平穏な日々は遥か遠く   作:石門 希望

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 前話ラストの内容を変更しました。
 変更前は平田くんに暴君をやめてはもらうものの意見をまとめる役をお願いする感じになってしましたが、変更後は平田くんには基本的に一線を退いてもらう感じになりました。
 内容の変更で少々混乱させてしまうかもしれませんがご容赦していただけると助かります。



第17話 ペーパーシャッフル(前編)

 体育祭も終え肌寒くなってきた10月中旬。

 あれから平田はクラスに概ね受け入れられたと言っていい。

 当然全員快く受け入れたというわけではない。

 男子は比較的良好な関係に落ち着いたように見えるが、問題は女子だった。自業自得ではあるのだが堀北を虐めた女子には平田から暴力を振るわれたものが多い。特に篠原なんかは今更元に戻られたところでそう簡単に割り切れるものでもなさそうだった。

 また、未だ人形めいた無機質さを放つ軽井沢に変化はなかった。

 完全に破壊された心はそう簡単に元には戻らない。

 

 いまの平田は男子と仲が良くて女子とは距離を置きがちになっている。

 これは入学当初とは真逆だそうだ。

 

 ちなみに体育祭の直前に掛けられたCクラスによる冤罪の暴力事件の訴えは体育祭が終わるとすぐに取り消された。堀北は訴え返すべきだと主張していたが、生憎とあれを冤罪と証明するだけの証拠はなく有耶無耶になる可能性が高いだろう。

 

「それでは、堀北生徒会長より最後のお言葉を賜りたいと思います」

 

 司会の言葉とともに先日初の体面を果たした堀北学が現れた。ステージ中央のマイクへゆっくり歩み進んでいく。

 堀北……妹の方は兄の登場にまだ少し委縮が抜けきらない様子だが、その勇退をしっかりと見届けるつもりではあるらしい。

 

「約2年、生徒会を率いてこられたことを誇りに思うと同時に感謝します。

 ありがとうございました」

 

 あまりに短い挨拶を終えて堀北兄は元の位置へ戻る。

 

「堀北生徒会長、今までお疲れ様でした。

 それではここで、新しく生徒会長に就任する2年A組の南雲雅くんより、お言葉を頂戴いたします」

 

 新しく生徒会長に就任した南雲もマイクの前へ歩みを進めた。

 南雲は堀北兄に祝辞を述べた後、在校生に向き直って自らが掲げる方針を宣言した。

 

「近々大革命を起こすことを約束します。

 実力のある生徒はとことん上に、実力のない生徒はとことん下に。

 この学校を真の実力至上主義に変えていきますので、どうぞよろしくお願いします」

 

 2年生のほぼ全員が歓喜の悲鳴で盛り上がる。

 

 南雲雅か。どうやらきいていた通りの男らしい。

 

 

 ***************

 

 

「よかったっ!」

「うん。ひとまずは安心だね」

 

 中間テストは無事誰一人欠けることなく乗り切ることができた。

 

 それにしても今回の勉強会はいままでのそれとは随分と違ったなと思い返す。

 オレが知っている勉強会は平田によって恐怖で参加を促された暗い雰囲気が漂うものだった。しかし今回のそれは様相が異なった。

 休憩中にある程度の雑談や談笑が交わされるようになったり、生徒同士で教えあうことが多くなったりと様々な変化が見られた。

 それらの変化は勉強会としてみても悪いものではないだろう。

 

 ずっと息をつめて勉強をするのは疲れるだろうからな。

 やたらとオレに質問してくる佐藤にはちょっと困ったが。

 

「どの科目も私の方が高得点のようね。1科目も勝てなかった気分はどうかしら?」

 

 なぜか勝手に点数勝負された挙句に煽られた。

 

「勝手に点数勝負しないでほしいんだが」

「私より上の教科が1つもなかったのが期待外れだっただけよ。気にしないで」

 

 いや、それだけ言われたら普通気にするだろ。

 だがな堀北。オレはお前が小脇でガッツポーズしたのを見逃してないぞ。

 

「それにしてもお前の点数は随分高いな。

 今回のテストは簡単だったとはいえ、かなりしっかり勉強しないとここまでの点数は難しかったんじゃないか?」

「テストの対策をきちんとするのは当然のことよ」

「じゃあこの結果も当然ってことか」

「ええ、その通りよ」

「その割にはガッツポーズまでして喜んでた──いたっ」

 

 ひとしきりテストの結果に関しては語り終えたところで、茶柱先生はクラスに連絡事項があるそうでそれを伝え始めた。

 

「来週、2学期の期末テストに向けて8科目の問題が出題される小テストを実施する。

 既にテストに向けて準備している者もいると思うが改めて伝えておく。

 小テストは全100問の100点満点となっているが、その内容は中学3年生レベルのものだ。更にこのテストは成績には一切影響しない。0点だろうと100点だろうととって構わない。

 あくまでも現状の実力を見定めるためのものだ」

 

 それをきいてあからさまではないが安堵する生徒が数人いた。

 

