では、どうぞ。
追伸
この作品自体には全く関係ないんですけど、先日、機動武闘伝GガンダムのOPテーマを両方歌われていた鵜島仁文さんが亡くなられましたね。ニュースで見てビックリしました。
一時休載前最後の投稿の直後に訃報が伝えられたので休載中はそのことについて触れることが出来ず、再投稿後の最初の投稿でこのことに触れようと思ったのですが、失念していました。そのためこの場で謹んでご冥福をお祈りさせていただきたいと思います。
享年55歳は若いよなぁ…。合掌。
「大事な相棒を、女ごときに使われてたまっかよ!」
ニル・ヴァーナから勇躍飛び出したヒビキの後を追うように、小型の高速艇に跨った三機のヴァンガードが同じくニル・ヴァーナから姿を現した。三機の体勢は箒に跨った魔女の姿を想像してもらえばいいだろう。
「くそっ、あいつら…」
その、自分を追ってくる形になっているヴァンガードに振り返って一瞥し、忌々しい表情になったヒビキだったがすぐに顔を戻してあるものを用意する。それはヴァンガードのサイズにあう大きさの傘だった。
「そう簡単に逃がすもんですか」
ヒビキの後を追う三機のヴァンガードのうち、一機に乗っているのはジュラ。先ほどの約束を果たさせるべく、そして何としても(華麗な)合体を果たすべく、その執念は並々ならぬものがあった。そこに、
「ダメよ! 宇宙人さんはディータと合体するの!」
当然の如く割り込んできたのはディータ。が、
「お黙り!」
合体を熱望しているジュラも退くつもりはさらさらない。コックピット越しながら、二人は激しく睨み合っていた。そして、
「やれやれ…」
図らずもその二人に挟まれる形になったバーネットが、“やってられないわ”とばかりに呆れながら溜め息をついた。そうこうしている間に大気圏内が近づき、ヴァンガード、高速艇ともに機体が赤みを帯びていく。と、ヒビキは傘を開き、高速艇は三機のヴァンガードを包むように収納して大気圏へと突っ込んだ。
幸いにして大気圏の突入時には何事も起こることなく、無事四機は大気圏を抜ける。大気圏を抜けた直後、女性陣の乗っていた高速艇は四散したが、各自ヒビキが持っているものと同じ傘を手にしていた。今度はそれを開き、パラシュートの代わりにして地表へと降りて行く。恐らく久しぶりに踏みしめるであろうその大地は、観測映像の通り見渡す限り一面の砂漠だった。その頃、
「……」
シュバルツはガンダムシュピーゲルのコックピットで目を閉じて座禅を組みながら静かに瞑想していた。そしてその愛機ガンダムシュピーゲルは、未だにニル・ヴァーナの内部にある。当然その様子はモニタリングされているので。クルーの大半は何故出撃しないのかと訝しがっていた。そんな中、
(ん?)
コンコンとコックピットを外からノックする音がシュバルツの耳に聞こえてきたのだった。ゆっくりと目を開けたシュバルツがカメラを起動させると、そこにはフワフワと浮かんでいるピョロの姿があった。
「どうした?」
ハッチを開け、シュバルツがピョロに尋ねる。
「シュバルツは出ないピョロ?」
大半のクルーが疑問に思っているであろうことをピョロが尋ねた。
「出るさ」
それに対し、シュバルツは簡潔に返す。
「でも、他の連中は、もう行っちゃったピョロよ?」
ピョロが首を傾げたが、
「わかっている。機を待っているだけだ」
それに対するシュバルツの返答はまたも簡潔なものだった。
「機…ピョロ?」
首を傾げていたピョロがそのシュバルツの返答に今度は腕を組む。
「ああ。連中はどうなった?」
「大気圏を抜けて、惑星内部に入ったピョロよ」
「地表に降り立ったか?」
「ピョロ」
ピョロがコクリと頷く。
「よし、ならば出るか。下がってくれ」
「ピョロ」
再び頷いたピョロが少し下がると、シュバルツはハッチを閉めてガンダムシュピーゲルを起動させ、コックピット内で片膝を着く。モビルトレースシステムのためシュバルツと同じポーズをとったガンダムシュピーゲルが次の瞬間、自身の影にゆっくりと沈んでいった。そしてすぐに、その場から文字通り影も形もなくなる。
「ピョロー…」
己の理解を超える事態に回路の演算が追い付かないのか、ピョロは全身の温度が上昇したのを感じながら茫然と呟くことしかできなかった。そこへ、
「ッ! 出遅れたか!」
メイアが格納庫に姿を現した。
「無理することないピョロ」
そこに、シュバルツを(一応)見送った形のピョロがフワフワと浮遊しながら近づいてきた。
「メイアが行かなくても…」
「そうはいかない、私には責任がある」
表情を厳しくしてそう言い切ったメイア。が、その返答を聞いたピョロは表情を曇らせた。
「でも…降下用高速艇は一隻だけピョロ。予備はないピョロよ?」
「何だと!?」
降下の手段がなくなったことを知らされたメイアが表情をこわばらせた。
「それに、大丈夫だピョロよ。あいつらだけなら心配だけど、今シュバルツも行ったピョロ。任せておけばいいピョロ」
「ッ!」
ピョロはメイアを説得するためにそう言ったのだが、それが逆効果になるということは機械のピョロにはわからなかった。メイアはギリッと奥歯を噛むと、その一言がスイッチになったかのように手近のヴァンガードに乗り込む。
「あっ! メイア!」
ピョロが慌てて制止しようとするもメイアは素早くハッチを閉めて出撃してしまった。
(あの男に遅れを取ってたまるか!)
