平穏な日々は遥か遠く   作:石門 希望

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 今回は短めです


 幕間 夏のバカンスの最終日

 子(鼠)──―裏切り者の正解により結果3とする

 丑(牛)──―裏切り者の正解により結果3とする

 寅(虎)──―裏切り者の正解により結果3とする

 卯(兎)──―裏切り者の正解により結果3とする

 辰(竜)──―裏切り者の正解により結果3とする

 巳(蛇)──―裏切り者の正解により結果3とする

 午(馬)──―裏切り者の正解により結果3とする

 未(羊)──―裏切り者の正解により結果3とする

 申(猿)──―裏切り者の正解により結果3とする

 酉(鳥)──―裏切り者の正解により結果3とする

 戌(犬)──―裏切り者の正解により結果3とする

 亥(猪)──―裏切り者の正解により結果3とする

 

 以上の結果から本試験におけるクラス及びプライベートポイントの増減は以下とする。

 

 Aクラス……プラス250cl  プラス400万pr

 Bクラス……マイナス150cl 変動なし

 Cクラス……変動なし      プラス150万pr

 Dクラス……マイナス100cl プラス50万pr

 

 

 試験最終日の午後11時、船上にいる全生徒に一斉にメールが届いた。

 

 Dクラスのクラスポイントはマイナス100ポイントとなっているが、平田が先生に確認したところ、この結果が反映されるのは夏休みまでに持っていたクラスポイントらしい。

 そのため実際には100ポイントも失うわけではない。夏休み以前にまで持っていた、期末試験で得た少ないポイントを失うだけで済む。

 つまり夏休み明けからのDクラスのクラスポイントは無人島で得た132ポイントになるわけだ。それにプライベートポイントに関してはAクラスとの契約もあって、実質は332クラスポイント分のプライベートポイントを来月から得られることになる。

 

 ともあれ、この夏休みでクラス間でのポイント競争の様相は大きく変化した。

 夏休み明けからの各クラスのクラスポイントはこんな感じになるだろう。

 

 Aクラス…………1214cl

 Bクラス…………713cl

 Cクラス…………618cl

 Dクラス…………132cl

 

 Aクラスが大きく差をつけて首位。BクラスとCクラスは僅差だ。たった100ポイントしか変わらず、その上得られるプライベートポイントにおいては関係性が逆転する。そこから大きく差をつけられて現状戦いにもなっていないのがDクラスだ。

 このクラスがAクラスとして卒業するのはかなり厳しいと言わざるを得ない。

 それでもいまだにあきらめていない堀北には素直に感心する。

 まぁ、ポイントだけの話で言えばこれから先はまだ長いため可能性がないことはないだろう。

 

 何はともあれ…………

 

「綾小路くん」

 

 呼ばれたほうへと視線を向けると黒髪の美少女、堀北鈴音がオレを見ている。

 今日は約束の日。なんの約束かと言えば、無人島に上陸する前に坂柳と交わした代理を立てたチェスの勝負を決める日だ。

 堀北はやけにこの日のために張り切っていて、必ず勝利してみせると意気込んでいた。

 

 オレとしても堀北をチェスで鍛える時間は悪くない時間だった。

 それというのもチェスにおける堀北の成長がオレの予想を超えるものだったからだ。オレが負けることはないが、せいぜい2週間と始めたばかりの初心者だというのに既に腕前は経験者にも十分通用するものになっているだろう。部活レベルなら勝てるかもしれない。

 

「行きましょう」

 

 試験結果のメールを確認してから少し落ち込むことはあったが、既に切り替えはできているようだ。

 オレは堀北と坂柳の待つ場所へと向かう。

 

 

 ******************

 

 

「お待ちしておりましたよ、綾小路くん。それに堀北さん」

 

 待ち合わせ場所に到着すると坂柳がチェス盤を既に用意して歓迎してくれた。

 坂柳の態度は相変わらずだ。いつも通りの女王様然とした振る舞いと風格を見せている。

 堀北はそんな坂柳に一瞬険しい視線を向けるも、すぐにそらして対戦相手となる橋本と向かい合う。

 橋本は気負った様子もなくいつも通りの態度だった。

 

「それでは早速始めましょうか」

 

 坂柳が取り仕切るように言葉を発し、それに応えて橋本が両手に白と黒の駒を握る。

 駒は上手く握られていて完全に見えなくなっている。もしかしたら一連の流れを想定して練習したのかもしれない。

 堀北は迷うことなく右手を選ぶ。

 橋本が手を開くと、そこには白の駒があった。

 

「堀北さんが先行のようですね」

 

 そして堀北、橋本の両名が挨拶を交わし、2人の対局が始まった。

 

 

 ******************

 

 

「チェックメイト」

 

 試合は割と一方的だった。

 先行をとった堀北が油断なく着実に橋本を追い詰めて、橋本を降参に追い込んだ。

 橋本は途中からあきらめた様子だったので、この結果も必然といえる。

 

「ふふふ。これで私と綾小路くんの勝負も私の負けということになってしまいましたね。

 この短期間でここまで堀北さんを鍛え上げるとはさすがです」

「いや。オレは何もしていない。

 この結果は堀北が頑張ったから得たものだ」

 

