二次キャラ聖杯戦争OZ EFFECTIVE EARTH   作:yu sato

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登場キャラクター
遠坂凜&セイバー(ライカ)
言峰綺礼

場所
ヘルメス・トリスメギストス

時間
開幕前


【オープニング】【prologue】
【オープニング】【prologue】第1話 The Genesis Machine 遠坂凜&セイバー(ライカ) 、言峰綺礼


 もし、あなたが世界を創造できるとしたら、それはどんな世界でしょうか。

 

 その世界はあなたが人々を作るも消すのも、幸福にするのも不幸にするのも自由自在です。

 あなたの世界では善良な人物は、希望の光へと導かれる優しい世界でしょうか。

 それともどれほど艱難辛苦を嘗めても報われない、絶望に満ちた残酷な世界でしょうか。

 ですが……その世界を創造するには、あなたが示す「理」が必要です。

 『理』とは何か。それは『秩序』『混沌』のような『方針』。『自然主義』『人間至上主義』のような『思想』。

 自然法則や化学反応、数学的真理をも包括した『世界の道標』。生命の行き先を決めるための階梯。それが『理』です。

 あなたの定めた「理」の元に世界は創造され、動植物や人々は生活し、星々は運行するのです。

 全てを自分の意志で決められる――その者は正しく『神』といっていいでしょう。

 

 あなたの世界にも、このような『神』がいたとしたなら――その『神』はどんな神なのでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……私の紹介が遅れましたね。

 私は『ミザリィ』。この度行われる新たな『聖杯戦争』の『案内人(ストーカー)』です。

 

 それでは『聖杯戦争』について、改めて説明しましょうか。

 説明の前に前置きとしてですが、あなたは『剪定事象』をご存知ですか?

 『剪定事象』とは人類をより繁栄させる為の理、その航海図――『人理』における『編纂事象』と呼ばれる『基本世界』と『並行世界』を寄り集まった大樹の幹と想定し、そこから大きく外れた枝葉の世界に相当します。

 極稀に『剪定事象』は元の世界とは完全にかけ離れた泡宇宙ともなりますが、枝葉は例え芳醇な実を付けようと宇宙の存続には不要と判断され、いずれ消滅します。

 ついでに補足しますと『並行世界』と『多元宇宙』とは異なります。

 『多元宇宙』はそれぞれが異なる別の宇宙。例えば地球が存在しない宇宙。我々の知る世界とは物理法則が異なる宇宙。

 そういった複数の宇宙にもまた『並行世界』があり『剪定事象』も存在します。

 

 さて、ここに滅びが確定された宇宙が存在します。ある一つの『剪定事象』の世界で、そこに住む全生命、そして地球は思いました。

 免れない滅びならば、せめて自分達が存在した証として、全てを『記録』にし残そうと。

 その記録を保存、運営するため全人類を『賢者の石』。別の宇宙では『フォトニック結晶』『赤いオリハルコン』とも呼ばれる物質へと錬成し、疑似霊子サーバーを製造。

 それをもって地球の縮小コピー、並行宇宙でいう『疑似地球環境モデル・カルデアス』とそこに居住する全生命をデータとして再現、サーバーごと別の世界へと移動することで、我々は確かに存在したのだと示そうとしたのです。

 ……どうやって縮小コピーや別世界の移動を可能にしたのか、ですか?

 それは、滅びゆく地球で行われた最後の大魔術。地球と残されたマナを全て燃料とする事で、地球と全生命は霊子サーバーの中で生き続ける事になったのです。

 

 そこまではよかったのでしょうが、サーバーは別の『剪定事象』『並行宇宙』『別宇宙』へと移動を繰り返してもその都度、世界から排除されてきました。

 移動の過程で世界に存在するマナや星の地殻エネルギーなどを吸収するようアップデートし、サーバーの維持に問題は生じなくなりましたが、やはり根本的な世界の定着に関しては解決できませんでした。

 このまま排除されつづけていれば、いずれサーバーそのものも消滅してしまうでしょう。

 

 無限に近い旅路の果て、サーバーはある宇宙で量子的なもつれの場、マルチバースへつながる扉を観測します。

 それを通じサーバーは、数多の多元宇宙、並行世界で行われている『聖杯戦争』と呼ばれる魔術儀式の模様。その他聖杯やそう呼ばれるに値する事象改変機能を有した願望器を巡る争いや通じ合い、使用や破壊を目撃しました。

 それらを互いに干渉させ発生した霊子的もつれを用いサーバーは、ほぼ無限にある願望器の一部演算能力とリンクし膨大な情報、演算能力を獲得。

 さらに自ら『聖杯戦争』を行う事で自分の存在を確定しようとしました。

 無限の宇宙、並行世界に招待券を送り、戦わせることで霊基が極限まで高まった最後の勝者と所属する世界に霊子的に繋がり、縮小地球を利用して、無限の可能性より勝者の望んだ事象に改編した宇宙を創り上げます。

