花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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ここすきされると地味に喜びます。


第70話 お姫様と実家

 目を覚ます。

 少し視線を下げると、僕の溺愛する少女の可愛い寝顔がある。

 千景を抱き締めているととても寝心地が良く、朝は大抵すんなりと目が覚める。

 

 近くにあったスマホの内カメラを起動し、自分の首を確認する。

 昨晩千景につけられたキスマークに触れる。

 これは、どうしようか。

 

「……一応後で絆創膏を貼ろう」

 

 久美子に見られたら一瞬でばれるだろうけど、それは別にいいか。

 昨晩の千景は一体どうしたのだろうか。

 離れていた時間がそんなに寂しかったのだろうか。帰ってきてから今日で三日目だが。

 

「……んぅ…………」

 

 少しもぞもぞと動くが、僕を離そうとはしない千景。まだしばらく起きなさそうだ。

 

「……大丈夫だよ、千景。傍にいるよ」

 

 布団を掛け直し千景の髪を撫でる。

 カーテンの隙間から朝日が細く射し込んでいるが、千景が目を覚ますまではこのままでいるとしよう。

 千景の体温を感じる。胸の鼓動を感じる。

 安らかに、幸せそうに眠っている。

 僕の一番大切なものが、ここにある。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 目が覚めると、いつもの朝とは違い誰かに包まれていた。

 まだ微睡んでいる意識のまま、少し顔を上げる。

 

「あ、おはよう」

 

「……おはよう…………」

 

 そうだ、昨夜はれんちゃんと一緒に寝たのだ。

 抱き合っているこの状況で普通なら意識が冴え渡りそうなものだが、私はれんちゃんといると安心感の方が勝ってしまう。このまま二度寝したら最高に幸せだろう。

 

「まだ眠い?休みだし二度寝してもいいよ?」

 

「……起きる」

 

 正直二度寝もしたいが、せっかく二人きりで過ごせる時間を二度寝で潰してしまうのももったいない。

 ああ……頭では起きたいのに、体は起きようとしてくれない。二人でこのままベッドに入っていたいと動いてくれない。

 

「……洗面所まで連れて行って……」

 

「はいはい、お姫様の仰せのままに」

 

 お姫様抱っこで洗面所まで運ばれる。到着して下ろされそうになるが、れんちゃんの首に両手を回ししがみついて離れない。

 自分で立って顔を洗わなければと頭では思っているのに、それ以上に私は離したくないらしい。自分はこんなに甘えん坊だったのかと少し驚く。

 

「えっと……どうしたらいいんだ?」

 

「……ごめんなさい」

 

「謝らなくていいよ。気が済むまでこのままで構わない」

 

「……私に甘過ぎない?」

 

「今更かい?僕は世界一千景に甘い人間だと自負しているよ」

 

 確かに今更だ。この人は昔から、私の要求にはほぼ応えてくれている。よっぽど無茶なことでない限り、大抵叶えてくれる。……めちゃくちゃ甘やかされて育てられたな。

 

「そろそろ目が覚めてきたか?」

 

「うん……顔洗う」

 

 腕を放し、自分の脚で立つ。しっかり自立しなければ。

 私は一方的に依存した関係より、二人で支え合いたいのだ。なんなられんちゃんにも私に甘えてほしい。

 

 ……この人からすれば、私はまだまだ幼い子供なのだろうか。

 

 

 

 何か成長を示したい、ということで。

 

「朝ご飯は私が作るから、れんちゃんは座ってて」

 

「一緒に作ったほうが早くない?」

 

「それは……そう」

 

 

 

 

 結局一緒に作った。

 よく考えたら料理なんて何年も前からやっているのだ。今更一人でやったところで成長を示せない気がする。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

 朝食を終え、二人でゲームをして過ごす。なんて平和なんだろう。

 最近バタバタしていたから、こういう落ち着いて過ごせる時間の尊さが身に染みる。

 

「そういえばそろそろ皆起きてるかな」

 

「ちょっとゆうちゃんに聞いてみるわ。……返信早、起きてるって」

 

「そっか。じゃあそろそろ談話室に行く?」

 

「……そうね」

 

 少し名残惜しそうにコントローラーを置いて立ち上がる千景。まだゲームしたりないのだろうか。

 

