今回はちょっと内容が短くなっていますが、オリジナル展開を少々入れて結構重要なお話になってます。どう重要かは実際に読んでご確認ください。
では、どうぞ。
ニル・ヴァーナ、そしてヴァンドレッドを筆頭とするドレッド隊から一定の距離を取った四葉のクローバー型の敵機が規則正しく十字編隊を作り、散開して正方形の編隊になる。が、その直後に全機がその正方形の中心部分に集結し、そして一斉射撃を浴びせてきた。その光源がブリッジの内部を激しく照らしていく。
「があっ! 痛え! まだかよ!」
システムと融合中のバートが悲鳴を上げた。いくらシールドで軽減されていると言ってもノーダメージというわけではないのだ。ダメージが身体に連動するバートが悲鳴を上げるのも仕方なかった。
「まだだ…」
額に汗を滲ませながら、ヒビキはそう呟いてじっとその時を待つ。そして、
「ぐっ! ああっ! あああっ!」
医療室では電気ショックがメイアの身体に施されていた。意識の戻らないメイアが悲鳴を上げる。
「メイア!
「お願いメイア、戻ってきて!」
悲鳴を上げ続け、苦しんでいるメイアを鼓舞するかのように声をかけるピョロとパイウェイ。
「もうちょい!」
艦外では四葉のクローバー型の敵機が砲撃の手を緩めないまま距離を詰めてきている。砲撃による振動がニル・ヴァーナとヴァンドレッド、ドレッド各機を激しく襲い、中でも外でも、風雲急を告げようとしていた。
「シールド、第三レベルまで後退!」
ベルデウェールの報告にマグノは微動だにしない。
「距離1200!」
じわじわと近づいてくる敵の部隊に焦れる各員。だが、まだ動かない。そして、
「距離900!」
彼我の距離が三桁まで迫ったとき、
「よっしゃー!」
それを合図としたかのようにヒビキが敵陣へと突っ込み、その後を追うようにドレッド隊も突っ込んだ。
『メイア、強くなれ』
外でヒビキたちが大勝負を仕掛けようとしているのとほぼ同時刻、メイアもまた岐路に立っていた。オーマが言ったその一言の直後、視界一面がペークシスの青に染まる。そして、
『オーマを許してあげて』
『ヤダ! あたしも残る!』
『お前さん、どうしてそんなに心を閉ざすんだい?』
『大事なものなんか!』
『もっと楽に生きりゃいいのに』
フラッシュバックのように色々な人物、場面が浮かび上がって自分に言葉をかける、あるいは自分が言葉を発する。そして、
『オメー、バカじゃねえの?』
そんな風に揶揄するヒビキの姿が現れ、最後に、
『お前はそれで本当に満足なのか?』
腕を組み、そう聞いてくるシュバルツの姿が浮かんだ。だがその態度、表情は今まで自分が見てきた、自分の行動によって示されていた、どことなく引っかかるものではない、年少者を諭すような…まるで兄が妹に話しかけるような姿と口振りだった。直後、
『もう、これで楽に…』
先ほどのファーマがいた場所と同じ青空の下、草原で心地よい風に吹かれながら小さく丸くなって横になるメイアはそのまま目を閉じた。そして、それに呼応するかのように心電図の上下動が収まり、一直線になる。
「メイア!」
パルフェが叫んだのと同時に、
「もうダメ!」
外で敵の攻撃にさらされ続けるディータが顔を伏せた。が、
「簡単に諦めんな!」
対照的に、ヒビキは不敵な笑みを浮かべていた。
「お楽しみはこれからだ。いくぜ!」
そして、今まで我慢するかのように収縮させていた四肢を解放させると、
「うおおおおおおおおおおっ!」
咆哮と共に両拳から四方八方にビーム砲を放った。それはカリトリも粉砕するが、当然ドレッドにも飛んでいく。が、そのビームがドレッドを焼き切る、あるいは撃墜することはなかった。ドレッドが展開したシールドによって反射されたのだ。そして、反射されたビームの光は軌道を変え、本来の起動外の死角からの攻撃となってカリトリの機体に襲い掛かる。
「何てことだ…味方を反射に使うとは…」
「男の浅知恵にしちゃあ、上出来の方だね」
唖然とするブザムと皮肉りながらも誉めるマグノ。四方八方から襲い掛かってくるビームの筋にカリトリの機体は次々と落とされていく。だが、ここで誤算が発生した。
「くそ! 出力が…」
コンソールを見ているヒビキが歯噛みする。ドレッドを反射板に使った攻撃は見事だったが、敵機の数が多かったことと、ぶっつけ本番のために反射攻撃とならずに放出したままのビームがあって見込んだ掃討率を下回ったこと、何よりビームを放出しっぱなしでエネルギーが急激に減っていることで、このままではそこそこの数、討ち漏らしそうな敵機が残りそうなのだ。
「宇宙人さん!」
ディータが振り返って不安げな顔になる。
(考えろ、考えるんだ…!)