 さらに勝者の存在する宇宙へ膜をかぶせるように上書きする事でその宇宙内で自身の存在を確立、惑星内でサーバーに保存された全生命を再現するのです。

 とは言っても所詮滅びかけた世界の全生命は、勝者の世界と比べればわずかの数ですからほとんど影響はないでしょうが。

 ああ、願いを叶えるのは宇宙を律する『理』となった勝者に対する報奨ですね。

 

 これが私の『現在』知る、この度の『聖杯戦争』の全てです。

 

 招待状は『英霊の座』より英霊を召喚するシステム『フェイト』の燃料である『星晶石』です。

 これが三個揃い、無地のトランプに似た『セイントグラフ』を召喚できた時点で、サーバー内に構成された聖杯戦争の舞台へと召喚されます。

 『星晶石』は案内人である私が配る事もあり、偶然手にする人もあります。『石』といってもデータであったり、カードであったりと形は様々です。

 私が持つ『星晶石』は金平糖に似ていますね。

 

 カリッ

 

 それでは、この『聖杯戦争』に召喚された一人のマスターを追い、具体的な聖杯戦争への参加の方法を紹介いたしましょう。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 遠坂凛は電子製品のジャンク街を歩いていた。彼女は金髪碧眼の美人だが冷やかしに声をかける者はいない。むしろ遠ざかっている。まるで戦場に赴く戦士のように他人の五感へと緊張を迫るものがあるからだ。

 事実、凛はこれから行われる戦争、『聖杯戦争』に参戦するための装備をこの場で選んでいる。

 最低3ヵ月は持たせられる生命維持装置の部品、予備のサーバー、ルーター、その他単独で月――ムーンセルで行われる聖杯戦争に挑むため必要な設備。

 それらを買い集め、敵対する西欧財閥から逆探知されないような位置で電脳空間に潜入し、ムーンセルへと移動する。その下準備だ。

 ショップを見歩き、買い、それらを繰り返す中、一つの店舗の会版が凛の目に入った。

「アンティークショップ・美紗里?」

 日本語で書かれた看板にわざわざ英語でルビがふってある。日本語圏内ではないこのジャンク街でそんな真似をしているからには、店長はさぞ偏屈者に違いない。

 そう思った凛は興味を惹かれ、冷やかしに入っている事にした。

 

