機動武闘伝Gガンダムヴァンドレッド   作: ノーリ

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おはようございます。前回の続き、原作第六話の前半部分です。原作ご存じの方にはお分かりですが、あのキャラのターニングポイントになる回ですね。そしてもちろん、この二次創作でもそこは踏襲します。
内容的に今回はあまり原作とは変わりませんが、次回への振りだと思ってください。

では、どうぞ。


NO.10 この素晴らしき世界

「頭部外傷、脾臓破裂、大腿骨骨折…」

 

ニル・ヴァーナ艦内にて、ストレッチャーに乗せられて緊急搬送されている人影が一つ…メイアだった。身体の状態を再確認するようにドゥエロが呟いた内容通り、非常に危険な容態であることがわかる。それを裏付けるかのようにメイアに意識はなく、頭部から血を流していた。

 

「このバカ! 無茶しやがって!」

 

何故か付き添っている形のヒビキが悪態をつく。もちろん、本気でそんなことを思っているわけではない。憎まれ口はいつものことだが、その表情から心配していることは十分に読み取れた。すぐ傍にはディータの姿もある。こちらもまた彼女らしく、心配の表情を浮かべて不安げにメイアを見ていた。

先ほど再びカリトリとの戦闘があり、その際に重傷を負ってしまったのだ。

 

(……)

 

ハッキリしない意識の中、メイアの脳裏にこれまでの記憶が走馬灯のように流れていく。メジェールにおける父的立場…オーマのこと、同じく母的立場…ファーマのこと。幼き日の自分の姿。幸せだった時間。それが失くなってしまったときのこと。その日からの地獄の日々。そして…

 

「診療台を開けろ!」

 

ドゥエロが、彼には珍しく声を荒げてストレッチャーと共に医療室に入ってきた。待っていたのか、パイウェイが迎え入れ、協力して診療台にメイアを移動させる。その拍子に、いつもメイアが付けている左目の周囲を覆う装飾具が医療室の床に落ちた。そしてそれもまた、メイアの流した血で彩られていたのだった。

 

(母…さん…)

 

照らし続ける照明を虚ろな目で見続けるメイアが、無意識に亡き母を呼んだのはそんなときだった。

 

 

 

 

 

ニル・ヴァーナの艦外では未だ戦闘が続いている。それも当然で、敵がこちらの状況を斟酌してくれるわけはないのだ。今回の舞台となっている宙域はデブリベルト。人型の起動兵器であるヴァンガードはともかくとして、戦闘機型の起動兵器であるドレッドとしてはその大きなアドバンテージであるスピードが極端に制限される…つまり、長所を著しく制約されての不利な戦場であった。加えて、今は指揮官の離脱という更なるマイナスもある。

 

「Aチームは、フォーメーションα1! Bチームは、えっと…」

 

メイアが戦線から離脱し、代理で指揮を執っているのはジュラ。彼女は精一杯やっているのだがしかし、いかんせん経験がなさ過ぎた。所々で適切な指示が出せずに止まってしまう。そこを見過ごすかとばかりにカリトリの新しい兵器が攻撃を仕掛けてきた。今回の新型は、その姿、形状から四葉のクローバーを模したような形状である。

それが複数機、デブリなどどこ吹く風といった感じですごいスピードで戦場を縦横無尽に動き回ってドレッド隊を攻撃・攪乱しているのだ。

 

「しっかりしなさいよ、ジュラ! フォーメーションがバラバラよ!」

 

バーネットからの檄が飛ぶ。が、

 

「わ、わかってる。わかってるけど…」

 

いつもの自信満々な様子は何処へやら、テンパっているのが一目でわかる表情で忙しなく戦場のあちこちに視線を走らせる。直後、敵からの攻撃がジュラのドレッドを掠め、そしてその後方のニル・ヴァーナを襲った。

 

「後部第一シールド、消失!」

「攻撃が下の方に集中!」

「Cチーム、フォーメーションに戻って!」

「皆どこ!?」

「何やってんの!」

 

ブリッジには次々と通信が舞い込み、てんやわんやである。

 

