リンドウが行方不明となり一週間が過ぎた。今日も第一部隊でリンドウの捜索を行う。そのブリーフィングのため、アリサ以外の第一部隊のメンバーは出撃ゲート前に集まっていた。
しばらく待っているとツバキが来た。第一部隊が集まっているのを確認すると今回の任務のブリーフィングが始まる。
「本日の任務を当該地域のアラガミ一掃に変更する。なお検査中だったアリサだが、戦闘に参加できる状態ではないため、入院することになった。しばらくは前線を離れる事になるだろう」
アリサは錯乱してから約1週間、ほとんど面会謝絶だった為仕方ないとしか言えない。
「最後に…本日をもって神機、及びその適合者であるリンドウは消息不明、除隊として扱われる事となった。以上だ」
「え……」
イチカは耳を疑った。本日をもって除隊扱い。組織側はこれ以上は探す意思を見せないと言うことだ。
「そんな…まだ腕輪も神機も見つかってないんですよ⁉︎」
リンドウが行方不明になり、早すぎる捜索の打ち切りの決定についてサクヤは納得できないのだ。
「上層部の決定だ。それに、腕輪のビーコン、生体信号共に消失した事が確認された。未確認アラガミの活動が活発化している状況で生きているかも分からない人間を探す余裕は無い」
しかし帰ってきた答えは無慈悲だった。ツバキはヒールの音を響かせてエントランスを出た。ソーマもその事を了承したと言った雰囲気を出し、無言のままエレベーターに乗り込んだ。しかしイチカだけはいつもと違う雰囲気なのを感じ取れた。
イチカはこの決定を受け入れられないでいる一方で、サクヤが取り乱した様子でイチカとコウタに迫る。
「ねぇ!!こんなに早く捜索が打ち切られるなんておかしいわ!!襲われた敵も場所も明らかなのに…なんで!!あなたもそう思うでしょ、イチカ!!」
「………」
いつもので頼れるお姉さんと言った雰囲気は欠片も感じられなく、ただ叫んでいる。イチカの顔を見てサクヤはハッとした表情になる。
「あ…ごめん…当たっても仕方ないよね…少し頭を冷やしてくる…任務までには戻ってくるから…」
サクヤは目尻に涙を浮かべ、涙声になってエレベーターに向かって去って行った。
「サクヤ姉……」
「サクヤさん…相当参ってるみたいだね…」
「…ああ…」
イチカは三年だが2人の関係を近くで見ていたから知っている。サクヤにとってリンドウは幼馴染なだけではなく、特別な感情を抱いていたから。あの様子を見れば精神的な動揺はかなり大きいことは明白だ。
「お前も含めて、皆よくやったと思うよ。あの時のアリサ…急にどうしたんだよ…」
「リンドウさんから…アリサには精神に異常があるって聞いたんだ。詳しいことは聞いていないけどな…」
その事を聞いて、アリサが錯乱した原因とも言えるものを思い出した。アリサの過去に深く関わっているので、イチカは黙っておく事にした。
「そうだったのか…あ、アリサの事なんだけど…同じ新型ってこともあるし、イチカが傍に居た方がいいと思う」
「…なんで俺なんだ?」
「今までアリサがイチカ以外と話してるところ見たこと無いし…一緒の任務の時なんてどこか生き生きしてたっていうか、多少心を開いてると思うんだ」
極東支部の面々と言い合いや口喧嘩、反発はしていたがイチカに対してはなぜか積極的な面もあった。イチカはその事については悩みの種だったのでそうは思ってはいなかった。
「俺、サクヤさんの様子見てくるよ!正直…今のお前も相当辛いだろ?」
「…ごめんコウタ、サクヤ姉を頼む」
「ああ、任せとけ!」
そう言ってコウタはエレベーターに向かって走って行った。
「(時間が余ったな………榊博士に、感応現象の事について聞いてみるか)」
その後重い足取りで、イチカは余った時間で榊のいるラボに向かうことにした。
任務まで時間が余り、ソーマはベテラン区画のエレベーターホールで缶ジュースを飲んでいた。するとどこからか話し声が聞こえてきた。
「おい…聞いたか?リンドウさんのこと…」
「ああ…またソーマのチームから殉職者か、しかもよくつるんでるあの新型がいたのにかかわらずにだぞ?…今度はリンドウさんとか…洒落になんねえぞ…」
「おいバカ…!聞こえるぞ…!」
どうやらソーマがいる事に気づいて言っているようだ。
「…クソッ…!」
気がつかないうちに缶を握る手に力が入る。今のソーマには自責や後悔といった感情が渦巻いている。
「失礼します」
「やあ、待ってたよ。君から尋ねてくるなんて珍しいね?」
