機動武闘伝Gガンダムヴァンドレッド   作: ノーリ

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おはようございます、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。新年一発目、原作第七話の後半部分です。

前回の前書きでも書きましたが、この原作七話パートはいつも以上に原作準拠になっていますので、原作見たことがある方にとっては目新しいところはないかと思います。ご了承ください。

では、どうぞ。


NO.13 雨降って地固まる

「待たれい」

「どけよ」

 

食事を済ませて自室に戻ってきた自身の目の前に立ち塞がるかのように姿を現したピョロを、ヒビキは鬱陶しそうに手を掃ってどかした。

 

「何だよ」

 

そしてそのまま歩きながら尋ねる。と、

 

「ヒビキ寂しい」

「何だとテメェ!」

 

ピョロの一言に思わずカッとなったヒビキが怒鳴り散らした。その怒声にビビったのか、ピョロが頭を抱えて縮こまる。が、

 

「お前、ディータがこなくて寂しいんだピョロ」

 

目を細めながらピョロが反撃した。もしピョロに表情というものがあったら、さぞニヤついていることだろう。しかし、その指摘をヒビキが素直に認めるわけもない。

 

「てっ、テメェ、ブッ壊す!」

 

恐らく図星を突かれたヒビキがピョロに殴りかかった。が、空中浮遊できるピョロはひょいっとその攻撃をかわし、ヒビキは資材の山にダイブすることになった。ヒビキの攻撃を見事にかわしたピョロはのひょひょひょひょというようなヒビキを馬鹿にするような笑い声をあげ、

 

「お前、素直になった方がいいピョロ」

 

と、更に挑発した。が、それに、文字通り素直になるようなヒビキではない。犬歯を剥き出しにしてピョロを睨むと、

 

「言っとくがなぁ…」

 

体勢を立て直しながら口を開く。

 

「俺はああいうやつは大っ嫌いなんだよ!」

「!」

 

そのセリフの最中、ピョロは通路の方に人影があるのに気づきそちらを見た。そして、その人影が誰なのかがわかると、思わず息を呑んだ。が、ヒビキにとっては背後に当たるので勿論そんな来訪者の存在に気付くことなく、

 

「いなくなってせいせいするね!」

 

感情のままに吐き捨てた。そして吐き捨てた直後にヒビキも人の気配を感じて振り返る。そこには、さっきのお手製クッションを抱えて呆然と佇んでいるディータの姿があった。

 

「!」

 

それに気づいたヒビキが流石に拙いと思ったのか困った表情になり、そしてディータもどう反応したらいいのかわからず、クッションを背中に隠した。

 

「だあぁ…」

「ムー…」

 

小競り合いしていた二人がこの予想外の状況にどう反応したらいいかわからずに固まっている。そして少しの間その時間が流れた後、ディータは拒絶するかのように首を何度も振りながらその場を後にしたのだった。

 

「あっ…」

「ディーター! 待つピョロー!」

 

その行動に対してどう反応していいかわからないヒビキは何もできず、ピョロはそのままディータを追っていった。そして肩を落としたヒビキの目に、去っていくときに思わず落としてしまったのだろう、ディータが持っていたお手製クッションが留まったのだった。

 

 

 

(嫌いだって…嫌いだって…)

 

一方でそのディータは先ほど聞いてしまったヒビキの発言に涙を流して打ちひしがれながら、口元に手をやって嗚咽を押さえようとする。そのまま当てもなく走ったディータがやってきたのはトラぺザだった。

 

「んー?」

 

どっさりと甘いものに囲まれて舌鼓を打っていたエズラが、自動ドアの開く音と泣き声に反応して振り返る。

 

「ディータちゃん」

「エズラぁ!」

 

そのままディータはエズラの胸に飛び込むと泣きじゃくる。何があったのか事情を知らないエズラは、あらあら…と驚くしかなかった。そんな風雲急を告げる場面がある一方で、真反対な状況もあったりする。

 

 

 

「あ、さて…」

 

芝居がかった口振りで口を開いたのはバート。そして、

 

「お嬢さん方、僕に頼みとは?」

 

前髪をかき上げながらそう尋ねた。その正面にいるのはジュラであり、左手にいるのはバーネットだ。場所はジュラの自室。照明を落とし、蠟燭の灯が一つ灯っているだけの、一見するとムーディーな空間である。但し、雁首揃えているのがこのメンツということで、色っぽい空気になるわけもないのだが。と、

