平穏な日々は遥か遠く   作:石門 希望

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第10話 優待者試験(後編)

「…………ごめんなさい」

 

 翌日、暗い顔でうつむき気味の堀北がオレと平田に謝罪してきた。

 何に対して謝っているのかは容易に想像がつく。

 結果は出すから自分に任せてといった試験で結果を残すどころか惨敗してしまった。自信がありそうだったし、余計に悔しさと申し訳なさを感じているのだろう。

 

「堀北、今回の試験でのオレたちの敗因はなんだと思う?」

「それは…………」

 

 堀北は暫く口を閉じて考え込む。それに伴って平田には思い当たることがあるようで先に意見を言う。

 

「僕が優待者の情報を集めるのに時間をかけたせいだ。

 最初からメールで確認していれば、結果は違ったのかもしれない。

 ケジメだと言っていたけれど、この期に及んで僕はまだ、覚悟を決め切れていなかった」

「確かにそれもあるな。

 もっと早く優待者の情報を集め終わっていれば、打てる手立てはあったかもしれない。

 おまえは試験で勝つことよりもまだ微かに残っている自分の理想を優先した。

 それはおまえの弱点だ」

 

 平田は自省するようにじっと沈黙する。

 

「…………それでも、昨日の時点である程度の情報は集まっていたのは確かだし、任せてといった手前一番の責任は私にあるわ。

 私が他クラスをもっと警戒していればこんな結果にはならなかった」

「法則に心当たりはあったんだな?」

「ええ。可能性はかなり絞れていたわ。

 あとは1人でも他クラスの優待者がわかれば確信をもてた。

 そこで慢心してしまったのがいけなかった」

「ちなみにどうやって他クラスの優待者を確かめる気でいた?」

「高円寺くんよ。同じクラスだし、もし本当に彼が当てずっぽうでなかったのなら答えが知れると思ったの。

 でも彼、なかなか接触できなくて…………」

「そうか。あいつは目立つが神出鬼没だからな。

 それにしても、高円寺が試験を終わらせたいがために当てずっぽうでメールを送っていたらどうするつもりだった? 

 その可能性も低くはなかったはずだ」

「それは…………あなたが言ったから…………」

「あれはあくまで楽観的な可能性を言ったに過ぎない。

 それに他クラスの優待者が知りたいのなら、おまえが打つべき手立ては他にもあったはずだ。法則を見つけた後どうするつもりだったのかも考えられていないようにみえる。

 今回の試験で何が足りなかったのかを自分で気づくのがおまえの課題だな」

 

 瞳を潤わせる堀北は涙が流れるのを堪えているように見える。

 

「それと、2人にきかせたいことがある。

 佐倉、入ってきてくれ」

 

 オレと平田と堀北が話し合っていた部屋に佐倉が入室してくる。

 事前にオレの呼びかけに応じて入室してくるように扉の前で待機させていた。

 

「佐倉、昨日と今日の櫛田の動向を教えてくれ」

「う、うん。私、ずっと櫛田さんを見張っていたんだけど、昨日の夜、櫛田さんがCクラスのほうに行くのを見て…………」

「…………それは本当なの?」

「うん。そ、その…………私、こ、怖くてそれ以上は追えなかったんだけど…………ご、ごめんなさい!」

「佐倉、謝る必要はない。

 Cクラスは悪評もあるし、怖くて近づけないのも無理はない。

 それよりも気になるのはどうしてわざわざそんなところにまで行ったのかってことだ。

 佐倉、他に気になることはなかったか?」

「実は…………そのあと櫛田さんと龍園くんが話してる姿を見ることがあって…………それ以外は、いつも通りだった、と、思うよ?」

「いつも通りってことはDクラスの生徒と一緒にいたってことか?」

「そ、その、櫛田さんは友達が多いから、他のクラスの人ともいることは多かったと…………思う」

「Cクラス以外にもAクラスやBクラスの生徒とも話してたって事か?」

「うん」

 

 思案顔になる平田と堀北。

 すると堀北が何かに気付くと驚きを隠せない表情になる。

 