イチカは榊に苦手意識がある為、用事がある時以外は出入りしない、榊の研究室にや来た理由、それは……。
「それで、私に訊きたい事があるようだけど……一体何だい?」
「その、この間医務室で、アリサの手を握った時に、色々な光景が次々と頭の中に浮かび上がったんです。そうしたら、昏睡状態だったアリサが目を醒まして……これがなんなのか知ってるのかと思って」
あえて感応現象と言う言葉はイチカは伏せた。今このアナグラに不信感を抱いているイチカは榊にも警戒はしていた
イチカの言葉に、サカキの表情が変わる。普段は含みのある笑みを浮かべているが、今は研究者としての真剣な表情を見せている。
「ほぅ……それは興味深い話だね、もう少し詳しく教えてくれないかい?具体的に何を見たのかを教えてくれるとありがたいが…」
「……すみません、映像が流れるスピードが早くて詳しいことまでは…」
「そうか……それは残念だ、イチカ君に起こった現象、それは感応現象と言われるものだよ。まだこの現象は実例が少ないからノルンにも記述されはいないんだけどね」
「そうでしたか、通りで調べてもなかったわけだ」
「それじゃあ早速感応現象について説明しよう!」
どこか楽しそうにそう言って、榊は説明を始めた。
「感応現象とは、新型の神機使い同士の間に起こる現象で、互いの記憶や感情を共感し合う事ができるという不可思議なものでね、先程も言ったように前例は極めて少ないんだ」
「あの時俺はアリサの手を握ったら感応現象が発生しましたけど、触れるだけで発動してしまうものなんですか?」
「はっきり言ってしまうとだね、感応現象が発生する条件などはまったくわからないんだ」
「えっ?」
「新型の神機使い自体が少ないというのもあるけど、現段階じゃ情報や研究材料が少なすぎて難航しているらしい」
「…………」
「恐らく今回発言したのは、君の感応力が高い事にもあるのかもしれないね」
「感応力?」
「君はもともと感応力が異常に高くてね。はじめてメディカルチェックの結果を見た時は私も滾ったものさ。最近じゃ…バースト状態でしか使えない能力を使えるんだとか?」
「何処でそれを?」
「リンドウ君からさ…」
「…そうでしたか」
イチカは面倒になると思いバーストアーツについては榊には話さなかった。今回は感応現象について聞きにきただけなので、榊でもこれ以上の事はわからないようだ。いくら優秀な技術者でもわからないものはある。今回は仕方ないと言える。
「榊博士、今回はありがとうございます」
「お役に立てなくてすまないね」
「気にしないでください。また何かわかったら報告します」
「よろしく頼むよ。機会があれば是非ともバーストアーツについて聞かせてくれたまえ」
「機会があれば…ですけどね」
そう言いながら立ち上がる。
「任務の後、アリサ君のお見舞いにはいくのかい?」
「はい、リンドウさんにも力になってやれと言われてますが……自分の意思で…アリサの力になりたいと思っています」
「そうか」
「失礼しました」
頭を下げ、研究室を後にするイチカ、そのまま任務の時間となり、出撃し、いつも通りアラガミを討伐した。
任務後、すぐに病室に向かい、入口には、面会謝絶の札は掛けられていない、一応ノックしてから中に入る。中には誰もおらず、アリサだけが前と同じようにベッドで眠っていた。
「…………」
「…………」
ベッドの近くに椅子を持っていき、眠っているアリサを見つめる。
「(……感応現象、あの時…アリサも自分の何かを見ていたのだとするなら…)」
おもわず、ジッと自分の手を見る。もう一度触れれば、感応現象が起こるかもしれない。しかしそれは自分の正体を明かす事と同じだと悟る。アリサも自身の何かを見ていたなら…イチカの過去…織斑一夏として生きていた時、左腕の事を見ていたかもしれない。
「(迷ってられない…)」
覚悟を決めアリサの手を触れた瞬間。また、頭の中に不思議な光景、が……。
『もういいかい?』
初めに聞こえたのは、そんな声。
『まあだだよ』
次に聞こえたのは、そんな声。
『もういいかい?』
『まあだだよ』
かくれんぼをしているのだろう。隠れているのは幼き頃のアリサ、そして彼女を探しているのは、彼女の両親。
感応現象によってアリサの記憶を見ているからか、イチカの中に彼女の記憶が流れ込んでくる。幼いアリサは廃墟の中に置き去りにされたタンスの中に隠れていた。
それを探しに来た両親、次第に楽しくなってアリサは隙間から自分を探す両親を覗き込む。
『もういいかい?』