 

「あなた、ディータと仲良くなさいよ」

 

ジュラから予想外の言葉をバートは聞かされることになった。

 

「え?」

「だから、ジュラはディータが邪魔なのよ。そこであんたにディータの御守りを頼んでるの。あの子はジュラがいただくわ」

 

軽くウインクするジュラ。勿論、この会話に出てきた“あの子”というのはヒビキのことだろう。その口ぶりから何が何でもヒビキと合体したいものと思われる。全くもって大した執念である。

 

「しかし、僕に何の得が?」

 

バートが尋ねた。まず損得を勘定するのは流石に商売人といえる。とは言え、確かに単純な疑問かもしれないが。バートがディータと仲良くすることで何のメリットがあるのか、利に敏いバートもわからないのだろう。

 

「バカねぇ。ディータを味方にすれば、この艦の人気者になれるわ。食事も待遇も、特別扱いよ?」

 

ジュラ提示した見返りはそれだった。

 

「特別…ねえ?」

 

今一つ納得いかない表情ながらバートが思い浮かべたのは、どこぞの中世の王族のようなハーレムだった。

 

「んふふふふふふ…悪くないなぁ…」

 

幸せな妄想にバートの鼻の下が伸びる。そして、幸せな妄想に耽るのはもう一人。

 

「ああ…早くしたいなぁ…」

 

何故か金色に輝いている自機の上でヒビキとランデブーするジュラだった。

 

「ふっ…ふふふふふふふ…」

「うふ…うふふふふふふ…」

 

口元を押さえるものの笑いが抑えきれない二人。そして、

 

「はぁ…付き合ってらんないわ…」

 

何故かこの場に駆り出されている常識人のバーネットは、呆れたように溜め息をついた。

 

(少し付き合い方考えようかしら…)

 

ニヤニヤの止まらないジュラの姿に、バーネットは否でもそう思わざるを得なかったのだった。

 

 

 

「つわりがなくなったら、食欲出ちゃって」

 

ジュラとバートの密談で俎上にも上ったディータはエズラに連れられてテラスにいた。ヤケ食い…というわけでもないのだろうが、エズラに付き合うかのようにスイーツを頬張る。先ほどよりも大量のスイーツに二人は囲まれていた。

 

「食べても食べても、お腹空っぽ。ふふ…」

 

口元を押さえてそう笑うエズラに、

 

「ディータは心が空っぽ…」

 

シュンとしながらディータがそう答えた。

 

「いいね、エズラは幸せで」

「ディータちゃんだって、ヒビキちゃんと仲良しでしょ?」

 

その一言に、ディータの手が留まった。そして、

 

「宇宙人さん、ディータのこと嫌いって言った」

 

シュンとした姿はそのままに、ディータがポツリとそう言ったのだった。

 

「え?」

 

信じられないという表情になってエズラが驚く。

 

「だから絶対生まれ変わるんだ!」

「ディータちゃんは今のままでも十分いい子よ?」

「ダメなの! 変わりたいの!」

 

エズラが控えめに諭すものの、ディータはさっきのヒビキの一撃が余程効いたのかそう宣言してケーキをパクついた。トラぺザでは食わなかったくせにここでは爆食と一貫性がない。それだけ不安定な状態とも言えるが。そんなディータを、

 

「ディータ完全に壊れる…っと」

 

今回の騒動の一端でもあるパイウェイが物陰に隠れていつものように無責任にチェックしていたのだった。

 

 

 

 

 

レジルーム。ガスコーニュがシステムを操作しながら備品状況や先ほどのシミュレーションデータを確認している。そこにドアの開く音が響いた。

 

(ん?)

 

振り替えると、そこには今回の当事者のもう一方であるヒビキの姿が。それを見た瞬間、ガスコーニュは静かに微笑み、そしてヒビキはバツが悪くなったのか回れ右して出ていこうとする。その足を、

 

「待ちな」

 

ガスコーニュが止めた。ヒビキが振り返ると、

 

「暇なら、付き合っていかないかい?」

 

と、ガスコーニュがトランプをヒラヒラとさせたのだった。

 

「しゃあねえな、ちょっとだけだぜ…」

 

憎まれ口をたたくものの、反面ホッとしたというような表情でヒビキが答え、ガスコーニュの正面に腰を下ろした。

 

 

 

「相棒はどうしたんだい?」

 