 ドアを開けるとチリン、と鈴の音が鳴る。

 入口の手前に居た長い金髪を持つローティーンの少女がいらっしゃいませ、と丁寧にお辞儀をした。

 凜は返事を返し、周囲を見渡す。

『意外と良いものがそろっているわね……』

 凜が判断する限りジャンクどころかそのままで使えそうな正規品のレベル、それも高品質なものばかりが棚に並べられている。

『お気に入りのものはあったかしら?』

 そう声をかけたのはレジに座っていた女性だった。

 片目を一房の長い紫の髪で隠した、切れ長の目に整った美貌。シミや黒子ひとつ無い白く美しい肌。均整の取れた肉体。

 どれをとっても非凡で、それでいて調和の取れた美しさを持った妙齢の女性だ。

『ようこそ、アンテークショップ・美紗里へ。私は店長のミザリィ』

 魂まで直接染み渡るような声。声まで人間離れした美しさだった。

『この子は手伝いのアビゲイル・ウィリアムズ。愛称はアビーよ』

 アビーと呼ばれた少女は初めましてと挨拶した。

 店長の女性が非凡すぎるので少女の容姿は陰に隠れているが、彼女も十分に人目を引く顔立ちである。

「二人ともご丁寧に挨拶有り難う。ところでアンティークショップなのになんで電子部品ばかりなのよ」

『あら、型落ちの電子部品も十分アンティークの範囲じゃないかしら?』

「それは詭弁でしょ。それにここにある製品のどこが型落ちなのよ」

 凜は少し落ち着かない様子になった。ここが何もかも異質だからだ。美人姉妹ともいえそうな店長と店員。さびれた壁に不釣り合いな高級品。そして何より異質なのは。

「ところで、あなたの耳は何で長く尖っているの?」

 ミザリィの耳だった。凜の見る限り整形しているようには見えない。生来のものとしか思えなかった。

『私の耳が見えるという事は、貴女はれっきとした魔術師(ウィザード)のようね』

 凜の問いにミザリィは微笑んで返した。

『ウィザードの噂じゃ、間もなく月の内部、ムーンセルで願望器を巡る戦いが行われるらしいわね。

 あるレジスタンスの集団が参戦方法をネット上にばら撒いたらしくて、それに飛びついたウィザード達が集まるそうよ」

 凛はふうん、と眉ひとつ動かさずミザリィを見つめた。その自然な反応で、誰が参加方法の研究に参加したのが当の凛本人だと気づくだろうか。

『もしあなたがその戦いに参加する気なら、店内の品を一つ買えば貴重なプレゼントを贈ってあげる』

「プレゼントねぇ……」

 凜は別に興味なかったが、生命維持装置の部品で最高峰のものがあったのでそれを購入した。

『ご購入有り難うございます。こちらがプレゼントとなります』

 袋に包んだ部品と共に凜が渡されたのは一つの瓶だった。瓶の中には虹色に輝く石が入っている。魔力らしきものが凜には感知できるが、とりたてて大した物とは思えなかった。

『これは今はただの魔術由来の代物。だけど、もしあなたがただ願いを叶えたい以上の意志を持っているのなら、きっと素敵なことが起きるわ』

 

 一か月後。砂漠の中にあった廃墟で凜はムーンセルにアクセスする準備を整えていた。

 生命維持装置に自分の身を繋ぎ、髪と目を黒に変更したカスタムアバターを事前にセットする。

 あとは電脳空間にダイブし、聖杯が作り出した霊子虚構空間『SE.RA.PH』の門を潜り、聖杯戦争に参戦するだけだが。

『……そういえば、何か忘れているような……』

 と、凜は数瞬考え、以前渡されたものを思い出した。

「これが何かの役に立つのかしら……? まあいいか、持って行って損はなさそうだし」

 そうして凜は瓶の中の石を3Dスキャンで解析しアイテム情報としてセットし、電脳空間に移行した。

 ――その石を手に握りしめたまま。

 

 電脳空間内にある扉。ここが以前凜たちが探り出した聖杯戦争に繋がる門だと確信した凜は、その扉を両手でこじ開けた。

 その瞬間、あたりの空間は一変した。

 そこは何もない広大な空間。空には星々が煌めき、地平線の彼方まで星が瞬いて見える。

 地面も何もない。踏み締めても音も無い。足裏から波打つ歪みが見えて初めてそこに立つ事が出来る何かがあると確認できる透明な空間だ。

 そして、下側にも星々が満ちている。重力の感覚が無ければ宇宙に浮いているような状態だ。

 

「ようこそ、常ならぬ願望を抱く新たなマスター候補者よ」

 凜が周囲を見渡す中、どこからか壮年の男と思しき声が響いてきた。

「これより行われるのは、己が願いを叶えるために万能の願望器である聖杯を奪い合う闘争『聖杯戦争』、その予選だ」

 やはりこれは聖杯戦争で間違いなかった。凜は内心で高揚していた。

「まず、君の手には一枚のカードが握られていると思う」

 そう言われた凜は手を見る。確かに、通常のトランプ程の大きさをしたカードがいつの間にか凛の手の中に納められていた。

 凛は両面を見た。裏地は精密なデザインだが、表側は白地で何も書かれていない。

「それは『セイントグラフ』と呼称されている。今は何の力も無いが、君がこの先出会う戦いで『英霊の座』に繋げる事が出来れば、君の武器となる『サーヴァント』を召喚できる」

 サーヴァント。その召喚。それも凜は事前に確認済みだった。

「サーヴァントとは神話、史実より読み取られた英傑、偉人、大悪党。いわゆる『英霊』が誇張、再現された者達。彼らは現世に留まるための媒体となる召喚者を主として見定めて、これを助ける者だ。

 だが、聖杯といえど完全な英霊の再現は不可能だ。故に基本的には7クラスのいずれか。

 『剣士・セイバー』『弓兵・アーチャー』『槍兵・ランサー』『騎乗兵・ライダー』『魔術師・キャスター』『暗殺者・アサシン』『狂戦士・バーサーカー』に当てはめ召喚される。

 例外として『エクストラクラス』での召喚も有り得る。その場合、真っ当な英霊が召喚されるとは限らないが。

 ことにこの聖杯戦争では並行世界、多元宇宙(マルチバース)からの英霊も召喚される。サーヴァントが元人間とは限らない。あるいは人類に敵対する怪物かもしれない」

 ここで凛は少し戸惑った。並行世界は兎も角、多元宇宙?

