花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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大変遅くなりました。
更新頻度のせいで、第1話投稿からもうすぐ3年になるけどまだ完結していない……。
今回の話、ちょっと突拍子もないので合わない人もいるかもしれないけど、深く考えず雰囲気で読んでください。


第78話 いつかの空

 だんだんと意識が覚醒し、重い瞼をゆっくりと持ち上げる。

 そして昨夜は隣にいたはずの人がいないことに気がつく。

 

「……ッッ!!」

 

 一瞬、もう出発してしまったのかと思い飛び起きるが、洗面所の方から水が流れる音がすることに気がつき安心する。

 音のする方へ歩き、その背中を抱き締めた。

 

 

 

 

「ん、おはよう千景」

 

 

 

「おはよう、れんちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

第78話 『いつかの空』

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前8時。適当に着替え、朝食の為に食堂へ向かおうと部屋を出る。

 屋外は嫌になるほど真夏の熱気で満ちている。わざわざこんな日にれんちゃんは出発するというのか。

 

「目が覚めたら横にいないから焦ったわ」

 

「何も言わずに行ったりしないよ」

 

「うん」

 

 またすぐ屋内に入り、廊下を歩いていく。

 今日は鍛錬が無いらしいのでこんな時間に起きる必要は無く、道中誰とも擦れ違わない。まあ食堂には何人か先客がいるだろう。

 

 食堂に到着すると、案の定そこに私の親友達がいた。

 

「「二人ともおはよう」」

 

「ズズッ……ああ、おはよう」

 

「おはようございます。ちーちゃん、蓮花さん」

 

「ん?」

 

 なんだか違和感を覚えれんちゃんを見ると、れんちゃんが辛そうな顔をしていた。……あ、そうか。ひなたはいつも「れんちゃん」と呼んでいるから、さん付けが変に感じたのか。……何故さん付け?

 

「あっ、冗談ですよれんちゃん。そんな顔をしないでください、ね?」

 

「ああ、うん。大丈夫」

 

「……」

 

「ズズッ……ん、どうした千景?」

 

 ずっとうどんを啜っている若葉が聞いてくるが知ったことではない。女の勘が言っている、この二人は何かあったと。気になるが、今触れるべきではないような気もする。

 

「千景、注文しに行こうか」

 

「え、ええ」

 

 

 

 

 

 

 注文した肉うどんを食べ進めながら、隣のれんちゃんにチラリと視線を向ける。

 

 

 

「何時頃に出発するの?」

 

「これ食べ終わって少ししたら行くよ。夜になるまでに戦闘は終わらせたい」

 

「明かりも無いだろうから暗くなってくると不利だもんな」

 

「うん。早ければ明日の朝には帰ってくるよ」

 

「わかったわ」

 

「無事に、帰ってきてくださいね」

 

「ああ、大丈夫」

 

 あと少ししたられんちゃんは危険な戦いに身を投じてしまう。そう思うと、どうしても心が落ち着かない。若葉とひなたも表情からして同じような気持ちなのだろうか。

 対してれんちゃんはあまりにもいつも通りだ。

 

「……緊張とかしていないの?」

 

「あまりしてないよ。むしろ、僕が離れている間の四国が心配なくらいだ」

 

「四国は私達に任せてくれ」

 

「ん。気をつけてね」

 

 れんちゃんが帰ってきた時にここが壊滅していたら元も子も無い。

 私は家族や友達を守る為に勇者になったのだ。たとえついて行って共に戦うことが出来ずとも、皆と共にここを、れんちゃんが帰ってくる場所を守るのだ。

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

 朝食を終え、千景の部屋で準備をする。

 家で武装して出ていこうとしたら茉莉を心配させてしまうため、服や荷物等は昨日ここに持ってきてある。

 天災の日や歌野達を迎えに行った時に着ていたいつもの装備を身に纏う。とても丈夫で長く愛用している。

 ボディバッグに軽食を入れて背負い、腰の後ろに一対の天羽々斬を提げる。

 

「……よし」

 

「……」

 

