平穏な日々は遥か遠く   作:石門 希望

10 / 26
 幕間 無人島試験後の報告会

「…………平田か」

「お疲れ様。こうして会うのは久しぶりだね、綾小路くん」

 

 試験6日目夜。

 オレは堀北・幸村・三宅の三人でリーダー変更の手続きを終え、船へと戻る。

 するとその先には平田が待ち構えていた。

 平田は船に残ったDクラス生徒の中で唯一オレから作戦のあらましを聞いていたから、そろそろだと思って待っていてくれていたのだろう。

 

「君が来る少し前に、龍園君もリタイアしていたようだね」

「そうか。あいつはオレより先にリタイアしたのか」

 

 正直、あいつがオレより先にリタイアしたのは意外だと思った。

 一応協力、いや、休戦に近い関係を今回の試験中に限り結んではいるが、あいつならオレがリタイアするのを待ってDのリーダーにも探りを入れてくるかと可能性の1つとして考えていた。

 まぁ、あいつは今回のことでオレに自分と似た思考回路をもつ実力者だと認識を持ったらしいから、無駄なことはしなかったのだろう。実際、あいつがオレが抜けた後にDのリーダーを探ろうとしても無駄にする策は講じてあった。

 

「綾小路くん、今日はゆっくりと休んでくれ。

 無人島でのことをきくのは明日、結果がでた後のほうが都合もいいしね」

「助かる」

 

 オレと平田は同室のため、そのまま一緒に部屋へと向かう。

 ちなみに同室の残り2人は高円寺と幸村だ。

 うん、なかなか濃いメンツだな。

 

 久方ぶりに入る風呂は気持ちが良かった。

 オレは久しぶりの柔らかい寝床に身をゆだね、その日はそのまま眠りについた。

 

 

 ***********************

 

 

『それでは今から、特別試験の結果発表を行いたいと思う』

 

 

『最下位──―Aクラス、0ポイント』

 

『3位──―Cクラス、126ポイント』

 

『2位──―Dクラス、132ポイント』

 

『1位──―Bクラス、200ポイント』

 

 

 ***********************

 

 

「おつかれ」

「お疲れ様、堀北さん」

「ええ」

 

 試験終了日の夕方、オレと平田は若干戸惑い気味の堀北を部屋に迎え入れていた。

 

「それで? あなたたち、私に何の用かしら」

 

 オレ達2人に怪訝な目を向ける堀北。

 

「何、今回の試験のあらましを確認しあおうと思ってな。

 だが、オレも6日目にはリタイアしているから全てを知っているわけではない。

 だからおまえからも話をきこうと思ってな」

「それに、堀北さんはBクラスに潜入してくれていたからね。

 よければその時の様子も教えてほしい」

 

 若干オレ達から距離を離して堀北は座る。

 

「そんなに警戒する必要はないんじゃないか?」

「逆に聞くけど、この状況でどうして警戒せずにいられるのかしら?」

 

 …………ごもっとも。

 平田はDクラスの暴君としての振る舞いも板についてきたし、オレも表向きは平田の参謀、Cクラスでいう金田に近い立場についているが、一部生徒からはいまのDクラスの陰の支配者だの言われているからな。

 堀北はオレに対してある程度心を開いてくれているとは思うが、オレに1人で来るように呼び出されてきてみれば、オレと平田の2人で待ち構えられていたともなれば警戒されるのもやむなしというわけだ。

 

「2人のほうでは話はついているのかもしれないけれど、今回の試験結果について説明してもらってもいいかしら?」

「ああ。おまえにもその話をきいてもらいたかったところだ。

 大体のことはこれにまとめたから、まずは見てくれ」

 

 堀北に今回の試験結果から推測できる各クラスの状況をまとめた紙を渡す。

 

 

 Aクラス

 リーダー:葛城康平

 坂柳有栖・戸塚弥彦リタイア     -60

 スポット誤使用           ―50

 B・C・Dからリーダーを指名される -150

 Cクラスのリーダー指名失敗     -50

 

 Bクラス

 リーダー:白波千尋

 Aのリーダー指名成功        +50

 C・Dからリーダーを指名される   -100

 Dクラスのリーダー指名失敗     -50

 

 Cクラス

 リーダー:龍園翔⇒? 

