花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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今更だけど原作とは完全に別物ですね。


第8話 人の繫がり

 平日の昼間、僕達は楓さんに誘われて近所の商店街に来ていた。肉屋に八百屋をはじめ様々な店が立ち並ぶ。ちなみに今日は仕事は休みである。

 

「よく来るの?」

 

「まあそうだな、昔から大体の買い物はここで済ませている」

 

 なるほど、何でも揃うのかな。それは助かる。これからはここで買い物をするようにしようかな。

 

「お、今日は初めて見る顔と一緒かい」

 

「この子達の友達なんだ」

 

 声をかけてくる肉屋のおじさんに返答する楓さん。小さい頃からよく来ているらしいから顔馴染みだろう。

 

「ちーちゃんとれんちゃんです」

 

「郡千景と蓮花です」

 

 ひなたが渾名で紹介してくれたので、一応ちゃんと本名を名乗る。

 

「蓮花さんと千景ちゃんか、よろしくな。コロッケ食べるかい?若葉ちゃんとひなちゃんも」

 

 そう言いながら、売り物らしきコロッケを食べ歩きできるように紙で包み始めるおじさん。

 

「「ありがとうございます!」」

「…いいの?」

「おう、食え食え」

 

 いつもの事なのか、礼を言ってコロッケを受け取る若葉とひなたと、ちょっと困惑しながら受け取る千景。

 

「僕も貰っていいんですか?」

 

「おう、これからお得意様になってくれることを信じて」

 

「あ、はい」

 

 そういうことなら遠慮なくコロッケを受け取る。揚げたてらしく、衣はサクサク、中はホクホクしていて旨い。

 隣でコロッケをかじる千景達も頬が緩んでいる。可愛い。可愛いのが三人並んでいて可愛さのジェットストリームアタックだ。写真撮りたい。

 

「じゃあせっかくだし、晩御飯の材料買っていこうかな」

 

 

 

 肉屋での買い物を済ませ、その後も楓さんに連れられて様々な店に寄りながら商店街を歩き進む。

 

「それにしても色んな店があるんだね」

 

「活気があるだろう」

 

 食材だけでなく服屋や靴屋、本屋に文房具屋、パン屋、和菓子屋など、ここだけで生活できそうだ。

 商店街をゆっくり歩いて見て回るという経験があまり無く、新しいものを発見する子供のようなわくわくした気持ちである。

 

「ここのお肉屋さんに行くといつもコロッケもらえます」

 

「え、いつもなの?」

 

「うん」

 

 頷く若葉。確かに、こんな可愛い子達が来たらたくさん食べさせてあげたくもなる。おじさんおばさん達の気持ちはわかる。

 

「若葉達はこの商店街のアイドル的な何かなのか」

 

「そんな感じかもしれないな」

 

 もしかして千景もそこに仲間入りするのだろうか。今日も色々な店で千景達は何か貰っていた。

 ここでなら、千景はたくさんの人に愛してもらえるかもしれない。

 隣を歩く千景の髪をなんとなく撫でてみると、不思議そうな顔で見上げてくる。

 

「…よかったね」

 

「…?……何が?」

 

「なんでもないよ」

 

 ──────────

 

 商店街での買い物を終えて、私達は乃木家に来ていた。

 昼食を作るため、楓さんとれんちゃんは台所へ、私と若葉とひなたは居間で遊んでいた。

 

「ウノ」

 

「またか!?」

 

 私の手元に残る最後の一枚。今回も勝ちだろう。ちなみにすでに3勝している。今は4周目である。

 

「わたしの番か、ちかげにドロー4だ!色は赤!」

 

「むう…」

 

 渋々山札から4枚のカードを引く。勝利までが遠のいてしまった。

 

「赤ですか…ごめんなさいわかばちゃん、ドロー2」

 

「む、そうか」

 

 若葉が山札からカードを2枚引き、また私の番が回ってくる。手元にあったワイルドカードを場に捨てる。

 

「青」

 

「青ですか…ごめんなさいわかばちゃん、ドロー2」

 

「またか!?」

 

「さっきわたしに4枚引かせた報いよ」

 

 2ターン連続で場に出せずに2枚引く若葉。何事にも報いを。若葉がよく口にする言葉だ。

 

 

 2分後。

 

「あがり」

 

「また負けたぁ…」

 

「ちーちゃんすごく強いです」

 