「ん?」

 

 なんだろう、千景が何やらうずうずしている気がする。

 こういう時は……と過去の記憶を遡り、両腕を広げた。

 

「おいで」

 

 千景を呼ぶと、すぐにぎゅっと抱き締めてくれた。なんて可愛い生き物だろう。

 左手で千景の背中を抱き寄せ、右手で髪を撫でる。千景が満足して離れるまでこうしていよう。

 

 

 

 

 

 満足したらしい千景と共に寮を出る。見送ってくれるらしい。

 

「れんちゃんったら、あまりにもいつも通り落ち着いているからこっちが不安になるわ。受験前に全然勉強せず余裕をかましている子供を見る親ってこんな気分なのかしら」

 

「僕そんななのか」

 

 いつも通りでいるほうが皆を安心させられるかと思っていたが、度が過ぎるのだろうか。難しい。

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

「行ってらっしゃい、れんちゃん」

 

 千景に手を振り丸亀城を出ると、すぐそこに見覚えのある車が停まっている。その横に立っているのは久美子だ。

 

「ん、来たか」

 

「おはよう。もしかして待たせた?」

 

「いや、さっき到着して連絡しようとしていたところだ」

 

「そっか」

 

 運転席に乗り込む久美子に続いて助手席に乗る。

 最初はここから瀬戸大橋まで屋根伝いに走っていこうと考えていたが、こんな明るい時間からそんなことをすれば目立ってしまうと久美子に言われた。

 結果、前回と同じように瀬戸大橋まで車で送ってもらうことになったのだ。

 

「茉莉はどうしてる?」

 

「いつも通り。朝食を食べて、今頃は夏休みの宿題をしているだろう」

 

 茉莉には詳しいことは話さず、少しだけ遠出してくるとしか伝えていない。もしかしたら勘づいているかもしれないが、僕が無事に帰れば問題ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 車に揺られて約三十分後、瀬戸大橋に到着した。もはや馴染みの場所だ。何度ここを通っただろう。

 車を降り、軽く柔軟体操をして身体を解す。これからひたすら動き続けることになる。しょうもないことで怪我をするのは馬鹿らしい。

 

 

 

「明日くらいには帰ってくるね」

 

「ああ、待ってる」

 

 そう言うと、久美子は僕を抱き締め首元に顔を埋めた。

 前回はとても寂しい思いをさせてしまったようだが、今回はすぐに帰ってこられるので大丈夫だろう。

 久美子が放してくれるまで、僕も抱き締めていよう。真夏の太陽の下だが、暑さなんて今は気にしない。

 

 

 

 

「……ん、満足」

 

「本当に?」

 

「そんなことを言っていたらいつまでも放さないぞ」

 

「そっか」

 

 久美子が僕から身を離す。今度こそ出発だ。

 

「気をつけてな」

 

「ああ、行ってきます」

 

 

 熱されたアスファルトを踏み込み、風を切って駆け出す。

 勢いをそのままに跳躍し、四国を囲う植物組織の壁を飛び越える。

 頭上から巨大な視線を感じながら、東へ走り続けた。

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

 

 あるところに、一人の少年がいた。

 少年の両親は決して仲が良いとは言えず、よく争ってはその怒りが子供にまで飛び火していた。

 

 少年が14歳のある日、耐えられなくなった少年は家出をした。

 そしてその日、空から白い絶望が降り注いだ。

 隠れることが得意だった少年は必死に化け物達から逃げ続け、SNSの情報を頼りに西へ向かった。

 何日も歩き続けて辿り着いたのは、御柱により形成された結界と一人の少女によって守られている場所だった。

 

 同じように集まった人々は結界の中で生き延びる為、少女を中心に自給自足の生活を始めた。

 歳が近いこともあり、少年は特殊な力を持つ二人の少女と共に行動することが多かった。

 しかし化け物が攻めてきた際には、少年は内気な少女と共に、皆を守る為に戦う少女の無事をただ祈ることしかできなかった。

 