「さて、言葉で説明されても今一理解できないと思う。そこで君には実際に召喚の儀式を行ってもらおう。

 君にはセイントグラフの他に、聖杯戦争で必要となる端末が与えられている。その中のアプリに地図機能がある。

 それを使えば、君が出会うべき相手がマップ内に表示される。そこまで進んでもらいたい」

 どこに端末があるのかと凜は思ったが、セイントグラフと同様、いつの間にか凜の左手に握られていた。端末のディスプレイは6インチ前後。色は黒であった。

「君は使い方が分かるようだが、今回はあえて使用法が分からないマスター候補用の解説をする。

 端末の画面裏側の右上に『Atlas』とプリントしてあるだろう? そのさらに端末の右上の端に出っ張った物があるはずだ。

 それをつまんで引き抜いてくれ」

 凜が言われたとおりにすると、するすると端末の長さ以上のコードが引き出された。

「そのコードの中央あたりを、左右どちらかの手首に押し当ててくれ」

 その通り、凛は右手首に棒状のコードを当てた。すると瞬時に巻き付き、先端部のポールが手首の上に来たリングになった。

 凛は右手を握り、開くを何度か行う。リングは緩くもきつくもなく、皮膚と一体化したかのように違和感は無い。

「その状態でリングに向かい『マップ』と言えば、音声認識でマップが空中投影モニタに表示される」

 言われた通り『マップ』と言うと、中空にディスプレイが投影され、中央に赤い点、黒い点が凛から見て上方の離れた場所に表示された。

「モニタ自体の拡大縮小は、モニタの端を摘まんで間隔を広く、または狭くすればいい。地図の拡大縮小は、モニタの上に指を置いて間隔を広く、または狭くすることだ。

 地図の移動はモニタに指を押さえ、見たい方向に移動させる。中央を移動させたいときはその個所を二回連続でモニタを叩く。

 元に戻したいときは、右上にある『現在地』を押す。アプリ自体を消す時は『マップ・オフ』だ」

 凛はその通りにモニタを拡大縮小し、地図の操作を行う。

 だが空中投影ディスプレイを使ったアプリの使用は、ウィザードである凛にとって電脳空間内での必須技能と言っていい。

 正直面倒には思ったが、聖杯戦争という何が起こるか分からない舞台で改めてウィザードの技能が通用するのか確認しておくのも必要と自分を納得させ、操作を続けた。

「『ウィザード』である君には今更な説明だったろうが、これで使用法の説明は御終いだ。赤い点はもちろん君の位置。黒い点が君が出会うべき相手の位置だ。

 そこまで進んでくれたまえ」

 凜はマップを右目上に縮小して移動させ、前後左右に歩いて位置関係を把握し黒点へと向かった。

 

 感覚としては3分ほどだっただろうか。凜がたどり着いた先には何もなかった。

 点が隣接している事を確認した凜の前で、円形の複雑な陣が描かれ、そこから真っ黒な何かが現れた。

 それは剣を持っていることから人型だとわかるが、それ以外の事は輪郭がぼやけて何も判別できない。

「それは英霊が真っ当に召喚され損ねた無銘のサーヴァント『シャドウ』だ。それを倒すことで予選突破となる」

 男の声が終わると同時に、シャドウは凜に対し襲い掛かってきた。だがその速度は鈍く、振りかぶる腕もまるで出来損ないの機械人形のようだ。

 拍子抜けした凛はシャドウに向かい指さし、コードキャスト:call_gandor(64)を使用。

 それは、旧魔術師『メイガス』が消滅するまで一部の者が使用していた相手を呪う『ガンド』という魔術であり、現在のウィザードが電脳空間内での「電脳術式(コードキャスト)」として再現した攻勢プログラム。