「だがもちろん────小テストの結果が無意味なわけでもないことを先に伝えておく。

 次回行われる小テストの結果を基に『クラス内の誰かと2人1組のペア』をつくってもらうことが決まっている。

 そのペアは一蓮托生で期末テストに挑むことになる」

 

 

 特別試験(通称:ペーパーシャッフル)

 

 ・『クラス内で組んだ2人1組のペア』で期末試験に挑む

 

 ・試験科目は8科目各100点満点、各科目50問の合計400問

 

 ・本試験では赤点を2種類設定する

 

 赤点

 ・全科目に60点の最低ボーダーが設けられていて、1科目でも下回ればペア2名とも退学とする(ただし60点とはペア2名の合計点を指す)

 ・ペアの合計による総合点が基準(例年700点前後)に満たない場合はペア2名とも退学とする

 

 ・1日4科目の2日間に分けて実施する

 

 欠席

 ・学校に欠席した理由の正当性が認められた場合は過去の試験から概算した見込み点が与えられる

 ・休むに該当する理由であった場合欠席したテストは全て0点扱いとする

 

 ・退学者は例年1組か2組。大半の脱落者はDクラス。

 

 ・テスト中にカンニングした者は即失格とみなしパートナー共々退学とする

 

 

 ・期末テストで出題される問題をクラスで考案する

 

 ・考案した問題は所属クラス以外の3クラスの内1つに割り当てられる。(これを他クラスに対する『攻撃』とし、迎え撃つクラスは『防衛』とする)

 

 ・自クラスの総合点と相手クラスの総合点を比較し、勝ったクラスは負けたクラスからクラスポイント50を得る(ただし負けたクラスのポイントが50を切る場合は不足分を学校が補い、負けたクラスの借金とする)

 

 ・直接対決の場合は一度に100クラスポイント変動する

 

 ・総合点が同じだった場合は引き分けとしポイントの変動は行われない

 

 ・作り上げられた問題は教師が厳正かつ公平に審査する(指導領域の超過や解答できない問題がある場合は都度修正する)

 

 ・問題文と解答が完成しなかった場合は救済措置として期限終了後に学校側が作っている問題に全て差し替える(ただし学校が用意したテストの難易度は低い)

 

 ・問題作成に関する制限は特にない

 

 ・『攻撃』を希望するクラスは生徒側が1つ指名し担任教師に報告する

 

 ・別クラスと希望が被っていた場合には代表者でクジ引きを行う(被っていなかった場合はそのまま確定とする)

 

 ・クラスの指名は小テストの前日

 

 

「ペアの決定方法は小テストの後に伝える」

 

 

 ***************

 

 

「作戦会議よ、綾小路くん」

「了解」

 

 平田には招集をかけない。まずはオレと堀北の2人で方針を決めることにする。

 

「この試験、どう見ればいいかしら」

「かなり難易度の高い試験になるだろうな。

 各科目の赤点ラインは低めだが、他クラスに勝とうとすれば必要総合点はかなり高くなる。何せDクラスは他クラスよりも2人少ない。相当な点差をつけないと2人分を埋めることなんてできないだろう。体育祭同様退学者の穴は大きい。

 ペアってシステムも厄介だな。

 それに他クラスが問題をつくるとなれば2回りほど難易度があがることも予想できる。特に厄介なのは問題をつくる人間が捻くれてるほど難しくなることだ。答えが同じ問題でも問題文次第で正答率は大きく変わる」

「そうね……今回は勉強対策だけじゃなく、問題文を作る能力も試されるし」

「そこで提案なんだが、問題作成はオレに任せてくれないか」

 

 堀北は心底驚いた表情でオレの顔を見る。

 

「意外ね。あなたがそんな申し出をするなんて」

「そうかもな。だがこの役割はオレに向いてると思ったからこその提案だ。

 オレはお前よりテストの点は低いがお前よりも難しい問題をつくる自信はある」

「確かにそうかもしれないわね。あなたはとても捻くれてるもの」

 

 オレ自身そういう趣旨の発言ではあったがいざそういわれると微妙な気分になる。

 

「まぁ……あなたがそこまで言うなら任せるわ。

 ただし、私も内容は確認させてもらうし口も出す。

 これでいいわね」

「ああ、それで構わない。

 ところでお前はヒントには気づいているか?」

 

 体育祭で予想外の成長を遂げた堀北だがその成長はまだ不完全だ。

 周囲に頼ることを覚えたのは確かだが、現時点でどれだけ視野が広くなったのかはまだ確認できていない。

 

「気づいているわ。

 茶柱先生の言い回しから、小テストの結果が成績には一切影響しないこと、総合点のボーダーラインがまだ確定していないこと、ペアの決定理由を小テスト後に話すこと、の3点であっているかしら」

「ああ、完璧だ」

 

 本当に予想以上の成長だ。

 思わず心の中で笑みをこぼす。

 

「ここから考えられるのは、次回行われる小テストは単純に生徒の実力を見るためだけに実施するものじゃないということ。小テストの結果が期末試験でのペア選定に影響を与えてくるということよ」