「…………もしかして、優待者の情報を教えたの?」

「まさか!!」

「どうだろうな。だが、可能性の1つとしては考えられる」

「でも、放送のタイミングを考えると当たっているかはともかくとしてメールを送ったのは2クラスだと考えるほうが自然よね。

 仮に櫛田さんがCクラスに情報を流したのだとしたら、もう1クラスは?」

「それがどちらかはわからないな。

 AクラスなのかBクラスなのか。メールを送ったと思われるクラスを絞ることはいま持っている情報では判断できない。

 なんなら試験が完全に終わったことだし聞きに行くか?」

「もしかして、坂柳さんかい?」

「ああ。あいつはAクラスのリーダー的存在だからな。

 それにBクラスのリーダーとは面識がないし、Cクラスに関しては龍園だ。試験が終わったからって素直に事情を教えてくれるとは思えない」

「わかったよ。早速聞きに行くかい?」

「そうだな。堀北と佐倉もついてくるか?」

「ええ、もちろんよ」

「わ、私はいいかな? どうせ行っても何もわからないだろうし」

「そうか。それならいままで通りに頼む」

「う、うん。任せて!」

 

 

 ******************

 

 

「ふふふ。ようこそいらしてくださいました、綾小路くん」

「早速だが聞いていいか? 特別試験のことだ」

「ええ、そのことをききに来るだろうとお持ちしておりました」

 

 坂柳は上機嫌に優雅に笑う。

 

「今回の特別試験ですが、私が完璧な勝利をおさめさせていただきました」

 

 坂柳がそう言うと、2人が驚愕に目を見開いた。特に堀北はAクラスに完全勝利をおさめられたのを手痛く思ってか苦々しい表情になる。

 

「あなた方は優待者に法則があることはご存じですか?」

「まぁな。そういったものがあることは平田と堀北も予想がついていた」

「そうですか。お伺いしますが、私のクラスの優待者を当てたのはあなた方ですか?」

「おまえなら察しはついているだろ。『猿』グループの優待者がAクラスじゃないのなら、オレたちはおまえ相手に惨敗したことになるな」

「そうですか。それは残念です」

 

 坂柳はこれを勝ち誇ることもなく普段通りの余裕のある態度を崩さない。

 

「坂柳さん、試験はもう終わってしまったのだし、答え合わせをしてもいいかしら?」

「ふふふ。構いませんよ。

 とはいっても単に法則を教えるのもつまらないので、私のクラスの優待者をお教えしましょう」

 

 そして坂柳がAクラスの優待者3名の名前を教えてくる。

 それをきいた堀北は、予想が間違っていなかったのか悔しそうな表情を隠し切れないでいる。

 一方平田は得心が言ったという様子で優待者の法則を割り出して見せた。

 

「なるほど、干支の順番と五十音順の並びが優待者の法則だったんだね」

「ええ。その通りです」

 

 例えば『牛』グループの優待者は佐倉愛理だった。

 干支で『牛』の順番は2番目。

 そして『牛』グループのメンバーを五十音順に並べ替えると、小橋夢・()()()()・沢田恭美・清水直樹・時任裕也・西春香・二宮唯・野村雄二・松下千秋・矢島麻里子・幸村輝彦・吉田健太・渡辺紀仁になる。

 そのため干支で2番目になる『牛』の優待者は五十音順でちょうど2番目になる佐倉が選ばれたわけだ。同様の法則は外村にも通用するし、『馬』グループの南にも当てはまっていた。

 そうなるとオレと平田のいた『竜』グループの優待者は神崎という生徒になるが、さすがに事前情報が少なすぎて見抜けなかったな。それに彼自身もうまく違和感のない自然な様子を装っていた。それなりに実力をもっているのかもな。

 

「ふふふ。どうやら全員納得がいったみたいですね。

 話はそれだけですか?」

「そうだな。一先ず帰らせてもらうとする」

「それは残念です。折角ですから久しぶりにチェスでもいかがですか?」

「悪いが遠慮させてもらう。

 もう少しだけ3人で話し合いたいこともあるしな」

「そうですか」

 

 坂柳は本当に残念そうにする。次いで平田と堀北に目を見やった後、「それにしても」と呟いてからオレの方をみて意味ありげな微笑をつくる。

 

「あなたのクラスは個性的な人が多いですね」

 

 その言葉を無視してオレたちは一旦先ほどまで話し合っていた部屋まで戻ることにした。

 

 

 ******************

 

 

「坂柳さんの最後の言葉、どこか引っかかるわね」

「…………そうだね」

 

 部屋に戻ったオレたちは再び試験結果について話し合っていた。

 そこで話題に上がったのが先ほど坂柳がつぶやいた意味ありげな言葉だった。

 

「もしかしたら、櫛田さんはAクラスにも情報を漏らしていたのかしら?」

「信じたくないけどその可能性は考えられるね。

 綾小路くんはどう思う?」

 

 2人から視線を向けられるのでオレも答えることにする。

 