直前には責任と言っていたが、今のメイアからはそんなものはすっぽりと抜けていた。今メイアを支配しているのはシュバルツに対する競争心、敵愾心だけだった。そしてそれに囚われたままメイアはヒビキたち…シュバルツを追って大気圏に突入したのだった。
同時刻、ヒビキたちが降下した惑星の地表では、
「何にもないじゃない、ここ」
「メイアが降りることないわね」
目視とはいえ、機体の中から周囲を索敵したジュラががっかりしたようにボヤき、バーネットがそう呟いていた。そしてそのまま、周囲の探索へと散っていく。
「わー、砂ばっかし…」
「ちょ、ちょっと待てよ! 勝手に進む…うわあああっ!」
呑気な感想を述べているディータ。そんな三人を仕切ろうとしたヒビキだったが、大気圏下でのヴァンガードの操縦が初めてだからだろうか、砂に足を取られて転倒して滑り落ちてしまった。
「宇宙人さん!?」
慌ててディータがヒビキに駆け寄る。
「…考えてみりゃ、俺も地上に降りるの初めてなんだよな。ったく、締まらねぇ…」
コックピットの中でヘコみながら自虐するヒビキ。と、そこに砂を踏みしめる音が聞こえた。
「ん?」
顔を向けると、そこには一体のヴァンガードが。そして何を思ったのか、そのヴァンガードが覆い被さってきたのだった。
「お、わあああっ!」
「ねえ、早いとこしない?」
覆い被さってきたヴァンガードの操者はジュラである。手段を選ばずというか、時と場所を考えずに迫ってくるのはある意味天晴ではある。だが、それに付き合わされる方はたまったものではない。
「じょ、冗談じゃねえ!」
ヒビキも案の定強く拒絶する。そして、当然それに同調する人物が一人。
「ディータ!?」
「宇宙人さんはディータとするの!」
譲るかとばかりにディータが頬を膨らませながらジュラを睨む。だが、そんなものでジュラが怯むわけはない。
「ちょっとあんた、誰にモノ言ってんの!?」
逆に威嚇するようにディータを睨みつけ返す。その様に気圧されたのかディータは少しの間二の句が継げなかったが、
「とにかくダメーっ!」
それでもそう言い返し、再びディータとジュラは機体を通して睨み合うことになった。と、
「いい加減にしろーっ!」
この状況に業を煮やしたヒビキが癇癪を起こしてバーニアを吹かせて飛び立った。傍から見れば二人の女に取り合われている形ではあるのだが、その実は合体のための鞘当て…言い換えればキーやパーツのように見られているとも言える。気分のいいものではないだろう。その鬱憤を爆発させてしまったのだ。が、皮肉にもそれが引き金となってしまった。もう活動を休止したかと思われた防衛システム。そのセンサーがヒビキのヴァンガードを検知して起動したのだ。直後、次々に防衛システムが起動していきヒビキたちを囲むようにレーザーの網が無数に張られていく。
「何!?」
最初にそれに気づいたのはバーネットだった。それとほぼ同時に、
「がああああっ!」
ヒビキの悲鳴が響き渡った。レーザーの網にかかった形のヒビキが、そのレーザーを介して電撃をお見舞いされたのだ。そしてヒビキのヴァンガードは力なく落下していく。が、突如として落下点の砂が人型に盛り上がると、そこから起動兵器が現れた。そして、その起動兵器がヒビキのヴァンガードをキャッチする。
「おっきい宇宙人さん!」
身を覆う砂を弾き飛ばして現れたのはシュバルツのガンダムシュピーゲルだった。シュバルツはそのままヒビキを砂上に置く。
「ちょっと…どこから現れたのよ…」
「…って言うか、いつ来てたの?」