 千景の手を引いて部屋を出ると、綺麗な青空が広がっていた。今日は快晴だ。

 後でどこか出掛けるのもいいかもしれないと思いながら、談話室の扉を開いた。

 

 

 

「うたのんいつものやったげて」

 

「oh 聞きたいの私の武勇伝」

 

「その凄い武勇伝を言ったげて」

 

「私の伝説ベスト10!」

 

「レッツゴー!」

 

 

「農業ハマって桑振るう」

 

「凄い、自給自足で村救う」

 

「「はい武勇伝、武勇伝、武勇伝デンデデンデン」」

 

 

 

「事実なのが普通に凄くて笑えない」

 

「小学生が成せる伝説じゃない」

 

 

 

「は?」

 

 入り口で立ち尽くす僕と千景。どういう状況だ。

 部屋に入った途端、歌野と水都がなんか見たことあるお笑いコンビのネタをやっていた。

 

「あ、おはよう!」

 

「おはよう、何してるの?」

 

 すぐこちらに気がついた友奈に聞いてみる。

 

「さっきテレビでやってたの!」

 

「それを歌野ちゃんが急に水都ちゃんを巻き込んでやりだしたの」

 

「なるほど」

 

「一つだけ?ベストテンは?」

 

「いきなりやったから思いつかなかったわ」

 

「勢いで生きてる女」

 

 巻き込まれたというわりにはノリノリだった気がするが。歌野の影響を大きく受けているな。少し明るくなったのは良いことだと思う。

 

「皆朝ご飯は食べた?」

 

「久美子さん以外は食べました」

 

「なにゆえ」

 

「さっき起きた」

 

「なるほど」

 

 確かに寝起きみたいな髪をしている。軽く手櫛で解いてあげると頭を擦り寄せてくる。猫かな。

 

「……すぅ……」

 

「あ、ほら起きなさい。軽く朝ご飯作るから顔洗ってきな」

 

「ん……」

 

 久美子を立たせると千景が背中を押して洗面所に連れて行った。押し込まれたように見えなくもないが。

 久美子の朝食を用意する為、ひとまず僕はキッチンに立つ。

 そういえば皆が食べた残りの食材とかは無いのだろうか。

 

「皆は何食べたの?」

 

「ピザトースト!」

 

「久美子さんの分も焼いておこうかと思ったんですけど、いつ起きるかわからなくて冷めちゃうかと思いました」

 

「その具は残ってない?」

 

「皆で分けて食べ切った」

 

「そうか」

 

 はて、では何を作ろうか。食パンと卵はある。フレンチトーストだな。

 後は適当にサラダでも作ろう。

 

 卵と牛乳、砂糖をボウルに入れて混ぜ、そこに半分に切った食パンを浸す。

 しばらく浸している間にサラダを作ろう。

 冷蔵庫から野菜やハム等を取り出して包丁で切っていると、後ろからギュッと抱き締められた。この柔らかさは久美子だ。

 

「腹減った」

 

「もうちょいかかるから大人しく待ってて。サラダに入れたいものある?」

 

「ツナマヨ」

 

「了解」

 

 冷蔵庫からツナ缶を取り出し、蓋を開けて油を切る。

 久美子がくっついていて動きにくいが、大人しくしてくれているのでまあ良しとしよう。

 

「久美子さん、邪魔しちゃ駄目でしょう?」

 

「邪魔ッ……して、ないッ……!」

 

「このッ、なんて力……!!」

 

 無理やり引き剥がそうとする千景と、必死でしがみついてくる久美子。

 調理中に危ないな、僕の体幹が強くてよかった。

 

「ていうか久美子さんブラしてないでしょ!?ノーブラで乳押し付けて誘惑するのやめなさいよ!?」

 

「嫌がってないんだから別にいいだろうが!んっ……こら、揉むな千景!」

 

 僕の背中で激しい攻防が繰り広げられている。よし、サラダは完成だ。そろそろトーストを焼いていこう。

 

「今の声、久美子さんから出たのか?」

 

「久美子さんも女の子なんですねぇ」

 

「ここにタマっちがいたら、千景さんに加勢してここぞとばかりに揉もうとしそうですね」

 

「全く動揺していない蓮花さんは何なの?」

 

「今の所、セリフだけ見たら蓮花さんってお母さんだよね」

 

「ああ、おかんだ」

 

 僕はおかんだったのか。

 