「確かにその可能性は考えられる。

 しかし、当然だがそのほかの可能性を捨てるわけにはいかない。

 櫛田以外から情報を得たのかもしれないし、坂柳の最後の言葉はただ単におまえたち2人のことを指したのかもしれない。単純に自クラスだけの情報でギャンブルに出た可能性もなくはない」

「そうだね。BクラスやCクラスから情報を得た可能性も当然考えられるよ」

「でもその場合、最悪なのは…………」

「Dクラスに櫛田以外の裏切り者がいることだな」

 

 それをはっきり口にすると、平田も堀北も表情を硬くする。

 それは考えたくない最悪の可能性なのだから当然だ。

 

「でもどうして…………」

「平田の恐怖政治に内心反発を抱くものはいないわけじゃない。

 例え平田があれ以上のクラスの崩壊を望まないが故の方法だと理解していてもな。

 その上Dクラスは精神的に不安定な生徒が多い。

 脅しは禁止されているが、それ以外の要因で情報を漏らしてしまうことは十分に考えられる可能性だ」

 

 するとさすがに堪えたのか平田が随分と気落ちする。

 

「別に平田は間違っていない。

 ただ、どうしてもそういう弊害はつきものだっただけだ。

 おまえが行動しなければ、いまもDクラスはまとまるどころか虐めが続いていたかもしれない。

 現状を嘆くだけじゃなく、おまえが残した成果もちゃんと認識しろ」

 

 オレの言葉を飲み込んでから、少しかぶりを振って平田は気を取り直す。

 

「仮に櫛田さんがAクラスに情報を渡していたとして、その理由はなぜかしら? 

 怪しいかもしれないけれど、彼女だってAクラスを目指したい気持ちはなくはないんじゃないかしら? 

 それに2回の放送の両方ともに彼女が関わっていたとすると、2クラスにも情報を渡す必要はないと思うの」

「櫛田は徹底的に平田がDクラスを制御している現状を潰したいのかもな。

 ただでさえ開きのあるAクラスに勝ち逃げされたうえに、残されたダメージ軽減の可能性すら削られてしまったから平田には今回の試験では小さくない傷がついてしまった。

 Aクラスに上がることを期待して平田に従っている連中からすれば、この試験結果は不満に思うはずだ」

「だとしても、どうして先にAクラスに教えたのかは疑問ね。

 先にBクラスかCクラスに教えたほうが、Aクラスとの開きが大きくなることはなくて、彼女がクラスの主導権を握る日が来た時に有利になると思うのだけれど」

「櫛田の目的がわからない以上、教えるクラスに特に理由なんてなくて平田の体制を崩せればそれでいいなんてことも考えられる。

 だが、仮定として櫛田が最初にAクラスに情報を渡したのに明確な理由があると考えるなら、何らかの契約を持ち掛けたのかもしれないな。

 それこそオレたちが無人島で結んだ契約みたいにな。

 あれはクラス単位での契約だったが、個人的な契約を結んだことも考えられる」

 

 平田も堀北も随分と深く考え込んでいる。

 だが、現状ではどれだけ話し合ったところで答えなんて出ないだろう。

 そう思って、話を切り上げようとしたとき、平田が意を決したような表情でオレを見据えているのに気づく。

 

「どうした?」

「綾小路くん、君が坂柳さんに優待者を教えたってことはないかい?」

「そんなことはありえないわ!」

 

 オレが答える間もなく珍しく抱いた感情を隠しきれない様子の堀北が先に口火を切ってしまった。

 

「確かに綾小路くんと坂柳さんは幼馴染よ。

 でも、坂柳さんは綾小路くんと手を組むどころか完膚なきまでに打ち負かしたいとよく言っているわ。彼女はあくまで敵対を望んでいる。それに、前の試験も今回の試験も、編入してから彼はずっと、クラスのために色々考えてくれてる。彼と坂柳さんは親交はあっても手を組むような間柄じゃない。

 それに、今回の試験、彼が積極的に動かなかったのは…………」

 

 急に言いよどむ堀北。

 平田は思い当たることがあったようで、彼女が何を言わんとしているか察した様子だった。

 

「ごめん。あくまで可能性の1つとしてきいただけだよ。

 本気で疑っていたわけじゃない」

 

 平田の謝罪に対して堀北は不機嫌な様子でそっぽを向く。その方角はオレからも外れていた。

 

「もしかしたら、これが櫛田さんの狙いだったのかもしれないね。

 綾小路くんと幼馴染の坂柳さんが率いるAクラスに情報を伝えて僕たちの疑念が綾小路くんにも向くことを想定していたのかもしれない。ごめん」

「オレが坂柳と幼馴染で交友を持っていることは否定できない。

 疑われるのも仕方がないから気にするな」

 