ヒビキが助かったことに単純に喜んでいたディータとは違い、ジュラとバーネットはある意味至極当然の疑問をぶつけていた。が、
「説明している暇はなさそうだぞ」
『え?』
二人が首を捻った直後、それぞれの背後で轟音と共に竜巻が巻き上がった。
「!?」
「今度は何!?」
目まぐるしく変化する状況。その様子は艦内にも伝わっていた。
「心拍数が上昇している。彼らに何かあったようだ」
「報告」
「防衛システムが作動した模様」
「上陸班が発生したシールド内に捕獲されました」
「ッ! 上陸班、応答せよ」
ヒビキたちの状況はわかったが何もすることができない状況にブザムが歯噛みをしながら呼びかける。
『っ、何コレ…』
『だめよ、完全にトラップにハマったわ』
『今のところ、おっきい宇宙人さんのおかげで何とかなってますけど、このままじゃ…』
「落ち着くんだ。トラップの種類は」
『それが…』
『砂が襲ってくるんです!』
「な、何だと…」
予想外の返答に流石のブザムも固まってしまう。そして地表では、その報告通り各機が砂に吞み込まれていた。それも、ただ呑み込まれていくだけでなく、水の一滴が波紋として広がるかのようにじわじわと機体を侵食しているのである。
『何だ、この砂…』
『いやぁ、この砂、何だか変…』
『何よこれ…』
『なんか、生きてるみたい…』
「解析を頼む」
「了解!」
通信からの報告にブザムが矢継ぎ早にオペレーター班に指示を出す。そんな中、シュバルツは一人冷静に状況を判断していた。
(生きている砂か…言い得て妙だな)
システムを起動させ、ガンダムシュピーゲルの各所の状態を確認しながら他の連中の言葉を思い出す。機体の状態としては他のヴァンガードたちと変わらず、砂に襲われて侵食されている。が、
(いざとなればシュトゥルム・ウント・ドランクで吹き飛ばせばいい)
そう思っていたので他の連中より慌ててはいなかった。とは言え、
(だがこのトラップが作動している間ずっと回転しているわけにもいかん。何よりそれでは状況打破のしようがない。大元を断たねば…)
こうも考えていたので、ガンダムシュピーゲルの状態を絶えず確認しながらシュバルツは一人、このシステムの大元が何処なのかを探っていく。そこへ、
「こちらメイア。皆どこだ、応答しろ」
遅れてメイアが大気圏を超えて降下してきていた。
「無理をして…」
戦場にメイアが降りてきたことを知ったドゥエロがいつもの調子で、しかし少し悲し気にポツリとそう呟いたのだった。
「くそ! どうなってんだよ、動けねえぞ!」
ヒビキが操縦桿をガンガンと操作しながら悪態をつく。砂の浸食はさらに広がり、全身の大半を包み込もうとしていた。
「宇宙人さん…待ってて、今助けてあげるから…」
「無理に動くな! 余計固まるだけだ「ジュラに任せて!」」
ヒビキがディータを制した直後、ジュラから通信が入る。まだ被害が少なかったのか、ヒビキの許に飛んできたジュラがヴァンガードに搭載してあったブロワーでヒビキのヴァンガードを侵食している砂を吹き飛ばし始めた。
(ほぉ、やはり風圧で吹き飛ばすのは有効か…)
システムの大元を探りながら横目でその様子を目にしたシュバルツが、自分の推論は間違ってなかったことを認識して頷いた。
「いいぞ!」
「お礼に、アレしなさいよね」
「テメエ、まだんなこと言ってんのか!? 合体すんのはオメエらのドレッドとだろ! 蛮型同士でどうやって合体するってんだよ!?」
「ウソ…もー、だったらこんなとこ来なかったのにぃ!」
ジュラが身を捩って嘆くが、
(気づいていなかったのか…?)