「二人とも、火を使うから大人しくしてなさい。久美子、危ないから今は離して」

 

「……わかった」

 

 久美子は素直に僕を離すと、千景に連行されていった。

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、旅行の話はどうなりましたか?」

 

「旅行?」

 

 膝の上のひなたから出た問いに雪花が反応する。

 

「皆の卒業旅行と、親睦を深めるのも兼ねて春休み中に旅行しようって話してたんだ」

 

「へぇー」

 

「でも今は球子が入院してるから、退院してからにしようか。ゴールデンウィークくらいにはできるかな?」

 

 球子だってこの春に卒業、進学なのに置いていくわけにはいかない。

 そして球子はこの前の戦闘でスコーピオンの攻撃から千景を守ってくれたと聞いている。僕は感謝しかない。

 後で見舞いに行くとしよう。何か味が濃いものを持って行ったら喜ぶだろうか。

 

「あ、行きたい場所を考えておいてね」

 

「はーい!」

 

「私徳島ラーメン食べてみたいんだよね」

 

「そういえば徳島出身はここにはいないわね」

 

「確かに」

 

 徳島か。四国で唯一千景を連れて行ったことが無いな。

 しかし僕はあまり徳島には詳しくない。今度少し調べておこう。

 

「ああ出身といえば、蓮花」

 

「ん?」

 

 ちょうどフレンチトースト最後の一口を飲み込んだ久美子。

 何が出身といえばなのだろう。久美子の出身?確か香川だったか?

 

「私は今度、実家に帰ることにした」

 

 

「」

 

 

「れんちゃんが固まっちゃいました」

 

「久美子さん、石化魔法とか使った?」

 

「使ってないが」

 

 

 …………ん?久美子が実家に帰る?確かにそう言ったのか?

 

「……実家に帰る?」

 

「ああ」

 

「……うちから出ていくの?」

 

「いや、少し顔を見せに戻るだけだ」

 

 

 

「なーんだ、びっっくりしたぁ」

 

 さらっと言われて脳が処理落ちしてしまった。

 寧ろ今まで一度も帰っていないのがおかしい。

 

「そうかそうか、そんなに傍にいてほしいのか」

 

「ああ、いてほしい」

 

「っ、そうか……」

 

 久美子には近い将来やってもらいたいことがある。いなくなってしまうと少し困る。

 まあ、それとは別に傍にいてほしい気持ちもあるのは自覚している。

 僕等はもう家族なのだ。できることなら子供達が成長して家を出ていくまで、できるだけ傍にいてあげてほしい。

 

 

「フンスッ!!フンスッ!!」

 

「杏ちゃん、落ち着いて」

 

「伊予島さんどうしたの?」

 

「杏ちゃんはこういうのを見ると興奮しちゃって……」

 

 

 鼻息を荒くしている杏が可愛い。写真を撮ろうかと思ったが手が届く位置にスマホが無い。わざわざひなたを膝から下ろすほどのことでも無いし、諦めよう。

 

「ご両親から連絡とか今までなかったの?」

 

「……実はあった」

 

「えっ」

 

 初耳である。もしかしてたまに久美子のスマホの通知音が鳴っていたのは両親からの連絡だったのか?

 友人等かと思っていたが、よく考えたら今久美子に友人はいるのだろうか。

 

「一応居候していることは伝えてある」

 

「帰ってこいとか言われてないの?」

 

「言われたらそれ以降は無視するようにしている」

 

「おいおい」

 

「久美子さんは、お父さんとお母さんが嫌い?」

 

 千景が久美子に尋ねる。千景は今、実の両親をどう思っているのだろうか。やはり嫌いなのだろうか。それとも、どうでもいい存在なのだろうか。

 千景は、久美子の両親がそういう人なのかもしれないと思ったのだろうか。

 

「別に嫌いじゃない。仲が悪いって訳でもない」

 

「そうなの?ならどうして帰らないの?」

 

「ここの方が居心地がいいからな」

 

 そう言って友奈と茉莉の頭をわしゃわしゃと撫でる久美子。

 撫でられている二人も久美子を拒否することはなく、受け入れているようだ。

 実家よりも居心地がいいと思ってくれるのはとても嬉しいけれど。

 

「ちょっとだけでも顔を見せに帰ってあげればよかったのに」

 

「そうだな……ただ、一度帰ったら『こんな時に人様の家に迷惑をかけるな』とか言って連れ戻される気がする」

 