その表情がただでさえ強くなっている焦燥感を更に強くし、まとめなければいけない思考を乱していく。そうこうしているうちにエネルギーが残り少なくなり、目に見えてビームの出力が弱くなっていった。
(ヤベエ…)
どうする!? と今までで最大級の焦燥にかられたヒビキだったが、次の瞬間、予期せぬ事態が発生した。何と、何処からともなく今のヴァンドレッド・ディータの拡散ビーム砲と同等のビーム砲が発射され、ヒビキの攻撃を引き継ぐかのように再びカリトリに無数のビームが襲い掛かったのだ。
「えっ!?」
「ちょっと、何これ!?」
「一体何処から!?」
予想外の展開にドレッド隊もパニックになる。だが、その無数のビームは先ほどのヴァンドレッド・ディータのビーム砲と同じパターンのため、勿論ドレッド隊を焼き切ることも撃墜することもなく、カリトリの機体だけを無慈悲に落としていく。
「凄い…」
状況が飲み込めず、呆然とするディータに、
「シールド!」
ヒビキが怒鳴った。ハッとしたディータが慌ててシールドを張り、間一髪、ヴァンドレッド・ディータも反射ユニットの一つとなってカリトリの殲滅に寄与することになった。
「凄い、凄ーい!」
目の前で撃墜していくカリトリの残存勢力に先ほどまでの弱音は何処へやら、ディータはご満悦である。ヒビキもそれ自体には満足しているのだが、
(どういうこったよ、こりゃあ…)
予想外の展開には、驚く他なかった。
『これも、あんたの考えの一つかい?』
そこに、マグノから通信が入る。
「い、いや、知らねえ…」
『BC』
『わ、わかりません。私にも何がなんだか…』
『データは取れてるかい?』
『! す、すみません、失念していました!』
予想外の展開はブリッジでも同じだったらしく、マグノに指摘されたアマローネが慌ててデータ収集を実施しようとする。が、
『あらぁ…もう終わっちゃいました…』
エズラがいつもの口調はそのままに、ガックリと肩を落として報告した。その言葉通り、マグノが指摘したときには謎の攻撃はほぼ終焉を迎え、そしてカリトリの部隊は全滅していたのであった。これから慌ててデータを取ってももう間に合わないのは自明の理である。
とにもかくにも、こうして今回もマグノ一家は生き延びることができたのだった。そして、
『母さんはね、弱い人間だから、オーマやあなたみたいに外へ出ていく勇気がないの。だからせめて皆が返ってきた時に、安心して落ち着ける場所を作るのが夢だった。嬉しい時も悲しい時も、元気な時も疲れた時も、どんな時でも変わらず『お帰りなさい』って迎えてあげられるように』
戻らぬ意識の中、メイアは母…ファーマを追いかけている。
『違う! 母さんは弱くなんかなかった! 弱かったのは、私の方だ…。人の気持ちを知る勇気がなくて、自分を曝け出すのが怖くて、嫌われるのを恐れて…』
『メイア』
両親を失ってから初めてと言っていい、素直に自分の心情を吐き出すメイア。そんなメイアに、ファーマが優しく語りかけた。
『あなたは本当は気持ちの優しい、そして心の強い子なのよ。だからもう、自分を責めなくていいの。もう怖がることはない。心を開きなさい。人は一人では生きていけない。見つけなさい、あなたの返る場所を。あなたの大切な人たちが待っている』
『! 待って!』
自分に語り掛けてくるファーマの声が遠くなってきたことに気付いたメイアが思わず走り出した。
(母さん待って。まだ話すことが、聞いてほしいことが…)
泣きじゃくりながら母を追いかけるメイアの進む先が、突然光に呑まれた。そして一瞬の後、ペークシスの蒼に周囲が染まる。
『メイア!』
『リーダー、戻ってきて!』
『メイア!』
『よせ、私に構うな!』
自分を呼ぶいくつもの声を振り払うかのようにメイアが走る。だがいつの間にか足元の感覚がなくなり、メイアはそのままペークシスの蒼に落ちていった。
(私は…私は…)
そして…
『うううううううーっ…』