「ゲームではれんちゃん以外には負けないわ」

 

 4連勝する私であった。

 

 ──────────

 

「昼ご飯できたよー」

 

 昼食のうどんを居間に運ぶ。この家は広い。廊下が長い。こういう時は給食のカートが欲しいものだ。

 

「ウノをしていたのか」

 

「ああ、ちかげに全敗している」

 

 千景の勝利報告を聞きながら皆のうどんを机に並べていく。

 

「昼食ができたかい」

 

 唐突に声がしたほうへ振り向くと、年老いてなお凛々しさを纏うおばあさんが立っていた。もしかしなくても若葉の祖母か。

 

「おや、あんたは千景ちゃんのお父さんかい?」

 

「初めまして、郡蓮花です」

 

「私の母だ」

 

 やはりそうなのか。千景は預けている間に会ったことがあるのだろうけれど、僕は乃木家に入ったのは初めてなので初対面である。

 

「気軽におばあちゃんとでも呼んでおくれ」

 

「じゃあおばあちゃん」

 

「それでいいのか」

 

 物腰の柔らかいおばあちゃんである。しかし乃木の女、きっと怒った時は凄まじいのだろう。

 

「さあ、いつまでも立ってないで、座って食べよう」

 

 広い居間、大きな机の周りに並んで座る。

 若葉はきつねうどん、ひなたはとろろうどん、千景は肉うどん、ちゃんと作り分けている。

 

『いただきます』

 

 皆一斉にうどんを啜る。美味しいものを食べて笑顔の3人が並んでいる姿は、見る者の心を癒すとても幸せな光景だった。

 

 

----------

 

「……」

 

「ほう、なかなかやるねえ」

 

 れんちゃんが木製の盤上に駒を指す。

 昼食後、れんちゃんはおばあちゃんに将棋を挑まれていた。どちらも一進一退、かれこれ十数分続いている。

 

「…すごいなれんかさん、母さんより強いぞ」

 

「そうだな」

 

 あまりにいい勝負をしているので、皆で囲んで行く末を見守っている。

 楓さんとおばあちゃんが将棋をしているところも見たことはある。楓さんも弱くはない、むしろ強いほうだとは思う。しかし、おばあちゃんには数分で負けていた。

 

「王手だよ」

 

「う~む…」

 

 れんちゃんが王手になっている相手の角と自分の玉の間に銀を移動させる。私から見ても、銀を盾にするしか防ぎようがないことはわかる。

 

「まあそうするしかないね」

 

「…長いな」

 

 見ていることに飽きたのか、若葉とひなたが隣でオセロを始めた。

 しかしいつ決着がついてもおかしくないこの勝負、私は目が離せない。

 

 

 

「いやぁ負けちゃった」

 

「こんなに強い若いもんは久々だよ、また時々相手をしておくれ」

 

「ええ、リベンジしますね」

 

 結局、決着がついたのはさらに十分後だった。

 

 ──────────

 

 午後三時、おやつの時間。

 台所を借りて作ったクッキーを皆で食べていると琴音さんがやってきた。

 

「ただいま~」

 

「おかえりなさいお母さん」

 

 何か用事があったとのことで乃木家に預けていたひなたを迎えに来たのだ。

 

「クッキー食べてるの?」

 

「れんちゃんが作ってくれました」

 

「琴音さんもどーぞ」

 

 大量に焼いたチョコチップクッキーが、大皿に山のように積み上がっている。

 

「れんちゃんはお菓子作りもするんですね」

 

「うん、色々作るよ」

 

 クッキーを小さな口で齧りながら尋ねてくる琴音さん。一口は小さいながらもすぐに一つ目を食べ終え、二枚目に手を伸ばす。

 どうやらお気に召したらしい。

 

「例えば何作るんだ?」

 

「プリンとかマフィンとかケーキとか」

 

「そんなの作れるの?」

 

「今度何か作ってあげようか」

 

 千景は何が好きだろうか。千景が喜んでくれるのなら何でもいくらでも作ってあげよう。

 

「れんちゃんはお料理が好きなんですか?」

 

「好きっていうか、得意なだけだよ」

 

「そうなんですか」

 

「そうなのさ」

 

 料理が得意になったのはいつからだろうか。もう憶えていない。

 話しながらも皆手は止めず、山のようにあったクッキーは少しずつ減り続けていく。

 

