花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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ゆゆゆい下巻が発売して以降公式からの供給が無くなって寂しいです。
久美子と茉莉の誕生日とCVは永遠に闇の中……。


第72話 冷めない熱

 昼過ぎ、缶ビールとコンビニの唐揚げが入ったビニール袋を片手に大社の廊下を歩いていく。

 やがて目的の部屋の前で立ち止まり、扉をノックしてから中に入る。

 

「お疲れ久美子さん」

 

「蓮花か。ノックしてから返事を待たずに入るとは、お前じゃなかったらどついていたぞ」

 

「これは失礼。差し入れだよ、我に感謝すると良い」

 

 事務机で仕事をしていた久美子に対してビニール袋を掲げる。

 

「あーめちゃくちゃ感謝してるよ。ビールだろ?冷蔵庫に入れておいてくれ」

 

「唐揚げもあるけど、一緒に入れとく?」

 

「……じゃあ唐揚げは今食べる」

 

 ビニール袋から缶ビールだけ取り出して冷蔵庫に仕舞い、唐揚げを久美子に手渡す。やはり揚げたてに食べた方が美味しい。さすがに勤務中に飲酒はしないらしい。

 

「あいつらは元気か?」

 

「もちろん。若いっていいね」

 

「おっさんか」

 

「君よりは若いよ」

 

「そんなに変わらないだろ」

 

 爪楊枝で唐揚げを食べる久美子と軽口を叩く。歳の近い友人は気を遣わなくていい。

 

「そうだ蓮花、今夜暇か?」

 

「暇だけど、何?夜のお誘い?僕等そんな関係じゃないよね」

 

「そうじゃない、一緒に晩飯でもどうかと思ってな。久々に焼肉食べたいんだ。奢るぞ?」

 

「行きます。やっぱり人の金で食べる焼肉が一番美味いからね」

 

「わかるけど奢ってもらう相手に対して言うもんじゃないぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……すぅ……………すぅ……………」

 

「え、寝た?奢ってくれるんじゃないの?」

 

 焼肉を食べ始めて数十分後、正面に座る久美子は酔い潰れて眠ってしまった。

 規則的な寝息からして本当に寝たらしい。寝たフリをして僕に奢らせようとしているわけではないようだ。

 

「……仕方ない。今は払っておいて、今度返してもらおう」

 

 もう結構食べたし、久美子も寝たし、終わりにしていいだろう。

 レジにて会計を済ませた後、久美子を背負って店を出た。

 

「ほら帰るよ久美子さん。寮まで送るから」

 

「……んん…………」

 

 タクシーを呼んで大社まで運んでもらい、そこからまた久美子を背負って職員寮まで歩く。

 久美子の部屋の前に到着し、一旦久美子を降ろす。

 

「久美子さん、着いたよ。部屋の鍵は?」

 

「ん……ポケットの中……」

 

 目を擦りながらこちらに差し出された鍵を受け取り、扉を開けて中に入る。

 

「お邪魔します。……え、きたな」

 

 部屋の中はとてもごちゃごちゃしており、出せていないゴミ袋も部屋の隅に置かれていた。

 ひとまず久美子をベッドに寝かせる。

 さすがにこれを放置して帰るのも如何なものか。

 

「……ちょっとだけ部屋を片付けてから帰るね」

 

「…蓮花……」

 

「なに?」

 

「ん……」

 

 まだ寝ぼけていそうな目を薄らと開けて、久美子が右腕だけ上げて僕を手招きする。

 久美子に近づいてしゃがむと、久美子は伸ばした腕で僕を引き寄せベッドの上に連れ込んだ。

 勢い余って倒れ込まないように反射で手をつくと、久美子に覆い被さる体勢になった。

 

「…このまま泊まっていけ……」

 

「……しょうがないな」

 

 今日は帰らないことを一応連絡する為にスマホを取り出し、ひなたにメッセージを送る。

 送信が完了したことを確認してスマホを置き、僕は部屋の明かりを消した。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

「ん……」

 

 目を開くと視界に映るのは見慣れた我が家の天井で、隣で久美子が眠っている。

 とても懐かしい夢を見た。

 あれは確か2018年の年末で、千景と一緒にゲームをするようになる少し前だったか。

 あの頃はまだ、すぐそこに待ち受けている辛い運命なんて知らなかった。当時の僕には情報が無かった。

 しかし、今はある。そして既にそんな運命は回避できた、ように思う。

 後は天の神を倒して、地上に残ったバーテックスを殲滅すれば、僕の役目は終わりだ。

 そこから先の子供達の事は、久美子に任せる。

 