 やがて化け物達の攻撃は徐々に勢いを増し、三年後、結界は破壊された。

 二人の少女の遺体を前に、共に過ごしてきた人々の断末魔を聞きながら、その土地と共に少年も最期を迎えた。

 

 

 

 気がつくと、少年は見知らぬ場所に倒れていた。

 殺されたはずの身体に傷は無く、周囲を見回すと見たことの無い怪物がいた。

 目が合った瞬間、怪物は襲いかかってきた。逃げることを諦めた少年は、その身一つで怪物と対峙した。

 少女達が殺された瞬間のことがつい先程のことのように脳裏に焼き付いている。

 戦う力を持たなかった己に対する怒りが、理不尽に全てを奪っていった化け物達への怒りが少年の中に渦巻き、それらを拳に込めて怪物を殴りつけた。

 やがて、身体中から血を流しながらも、少年は怪物の息の根を止めた。

 

 その後、少年は人のいる場所を探した。やがて見つけた街で情報を得た少年は、ここは魔物等が存在する自分の知らない世界であると理解した。

 異世界転生は実在したのかと驚いたのも束の間、最期に傍にいた少女達もこの世界にいないかと考えた少年は、世界中を周り少女達を探すことにした。

 もしも少女達を見つけることができたら今度は自分が守ってあげられるようにと、少年は己を鍛え始めた。

 血反吐を吐き、自身を追い込み、何度も命を落としかけた。

 いつしか脳のリミッターが壊れ、日常的に肉体を損傷するようになった少年は、それに耐えられる身体を作ろうとさらに鍛錬を重ねた。

 どんな状況でも戦えるよう、暇を見つけては様々な武器の扱いも練習した。

 

 数年後。世界を回り終えた頃、少年は青年となっていた。

 結局、その鍛え抜いた力で守りたかったものは見つからなかった。

 道中、青年は行く先々で困っている人を見つけると助けた。あの少女ならそうするだろうと思ったから。

 

 青年は何度も世界の危機を退けた。

 やがて、その名と強さは世界中に知れ渡っていった。

 どんな存在と対峙しようと圧倒的な力で確実に勝利を掴むその姿に、人々は畏敬の念を抱き、いつしか青年は闘神と呼ばれるようになった。

 彼を地上に降り立った本物の神だと思い信仰する者まで現れ始め、それは瞬く間に広がっていった。

 

 そして人々の強い信仰心は奇跡を起こし、一柱の神が生まれた。一人の青年が神へ昇華したのだ。

 青年の肉体は変質し、その身は神性を纏い老いることはなくなった。

 

 その名声は神々を伝い異世界にまで広まり、数多の神々が青年に助けを求め、青年は数多の世界を救って回った。

 

 ある日、青年の前に花弁の舞い散る門が現れた。またどこかの世界が救いを求めているのだと理解した青年は、慣れたようにその門を通った。

 気がつくと、青年は不思議な色の巨大な植物組織が生い茂る空間に立っていた。

 そして少し離れた場所で、どこか見覚えのある化け物と戦う五人の少女達がいた。

 

 ひとまず化け物を掃討し戦闘を終わらせた後、勇者部と名乗る少女達から話を聞いた青年は、この少女達と共に戦えばいいのだと判断した。

 

 数ヶ月後、冬も終わりに差し掛かった頃。一人の少女が天の神の祟りを受けていること、地の神の集合体である神樹の寿命が近いこと、それを解決する為に少女と神婚をするという話を聞いた。

 少女の親友達が少女を探して家に向かっている時、青年は一人神樹の元へ向かった。罪の無い一人の子供を犠牲にしてまで救う価値がこの世界にあるのかと問う為に。

 

 神樹の幹に触れて問うと、神樹は青年に対してこの世界の過去を見せると答え、青年を過去へ飛ばした。

 

 気がつくと、そこは記憶にあるより明るい樹海で、迫り来る白い化け物の大群を迎え撃つ五人の少女達がいた。先頭に立っているのは、かつての友と無線越しに話していた声を聞いたことがある『乃木若葉』であった。

 