「擬態をかけるシステムまで、あるというのか…」

 

ブザムが苦虫を噛み潰したような表情になって呟いた。今回苦戦を強いられているのはメイアの離脱、戦場がデブリベルトであることに加え、これによるものも大きいようだった。識別信号を混在させることでドレッドのレーダーを攪乱しているのだろう。ブリッジがそんな状況下ということで、当然レジの状況も変わらない。

 

「もしもし!? もしもし!?」

「ちょっと、どうなってるの!?」

「え!? 何!? 聞こえない!」

 

ここもいつも以上に戦場と化していた。

 

「パ二クるんじゃないよ」

 

そんな状況を見かねたガスコーニュが喝を入れる。

 

「慌てようが落ち着こうが、結果は一緒だろ? さん、はい」

『スマイル、スマイル!』

「はい、よろしい」

 

レジクルーたちの返答に満足げに頷くガスコーニュ。が、

 

(…とは言え、このままじゃやばい状況なのは確かだね…)

 

と、現在の状況に危惧も抱いていたのだった。それを裏付けるかのように、時間が経つごとに戦況は少しずつ悪化していく。

 

「だああっ! ちきしょう! 来んな来んな!」

 

システムに呑み込まれたバートが必死でジタバタするものの、そんな願いが叶うわけもなく攻撃は激しさを増していく。

 

「敵主力、二手に展開!」

「ドレッド、更に三機大破! 防衛線、維持できません!」

 

その他、被弾からの悲鳴やデリオーダーが処理されないなどの不満といった細々とした報告が大小合わせて無数、ブリッジを駆け回っていた。

 

「メイア…」

 

そんな中、戦況を厳しく見つめるマグノはふと、今死の淵にいるメイアの名前を呼んだのだった。

 

 

 

 

 

「パイウェイ、酸素飽和度の低下を抑えろ。身体機能の安定が最優先だ」

 

ドゥエロからの指示にパイウェイが慌てて処置を施す。虚ろな表情のまま処置を受けているメイアの視界はボンヤリとし、ドゥエロとパイウェイの輪郭がぼやけていた。そして、診療台の照明が自分の視界を白くし、幼い時の記憶を思い出す。

 

 

 

『それ、オーマからのプレゼントなのよ』

『お前は優秀な子なんだ』

『まあ、こんなに汚して』

『あなたはオーマになるのね』

 

浮かんできたのは己の父的存在であるオーマの姿と、母的存在であるファーマの姿だった。

 

(心のどこかで軽蔑していた、弱い母を。自分はもう十分に大人だと思っていた。あんな母ぐらい、自分が護れると思い込んでいた)

 

ストレッチャーで運ばれていたときと同様に、幼い日の記憶が次々と脳裏にフラッシュバックする。幸せだった日々から、辛い日々へと代わり、そして母…ファーマとの永遠の別れ。

 

(でも、最後に気付いたんだ。本当は私が護られていたって…)

 

後悔か、悲しみか、メイアの瞳から涙が溢れだし、それが頬を伝った。それを見たパイウェイがハッと息を呑む。

 

「初めて見た」

「ん?」

「メイアの涙…」

 

いつもはお調子者のパイウェイの今の姿、そしてそのセリフに、振り向いたドゥエロはかける言葉も見当たらなかった。

医療室で変化が起こっているように、戦場も刻々と変化している。それも、趨勢は不利な方へ傾く形に。

 

「これじゃ埒が明かないよ! ジュラ、ジュラ!」

「あたしに…聞かないで!」

 

バーネットが通信を開くが、状況に対処しきれなかったジュラはついに爆発してしまった。

 

「オラオラオラ!」

 

一方で戦線に復帰したヒビキだったが、やはりデブリベルトでの戦闘ということでデブリに苦労していた。ヴァンガードはドレッドほど高機動戦闘が持ち味ではないが、それでもデブリを避けながらの攻撃に苦労するのは当然のことであった。

 

「くっそー、しゃあねえか…。オイ、UFO女! 合体するぞ!」

 