そのことにシュバルツも呆れるばかりだった。降下してきたメイアが地表に降り立ったのはそんな時だった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
コックピットの中でダラダラと汗をかきながら呼吸を乱すメイア。ドレッドのコックピットと違い、右を見ても左を見てもすぐ側に機体の内部構造がある圧迫感がメイアの精神状態に過度な負担をかけ、脈拍、心拍数が跳ね上がった。
『いかん! メイア、聞こえるか? 視界を開放しろ! 出来るだけ遠くを見るんだ!』
「はぁ…はぁ…はぁ…」
『メイア! 聞こえているか!』
「おせっかいな奴だ…」
せっかくのドゥエロの忠告だったが、メイアの口から出てきたのは憎まれ口だった。が、口ではそう言っていても身体は正直にドゥエロの忠告に従って従って視界を開放する。そうしたおかげでまだ呼吸は荒いもののそれでも最悪の状態からは抜けることができた。が、
「! 何だ!?」
そんなメイアを嘲笑うかのように自分の少し先にある砂が盛り上がった。そして盛り上がったその砂は、程なく自分たちが乗ってきたヴァンガードと同じ姿を象る。直後、その砂のゴーレムはメイアに襲い掛かった。
「わっ!」
コックピットの中で短い悲鳴を上げ、そして、
「メイア機、レーダーから消えました!」
「何!?」
「乗組員は混乱している。危険な状態だ」
そんな報告が艦内で繰り広げられる。そしてそのメイアは、
「怖い…怖いよ…」
コックピットの中で恐怖に表情を引きつらせながら小刻みに震えていた。そこにいたのは他人にも自分にも厳しい戦士ではなく、一人の小さな女の子だった。
「シュバルツ!」
『わかっている』
ドゥエロからの通信にシュバルツが答える。
『あのお姫様を回収に行けと言うのだろう?』
「そうだ、頼めるか?」
ブザムが割って入ってシュバルツに尋ねた。
『承知』
「すまん」
「頼む」
『わかっている』
答えたシュバルツの脳裏には先ほどのシミュレーターでのドゥエロとのやり取りがあった。あのとき、ドゥエロからメイアのことを頼むと言われていたのだ。
(まさか、本当にこんなことになるとはな…)
医者の勘だとしたら大した洞察力だと感心しながらシュバルツはヒビキたちに通信を開く。
「と、言うことだ。ここはお前たちでどうにかしてくれ」
『わーったよ!』
『おっきい宇宙人さん、リーダーをお願い!』
『さっさと帰ってきてよ、もう!』
『やるしかない…か』
四者四様の返答を聞くと、シュバルツは出てきた時と同じように砂に潜って消えていった。
「どーゆー原理なんだよ、ありゃ…」
理解できない離脱の仕方に先ほどのジュラやバーネットと同様にヒビキがぼやいた直後、女性陣三人の悲鳴が響き渡った。
「皆、どうした!?」
艦内でブザムが確認の声を上げる。が、返答はない。では実際どうなっていたかと言うと、先ほどのメイアと同じく、ヴァンガードを象った砂のゴーレムがヒビキたちの周囲を囲んでいる状態になっていたのだ。
「何コレ!?」
ジュラが呆然とするもそれに誰も答えられるわけはない。そうこうしている間にその砂の巨人たちはヒビキたちに襲い掛かった。
『誰か助けて!』
『ッ! こいつッ!』
『ヤダヤダ来ないで!』
「一体、何が起こっているんだ…」
通信の内容だけをニル・ヴァーナ艦内で聞くだけの状況になっているブザムが呆然と口を開いた。と、ピピッと機械音が鳴る。
「分析結果出ました」
「モニターに出してくれ」
ブザムの指示を受けたアマローネがモニターに分析結果を表示した。そこには味方機を表すいくつかの光点と、それ以外のこれまたいくつかの光点が表示されている。
「この四角いのが意志を持って砂を操っている…様です」
そして、味方機以外の光点の詳細を説明した。断定していないのは分析したものの情報が少なすぎて推測でしか説明できないからだろう。そして表示した光点も単なる機械というわけではなく、その形状はダニやノミといった微小な生物を思わせるような生物的なフォルムのマシンだった。
「やっぱり! 奴等の残していった罠ってわけかい!」
苦虫を噛み潰すマグノ。その間にも地表ではヒビキたちが砂のゴーレムに襲い掛かられていた。
「ッ! 暖簾に腕押しってやつか!」
潰しても潰しても次から次へと襲ってくるゴーレムたちにヒビキが弱音を吐いた。無尽蔵に出てくる向こうとは違い、こちらの操者は生身の人間である。このまま進めばどちらが潰れてしまうかは火を見るよりも明らかだった。おまけに、
「砂がヴァンガードのシステムをコピーしてる! まるで血を抜かれてるみたい…」
その砂のゴーレムの異常性に気付き、ディータが怯えた声を出した。その直後、地表一体にサイレンが鳴り響いた。
「防御システムの自爆シーケンスが作動した模様です。爆発まで、後300秒!」
「ちっ、まずいね…」
「上陸班、直ちに帰還せよ!」
地表での異常が何なのかがわかったブザムが即座に帰還命令を出す。
「ッ! 気安く言うな! それが出来りゃとっくに!」
ヒビキが応答する。実際確かにその通りで、未だ防衛網に包まれている上に砂のゴーレムに囲まれている状況も健在なので、簡単に離脱できる状態ではない。
「爆発まで、後200秒!」
「チッ、どうすれば…」
「宇宙人さぁん…」
「もう、勘弁してよ! こんなところで爆死なんて、冗談じゃないわ!」
「どうにかして突破口を探さないと…」
(突破口…!)