カードを配りながらガスコーニュが尋ねる。

 

「変わりねえよ」

「そうじゃない、ディータさ」

「何であいつが相棒なんだよ…」

 

ぶつくさ文句を言いながらヒビキがカードを捨てた。

 

「ふ~ん、良いコンビだと思ったんだがね…」

「冗談じゃねえや」

 

ガスコーニュも不要なカードを捨てる。そして、そっぽを向いいていたヒビキに、

 

「あんたの番だよ」

 

と、声をかけた。促されたヒビキが再び不要カードを捨てるとカードの山から同数を引く。そして手札を確認するとニヤリと微笑みながら、

 

「勝負だ」

 

と、口に出した。

 

「いいのかい?」

「男に二言はねえ」

 

そして、二人が己の手札を晒す。

 

「三つ揃いだ」

「フルハウス」

 

勝負の結果に、だあぁ! とヒビキが叫んだ。その結果から興じていたのはポーカーであり、初戦は見事にヒビキが負けたようである。

 

 

 

 

 

「わー、綺麗!」

「どう? 気に入った?」

 

他方でディータはまだテラスにいた。但し相方は変わり、エズラからパルフェになっている。そして今、ディータが歓喜を上げたのはスコープで天体を見ているからだ。返答の内容からパルフェが設置、あるいは調節したものだろう。

 

「凄いよパルフェ、星がすぐ側に見える! これなら新しいUFOや宇宙人さんとか…」

 

自分で思わず言ってしまった『宇宙人さん』のフレーズに、ディータが表情を曇らせた。

 

(ああ、そっか…)

 

先ほどのトラぺザでの一幕を思い出し、雰囲気が急変したディータにどう声をかけたらいいものかとパルフェが少し思い悩む。そして、

 

「アイツと喧嘩してるの?」

 

と、ストレートな質問をぶつけることにしたのだった。

 

「え…ん…」

 

再度表情を曇らせるディータ。その“アイツ”であるヒビキはと言うと、

 

「こいつでどうだ! 見ろ、男のけじめ、同色揃い!」

「フォーカード」

 

相変わらずガスコーニュにやられていたりするのだった。

 

 

 

「ディータね、宇宙人さん断ちしてるんだ」

「何でまた?」

「宇宙人さん、ディータといると疲れるんだって。だから今は、宇宙人さんに近寄るの止めてるの」

 

テラスでは女二人のまったりとした会話が流れている。内容的には結構深刻だったりするのだが、そうとはさせないようにするからかパルフェはいつもの調子でディータに応じていた。

 

「ふーん。アイツがそんなに柔だとは思えないけど」

 

ボヤいたパルフェの感想通り、

 

「クソ! またブタだ!」

「だははははは、そう熱くなんなって」

「ウルセェ! もういっちょこい!」

 

ヒビキは元気にガスコーニュにカモられていた。だが、そんなことなど知らぬディータの表情は曇ったままだ。

 

「宇宙人さんのこと、知りたいだけなのに…ねえパルフェ、それっていけないこと?」

「うーん…あたしも新種のメカ見ると、構造とか知りたくなるからね」

 

そう答えたパルフェの心中にガンダムシュピーゲルの姿が浮かんだのは仕方のないことである。だがパルフェはそれを表情に出さずに続ける。

 

「好きなもんは知りたい。当然なんじゃない?」

「好き?」

「アハハハ、変だよね。女が男を好きになるわけないもんね…え?」

 

殊更明るくそう答えるパルフェだったが、ディータが自分の頬を押さえて赤くなっているのを見ることになってしまった。

 

「ありゃま…」

 

予想外の反応に驚きはしたものの否定することはなく、パルフェは優しい表情でディータを見ていた。そして、

 

「ねえ、ディータ」

 

と、言葉を続ける。

 

「え?」

「見せたかったのは、さっきのスコープだけじゃないの。本命があるんだ。見たい?」

「……」

 

少し戸惑ったディータだったが、断る理由もなく頷く。するとパルフェはテラスのコンソールを何やら操作し始めた。そして、それが終了すると不意にスクリーンが浮かび上がる。

 

「?」

 

何だろうと思ってそのスクリーンに目を移す。

 

『乙女座のあなた、100年に一度の運命の年。自分の気持ちに正直に生きれば幸運が』

 

機械音声がそのスクリーンから流れてきた。

 