 これは本当にそう思う。

 勝負することが決まってから、オレはこの勝負のために自分で何かするということは本当に何もなかった。強いて言うなら堀北と何度も対局したくらいだが、それも頼まれたから暇つぶしに相手したに過ぎない。

 オレと対局していない間にも、堀北はメキメキと実力をつけていた。おそらくオレとの対局以外の時間にもあいつなりの努力を続けていたのだろう。

 たかがこんな暇つぶしの勝負ごときにとも思うが、あいつはオレの期待に応えようと必死に取り組んでいるのは知っている。今回の勝負も、オレの期待に応えたいという思いと、もしかしたらオレに恥をかかせないようにと頑張ってくれたのかもしれない。それに特別試験の雪辱戦の意味も込められているのかもな。

 

「ともかく、今回の勝負は私の負けです。

 勝利を手にしたのですから、何か私に命令でもなさいますか?」

「待って」

 

 坂柳からの提案を遮るように堀北が声をあげた。

 オレたちの注目を堀北が集める。

 

「まだ勝負は終わってないわ」

「それはどういう意味ですか?」

「だってそうでしょう? 

 チェスは先手が有利。今回私は白だったのだから、それで勝っても本当の勝利とは言えないのではないかしら?」

「いやいや。いまの勝負で俺と堀北ちゃんの腕前の差ははっきりわかったじゃん。

 俺が先手になったところで勝てっこないって」

「やってみなければわからないでしょう? 

 間違いなく先手が有利なのは変わらないのだし、もう一勝負する時間も十分にあるわ。

 それならこの際、後腐れなく決着をつけたほうがいいと思うのだけれど」

「確かにその通りですね。橋本くん、もう一勝負してください。これは命令です」

「おいおい……神室ちゃんからも何か言ってくれよ」

「やれば」

「綾小路」

 

 橋本から縋るような視線を向けられるも、オレは黙って目をそらす。

 

「橋本くん、これ以上の無様は許しませんよ」

 

 それはいまの態度のことだろうか? それともいまから始まる勝負のことだろうか? 坂柳のことだからたぶん両方だろう。

 先ほどまでヘラヘラした様子だった橋本の顔が引きつる。おそらく橋本にはこの展開が読めていたから頑なに勝負を引き受けなかったのだろう。先攻で負けたらそれこそ言い訳できなくなってしまうからな。

 オレは橋本に心の中で合掌する。

 

「それでは、もう一局はじめましょうか」

「ええ、そうね。今度は私が後攻よ」

 

 

 その後、橋本を船で見かける者はいなかったらしい。

 

 

 ******************

 

 

「坂柳さん、私と勝負してくれないかしら?」

 

 橋本の処刑が終わった後、堀北が坂柳にそんな提案をした。

 正直ちょっと意外だった。あいつは坂柳を少なからず敵視しているし、自分のいまの実力が坂柳に及んでいないことも知っているはずだ。そんな相手にこのタイミングで自分から対戦を申し込むとは思わなかった。

 

「もちろん構いませんよ。

 ですが、もうそろそろ船も到着してしまいます。

 対戦はまた後日ということでよろしいでしょうか?」

「もちろんよ」

「そういえばまだお互いの連絡先は存じませんでしたね。

 この機会に交換しましょうか」

「ええ」

 

 確かにいままで2人には直接的なつながりはなかったな。

 毎度毎度2人が接するのはオレを経由してのことばかりだった。

 乗船中のチェスを交わしながらの会話も、先日の特別試験の結果を聞き出すときも2人が接する機会はあったがすべてオレを中継している。

 

 この変化はオレの面倒を省いてくれるかもしれない。

 

 2人の関係性のわずかな変化にオレはそう期待することにした。

 

 

 ******************

 

 

 薄暗い人目につかぬ場所。

 そこを歩く一人の少女がいた。

 少女は金色の長髪を後頭部でひとまとめにして、一見豪華で華やかな見た目からその性格も明るく強気なのだろうと思われる。

 しかし、それは事実とは異なる。

 少女の瞳には生気がなく、その足取りもどこかおぼつかない。

 

 無機質。

 

 少女を一言で表すのならこの単語が的確だ。

 少女はただひたすらに、歩くことを命じられた機械のように、一歩、また一歩、とゆっくりとしか言えない速度で歩いていく。

 彼女の足取りはおぼつかないながらも、着実に目的地へと向かっている。

 その目的地がどこか、それを知るものは少ないだろう。

 事実、少女の彼氏である平田洋介はこの動向を知ることはない。

 彼をして知らないのなら、少女のクラスメイト達にこの行動を知るものはいないと言っていいだろう。

 

 ならば、誰が知っているのだろうか? 

 

 その答えは、薄暗闇の先、そこで待ち潜む人影が答えだろう。

 

「やっと来た」

 

 呆れといら立ちを含んだセリフを吐くもう一人の少女。

 その少女、真鍋志保は暗闇の中で無機質な少女、軽井沢恵を待ちわびていた。

 

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