周囲を観察していたヒビキがバーネットの呟いた一言に、そこにあったあるものを見つけて閃いた。
「!」
そして、そこに飛刀を打ち込む。攻撃を食らって瓦解したそれは液化ガスを保存してあるタンクだった。ひびが入り、瓦解したタンクから液化ガスが放出される。
「きゃあ!」
「何すんの!」
当然、それを浴びることになった女性陣からは非難が出た。
「寒い…凍っちゃう…凍る?」
何気に口にした自分の言葉にハッと思い至ったジュラが自分を襲っていたゴーレムに目をやる。ジュラが身をもって体感したように液化ガスを食らった砂のゴーレムは凍結し、そしてボロボロにひび割れて崩れ落ちた。
「凄い、凄ぉい! 流石宇宙人さん!」
「よぉし、後はあいつらと合流すれば…」
ヒビキがコックピット内でパシッと手を合わせた直後、
『心配は無用だ』
シュバルツから通信が入る。
「オメェ、大丈夫だったのかよ!?」
「おっきい宇宙人さん、リーダーは!?」
『慌てるな、ちゃんと確保してある』
「よかった…」
「ふぅ…」
シュバルツの返答に、ジュラとバーネットもホッと一安心とばかりに大きく息を吐いた。
『事情はこちらも把握している。お前たちは先に脱出しろ』
「は!? オメェ、何言って…」
『いいから行け。心配せずとも必ず戻る』
「いや、だからって「その言葉、信じていいのね?」オィ!」
ヒビキの通信にジュラが割り込む。割り込まれた形になったヒビキが文句を言うが、ジュラは委細気にせずにシュバルツに尋ねた。
『ああ』
「メイアのことも、任せていいってことよね?」
『無論』
「わかったわ」
ジュラの後を継いだバーネットが頷いた。
「バーネット!?」
「脱出するわよ」
「ちょっと待てよ、勝手に決めんな!」
「じゃあこのままここで爆発する? ジュラはそんなの真っ平御免よ」
「いや、そりゃあ…」
「爆発まで、後150秒!」
言い争っていたヒビキとジュラ、バーネットだったが、状況がそれを許さない。刻一刻とその瞬間を迎えつつあるのだ。
「ホラ!」
「ちっ、わーったよ!」
「宇宙人さん!?」
「あんたも! さっさとしなさい!」
「ちょ、ちょっと、バーネット!」
ドタバタしながらも四人は脱出の準備を進めていく。そして、
「んじゃ、後はよろしくぅ♪」
「あれだけ見栄を切ったんだから、ちゃんと戻ってきなさいよ!」
『…承知』
ジュラとバーネットの、らしい激励に苦笑しながらシュバルツは返答する。と、二人はヒビキとディータを引きずるようにして脱出していった。
「行ったか…」
四人が星から脱出していくのを見送ったシュバルツが呟く。そして、
「さて…」
見上げていた視線を下ろして自分の脇に向けると、そこに抱えていたものを無造作に投げ捨てた。砂の上に転がったそれは、メイアの乗っているヴァンガードである。
「爆発まで、後120秒!」
ベルデウェールの通信がシュバルツの、そしてメイアの耳に届いたのはそんな時だった。
時間は少し遡り、シュバルツがメイアを回収するためにヒビキたちの元から離脱した直後。
「さて…」
ゲルマン忍法を駆使して先ほどまでと同じように砂の中から姿を現したガンダムシュピーゲル。その中にいるシュバルツがレーダーを展開してメイアのヴァンガードの位置を探った。
「そこか」
程なく目的であるメイアのヴァンガードの反応を発見するとそこに向かう。そして、機体をほぼ砂に呑まれたヴァンガードを発見した。が、妙なことに、反応はあるのだが動きがない。
(ん?)
まるで動きのないその様子に不審に思いつつも、シュバルツは距離を詰める。そして指呼の距離まで迫ったところで突然そのヴァンガードが立ち上がると、シュバルツに襲い掛かってきた。
「……」
普通ならば不意を突かれそうな攻撃だったが、相手が悪すぎた。シュバルツは難なくその攻撃を対処するとメイアに対して通信を開く。
「あ…あ…あ…」
そこに表示されたのは、虚ろな表情で目の焦点が合わず、意識が半分飛んでいる様子のメイアの姿だった。
(これはまた…尋常な精神状態ではないな。この空間、この状況が一種のトラウマにでもなっているのか?)
