時系列が1カ月とんでいますがちゃんと第2話です
7月1日。
平田によって編入当初まったくの無秩序だったDクラスには
1日といえばポイントの振り込み日だ。
とはいえDクラスに振り込まれるポイントは相も変わらず0のままだ。このクラスに限っては1日だろうと何一つ変化のない日常なのだろう。
まぁ、これを平穏と呼ぶ気にはなれないがな。
何も変化がないのだから動揺など起きようはずもない。だが、きっといまごろ他クラスには一部を除いて動揺が走っているはずだ。
ピロン
一通のメールが届く。確認すると思った通りの内容だった。
どうやら計画は上手くいったようだ。正直オレとしては計画がうまくいこうがいくまいがどちらでもかまわないのだが。
「何をにやけているのかしら」
真横から棘のある口調がきこえてきたが無視することにしよう。
ホームルームでの連絡事項も伝え終わったようで茶柱先生は教室を去っていく。
この教室にきて自由とは何か、平穏とは何か考えなおさせられた。
編入当初のこの教室はある意味で変化はないが平らでも穏やかでもなかった。ホワイトルームでの日々は思いのほか平穏だったのかもしれない。できればこんな感想は学びたくなかったものだ。
そんなことをぼんやり思いながら1限目の準備をする。
ほどなくして1限目の教科担当の先生が入室してくる。
そしてオレたちは授業を受ける。
ホームルーム同様、授業中も私語はない。面持ちに苦さを含んでいる者も多いが、表面上は静かなものだ。編入当初に比べれば格段に平穏に近づいたといえるのではないだろうか。
―――数日後、戸塚弥彦に停学処分が下された
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編入して間もないころ、オレは放課後に見知らぬ女子生徒に呼び出されて人影も監視カメラもない特別棟まで呼び出されていた。
他クラスの女子にこんな人気のない場所にまで呼び出されたのだ。いまから告白でもされるのかと期待して緊張してしまう。これがDクラス女子からの呼び出しならリンチでも受けるのかと勘ぐってしまうところだが。
「連れてきたわよ。もう帰ってもいい?」
そこにいたのは細い杖を支えにしながらも異彩を感じさせる小柄な銀髪の少女だった。
「はい。ご苦労様でした真澄さん。またよろしくおねがいします。」
「………ん」
静かに頷き、真澄と呼ばれた女子は去っていく。
この場にいるのはオレと銀髪の少女の二人だけになった。
「あんたがオレを?」
そう聞いたが、少女は何も答えない。
それから暫くオレは少女と見つめあう形になってしまった。気まずい。
「非常に珍しいDクラスへの編入生として注目されていますね。綾小路清隆くん」
ようやく口を開いたかと思えば、そんなことか。
この学校において編入するなどめったにないことだ。それも配属先は不良品と揶揄されるDクラス。なぜ不良品とされる生徒の編入を認めたのか。疑念に思われ噂されるのも仕方がない事だろう。
「………おまえでいいのか? オレを呼び出したのは」
「はい」
即答される。
「それで何の用だ?」
「あなたの名前をきいてあることを思い出したんです。その時の衝撃を共有したいと思ってつい呼び出してしまいました。まるで告白の前触れみたいですよね。」
まるでということは告白ではないのか。だとしたらなんでオレはこの少女に呼び出されたんだ?
カツン、カツンと杖をつきながら少女はオレの隣に立つ。
「お久しぶりです綾小路君。8年と119日ぶりですね」
「冗談だろ。オレはおまえなんて知らない」
「ふふ。そうでしょうね。私だけが一方的に知っていますから」
カツン。カツン。
段々と杖が遠ざかっていく。
一体なんの真似なんだか。
「ホワイトルーム」
その単語がオレに何故、どうして、と疑問をもたらす。
せっかくあそこから抜け出せたのにあそこから抜け出せた気が全くしなくなる。
「嫌なものですよね。相手だけが持つ情報に振り回されるというのは」
「……おまえは……」
「懐かしい再会をしたんですから、挨拶しないわけにはいかないと思ったんです」
再会だと?
