花は少女の幸福を願う   作:カフェラテ

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幕間 最たる願い

「もうすぐ花火大会だ!!」

 

 天の神との戦いから2日後の午後、談話室にて球子がそう告げた。

 花火大会、そういえばそんな時期か。

 

「いつ?」

 

「明後日」

 

「明後日!?」

 

 唐突だぁ。最近バタバタしていて頭から抜けていた。

 

「お前達、花火はここからでも見えるじゃないか」

 

「祭りだゾ!?」

 

「久美子さんはフェスティバルが嫌いなの!?」

 

「なぜあんな暑くて人の多いところに行きたがる」

 

「久美子だって最初はウキウキで祭り行ってたじゃん」

 

 球子、友奈と共に屋台を片っ端から回っていたような記憶がある。

 

「じゃあ久美子さんは留守番で」

 

「立場的にそうもいかないんだよ」

 

「難儀ねぇ」

 

 一応、久美子は大社職員として勇者達のお目付け役兼保護者的な立場にある。

 勇者達が人の多い祭り等に行く場合、あまり目を離す訳にもいかない。

 

「浴衣、出しておかないと」

 

「あ、私はかなり背が伸びたから去年のは着れないかもしれん」

 

「若葉って今何センチあるんだ?」

 

「確か前の身体測定では163だったか」

 

「巨人じゃん、超大g」

 

 球子が何か言おうとした瞬間、神速の居合の如き若葉のアイアンクローが球子の顔を正面から鷲掴みにした。

 恐ろしく早いアイアンクロー、僕でなきゃ見逃しちゃうね。

 

「ん?」

 

「ナンデモナイ…デス……」

 

「そうか」

 

「ヒェッ……うたのん、絶対に乃木さんを変なからかい方しちゃ駄目だよ」

 

「残念ながら私も経験済みよ。もっと早く言ってほしかったわみーちゃん」

 

「あ……そうなんだ」

 

 いったい歌野は何をやらかしたのだろう。今度聞いてみたい。

 

「そういえば、歌野達はそもそも浴衣無いよね」

 

「ええ」

 

「わ、私は別にいいよ」

 

「いや、今から買いに行こう」

 

 まだ昼過ぎでよかった。今からイネスに行けば全然間に合うだろう。

 ついでに、虫除けスプレー等必要な物と食料品も買って帰ろう。

 

「皆、イネスに着くまでに今日の晩ご飯考えてね」

 

 外は今日も猛暑だ。イネスに着いたら、まずはアイスでも食べようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 花火大会当日。空は暗くなってきているが、街ゆく人はいつもより多い。

 談話室にて着付けを終えた子供達が続々と寮の前に集合する。

 僕は例の如く、スマートフォンのカメラを構えていた。

 

「はぁ…………皆可愛いね……綺麗だね……」

 

「寮の前に変質者がいるんだけど」

 

「警備員さん呼ばないと」

 

 誰が変質者だ。……いや、どう見ても変質者だ。

 

「あら、今回は鼻栓してないのね」

 

「大丈夫、まだ耐えてる……」

 

「鼻血を耐えるって何だ……?」

 

 こう毎年見ていると、僕の鼻もだんだん慣れてきたようだ。しかしなんと良き光景か。

 特に黒髪はこういった和服によく似合う。千景、ひなた、茉莉、久美子。皆綺麗な長い黒髪を纏めていて新鮮だ。

 

「えっと……蓮花さん、どうかした?ボクどこか変かな?どうして無言で親指立ててるの?」

 

「たんにれんちゃんは黒髪が好きなだけだから、気にしなくていいわ」

 

「ああ、そっか」

 

「そうだよ」

 

 もう一つ目を引くものがあるが……一応聞いておこう。

 

「歌野、そのストローハットはどうしたんだい?」

 

「これいいでしょう!?イネスで見つけたのよ!イカしたハットじゃない?」

 

「…………………………まあ、いいんじゃないかな」

 

「なっがい間」

 

「うたのんやっぱり変だよ!それ置いていこうよ!」

 

「ええ!?せっかく買ったのに!?」

 

「農作業の時にでも被ればいいんじゃないの?」

 

 何故浴衣にストローハットなのだろう。この子のセンスは時折意味がわからない。しかし可愛いからとりあえず肯定してしまうのが僕だ。

 ここでいつまでも話していたら花火に間に合わなくなってしまう。さすがにそろそろ出発しよう。

 

「久美子も含めて皆、常に三人以上で行動するようにね。それから、できるだけ僕の視界から離れないように」

 

『はーい』

 

「何故私もなんだ」

 

「なんならお前が一番知らない人に声掛けられそうだから。子供達はまだ少し幼さがあるからともかく、久美子はしっかり大人だからナンパ野郎が寄ってくるかもしれない」

 

「久美子さんは黙っていたら美人ですしね」

 

「一言多いぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人が多いぞ」

 

「多いね」

 

 いざ到着した祭り会場。いつもの事だが、なんと人の多いことか。毎年増えている気がする。

 天災直後に比べて生活が落ち着き、祭りに行く余裕がでてきた人が増えているのだろうか。

 

「うっひょー祭りって感じだぁ!!」

 

「ああ……良いな」

 