戦況を判断してこのままでは埒が明かないことを感じ取ったヒビキがディータに通信を開く。女側からの、あるいはアクシデント的な合体を除く、初めてのヒビキからの合体要請だった。

 

「えっ!? うん」

 

ヒビキからの初めての合体要請に驚いたディータだったが、断る理由もない。デブリベルトの中で何とか合体を果たしたヴァンドレッド・ディータはカリトリの新型を背走して後部から照準を合わせる。

 

「へへ…」

 

キャノン砲を展開させ発射しようとしたが、その直前に新型は動きを変えた。そしてヴァンドレッド・ディータの真正面に、突然巨大なデブリが姿を現したのだった。

 

「うおおおおっ!?」

「きゃあ!」

 

コックピットで悲鳴を上げるヒビキとディータ。慌てて軌道を修正して何とかかわすことに成功した。が、その代償として新型を取り逃がすことになってしまった。

 

「チクショウ、追いつけねぇ」

 

展開したキャノン砲を収納すると悔しそうに歯噛みするヒビキ。そこに、

 

「何よ…デカい口叩く割に、コレ!?」

 

ジュラがヒビキを糾弾する通信を入れてきた。切羽詰まった余裕のなさゆえの暴挙ではある。そして、

 

「ウルセェ! 指揮も碌に出来ねえくせに!」

「ッ! 男に言われたくないわよ!」

「んだとぉ!?」

 

状況の悪化がギスギスした雰囲気と余裕のなさに拍車をかける。今の通信以外にも、各所から入ってくる芳しくない無数の通信に、ブリッジのブザムが歯噛みした。

 

「メイアのリーダーシップに甘え過ぎていたためです。サブリーダーの育成がおろそかになっていました。あんなデータを入手した以上、厳しい戦いになるのはわかっていたはずなのに…」

 

先の砂の惑星で入手したデータのことを、ブザムが思い出していた。

 

 

 

『惑星データ、ある程度キャッチできました』

『読め』

『あ、あの…』

 

ブザムの指示があったが、ベルデウェールは何故か逡巡している。その態度には少し怯えの色も見えた。

 

『どうした? 聞こえなかったか?』

『すみません、読み上げます』

 

ブザムが再度促したことで、ベルデウェールがデータを読み上げた。その内容は、

 

『今期収穫項目、赤血球、白血球、血小板、リンパ球他、血液成分状態良好。データはここまでで終わっています…』

『お頭! これは…』

『敵さんの目的は文字通り収穫だった。あたしらをまるで野菜か何かと同じくらいにしか思ってないってわけか!』

 

その解析したデータの内容にブリッジの空気が凍る。とてもではないが受け入れがたいその内容に、マグノが憤りを隠せない。

 

『今度のことでわかったことはただ一つ。私らはとんでもない奴等を相手にしているってことさね!』

 

 

 

「申し訳ありません」

「いやBC、あんたのせいじゃないよ。あの子がそれをしなかったのさ」

 

自責の言葉を述べるブザムに、マグノがいつもと変わらぬ落ち着いた口調で声をかけた。

 

「必要以上に人と接触するのを避けていた。人に頼ることはない。初めてあの子を拾ったときから、いつかこうなるとは思っていたが…」

 

そして、在りし日のメイアの姿を思い出す。父と母…オーマとファーマを失い、一人になってやさぐれて、喧嘩、酒、タバコと自暴自棄になっていたメイアの姿を。

 

「…あの事故以来、それまで自分を持ち上げてきたはずの世間の目が、裏を返したように冷たくなって、気づいちまったのさ。自分には何もなかったってことにね」

 

マグノがメイアを拾ったのはそんな時だった。

 

「あの子は自分を罰しているのさ。誰にでも経験のある間違いだろうにね。それを全部自分の弱さのせいにして、良く言っていたよ」

 

『大事なものなんか要らない。そんなものがあるから、みんな弱くなるんだ。強くなりたい、どんなことが起こっても、全然傷ついたりしない強さが欲しい』

 

