機動武闘伝Gガンダムヴァンドレッド   作: ノーリ

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おはようございます。本来なら今回から原作第八話に行くところですが、その前に幕間回を挟もうと思います。

タイトル通りニル・ヴァーナでの何気ない一日といった感じです。なので、特に緊迫した空気やシリアスな場面もありませんので、お気楽に読んでいただければと思います。

では、どうぞ。


NO.14 幕間 ニル・ヴァーナの新たな日常その2 兄さんのとある一日

メジェールの海賊団…マグノ一家にタラークの男三人とそして、一人のイレギュラーが加わってから暫しの日数が流れた。故郷へと向かう航海の中、最初は呉越同舟であった男女は共同生活を共にすることでその関係にも変化が見られつつある。これは、そんな中でのとある一日の物語。

 

 

 

 

 

「ふむ…」

 

ガンダムシュピーゲルのコックピット内にて、シュバルツがコンソールの表示内容に目を走らせながら軽く唸った。そして確認したい内容を確認した後、システムをダウンさせる。

 

(特に変化はなし…か)

 

そして、確認結果を思い出していた。懸念しているのは勿論、この機体の構成要素であるDG細胞の状態についてである。いや、この世界にやってきた時に大人しくしている以上は構成要素がDG細胞であるわけはない。であれば、以前にも推察したようにその大元であるUG細胞に戻っていると思っていい。そして、これも以前に調査して判明したことだが今のこのガンダムシュピーゲルを構成している構成要素は自分の知っているDG…UG細胞とは微妙に違うのである。その違和感に気付いたシュバルツはこの機体が暴走を起こさないように、そして現在の状態を確認するために調整を兼ねて時々こうやってモニタリングをしているのだが、幸か不幸か今のところ大きな変化は見られなかった。

 

(普通であれば喜ぶべきところなのだが、不確定要素の部分がハッキリしないことには手放しでは喜べんのが正直なところだな)

 

そう思う。何せ元の世界であれだけの力を見せつけたDG細胞なのだ。用心してもしすぎることはないし、詳細が判明しなければ懸念が払拭できないのも無理からぬことと言えた。だが、今回のモニタリングでも特に変化がないことが確認できた以上、これ以上ここにいる意味はない。

 

(どうにもスッキリせんのが歯痒いが仕方ない)

 

一つ溜め息をつくとシュバルツはコックピットを開けて外に出る。

 

「さて…」

 

予定のないシュバルツがこれからどうしようかと考える。戦闘時以外は手持無沙汰になることはままある。昼と夜に予定が一件あるが、まだその予定に入るのは少し早い。

 

(身体を休めるか…)

 

何となくシュバルツはその結論に至った。もしもの時にベストパフォーマンスを発揮するためには休息も重要なポイントである。うむ、と一つ頷くと自室に戻ろうとするシュバルツに、

 

『ちょっといい?』

 

不意に通信が開いた。

 

 

 

 

 

「やあ、ありがとありがと♪」

 

ドアの開閉音と共に姿を現したシュバルツに驚きながら無言で頭を下げるクルーたち。その中で唯一、気安く手を挙げて招いたのは通信を開いてきた相手…パルフェだった。

 

「何用だ?」

 

シュバルツがパルフェのところまで歩を進めると尋ねる。

 

「いやあ、実は先日の戦闘の後始末でちょっと人手が足りなくてさぁ。手伝ってほしいんだけど」

「ヘルプか」

「うん、そう。もちろん、そっちの都合を無視するつもりはないよ。何か予定があるならそっち優先してもらって構わないし」

「成る程」

「…って、呼び寄せておいて今更聞くなって話だよね。聞くだけならさっき通信入れたときに聞けばいい話だし…」

 

今更そこに思い至ったのか、タハハと苦笑いしながらポリポリとパルフェが頬を掻いた。その姿に、シュバルツがフッと微笑む。

 

「で、どうかな?」

 

顔を上げたパルフェがシュバルツに確認するかのように尋ねた。それに対し、

 

「構わんよ」

 

と、シュバルツが返答する。

 

「ホント!?」

「ああ。どちらにせよ今日は昼夜に用があるがそれ以外は特に何もないので休養するつもりだったからな」

「え…それ潰すことになるの? それはちょっと悪いな…」

 

シュバルツの返答内容にパルフェが腕を組んで悩み始める。せっかく了承をもらったのだから、これ幸いと手伝ってもらえばいいのに、こういう言動をするのは元々裏表のない真っ直ぐな性格だからなのだろう。

 

(正直な奴だ…)

 

その姿に、シュバルツがフッと微笑む。この素直さ・正直さは海賊という生業でいえば欠点だが、人としては大きな美点だ。

 