「棗さんが心做しか楽しそう」

 

 いつも落ち着いている棗のテンションが高いように感じる。他の子も気がつくくらいにはわくわくしているようだ。

 

「そういえば、初めて棗に会った日も祭りに行ったわね」

 

「そういえばそうか。いろんなところを案内してもらったね」

 

「懐かしいな。あの頃と比べて私達は大きくなったが、蓮花さんは何も変わらないな」

 

「そういうもんさ」

 

「あっ、わたあめ買ってくる!」

 

 わたあめの屋台を見つけて歩いていく友奈に、千景と茉莉、久美子もついていく。

 

「誰か、一緒に射的をしないか」

 

「私がお供します!」

 

「じゃあタマも!」

 

「みーちゃん、焼きそば買いに行きましょう!」

 

「あ、うん。ついでにりんご飴も食べたい」

 

「私もついてこ。ついでのついでに唐揚げ買おうよ」

 

 それぞれめぼしい屋台を見つけて散開していく。一応三人以上かつ目の届く距離だから、今は自由にさせておこう。

 残された僕と若葉とひなたは、若葉が即座に興味を持った焼きうどんの屋台へ向かった。

 

 

 

 

 

 

「この辺でいいかな」

 

「ええ」

 

 花火が上がる時間までもう少し、花火が見やすい落ち着いた場所に移動してきた。

 

「去年もここじゃなかったか?」

 

「ここが見やすいんですよ」

 

「へー」

 

 唐揚げ、わたあめ、チョコバナナ、焼きそば、焼きうどん、巨大なクッション等々、皆それぞれ何かしらを手にしている。そして僕の手にはりんご飴。夏祭りといえばりんご飴だろう。

 

「蓮花、それ一口くれ。代わりにチョコバナナ一口やる」

 

「いいよ」

 

「あ、私もそれ一口食べたい」

 

「ああ、うん」

 

 久美子に差し出し、千景に差し出し、さっき買ったばかりのりんご飴がどんどん減っていく。皆の分も買えばよかったか。チョコバナナ美味しい。

 

「えっと、棗さんのそれは何?」

 

「チンアナゴのクッションだ。射的で取った」

 

「でけぇ」

 

「どうやって落としたんだ……?」

 

 だんだん周囲に人が増え始める。ここは皆が知っているスポットなのだろうか。

 

「れんちゃんが迷子にならないように手を握っておくわ」

 

「ならないけどいいよ」

 

 普通は逆ではないだろうかと思いながら、右手はりんご飴を持っているため左手を千景に差し出すと、そっと優しく握ってくれる。

 

 

 やがて大きな音と共に、夜空に巨大な花が咲き始める。

 今までは、空にはいずれ対峙する敵がいたが、これからはもういない。心置きなく花火を楽しむことができる。

 

「たーまやー!」

 

「……『たまや』って何だろうな」

 

「確か江戸時代の有名な花火師の屋号ですね」

 

「アンちゃん博識!」

 

 そうだったのか。初めて知った。杏が知識豊富なだけなのか、僕がたまたま知らなかっただけなのか。たまだけに。

 

「夏って感じがするな!」

 

「この暑さで十分夏を感じてるよ……来年こそは丸亀城で……」

 

「もう少しで丸亀城生活終わるけど」

 

「あ。ならクーラーの効いた家からテレビで十分だ」

 

「風情がないよ久美子さん……」

 

 家で見るなら浴衣を着てくれないんじゃないか。それは困る。夏の楽しみが一つ減ってしまう。

 そんな事が頭をよぎると同時に、そもそもそんな機会はもう無いのだと気がつく。

 

 花火の音がカウントダウンのように感じる。僕がここで過ごせる時間もあと僅かなのだと。

 できることなら、次の夏も、ここで皆と過ごしていたい。

 この世界を救ったのだから、願いを叶えてくれてもいいんじゃないかと神樹を恨みつつ、神は人情を持ち合わせてはいないと諦める。

 

 

 左に目を向けると、夜空を見上げる千景がいる。なんとも美人に育ったものだ。

 右手でポケットからスマホを取り出し、楽しげな表情の千景を写真に収める。またアルバムに挟む写真が一枚増えた。

 

 右に目を向けると、久美子の端麗な横顔がそこにある。感情を読み取りにくい表情をしているが、目を見る限り、「……悪くない」とでも思っているだろうか。

 その表情も写真に収めると、気がついた久美子がこちらを向く。

 

「何故花火じゃなくて私を撮るんだ?」

 

「横を向いたら綺麗な人がいたもので」

 

「全く、お前はすぐそういうことを言う……」

 

 久美子は半歩移動すると、僕の右肩に肩を触れさせた。

 千景が痛いほど強く手を握り締めてくる。少し痛いが嬉しい。

 いつの間にか杏が振り返り、花火ではなくこちらを凝視していた。どんな状況だ。

 

「球子達がどこの学校に通うことになるかわからないけれど、来年も皆で見られたらいいわね」

 

「……ああ。そうだね」

 

 

 

 叶わぬ願いを抱き嘘を重ねる。

 

 ……いや。

 この先、この子達が幸せに生きていけるのなら、僕の最たる願いは叶うことになる。

 ならば、それで十分だ。

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