 指先から射出された黒い呪いの塊は、過たずシャドウに命中、シャドウは四散した。

「これで終わり?」

 そう男に話しかける凜。だが、返答はなく代わりにシャドウの試算した影が集まり、人型の姿をなした。

 動揺することなく、再びガンドを放つ凜。シャドウは一発を剣で受け、一発は頭部にあたり爆散。そしてまた影が集まり再生する。

 凜は何度もガンドを放つ。確かに命中はするしシャドウは散るのだが何度も再生している。

 ついにシャドウは凜に剣が届く位置まで来た。凜はゆっくりとした振り下ろしを交わし至近距離からガンドを放つ。だがそれも今までの繰り返しだ。

 シャドウの剣をよけ、ガンドを撃つ。それを繰り返している度、段々とシャドウの動きが速くなっていることに凜は気づき始めた。

「シャドウは、マスターでは例え倒せたとしても必ず復活し、徐々にだが確実に強くなっていく。

 シャドウを消滅できるのはサーヴァントだけだ。生き残りたいのならば急いでサーヴァントを召喚する事だ」

「いったいどうやって召喚すればいいのよ!」

 剣をよけながら怒鳴る凜に対し男は冷静な声で返す。

「それは君が自力で英雄たちの記録が保存されている『英霊の座』に接続しなければならない。そのための『切り札(トランプ)』、セイントグラフは既に君の手の中にある。

 そして、己の意志を示すが良い。思いは何でもいい。死にたくない、生き残りたい、願いを叶えたい、相手を倒したい。己の意志を一点に収束して、願うのだ」

 話の最中でもシャドウの速度は加速度的に上がっていき、凜はかわすのに精一杯になっていった。

 シャドウの攻撃は打ち下ろしと横薙ぎの二つしかなかったからかわせたもので、それ以外の攻撃だったらとっくに斬られていただろう。

『もう出し惜しみは無し。粉々にしてその隙に召喚を――⁉』

 凜が使える最大のコードキャストを使おうとした瞬間、シャドウは体当たりしてきた。

 予想外の攻撃に凜は腰から崩れ落ちた。

 シャドウが剣を真上に掲げる。

 それを見た凜は、テロリストとして追われていた時に感じた気配、それをさらに濃厚にしたものを感じ取っていた。

 それは――死の気配。

 凜はその感触で長くのばされた時間の中、様々な考えが浮かび消えていった。

 

 私は思いあがっていた。こんな予選で死ぬなんて考えもしなかった。

 死ぬ。私が? いまここで?

 ……ふざけるな。

 こんな予選なんかで死んでたまるか。私は……あの停滞した世界に一発食らわせて世の中を動かしてやるんだから――‼

 

 凜が自分も知らなかった感情を爆発させた瞬間、握っていたカード「セイントグラフ」が宙に浮いて光を発し、無地の面に絵が現れた。

 それは剣を掲げる騎士の姿。

 さらに絵は変化し、一人の男の姿を描き出した。

 同時に、上下三つの円環が凛の目の前に現れ、その中に雷と閃光を伴い、絵と同じ男が姿を見せた。

 ツンツンと逆立った髪に、三白眼の青年。青いシャツのような上着に、白いズボン。革靴を履いた姿は傾いた現代人といっても通じそうだ。

 だが、彼の顔に込められた気迫、内在する魔力は明らかに一般人のものではない。

 そして腰に差した、龍の彫刻が嵌め込まれた鞘に納められている、恐らくは両刃の剣からも強い魔力が発せられている。

 

 シャドウの剣が青年の頭上に達したとき、シャドウの腕は青年の、凛の目には全く見えない抜き打ちで吹き飛んだ。落ちた剣と腕が空間に波を立て落ちたが、音は鳴らない。

 その剣は身幅が広く、柄から切っ先までは1m近く。柄から刀身まで精緻な意匠が施されている。恐らく柄から刀身まで一つの鉄で打たれたであろう漆黒の剣だ。

 

 シャドウは右手を落とされても、青年に向かい手を伸ばし、首を絞めようとした。

 青年はシャドウの腕を難なく握り止め、次の瞬間、青年とシャドウの姿がぶれ、凛の視界から消えた。

 驚いた凛が周囲を探ると、二人は数十m近く離れた場所にいた。

「覇ァアアアア――――!!」

 青年が叫ぶと同時に逆立った髪の毛がさらに尖り、放電し、金色に輝きだし、瞳は白目に変化した。

 同時に膨大な魔力が、雷の形で青年の身体から、さながら昇龍の如く立ち上った。

 青年から放射された稲妻は、遠くにいた凛を衝撃波で吹き飛ばし、シャドウを一瞬で蒸発させた。

 

「痛たた……」

 胸を抑える凛に対し、まるで空間転移でもしたように突然青年は再び凜の元に戻り、面と向かい合った。

「一応聞いておくぜ。お前が俺のマスターか?」

 青年は尻餅をついた凜にカードを差し出した。

「……どうやらそうみたい。何だかわからないけど私があんたを呼び出したみたいね」

 凜は立ち上がり、青年の手からカードを受け取った。

「ありがとう。それであなたの名前は?」

「俺はセイバーのサーヴァント……?」

 青年、セイバーが名乗ろうとした時、異変が起こった。

 星々に満たされた空間が、突如としてその光を消し、暗闇となった。

 