「得意料理は何ですか?」

 

「ハンバーグかな」

 

 なぜハンバーグが得意料理なのかは正直わからない。自分が作る料理で一番美味しいような気がするだけだ。

 

「…いいな、食べてみたい」

 

「れんちゃんのハンバーグはすごくおいしいの」

 

 若葉が食いついてきた。

 

「じゃあ今度うちに来る?」

 

「行きたいです!」

 

 ひなたも食いついてきた。

 

「いいんですか?」

 

「いいよ、いつもお邪魔させてもらってばかりだし」

 

 二人が家に遊びに来てくれたら、千景も喜ぶだろう。

 その千景を見てみると、嬉しそうにニコニコしている。可愛い。

 

「じゃあ次の土曜日にでも遊びに来てよ。昼ご飯にハンバーグ作ろう

 

「ああ!」

 

「行きます!」

 

 ハンバーグの材料を買っておかないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千景、そろそろ帰ろうか」

 

 日が傾きだした頃、千景に帰宅を提案する。そろそろ帰って夕食の準備をしなければならない。

 

「うん」

 

「もうそんな時間か」

 

「早いですね」

 

 三人が遊んでいたボードゲームを片付け始める。大量に作ったクッキーはとっくに完食されていた。

 

 

 

 

「ただいまー、ん?今日は靴が多いな」

 

 玄関のほうから、戸を開く音と共に知らない男性の声がした。まあ若葉の父だろう、ただいまって言ったし。

 

「おかえり」

 

「ああ。お、千景ちゃんが来ていたのか」

 

 若葉父らしき人が居間に入ってくる。長身でガタイのいい、スーツを着たハンサムな感じの人。

 

「こっちは千景の保護者だ」

 

「保護者」

 

 父ではなく保護者と紹介されてしまった。まあ合ってるが。

 

「郡蓮花です。千景がいつもお世話になってます」

 

「乃木誠司です。こちらこそ若葉がお世話になっています」

 

「わたしはお世話になっているのか?」

 

「そう言うものなんだよ」

 

 誠司さんというらしい。しっかりしていて凛々しい感じは楓さんと似ている気がする。

 

「もうお帰りですか?」

 

「ええ、帰って晩ご飯の準備をしないと。あと敬語じゃなくていいですよ」

 

「そうか、わかった」

 

 なんと順応が早い人だろう。

 

「帰るじゅんびできたよ」

 

 そうこう話しているうちに千景の準備ができたらしい。手提げバッグを持ち立ち上がる。

 

「じゃあ帰ろう、お邪魔しました~」

 

「またね」

 

「ああ、またな」

 

「さようなら、また土曜日に」

 

 手を振り挨拶をする僕と千景に振り返してくれる若葉達。

 

 居間を出て、長い廊下を通り玄関を出る。

 この家でかくれんぼでもしたら楽しそうだなと、年甲斐もないことを思った。

 

 ──────────

 

 今日は乃木家を知る一日となった。両親はどちらもしっかりした感じだが、一つ気になることがある。

 

「若葉の天然は部分はどっちから受け継いだんだろう」

 

 静かな浴室に僕の声が少し響く。

 

「天然?」

 

「どこか抜けてる感じのこと」

 

「ああ」

 

 まだ誠司さんとは顔を合わせただけなので何とも言えない。少しわかったことは、妻の尻に敷かれていそうだと思った。勝手な想像だが。

 

「せっかくなら、土曜日に皆で何かお菓子作りするか。何作りたい?」

 

「簡単なやつ」

 

「じゃあカップケーキでも作るか」

 

 食べるだけなら美味しさを優先するが、作るとなると失敗しないようにお手軽さを優先する。失敗もいい経験にはなるが、それでは皆で食べる分が無くなってしまうかもしれない。

 

「……」

 

「…なに?」

 

 会話が途切れたのでなんとなく向かい合って座る千景を見つめてみる。

 

「……可愛いね」

 

「…そう」

 

「おいで」

 

 手を広げて伸ばす。寄ってきてくれる千景を抱き寄せる。一緒に暮らし始めてまだ三週間ちょっとだが、呼べば来てくれるようになった。

 

 全身で密着する。互いの心臓の鼓動が伝わる。

 こうして抱き締めている時が、千景が生きていることを感じられるこの瞬間が、僕は何よりも幸せなのだ。

 

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