花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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幕間 甘えられる人

「……夢か」

 

 目を開くと、視界の大半を蓮花の首元が占めている。

 私の寝相が良いのか、蓮花の力が強くて抜け出せなかったのか、昨夜抱き合って眠った時の体勢のままだ。

 

「なんて淫夢だ……朝からムラムラする」

 

 とんでもない淫夢を見た。

 私は欲求不満なのだろうか。まあそうだろうな。

 少し顔を上げると、幸せそうに眠る蓮花の寝顔がある。

 

「……気持ち良さそうな寝顔しやがって。こっちの気も知らないで……」

 

 少し体を動かして蓮花を仰向けにする。

 そして邪魔な髪を耳に掛けながら、起こさないようにそっと口づけをした。

 私の髪が少し蓮花の顔に掛かってしまっている。くすぐったくはないだろうか。

 

 

「蓮花……」

 

 

 静かな朝だ。私の呼吸と早くなる心音、そして蓮花の寝息くらいしか感じない。

 

 

 ……ん?蓮花の寝息だけ?茉莉の寝息はどうした。

 

 

 顔の向きを変えて視界をずらすと、布団に横になったまま目を手で覆いながらも指の隙間からこちらを見ている茉莉がいた。

 

 

「……起きていたのか」

 

「もう少し寝たふりしておけばよかった……」

 

 茉莉がゆっくりと身を起こす。まだ目が覚めたばかりだろうか。

 

「起きたら目の前で久美子さんが蓮花さんを襲おうとしててびっくりしたよ」

 

「襲ってない。キスしただけだ」

 

「ふーん。……久美子さんってそんなに優しいキスできるんだね」

 

 十も歳下のガキに感心されているのか?

 

「久美子さんは蓮花さんが大好きだね」

 

「ああ。好きだ」

 

「即答されちゃった」

 

 茉莉の前で今更隠すこともないだろう。

 私は、隣で眠るこの人が堪らなく愛しい。

 

「……そういえば、なあ茉莉」

 

「何?」

 

「お前、性欲の解消はどうしてる?もう高校生なんだからムラムラすることもあるだろう?」

 

「…………そういうことは聞かないでほしいなぁ」

 

 低俗なものを見るような目をこちらに向ける茉莉。

 

「女同士なんだから別にいいだろ」

 

「嫌だよ」

 

「風呂でか?」

 

「追求しないでよ!」

 

 茉莉を揶揄うのは楽しい。しかしやり過ぎて今以上に嫌われると困るので程々にしておこう。

 茉莉の大声に反応したのか蓮花がもぞもぞと少し動く。

 

「……ん…………」

 

「起こしてしまったか」

 

「あっ、ごめんなさい」

 

 薄く目を開いた蓮花と視線が合う。

 髪をそっと撫でてやると気持ち良さそうで、そのまま二度寝してしまいそうだ。今日は休日だから構わないが。

 

「おはよう、蓮花。まだ寝るのか?」

 

「おはよ……僕が最後なんて珍しいな……」

 

「ああ。珍しくお前の寝顔を見ることができた」

 

 寝惚け眼でふわふわと喋る蓮花に対して何か邪な感情が湧き上がるのを感じる。

 ムラムラしているのもあり襲いたくて堪らない。

 

「蓮花さん……久美子さんに襲われる前に起きた方がいいと思うよ」

 

「……」

 

「ん……起きる。茉莉の前でR18な行為はさせない」

 

「二人きりならいいのか?」

 

「……ダメ」

 

 ダメか。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 顔を洗ってリビングに戻ると、なぜか久美子が髪を纏めてキッチンに立っていた。

 

「どうしたの?朝ご飯作ってくれるの?」

 

「いつもは甘えてばかりだから、たまにはな」

 

「気にしなくていいのに」

 

 冷蔵庫を開けて何を作るか思考を巡らせる久美子の様子は、周りから見れば人妻が過ぎる。

 沸き立つ衝動に駆られて、久美子の腕の下から僕の腕を通して後ろから抱き締める。

 鍛えているとはいえ、やはり女性の体だ。

 