「ああ、なるほど……天災の後はどこも大変だったもんね」

 

 我が家は被害が無く、大社の支援も受けられる故に比較的すぐに元の生活に戻れたが、多くの家は居候を受け入れられるような状態ではなかっただろう。

 未だに避難所で生活している人もいるくらいだ。

 

「だから、蓮花に頼みがある」

 

「何?」

 

「実家に一緒についてきてほしい」

 

「えっと、どうして?」

 

「家主が大丈夫だと言ってくれたら、私の親も連れ戻そうとはしないだろう」

 

「なるほどね。わかった」

 

 それは確かに直接話した方がいいかもしれない。連れ戻す理由に、迷惑をかけているかもしれないからというのもあるだろうが、未婚の娘を知らない人の家に居候させるのも不安だろう。

 

「で、いつ行くの?」

 

「さあな。気が向いたら」

 

「いつになることやら」

 

 近いうちに行くかのように話していたのに、そういう訳ではないのか。

 もうこちらから連絡してあげた方がいいのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「壁の外に何をしに行くんだ?」

 

 夜、湯船に浸かりリラックスしていると久美子に唐突に問われる。

 僕からこれから平日の午前中は壁の外に出かけるのだ。

 前に千景を泣かせてしまったため、今回は昼間にちゃんと皆に話しておいた。

 

「探し物さ。見つかるかわからないし、無くてもなんとかなるけど」

 

「前に天の神を倒すと言っていたが、それに必要なものか?」

 

「必須ではないけど、あれば使おうかなと」

 

「ふぅん」

 

 僕にもたれていた身を起こして向かい合う久美子。

 その顔はなんというか、少し膨れっ面をしていた。珍しいな、可愛い。

 

「どうしたの?」

 

「これ……」

 

 久美子がこちらに右手を伸ばし、僕の首に触れる。正確には、昨日千景にキスマークをつけられた位置だ。

 

「昨日の夜、千景とやることやったのか?」

 

「やることって何だ。これは……なんか風呂に入ってる時につけられた。甘えたいだけって言ってたけど」

 

「そうか……」

 

「……もしかして嫉妬してる?」

 

「……そうだな。私は嫉妬している」

 

 僕の首に両腕を回し身を寄せてくる久美子。

 耳元に吐息を感じて少しくすぐったい。

 

「久美子は普段からよくつけてくるくせに」

 

「うるさい。……なあ、蓮花」

 

「ん?」

 

「私とお前は……どういう関係なんだ?」

 

 なんだ唐突に。どういう関係か。なぜ改めてそんなことを聞くのか。

 

「家族じゃないの?」

 

「家族、か……」

 

 久美子は少し身を離すと、僕の頬に両手を添えて唇を重ねた。

 

「お前の言う家族は、こんなことをするのか?」

 

「……」

 

「……すまん、忘れてくれ。昨夜お前がいなくて少し寂しかったんだ」

 

「昨日の夜は遅くまでUNOで盛り上がってたって聞いたけど」

 

「チッ」

 

 目を逸らす久美子から小さく舌打ちが聞こえた。

 夜更かししないよう言っておいたはずだが。まぁ、たまにはいいかと大目に見よう。お泊まり会を楽しんだのならなによりだ。

 

「……ねぇ、久美子」

 

「ん?」

 

「お前は、今の関係では不満か?」

 

 静かな空間で二人きり、一度真面目な話をするとなかなか雰囲気は変えられない。

 ならついでにそのまま、不満があれば聞いておこうと思った。それが改善できることなら、したほうがいいだろう。

 

「……不満というほどじゃない。ただ……」

 

「ただ?」

 

「……蓮花は実は私の事が嫌いだったりしないか?」

 

「大好きだが?」

 

 何を言っているんだこの子は。

 

「もしくは、私を女として見れないか?」

 

「めちゃくちゃ見てるけど。なんでそんなふうに思ったの?」

 

「全く私を抱いてくれないから、もしかしたらと」

 

「……なんかごめん」

 

「こうも抱いてもらえないと女としての自信を無くすんだが」

 

「久美子はとても魅力的な女性だよ」

 

 僕はどうしたらいいんだ。今の僕には言葉で取り繕うことしかできない。

 

「久美子って色恋沙汰でこんなに感情が揺れる人だったっけ……」

 