マグノが指摘したあの事故というのは、一言で言えば実験の失敗による環境の破壊だった。

メイアのオーマはテラフォーミングを推進するプロジェクトのリーダーであり、ファーマはそのサポートをする科学者だった。そういう立場の両親の許に生まれたメイアもまた、ちょっとしたアイドル…広告塔のように扱われていた。まあ、よくあるマスコミの姿である。死線を彷徨っているメイアもそのマグノの思考に導かれたのか、そのときのことを思い出していた。

それはある年のクリスマス。

 

『ねえ、もういいでしょう?』

 

もらったクリスマスプレゼントを開けてみたく、ねだる幼いメイアの姿があった。

 

『さあね、オーマに聞いてごらんなさい』

『じゃあいいよね』

 

ファーマが釘を刺したのだが自己解釈に基づいてメイアがプレゼントを開けた。そこにあったのは一台のオルゴールだった。

 

『わぁ…』

 

嬉しそうにそのオルゴールを開けるメイア。当然、電子のメロディが流れ出してきた。

 

『何、これ?』

『“この素晴らしき世界”といって、我々の祖先の星、“地球”の曲さ』

 

「……」

 

ボンヤリとした意識で天井の照明を眺めているメイア。場面反転し、今度は姿見の前でトレードマークとなっている装飾具をつけているシーンになる。

 

『オーマからのプレゼントなのよ。とうとう自分の物にして…』

『いーじゃん。これ母さんより私の方が似合ってるよ』

 

ファーマからの優しい苦情をすまし顔で跳ね除けるメイア。だが、そんな幸せな時間は長く続かなかった。オーマが主導していたプロジェクトが失敗してテラフォームを進めていたエリアが局地的だが大爆発を起こしたのだ。そしてそうなると、その主導者であった者たちへの世間の風当たりは当然強くなる。

オーマとファーマは離別し、マスコミに責任を追及される日々。そんな状態では普通の生活など望むべくもなく、環境の悪化に比例するかのようにメイアは荒んでいった。テラフォームの失敗で環境汚染が酷くなっていく中、メイアは多数の子供たちと一緒に避難用の脱出用ロケットに寿司詰めで乗せられ、

 

『母さん! 母さんも一緒に! 母さん!』

 

必死で手を伸ばして叫ぶメイアを、ファーマは優しい眼差しで見つめながら首を左右に振った。

 

『ヤダ、私も残る!』

 

手を伸ばし続けるメイアだったがロケットへと向かう人波に圧されてファーマとの距離はどんどん遠ざかっていく。そしてそれが、メイアがファーマを見た最後の姿になり、直後にメイアたちの住んでいた地域が大爆発を起こしたのが、ロケットの窓から見えたのだった。

そしてまた場面が変わり、そこには緑の草原と青空の下で佇むファーマの姿があった。

 

『母さんねえ、この大地を緑で一杯にしたいの。みんながゆったりお昼寝したり、本を読んだり、みんなが幸せだなって、心から感じられるところに』

 

それは鳥かごを開け、そこで飼っていた鳥を大空に放しながら言ったファーマの言葉だった。そこでまた、メイアの意識は深淵の闇に落ちていったのだった。

メイアがそうやって死線を彷徨っている間も、戦闘は続いている。

 

「あたしには、ムリよ…。メイアの代わりなんか、できっこない…」

 

とある一室で膝を抱えて俯いているジュラの姿があった。補給でいったん戻ったのか、すぐ側からレジの様子が見える。先ほどまでの戦闘経緯が余程堪えたのか、そこにはいつもの自身に満ちたジュラの姿はなかった。と、

 

「思い上がるんじゃないよ」

 

頭上から声をかけられて顔を上げると、そこにはガスコーニュの姿があった。

 

「だーれもお前さんにメイアの代わりなんか期待しちゃいないんだよ」

 

厳しい言葉で檄を飛ばし、ジュラの顔が歪んだ。が、

 

「だから、安心して皆を頼りゃいい。周りを見てごらん? あんたはジュラだ、メイアじゃない。できもしないことを無理してやることはないんだ。何ができて何ができないか、それだけ伝えてやればいい。後は皆が助けてくれるさ」

 