シュバルツは弟の恋人であるレインのような医者ではないが、それでも今のメイアが尋常な状態ではないのはわかった。この状態では何を言ったところで実のある反応は返ってこないだろう。それに、たとえ返ってきたとしても機体が砂に乗っ取られている今の状態では何もできずにいいように操られるだけのことだ。
(…少し荒療治になるが、まあ、己を弁えずに無理をした報いとでも思ってもらおうか)
ガンダムシュピーゲルも砂に覆われかけ始めた状態のシュバルツが、自分とメイアの今の状況を同時に解決する方法を思いついた。その方法は今頭に浮かんだように多少の荒療治ではあるのだが、当人がこんな様である。文句を言われる筋合いはない。そう判断したシュバルツが何度目かの攻撃をかわした後にメイアのヴァンガードの頭部を掴んだ。そして、
「ふんっ!」
裂帛の気合と共に上空にぶん投げる。直後、
「シュトゥルム・ウント・ドランクゥゥゥゥ!」
シュトゥルム・ウント・ドランクを発動させ、まずは遠心力でガンダムシュピーゲルの全身を覆いかけた砂を吹き飛ばした。と同時に、
「はあああっ!」
回転の余波で出来た竜巻を力なく自由落下してきたメイアのヴァンガードの直下から上空に向かって吹き上げる。竜巻…風圧の洗礼を食らったメイアのヴァンガードは、今々のガンダムシュピーゲルと同じように全身の砂を吹き飛ばされ、降下してくる前の状態に戻った。そして、そのまま変わらずに自由落下してきたメイアのヴァンガードをシュバルツはこともなげにキャッチして小脇に抱えると、ヒビキたちの許に戻ったのであった。
「う…」
遡った時間を戻し、ヒビキたちが脱出した直後。シュトゥルム・ウント・ドランクの余波で気を失っていたメイアが、無造作に投げ捨てられた衝撃で意識を取り戻した。
「く…ここは…」
『気が付いたか』
「!」
通信から聞こえてきた声にハッとなって顔を上げる。そこには、腕を組んで己を見下ろしているガンダムシュピーゲルの…シュバルツの姿があった。
(私は…またこの男に!?)
負けたのか…助けられたのか…どちらの感情をメイアが抱いたのかはわからない。が、この状況からそうであるのは明白だった。ギリッと奥歯をかみしめると、ダンッとコンソールを叩く。そこに追い打ちをかけるかのように、
『無様だな』
シュバルツからの通信が入った。
「何だと!?」
『聞こえなかったか? 無様だと言ったのだ』
「貴様…ッ!」
『反論の余地があるならば言ってみるがいい、聞こう。だが、冷静な自己分析もできずに出撃し、砂に呑まれて固まって己の精神を擦り減らしただけのお前に身のある反論ができるのか、言えるものならば言ってみるがいい』
「! うるさい!」
図星を突かれたメイアがシュバルツに襲い掛かる。が、その身体を捉える直前にガンダムシュピーゲルはフッと姿を消した。
「!?」
何処に!? と、慌ててメイアが探索しようとするが、その直後機体の背中部分に衝撃が走る。
「ぐっ!」
そしてそのまま、しこたま地面に叩きつけられた。
「っ!」
痛みに顔を顰めながらモニターを展開させる。そこにはやはり、いつの間に移動したのかガンダムシュピーゲルの姿があった。先ほどと同じく腕を組み、地に伏した自分を見下ろしている。
(ッ!)