オレは少女に顔を向ける。全く見たことがない、本当に記憶にない少女だ。
過去の記憶を失ったおぼえもない。
この少女とはいまが初対面のはずだ。
この事実に間違いはない。
「無理もありません。あなたは私を知りませんから。でも私はあなたを知っている。これも不思議な縁、なんでしょうね。このような場所であなたと再会するなんて。正直言って二度とお会いすることはないと思っていましたから。
お父様には感謝しなくてはいけませんね」
「………お父様?」
「ええ。そういえばまだ名乗っていませんでしたね。
私の名前は坂柳有栖。察していただけたかと思いますが私の父はこの学校の理事長です」
なるほどな。これですべてに合点がいく。
「この退屈な学校にも、少しだけ楽しみができました。
偽りの天才を葬る役目は私にこそ相応しい」
カツン、と細い杖を突かれた音が静寂な廊下に響き渡った。
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「クク。Dクラスの編入生がこの俺に何の用だ?」
坂柳と初対面を果たした翌日、オレはCクラスの王を名乗る男に接触した。
「なに、おまえにいくつかアドバイスをしようと思ってな」
「ほう」
Cクラスの王、龍園翔がオレに向ける視線は試すようなものだ。対して彼の背後に控えている大柄の黒人と不良っぽい生徒はオレに懐疑的だ。
「言ってみろ」
「おまえがいまAクラスとBクラスの生徒に嫌がらせをしているのは知っている。
だが、いまのところ思うように成果が出ていない。違うか?」
「それで?」
「しばらくは嫌がらせをするのはBクラスだけにしておけ」
龍園の視線の中に興味が混じる。
「月末あたりにAクラスの戸塚弥彦におまえたちが仕掛けるチャンスをつくる。
そのときまでAクラスへの嫌がらせはやめておいたほうが効果的だろ」
「確かにな。いまは葛城の野郎が警戒していやがるから思うように仕掛けられてねえ。それに戸塚も案外のってこねえ。
そろそろ方策を変えようかと思ってたとこだが、まさかDクラスの編入生から話を持ち掛けられるとは思わなかったぜ。
おまえの背後にいるのは坂柳か?」
「だとしたら?」
「クク。気に入らねえが今回は提案に乗ってやる。坂柳にもそう伝えておけ。
にしてもおまえと坂柳がどうしてつながったんだ?」
「オレと坂柳は幼馴染らしくてな」
「クク、なるほどなぁ。おまえ、名前は?」
「綾小路清隆だ」
「綾小路、おまえ俺につくきはないか?
多少の金くらい恵んでやってもいいぜ」
「冗談だろ?」
「冗談じゃねぇぜ。おまえは坂柳とやるときにいろいろと使えそうだ。
おまえにとっても悪い話じゃないだろう。あんな掃き溜めみたいなクラスじゃいずれポイントが尽きるのも目に見えてる。そうなりゃ0円生活だ。飢えはしねぇがロクなもんじゃねぇ」
「わかった。おまえと契約する」
「クク。即答かよ。
幼馴染を裏切るんだからもう少し躊躇するかと思ったが、おまえもなかなかのクズらしい。
後日書面で契約してやる。そのときに金も恵んでやるよ」
龍園と連絡先を交換する。
これで今日の用事はあらかた済んだ。
オレが帰ろうと背を向けると首筋があったあたりに鋭い蹴りが通過する。
「っぶね」
「!? クククク。いまのを避けるかよ。
おい石崎! アルベルト!」
龍園の呼びかけに応えてこいつの背後にいた2人がオレを囲む。
これは少し困ったことになった。制圧するのは造作もないがいまこいつらに潰れられるのも困る。かといって大人しくやられたらオレの平穏がさらに遠ざかる気がする。
とりあえず3人から放たれる攻撃をすべて躱す。ひたすら躱し続けていると3人の攻撃は徐々に緩慢になり、気づけば息切れて攻撃が止んでいた。
「はぁ、はぁ、………おまえ化け物かよ」
大きく肩を揺らしながら息をする龍園。
呆れるようにつぶやく様子にあきらめてくれたかと思っていると……
「クク、クククククク。クハハハハハ!
おい綾小路! さっきの契約の話はやっぱなしだ!
おまえは俺の獲物になった。獲物に恵んでやる気はさらさらねえ!
せいぜい、首を洗って待ってることだな!