 僕の左腕を枕にして眠る久美子。その黒髪を撫でていると、腕枕どころか抱き枕にされて放してくれない。

 

「ごめんね、朝ご飯作るから」

 

 なんとか抜け出して立ち上がり、顔を洗う為に洗面所に向かった。

 久美子を起こすのは朝食ができてからでいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「行ってらっしゃい」

 

「「行ってきます」」

 

 玄関にて茉莉と久美子を見送り、キッチンに戻り使った食器を洗う。

 それが終わると、ちょうど止まった洗濯機から洗濯物を取り出してベランダで干していく。

 

 一通りの家事を終えると、僕も外出の準備をする。

 今日の夕食のメニューを考えながら、僕は家を出て瀬戸大橋へ向かった。

 

 

 

 

 

 

「ここも駄目か……」

 

 本州のとある神社にて、たくさんの死体を見つけた。

 そしてその先頭には若葉達のような年齢の少女の死体と、破壊された神器の残骸が落ちていた。

 

 偶然化け物と戦う力を手にして、逃げて集まってきた人々の前に立って守ろうとしたか、それとも守れと強要され先頭に立たされたか。

 

 突然力を得たからといって、恐れず化け物に立ち向かえる子供なんてそうそういない。

 神器が与えてくれるのは戦闘能力であって、精神的な強さではないから。

 

 既に同じような光景を何度か目にした。

 日本中で、若葉達の他にも勇者に覚醒した少女はそれなりにいたようだ。

 しかし必ずしも、傍に巫女もいた訳では無いだろう。

 戦う力を得ても、巫女の導きが無ければ安全な場所がわからない。

 途中で力尽きた子もいただろう。

 目の前で一人でも死ねば恐怖で身体が動かなくなってしまった子もいただろう。

 

 巫女とて、大社にいるだけでも数十人はいるのだから、おそらく勇者より多く覚醒したのだろう。

 そしてそのほとんどは、勇者が近くにおらず一般人と共に殺されたのだろう。

 

 精霊と意思疎通ができた雪花や、ペロという相棒がいたことで精神的にも肉体的にも強かった棗は例外として。

 

 

 

 近頃、僕は午前中にこうして各地の神社を回っている。

 破壊されていない、もしくはそもそも目覚めていない神器を探しているのだ。

 素手で天の神に挑んでも別に構わないが、使える武器があるに越したことはないだろう。

 

 行く先々で、千景達と同じ年頃の子供の死体を目にする。

 顔も名前も知らないけれど、なかなかに精神的にくるものがある。

 守れなくてごめんね、と思うのは傲慢だろう。

 せめて安らかに眠ることを祈るしか僕にはできない。

 

 曇り空を見上げていると、やがて雨が降り始めた。通り雨という様子でもなく、長く降り続きそうだ。

 

「……今日はそろそろ帰ろう」

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

「それでは美術の授業を始める」

 

 

「やっとか!」

 

「初めてですね」

 

 

「初めてなんだ……」

 

 教室の後方で、楓さん、琴音さんと共にスマホのカメラを構えて撮影する。

 4月末の土曜日、僕達は丸亀城の教室に来ていた。今日は授業参観だ。

 ちなみに先日球子が退院し、丸亀城に帰って来ている。

 

「私は絵が下手だから、今日は茉莉を講師に招いている」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

「横手先生ー!!」

 

 烏丸先生の横に茉莉が立っている。見慣れたメンバーばかりだが緊張しているようだ。可愛いのでしっかりカメラに収めなければ。

 

「なんか後ろにめちゃくちゃ笑顔の奴がいるな。子供の授業参観に来て見せる笑顔じゃないだろ」

 

「え?……ちょっと面白いから後ろを向けないな」

 

「釣られて笑っちゃいますね」

 

 今の僕はそんなに面白いほど笑顔なのだろうか。チラチラ振り向いてこちらを見てくる千景が可愛くてさらに笑顔になる。

 

「じゃあ茉莉、後は任せた」

 

「え?あ、はい」

 

 そう言うと久美子は教室の隅にある事務椅子に腰を下ろした。

 フリーダムすぎる。

 

「美術の授業をするということでボクが呼ばれたんだけど、美術はまだ一度もやってないとのことなので、最初の基礎からやっていきます」

 

 茉莉は黒のマジックペンを手に取ると、ホワイトボードに線を描き始めた。縦、横、斜めと線を交差させていく。

 黒板を使わないのはチョークで汚れるのが嫌だかららしい。

 