視界に入ってきたのは治療室の天井の照明。そして直後、
『よがっだあ、メイアぁ…』
顔をくしゃくしゃにしながらボロ泣きしているパルフェとパイウェイの姿が入ってきて、照明を隠したのだった。
「ふ、何て顔だ、二人とも…」
その姿に微笑を浮かべながら左手で顔を覆うメイア。そこで、いつも顔に着けている装身具がないことに気が付いた。
「あっ!」
「心配ない」
すぐ側からドゥエロの声が聞こえ振り返る。そこにいたドゥエロの手に、それはあった。
「ここにある。余程大切なもののようだね」
「…違う。それは、戒めだ」
ドゥエロの手の中にあるそれを見て、メイアはそう呟いたのだった。とにもかくにもこうして二つの戦いは終わり、そして休息のとき。
ブリッジでは一人、ブザムがコンソールを操作して作業中。
テラスではベンチに座ったエズラが大きくなってきているお腹を擦る。
医療室ではチェックに今日のことを絵日記の形で書いたパイウェイが眠り、その傍らでピョロが充電を、ドゥエロがこちらもコンソールで今回の診療結果をデータ入力。
機関室ではパルフェとガスコーニュがカードに興じ、負けたパルフェが持っていたカードを放り投げて癇癪を起こしていた。その様子を見つめるかのように、ペークシスを取り込んだシステムがゆっくりと輝いている。
自室に戻ったメイアはベッドに腰掛けながら、形見のオルゴールを開いて一本の試験管を握っていた。ファーマが科学者だったので、これも形見だろうか。
そして、
「……」
いつものスーツに着替え直したメイアが食堂…トラぺザに足を運んだ。そこには、散乱した数多くの皿と酒瓶の数々。そして、ぐっすりと寝息を立てているヒビキとディータ、ジュラ、バーネットをはじめとするドレッド隊の姿があった。ヒビキの前まで歩み寄ったメイアは、静かにヒビキを見下ろす。そこに、
「皆、よく頑張ったよ」
不意に、横から声をかけられた。
「お頭…」
メイアが振り向いた先にいたのは、自分の方に歩み寄ってくるマグノの姿だった。
「でも不思議だねぇ、あんたとは正反対の、この剥き出しのバカ」
憎まれ口をたたきながらも、マグノはヒビキに脱いでいた上着をかけてやった。
「いつの間にか皆の中に入り込んじまっててさ。もしかして、似てるんじゃないかね? あんたとコイツ」
そして悪戯な笑みを浮かべるとマグノはメイアに顔を向けた。
「違うのは、曝け出してるかそうじゃないかぐらいで」
「お頭」
その指摘に思わずメイアが声を上げた。だが、それはどういう意味でのものなのかは続く言葉がなかったためわかりようもない。その代わり、
「もう、許してやってもいい頃じゃないかい? 自分をさ」
「……」
マグノに優しく諭され、メイアは気まずそうに視線を逸らして顔を背を向けることしかできなかった。そこへ、
「ほう…」
聞きなれた、しかしここで聞くとは思わなかった声にハッとなってメイアと、そしてマグノが振り返る。
「意識を取り戻したとは聞いていたが…すぐに動けるとはな」
奥…キッチンから姿を現したのはシュバルツだった。その姿に、メイアは唇を噛むと思わず視線を外し、
「おや、お前さん何やってたんだい?」
こんなところで、しかもキッチンの奥から現れると思ってなかったマグノが尋ねた。それに対し、
「ふ、わかっているだろうに」
キッチンから出てきたシュバルツが皮肉気な笑みを浮かべて苦笑した。
「今回、結局私は間に合わなかったからな。その分、こちらに駆り出されたわけだ」
そう答えるシュバルツに、
「お前…」
その姿を見たメイアがポツリと呟いた。
「ん?」
「…いや、本当に料理ができるのだな」
そう続けたメイアは、信じがたいという表情をしている。しかし、キッチンから出てきた、エプロンをしているシュバルツの姿は否応でもそのことを理解させることになった。
「ああ。何度も言っているが、私は確かに男だが、タラークの男とは別物の男だからな。ある程度なら料理ぐらいはお手の物だ」
