平穏な日々は遥か遠く   作:石門 希望

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第5話 期末試験

「みんな。テストも近づいてきたことだし今日から勉強会を再開しようと思うんだ。

 もちろんこれは強制だよ」

 

 ある日の放課後、平田からそんな提案? がなされる。

 Dクラスの生徒一同は顔を強張らせながら平田に注目する。これも慣れた光景になったものだ。

 そんなことを他人事のように思いながら平田の話の続きをきく。

 

「勉強を教える役は僕の他には堀北さんと幸村君、それに王さんと櫛田さんにもお願いしたい。

 それと……綾小路君」

 

 平田は一度そこで言葉を区切る。

 みんなの視線がオレに集まるのを見計らったタイミングで平田は話し出す。

 

「綾小路君は勉強はどのくらいできるのかな?」

「安心してほしい。

 一応これでも編入してきたからな。

 人に教えられるくらいの学力はあるつもりだ」

「わかった。

 それなら綾小路君にも勉強を教える役目に回ってもらうよ」

 

 このクラスに編入する前のオレならそんな役目は引き受けなかっただろう。

 テストでも適当に50点辺りでそろえて目立たないようにしていたはずだ。

 しかし、その方針は既に捨てた。

 これからはクラス立て直しのためにオレもそれなりのポジションに就くことにする。そのためには面倒だが勉強会での教師役も引き受ける。

 

 この日から毎日放課後にはDクラスの勉強会が開かれることになった。

 

 ******************************

 

「どうした? 浮かない顔だな」

 

 勉強会が開かれるようになってから数日が経つ。

 昼休みの昼食時にオレはどこか苦い顔をしている堀北に声をかける。

 

「ええ。正直こんな勉強会を開く意味なんてあるのか疑問に思うの」

 

 なかなか思い切ったことをいうものだ。

 平田がきいたらどうなることやら…………

 まぁ、いまは教室にはいないのでその心配の必要もないが。

 

「どうしてそう思うんだ?」

「あんな人たちの面倒をみるくらいなら、その間に自分の勉強をしたほうが身になると思うの」

 

 ちなみに堀北が勉強を教えている生徒は外村ほか男子数名だ。堀北に過激な虐めを行っていたのはほとんどが女子で、男子はあまり関与していなかったことが理由だろう。

 オレのほうは篠原・佐藤・松下ほか女子数名となかなかに問題のあるメンバーをあてられた。全員オレにも大なり小なり虐めを働いたメンバーだ。

 これは平田の意趣返しなのかと勘ぐってしまう。

 

 まぁ、実際オレ以外にこのメンバーの勉強を教えられる立場の人間がいないことが一番大きいのだろうとは思う。

 平田は制裁を与えた一件で彼女たちからひどく恐れられ、勉強を教えるどころじゃなくなってしまうし、堀北は彼女たちからかなりの被害を受けた被害者だ。幸村は頼もうにもひどく難色を示し、みーちゃんは彼女たちに対して怯え切っている。櫛田に関してはこいつらの担当なんてさせた時には何をするかわからないので論外だ。それは平田も気づいている様子だった。

 櫛田は基本平田とともに全体を浅く見て回る役目だ。詳しく教えるにしても井の頭などの大人しい生徒や男子生徒にさりげなく誘導されている。

 

 オレが篠原達の担当にされたのはオレが大して虐めに関して気に留めていないことを平田も気づいていることもあるのだろう。

 にしてもあんまりだと思うし、やっぱり意趣返しなのかもしれない。

 

 佐倉に関しては勉強会の間は基本1人で頑張ってもらって、あとでオレが個別で勉強見てやっている。オレ以外には怯えを見せてしまうので仕方がない対応だった。

 

「確かにおまえにとってはそのほうが身になるのかもな」

「そうでしょう。

 あんな人たちの勉強をみて退学を防いだところで意味があるとは思えないもの。

 そんなことに時間を使うくらいなら、私は私を高めるために時間を使う。

 きっとそのほうがAクラスにも近づける」

 

 なるほどな。

 いままでは虐められているという立場に覆われてぼんやりとしか見えていなかったが今のではっきりした。

 これが堀北がDクラスに配属された理由で、櫛田に利用された部分だと。

 

「堀北。おまえはAクラスを目指しているのか?」

「ええ、そうよ。

 私はなんとしてもAクラスに上がらなければならないの」

「ちなみに、何が原因でDクラスに配属されたのかはわかっているのか?」

「いいえ。だって当然でしょう。

 私は本来Dクラスに所属すべき生徒じゃない。

 あんな人たちと同じ枠組みに入れられるべき人間じゃないのよ。

 これは明らかに学校側のミスよ。何度も訴えても聞き入れてくれないのは学校はミスを認めることができないのよ」

 

 少し熱が混じるほど強硬な態度で語る堀北。

 虐めは訴えずに、そのことは訴えたのかと少々呆れてしまう。

 

「オレはそうは思わないけどな」

「どういうこと?」

「おまえがDクラスに配属されたのは学校側のミスじゃないってことだ」

 

 そう言うと堀北は眉を吊り上げ鬼のような形相でオレを睨む。

 

「ふざけないで!!!」

「落ち着け。

 堀北。そもそも学校側のミスを主張したところで何になる。もうすでに何度も訴えても何も変わらなかったということは無駄だということはおまえも気づいているだろう。

 ならそのうえでどうすべきか考えろ。

 科学と一緒だ。目の前の現象を否定したところで何も始まらない。現象を認めたうえで、その理由と理屈を追及していくことで初めてスタートラインに立てるんだ」

「…………納得いかないわ」

「堀北。確かに聞くところによるおまえの能力は高い。

 学力もAクラスに引けを取らないし、運動能力も高いほうだ。

 能力面だけ見たら、おまえは間違いなくAクラスだろう」

 