「これ…」

「星占いとね、相性占いもつけてみたんだ」

「相性占い?」

「そ。アイツとの相性、占ってみなよ。クルーほぼ全員のデータはもう入ってるから、キーを押して名前を入れるだけだよ」

「でも…」

 

ディータの瞳が揺れる。否定的な結果が出てくるのが怖いのだろう。

 

「だいじょぶだって。さあ、早く早く!」

 

半ば強引にパルフェがその背中を押し、コンソールの前に座らせた。ディータが恐る恐るヒビキの名前を打っていく。

 

「勝負! これでどうだ! 四つ揃いだ!」

「ストレートフラッシュ」

 

相変わらずカモられているヒビキ。そしてテラスのコンソールではディータがヒビキの名前を入力しEnterを押した直後に何故かコンソールにパルスが走り、ボンと小規模な破裂音が響いて煙を吹いた。

 

「わわわっ、大丈夫、ディータ!? ゴメン!」

 

慌ててパルフェが駆け寄るとディータを何度か揺すって無事を確認し、コンソールを確認する。

 

「おかしいな!? データ量が多すぎたのかも…」

「ふえぇ…」

「わああっ、ディータ、しっかりして! 目を、目を開けてよ!」

 

爆発に驚いたのかそれとも結果が出なかったことにショックを受けたのかはわからないが、呆然とした表情のままディータがゆっくりと倒れる。パルフェが慌てて駆け寄ってディータの身体を揺するものの、この場ではディータは意識を取り戻すことはなかったのだった。

 

 

 

 

 

「はい、毎度あり。また、よろしくね」

「~っ! もう一回! 今度こそ挽回してみせる!」

 

すってんてんとなったヒビキが食い下がった。結局あの後もガスコーニュには勝つことができず、良いカモにされてチップを巻き上げられたのであった。そんなヒビキを少しの間見つめ、

 

「止めときなって。今日のあんたはどう逆立ちしたって勝てないよ」

 

ガスコーニュはそう諭した。

 

「何でえ、勝ち逃げかよ! いけすかねえなぁ…」

 

その返答にいきり立つヒビキに、

 

「いいかい?」

 

ガスコーニュが少し身を乗り出した。

 

「このゲームはね。互いの腹を読み合うゲームなんだ。中身丸出しのやつに、勝ち目なんかないんだよ」

 

言ってることはわかるのだが、それで納得がいくかどうかはまた別物。ヒビキはムッとした表情でしかめっ面になった。

 

「チッ、どうにも腹の虫がおさまらねえぜ」

「腹の虫がおさまらないわけは、他にあるんだろ? そっちが片付いたら、またおいで」

「! ウルセェ! でっけえお世話だよ!」

 

そのまま大股で部屋を出ていくヒビキ。その顔が赤くなっていたのはガスコーニュのみが知るところである。

 

 

 

(少し焚きつけ過ぎたかね…)

 

ヒビキを見送ったガスコーニュが椅子に深く座り直してそんなことを考えた。その脳裏には、シュバルツの姿が浮かぶ。先ほどトラぺザで指摘されたことを思い出し、それなりに反省しているのだろう。だが、余計なお世話だとは思ってはいない。

 

(全く、本当にめんどくさい男だよ)

 

先ほどまでのヒビキの姿を思い出しながら、ガスコーニュは口元にニヤリと笑みを浮かべたのだった

 

 

 

 

 

「ふむ…」

「どう?」

 

医療室ではドゥエロがディータを診察中だった。さっき機械が爆発した責任感からここに担ぎ込んだのだろう、パルフェが心配そうに結果を尋ねる。

 

「特に疾患は見られない。外傷もないようだ」

「ホント!? よかったぁ!」

 

ドゥエロの診察結果に、パルフェがホッと一息ついて喜ぶ。そのままドゥエロが再びディータに向き直った。

 

「今まで、こんな風に倒れたことは?」

「ありません」

「倒れた時のことを覚えているか?」

「うん」

「どんな感じだった?」

 

原因を究明する、あるいはその手がかりを掴むためにドゥエロがディータに問診をする。

 

「胸がね、ここんところがキュンって痛くなって、苦しくて、何にもわからなくなって、気が付いたらここで寝てたの」

「ふむ…」

「ゴメンね、こんなことになっちゃって…」

 

腕を組んで考えるドゥエロの横で人差し指同士をツンツンさせながらパルフェが謝った。

 