 気まずい沈黙が部屋を支配し始める。

 

「一先ず、今日は解散しよう」

「…………そうね。私も少し疲れたから自室でしばらく休ませてもらうわ」

 

 そのやり取りを最後に、オレたちの話し合いは解散することになった。

 

 

 ******************

 

 

 自室に戻った堀北鈴音はベッドの上でひざを折り、そこに顔をうずめていた。

 

(今回の試験、彼が積極的に動かなかったのは、私に期待してくれていたから…………)

 

 思い返すのは先日の会話だ。

 

「──―今回の試験はあいつの成長につながればと思ってる」

「理由を聞いてもいいかな?」

「堀北はオレにも平田にもないものを持っている。

 それはAクラスに上がるという強い意志だ。

 あいつはいまのどん底のDクラスにあってなお、Aクラスに上がることをあきらめていない。

 それはいつの日かクラスがピンチに陥った時の救いになるかもしれないからな」

 

 堀北鈴音はそのときの会話をきいていた。

 薄々彼がこの試験に本気で取り組んでいないことには気づいていたが、その理由を知って彼女の思いは奮い立っていた。

 この特別試験での敗北は彼の責任であることも理解している。

 貴重なポイントを得る機会だというのに人任せにするなど論外だ。負けた責任は彼にだってある。

 それでも、堀北鈴音は嬉しかったのだ。

 

 ────期待されている

 

 綾小路清隆から期待されていることを支えに立ち直った堀北鈴音は、特別試験という数少ない機会で彼から期待を寄せられていることが喜ばしかった。

 

 ────何より、彼から彼にはないものを持っていると評されていると知って

 

 自分に彼にはないものを持っていると言われて、どこか格上に見ていた彼より学力以外で優れているものがあると褒められて、それがクラスを救うときが来るときがくると期待されているのだと思えば、決して表情には出したくないと思うものの内心が顔に表れそうで抑え込むのに苦労した。

 

 ────だから、この試験で彼の期待に応えたいと思った

 

 この試験で有無を言わせぬ結果を見せて、どうだと誇ってやりたかった。

 勝利をおさめて自分の力を証明する。自分の力はすごいのだと思わせたかった。

 

 けれども、結果は惨敗。

 

 力を証明するどころか、何一つ自分が成長していないのだと思い知らされる結果になった。

 

(私は…………何も学んでなかった)

 

 期末試験、人に勉強を教えることで、その最中の成長を知ることで他者を侮って話いけないと学んだはずだった。

 けれど、自分が一番優れているという認識が抜けきっていなかったのだと思い至る。

 優待者の法則の検討がついたとき、勝利を残せると過信した。

 その結果、他クラスに足元をすくわれ敗北した。

 いまだに自分は他者を侮っていたのだ。

 この危うさをようやく堀北鈴音は実感した。

 

(…………私はどうすればよかったのかしら)

 

 彼から課された課題。

 自分が他に打つべきだった手立て。

 その可能性を検討していると、自分が実行しようとしていた策のあまりの不出来に自嘲したくなる。それはあまりにも何一つとして確実性のない作戦だった。

 

(…………いつの間にか、彼の言うことを妄信していたのね)

 

 あのときの自分は何一つとして冷静じゃなかった。それどころか妄信するあまり彼の示したたかだか可能性の1つに飛び出してしまった。

 けれど、堀北鈴音には気づいたことがあった。

 

(彼は完璧じゃない)

 

 兄のように圧倒的な実力をもっているわけではない。

 堀北鈴音にとって、綾小路清隆は自分にはないものを持っていて、自分には見通せないことまで見えている存在だ。けれど、兄とは違って自分でも勝れるところはあるし、自分だけが持っているものもある存在だ。

 それを認識したとき、堀北鈴音はようやく思い至る。

 

(…………彼を頼ればよかったのかしら?)

 

 驚かせたい相手に頼るというのは受け入れがたくはあったものの、自分だけじゃ他クラスのリーダー、特に坂柳有栖に劣ることを思い知った。

 綾小路清隆が彼女に劣るかはわからない。

 少なくとも彼はチェスにおいては彼女と互角の実力をもつ。そんな彼がはじめから自分に頼らず無人島と同様に勝利を目指していればどうなったのだろうと考える。

 が、答えは出てこない。

 それでも、自分1人で戦おうとせず、彼に頼れば違う結果を導き出せた気がしてならない。

 

 堀北鈴音の脳裏に一つの不安が過る。

 

(失望されていないかしら?)