「他の隊員たちがそう言っているのを小耳にはさんだことはあったが、それにしても…」
メイアはやはり信じがたい、という表情をしていた。それが、メジェールの女のタラークの男に対する一般的な概念なのだろう。
「でも、その恰好を見る限りじゃあ、それなりの腕のようじゃないか。中々似合ってるよ」
「やめてくれ」
マグノの揶揄するような言葉に、シュバルツがエプロンを脱ぐ。そして、散らかっている皿と空き瓶を片付け始めた。
「後片付けぐらいこの子たちにやらせたらどうだい?」
テキパキと片付けをするシュバルツに、マグノがそう話しかける。
「ああ。洗い物は任せる。私は片付けのみだ」
「そうかい」
「……」
それだけ言うと、それ以上は止めずにシュバルツの片づけの様子を見ているマグノ。そしてメイアは、何も言うことはないがチラチラとシュバルツに視線を向けていた。もっとも、当のシュバルツは当然それに気づいていたのだが。
(少し雰囲気が変わったか?)
すぐに噛みついてこないだけこれまでよりはマシだったが、それでもこれまでとは打って変わって何か言いたげな視線をチラチラと向けているだけのメイアに、シュバルツは疑問に思っていた。が、頭を捻ってところでその答えがわかるわけもない。そうこうしているうちに散乱していた皿や空き瓶は全てキッチンの奥へと片付けられたのだった。
「では、私はこれで」
「ああ、ご苦労だったね」
簡単な挨拶を交わすと、シュバルツは食堂を後にしようとする。が、
「ま、待ってくれ…」
それを止めたのはメイアだった。
「…どうした?」
内心で驚きながら、シュバルツが足を止める。意識を失っている間に何があってどんな心境の変化があったのかはシュバルツにわかるわけはない。だが明らかに、今のメイアはこれまでのメイアとは違っていた。
「あ、その…」
呼び止めておきながら、メイアは何を躊躇っているのか戸惑った表情で視線をあちこちに動かしている。
(こんなメイア、見たことがないねぇ…)
そのおかしな様子のメイアに、付き合いがある程度長いマグノも内心で首を捻っていた。が、さすがにそこは長年の経験からか、表に出すことはなく素知らぬ顔で成り行きを見守っている。一方でメイアはどうしても踏ん切りがつかないのか、言いたいことがありつつもそれがどうしても出てこないようだった。
(どうしたものかな…)
そんなメイアの様子にシュバルツもまた内心で首を捻る。別にこの後何か用事があるわけでもないのでこのままメイアが踏ん切りをつけるのを待っていてもいいが、それがいつになるのかがわからないのは流石にちょっと付き合いきれない。
(ま、必要とあらばそのうち自分から口を開くだろう)
そう考え、シュバルツがメイアに背を向けた。と、
「! 待ってくれ!」
メイアが、今度は少し強めにシュバルツを引き留めた。
「何だ?」
足を止め、顔だけ後ろに向けたシュバルツ。そしてシュバルツは直後、まさかの一言を聞くことになる。
「…お前に聞きたいことがある」
「それは?」
『キョウジ』
「!」
メイアのその一言に一瞬だけだがシュバルツの雰囲気が明らかに変わった。そしてマグノはその変化を見逃さなかった。
「この名前を知っているか?」
「…いや」
メイアがそう尋ねたときにはもうシュバルツの雰囲気は元に戻っており、いつもの様子だった。そして、
「知らんな」
と、首を左右に振ってそう答えたのだった。
「そうか…」
シュバルツの返答にメイアがポツリと返した。
「話はそれだけか?」
「あ、ああ…」
「そうか」
メイアの返答を聞いたシュバルツが捻っていた首を戻すと、
「では失礼」
それだけ言い残し、そのまま食堂を去っていったのだった。
「メイア」
シュバルツが食堂から去った直後、マグノが口を開いた。
「はい、お頭」
「今のはなんだい?」
短く尋ねるマグノに対し、
「すみません」
メイアは謝罪して返した。
「今日のところは私も失礼していいでしょうか。色々あり過ぎました」
「そうかい。わかったよ」
