リンドウの捜索が打ち切られて1週間、打ちきり当時は生きていると信じていた者達もリンドウが死んだと受け入れ始めていた。
現在、エントランスには缶ジュースを片手に出撃ゲート前で佇んでいるイチカとコウタがいた。するとコウタが話しかけてきた。
「もう…一週間経つんだな」
「ああ…」
「他の神機使い達も受け入れ始めてるけど…正直…今でも信じられないよ」
「俺は…諦めたつもりはない」
「え?」
「リンドウさんは生きてる。分からないけど…そんな感じがするんだ」
イチカはポケットからリンドウのライターを取り出す。イチカの顔はまだ諦めてはいなかった。
「そう…だな、よし!俺も俺にしかできない事をしないとな!」
「ああ」
そんな会話をしているとエレベーターの扉が開いてアリサが出てきた。
「アリサ!」
アリサはイチカの声を聞いて一瞬嬉しそうな顔をしたが、コウタが横に居る事に気が付くと、俯いて視線を合わせないようにした。他人の視線が酷く恐ろしく感じてまともに目を合わせる事が出来ない。そのままイチカとコウタの前まで着て、報告すべき事を報告する。
「……本日付で原隊復帰となりました。……またこれからよろしくお願いします」
「実戦にはいつ復帰なの?」
「…いえ…まだ…です…」
「…そっか…」
会話が途切れて沈んだ空気の中、突如大きな声で話し声が聞こえてきた。
「おい聞いたか?この間入ってきた新型の女…やっと復帰したらしいぜ」
「ああ、リンドウさんを新種のヴァジュラと一緒に閉じ込めて見殺しにした奴だろ」
「ところが、あんなに威張り散らしてたくせに、精神不安定で結局戦えなくなったんだとよ」
「あっははは!!なんだ!口ばっかりじゃねえか!」
アリサに聞こえるように心無い罵声を飛ばしてくる。アリサ自身こうなって当然だと思っていたが、実際に目の前で言われるとかなり辛い。正直今すぐにでも逃げ出したかった。
「あなたも…笑えばいいじゃないですか…」
泣きそうな顔になってコウタに自分を笑えと言ってきた。いっそのこと笑われってくれれば気も楽になれる。そう思っての発言だった。
「俺たちは笑ったりしないよ。な?イチカって、あれ?あいつどこ行った?」
振り向くとイチカの姿はなくコウタは周りを探す。
すると
「ウハハハハハハハ!!!!アハハハハハハハハハハハ!!!な、なんでだ?わ、笑いたくもないのに笑ってアハハハハハハハハハ!!!アハハハハハハハハハ!!」
「アハハハハハハハハハ!!!ふぅっ、ふっ…お腹が痛いアハハハハハハハハハ!!こ、このやアハハハハハハ!!」
先程アリサを罵声していた2人が突如と笑い出し周りの神機使い達もおかしい人にしか見えなかった。
「笑いのツボです。あなた方は笑いたいんでしょ?だったら笑い地獄でも味わっててください」
親指を立てていたイチカが2人に何かしたのは明らかだった。それを言いイチカはコウタとアリサのところに戻る。
「お、お前いつの間に…てか、あの2人に何したんだ?」
「ん?笑いのツボを押しただけ」
「わ、笑いのツボ?」
「ああ…前にマッサージも出来るって話した事はあるよな?それである本を読んでたら出来る様になった」
「へ、へぇー」
「試してみるか?」
「え、遠慮しとく…」
コウタは顔を引きつらせながらイチカの事を少し引いていた。
「そ、それで、あいつら大丈夫なのかよ?」
「まぁ1時間くらいはあのままだろうな…耐性があるやつなら数分で治る。喉は潰れてるかもしれないけど…」
「えげつねぇな…」
依然アリサは暗いままで、口を閉じている。
「あーえっと…それより、リンドウさんがやられた新種のヴァジュラ!」
コウタがその場の空気に耐えきれなくなって話を振るが、その話題はアリサにとって、その後どうなったか知りたい話題であると同時に触れられたくない話題だった。
「!」
「お、おい!!」
アリサは顔を上げるも、どこか複雑な感情が見え隠れしている表情になり、コウタなりに場の雰囲気を変えようとしていたのかもしれないが、アリサにとってはトラウマを呼び起こしかねない事だ。
イチカは止めようとするが虚しく、コウタは何か焦りながら話を続ける。
「ここ最近欧州でも目撃報告があったみたいだね。ここに来て新種との遭遇例が増えているのは何かの兆しなのかもしれないねー!なんて…」
狼狽えながら話を続けているが、どこか空回りしているように感じる。その空気を感じ取ったのか、唐突にイチカの方を見て、肩を叩いた後両手を合わせ…
「スマン、後は頼んだ…」
「は⁉︎ちょっ!!おいコウタ!!」
この気まずい空気のままイチカにこの場は任せ逃げるように去っていったコウタ。
呆然としてるとアリサが話しかけてきた。
「あの…お願いがあるんです…」
「え?な、なんだ?」
どこか言いにくそうにアリサが言葉を一旦区切る。