「おお、どうした?」

 

「考え事をしてる時の久美子の横顔が良過ぎて。何作ってくれるの?」

 

「そうだな……お好み焼きでいいか?」

 

「朝から結構ガッツリなんだね。いいけど」

 

 久美子が食べたいだけの可能性もあるか。最近してなかったし。

 久美子は必要なものを取り出して冷蔵庫を閉めると、手を僕の手の甲に重ねた。

 

「なんか……後ろから抱き締められるのいいな。包み込まれている感じがする」

 

「そうか」

 

「この様子を杏ちゃんが見たら、鼻息を荒らげて機関車みたいになりそう」

 

「ちょっと見てみたい」

 

 見てみたいけれど、うら若き乙女に鼻息を荒らげさせるのもどうなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ。朝の事で思ったんだが」

 

「朝?」

 

「茉莉に部屋を与えた方がいいんじゃないかと」

 

 お好み焼きを箸で切り分けて口に入れながら久美子の話を聞く。久美子のお好み焼き美味しい。

 しかし部屋とな。そういえば子供部屋とか考えたことがなかった。

 家中が自分の部屋、みたいな感じで今までやってきたと思う。

 

「理由を聞いても?」

 

「学校に通って彼氏ができても、自室が無いと家に連れ込んであれやこれやできないだろう」

 

「ンブフッ」

 

 咀嚼し飲み込もうとしたお好み焼きが逆流しかけた。

 茉莉が、彼氏を、連れ込んで、あれやこれや……?

 

「茉莉に、彼氏……?」

 

「女子高生なら恋愛くらいするだろ」

 

「高校時代何も無かった久美子が言っても説得力無いけど」

 

「今してるからいいんだよ」

 

「ていうか一応聞くけどあれやこれやって何?」

 

「そりゃ【ピ──】とか【ズキューン】とか」

 

「茉莉の前で聞くんじゃなかった……」

 

 茉莉を見ると少し気まずそうにお茶を飲んでいた。

 

「茉莉に限らず、年頃の女の子にプライベートな空間は必要じゃないか?」

 

「それは、そうかも。でも一人一部屋は無理だよ?足りないし」

 

「ボクとゆうちゃんと千景ちゃんで共用の一部屋でも十分だよ」

 

「わかった。後で千景達も交えて相談しよう」

 

 今日もいつも通り丸亀城に行くつもりだったし、ちょうどいいだろう。

 朝食を終え、食器を洗う為に立ち上がる。

 しかしふと、これは言っておかなければと思ったことを茉莉に向けて口にする。

 

「茉莉。もし、もしも…………彼氏ができたら、一度家に連れて来なさい……」

 

「何処ぞの馬の骨とも知れん奴にうちの茉莉はやらん!!ってやるのか?」

 

「うん」

 

「それは、嫌かな……」

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

「という訳なんだけど」

 

「なるほど、部屋……」

 

 そういえば自室とか無かったな、とれんちゃん達のコーヒーを入れながら思う。別に今まで困らなかったが。

 

「空けるなら寝室かリビング横の和室なんだけど、どっちがいいかな」

 

「和室の方が広くていいんじゃないか?」

 

「そうね。コーヒーどうぞ」

 

「ありがとう」

 

「その部屋で三人で寝るわけだし、棚とかも置くし、広い方がいいね」

 

 私とゆうちゃんと茉莉さんの三人で寝る。毎日お泊まり会のようで楽しそうだ。

 しかし、膝の上にゆうちゃんを乗せてコーヒーを飲む久美子さんを見てふと思った。

 

「……それは久美子さんとれんちゃんが二人で寝るようになるということ?」

 

「結果的にはそうなるな」

 

「謀ったわね!?」

 

「いやいや、お前達にプライベートな空間を与える為だ。仕方ない」

 

 この女ッッ!!