厳しい檄だけで終わらないところがガスコーニュである。諭されたジュラも、先ほどの歪んだ顔が戻っていた。立ち上がり、去っていくジュラの後ろ姿を見送ったガスコーニュだったが、

 

「…とは言え、このままじゃ戦況がよろしくないのも確かだねぇ。今はどういう状況かわからないけど、ちょっと突っ込んでみるかね」

 

そして、とある人物に向けて通信を開く。すると、図ったかのようにブリッジ、メカニックからも丁度その人物に向かって通信が開かれたところだった。そして、

 

『シュバルツ!』

 

数人の声がほぼ同時に重なり、その人物の…シュバルツ・ブルーダーの名前を呼んだのだった。

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

格納庫の一角にいたシュバルツが不意に背後から大勢の人間に名前を呼ばれ、彼には珍しくビクッと身体を震わせた。が、すぐに冷静になると、

 

「何だ?」

 

と振り返る。そこにあったのは三つの通信ウインドウで、一つにはブザムを筆頭にブリッジクルー、もう一つにはパルフェをはじめとするメカニッククルー、そして最後の一つにはガスコーニュが率いるレジクルーの姿があった。

 

『単刀直入に聞く。出れるか?』

 

口火を切ったのはブザムだった。それに対し、

 

「すまんな」

 

シュバルツが謝罪した。

 

「まだもう少し時間がかかりそうだ」

 

そう言って、己の後ろを振り返る。そこにある自身の相棒、ガンダムシュピーゲルはその姿こそ正常だが、戦場に出てはいなかった。そして、その返答に主にクルーの面々がガックリと肩を落としたり、表情を曇らせている。

 

『あとどのくらいかかりそうなんだい?』

 

ブザムの後を引き継ぐ形となったガスコーニュが突っ込んだ。

 

「さて…何ともな」

 

が、シュバルツが返したのは何とも歯切れの悪い返答だった。

 

「先ほどの返答の通りと言ったところか。まだもう少し…としか言えん。順調にいけば短くなるし、いかなければ長くなる」

『もー、何でもいいから早くしてよぉ!』

 

煙に巻かれたような返答にパルフェから泣きが入った。

 

「そうは言われてもな…。まあ、急ピッチで用意を整える、としか言えんのがせいぜいか」

『もー! もー!! もー!!!』

 

やはり暖簾に腕押しの返答にパルフェはお冠だ。その様子に苦笑しながら、

 

「と、言うことだ」

 

と、癇癪を起こしているパルフェ以外の全員に返したのだった。

 

「心苦しいが、他の連中に頑張ってもらうしかあるまい」

『おやおや、随分と他人事じゃないか』

「実際まだ出れる状態ではないのでな」

『悠長なことを言っていられる状況でないのだが…』

「とは言え、現状どうしようもないのもまた事実」

『全く…困ったもんだね』

「文句なら敵さんに言え。それにお前たち、海賊なのだろう? だったらドンパチで生命を落とすことだって当然あるのは理解しての稼業のはずだ。違うか?」

『そりゃま、そうだけどさ』

「ならばジタバタするな。今私が言えることは間に合えば出る、それだけだ。外の連中がそれまでに終わらせられるか、持ち堪えるか、それとも敗れるか…。最悪の状況を迎えることがないように、仕事しながら神頼みでもしているのだな」

『鬼ー! 悪魔ー!』

「何とでも言え」

 

そこでパルフェたちとの通信をシュバルツが強制的に終わらせた。

 

『とにかくなるべく早く頼む』

『そうだね。あたしらも自分らの仕事こなすから、あんたも努力してくれよ』

「善処はしよう」

 

否とも応とも言えない返答内容にそれぞれ思うところはあったようだが、ブザムたちもガスコーニュたちもそこで通信を閉じた。これ以上問答しても何も得られないと感じ取ったのだろう。

 

 

 

「さて…」

 

思わぬ闖入者たちとの会話を終えたシュバルツが再度振り返る。そこには、先ほどと変わらず格納庫内に佇むガンダムシュピーゲルの姿があった。今の通信の内容からもわかるように、今回シュバルツは今のところ出撃していない。それは何故かというと、一言で言えばガンダムシュピーゲルがオーバーホール中であったからだった。