 A・Bのリーダー指名成功      +100

 スポット占有ボーナス        +26

(Bクラスに物資を提供。かわりに卒業まで提供物資分のPPを受け取る)

 

 Dクラス

 リーダー:綾小路清隆⇒堀北鈴音

 A・Bのリーダー指名成功      +100

 スポット占有ボーナス        +32

(Aクラスに200ポイント分の物資を提供。かわりに卒業まで200CP分のPPを受け取る)

 

 

 堀北は結果をしばらく眺めているとつぶやく。

 

「BクラスにCクラスの生徒もいたからそうかもしれないとは思っていたけれど、本当に同じ作戦を立てていたのね…………」

「うん、僕も驚いたよ。

 綾小路くんは龍園君と似た者同士なのかもしれないね」

 

 平田から素直な感想なのか皮肉なのか判別しにくいことを言われる。これには「勘弁してくれ」と返すしかない。

 正直オレも思考が似ているとは思ったが、あいつと同じにされるのはなんとなく嫌だった。

 

「…………それにしても、よくBクラスはおまえはともかくCクラスの生徒まで受け入れてくれたな。さすがに百パーセントスパイだと思うだろ」

「…………彼女、ひどい状態だったもの。

 彼女が来たのは私の後だったけれど、顔の腫れだったり、見るからにひどい傷を負っていたわ。リタイアも勧められていたけれど、船に龍園君がいるから戻りたくないと言えば誰もが納得するほどにね」

「…………先生には報告しなかったのかい? 

 Bクラスの担任の星之宮先生は保健室の先生でもあったよね。

 星之宮先生に報告すれば龍園君にもペナルティを与えられたはずだよね」

「禁止されているのは他クラスへの加害行為。同じクラスには適用されないらしいわ」

 

 平田は神妙な面持ちになる。

 

「それで? 大体はこれを見てわかったけれど、どうしてこうなっていると思うのか教えてもらってもいいかしら? 

 特にBクラスはリーダー当てに参加してもしていなくても200ポイントになることに変わりはないはず。

 それに私はAクラスのリーダーを当てた方法は教えてもらっていないわ。

 あなたがこの試験で何をしたのか教えてちょうだい」

 

 堀北は睨むようにオレをうかがう。

 実は平田にもまだ詳しく話していないことがあったから平田もオレが話すことに興味を持っている様子だ。

 

「わかった。とはいってもそう難しい話じゃない。

 オレはこの試験のルールが説明されたとき、最初から正攻法で乗り切る考えは捨てるべきだと考えた。

 そこで思いついたのが数人残してリタイアする作戦だ。

 失敗のリスクを極限まで引き下げることを第1にしたわけだ」

「ここで言う失敗って試験で負けることじゃなくて平田くんのいまの体制が崩れることよね? やっぱりあなたが黒幕だったのね」

 

 堀北から呆れられるような視線を向けられるが気にせず話を続ける。

 

「とはいっても強制的にリタイアさせられた挙句、試験でポイントを得られる機会をみすみす逃すとなると当然反発が生まれる。

 だからあらかじめみんなにリタイアさせる前に葛城と契約を結ぶことにした。

 葛城との契約のことはおまえも知っているよな」

 

 既にみんなにAクラスとの契約のことは知らせている。

 リタイアしたメンバーはリタイアした直後平田が、島に残ったメンバーは島にいる間にオレが契約の存在と概要は通達済みだ。

 

「1つ疑問が残るわ。

 今回の試験、Aクラスに教えたリーダーの情報は間違っていたわけよね? 