 青年は元の時代に戻る方法がわからず、ひとまずは少女達と共に戦い、城で生活することにした。

 共に生活していくうちに、青年は少女達を大切に思うようになった。

 しかしそれは既に確定した歴史であり、その結末を変えることはできず。

 共に過ごした少女達が次々に命を落としていき、心から愛した一人の少女も失った。

 二人の少女による最後の戦いが終わった後、青年は次の時代へ飛ばされた。その世代の大きな出来事が終わると次の世代へ、次の時代へと移り変わり、青年は三百年の過去を見た。

 

 青年の意識が現代に戻って間も無く、空が禍々しい赤に染まっていき、巨大な内行花文鏡が現れた。

 あれが天の神が顕現した姿だと理解した青年は、勇者達と共にそれを撃退した。

 そして力を使い果たした神樹は消えたが、その中にあった一つの魂は青年についていくこととなった。

 

 戦いが終わり勇者達が御役目を終えると、青年は元の世界へ帰還した。

 少女達の重い運命のことを引きずり気が晴れずにいる青年に対し、ついてきた魂は一つ提案をした。

『まだ天災を経験していない平行世界がある』と。既に過ぎた運命でなければ変えようはあると。

 

 青年の知る少女達が救われるわけではない、ただの青年の自己満足かもしれない。

 それでも、少女達が救われる世界が少しくらいあってもいいのではないか。

 皆が生きて大人になり、幸せな生活を送る。

 そんな未来を見たいと思った青年は、初めて自ら異世界へ赴いた。

 

 降り立った地で、一人の少女を探した。

 この少女は天災前から辛い環境で生活しており、神々の戦争をどうにかするだけでは完全には救えないと考えたからだ。

 

 夏の夕日が照らす道の先、少し俯いて歩く黒髪の少女を見つけた。

 青年は思わず溢れ出しそうになる感情を抑え、努めて冷静に、優しく少女に声をかけた。

 

 

 

 

「──郡千景ちゃんかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

 

 

 今まで戦闘時以外は完全に遮断していた神性を少しずつ解放しながら、東へ走り続ける。

 頭上から感じる巨大な視線はだんだんと強くなっていく。

 

 周りの景色はどこも廃墟と化している。どこまで行っても、常に視界には崩れた建造物や腐敗した遺体がある。

 

 数時間走り続け、東京だったらしき場所で足を止めた。周囲の建造物からして間違いないだろう。

 

「腹減ったな」

 

 腹が減っては戦ができぬ。

 近くの瓦礫に腰を下ろし、持ってきたおにぎりを頬張る。千景が朝から握ってくれたものだ。やる気が漲ってくる。

 まだ昼過ぎのはずだが、気がつけば空は赤くなっていた。いつかの決戦を思い出す禍々しい空だ。

 

「……ご馳走様」

 

 立ち上がり、神性を完全に解放する。

 すると凄まじい威圧感と共に、空に12の雲雷文を備えた巨大な内行花文鏡が現れた。

 向こうからすれば、四国の結界から出てきた一人の人間が、神の力を得て強い神性を発したように見えただろうか。

 

 

 ……いや、少し違うか。

 少し離れたところに巨大なシルエットが見える。獅子座だ。こちらに接近してきているようだ。

 元々僕を討つ機会を窺っていたのだろうか。

 まあ、出てきてくれたなら何でもいい。

 

 

 初めて他者の命を終わらせたあの日のように。

 怒りを拳に握り締め、しかし頭は冷静に、青年は天を睨んだ。

 

 

 

 ────神の力を以て神に歯向かうか、人類。

 

 

 

「あの子達が普通に生きていく為に……お前達は、邪魔だ」

 

 

 

 腰に提げた一対の天羽々斬を抜き、闘神は天の神々へ刃を向けた。

 そして、天に刃を届かせる為の翼をその背に宿した。

 

 

 

「────降りよ。大天狗」




『蓮』
多年性水生植物
ヤマモガシ目ハス科ハス属
花言葉 「清らかな心」「沈着」「神聖」等。
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