平穏な日々は遥か遠く   作:石門 希望

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第8話 優待者試験(前編)

『生徒の皆さんにご連絡致します。

 先程、全ての生徒宛に学校から連絡事項を記載したメールを送信致しました。また、メールが届いていない場合には、お手数ですがお近くの教員、及び、スタッフにまで申し出て下さい。非常に重要な内容となっておりますので、確認漏れのないようお願い致します。

 もう一度繰り返します──―』

 

 無人島での特別試験が終わってから3日。

 堀北とチェスをして暇を潰しているとキーンというメールの受信音が鳴った直後に先ほどのような放送が船内に流れる。

 堀北と目を合わせて互いに手を止めてメールの確認をすることにする。

 

『間もなく特別試験を開始致します。

 各自指定された部屋に、指定された時間に集合して下さい。

 十分以上遅刻した生徒にはペナルティを課す場合があります。

 本日20時40分までに、2階201号室に集合して下さい。

 所要時間は二十分ほどですので、お手洗いなど済ませた上、携帯をマナーモードか電源をオフにしてお越し下さい』

 

「特別試験…………」

 

 やや表情を強張らせる堀北。

 特別試験への思い入れの強さが見せる反応なのか、意外にも少々油断していたことによる反応なのか、はたまた両方なのか。

 そんなことを気にしていると堀北がオレを見据えて提案してくる。

 

「綾小路くん、お互いにメールを見せ合わないかしら?」

「そうだな」

 

 拒否する理由は特にないので堀北にオレへ送られてきたメールの画面を見せる。同様に堀北もオレにメール画面を見せてくれる。

 

「内容はほとんど変わらないようね。

 違いは指定された場所と時間くらいかしら?」

 

 堀北の言うようにオレと堀北に送られてきたメールは場所と時間を除いてほとんど同一の文章だった。堀北の集合時間は18時、所要時間は同じく20分ほど。場所は2部屋離れている。

 

「時間帯が異なるのは気になるわね。試験開始時刻が異なるのであれば、先に問題を知る者とそうでない者とで不公平が生まれそうだけれど」

「今はまだなんとも言えないな」

 

 堀北は何かを思案しているようでほんの少し沈黙してから口を開く。

 

「色々気になることはあるけれど、ひとまず時間になったら足を運ぶしかないと思うわ。

 あなたはどう考えているのかしら?」

「オレとしてもいまできることはそんなにないと思う。

 しいて挙げるなら平田や佐倉にもメールの内容を確認するくらいだな」

 

 するとちょうどチャットの着信音が鳴る。相手は平田だった。

 

『綾小路くんにもメールは届いたかい?』

『ああ、届いた。

 オレは20時40分からに指定されていたんだが、そっちは?』

『僕も20時40分からだったよ』

 

 どうやら平田とは同じ場所、同じ時間帯が指定されているようだ。

 これを偶然と捉えるか、何らかの作為があると捉えるかは、今は判断を保留にしておくべくべきだろう。

 平田に堀北とは指定された場所と時間が違うことを伝えて人によって異なるかもしれないことを確認する。オレと平田で一緒に集合場所へ向かうことを約束して一旦チャットは切り上げる。

 

「とりあえず、私の方が早いみたいだから後で報告するわね」

「そうだな。助かる」

 

 

 ******************

 

 

「佐倉、櫛田の様子はどうだった?」

 

 堀北と一度分かれたオレは周囲に人のいない場所に佐倉を呼び出し櫛田の監視報告を受けていた。

 

 佐倉愛理の活用方法は櫛田の監視役兼諜報員だ。

 佐倉愛理は優れた容姿をしていて、過去にグラビアアイドルをやっていたにもかかわらず、クラスでの存在感はあまりない。佐倉自身が視線を恐れて極力目立たないようにしているのと彼女自身の性格の問題もあるが、それでも立ち位置も含め佐倉の存在感は絶妙な位置にある。

 注意したら気づくが、注意しなければ気づきにくい。

 誰もが似たようなものではあるが、佐倉は人よりその特性がわずかに強い。

 