 これは契約違反にはなってしまわないかしら?」

「それについては後で話す。

 葛城との契約を無事結ぶことができたオレは次に各クラスのリーダーを探る作戦を考えたわけだ。

 実はもともと試験が始まる前から当てはあった。

 特にAクラスは葛城派と坂柳派に分かれていて、オレは坂柳が無人島での試験には参加できないことと、坂柳が今回の試験を最後に完全にクラスを掌握することを望んでいることを知っていたからな。

 Aクラスのリーダーはオレと内通していた橋本から教えてもらった。ついでに橋本にはスポットの誤使用もしてくれるように頼んでおいた」

「…………葛城くんが不憫ね」

 

 平田と堀北が葛城を憐れむ。

 

「Bクラスについても坂柳や平田からきく様子からすぐに算段はついた。

 あいつらは人を見捨てる選択肢は取りづらいとなれば、堀北を潜入させる発想はすぐに思いついた。

 Dクラスの惨状は既に他クラスにも知れ渡っている。平田が暴君として抑えたといっても信じてもらえない程度にはあれは悲惨だったからな。それに、堀北は認めたくないかもしれないがおまえの噂も同学年内なら知ってる奴もいる。それを利用させてもらった。おまえが少しの傷を負ってクラスから逃れてきたといえば受け入れてもらえる公算は高かった」

 

 堀北が不満げな様子を見せる。

 

「問題はCクラスだった。

 別に当てられなくてもいいとは思っていたが、検討してみようと偵察したら、オレとしても予想外の光景が広がっていた」

 

 豪遊を装ってはいたが、龍園が試験を完全に捨てるとは思えなかった。

 それにオレ自身、心当たりのある戦略だったことに加えてあいつの側にあるトランシーバーを確認すれば嫌でも何をしているのか確信できた。

 

「…………向こうも同じ作戦を実行してることがわかったわけね」

「ああ。オレはその時点で戦術を切り替えてCのリーダーを当てずにAとBにダメージを与えることにした」

「だからCクラスと協力することにしたんだね。

 どうやってかきいていいかい?」

「それはオレと龍園が同じ作戦を行っていることが鍵になる。

 Dでは実行したら裏目になるからしなかったが、Cクラスの豪遊はBクラスに物資を渡すことを隠すことを目的の1つにする戦略だ。

 なら、あいつはオレと同様の契約をBクラスと結んでいる可能性が高い。

 そこで契約を利用してダメージを与えることを龍園に提案した」

「…………契約を利用?」

 

 平田も堀北も揃って怪訝な顔つきになる。

 

「これがさっきの堀北の疑問の答えになる。

 契約をよく見てくれ」

 

 契約書を差し出し2人に見てもらう。

 

「あなた!? これは…………」

「そうだ。ここにはリーダーの情報を教えると書いてはあるが、その情報が間違っていた場合のペナルティについては何も書いていない。あいつが結んでいたのもこれと大差ないだろう。

 だからオレと龍園はお互いにキーカードを写真で撮りあい情報提供の際にそれを見せた。だが、オレも龍園も最終日直前にリタイアしたからリーダーは変わっている。

 そのおかげでAクラスとBクラスには表面上には見えない負債を与えることができた。

 以上がこの試験でオレがやった大体のことの説明は終わりだ」

 

 しばらく2人は黙り込む。

 

「…………Bクラスがリーダー当てに参加したとする根拠は、Aクラスのポイントから分かるわけね」

「その通りだ。

 もしもBクラスがAのリーダーを当てていなかった場合、Aのポイントは0にはならないからな。

 Aクラスはオレ達と契約を交わしているから坂柳と戸塚のリタイアを除いた240ポイントをフルで残していた。スポットの誤使用にDとCからのリーダー的中、それにCのリーダー指名の失敗を数えてもまだ40ポイント残している。

 他にリタイアや点呼を何度も欠席した奴がいないことは葛城との情報交換の時に確認済みだ。

 だからBクラスはAのリーダーを当ててDのリーダーは外したのだろうと推測が経つ」

 