 そういうと堀北は訝しむような、不満なような、それでいて安堵したような表情になる。

 

「なら、能力面以外になにか問題があると考えろ。

 その理由を見つけられたとき初めて、おまえはAクラスに上がる資格を得る」

「…………あなたには…………私の問題が見えているの?」

「まぁな。だが教えてやるつもりはない。

 自分で見つけることに意味がある」

「随分と上から目線ね。

 それを言うなら、あなたにはあなた自身の問題がわかっているの?」

「ああ。オレはオレ自身の欠陥を誰よりも理解しているつもりだ」

「…………そう」

 

 予想外に気落ちする堀北。

 堀北自身、数週間にわたるひどい虐めを受けて自分の無力さを味わったのだろう。

 そのため思ったよりも自信を失ってしまっているようだった。

 

「大丈夫だ堀北。

 おまえなら必ず自分で問題を見つけられるはずだ。

 少し視野を広げてみろ。

 おまえに必要なものが自然とわかるようになるはずだ。

 自信を持て」

 

 それだけ言い残して先に教室へ帰ることにする。

 いまは一人で考える時間が必要だろう。

 

 ──―堀北鈴音。

 

 虐めを受けたり、彼女自身に問題があったりするものの、そのポテンシャルには目を見張るものがある。

 オレはそんな彼女が成長して、この先オレの役に立ってくれる未来に期待することにした。

 

 ******************************

 

 期末試験を終えた翌日。

 みんなは疲れと不安を隠せない面持ちで結果を待つ。

 茶柱先生が教室に入ってくる。

 

「先生、結果を見せてください」

 

 平田がそういうと、茶柱先生は粛々と黒板に成績一覧を張り出す。

 

「皆、よく頑張った」

 

 茶柱先生のその一言によってようやくみんなの緊張がほどける。

 

 期末試験の結果、決して高い成績ではないもののDクラスは1人の退学者も出すことなく乗り切ることができた。

 

 ******************************

 

「綾小路くん」

 

 放課後、帰ろうとしていると珍しく堀北から呼び止められた。

 

「どうした? 珍しいな。おまえからオレを呼び止めるなんて」

「…………答え合わせをしたいの」

 

 オレは急かさずに堀北の言葉をじっと待つ。

 

「最近……みんなに勉強を教えていると気づいたことがあったの。

 彼らのレベルははっきり言ってひどいものだった。

 高校生にもなって中学レベルの基礎もところどころおぼつかなかったのには呆れたわ。

 けど……」

 

 堀北は一度そこで言葉を切る。

 そして、オレの目を見てはっきりと口を開く。

 

「平田くんを怖がってのこととはいえ、彼らは彼らなりに一生懸命に勉強を頑張るようになっていたわ。

 初めはこんなこともわからない人たちにはどうせ教えても無駄だと思いながら、嫌々教えていたけれど…………いつの間にか彼らは自分でも頑張るようになっていた。勉強会の予習をする人や、私に積極的に質問するような人が増えていった……。

 私が教えたことは決して無駄じゃなった。

 だから…………」

 

 堀北は少し言いづらそうに、認めたくない気持ちを押し殺すようになるも続ける。

 

「私の予想に反して、彼らは成績を伸ばした。

 私の最初の見積もりを大きく超えるまでに成長した」

 

 覚悟を決めたような瞳に変わる。

 

「私の問題点は……他人の可能性を最初からないものと決めつけてしまっていたこと。

 ずっと他人を侮っていると、いつか自分の足元も掬われる。

 私が1人で戦うとき、その侮りはいつか命取りになるかもしれない。

 それがわかったわ。

 これでどうかしら?」

 

 堀北の答えを求めるような視線に対してオレは……

 

「正直、まだ十分とはいえないな。

 最初の一歩、それにもまだ届いていない」

 

 ショックを受けた様子の堀北。そんな堀北に言葉を続ける。

 

「だが、確実にスタートは踏み出せた。

 おまえがこのまま成長し続ければ、必ずおまえはクラスに必要とされる人間になれる。

 おまえはみんなから望まれる存在になれる」

 

 堀北は深く、何かを感じ入る様子になる。

 

「オレはおまえの成長に期待している。

 おまえならあの壊れたクラスを導ける存在になれると思っている。

 成長したおまえを必要とする場面が、この先きっと訪れる」

 

 ──―そう。

 

 ──―オレの計画のために

 

 ──―こいつの成長は役に立つ。

 

 感じ入るように深く息を吸う堀北を見据えながら、オレは堀北の成長を利用する計画を脳裏に思い描いていた。

 同時に堀北がどんな成長を遂げるのか、本心から楽しみにするオレがいた。

 

 

 

 

 そして1学期は終わり、オレは人生で初の夏休みを迎える。

 





 前回に引き続き平和な回でした。
 テストを乗り切った方法はシンプルに勉強会です。
 須藤・池・山内がいないなら荒れてた時期があるとはいえ早めの勉強会で乗り切れると考えました。

 ちなみに軽井沢さんの勉強担当は平田君です。
 篠原さんたちは恐怖で勉強に身が入らなくなりますが、軽井沢さんは恐怖で勉強に身が入りました。


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