 コーヒーに砂糖と間違えて塩を入れてやればよかったと少し後悔する。

 私が家にいたら毎晩一緒に寝て二人きりを阻止してやれるのに……かくなる上は茉莉さんに頼むしか……!!

 

「茉莉さん、お願いがあるの……」

 

「ボクにお願い?」

 

「れんちゃんと寝てください……」

 

「え?あ、うん。時々は一人で寝たいけど」

 

「……僕が丸亀城に住み着けば解決するのでは?」

 

「それだわ」

 

「ダメに決まってるだろ。家主が出ていってどうする」

 

「ダメか。まあそれはともかく、帰ったら和室を片付けて空けるね。物は少ないからすぐ空くよ」

 

 この話はこれで一段落、といった様子でコーヒーを飲むれんちゃん。

 残っていたコーヒーを飲み干すと、テーブルにコップを置いて立ち上がった。

 

「そういえば来た時、寮の前で歌野が若葉に鍬の振り方を教えていたけど、まだやってるか見てくるね」

 

「そんなことしていたの?行ってらっしゃい」

 

 まだ畑は用意されていないのに、気が早い子達だ。

 部屋を出ていくれんちゃんの後ろ姿を見送った。

 

 

 

「もうすぐ春休みは終わるが、テストは大丈夫そうか?友奈」

 

「えっ、私!?」

 

「お前しかいないだろ。千景は成績優秀だし、茉莉は……入学してすぐテストあるのか?」

 

「あるよ」

 

「そうか、頑張れよ。まあ大丈夫だろう、心配はしていない」

 

 そうだ、最近忘れかけていたがこの人は私達の担任教師だった。

 

「……ねえ久美子さんっ」

 

「ん?」

 

「何かイベントしたいな!」

 

 無理やり話題を方向転換しようとするゆうちゃん。

 強引すぎて茉莉さんも苦笑いだ。

 

「時間は確保してやってもいいからお前達で案を出してくれ。そして友奈は勉強を頑張れ」

 

「はぁい……」

 

 ゆうちゃんは勉強が好きや得意では無くとも、努力はできる子だ。きっと大丈夫だろう。

 

「…………あ」

 

「ちーちゃんどうしたの?」

 

「さっきの話だけど、名案を思いついたわ」

 

「イベントか?」

 

「違う、寝る部屋の話よ。久美子さんが丸亀城で寝泊まりすればいいんじゃない?」

 

 久美子さんはどちらかといえば丸亀城を管理している側だろうし、泊まり込んでもいいんじゃないか。通勤時間も0にできるし。

 

「嫌だ」

 

「朝ギリギリまで寝ていられるし食堂があるから料理しなくて済むのよ?」

 

「嫌だ」

 

 断固として否定される。

 

「……そんなにれんちゃんと一緒がいいの?」

 

「ああ。傍にいたい」

 

「わぁ」

 

「……」

 

 どうしてそんなに真っ直ぐと想いを言えるのだろう。

 私なんて、ずっと伝えられないままなのに。

 

「私は、久美子さんが羨ましい」

 

「……私は千景が羨ましいんだかな」

 

「どうしてよ」

 

「あいつの心の真ん中にはいつも千景がいる。そんな気がする」

 

「え……?」

 

「私と二人でいる時でさえ、時々お前の話を出すんだぞ。二人きりの時くらい私だけを見ろと言いたい」

 

 やれやれと言いたげな様子でベッドの縁にもたれる久美子さん。

 こんな様子の久美子さんを見ることなんて珍しく、なんと返せばいいのか考えを巡らせる。

 すると、外からドタドタと足音が聞こえ、部屋のドアが少し強めにノックされた音がした。

 

「えっ、何事!?」

 

 急いでドアを開けに向かうと、そこには息を荒げた杏が立っていた。

 

「恋の波動を感じました!!震源地はここですか!?」

 

 

「え、怖」

 

