花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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このペースだと年内に完結しない気がしてきました。


第73話 相反する心

 よく晴れた空の下、電車に揺られて少し遠くへ運ばれていく。

 ゴールデンウィークに入り、今日から一泊二日で旅行だ。

 親交を深める目的も兼ねて春休みにする予定から一ヶ月ズレたが、既に皆仲良しだ。それはそれで楽しい旅行になるだろう。

 

「そういえば歌野達にはまだ聞いてなかったな」

 

「何かしら?」

 

「お前ら四人、たけのこ派かきのこ派かどっちだ!?」

 

「「「ッ!!」」」

 

 ああ、平和だった空間に球子が爆弾を投下した。

 

「私はきのこ派ね」

 

「私も」

 

「なんだと!?これに関しても歌野と対立する運命にあるのか……」

 

「ということはまさか若葉はたけのこ派!?オーマイガー!!」

 

 

 

「ふふふ……そうですか。水都さんはきのこ派ですか……ふふふ……」

 

「ヒッ」

 

 わあ、あちこちで争いが生まれていく。いつかこの二つの派閥は分かり合える日が来るのだろうか。

 

「雪花さんと棗さんはどうですか?」

 

「私たけのこ派」

 

「私もどちらかといえば」

 

「ふむ、同数か。情勢は変わらずだな」

 

 どうやら均衡は保たれたようだ。

 

 

「ちなみに久美子はどっち?」

 

「私か?私は蓮花のき「そっかぁたけのこ派かぁ」……遮るなよ」

 

「さすがに遮るわ。びっくりしたわ」

 

 唐突に下ネタを吐くのはやめてほしい。子供達に悪影響を及ぼすかもしれない。

 隣に座っている千景がキョトンとした顔でこちらを見ている。

 

「何にびっくりしたの?」

 

「なんでもないよ、千景。知らなくていいことだ」

 

 軽く頭を撫でてあげると、少しくすぐったそうに笑う千景。少しずつ大人びてきても、この表情は小さい頃のままだ。大変可愛らしい。

 

 ちなみに僕と千景はたけのこ派だが、均衡を保つ為に黙っているとしよう。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

「うわー!すげぇ!」

 

「部屋に露天風呂が付いてる!」

 

 夕方、旅館にて部屋に入るなり球子達がはしゃぎ始める。

 いや、今日はずっとはしゃいでいたか。

 案内されて入った部屋には露天風呂が付いており、そこから外の景色を一望できた。

 

「今回は人数が多いから隣の部屋も取ってあるよ。内装は一緒だけど」

 

「……金かかったんじゃないか?」

 

「まあ……」

 

「子供達が楽しそうだから、いいんだ……」

 

 儚い微笑みを浮かべるれんちゃんと楓さん。中学生の宿泊料金はおそらく大人と同じだろう。

 大人15人分……どれくらいなんだろう。知らないでいよう。

 

「寝る時は私と琴音、蓮花と久美子で保護者としてそれぞれの部屋に分かれよう」

 

「皆はどちらの部屋で寝ても構わないよ。人数が大体半々になれば」

 

「とりあえず、私達はお母さん達と一緒に寝ましょうか。若葉ちゃん」

 

「そうだな」

 

 ひなた達の言葉に母親達はとても嬉しそうに微笑んだ。

 私も言われなくてもれんちゃんと一緒寝るけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂での夕食を終えて部屋に戻ると、何人かはもう入浴の準備を始めた。

 外は暗くなってきているし、入浴にはいい時間だろう。

 

「れんちゃんはどうするの?」

 

「僕は最後でいいよ。皆先に入って」

 

「なら私も最後に入ろう」

 

「は?」

 

 全く、何を言っているんだこの女は。私が目の前にいるのにそんなことをさせるわけがないだろう。

 どうすれば久美子さんを皆と一緒に風呂に入れられるだろうか。

 

 

 

 逡巡の後、私は名案を思いついた。

 

 

「茉莉さんが久美子さんと一緒に入りたいって」

 

「千景ちゃん!?」

 

「……なら仕方ない。行くぞ茉莉」

 

「待ってボクそんなこと言ってない!!」

 

「照れなくていいんだぞ」

 

「照れてないよ!?」

 

 ごめんなさい、茉莉さん。

 久美子さんに引っ張られていく茉莉さんに、私は敬礼をした。

 

「私も茉莉さん達と一緒に入りたい!ちーちゃんも行こ?」

 

「えっ」

 

 そう言ってゆうちゃんが私の手を握った。そういえば、私もこの笑顔には抵抗できないんだった。

 

「……ええ、そうね」

 

 久美子さんがれんちゃんと入るのを阻止できただけでも良しとしよう。

 私も入浴の準備をして、ゆうちゃんと共に露天風呂へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゙あ゙〜……良い……」

 

「おっさん?」

 

「お姉さんだ」

 