 

 思い出すのは暗闇の中、兄から向けられた冷たい瞳。

 あの視線をもう一度誰かから、特に彼から向けられるのは耐え難いだろうと想像してしまう。

 兄からも、彼からも、これ以上失望されたくない。

 だから…………

 

(今度こそ…………!)

 

 沈んでいた顔を上に向かせる。

 次にどのような試験が待ち構えているのかはわからないが、今度こそ間違わないと堀北鈴音は決意した。

 

 

 ******************

 

 

「ふふ。ご苦労様でした、綾小路くん」

「そっちこそな」

 

 誰もいない暗がりで坂柳は待ち構えていた。

 

「あなたのおかげで以後、私のAクラスでの地位は揺るがぬものとなったでしょう。

 あなたは私との約束を十分に果たしてくださいました。

 これからは私が約束を果たしていく番ですね」

「そうだな」

 

 オレは坂柳に櫛田が裏切るタイミングを見計らってDクラスの優待者を教えていた。

 坂柳ならオレと同様自クラスの優待者だけである程度法則を絞り込むことはできただろうが、それでも命令を下すからには他クラスの優待者情報はあれば便利だ。

 

「それにしても、今回は随分と派手に動きましたね」

 

 水面下とはいえ、今回オレはクラスを裏切ったのだから派手に動いたと思われても仕方がないだろう。

 実際平田からは本気ではないが疑念を向けられたし、他クラスなら龍園は立場的にもことの真相に気付くだろう。

 平田に引かせた統治体制にも傷がついてしまったことだしな。

 だが、そんなことは…………

 

「問題ない」

 

 この一言に収束する。

 それに平田や堀北がどれほどオレを疑うのかも確かめたかった。

 結果、予想を超えて堀北がオレに依存していることを知ることができた。それに2人に櫛田の脅威を過剰に認識させることにも成功したはずだ。櫛田もボロを出したから今後の動きに制限をつけることがいくらか容易になった。

 多少疑われはするものの、それ以上のメリットはある。

 この試験でオレが得たものは多い。

 

「ふふふ。少しでも早くあなたを私のクラスで迎え入れられるように、準備を進めますね」

「ああ、任せる」

 

 Dクラスでオレが平穏を得ることはできない。

 それだけの立場に収まってしまったし、その立場から降りることももうできないだろう。そんなことは平田を暴君につかせる前から分かっていたことだ。

 初めからオレはDクラスを離れる気でいた。

 だからこそ表向き参謀の立場にまでついたし、クラスの勝利へと貢献するような活躍も見せた。

 平田に先頭を立たせたのもそのためだ。

 

 オレが離れた後で、また元の惨状に戻られても困るからな。

 

 加えて参謀という立場は引き抜かれるのにちょうどいい。

 これがリーダーまで勤めていたら、移籍の際の面倒が大きすぎる。

 

「あなたと同じ教室で過ごせる日々が待ち遠しいです」

 

 オレが人間らしい感情を持っているのなら、こんなときにどう思うのだろう。

 オレも楽しみだと思うべきか? 

 それとも、クラスを離れることに罪悪感を覚えるべきか? 

 わからないが、いまオレの胸の中に抱いている感覚がその答えなのかもしれない。

 

 平穏な日々を学ぶことで、いまオレの中に渦巻く感情の名前を知ることができるのだろうか。

 できたらいい、とオレは真っ暗闇の絶望の中で縋るような希望を抱いた。

 

 

 ******************

 

 

 子(鼠)──―裏切り者の正解により結果3とする

 丑(牛)──―裏切り者の正解により結果3とする

 寅(虎)──―裏切り者の正解により結果3とする

 卯(兎)──―裏切り者の正解により結果3とする

 辰(竜)──―裏切り者の正解により結果3とする

 巳(蛇)──―裏切り者の正解により結果3とする

 午(馬)──―裏切り者の正解により結果3とする

 未(羊)──―裏切り者の正解により結果3とする

 申(猿)──―裏切り者の正解により結果3とする

 酉(鳥)──―裏切り者の正解により結果3とする

 戌(犬)──―裏切り者の正解により結果3とする

 亥(猪)──―裏切り者の正解により結果3とする

 

 以上の結果から本試験におけるクラス及びプライベートポイントの増減は以下とする。

 

 Aクラス……プラス250cl  プラス400万pr

 Bクラス……マイナス150cl 変動なし

 Cクラス……変動なし      プラス150万pr

 Dクラス……マイナス100cl プラス50万pr

 

 

 





裏切り者「Dクラスに櫛田以外の裏切り者がいることだな」


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