「その通りだ。

 期末試験の鍵を握るペアの選定には必ず法則がある。

 法則を見つけて期末試験に向けた有利な一手を打つことが、期末試験クリアの最低条件になるはずだ」

「この試験の例年の退学者がDクラスから1組か2組というのは仮に赤点候補者同士が組まされたとしたらありえない少なさよ。

 もし私たちが小テストによるペアの選定、その法則を見抜けなかったとしても安直に壊滅的な結果には繋がらないと思う。

 組み合わせはバランスの取れたものになると考えるのが自然でしょうね」

「そうだな。それで?」

「全ての過程と結果を踏まえて導き出される答え。それは『高得点を得た者と低得点を得た者がペアになる』という法則。

 これでどうかしら?」

「ああ、それで問題ないと思うぞ。

 例年同じ試験をやっているようだし上級生に法則の確認をするのもいいだろう。

 お前が考えているように学校は法則を見つけられることを前提にしている節があるから有効な一手になるはずだ。

 あいにくとオレもお前も上級生とは碌な伝手がないからクラスのみんなに呼び掛けて協力してもらおう。

 呼びかけはお前に任せたいんだが、いいか?」

「仕方がないわね。みんなを導くと宣言した以上、それが道理だものね」

「ああ、頼んだ。

 懸念事項があるとすれば退学による欠員のせいでどんな影響があるのか読み切れないところだな。

 最悪成績上位者は架空の退学者とペアを組まされるなんてことも考えられる。

 もしそうだとしたらお前もかなり危ないだろうな」

「っ…………」

 

 流石にそこまでは考えが及んでいなかったのか堀北は少し強張る。

 オレの編入によりいまのDクラスは偶数人で構成されているが、それがなければ退学した架空の人物とのペアは高確率でありえた話だし、いまの状況でも捨てきれない。

 

「まぁお前なら余程問題が難しくない限りは仮に1人でも赤点は免れられるとは思う」

「……そうね」

 

 堀北なら1人でも全科目60点以上、総合点700点以上の成績をとることは可能なはずだ。流石に余裕というわけにはいかないだろうが。

 

「一旦次の議題に移ろう。

 お前はどのクラスを指名して戦うつもりだ?」

「私の答えはシンプルよ。狙うべきはCクラスただ1つ。

 あなたは?」

「オレもその答えに異論はない。総合的な学力を考えれば負けないためにはそれ以外の選択肢はないからな」

 

 退学による欠員を補って余りある成績を取らなければこの試験は勝てない。

 そうなると成績がかけ離れたAクラスとBクラスを指名するのは選択肢として選ぶことはできない。

 

「これもクラスのみんなに探りを入れてもらうべきだな」

「そうね。上級生への確認と一緒に頼むことにするわ」

「そうしてくれ」

 

 一先ず2人でできる相談はこんなところだろう。

 

 その後堀北は教壇に立ってみんなに上級生への法則の確認と他クラスの成績に探りを入れることの必要性と根拠を説明しながら協力を訴えた。

 結果三宅や櫛田といった部活動をやっていたり交友の広かったりする人物が役目を引き受けてくれることになった。

 

 

 ***************

 

 

 オレと堀北は割とおなじみのように2人で帰り道を歩いていた。

 

「最近、坂柳さんとはあまり一緒にいないのね」

「元からこんなもんじゃなかったか。クラスが違えば一緒にいる機会も少ないだろ。

 それに最近あいつは一之瀬と仲がいいらしいからな」

「一之瀬?」

「ああ、一之瀬帆波。Bクラスのリーダー的存在らしい」

「そう。そんな人がいたのね」

 

 こいつの性格を考えれば自然な事なのかもしれないが、途中で編入したオレよりも知り合いが少ないのはいささか心配になる。いや、オレ自身一之瀬は名前を知っているだけで知り合いですらないんだが。

 それはそうと、オレは先ほどの特別試験の相談中にほんの少し気になったことを興味本位できいてみることにする。

 

「ところで、オレが来る前に一番成績が悪かった奴は何点くらいで退学したんだ」

「……どうしてそんなことをきくの?」

「最悪架空のそいつがお前のペアになるかもしれないだろ。

 その場合概算したそいつの得点がお前のペアになるかもと思っただけだ。

 覚えてないなら気にしなくていい」

「……覚えているわ」

「凄いな。普通は自分以外の点数なんて忘れてしまっても仕方がないのに」

 

 そう言うと堀北は微妙な表情になる。

 当初他人に興味のない堀北が他人の、ましてや退学した奴の得点を覚えているとは思ってなかったから割と心の底から感心したんだがどうしたのだろう。

 

「…………0よ」

「ん?」

「だから0点よ。退学したうちの1人は0点だった。

 仮に彼が私のペアになるとしたら、私は本当に1人でこの試験を戦う必要になるかもしれないわ」

 

 ……………………マジか。

 

 

 ***************

 

 

 自室に帰ってオレはおもむろに携帯を取り出した。

 そして登録してある番号の中に目当ての人物を探し出して電話をかける。

 

「────もしもし。少しいいか?」

 

 その人物は素直にオレに応じてくれる。

 オレもそれに従って簡潔に要件を話すことにした。

 

 

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