「あの…その…私に、もう一度ちゃんと、戦い方を教えてくれませんか?今度こそ本当に…自分の意思で、大切な人を守りたいんです!」
アリサの言葉に、イチカはキョトンとした。戦い方を教えてほしい、アリサはイチカにそう言った。
「(えっと……アリサも充分強いはずじゃ、教わる理由がない気が…いや、そういえば薬で症状を抑えてたって言ってたな…)」
今までアリサは薬で症状を抑えていたのを思い出し、今の状態のアリサは薬を頼っている様子はなかった。
「……その、なんで俺なんだ?俺はまだ誰かに教えられるほどの経験はまだないが…」
イチカはアリサにそう告げる。しかし、アリサは首を横に振って言葉を返した。
「新型の戦い方なら、イチカが適任だと思ったんです。もう、あんな事がないように強くなりたい。イチカのように、大事なものを守れる強さが欲しいんです!!」
「…………」
アリサの瞳が、イチカを真っ直ぐ見つめる。その瞳を見れば、イチカでも本気だと理解できた。
「……わかった。俺でいいなら協力する。ただそれはツバキさんに許可をもらってからだ」
「!ありがとうございます!!」
地面についてしまうのではないかと思えるくらい、頭を下げるアリサ。イチカはツバキに許可をもらった後、アリサと共に受付のヒバリの元へと向かいミッションの受注をし、任務に向かった。
イチカとアリサが向かったのは平原エリア、雨が2人の身体を濡らしていた。
ここでシユウの討伐ミッションを受けたのだ。
「…………」
「……大丈夫か?」
アリサの神機を持つ手が震えている事に気づき、イチカは優しく声を掛ける。
「い、いえ……大丈夫です」
「無理はするな、ほら」
「あっ……」
イチカの右手が、アリサの手を優しく包み込んだ。恥ずかしさから顔をほのかに赤く染めるアリサだが、不思議と少しだけ震えが止まり緊張がほぐれてくれた。
「あ……ありがとうございます」
「気にするな、落ち着いて…ゆっくり深呼吸をするんだ」
アリサは言われた通りに深呼吸する。そうしていると、少しずつ呼吸が整ってきて、大分落ち着きを取り戻し始めた。
「やっぱり、強い…ですね」
「ん?」
アリサが何を言いたいのか分からずに聞き返す。
「この状況で他人を気遣える、そんな事が出来るあなたは、やっぱり強い心の持ち主なんですね」
「…前の世界じゃ色々と精神も鍛えられたからな…それに一度アラガミに殺されかけて死の淵を彷徨ってるから余計にな…」
「あ……」
アリサは感応現象で見ていたのでイチカがどんな人生を送ってきたかは知っている。
「よし!今からアリサのリハリビ、特訓を始める。今回俺が前線で陽動、アリサが後方からバックアップを頼む。ただしできる範囲で今回は動いてくれ、いいな?」
「は、はい!」
先の雰囲気からガラッと変わり表情も気を引き締めた顔となっていた。
「任務にあたって命令は3つ、死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そして隠れろ、運がよければ不意をついて…ぶっ殺せ!」
「その命令は…」
「ああ、リンドウさんが最初に出した命令だ。でもこれじゃあ4つだな、ははっ」
「……(リンドウさん…)」
今のイチカの笑みが…リンドウの姿と重なった気がした。
「今回の任務では生き残る事だ。決して無茶はするな、いいな?」
「は、はい!」
「よし、それじゃ、行こうか!」
待機ポイントから飛び降りてシユウに向かって走り出し、アリサもそれに続く。それに気が付いたシユウがいきなり滑空して距離を詰めてきた。
「チィ!」
「キャア!」
突っ込んでくるシユウをそれぞれ横に跳んで回避する。イチカは綺麗に受け身を取ってすぐに迎撃に向かう。だが、アリサは受け身を取れずに倒れ込む。
シユウは受け身を取れなかったアリサに狙いをつける様に姿勢を落として構える。
「(い、いや…来ないで!)」
アラガミを前にして恐怖で動けなくなる。
「させるかよ!」
イチカがすぐさまシユウとの間に入り、翼を斬り刻む。シユウはイチカに蹴りを放つがイチカは攻撃を避け薙刃に変え突きを放つもシユウにガードされイチカは空いた左腕でシユウを殴り飛ばし、吹き飛ばす。シユウとアリサの距離を離し、その間にアリサはシユウから離れる。
シユウも体制を立て直し、まっすぐ向かってくる。
「は、ぁ…(恐い……恐い恐い恐い……!)」
トラウマが頭にフラッシュバックし、口を押さえていないと叫んでしまいそうだ。
「(う、動け、ない……!)」
アラガミに対する恐怖心が、アリサから戦意を奪い動きを縛る。
「アリサ!!」
「っ!」
初めて聞いたイチカの声に、アリサはビクッと身体を震わせながらも、我に返る。見ると、眼前には既にシユウの両腕羽が迫り。アリサに当たる前に、装甲を展開したイチカが防いだ。