 そこでオレは佐倉に()()()()()()()()櫛田桔梗を監視する諜報員という役割を与えた。

 登校復帰直後の様子からして佐倉がオレと強いかかわりを持っているのは櫛田のみならず多くのDクラス生徒が察していることだ。

 そんな佐倉が遠方からずっと見張っていれば櫛田はオレが佐倉に監視させていると気づきそちらに注意が向くはずだ。加えて佐倉の注意しなければ見つけにくい希薄な存在感もあって櫛田の意識のかなりの部分が佐倉愛理に向く。

 これにより櫛田の行動抑止と本命の諜報員の秘匿へとつながる。

 

 正直佐倉には諜報員としての役割はそれほど期待していない。

 佐倉と櫛田の関係性では得られる情報に限りがあるし、佐倉の能力的に優れた諜報を期待するのは難しい。

 だが、佐倉の周囲からの視線の意味を察する観察眼はそれなりに有効だ。

 櫛田や周囲の悪意の有無の判別などは、報告をきいていて有用だと感じることが多い。

 見せ駒ではあるが、諜報員としての役割を全く期待していないわけではない。

 

 今は佐倉に諜報員として櫛田の様子を報告してもらっている。

 

「そ、その……あんまり変わりはなかったかな? 

 いつも通り、だったと思う」

「そうか。特別試験のメールを受信した後はどうだった?」

「いろんな人に話しかけてる感じだったかな」

「なるほどな」

 

 おそらくメールの内容を周囲と確認したのだろう。

 

「そういえば佐倉。おまえのメールはどんなだった?」

 

 そう尋ねれば佐倉はオレに自身に送られてきたメールを見せてくれる。

 内容は平田、堀北同様オレに送られてきたものとほとんど変わらない。集合場所と時間がオレと平田とも、堀北とも異なったものではあった。

 

「特別試験も頑張ってくれ。

 櫛田の件も、これからもよろしく頼む」

「う、うん……!」

 

 

 ******************

 

 

「そろそろだな」

「そうだね」

 

 時刻は20時30分前。

 オレは平田と一緒に集合場所へと向かう。

 説明会の設けられている場所は自室の1つ下の2階のため、エレベーターを使わず階段で下りる。到着するとやや疎らに生徒の姿が見られる。

 

「全員僕たちと同じグループ……なのかな?」

「どうだろうな。まだ決めつけるには早い気もするが」

「そうだね」

 

 平田と目的の場所まで一緒に来ると、数人の男女が扉近くに集まっていた。その上顔見知りが多い。若干近づきたくないとも思ったが、オレたちは騒ぎ立てることなくその一行に近づいていった。

 

「綾小路に平田か……。

 おまえたちも20時40分組か?」

 

 最初に声をかけてきたのは少々意外に思ったが葛城だった。

 葛城には無人島での試験で騙すような真似を働いたためさすがに少々気まずい。

 

「そうだよ。

 おまえたちもっていうことは、君たちも同じグループみたいだね」

 

 オレが返答に困っていると平田が代わりに答えてくれた。

 するとこの場に居る1名と背後から近づく1名がこの状況を面白がってか上機嫌になり始める。

 

「ふふふ。あなたと同じグループだなんて光栄です、綾小路くん」

「ククク。おまえらもかよ。

 こりゃ面白くなるかもな」

 

 ………………。

 

「平田、どうやら大変なグループに巻き込まれてしまったようだな」

「そのようだね」

 

 オレの言葉に平田が同意すると、葛城が「おまえたちも人のことは言えんだろう」と小さく呟いた気がした。

 言われてみればそうかもしれない。

 

 オレはふと気になってこの場に居る見慣れない生徒たちへと目を向ける。

 

「平田、あそこにいる生徒はもしかしてBクラスか?」

 

 オレが尋ねたのはオレたち、正確には龍園が来てから警戒して距離をとった様子の3人組だ。坂柳、葛城の近くには生徒2名、龍園は生徒3名を引き連れていることからそうではないかと気になった。

 何気にオレはBクラスとはまだ誰とも面識がないのも気になる理由の1つだ。

 