 平田も堀北も、おおよそオレへの確認は済んだだろう。

 深く考え込む2人にオレからの質問を切り出す。

 

「堀北、オレがリタイアした後の様子はどうだった?」

「特に問題なかったわ。点呼を終えて浜辺へむかうだけ。

 強いて言えば、三宅君と幸村君が少し匂ったくらいかしら?」

「それは強いて言う必要なかっただろ」

 

 それにBクラスに潜入できていたとはいえ、堀北だって一週間の無人島生活で十分には体を洗えていないはずだ。だとしたらこいつも人のこと言えないんじゃ「余計なことを考えているんじゃないかしら?」「…………考えてないです」

 

 堀北からきけることは特にないようだ。

 これはオレとしても想定内だ。

 オレは平田にこの集まりで聞きたかったことを尋ねる。

 

「平田、船でのDクラスの様子はどうだった?」

 

 そう聞くと平田は考え込む。

 

「特におかしなことはなかったよ。

 みんな、無人島に上陸する前と変わらない様子だった」

「そうか。櫛田の様子はどうだった?」

 

 これがオレにとっての本題だった。

 今回の試験中、オレは櫛田の様子を全く確認できていない。

 抑止のために平田を船に戻らせたが、それでも何をするのかわからないのが櫛田の怖さだ。監視役を平田とは別に2人つけているが平田からも櫛田の様子は聞いておきたかった。

 

「正直、僕から見る限りでは彼女が不自然なことをしているようには見えなかったよ。

 基本、みんなと一緒に遊んだり話したり、相談にのってあげている様子だった」

「なるほどな。油断はしないほうがいい。

 あいつの強みは他者に悟らせずに誘導することだ。

 相談というのも内容次第によっては毒になる。

 この試験中、あいつが船で何もしなかったなんていう楽観的な考えはしないほうがいい」

 

 平田は困った様子で、堀北は若干の怯えが入った様子でオレの忠告を聞き入れている。

 試験期間中の櫛田の様子については、折をみて2人の監視役からも話を聞いておくことにしよう。

 

 とりあえず、今日の所の話し合いは終えた。

 しばらくは船でゆっくり「ところで綾小路くん」

 

 堀北から話しかけられたので振り向くと、なぜか意地の悪い笑みを浮かべていたので少しの恐怖を覚える。

 

「あなた、Bクラスに潜入させる前に私に傷を負わせたことは忘れていないでしょうね」

「もちろんだ」

 

 堀北から了承を得てはいたが、痛みはほぼないが目に見えるような傷を残したことは事実だ。この質問を冗談でも否定したら取り返しのつかないことになりそうだったので即座に肯定する。

 

「本当に大変だったわ。ただでさえ警戒されているのにCクラスからも人が現れて余計に警戒されてしまったわ。

 そんななかリーダーの情報を持ってきた私に何か言うことはないのかしら?」

「いや、凄いと思うぞ。さすがだな堀北」

「そう思う割にはあまり褒めないのね」

 

 何と答えればいいかわからず暫く黙っていると…………

 

「そういえばあの時、あなたが私と約束した内容、いまここで1つ果たさせてもらうわよ」

 

 そういうや否や堀北は手元に抜き身のコンパスを持ち出した。

 え!? なんでコンパスなんか持ってるんだ!? 

 

 

 …………痛い

 

 

 

 






コンパス回避ルート


「本当に大変だったわ。ただでさえ警戒されているのにCクラスからも人が現れて余計に警戒されてしまったわ。
 そんななかリーダーの情報を持ってきた私に何か言うことはないのかしら?」
「いや、凄いと思うぞ。さすがだな堀北」
「そう思う割にはあまり褒めないのね」

 ここで回答を間違えたらたぶんひどい目に合う気がする。

「おまえならできると思っていたからな」
「………そう。なら仕方ないわね」

 堀北の機嫌が持ち治ったらしい。

 よかった。何が仕方ないのかはわからないが何とか危機は去ったようだ。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。