『もういいよ』
両親がアリサの隠れているタンスのすぐ傍までやってきた。
――しかし
飛び散る鮮血、悲鳴もなくアリサの両親であったモノが肉片と化していく。
食べているのは漆黒の身体を持つヴァジュラのようなアラガミ。
『パパ…⁉︎ママ……⁉︎やめて、食べないで……!』
必死に懇願するアリサの声も、意味を成さない。一瞬で全てを奪われ、その時の光景はアリサに決して消えない深い傷を残した。
『いやぁぁぁぁぁっ!!やめてぇぇぇえええ…!!』
その後、景色が白く染まり、暫くすると別の風景が見えてきた。極東支部の訓練室と同じ風景のようだったが、間取や傷の着き方が違った。恐らく別の支部だろう。
そして目の前には見たことのある紅い神機が横たわっていた。アリサが使っている神機だ。ここまで来れば今まで見てきたのがアリサの過去だと確信できる。そんな事を考えていると、とこかで聞いた事がある声が響く。
『幼い君は、さぞかし己の無力さを呪っただろう』
両親を殺された時の事を思い出した。強い恨みと憎しみを胸に宿して神機を握る。
『ぐっ!!!あぐ…くぅ…!』
適合試験で受けた形容しがたい痛みを受け、アリサは呻く。
『その苦しみに打ち勝てば、親の仇を討つための力を得る事が出来るのだ!!そうだ!戦え!打ち勝て!』
『こいつらが、君達の敵であるアラガミだよ』
ある病室内に、アリサと1人の男が居る。アリサの目の前には、様々なアラガミが映し出されているモニターが。
『アラ…ガミ……』
「そう、こわーいこわーいアラガミだ。そしてこれが君のパパとママを食べちゃった、アラガミだよ」
そう言って、男はモニターの映像を変える。しかし、そこに映し出されていたのはリンドウの姿だった。
『でも、君はもう戦えるだろう?簡単な事さ、こいつに向かって引き金を引けばいいだけだ』
『引き金を、引く……』
『そうだよ。こう唱えて引き金を引けばいい。アジン、ドゥヴァ、トゥリー!』
『……アジン…ドゥヴァ…トゥリー……』
『そうさ、そうすれば君は強い子になれる』
『アジン…ドゥヴァ…トゥリー……』
譫言のように、謎の言葉を繰り返すアリサ。しかしその謎の言葉を最後に景色が、霞んでいく。感応現象が終わるのか、自然とそう理解している自分が居た。
「…………」
気が付いたら、元の医務室に戻っていた。
「……今の、は……」
「アリサ……」
目を醒ましたアリサと、視線が合った。
「あの記憶は……あなたの……」
「………」
「あなたの記憶が頭の中に流れ込んできて……もしかして、あなたの方にも?」
「……うん。君の両親が……殺された時の記憶を」
「…………」
辛そうに顔を俯かせるアリサ。
「君も、俺の……記憶を見たのか?」
イチカは意を決してアリサに問う。
「………織斑……一夏」
躊躇いを含んだ口調で、アリサは答える。
織斑一夏と答えたアリサ、すなわち、アリサが見たのは織斑一夏として生きた世界の時のものを見たのだろう。
「そう…か」
「あなたの…本名、なんですよね?」
「悪いが織斑の苗字は捨てたものだ…今は橘イチカだ」
「ごめんなさい、けど…あなたが…別の世界の人間だったなんて、それに…その左腕…」
「信じられないのも…無理はないと思う。常識の範疇を越える出来事だしな。けど、俺がアリサの記憶を見たのが証拠になるだろ?」
「……あの日のこと、ずっと忘れてた筈だった…パパとママを困らせてやろうって、かくれんぼのつもりで、近くの建物の中に隠れてたんです。もういいかい?まあだだよ…って…そしたら突然、悲鳴や叫び声が聞こえてきて…」
イチカは何も言わず、ひたすらアリサの話を聞きに徹していた。
「早く出ていけば良かったのに…私、怖くて動けなくて…パパとママが私を探しに来たけど…唸り声が聞こえて、目の前で…パパとママが!」
目の前で両親をアラガミに喰われれば、動けないのは無理はない。イチカもアラガミに襲われた際は縛られた状態とは言え、恐怖で動くことすらもできなかった。
この状況で出ていけばアリサ自身が喰われかねなかった。
「私がもっと早く気がついて逃げていれば…2人も…私のせいで…!」
「アリサのせいじゃない…俺も同じ立場だったら、きっと動けていないと思う」
「だから、私が新型神機使いの候補者だって聞かされた時は、これでパパとママの仇を討てる、て思ったんです。そう…2人を殺した『あの』アラガミを…!」