「お前のせいで脆くなったな」

 

「そうなのか……」

 

 昔の久美子が見たら「誰だお前」とか言いそう。

 

「久美子はちょっと僕のことが好き過ぎない?」

 

「……改めて言われると恥ずかしいな」

 

「可愛い」

 

「やめろ」

 

 再び密着し、久美子は僕の首元に顔を隠すように埋める。

 両手でゆっくりと抱き締める。やはり肌を合わせる触れ合いはとても安心する。

 何か脳からホルモンでも出ているのだろうか。僕はそういうことにはあまり詳しくない。

 

「……」

 

「……」

 

 久美子が黙り込んだので僕も黙る。

 何か言った方がいいのだろうか。いや、リラックスしているのならそっとしておくべきか。

 そう思ったが、少し経つと耳元で久美子が口を開いた。

 

「……なあ蓮花」

 

「なに?」

 

「ムラムラしないか?」

 

「……そろそろ出ようか」

 

「お前体は正直なくせに理性が強すぎるだろ」

 

 久美子を抱きかかえたまま湯船から立ち上がり、浴室を出る。

 熱気から解放されて心地よいが、湯冷めしないよう早めにバスタオルで体を拭いていく。

 

「ついでに私も拭いてくれ」

 

「もう介護じゃないか。髪拭いて乾かしてあげるから、自分で体拭いてなさい」

 

 甘えてくれるのは構わない。しかし甘やかすのと介護するのは少し違う気がする。その辺はしっかりしなければ、久美子を駄目人間にしてしまうかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 消灯した寝室、布団に横になった僕は寝る前に少しスマホをいじる。千景達とメッセージでやりとりしているのだ。

 

「あいつらまだ起きているのか」

 

「もうすぐ寝るってさ」

 

 やりとりを終えてスマホを充電器に繋ぎ、掛け布団を掛け直す。

 耳をすませば久美子の向こう側の茉莉の寝息が聞こえる。

 

「久美子も明日仕事でしょ?もう寝よう」

 

「蓮花が発散してくれなかった昂りが冷めてなくて眠れない」

 

「ムラムラして寝れないってか。はぁ……」

 

 一緒に風呂に入るのはやめた方がいいのだろうか。今更やめてくれるだろうか。

 

「とりあえず腕枕してあげようか?抱き締めてあげてたら落ち着いて眠れる?」

 

「落ち着くかはわからないが眠れそう」

 

「ん、おいで」

 

 掛け布団の端を持ち上げると、久美子が身を滑り込ませてくる。もう慣れたものだ。

 

「……襲っていいか?」

 

「駄目、寝なさい」

 

 久美子が眠れるまで、頭を撫でていてあげよう。今までに何度こうやって千景を寝かせたか。

 

「どうしてそう頑なに抱いてくれないのか」

 

「……ごめんな。言えない理由があるんだ」

 

「……そうか」

 

 少し沈んだような久美子の声音に胸が痛む。

 

「でも……」

 

「ん?」

 

「好きだよ、久美子」

 

 千景に似た、久美子の紅い瞳が揺れる。

 お前を嫌いなわけじゃない、否定したいわけじゃないんだと、ちゃんと伝えておきたい。

 この命に代えても守りたい、僕の大切な家族の一人なのだから。

 

「……これだけ愛されていながらそれを疑う、というのが馬鹿らしいことくらい、本当はわかっていた」

 

「不安にさせたのは僕だ。すまない」

 

 頭を撫でていた右手を久美子の頬に添えて唇を重ねる。

 離さないと言わんばかりに、僕の右頬に久美子の左手が添えられる。

 深く長い口づけの後、唇を離すと唾液が糸を引いて橋を架ける。

 

 

「……レン」

 

「ん?」

 

「夜更かししないか?」

 

「明日の仕事に響かない?」

 

「少しだけだから」

 

 体を横向きから仰向けに動かすと、久美子はゆっくりと身を起こし僕に跨り、覆い被さるように両手を僕の頭の横についた。

 大切な人に求められるのは、正直な所とても嬉しいけれど。

 

「……襲わない?」

 

「……襲わない」

 

「なら、まぁ……少しだけだよ?」

 

「ああ、ありがとう」

 

 暗闇の中で微笑んだ久美子は、妖艶な美しさに満ちていた。




藤森繋がり。
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