この前の砂の惑星以降、これまでに何度かカリトリとの小競り合いがあった。その戦闘には従来通り出撃していたシュバルツとガンダムシュピーゲルだったが、どうもモビルトレースシステムの調子というか精度が悪いというかしっくりこないのである。システムでの動きと実際の反応に微妙なズレを感じていたのだ。それでもシュバルツの超人的な技量でこれまでの戦闘は問題なく行えていたのだが、この微妙なズレが原因で取り返しのつかない事態が起こってはどうしようもない。そう判断したシュバルツはガンダムシュピーゲルを一度オーバーホールすることにしたのだ。そしてその許可が先日出たので作業していたのだが、その最中に今回の事態ということになったのだった。

 

(間の悪いタイミングでの襲撃だ…。もっとも、敵さんがこちらの事情を斟酌するわけもないか…)

 

内心で溜め息をつくシュバルツ。戦況はここにも伝わってきているので芳しくない状況であることはわかっていた。しかし、オーバーホール中の機体では何もできはしない。

 

「しかし…」

 

そこまで考えたところでシュバルツは視線を違う方向に向けた。

 

「予想はしていたが、それでもまさかここまでの量とはな」

 

呆れながら呟く。そこには、今回のこの事態を招いた元凶とでもいうべき砂の山があった。ガンダムシュピーゲルのオーバーホール作業での戦果である。

 

(砂の惑星に降りるということでそれ様に調整はしたのだが、それでもこれか…。こう見れば大量だが、一粒一粒の粒子は微細なものだからな。その微細なものを完璧に防ぐことなどどだい無理な話だとはわかっていたのだが…)

 

それでも、この結果を見せられると己の技術の未熟さに思わず溜め息が出た。一箇所に集めた状態の砂はこの後、ビニールでも麻でも何でもいいので袋状のものに詰めて宇宙空間に捨てる予定だ。

 

(…気になることを言っていたからな)

 

あることを思い出し、シュバルツは厳しい表情になった。それは砂の惑星での戦闘時、砂のゴーレムと戦ったディータが言った一言だった。

 

“砂がヴァンガードのシステムをコピーしてる! まるで血を抜かれてるみたい…”

 

シュバルツ自身はあの砂のゴーレムとは戦っていないし、システムをコピーされたような記憶もない。何より今は指令を出していたあの敵もいないから、戦果であるあの砂はただの砂だとは思われる。が、

 

(危険要素は取り除いておくに限る)

 

己の愛機であるガンダムシュピーゲルに視線を向け、シュバルツはそう考えていた。もしあの砂に何らかの仕掛けがしてあって、何らかのタイミングでガンダムシュピーゲルのシステムを解析しだしたら…。

 

(考えるだけで恐ろしい話だからな)

 

それもあり、シュバルツはガンダムシュピーゲルのオーバーホールをしているのであったのだった。こういう事態を招きかねないことも百も承知で。そして慎重に作業を続け、その甲斐もありようやく目処が見えてきたところでの先ほどの通信だったのだ。

 

(間に合えばいいが…)

 

仕上げに移る。先ほどはブザムやガスコーニュたちにああいった対応をしたシュバルツだったが、現在の戦況に何も感じ入るものがないはずはない。メイアの、そして他の面々の無事を祈りつつ、オーバーホールの完了に向けて再び作業に戻ったのだった。

 

 

 

 

 

「くそ! あったまくんなあ…」

 

ニル・ヴァーナ艦内でシュバルツとニル・ヴァーナクルーたちとのそんなやり取りがあったのとほぼ同時刻、ヒビキとディータの合体機であるヴァンドレッド・ディータはニル・ヴァーナのシールドの内側にいた。カリトリからの攻撃は収まることなく、そして現在の状況に有効な手立てもないヒビキたちは一旦避難するしかない状況に追い込まれていたのだった。そんな時、

 

「リーダー、死んじゃうのかな…」

 

ディータがポツリと漏らした。

 