そこまで言うと、アリサの脳内でリンドウと黒い顔のアラガミが交錯する。相当強力な暗示なのか、未だにリンドウを仇のアラガミだと思ってしまっているようだ。錯乱し始め、泣きながら頭を抱えてガタガタと震え始めた。
「……!」
イチカは立ち上がり、リンドウとサクヤ、束がイチカしてくれたように、アリサの頭を優しく撫でながら抱きしめた。
「…ごめんなさい…自分でも分からないの…」
「(リンドウさん、サクヤ姉、束さんもこの気持ちで、俺にこうやってたのかな…)」
アリサを抱きしめ、落ち着くまで暫く待った。5分ほどして落ち着いたのかアリサの方から離れていった。
「ありがとう。この前もこうして手を握ってくれてたのって、あなただったんですね。温かい気持ちが流れ込んで来るの、分かったから」
「……落ち着いたか?」
「はい」
「よかった」
「その、あなたがよければなんですが…左腕、見せてもらうことは可能ですか?あ、もちろん…断ってくれても構いません」
アリサはイチカの左腕に視線がいく、感応現象見たとは言えあまり実感はない様子だった。
「……わかった」
イチカは自分とアリサ以外の気配がないのを確認すると…手袋を外し、袖をまくる。
「………」
「これが今の俺の左腕だ……気持ち悪いだ「綺麗…」え」
突然アリサがイチカのアラガミ化した左腕を手に取る。イチカがアリサの発言に驚いたのも無理はない。
しかしずっと見つめられるのも恥ずかしいので声をかける。
「あ、あの……アリサ?」
「あっ……ご、ごめんなさい!綺麗な色だったので…つい」
気が付けばアリサは顔を赤くして下を見ていた。
「ははっ、その反応…はじめてされたよ。今までは驚かれたりされたのが殆どなのに、綺麗か…この腕も偶にはこういう事にも役に立つんだな…」
「……」
――はじめて見た。
イチカの表情はとても穏やかだった。いつもアリサに向ける表情はどこか嫌そうで、面倒臭そうな雰囲気だった。
同時に今みたいな、もっと知らないイチカを見たいと思う自分が居る。何故そう思うのか、アリサには分からなかった。
「それじゃあ、そろそろ俺は行くよ。一応言っておくけど、俺のことに関しては第一部隊と一部の人以外には秘密にしてくれないか?勿論、アリサの記憶も絶対に話したりしない」
「は、はい。それはもちろん!」
「ありがとう」
そう言ってイチカは立ち上がり扉に向かう。
「(あ………や…)」
それを見て、アリサは彼がここから居なくなると急に自覚ができて。
「ま、待って!」
気が付いたら、彼を大声で呼び止めてしまっていた。その声にイチカは肩をビクッとさせ振り向く。
「ど、どうしたんだ?」
「え、あ、そ…その…」
アリサはひたすら顔を赤くさせてアタフタさせていた。
「………」
イチカは今のアリサを見て数年前の自分の姿を重ねていた。
寂しい…その気持ちがイチカには伝わっていた。クスリと笑みを浮かべつつもう一度椅子に座り込んだ。
「な、何がおかしかったんですか?」
「いや、なんでもない(俺が熱を出した時も…束さんはそばにいてくれたっけ)」
イチカは自分が病気になっていた当時を思い出し、イチカはアリサの手を握る。
「え、あ…あの」
「この後は緊急時以外は何もないから…寝付くまでそばにいるよ」
「……いいん…ですか?」
「ああ」
二つ返事で、アリサの左手を握るイチカ。アリサも自然とイチカの握っていた手に力が入る。
「(………暖かい)」
手の温もりに、アリサの表情も自然と優しげなものに変わる。
「……ありがとうございます、橘さん……」
「苗字だと被るからイチカでいいよ、アリサ」
「イチ、カ……」
程なくして、アリサから寝息が聞こえ始めた。
「おやすみ……アリサ」
イチカは後になり気付き罪悪感を持ちながらも、安心したような寝顔を見せるアリサを優しく見つめていたのだった。
先飛ばしてイチカにバースアーツ、デビルトリガー擬を使わせるか…
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バーストアーツ
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デビルトリガー擬
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両方
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必要ない
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作者に任せる