「ええ、その通りです。

 あちらにいるのはBクラスの一之瀬帆波さんに、神崎隆二くん、それと確か津辺仁美さんです。

 一之瀬さんはBクラスのリーダー的役割を担っている人物ですよ」

 

 平田にきいたのに何故か坂柳が答えてきた。

 本当なのか確認する意味で平田を見やると苦笑いしながら同意していた。

 

 Bクラスは前回の試験で表面上は1位をとるも、実態としてはそうとはいえない結果になっていることだろう。

 それは龍園がオレがAクラスと交わしたほとんど同様の内容の契約を結んだであろうことから考えられるし、その証左として彼女たちは自信のない面持ちをしているのに加えて、あからさまに龍園に怯え、警戒している様子を見せている。聞き及んでいるクラスの特徴からして、龍園が彼女たちと契約を結んだ方法はある程度推測できるため警戒するのも無理のないことだと考える。

 

「あれ? 平田くんに綾小路くんまで。もしかして同じグループなのかな?」

「……櫛田さんも20時40分組なのかな?」

「うん。その時間に来るようにってメールが…………って、なんか凄いねこのグループ」

 

 櫛田は呆気にとられながら、このグループをそう評する。

 

「相当厳しい戦いになるかもな」

「僕は気にしないよ。

 どんな人たちであれ、僕にできることをするだけだ」

 

 櫛田も既に情報を得ているのか、正確に状況を理解しているようだ。

 

「色々大変なことが始まっちゃいそうだけど、これからよろしくね。2人とも」

「そうだね。よろしく、櫛田さん」

「ああ、オレもよろしく頼む」

 

 この試験は櫛田を見極めるチャンスになるかもしれない。

 そんな内心を抱きながら櫛田と協力していくと取り繕ってみせた。

 

 

 ******************

 

 

「──ではこれより、特別試験の説明を行う」

 

「今回の特別試験では、1年全員を干支になぞらえた12のグループに分け、そのグループ内での試験を行う。

 試験の目的はシンキング能力を問うものとなっている」

 

「──今回はシンキング。考え抜く力が必須な試験になる。

 考え抜く力とは即ち、現状を分析し、課題を明らかにする力。問題の解決に向けたプロセスを明らかにし、準備する力。想像力を働かせ、新しい価値を生み出す力。そういったものが必要になってくる」

 

「グループは1つのクラスで構成されることはなく、各クラスから3人から5人ほどを集めて作られるものになっている」

 

「今回の試験では、大前提としてAクラスからDクラスまでの関係性を一度無視しろ。そうすることが試験をクリアするための近道だと言っておく。

 今から君たちはDクラスとしてではなく、竜グループとして行動をすることになる。そして試験の合否の結果はグループ毎に設定されている。

 特別試験の各グループにおける結果は4通りしか存在しない。例外は存在せず必ず4つのどれかの結果になるよう作られている」

 

 

『夏季グループ別特別試験説明』

 本試験では各グループに割り当てられた『優待者』を起点とした課題となる。定められた方法で学校に解答することで、4つの結果のうち1つを必ず得ることになる。

 

 ・試験開始当日、午前8時に一斉にメールを送る。『優待者』に選ばれた者には同時にその事実を伝える

 

 ・試験の日程は明日から4日後の午後9時までとする(一日の完全自由日を挟む)

 

 ・1日に2度、グループだけで所定の時間及び部屋に集まり1時間の話し合いを行うこと

 

 ・話し合いの内容はグループの自主性にすべて委ねる

 

 ・試験の解答は試験終了後、午後9時30分から午後10時まで(解答は一人につき一回)

 

 ・解答は自分の携帯電話で所定のメールアドレスに送信すること。それ以外は一切受け付けない。

 

 ・『優待者』にはメールにて答えを送る権利が無い。

 

 ・自分が所属する干支グループ以外への解答は無効とする。

 

 ・試験結果の詳細は、最終日の午後11時に全生徒に向けてメールにて知らせる。

 

 

 結果1

 グループ内で優待者及び優待者の所属するクラスメイトを除く全員の解答が正解していた場合、グループ全員に50万プライベートポイントを支給する。例外として優待者には褒賞として100万プライベートポイント支給する