(余計なことだったかなぁ…)

 

先ほどのトラぺザでの食事を思い出す。シュバルツに釘を刺されていたガスコーニュを揶揄していたパルフェだったが、これでは自分も人のことは言えない。その思いもあってシュンとしていると、

 

「いいの。ディータのこと励まそうとしてくれたんだもん」

 

ディータはフルフルと首を左右に振ってパルフェを宥めた。その言動、その姿に救われつつも、パルフェとしてはやはり申し訳なかった。

 

「ホントにゴメン」

「いいってば」

 

そんな問答をしていると、変な機械音が聞こえて全員が振り返る。医療室内に設置してある壁面モニターの映像が乱れていた。

 

「またか」

 

その状態を確認したドゥエロが近寄ってモニターのコンソールを操作する。

 

「どうしたの?」

「心配には及ばない。時々こうなるんだ」

 

首を傾げたパルフェにそう返してドゥエロがコンソール操作を続ける。

 

「時間を見て把握しようとしているんだが、いかんせん不慣れでね」

「ちょっと見せて」

 

補足したドゥエロの発言内容に、パルフェが入れ替わってモニターの状況を確認する。

 

「何よ、この回路が切れてるじゃない。あ、ここも」

 

流石に餅は餅屋と言ったところか、パルフェはすぐに原因を突き止めた。

 

「どうしてすぐに言わないの!? これはドクターの仕事じゃないよ!?」

 

そして、ドゥエロを見上げると詰め寄る。

 

「面目ない。戦闘のたびに呼びつけては悪いと思った」

「遠慮することないわ、仕事なんだもん。次からはちゃんと呼んでよ?」

「わかった」

 

肩を並べてそんな会話をかわし、復旧に向けてやり取りを始めるドゥエロとパルフェ。その様子を診療台に腰掛けているディータが後ろから見ていたが、自分の出る幕ではないと悟ったのか、二人に気付かれないように医療室を後にしようとした。

 

「大丈夫?」

 

ピョロがディータに近づいて気遣うと、ディータは口元に人差し指を当てて静かにするように促した。そして、そのまま医療室を出ていく。

 

「むー…ディータぁ…」

 

慮るピョロの言葉に、その時初めてドゥエロとパルフェが振り返ったのだった。一方でヒビキは自室に戻り、寝台に横になって色々と考えている。その頭の下にはディータの御手製クッションがあった。

 

『宇宙人さんはディータじゃダメなの』

『腹の虫がおさまらないわけは、他にあるんだろ?』

 

色々な言葉がその頭の中に響き渡る。頭の下で腕を組み、天井をぼんやりと眺めながらヒビキはボーっと考えごとをしていた。と、不意に気配を感じたヒビキが上体を起こす。

 

「またテメェか。ふざけたことぬかしたら、今度こそ分解してやんぞ」

 

そこにいたのはピョロだった。相変わらずフヨフヨとホバリングしながらヒビキを見ている。と、

 

「ヒビキ寂しいのか?」

 

単純に疑問に思ったのだろう、ピョロが尋ねた。

 

「テメェ!」

 

その言葉に、条件反射的にヒビキがカッとなる。が、

 

「でも、ディータも寂しいピョロよ」

 

ピョロは一切意に介さない様子でそう続けたのだった。そして、用は済んだとばかりに去っていく。

 

「あっ! 待ちやがれ!」

 

慌てて身体を起こして追いかけるヒビキだったが、視界の中にはもうピョロの姿はなかった。

 

「くそっ! 俺にどうしろってんだよ!」

 

頭を掻きむしりながらそう咆哮するヒビキ。そしてディータは再びテラスに戻って宇宙空間をボンヤリと見上げていた。

 

(ディータ、ずっと信じてた。いつか、UFOが現れて宇宙人がディータたちを幸せの国へ連れてってくれるって)

(ディータのお願い、届いたと思ってた)

(でも今は違う、お願いが叶わなくてもいい。宇宙人さんに嫌われない方がいい)

「ディータ、どうしちゃったんだろう…?」

 

初めて感じる感情に戸惑いを見せながら俯くディータ。

 

「ディータ、宇宙人さんのこと…」

 

そして伏せていた顔をゆっくりと上げる。すると、その目に何かが光ったのが見えた。

 

「え?」

 

その光点はどんどん迫ってくる。それはもう見飽きるほど見慣れた相手だった。

 

