二年、若葉達が一年生になる。

 

「……ん?棗は沖縄で学校ってどうなっていたの?」

 

「一応授業はあったから問題ない。……多分」

 

「多分?」

 

「春休みが終わったら最初にテストするからな。ちゃんと勉強しておけよ?」

 

 何人かがビクッと身体を震わせた。

 そして球子は何か思いついたように頭の上にビックリマークを浮かべた。

 

「もしかしてタマはテスト受けなくていいのかっ!?」

 

「どうするか……病院にテスト持って行ってやろうか?」

 

「やだ、持って来なくていい」

 

「やだじゃない。まあ最初のテストは免除しても構わないが、ちゃんと入院中も勉強はするんだぞ?遅れたら後で大変だからな」

 

「……わかった」

 

 皆に学年を追いつく為に頑張って勉強していた杏を思い出したのか、案外素直に頷く球子。

 きっと杏の頑張りを傍で見ていたのだろうから、その大変さも理解しているのだろう。

 

 

 広げられた弁当箱を眺めながらだいぶ減ったことに安堵する。

 かなりの量があったから、もし大量に残ったらどうしようかとほんの少しだけ心配していたのだ。

 杞憂に終わって何よりだ。

 空になった弁当箱を片付けていると、隣で久美子さんが横になりれんちゃんの太腿に頭を乗せていた。

 

「もう酔ったの久美子?」

 

「うん……いい感じにふわふわしているぞ……」

 

「そう」

 

 れんちゃんが優しい手つきで久美子さんの髪を撫でる。

 その様子を「またか」「やれやれ」と言いたげな表情で見る者もいれば、興味深そうに見る者もいる。こういう様子を見慣れていない歌野達がそうだ。

 

「今年も白昼堂々とイチャイチャして……」

 

「千景も後でしてあげようか?」

 

「……うん」

 

 今夜は私がれんちゃんを独り占めできるのだと思うと、多少は寛容な気持ちになれた。

 そして何故かひなただけはスマホのカメラを向けていた。

 

「……どうして久美子さんを撮ってるの?」

 

「シラフの時に見せたら何かに使えそうなので」

 

「脅しの材料……ッ!!」

 

 ひなたの微笑みが怖い。

 私も何か弱みを握られていたりしないだろうか。……これだけ長く一緒にいれば、何かしら握られていそうだ。

 

「ひな、脅したりしちゃ駄目だよ?でもそのデータは後で送ってほしい」

 

「了解です」

 

「おいおい」

 

 

 何はともあれ、直前に危機はあったがなんとか乗り越え花見ができてよかった。

 来年も、誰も欠けることなくここで桜を見られたらいいな。

 左手を隣に座るれんちゃんの右手に重ねると、優しく握ってくれる。

 この人がいれば、これから先もきっとなんとかなると、大丈夫だと信じられた。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

「ご馳走様でした」

 

 寮の談話室で夕食を終え、食器を洗う。

 琴音さんと楓さんは既に家に帰り、真鈴と美佳、球子は遅くなってはいけないので夕方には送って行った。

 

「ボクも洗うの手伝おうか?」

 

「ありがとう、でも大丈夫だよ。流し台も広くないし、皆と遊んでていいよ」

 

「わかった」

 

 茉莉は今日も丸亀城に泊まるらしく、久美子も一人で帰るのは嫌だと言ってここにいる。

 

「久美子さんはどこで寝るの?」

 

「そうだな……千景の部屋に泊まるか」

 

「嫌よ、絶ッ対来ないで」

 

「冗談だ。皆で談話室で寝るか」

 

「やったー!」

 

 喜び友奈とは対照的に茉莉は一瞬困り顔をした。

 

「えっ……まあ、ゆうちゃんが喜んでるからいいか」

 

「皆友奈に甘いな」

 

「うちの末っ子みたいなもんだからね」

 

 長女茉莉、次女の千景に三女の友奈。可愛い三姉妹だ。

 

 食器を洗い終えると、それに気がついた千景が立ち上がった。

 

「じゃあ皆、おやすみ。あまり夜更かししてないで早く寝るんだよ?」

 

「よし、徹夜でUNOやるか」

 

「何言ってるの久美子?」

 

「すまん。程々にして寝るよ」

 

 

 千景と共に談話室を出て、千景の部屋に入る。

 浴室の方から浴槽に湯を張る音が聞こえる。夕食後に一時的に部屋に戻っていたが、風呂の準備をしていたようだ。

 

「もうすぐお風呂が沸くけど、すぐに入る?」

 

「そうだね。せっかくだしすぐに入ろう」

 

 着替えを準備して脱衣場に向かう。千景の部屋には僕の私物がいくらか置いてあり、当然泊まる時の着替えもあるのだ。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

「痒いところはございませんか〜」

 

「大丈夫」

 

 一緒に風呂に入るのも久しぶりなので、れんちゃんに髪を洗ってもらうのも久しぶりだ。

 人に洗ってもらうのは気持ちがいい。特にれんちゃんに洗ってもらっていると、とてもリラックスできる。

 

 

 私を洗い終えると場所を交代する。次はれんちゃんを洗うのだ。

 