 

 結果2

 優待者及び所属するクラスメイトを除く全員の答えで、一人でも未回答や不正解があった場合、優待者には50万プライベートポイントを支給する

 

 

 以下の2つの結果に関してのみ、試験中、24時間いつでも解答を受け付けるものとする。また試験終了後30分間も解答を受け付けるが、どちらの時間帯でも間違えばペナルティが発生する。

 

 結果3

 優待者以外の者が、試験終了を待たず学校に答えを告げ正解していた場合。答えた生徒の所属クラスは50クラスポイントを得ると同時に、正解者には50万プライベートポイントを支給する。また、優待者を見抜かれたクラスは逆にマイナス50クラスポイントを罰として課す。及びこの時点でグループの試験は終了となる。なお、優待者と同じクラスメイトが正解していた場合は答えを無効とし、試験は続行する。

 

 結果4

 優待者以外の者が、試験終了を待たず学校に答えを告げ不正解だった場合。答えを間違えた生徒が所属するクラスは50クラスポイントを失う罰を受け、優待者は50万プライベートポイントを得ると同時に、優待者の所属クラスは50クラスポイントを獲得する。答えを間違えた時点でグループの試験は終了となる。なお、優待者と同じクラスメイトが不正解した場合は答えを無効とし受け付けない。

 

 

 禁止事項

 

 ・他人の携帯の窃盗行為や脅迫行為で優待者の情報を確認すること

 

 ・他人の携帯を勝手に使って答えを送る行為

 

 ・最終試験終了後は直ちに解散すること。一定時間他クラスの生徒同士での話し合いも禁じる

 

 上記禁止事項に違反すれば退学の処分も検討する。

 

 ・試験時間内の退室は原則認めない

 

 ・学校から送られるメールのコピー、削除、転送、改変等の行為は一切禁止

 

 

 他にも無人島試験のときと類似した禁止事項が多数

 

 

 ******************

 

 

 解散と退室を命じられたのでオレたちは一先ず部屋を出た。

 

 試験内容は事前に堀北からきいていたものと変わりなかったため、特に驚くようなこともなかった。

 それに既にこの試験でのオレの立ち回りはおおよそ決めている。

 後は行動のタイミングを計るだけだ。

 1つだけ注意するならば櫛田の行動だ。櫛田なら容易に優待者の情報を集めることができるだろうし、彼女の動き次第ではオレの行動に支障が出る恐れもある。

 櫛田の動向や目的が判然としない現状、やはり最大限の警戒をするに越したことはないだろう。

 

 それにしてもとグループのメンバーを思い出す。

 

『竜』グループ

 

 Aクラス:葛城康平・坂柳有栖・西川亮子・的場信二

 Bクラス:一之瀬帆波・神崎隆二・津辺仁美

 Cクラス:小田拓海・鈴木英俊・園田正志・龍園翔

 Dクラス:綾小路清隆・櫛田桔梗・平田洋介

 

 自分も含め随分な面子がそろったものだと思う。

 このメンバーで日に二回の話し合いとか正直気が進まない。

 

 はぁと溜息を吐きたい気分を抑えつつ、平田と自室に戻ろうと歩み始めると背後からオレに向けて声がかかる。

 

「綾小路くん、ちょっといいかな?」

 

 そう言ってオレの様子をうかがいみる櫛田桔梗は、表面上は天使のような可愛らしさを保っていた。






 更新に大変時間がかかってしまって申し訳ありませんでした。
 重ねて謝罪させていただきたいのですが、今後の投稿も今回みたいに期間が長くあいてしまったり、不定期になったりしてしまうと思います。
 本当にすみません。

 折角感想をいただいたのに長く返事を返すこともできないで申し訳なく思います。
 こんな失礼な対応をしておいてなんですが、感想は励みになるのでこれからも送っていただけると嬉しいです。
 また間があいてしまうかもしれませんが返信していきたいとは思っているのでぜひ書いてください。

 とりあえず、優待者(船上)試験は切りよく最後まで明日、明後日の同時間帯に中編、後編と投稿していけるとは思うので、楽しみにしていただけると嬉しいです。

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