またしても…と言うより、これまで同様シュバルツにいいようにあしらわれ、その敗北感、屈辱感にメイアはコックピットで怒りと悔しさに身を震わせていた。その一方で、
(やれやれ…)
シュバルツはガンダムシュピーゲルのコックピット内で少々うんざりしていた。タラークとメジェールの歴史、そしてこの世界における女と男に対するそれぞれの基本概念は理解したのだが、それでもいつまでもこんな風に食って掛かられてはたまったものではない。好意的になれとは言わないが、もう少し状況を考えて柔軟になってほしいものだと思っていた。
(他の連中はまだ話がわかるのだが、どうもこの女だけはな…)
いつまでも敵視してくるメイアに辟易とするシュバルツ。先だって少し灸を据えたのだが、それでも大した変化は見られない。だが、メイアのパーソナリティの部分をすべて知っているわけでもないため、これ以上断罪するわけにもいかない。メイアのバックボーンに何かあったのか…あったとしたらそれは何なのか…。断を下すのはそれからでも遅くはないのだ。
(全く、手のかかる奴だ…。いや、そういう意味ではあいつと同じか)
シュバルツの脳裏に、弟の姿が浮かんだ。そして、その姿がメイアと重なる。性別も顔つきも身体の造りも、何もかもが違うのに、不思議と目の前にいる女性と弟の姿がオーバーラップしたのだった。
(不思議なものだな…)
ほんの少しの間感慨にふけるシュバルツ。だが、それも一瞬だった。
『爆発まで、後60秒!』
急かすようなベルデウェールからの通信が入る。だがシュバルツの様子は変わらない、そして、
「己の身の程がわかったか?」
挑発するようにメイアに語りかけたのだった。
『何だと!?』
ヴァンガードの頭部をシュバルツに向けるメイア。コックピットの中では変わらずに敵愾心を剥き出しにしていことだろう。だがシュバルツはそんなことは委細構わずに続けた。
「今の貴様では逆立ちしても私には勝てん。精進することだな」
『うるさい! 余計なお世話だ!』
「…威勢がいいのは結構だが、冷静な現状把握が出来んようではまだまだだな」
『黙れ!』
この状況でもまだ強がるメイアにシュバルツがコックピットで疲れたようにふぅ…と溜め息をつく。が、悠長にしていられる時間はない。
「まあいい、今はこれまでだ。行くぞ」
そしてメイアのヴァンガードに手を伸ばす。が、
『触るな!』
その手を、メイアが乱暴に払いのけて拒絶した。
『私は誰の手も借りない! 危機は自力で乗り越えてみせる!』
「…わかった」
ここまで来てもまだ頑ななメイアに、ついにシュバルツも匙を投げた。そしてそのまま背を向ける。
「ならば望み通りにしてやる。そのまま砂に呑み込まれて生命を失うがいい」
『え…』
シュバルツの返答にメイアが思わず心細げな呟きをポツリを漏らした直後、ガンダムシュピーゲルは忽然とその場から姿を消した。そしてシュバルツの宣言通り、メイアは誰もいない惑星に一人、取り残されることになった。
「あ…」
慌ててモニターを展開させるが、もう右を見ても左を見ても誰もいない。あるのは荒廃した土地と、変わらず吹き続ける砂嵐だけだった。そして、シュバルツのシュトゥルム・ウント・ドランクで吹き飛ばされた砂が再びメイアの機体を覆っていき、視界がどんどんと狭まっていく。
『爆発まで、後30秒!』
もう残り時間は少ない。すぐにでも脱出しなければ爆発に巻き込まれるだろう。だがメイアは吐き気を押さえるかのように口を抑えて脂汗を掻いていた。
「うっ!」
逆流しそうになる胃の内容物を必死に飲み込むメイア。だが、そんなメイアを追い込むかのように砂によって視界はどんどん狭まり、そして先ほど同様にすべて覆われてしまった。
「ひっ!」
閉じ込められた形の狭小な閉鎖空間にガタガタ震えだすメイア。
『爆発まで、後15秒!』
そこに追い打ちをかけるかのように死の宣告が迫る。間近まで迫った死の恐怖と、幼い頃の己の記憶がフラッシュバックして精神が限界を超えかけたメイアは、
「い、いやだ…。助…け…て」
涙を流しながら弱々しく手を伸ばして意識を失った。そして、
『…リミット』
直後、惑星全体が爆発し、この宇宙空間から一つの星が消え去ったのだった。
「はっ!」
メイアが目を覚ました。まず最初に目に入ってきたのは照明の眩しい真っ白な天井だった。
「ここ…は…」
今どこにいるのか、そしてどういう状況なのかがわからず、呆然と呟くメイア。と、
「あー! メイア、目が覚めた!」
良く知った声ながらその声の大きさに少しビクッとしながら顔を向けると、そこにはびっくりした表情で自分を見ているパイウェイの姿があった。
「パイ…?」
「目が覚めたー! 目が覚めたー! 大丈夫…? ケロッ!」
「あ、あ、ああ…」
いつもと変わらずカエルのぬいぐるみで様子を探ってくるパイウェイに少し戸惑いながら上体を起こす。パイウェイがいることと、白を基調にした室内ということもあってどうやらニル・ヴァーナの中のようだ。
(私は…どうして…?)