「あ、あ、あ、あれ、あれは、あーっ、悪い宇宙人だ!」

 

ディータが大声でその相手…カリトリを見つけてしまって叫ぶ。そしてそれは既にブリッジでも捉えていた。

 

「敵です、二分後に接触します」

「ドレッドチーム「あら?」」

 

ブザムが命令を下そうとしたところで間の抜けた感じのエズラの疑問符が遮った。

 

「どうした、エズラ」

「いえ、もう既に出撃した方が」

「何だと?」

 

直後、漆黒の宇宙空間に溶けるような漆黒の機体、ガンダムシュピーゲルの背中が離れていくのをブリッジクルーたちが目撃したのだった。

 

 

 

 

 

『遅かったな』

 

そう言って、出撃したドレッドチームをシュバルツが迎える。その言葉通り、ドレッドチームが出撃したときにはあらかた片が付いている状況だった。

 

「速…」

「どういうつもりだ?」

 

敵の姿がほぼない状態になっていることにバーネットが驚き呆れ、メイアはシュバルツの意図を窺うべく尋ねた。ちなみにジュラは、バートと一緒に乾杯しながら未だに楽しい妄想の中である。

 

『他意はない。たまたま格納庫にいたのでな。それに前回の戦闘では間に合わなかったから、その失態の返上も込めてだ』

「……」

 

シュバルツからの通信にどう反応していいものかといった表情にメイアがなる。前回の戦いでは何かしらやったのはもうわかっているのに、あくまでシラを切るつもりなのだから、どう反応していいのかわからなくなるのも仕方ないところだろう。

 

『とは言え、流石に全てというのは骨が折れてな』

 

不意に、シュバルツがそんな言葉を続けた。

 

「何?」

「どういうことよ?」

 

首を傾げたメイアとバーネットに、

 

『まだ数機残っている』

 

とシュバルツが答えたのだった。慌ててレーダーを確認すると、確かに大分数は少なくなったが敵の反応が残っていた。ここで場面をメイアのドレッドのコックピット内から、ガンダムシュピーゲルのモビルトレースシステム内へと移す。

 

「数は少ないが結構な大物だ。ということで、ヒビキ、ディータ」

『んあ?』

『なーに? おっきい宇宙人さん?』

「残りはお前たちに任せる」

 

通信に答えた二人に、シュバルツがそう言った。

 

『はぁ!?』

『え…』

 

返した反応は二人とも異なるものだったが、そんなことには委細構わずシュバルツは言葉を続ける。

 

「大物だが、お前たちが合体してかかれば十分対処できる相手だ」

『で、でも…』

 

ディータが口ごもった。直近の経緯があるから否定的な反応を見せるのは仕方ない。と、

 

『おい!』

 

ヒビキからディータに通信が入った。

 

『オメエに一言言っとくが、その…何だ…つまり、その…』

 

いつもの威勢のよさは何処へやら視線を忙しなくそらし、頬を赤らめながらこちらも口ごもった。それに中てられたかのようにディータも頬を赤くし、

 

『何?』

 

と、答える。

 

『とにかく、らしくねえことはするんじゃねえってことだ! ったく、こっちまで調子狂うぜ…。わかったか!?』

『はい!』

 

ディータが嬉しそうに答える。何とも不器用で言葉足らずな和解だが、今の二人にはこれが精一杯で、これぐらいがちょうどいいのかもしれない。

 

『へっ…よっしゃ、そうと決まれb景気よく行くぜ! オラ―!』

『イヤッホー!』

 

蟠りが解けた二人が合体して残敵へと突っ込む。それを見送ったシュバルツは身を翻すとニル・ヴァーナへと帰還しようとした。と、

 

『待て』

 

不意に、メイアから通信が入る。

 

「何だ?」

『一つ聞きたい。最初からこうするつもりだったのか?』

「さてな…」

 

シュバルツは短くそれだけ返すと、今度こそそのままニル・ヴァーナへと帰投したのだった。

 

『わっかんない男ねぇ…』

「そうだな」

 

バーネットからの通信にメイアが頷く。だが、その口元は僅かに微笑んでいた。直後、敵機殲滅の表示がコンソールに出現する。

 

「よし、我々も帰投するぞ」

『了解』

 

メイアの号令にドレッド隊も全機帰投する。そしてヒビキとディータが殿を務め、今回の騒動は幕を閉じたのだった。

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