「もし、そんなことになったら…」

 

その姿はこの状況と、メイアが重傷を負ったことでいつものディータとはかけ離れた弱気な姿だった。よく見ると小刻みに震えてもいる。と、

 

「じっちゃんが、よく言ってた」

 

突然、ヒビキが口を開いた。

 

「考えたって、悩んだって、いつも答えが出るとは限らねえ。大事なのは、最後にホッと一息ついて笑っている自分でいるかどうかだってな」

「!」

「あいつのことは、ドゥエロに任しとけって! 俺たちが今できることは、治療室のあるこの艦を護るこった。そうだろ?」

「うん! ありがとう、宇宙人さん!」

「! あ、あいつもきっと、そう言うさ…」

 

滲んでいた涙を拭って感謝するディータに、ヒビキが僅かに顔を赤らめた。そして照れ臭いのか、そっぽを向いてぶっきらぼうにそう返したのだった。そこに、

 

『みんな聞いて!』

 

ジュラからの通信が入ってくる。そこに映るジュラは先ほどまでの余裕のない姿ではなかった。

 

『バリアとビームの周波数を変動させる。送ったデータのパターンに合わせて。そうすれば、同士討ちは避けられるわ』

「そうか…その手があったか!」

 

ジュラの導き出した答えに、ヒビキがいつもの不敵な表情になって拳を握り込んだ。そして、

 

「ガスコーニュ、パルフェ」

 

その通信を艦内で聞いていたシュバルツがガスコーニュとパルフェに通信を開いた。

 

『はいよ』

『何よ!』

「今の通信は聞いたな?」

『ああ』

『聞いたけど、それが何?』

「ならば話は早い。そのデータのパターン、こちらにも回してくれ」

『出られるの!?』

 

シュバルツのその言葉に表情を明るくさせ、食いつき気味にパルフェが尋ねてきた。

 

「仕掛けるタイミング次第としか言えんな。だがもし間に合ったとき、私まで巻き添えを食うのは御免だからな」

『オッケー、わかったよ』

『ちゃっちゃと済ませてよね!』

 

そこで二人との通信が切れる。ヒビキたちが預かり知らぬところでも状況は着々と変化していた。それは何も格納庫だけとは限らない。

 

「問題は、傷口から入ったこのペークシスの破片が独自の反発行動を起こしていることだ」

 

医療室。厳しい表情をしながらメイアの現在の状況を分析するドゥエロ。そして、その結果をパイウェイとピョロが見ている。

 

「メイアの脳細胞に微妙な浸食をしている。記憶中枢の混乱の中で、彼女の精神が何処までもつか…」

 

そこで一旦区切り振り返った三人。そのタイミングを見計らったかのようにメイアが再び苦しそうに呻きだしたのだった。

 

 

 

 

 

『オーマを憎んじゃダメ。オーマは立派な人よ。不器用だけど、呆れるぐらい単純だけど、嘘のない正直な人。困ってる人を見ると放っておけなくて、それでいつも損して。でもね、母さんはそんなオーマが大好きになったの。だからあなたが生まれたのよ』

 

荒れ果てた室内にファーマの諭すような声が響く。うずくまって拳を握り締めながら悔しさに震えるメイアの周囲には、石と、それによって割られたと思われる無数のガラスの破片が飛び散っていた。

 

『あなたにもいつかわかる。あなたに大事な誰かができたときに』

『そんなものいらない。自分のせいで、他の誰かにこんなつらい想いさせるぐらいなら…』

『メイア、人を好きになるのは素敵なことよ。大事な人がいるから強くなれるの』

『違う! そんなものがあるから弱くなるんだ! まだわかんないの!? 誰のせいでこんな想いしてるのよ!』

 

己の激情のまま、内心を吐き出するメイア。その様子にファーマは悲しげな表情になり、

 

『ごめんね、あなたを巻き込んでしまって…』

 

と、寂し気に呟いた。その一言を聞いてハッとなって振り返ったメイアだったが、そこにはもうファーマの姿はなかった。

 