「背中流すね」

 

「ん」

 

 れんちゃんの背中に触れる。昔も今も変わらず、この背中はとても大きく感じる。私も大きくなったはずだけれど。

 

「凄く、大きい……」

 

「何が?」

 

「背中よ」

 

 背中以外に何があるというのか。

 

 

 

 

 洗い終えて湯船に浸かる。

 縁に背を預けるれんちゃんの脚の間に座り、私はれんちゃんに背を預ける。

 

「一緒にお風呂に入るの、久しぶりね」

 

「というか、千景と二人きりなのも久しぶりだよね」

 

「……そういえばそうね。もっと頻繁に泊まりに来てくれてもいいのに」

 

「……そうだね。もう少し頻度を上げようか」

 

 心の中でガッツポーズをする。私が家に帰っても久美子さん達がいるから、二人きりで過ごすにはれんちゃんに泊まりに来てもらうしかないのだ。

 

 色々話したいことがあったはずだが、考えが纏まらずしばし無言になる。

 シャワーヘッドからホースを伝い滴り落ちる水の音が小さく反響する。

 時間は有限だ。

 私がこの人と二人きりで一番したいことを考える。

 

 ……ただ、触れたい。

 話は離れていても電話でできる。

 触れることは、目の前にいないとできない。

 たくさん触れて、触れられたい。

 

「……ねぇ、れんちゃん」

 

「ん?」

 

「抱き締めても、いいですか……?」

 

「ああ、いいよ。おいで」

 

 振り返ると、両手を広げて受け入れてくれる。

 私の両腕をれんちゃんの首に回し、力いっぱい抱き締める。

 

「……胸が邪魔だわ」

 

「大きいのはいいことじゃない?」

 

「大きいほうが好き?」

 

「まぁ……」

 

 れんちゃんも両手を私の背中に回し、抱き締め返してくれる。

 少し恥ずかしくなってまた無言になる。

 速くなる心臓の鼓動が伝わっていないだろうか。

 

「……何か言ってよ」

 

「ふむ……」

 

 どんな話題が出てくるのだろう。

 少しの静寂の後れんちゃんの口から出てきた言葉は、とても聞き慣れた言葉であり、一番言って欲しい言葉であった。

 

 

「大好きだよ」

 

 

 何度も言われてきた言葉なのに、その度に私の心は満たされる。

 

 

「……私もです」

 

 

「ありがとう、千景」

 

 きっとこの人は、この言葉も親愛だと思っているのだろう。

 けれど、それは違うと言う勇気はまだ私には無くて。

 

 れんちゃんの首筋に唇を当てて強く吸うと、小さな赤い痣ができた。

 キスマークって、これでできているのだろうか。

 

「ん……千景?」

 

「ごめんなさい、痛かった?」

 

「痛くはないけど、どうしたの?」

 

「……なんでもない。ちょっと甘えたいだけ」

 

「そっか」

 

 父親に甘えたくてキスマークをつける娘がどこにいるのかと、少しは疑ってほしいものだ。

 

「そういえばさ」

 

「なに?」

 

「千景は、久美子が嫌い?」

 

 さすがに熱くなってきたので抱き締めていた手を緩め、顔を見て話す。

 れんちゃんは、少し不安そうな表情をしていた。

 

「嫌いというわけじゃないけど、どうして?」

 

「なんか基本的に遠慮が無くない?よく対抗しようとするし」

 

「それは……ちょっと久美子さんには負けたくないことがあるというか」

 

「そう。まあ嫌いじゃないなら、よかった。千景に聞かずに僕が久美子を家に連れて来たから、もし千景がそれで迷惑していたらって思って」

 

 安心したように微笑むれんちゃん。やっぱり私は、貴方の笑顔を見ていたい。

 迷惑しているかと言われると、ちょっと微妙なところではあるかもしれないが。今更追い出すつもりもない。

 

「……貴方は、久美子さんが好き?」

 

 丸亀城での生活が始まってすぐの頃にも聞いたけれど、あれから約一年半が経ったことで何か変わっただろうか。

 

「うん。好きだよ」

 

 いや、二人を見ていれば、若干の変化があったことはわかっている。歳の近い男女が一年半も一緒に暮らしているのだから。

 

「それは……やっぱりなんでもない」

 

「ええ?」

 

 私には、いつも勇気が足りない。

 それは恋なのかと聞いて、もし否定してくれなかったらと思うと、不安で聞けない。

 

 ああ……胸が苦しい。

 好きな人に触れているのに。

 私は今、どんな表情をしているのだろう。

 

 

「今は……私だけを見て、ください……」

 

「……ああ。ずっと見てる」

 

 れんちゃんの首元に顔を埋める。今は顔を見られたくない。

 こんな様子では、れんちゃんに心配させてしまうかもしれない。

 

 ごめんなさい。私には貴方の心を縛る権利なんて無いのに。

 願っても仕方の無い、直接言わなければいけないことかもしれないけれど。

 貴方の最愛を、私にください。




一方、談話室。

「UNO!!」

「+2」

「+2」

「+2」


「ぬああ!!」
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