「申し訳ありません。今のことについては、後日改めてご報告させていただきますので」
「ああ。ゆっくり休みな」
「はい。では、失礼します」
一度頭を下げると、メイアもまた食堂を後にしたのだった。
「キョウジ…ね」
誰もいなくなった食堂で、マグノが今の一言をポツリと呟く。
「何か事情はありそうだが…ま、すんなりと口を割りそうな感じはしないね、あの様子だと」
そして、先ほどのシュバルツの姿を思い出していた。
「とは言え、情報はあるに越したことはない。後々役に立つか、そうでないかは別としてね。後は、メイアがその気になるまで待つとしようか」
最後にそう言い残し、マグノも食堂を後にしたのだった。
「はぁ…」
自室にて。いつものスーツを脱ぎ、下着姿になったメイアがベッドに横たわっていた。視界を遮るかのように手をかざすと、ゆっくりと意識を落としていく。先ほど自分でも言っていたように、色々ありすぎた一日だったのだ。
(あれは…一体…)
ボンヤリしていく意識の中、メイアはあることを思い出していく。それは、死線から戻ってくる直前の最後の記憶。
ペークシスの蒼に落ちていったはずが、いつの間にか周囲がすべて闇の暗い空間に自分はいた。そしてその闇の四方八方からエコーがかかった声だけが聞こえてきたのだ。
『キョウジ、早く行け! こいつを軍に悪用させてはならん!』
『でも、父さんたちは!?』
『心配いらん、早く行け!』
『逃がすな! 撃て!』
『キョウジ!』
年配と思われる女性の悲鳴と、直後に銃声。そして、
『母さん!』
そこで途切れ、自分は目を覚ました。漆黒の闇の中、声だけしか聞こえなかったのでどういう状況なのかはまるでわからない。無論、言葉の内容から推察することはできるのだが、その推察が当たっているとも限らない。その中で一つだけ確信を持てたこと。
会話の流れから『キョウジ』と言われた人物の声色が、自分が知っている人物のものと同じだということだけだった。
(あれは…一体…)
考えてもわかるわけもなく、メイアはそのまま意識を落としていった。同刻、
(何故だ…?)
こちらも宛がわれた自室にて、シュバルツが壁に背を預けて床に腰を下ろしながら右手で額を抑えていた。考えていたのは勿論、メイアのことである。
(何故あいつが、キョウジの名を知っている…?)
先ほど、食堂を後にするときに掛けられた思わぬ一言にシュバルツは混乱していた。タラーク、メジェールといった聞きなれない勢力のある世界である以上、ここが自分のいた未来世紀とは違う世界だと思っている。であれば、『キョウジ』の名を知っている人物がいるわけはない。しかし事実として、先ほどメイアは『キョウジ』の名を出して自分に尋ねてきた。
(何故だ…?)
考える。しかし、考えても考えてもわかるわけもない。聞き出そうにも今までの関係性がある以上は簡単なことではないだろう。僅かながら雰囲気が変わってはいたが、だから聞き出せるほどメイアとはまだ気安い関係ではないのだ。
(気にはなるが、現状では打てる手はないか…)
結局はそこに結論付けられることになる。
(あまり気分はよくはないが…)
シュバルツとキョウジの数奇な運命は他人が知るのにはいささか重すぎる。世の中には知らなくてもいい事柄というのは当然にあり、このこともまた無関係の人間は知らなくていいことなのだ。知ったところで何ができるものでもないし、余計な感情を背負いこませてしまうだけのことになるからだ。
(とは言え、無理やり口を割らせるわけにはいかん以上は、どうのしようもない…か)
気にはなる。それは紛れもない事実。だが現状で何もできないのもまた紛れもない事実だった。
(全く妙なことだ…。いや、それを言い出したら私が生きていてこんな場所にいることがそもそも妙な話か。であれば、ある意味仕方のないことかもしれんな)
当事者間にまた変化を起こしつつ、ニル・ヴァーナは宇宙の闇の中を目的地へと向けて進んでいくのであった。