(あんなこと言うつもりじゃなかった。いつか、謝りたかった。でも、もう伝えられない。何を言っても、もう、届かない…)

 

後悔、諦め…そういった感情に支配されたメイアの意識に連動するかのように、医療システムが“WARNING”の文字を点滅させた。

 

「! 頑張れ! 生きるんだ!」

 

ドゥエロがらしくなく大声で檄を飛ばす。が、

 

(もう…いやだ…)

 

聞こえているのか聞こえていないのかはわからないが、メイアの意識は沈む方向へと向かっていたのだった。

 

 

 

 

 

「左舷アーム被弾! 艦が傾きます!」

「第六から第九デッキ、動力閉鎖!」

「シールド強度、さらに低下しました!」

 

戦況の悪化を告げる報告がブリッジに次々響き渡り、ブザムが歯噛みをしてコンソールに手を置いた。その奥で、マグノも厳しい表情で戦況を見つめている。そこに、

 

『ジタバタしたってしょうがねえ!』

 

ヒビキからの通信が入ってきた。

 

『俺に考えがある』

「お前、まさか死ぬ気かい?」

『ヘッ、冗談じゃねえよ。女と心中は御免だぜ。それにまだ、ペスカトーレ? ってやつ、食ってねえからな』

 

その内容に、マグノが笑みを浮かべた。

 

「上手くいったら、死ぬほど食わせてやるさ」

『ああ。どうせ死ぬなら、そっちの方がいい』

 

そして笑顔でサムズアップを向けるヒビキに、ブリッジの雰囲気が若干ながらも和んだのだった。

 

 

 

 

 

『ねえ、あの子よ? 地表事故で生き残った』

『ああ、あのタレント気取りだった』

 

沈んでいく意識の中で思い出した、過去の心無い言動の記憶がよみがえる。

 

(何で…何であたしだけこんな思いしなきゃなんないの!?)

 

自宅に戻ったメイアがベッドに身を投げ出し、当たり散らすようにベッドサイドのチェストに腕を掃った。自然、そこにあったものは床に散乱することになり。不意に、室内にメロディが流れる。それはあの幼き日にクリスマスプレゼントでもらったオルゴールのメロディ…“この素晴らしき世界”だった。

 

(もう…生きていたくない…誰か…いっそ私を…)

『随分とまた甘ったれて育ったもんだねぇ!』

 

また場面が変わり、今度はマグノたちと初めて会ったときの日になった。今の叱責は、そのマグノからのものだ。

 

『自分の生き死にまで人に頼ろうっていうんだろ? どうせ死ぬ気なら、あたしが死に場所を用意してやってもいいよ?』

 

そして、膝を抱えてうずくまっているメイアにマグノが何かを放り投げた。条件反射的に思わずそれを受け取って見てみると、それは隊員たちが恒常的に指にはめているリングガンだった。こうして、メイアはマグノ一家に身を寄せることになったのだった。

 

 

 

「あの子はそれこそ死ぬ気で仕事を覚えていった。元々素質があったんだろうねぇ、すぐに、ドレッドの扱いを身に着けてね…。メイア、死ぬんじゃないよ。まだ元とってないんだからね!」

 

ブリッジにて数珠を手にしながらマグノが祈る。そして艦外では、

 

「もういい加減腹減ってきたからな、一回で済ますぞ! 皆、褌の紐締めてかかれよ!」

 

己の考えを披露したヒビキが各ドレッドに通信を入れた。が、

 

「何よ、それ?」

 

ディータが不思議な表情になって尋ねた。メジェールにはそもそも『褌』がないのだから当然と言えば当然だが、一々説明している時間もなく状況でもない。全く締まらない展開だった。それに並行するかのように医療室では、

 

「チャンスは一度よ、失敗したらメイアの脳は二度と戻らない」

 

助っ人として呼ばれたのだろう、パルフェが電気ショック用の機器をメイアの身体に取り付け、そして、

 

「では見せてもらおうか。お前の考えとやらをな」

 

格納庫ではガンダムシュピーゲルのコックピットに入ったシュバルツが、モニターに外の戦況を映していたのだった。

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