「ようこそ、見事試練を乗り越えた聖杯戦争のマスターよ。

 私は言峰綺礼。この聖杯戦争の監督役を務めている」

 二人が気が付くと、そこは教会の礼拝堂であった。

 凜とセイバーは綺礼とその周囲を見渡す。

 二人が感じたのは違和感。神聖で静謐な雰囲気ではあるが、その一皮下には澱んだ空気が広がっているような。

 そんな不安定な感覚を抱いた。

「ここは聖杯が造り上げた都市『パラディウムシティ』。その中にある教会。予選を突破したマスターは自動的にここへ移動されることになっている」

 綺礼はまるで悟りを開いたかのような笑みを浮かべ、二人に話しかける。

 その表情を見て凜は、綺礼を嫌いになることに決めた。信仰に身を奉げた者にしかできない顔。だがまるで張り付けたような感じがぬぐえず、その裏に何かを感じたからだ。

「ちょっと待って。ここってムーンセルの作った世界『セラフ』じゃないの?」

 だが、疑問があったので凜は綺礼に尋ねた。自分はムーンセルに向かっていたはずではなかったのか。

「その通り。この場に在る聖杯は、君の知っているムーンセルとは違う。あらゆる並行世界、多元宇宙への扉を開く力を持っている。君をこの場へと召喚したのもその力だ。

 その聖杯を管理、運営するのが既に消滅した世界で製造された、地球の全てを記録として残したコンピュータだ。

 それは疑似霊子サーバー『ヘルメス・トリスメギストス』と命名されている。

 聖杯の力を以ってあらゆる世界にあるムーンセルを含めた聖杯、またはそう呼ばれるにふさわしい願望器と接続し、膨大な演算力を獲得したサーバー。

 それを以って生み出された無限大の可能性を持つ聖杯、『天の聖杯』をコントロールし、最後の勝者にこの場の聖杯のある場所『事象創造真界・楽園』への道を開く物だ」

「天の聖杯……」

 凜は言葉を繰り返す。よくわからないが本当に違う聖杯へと来てしまったようだ。

 ふと、凜は思い出す。以前買った製品のおまけにつけられた石。その際にかけられた言葉を。これが素敵なことなのだろうか。詐欺もいいところじゃないか。

「このサーバー内には既に滅んだ世界で製造された地球の魂を縮小モデルとして内包している。

 その地球の魂で聖杯の担い手の願いを叶えた世界を宇宙の構成要素を新たに構築する事で造り、さらに膜のように変換し、レイヤー、テクスチャーとしてマスターがいる既存の惑星に貼り付け融合させ、世界を改編させるのだ。それが聖杯で願いを叶える仕組みだ。

 天の聖杯の中枢部に辿り着いた時、アクセス権を担うのが君が所持する令呪だ。それをすべて失えば、たとえ生き残っても天の聖杯への接続は出来ず、願いは叶えられない。

 また、令呪はサーヴァントに対する絶対的な命令権でもある。簡潔で、短い時間の命令ほど効果は強く、逆に曖昧で、長期間の命令だと効果は薄くなる。戦いの切り札ともなり得るため、もし使うなら用心する事だ」

 凜は右手に刻まれていた令呪を見つめた。

「もう一つ、願いを叶えるには必要な物がある。それは担い手の『理(コトワリ)』だ。

 『理』とはマスターの持つ思想、倫理観や人生観などが本人を通し、形而上学な概念を現実の力として影響を及ぼすまでに至ったモノだ。今はただ、本人の願いを極限まで強めたモノとだけ解釈してもらえればいい」

 ここで凛が口を挟んだ。

「どうして願いを叶えるのにそんな複雑な手順が必要なのよ? わざわざ一度地球を作ったり、マスターに強烈な意志を要求したり。まあ、強い意志なんて、聖杯を手に入れようなんて連中なら誰でも持ってるでしょうけど」

「この天の聖杯は計測の結果、非常にコントロールが困難であることが分かった。下手をすればマスターが所属する惑星を破壊しかねないほどのエネルギーが放出される。

 そのため、担い手の願いを素に一度新たな星を作り、その中に可能性を収束することで過去、現在、未来の全てを改編可能にし、暴走することなく安定して願いを叶えられるようにしたのだ。

 『理』についても同様だ。ただ漠然とした願いだけでは可能性がどのように収束されるか不明になる。それは聖杯の暴走に繋がりかねないからだ。

 それ故、マスター達に聖杯を完全に扱えるほど成長してもらいたい」

 凜は少し戸惑った。自分の願いは確かに漠然としている。子供たちが笑っている未来、停滞した世界を動かす力。それが欲しくてムーンセルの聖杯戦争に参加しようとしたのだ。

 だが、ここでは具体的にどうするかを考えなければいけないらしい。

「少し具体的に、天の聖杯が願いを叶える仕組みについて説明しよう。例えばだ、最終的な勝者が『恒久的な世界平和』を願ったとする。ではどのように実現されるのか。

 人々から闘争本能を無くす? 人を傷つけようとすると苦痛を感じるようになる? 全人類を不老不死の新たな存在に書き換え、個人の欲望と争いを無くす?