「こんなふうに、複数の直線を交差させて明暗や奥行を表現する技法をクロスハッチングと言います。狭い間隔で線をたくさん描くと色が濃く、見える…よね?」

 

「見える!」

 

「ありがとうゆうちゃん。今日はこれを使って、皆に簡単なデッサンをしてもらいます」

 

 説明を短く終えると、茉莉は皆に鉛筆とスケッチブックと半分に切ったラップの芯を配っていく。とてもシンプルな円筒で描きやすいだろう。

 何かに使うかもしれないと思い貯めていたラップの芯(七本)が役に立つ時が来た。

 

「この円筒を描いてもらうんだけど、一つ注意点として、陰影を塗る時は曲線を使わないこと。クロスハッチングで塗ってね」

 

「なるほど」

 

「わかりました」

 

 各々鉛筆を手に、デッサンを始めていく。

 やがて久美子は立ち上がり、軽く見回った後に僕の隣のパイプ椅子に座った。

 

「こっちにいていいの?」

 

「まあ、黙々と作業しているからする事が無くてな。一緒に写真でも撮ろうかと」

 

「そっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼になり、今日は皆が集まっているので食堂ではなく寮の談話室で昼食を食べることになった。

 先程から、僕が具材を作っている横で琴音さんが大量のうどんを茹でている。十五人分だから相当な量だ。

 

「そういえば久美子さんは?」

 

「ちょっとお仕事。もう少ししたら来るよ」

 

 楓さんは若葉達と共にテーブルの上を片付けや飲み物の準備をしている。

 

「授業はいつもあんな感じなのか?」

 

「まあそうだな。今日は茉莉さんに頼っていたが」

 

「違う学年が一つの教室に集まっているのもあって、基本的には自習しつつ、わからないところは質問に答えてくれたり、要点は黒板を使って説明したり、といった感じですね」

 

「そうか」

 

 若葉とひなたの話を聞き、なるほどといった様子で頷く楓さん。

 

「今日の授業参観で久美子を担任として頼りなく感じた?」

 

「いや、確かに自由過ぎる気もしたが、特殊な環境だが子供達は伸び伸びと過ごせているんだなと改めて感じた。担任が久美子でよかったよ」

 

「うん」

 

 本人も自由だがそれは生徒に対しても同じで、細かいルールを作らず生徒の自主性に任せている。教え子達への信頼を感じる。

 

「ちょくちょくからかってくるけれど」

 

「愛されている証拠だよ」

 

「本当かしら……」

 

 

 

 

 それぞれの具が完成しうどんも全て茹で終えた頃、談話室の扉が開き久美子が帰ってきた。

 

「腹が減った」

 

「良いタイミングだ、今から昼ご飯だよ」

 

「よし」

 

 今からとは言ったが、注文の具ができた子から先に食べている。

 最後のうどんをテーブルに運び千景の隣に腰を下ろすと、久美子も自然と僕の隣に並んだ。

 

 

「しかし、雪花はファッションデザイナー云々聞いていたから想像していたが、千景も絵が上手いんだな」

 

「千景は芸達者なんだ」

 

「千景なら絵しりとりが成立しそうだ」

 

「久美子さん以外は皆成立するよ」

 

「久美子さんそんなに下手なの?」

 

「うさぎと言い張ったあの謎の怪獣を見せてあげたい。写真撮っておけばよかった」

 

「そんなもの撮らなくていい」

 

 あの時の紙は捨ててしまったんだろうか。家に帰ったら探してみるか。

 話しながらも皆の箸は止まらない。うどんを前にした香川県民の箸は暴走機関車だ。

 

「そういえばもうすぐゴールデンウィークだな」

 

 しっかり食べ終えた若葉が口を開く。

 

「旅行だ!」

 

「後でおやつ買いに行こう!」

 

「蕎麦はおやつに入るかしら!?」

 

「うどんが入るんだし蕎麦も入るんじゃないか?」

 

「……香川県民にとってうどんはおやつなのか」

 

「私もカップラーメン持っていこうかな」

 

「それどこで食べるの?」

 

 旅行を前にテンションが上がる子供達を見ているととても癒される。しかしうどんはおやつなのか。

 皆の食べ終えた食器を集め、キッチンに運び洗っていく。

 

「久美子さんはこの後もお仕事?」

 

「ああ」

 

「そっか。じゃあ文房具屋はまた今度でいいよ」

 

「そうしてくれ」

 

 

 

「文房具屋?」

 