 おっさんみたいな声を出す自称お姉さんは、全身脱力して湯船の縁にもたれていた。

 わからなくもないが、ここから見える綺麗な夜景が非日常を感じさせ、気分が高揚して久美子さんのようにはリラックスできない。

 

「部屋に露天風呂が付いてる旅館なんて初めて泊まったゾ」

 

「私も初めてです」

 

「なかなか機会が無いよね」

 

「私はれんちゃんと一緒に何度か……」

 

「蓮花さんってこういうことにお金を惜しまないよね」

 

 ちなみに今一緒に入っているのはゆうちゃん、茉莉さん、久美子さん、杏、球子、雪花だ。他の子は隣の部屋で入浴する。

 

「にしても、担任の先生が一緒に旅行に来て一緒にお風呂に入ってるの、私は未だに慣れないよ」

 

「雪花さんはまだ合流して1ヶ月ですし、仕方ないですよ」

 

「近所の姉ちゃんがなんか先生やってるって思えばいいんだ」

 

「確かに」

 

「今度雪花の部屋に泊まってあげたら?」

 

「落ち着かないからやめてほしいな」

 

 それはそう。

 

「担任の扱いの改善を所望する」

 

「却下されました」

 

「早いわ」

 

 久美子さんはやれやれと言いたげな様子で溜息をつくと、何かを閃いたように口を開いた。

 

「そういえば、部屋に戻る途中で卓球台を見つけたな」

 

「ああ、あったね」

 

「風呂から上がったら卓球で勝負しようか。私が勝ったら扱いを改善してもらう」

 

「……変身しても良ければ」

 

「駄目に決まっているだろう」

 

「……まあいいわ」

 

 正直、普通にスポーツで勝負して久美子さんに勝てる気はしないが、私も毎日鍛練しているわけだし、少しは善戦できるかもしれない。

 私が勝った場合はどうしてもらおうかと考えていると、首まで湯に浸かった球子がゆっくりと久美子さんの前に移動してくる。

 

「ん?どうした?」

 

「…………すげえ……」

 

 球子が真剣な眼差しを向ける先、というか眼前には、湯に揺られる久美子さんの胸があった。

 浮いているわけではないが縁にもたれて体を反っているため、ちょうど水面に半球が出てきているのだ。

 

「絶景だあっ!!」

 

「……」

 

 やれやれと言いたげな様子で頭を抱える久美子さんと、苦笑いの杏。

 

「あっ、そうだ!タマもせんせーと勝負する!」

 

「おお、いいぞ」

 

「タマが勝ったらこのマウンテンに登頂する!」

 

「……」

 

「タマちゃんは怖いもの知らずだにゃ」

 

「タマっち、宿題増やされたりしても知らないよ?」

 

「それでも……このぽよよんを揉みしだける可能性があるのなら、後悔はしない!!」

 

 その情熱を別の方向に向けることはできないのだろうか。

 実際に勝つ可能性があるのが怖いところである。

 

「ボク達はのんびり楽しもうね……」

 

「そうですね」

 

 久美子さんとの勝負が終わったら、私もゆうちゃん達とのんびり卓球を楽しむとしよう。

 入浴後に汗をかくことになるかもしれないが、そうなればまた入ればいい。いつ何度入ってもいいのは露天風呂付き客室の利点だ。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

「あれ?皆さんはどこへ?」

 

 入浴を終えてドライヤーで髪を乾かしていると、ひなたがやってきて部屋を見渡す。

 着て来た服ではなく浴衣を着ていることから、既に入浴済みであるとわかる。

 

「卓球しに行ったよ。僕は今風呂上がり」

 

「れんちゃんも今から卓球ですか?」

 

「いや、夜風に当たって涼むついでに近くを散歩しようかと。何か面白そうなものがあれば買ってこようかな」

 

 旅館の近くには土産屋等があったりするので、探索してみたい。

 何か面白い店を見つけたら、明日皆を連れていくのもいいだろう。

 

「私もご一緒してもいいですか?」

 

「いいけど、若葉達はどうしたの?」

 

「若葉ちゃんは歌野さんと卓球で勝負すると言って、入浴後早々に部屋を出ていきました」

 

「そっか」

 

 考えることは同じらしい。散歩から帰ってきたら卓球台のところを見に行ってみよう。

 隣の部屋にいる楓さん達に散歩に行くことを伝え、僕とひなたは旅館を出た。

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 5月になり昼間は暖かくなってきたが、夜はほどよく夜風が涼しい。

 空にはとても綺麗に星が出ている。きっと明日も晴れるだろう。

 

「れんちゃん」

 

「ん?」

 

「手を繋いでもいいですか?」

 

「ああ、いいよ。それくらい聞かなくてもいいのに」

 

 蓮花がひなたの手を取ると、少し照れくさそうにはにかんだ微笑みが街灯に照らされる。

 蓮花は歩く速さをひなたに合わせ、二人でのんびりと夜の街を歩いていく。

 

「大きくなったね」

 

「何がですか?」

 

「手」

 