 そういった『結果』を叶えるための『過程』が、意識的、無意識的を問わず担い手の『理』によって決められるのだ」

 さて、と言い綺礼は二人の顔を見つめた。

「『恒久的な世界平和』を実現するのに『全人類を不老不死の新たな存在に書き換える』のが担い手の『理』による結論だとすれば、他の方法論は全てその一つの可能性に収束され、その結果発生する膨大なエネルギーを持って天の聖杯は願いを実現させる。

 そのエネルギーをコントロールするのが担い手の『理』、そして『ヘルメス・トリスメギストス』だ。

 ……とはいえ、他世界の聖杯、願望器と繋がり、演算能力を高めた『ヘルメス・トリスメギストス』といえど、完全なコントロールができる保証はない。エネルギーが逆流し、他の宇宙に影響を及ぼすかもしれない。自滅の可能性もある。

 その危険性を承知の上で天の聖杯は、最終的な勝者に身を委ねる事にした。己の存亡をかけてな」

「もっと卑近な例をあげてみよう。君が『死んだ肉親を蘇らせたい』とする。

 この聖杯は世界そのものを上書きして現実を改編する。人一人蘇らせるなど容易い事だろう。

 だが、君次第で『世界のどこかに『死者を蘇らせる方法』が実在する』。または『死者が時たま蘇る世界になる』といった具合に世界が改変される。

 どんな望みを叶えようと、君の定める『理』に世界は従うようになるのだ」

「さらに俗物的な願いならば、君は世界の神にも王にもなる事もできる。

 上書きされた世界で、天の聖杯を得た君だけはその世界を動かすために必要な根源物質、その実数から虚数領域まで自在に干渉、操作可能になる。

 君の思うが儘に世界は動き、君の欲望は全て叶えられるだろう」

「その『理』ってのは、どうして決められて、聖杯戦争で高められるものなのよ」

「それはいずれ分かる。この聖杯戦争では、舞台に用意された住民やマスターの多様性、それによる価値観の衝突がたえず起こり続け、それらが否応なくマスターの本質を暴き、侵食する。

 その中で自分の存在意義を保つには、自分の本質と向き合い、戦い、成長させるしかないのだ」

 ここで綺礼は、凛とセイバーの反応を確かめる様に一息ついた。

「今までの説明は信用ならないか? 成程、急にこのようなことを言われても納得できないのは当然だ。

 しかし、各世界を隔てる扉を開き、この場へ君を喚び寄せ、サーヴァントを召喚させた力。それは天の聖杯の持つ力の一端に過ぎない。それでもこの程度の事は可能なのだ。

 その力を、君は否定できるかね?」

「各世界?」

「そうだ、私と君はそれぞれ別の平行世界の住人だ。その平行世界をつなげたのがこの聖杯だ。さらに別の宇宙、地球がない世界や平面惑星の世界の人間や英霊もこの聖杯ならば召喚可能だ」

 凜は内心驚いた。無限の演算機能を持つといわれるムーンセルでもまるでSFのような世界からの召喚など不可能だろう。

「信用できない。元の世界に帰りたいというのなら、それでも構わない。

 聖壇の奥に扉がある。そこを潜れば元の世界に帰還できる。

 だが、他者を殺し、騙し、屍山血河を築き、それでも尚叶えたい願いがあるのなら」

 綺麗は身を一歩引き、凛に対し半身になった。

「君の背後の扉を開き、聖杯戦争の舞台へ進みたまえ。そして汝自身を以って最強を証明せよ。

 さすれば万能の願望器は、君の手に与えられん」

 そう言って綺礼は誘うように、招くように手を掲げた。

 

「……この聖杯は、私のいる世界の聖杯『ムーンセル・オートマトン』とも繋がっているの?」

「無論だ。そして勝者の願い次第では、君の世界にも何らかの影響が及ぶかもしれない」

 凜は胸に手を当て、意を決した瞳で綺礼を見つめた。

「……いいわ。ムーンセルとは別物だと分かったけど、どっちみちこんな代物を西欧財閥に渡すわけにはいかない。

 私は戦って、この天の聖杯を西欧財閥に渡さない。ついでにムーンセルもまとめて誰の手にも触れられないようにするわ」

 決意の後、凜は一つの大切なことに気が付き、綺礼に尋ねた。

「綺礼、一つ応えて。サーヴァントが願いを叶えると、やっぱり世界の理が改変されるの?」

「この聖杯は「ヘルメス」「トリスメギストス」という二つのサーバーで管理されており、それぞれが最終的に残ったマスター、サーヴァントの願いを叶えるように設定されている。

 だが、サーヴァントの願いを叶えても、例えサーヴァントの願いが世界征服や歴史改変だったとしてもそれで理が変わることは無い。あくまでマスター側の願いのみで世界の理が改変される」