「今日の報酬でな、授業をする代わりに文房具屋で何でも一つ買ってやる約束なんだ」

 

「そんな約束してたんだ。欲しいものがあるなら僕に言ってくれたら買ってあげるのに」

 

「お前は甘やかしすぎるから駄目だ」

 

 駄目か。

 洗った食器を乾燥機に入れて起動する。

 久美子はもう仕事に戻るらしく立ち上がった。

 

「今日は夕方までには終わると思う」

 

「じゃあここで待っていようか?終わったら一緒に帰ろう」

 

「わかった。じゃあまた後で」

 

 談話室を出ていく久美子を見送り、財布とスマホがポケットにあることを確認する。

 

「さて、皆でおやつを買いに行こうか」

 

「はーい」

 

「ボクも買っていいの?」

 

「もちろん。好きなだけ買いなさい」

 

「れんちゃんはよっぽど高い物でなければ本当にいくらでも買ってくれるから、こっちが遠慮しないといけないのよね」

 

「わかります」

 

「えっと……なんかごめんよ?」

 

 ふむ。好きなだけ買ってあげるより、久美子のように数や金額で制限を設けた方がいいのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ、そこ……あっ……」

 

「……」

 

 入浴後、僕は寝室で久美子に頼まれマッサージをしていた。

 元々僕が授業参観をしてほしいと言い出したことで久美子が休日出勤することになったので、こうして労っているのだ。

 うつ伏せに寝転ぶ久美子に跨り、肩甲骨周りを指で押したり揉みほぐしたりしている。

 

「ねぇ久美子、デスクワークの後ストレッチとかしてる?」

 

「していないな……」

 

「だからこんなに凝ってるんだね。しっかりほぐしてあげる」

 

「んぁ……お前友奈みたいにマッサージが上手いな……教えてもらったのか……?」

 

「ああ」

 

 もう何年前に教わったか忘れたけれど、しっかり友奈のゴッドハンドは身についている。

 

「ああぁ……もう少し下も頼む……」

 

「イエッサー」

 

 少しずつ下に降りていきながら背中を指で押していく。

 

「おお……気持ちいぃ……あぁそこぉ……あっ///」

 

「喘ぐのはいいけど部屋に篭ってる茉莉に聞こえるほどの大声は出さないでね?普通に近所迷惑にもなるし」

 

 今日は一人でも寝ると言って部屋に篭った茉莉は、こうなることを予想していたのだろうか。

 腰辺りまで到達し、背中は一通りマッサージできた。

 

「満足できた?」

 

「もっとしてほしいな」

 

「もう大体揉みほぐしたと思うけど、あとどこをしてほしい?」

 

「もう少し下に」

 

「尻を揉めと?」

 

「揉みたければ構わないぞ」

 

「そろそろ寝ようか」

 

「待ってくれ。二年前は揉んできたくせになぜだ」

 

「あの時はごめん。雰囲気に飲まれてたんだ」

 

 そんな事もあったなぁと振り返る。あれからもうすぐ二年か。時が経つのは早いものだ。

 

「じゃあ……」

 

 久美子はゆっくりと体を動かし、仰向けになって両腕を広げた。

 

「尻は揉まなくてもいいから、抱き締めてくれ」

 

「交換条件がよくわからないけど、まあいいよ」

 

 上から覆い被さる形で久美子を抱き締める。背中に回された腕は力強く、離さないという意思を感じる。

 

「重くない?」

 

「ああ。これがよくてなぜ尻は駄目なんだ」

 

「……理性を保つ為かな。そんなに尻を揉んでほしいの?」

 

「いや、別に。ただ……」

 

 久美子の両脚が腰に回される。この体勢は傍から見たらとても危ない。しかし離してくれそうもない。

 耳元で、久美子がしおらしく囁く。

 

「蓮花に、もっと触れてほしいんだ……」

 

「……毎日触れてるじゃん」

 

「足りない。もっと触れたいし、触れてほしい」

 

「……久美子は欲張りだね」

 

 胃もたれしそうなほどの甘ったるさに感化され、久美子の首元に顔を埋めて首筋に口付けをする。

 

「……唇がいい」

 

「ん……」

 

 密着しすぎていては顔が見えない。肘をついて少しだけ身を持ち上げ、求めに応じ久美子と唇を重ねる。

 啄むような口付けを何度も繰り返す。

 少し呼吸を挟み久美子の目を見ると、もっと、もっと、と求め続けるような熱っぽい瞳で見つめられる。

 

 

 明日は日曜日か。なら、少しくらい夜更かししても構わないだろう。

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