ここにいるのだろう。そう思ったメイアだがその理由がわかるわけもなく、疲れたようにふぅ…と息を吐きながら手を額に当てた。
「まだダメだよー。もう少し安静にしているケロ」
「わかっている。これ以上は身体を動かすつもりはない。心配しなくていい」
「良かったケロ」
こういう状況でも全くペースの変わらないパイウェイの姿にメイアがフッと微笑んだ。
「パイ」
「なーに?」
「私はどうしてここにいるんだ?」
「あの男が連れて帰ってきたケロ」
「男…」
その一言で大体の事情を察したメイアの表情が歪む。
「…一応聞いておくが、その男というのは…」
「もっちろん、あのでっかくて物静かで、エラそうな男のことケロ」
「ああ…」
その遠慮のない評価に、やはりそうかとメイアが唇を噛んだ。
(何ということだ…あんな男に…)
ギュッと拳を握り締めて、メイアは肩を震わせた。
「だが、どうやって…」
あの状況から私をここまで連れてくることができたのだろう…。そう考えたメイアの脳裏を見透かすかのように、
「影から出てきたケロよ」
と、パイウェイが補足した。
「影?」
意味がわからず、首を捻るメイア。
「ま、わかんないよね。でも、記録映像は取ってあるケロ。見たい?」
「ああ」
「それじゃあ、特別に見せてあげるケロ」
別にパイウェイが特別に記録を録っていたというわけでもないだろうが、えらく恩着せがましく胸を張ると、携帯端末でシステムを操作する。直後、メイアの正面にスクリーンが展開され、そのときの様子が映し出された。
『おい、あいつ!』
『ちょっと…』
『噓でしょ!?』
『リーダー!? おっきい宇宙人さん!?』
最初に出てきたのは惑星の爆発直後の格納庫の様子だった。それぞれが格納庫内に展開されたスクリーンに目を向け、呆然とした表情でその様子を見つめている。程なく、先ほどまで自分たちがいた惑星は消失し、何もない宇宙空間のみがスクリーンに表示されることとなった。
『そんな…』
呆然と呟くジュラ。だが直後、
『何を呆けている』
自分たちのよく知っている声が格納庫内に響き渡り、四人はハッと顔を上げた。そして格納庫の隅に影ができてその影が盛り上がると、そこからガンダムシュピーゲルが姿を現したのだった。そしてその小脇には、メイアが乗っていたヴァンガードが抱えられている。
(ッ!)
自分がシュバルツに助けられたことを見せつけられ、メイアが表情を歪ませながら唇を噛んだ。
『おっきい宇宙人さん!』
『オメェ…ビビらせんじゃねえよ!』
『あの程度で死ぬ私ではない』
『ねえちょっと、そんなことより!』
『メイアは無事なの!?』
シュバルツの生還に安堵した形のディータとヒビキ。その二人とは対照的に、ジュラとバーネットはガンダムシュピーゲルが小脇に抱えているヴァンガードのパイロットであるメイアの安否が気になるようだった。それに対し、
『ああ』
シュバルツが短くそう答えると、先ほどと同じくそのヴァンガードを無造作に投げ捨てる。先ほどとは違い、砂の上ではなく金属の床に投げ捨てられた形のヴァンガードは格納庫内に騒音と振動を発生させた。
『わっ!』
『まだ生命はある。早く手当てをしてやれ』
『ちょっと! もう少し丁寧に扱いなさいよ!』
そのあんまりな扱いに、バーネットがシュバルツに食って掛かる。が、
『文句を言うぐらいなら、さっさと運んでやれ』
『っ! あーっ、もう!』
歯牙にもかけず、シュバルツはそのままガンダムシュピーゲルを定位置に移動させる。憤懣やるかたない様子のバーネットだったが、確かにこんなことよりもメイアの救護の方が先だった。
『パイ! 大至急こっちに来て!』
『その必要はない』
バーネットが通信を開いた直後にドゥエロがバートを伴って格納庫に姿を現した。
『担架を持ってきた。ここに寝かせてくれ』
『オッケー』
『リーダー! 大丈夫ですか!?』
ジュラがハッチを開けてディータがメイアに声をかけたが、メイアは完全に意識を失っているのかピクリともしなかった。ただ、乱れながらも呼吸はあるので死んではいないことだけは証明できた。
『…いかんな、状態が酷い。すぐにでも処置しなければ』
『んじゃ、さっさと運ぼうか』
『うむ』
軽く状態を見て判断を下したドゥエロがバートと共にメイアを担架に乗せると、そのまま格納庫を去っていった。
「こんな感じー」
手短ではあるが事の顛末をメイアに見せたパイウェイがそこで映像を中断した。それに対し、
「そうか」
メイアが何も感情のこもってない声でそう返答した。
「ま、ゆっくり休んでてよ。私は皆に知らせてくるケロ」
「ああ」
首肯と同時にメイアが再び身を横たわらせ、パイウェイに背を向けた。
「報告ー、報告ー、メイアが目を覚ましたケロ!」
パイウェイはいつもの調子そのまま、今自分が言った通りにメイアが目を覚ましたことを伝えに出ていった。そして、
(何という屈辱だ…男に、それもあの男に生命を助けられるとは…)
パイウェイに背を向けた形のメイアはその受け入れがたい事実に打ちのめされ、そしてシュバルツに対する理不尽な怒りを募らせていたのだった。