「オレからも聞くが、サーヴァントの受肉ってのは叶うのか?」

 ここで初めてセイバーが口を開いた。

「それは願いとは関係なく叶う。新たな理のもとで運営される宇宙の中で、全ての人間はそのままの姿で転生する。マスターもサーヴァントもだ」

「受肉して現世に復活する。それがあなたの願いなの?」

「そうだ、それ以外の願いはねえ」

 凜は顎に指を当て、しばし考え。

「わかったわ。セイバー、貴方の願い、叶えてあげる。その代わり、私の戦いに協力して」

 セイバーは「いいぜ」と返答し、綺礼の方に顔を向けた。

「おい、キレイ。さっきてめえは神にもなれるとかぬかしやがったな。だが、オレは復活するにしても人間のままで沢山だ。人間の力で理想の国を造ってみせるぜ」

 ライカは鋭い目つきで睨みつけた。

「あら、さっきの魔力放出、とても人間どころかウィザードでも出せる威力じゃなかったけど?」

「う、うるせーな。さっきのは、生前だと気が昂らねえ状態じゃねえと上手く使えない雷が、今のサーヴァントの状態でどこまで出せるのか試したかっただけだ。

 どうも、サーヴァントの俺の身体は、天の龍を降ろした状態で固定されてるみてえだ。天の龍そのものは宝具になっているけどな」

 二人のやり取りを見る綺礼は、ひそやかに笑った。

「お互い中々早い決断だな。マスターとサーヴァント、価値観も生きた時代も異なる二人がそう簡単に意思疎通など出来るものではないはずだが、大したものだ」

「そんなこと言うくらいなら、もっと時間をおいてここに喚ぶか、時間を与えてくれた方が、セイバーと色々と相談ができてありがたかったんだけど」

「何、君達は即断即決が好みと見たのでな。実は参戦か棄権か、選ぶために都市内で約一ヶ月の猶予期間が与えられているのだが、あえて黙っておいた」

「選択を促す時に言いなさいよ、そういう事は!」

 凛は綺礼を怒鳴りつけた。

「ところでよ、マスター。オレはまだお前の名前を聞いてねえぞ」

「私は凜、遠坂凜よ」

「リンか……。懐かしい響きだな」

 セイバーはどこか遠くを見る目になった。

「オレの真名はライカだ」

 セイバー、ライカが名乗った瞬間、凛のポケットにしまっておいたカードが光りはじめた。

 凛がカードを取り出して見やると、セイバーの絵の面に書かれた文字が「SABER」の下に「ライカ」の名が追加されていた。

「セイントグラフはサーヴァントを召喚した時点で、サーヴァントカードへと変化する。それはサーヴァントを召喚した後も残り、真名が判明すればカードに真名が追加される」

 綺礼の説明を凜はカードに現れた真名を見つめながら聞いていた。

「サーヴァントカードはサーヴァントとの再契約にも必要となる。もし令呪を持つマスターに奪われれば、令呪で主替えを命じる事でサーヴァントを奪われる。注意することだ」

 言葉が切れたところで、凜は綺礼に顔を向けた。

「説明はこれで終わり?」

「基本的なものはな。それ以上のルールは端末のヘルプで参照できる」

「そう、ありがと。じゃあセイバー、外の世界を見に行きましょうか」

 凜はセイバーに体を向け、共に歩みだした。

「遠坂凛。最後に一つ聞いておこう」

 綺礼は扉に向かう凜の背に声をかけた。

「このヘルメス・トリスメギストスの作った世界、人間たちは賢者の石を基にしている架空の世界だ。

 だが、彼らは生きている。遺伝子は途絶えたとしても、我々は生きているのだと主張している。

 それは生命、非生命の関係なく『心』が繋いできたレールだ。

 君が聖杯を誰にも渡さないという事は聖杯を封ずるという事であり、彼らの残した『心の系統』を踏みにじるという事だ。彼らの努力はすべて無駄だったと断ずることだ。

 その覚悟、有るや無しや?」

 凜は背を向けたまま、返答した。

「私は否定できるわ。

 彼らの行為は決して無駄でも無価値でも無意味でもなかった。だけどそれはもう行き詰まり、これから先は進歩も後退も無い。

 だから、もし彼らの行為に何かを見出すとしたら、もう行き詰った世界と戦う事で、否定する事で私達が先に進む意志を示す行動に意味がある。そういうことよ」

 もう凜は綺礼に振り向くことなく、ライカと共に教会の扉を開けた。

 

 凜とライカにとって『過去』しかない聖杯の意志など関係ない。

 二人が見つめるのは『明日』に繋がる『今日』だけだ。

 

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