 何か杏にしかわからないものを感じ取ったのだろうか。

 これを部屋に入れていいものかと少し迷っていると、後ろから久美子さんが出てきた。

 

「どこか行くの?」

 

「見に行ったっきり帰ってこない蓮花のところに」

 

「……私も見に行こうかしら」

 

「じゃあ私もついていきますっ!!」

 

 杏が仲間に加わった。

 

 

 

「ナイスなフォームだわ蓮花さん!」

 

「ちょっと鍬を振っていた時期があってね」

 

 寮の前に出てみると、れんちゃんも一緒になって鍬を振っていた。

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

「じゃあそろそろ帰るね。途中で球子の様子を見に病院に寄ろう」

 

「そう」

 

「新しい学年の教材を渡しに行かなければな」

 

 午後四時前になり、帰り支度をする。

 もう少しいたいところではあるが、明日も来るしまあいいか。

 病院とスーパーに寄って帰らなければ。

 

「あ、そうだ。帰る前に千景を吸いたい」

 

「いいけど吸うって何?」

 

「言葉通りだよ」

 

 千景を後ろから抱き締め、その艶やかな長い黒髪に顔を埋めて深呼吸する。

 千景の匂いに満たされてとても心が安らいでいく。

 

「…………幸せ……」

 

「そ、そう。少し恥ずかしいけれど、幸せなら良かったわ」

 

「千景ちゃんは猫か何かなの?」

 

 癒しを与えてくれるという点では共通している。

 

「ありがとう。皆また明日ね」

 

「ばいばーい」

 

「さようならぁ」

 

 三人に手を振って寮を出る。

 春になったことで最近は日が落ちるのも遅くなってきた。

 もう少しすると夕焼けが眩しくなってくるだろう。

 

「そういえばなんで杏がいたんだろう」

 

「なんか……急に来た」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。夕食で使った食器を洗い終えて乾燥機に入れる。

 既に入浴は済ませたので後は寝るだけだ。

 リビングでは久美子がソファでくつろぎながらボーッとテレビを眺めている。

 そして茉莉は既に自室に篭っている。今日は一人で寝たいらしい。

 

「茉莉、もう寝たのかな。部屋に籠るの早かったね」

 

「部屋を貰えて嬉しいんだろ」

 

「久美子に干渉されない空間が欲しかったのかな」

 

「傷つくぞ」

 

「ごめん」

 

 千景は自室があったら遅くまで夜更かししてゲームしてるんだろうな。視力が少し心配である。ブルーライトカットの眼鏡とかあった方がいいだろうか。

 ……千景に眼鏡、可愛いだろうな。

 

「久美子は視力いいの?」

 

「まあ普通だな。眼鏡やコンタクトが必要な程じゃない」

 

「そっか」

 

「どうして急にそんなことを?」

 

「千景に眼鏡似合いそうだなと思って」

 

「……」

 

「久美子はまだ寝ないの?」

 

「まだ早くないか?」

 

「寝る子は育つよ」

 

「そんな歳じゃない」

 

「でも起きててもすること無くない?」

 

「ふむ……」

 

 久美子は少し考えた後、座り直して自分の太腿をポンポンと軽く叩いた。

 

「ん」

 

「ん?」

 

「耳かきしてやるから頭乗せろ」

 

「ああ、そういうことか」

 

 言われるがまま、ソファの上に寝転んで久美子の太腿に頭を乗せる。

 

「少し前にひなにしてもらったから、そんなに汚れてないと思うけど」

 

「なぜひなたに」

 

「あの子がやりたがったから」

 

 ひなたはよく耳かきをしたがる。趣味なのだろうか。

 ゆっくりと左耳に耳かき棒が入ってくる。そして優しくかいてくれる。

 耳掃除をするというよりは、ただ癒そうとしている感じだ。

 

「……上手くなったね」

 

「ならよかった」

 

「途中で寝たらごめん」

 

 心地よい耳の刺激に少しずつ眠気が増していく。何か話していないと寝落ちてしまいそうだ。

 