「きゃあ!?」
後ろに後退しながら、アリサの腰に手を回し抱きかかえ跳躍し、着地してアリサを降ろし、すぐさまシユウに接近する。
間髪入れずにシユウの掌から衝撃が放たれる。
「喰らうかよ!」
イチカは装甲を展開させながらシユウにダイブし胴体に衝撃を与え一瞬怯む、その間宙にいるイチカはプレデターフォーム『レイヴン』を使い捕食しバースト状態となる。
「(え、援護しないと!)」
アリサは銃形態で援護しようとするが、リンドウを撃とうとした事が頭を過り撃てないでいた。
シユウがイチカにオラクル弾を放つ。それを後方に下がりながら躱しつつ銃に変形させたイチカはアサルトタイプのオラクル弾をシユウの翼を狙い放つがシユウ自身も翼からのオラクル弾を放ち相殺し爆発がおこる。
その隙に、シユウはアリサに目をつけ、アリサに向かって滑空していく。
「あ……いやっ!!」
迫り来るシユウを目の前に悲鳴を上げる。
「(こ、殺される!!)」
もうお仕舞いだと思い、アリサ思わず目を瞑る。
「オラァッ!!」
爆煙の中からイチカが現れ、その瞬間シユウの背中に乗り移り、イチカのアラガミ化した左腕により地面に叩きつけられた
「痺れろ!!」
イチカは左腕から電撃を発生させシユウに食らわせる。喰らったシユウは麻痺を起こし動くことが出来なかった。
「(今回はここまでか……)」
アリサの状態を見たイチカはそのままシユウの背中に乗った状態でオラクルエネルギーを纏わせた神機を動けないシユウに突き刺し、シユウは活動を完全に停止した。
「終わったよ、アリサ」
イチカはコアを回収し、倒したことをアリサに伝えると、安心したのかその場に座り込んでしまった。
「すいません…結局何も出来ませんでした」
「病み上がりだからな、気にしなくてもいい。アリサは大丈夫か?」
「は、はい……」
まだアリサは恐怖を拭いきれない様子だ。それを見たイチカはアリサに歩み寄る。
「………そんなに焦らなくても大丈夫だ」
「あ……」
「ゆっくりやっていけばいい。焦ると結果を得られるわけじゃないしな、今回は生き残る事ができた。それだけでも充分だ」
「………はい」
帽子越しに、イチカの右手がアリサの頭を撫でる。優しい手つきに、アリサは目を細め力を抜いた。
「…今日は、ありがとうございました…次は、サポート出来るようにします」
「ああ、でも…あまり無理はするなよ?アリサのペースでやっていけばいい、必要なら力になる」
「…ありがとうございます」
「よし、それじゃあ帰るか、立てるか?」
撫でていた手を離し一歩離れ、手を差し出すし、アリサは素直にその手を取り、立たせてもらうが再び地面に座り込んでしまう。
「アリサ?」
「す、すみません。足に力が上手く入らなくて…」
「あー、なるほどな」
どうやら恐怖感から解放されて力がうまく入らなかったようだ。イチカはアリサの気持ちを察しあえて何も言わなかった。
「ほら」
「え?」
イチカはもう一度アリサに手を差し伸べる。
「うまく立てないんだろ?」
「あ、はい。ありがとござ………きゃっ!?」
差し伸べられた手を握った瞬間、そのまま引っ張られその勢いで、アリサを抱え神機はアリサの両手に抱えられるように握られていた。
「よし、帰るか」
「か、かか、帰るかじゃないですよ!なな、何でこの抱え方なんですか!?」
いわゆるお姫様抱っこをされている状態だ。顔を真っ赤にするアリサをよそにイチカはいつも通りの顔だ。
「?何でって、こっちの方が運びやすいから」
「いや、そうじゃなくて……なんでよりによってお姫様抱っこなんですか……」
「ん?なんて?」
「な、なんでもありません!」
アリサは、顔を赤くしてイチカから表情が見られないように顔を俯かせる。
そのままイチカは待機ポイントに向かって移動する。アリサはそれまでの間、イチカの胸あたりの服をキュッと握り、イチカから伝わる温もりを感じるのだった。
今回イチカが使った左腕の力はデビルメイクライのデビルブレイカー・オーバーチュアを元にしています
先飛ばしてイチカにバースアーツ、デビルトリガー擬を使わせるか…
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バーストアーツ
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デビルトリガー擬
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両方
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必要ない
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作者に任せる