 繋いだ手が、いつの間にか少し大きくなったと実感する。

 蓮花が千景を連れて香川へやってきて、若葉やひなたと出会ってからもう少しで5年になる。

 それだけの時間が経てば、子供は大きく成長するものだ。

 

「そういうれんちゃんは変わりませんね」

 

「大人になると、めちゃくちゃ太ったり痩せたりしなければ変わらないんだ」

 

 むしろひなたは、昔はとても大きいと感じた蓮花の手が少し小さくなったように感じた。

 それだけ自分も大きくなって少し大人に近づいたのだと理解する。

 

 

 同時に、こんな風に接することができる時間も減ってきていると、理解してしまう。

 

 いつか、蓮花が特定の誰かの隣にいることを選んだら。

 それが自分で無かったら、こうして二人きりで手を繋いでいることも、無邪気に甘えることもできなくなる。

 故に、今のまま変わらずにいたいという気持ちも少なからずあった。

 

 

 あまり変わり映えしない土産屋が続くなか、普段はあまり見かけないものを見つけた。団子の屋台だ。

 店主のおじさんは二人に気がつくなり、笑顔で手を振ってくる。

 

「いらっしゃい!散歩のお供に団子はどうですか?」

 

 見れば三色団子とみたらし団子を売っている。隣にはベンチがあり、座って食べられるようだ。

 

「ひな、団子食べる?両方買って半分こする?」

 

「あ、いいですね!そうします!」

 

「じゃあ一本ずつお願いします」

 

「毎度あり!」

 

 蓮花が代金を払う間にひなたは店主から団子を受け取る。それぞれ串に四つずつ刺してある。

 ベンチに座って団子を二つずつ食べた後、ちょうど隣にあった自動販売機で緑茶を買った。

 

「ちょうどいいところに置いてありますね」

 

「戦略なんだろうね」

 

 

 

 軽食を終え、また立ち上がり歩き出す。

 

 

 

 

 何の気なしに入ってみた土産屋で、蓮花がよくある剣や龍のキーホルダーをじっと眺める。男子が修学旅行で買い、数年後に少し恥ずかしくなるやつだ。

 

「それがどうかしましたか?」

 

「千景って、意外とこういうの好きそう」

 

「うーん……そうかもしれませんね」

 

 千景のことを一番よく知っている蓮花がそういうのならそうなんだろう、とひなたはとりあえず同意しておく。

 実際、千景が好きなRPGやハンティングゲームにもこういうものはよく出てくるし、本当に好きかもしれない。

 

 

 少し店内を見て回ると、今度は酒のコーナーで蓮花が足を止めた。

 

「これ久美子が好きそうだなぁ……買ってあげたら喜ぶかな。高いし重いから今は買わないけど」

 

「……きっとあの人は、れんちゃんから何を貰っても喜ぶと思います」

 

 きっと千景や久美子は必要の無い物を貰ったとしても、それが蓮花から貰った物であれば、小言を言いつつも喜ぶだろう。自分もそうだから。

 

 蓮花は何気なく千景や久美子の話をしたのだろう。

 しかし同時にひなたは、蓮花の想いの大きさを感じた。

 離れていても、他の人と一緒にいても、いつも無意識に心のどこかで千景達のことを考えているのだと。

 

「ひなは何か欲しいものある?」

 

「私は……」

 

「特に無ければそろそろ帰ろうか?」

 

 欲しいものがないわけではない。思っていることを素直に言わないと、きっと後で悔やむことになる。

 

「……れんちゃんに、選んでほしいです」

 

「僕が?なんでもいいの?」

 

「はい。れんちゃんが選んでくれたものなら、なんでも」

 

「よし、わかった。ちょっと待っててね」

 

 再び店内を回り商品をじっくり真剣に選ぶ蓮花をひなたは見つめる。

 これで何を選んでもらったとしても、きっと大切な思い出になる。

 

 

 やがて蓮花が買ってきたものは、ハンドクリームだった。

 

「甘い香りのハンドクリームだって。ヌルヌルしないしベタつかないらしいよ。どうかな?」

 

「……とても嬉しいです。ありがとうございます」

 

「よかった。今までクリスマスとかに女の子へのプレゼントを選んだ経験が生きたな」

 

「後で塗ってくれますか?」

 

「ああ、喜んで」

 

 再び手を繋いで、来た道を歩いていく。

 今夜はきっと、様々な思いで眠れないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて遠くに旅館が見えてくる。

 旅館に近づくほど、ひなたは無意識に蓮花の手を強く握る。

 まだ放したくないという思いが表れているように。

 

「……もう、着いちゃいますね」

 

「そうだね。夜の散歩は意外と楽しかったかな?」

 

「はい、とっても」

 

 

 

 自分は千景達のことはもちろん、なんだかんだ優しい久美子も好きだ。幸せになってほしいとも思う。

 そして、その思いと私の蓮花に対する想いは相反する。

 

 

 だから。

 

 

 旅館に到着すれば、この手を放さなければならない。

 それが、この想いを終わりにする時だ。

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