「……最近の久美子は大人しいね。そのうち爆発して何かやらかさないか心配」

 

「最近は新しく面白い奴らが増えてあまり退屈していないぞ」

 

「そっか」

 

 個性豊かなメンバーだから退屈しないのは同意する。

 

「そういえば壁の外は今、どんな風になっていたんだ?」

 

「壁の外?えっとね……」

 

 結構な地獄絵図なのであまり思い出したくないが、聞かれたからには答えよう。

 

「建造物が色々崩れてるのは前から変わってない」

 

「うん」

 

「そこら中に腐敗した人体の一部が転がってて、臭いがやばい」

 

「ほう」

 

「地下とかに入ってみると、人間同士で食料とかを奪い合って争った痕跡があったりした」

 

「……なるほど」

 

「この話はこれでおしまい」

 

「そうか」

 

 嫌なものを思い出してしまった。別の話題に頭の中を切り替えたい。

 何を話そうかと考えていると、優しく耳に吹きかけられた吐息にビクッと体が少し反応してしまう。

 

「ねぇ、久美子」

 

「ん?」

 

「僕は千景に甘過ぎると思う?」

 

「思う。我儘なクソガキにならなかったのが不思議なくらいだ」

 

「たくさん愛して育てたからね。それに、千景は元々良い子だった」

 

「……」

 

 今まで千景を叱ったことがあっただろうか。いや、なかった気がする。

 僕に迷惑をかけないようにしてくれていたのだろうか。

 それと比べると久美子に対しては強気だ。言いたい事は遠慮なく言う。

 

「千景は久美子と一緒にいるとたくましくなるね。良い事だ」

 

「良い事か?」

 

「うん。これからも傍にいてあげてほしい」

 

「千景はそれを望まないんじゃないか」

 

「……なんだかんだ楽しくやっていけるんじゃない?」

 

 自分の意見をはっきり言えるしっかりした子になりそうだ。

 

「そろそろ反対やるか。向きを変えろ」

 

「ん」

 

 ごろんと寝返り久美子の方を向く。そして右耳に耳かき棒を受け入れる。

 

「私のことも、もっと甘やかしてくれていいんだぞ?」

 

「だいぶ甘やかしてると思うけど」

 

 これ以上どうしろと言うのか。

 

「烏丸さんちの久美子ちゃんはどうしてほしいのかな」

 

「もう郡さんちの久美子ちゃんでいいだろ」

 

「まだ早い」

 

「……まだ?」

 

「言葉選びを間違えた。気にしないで」

 

『まだこの家に来て一年半しか経っていない』という意味で言ったつもりだが、これでは違う意味にも捉えられてしまう。

 睡魔で頭が回らなくなってきている。

 

「我慢せず寝ていいぞ」

 

「ここで寝たら久美子が困るでしょ?」

 

「頑張って布団まで運ん……無理かもしれない。先に布団に移動してから続きをするか」

 

「そうだね」

 

 一度身を起こして寝室に向かう。

 布団の上に正座した久美子の太腿に再び頭を乗せる。

 千景やひなたに膝枕をしてもらうのは重くないか心配になるが、大人の女性の膝枕はとても安心する。

 

「……もう耳かきされなくても寝落ちしそう」

 

「そうか」

 

 そっと頭を撫でられる。その優しい手つきにとても安らぎ、だんだん瞼が重くなっていく。

 誰かに甘えてもらうことは多いが、甘えることはほとんど無い。甘えられる相手が歳の近い久美子くらいしかいないから。

 千景には甘えてほしいけれど、千景に甘えることはできない。千景の前では立派な父親のような存在でありたい。

 誰かに甘えることの心地良さに、僕の意識はあっという間に落ちていく。

 

「おやすみ、蓮花」

 

 

 

「おやすみ……久美子……」

 

 

 

 微睡み薄れていく意識を手放す直前、唇に柔らかい感触を感じた。

 よく知っているけれど、それが何かを判断する意識はもう残っていなかった。

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