いくぞ石崎! アルベルト!」
「ちょっと待ってくださいよ龍園さん!」
「……………」
突然高笑いを始めた龍園。それに困惑する2人。
龍園はオレを素通りし、それに2人もあわててついていく。3人はオレを取り残しこの場から去っていった。
オレの平穏がさらに遠くなってしまった。
………どうしてこうなった
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「ふふ。それはとんだ災難でしたね」
「他人事のように言ってるが、もとはと言えばおまえとの契約のせいでこんなことになったんだぞ」
龍園と交渉した後日、オレは坂柳とチェスを打ちながら談笑していた。
「おやおや。私との契約があるのに龍園くんとも契約を結ぼうとしたあなたにも原因があるのでは?」
「別におまえとの契約のなかに龍園についちゃいけないなんてなかっただろ。
ポイントがもらえるに越したことはないと思ったんだがな」
今回のことはひとえに情報不足によるものだ。
龍園の性格をある程度把握していればああなることは予想できたはずだ。まだ編入して日が浅かったこと。そして坂柳が龍園について詳しく教えなかったことに原因があった。まぁ、詳しくきかなかったオレのほうにも原因がある。
今回はこいつに一杯食わされたわけだ。
なんだかんだホワイトルームから出てオレの気も緩んでいたらしい。
「あら。負けてしまったようですね」
「今回はオレが先手だったからな。
実際トータルではほとんど引き分けだ」
「ふふ。こうしてあなたと過ごすことができるなんて、夢にも思いませんでした」
坂柳は嬉しそうに華やぐように笑う。
不覚にもそれをかわいいと思ってしまう自分がいた。
「今回の計画がうまくいけば葛城くんの派閥は大きく縮小するでしょう。
そうなれば私がAクラスを完全に支配するのもそう遠くない話になりますね。
戸塚くんを煽る際の文句は伝えてくれましたか?」
「龍園に伝えようとしたんだがな。あいつにはそんな必要はないと断られてしまった」
「ふふ。それで構いません。彼ならうまくやってくれるでしょう」
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7月の審議会を経て、戸塚には1カ月の停学とプライベートポイントの没収、さらにはAクラスにも-50のクラスポイントの減額が言い渡された。
正直、停学させるべき生徒は他にいっぱいいるだろうと思わなくもない。
葛城は身近な人物の失態によって派閥の縮小を余儀なくされ、戸塚は自分のせいで葛城に大きな迷惑をかけてしまったことでかなり気に病んでいるようだ。
今回のことで学校側の意向は大方つかめた。
この情報はこの先オレが平穏な日々を送るためにも役に立ってくれることだろう。
編入初日は全く兆しも見えなかったが、オレが平穏を学べる日々は意外と遠くないのかもしれない。
そんなことを思いながらオレは今日の眠りについた。
今回は描写少なめのDクラスですが、冒頭で6月中に何が起こったか察した人もいるのではないでしょうか?
現在の他クラスチャートはこんな感じです。
Aクラス
原作通りの2大派閥。
今話の出来事で葛城派が大きく縮小。
Bクラス
原作より龍園からの嫌がらせが長期化している
⇒Bクラス生徒がいつまでも嫌がらせが続くことに不安を感じる
⇒一之瀬への相談増加。原作より一ノ瀬の負担も増える。
⇒一之瀬が白波からラブレターを受け取る
⇒相談相手がいないため、告白を断る際に「好きな人がいる」と嘘でごまかす
⇒白波から好きな人が誰なのか尋ねられる
⇒当然誰もいないため答えられない
⇒白波が一之瀬から信頼も得られていなかったとショックを受ける。誤解を伝えて表面上は和解する
⇒一之瀬と白波の関係がギクシャクする
⇒一之瀬・白波がやや不安定化
⇒Bクラスの不安感が増す。原作よりほんの少し団結力が劣る状態に
Cクラス
原作通りの暴力至上主義。
今話でAクラスにダメージを与えられたためむしろ評価と支配力高め。
AとCの安定感は流石ですね。
Bクラスは原作より団結力はほんの少し劣っているものの、当然この程度で一之瀬の求心力がなくなるわけではありません。むしろ生徒の不安感が増して一之瀬に相談する機会が増えて原作より一之瀬に依存気味かも。団結力低下に宗教依存度増加。すこしやりすぎた気もしています。
一之瀬が相談相手に神崎を選ぶ可能性も考えましたが、ただでさえ原作よりやや不安定な上にクラスメイトに告白の相談なんかすれば同じクラス内でギクシャクしてしまうことを危惧した結果相談することに勇気を持てませんでした。一之瀬の悪い癖が出てしまった形です。神崎君に相談できれば綾小路君と同様の対応をして団結力に影響でなかったかなと思います。他クラスに相談しようにも原作Dクラスとの交流のような深く関われる機会がありませんしね。
戸塚暴力事件では一之瀬が葛城に協力しようと提案するも神崎に却下されてBクラスは関与していません。同じくCクラスから嫌がらせを受けているとはいえ、Aクラスとは休戦協定を結べませんしね。さらに6月に入ってからしばらくはCクラスから嫌がらせを受けているのはBクラスのみになっていたこともあって、Bクラスの生徒はあまり関わりたくなかった感じです。一之瀬が危険にさらされる可能性を神崎がBクラス生徒に示唆したこともあり一之瀬でも折れざるを得ない状況になりました。
気が向けば白波視点の告白イベントSS書くかもしれません。
坂柳さんはDクラスに編入した生徒がいるときき情報収集した結果原作よりはるかに早く綾小路君に接触することに成功しました。めったに編入なんて認められないうえに、編入先がDクラスともなれば坂柳さんなら情報を探って綾小路君の名前をきいて思い出し、裏事情を察することもできるでしょう。
現状綾小路君の機械化阻止できるかは割と彼女にかかってますね。頑張ってもらいたいところです。
いまのところ無人島試験までの構想はぼんやりと固まってきた感じです。
Dクラスの現状とそこに至った経緯の詳細は次話以降で!