「気にするな。早く終わらせればいいだけの話だ」

 

だからこそ、シュバルツもパルフェがあまり気に病まないように自分から申し出た。

 

「でも…」

「だから気にするな。本人がこう言っているのだから、遠慮なく使えばいい」

「んー、わかった。それじゃあ、ちゃっちゃと終わらせるから、助っ人よろしくぅ!」

「ああ」

 

コロコロと表情を変えるパルフェに内心で苦笑しながらシュバルツはパルフェの…パルフェたちの手伝いを始めた。割り当てられたのは力仕事である。荷物の移動や運搬作業だった。とはいえ、これはシュバルツもある程度予想は出来ていたのだが。

 

(やはり、システムには触らせてはくれんか)

 

作業をこなしながらパルフェたちにチラチラと視線を向けるシュバルツ。今は協力関係にあるとはいえ、メジェール側も自分のことを信用しているわけもない。あくまでも業務上の関係と言っていい。そんな人間に重要な機密や情報がわんさか入っているシステムをいじらせるはずもなく、割り振られたのは無難な肉体労働だった。

とはいえ、そういう事情がなかったとしても男に肉体労働が割り振られるのはある意味自然な流れではあるのだが、男と女でいがみ合っているタラークとメジェールという下地で考えると違和感がないでもない。

 

(まあ、誰も疲れたくはないしな…)

 

男女の肉体的な性差を抜きにしても、疲れがたまることはやりたくないと思うのは自然のことなので、別に彼女たちを責めることもなくシュバルツはその後も黙々と肉体労働に勤しんだのだった。

 

 

 

「あんがと、助かったよ♪」

「それは何より」

「ほら、あんたたちもお礼の一つぐらい言いなさいよ」

 

作業が終わったメカニックルームでパルフェが後ろに振り返る。そこにいたメカニッククルーたちは突然パルフェに話を振られ、え…とか、あー、うん…とか、驚いたような戸惑っているような返事を返したのだった。

 

「何よ、ハッキリしないわねぇ」

「いや、だって…」

 

一人が口を開いたが慌ててその口を噤み、先を明かさない。

 

「?」

 

腕を組んで首を捻るパルフェだったが、シュバルツはクククと含み笑いを浮かべるしかなかった。

 

(まあ、長年の価値観はそうは簡単に変えられんか)

 

そう思っているからこそシュバルツは何も言わない。自分の考えていることが当たっているかどうかはわからないが、今まで敵同士だった男と女である。その怨敵相手に『礼を言え』と促されても、素直にそんな真似できることはないだろう。

 

(むしろ、こいつが特殊なのだろうな)

 

そう思いながらパルフェに目を落とす。タラークとメジェールの関係性ながら、最初から何の先入観もなく近寄ってきたパルフェの方がメジェール的には理解しがたいのだろう。なので、

 

「いい」

 

シュバルツは打ち切ることにした。

 

「え?」

「私は気にしてはいないから、もうそれ以上は言うな。第一、礼など人から強いられるものではあるまい」

「いや、それはそうだけどさ…」

 

そう返事をしたものの、パルフェはまだ納得がいっていないようである。本当に海賊という生業の人間かと思わないでもないが、とは言えいつまでもここでこうやって堂々巡りをしている暇もない。

 

「すまんが、この後にさっきも言った用があるのでな。ここら辺で失礼させてもらうぞ」

「あ、そうなんだ。ゴメンね、引き留める形になっちゃって」

 

シュンとするパルフェに、

 

「気にするな」

 

と、シュバルツが返す。

 

「また何かあれば呼ぶといい。もっとも、空けられんときは空けられんがな」

「ありがと。そうさせてもらうよ」

「うむ。では」

「じゃあね、ありがと!」

 

そう言ってにこやかに微笑みながらブンブンと手を振るパルフェに手を上げて応えると、シュバルツはそのまま次の目的地に向かって歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

額に滲んだ汗を拭ったシュバルツが一息ついた。お昼時ということもあり、ここトラぺザは大賑わいである。そんなトラぺザのキッチンに一人だけいる男…シュバルツに、周囲の関心は様々だった。興味深そうに見ている者からまだ物怖じしてい者、嫌悪感を抱く者から積極的にコミュニケーションを取ろうとする者まで実に多様である。

この状況でわかるように、シュバルツは現在調理中であった。人が足りないというのもあるのかもしれないが、それ以上に使えるものは使えという精神でこの役割も与えられているのだろう。それに何よりシュバルツのレシピの中には、メジェールの出身者は知らないものもあることが大きかった。閉鎖空間内の食糧事情を考えるとどうしてもメニューは限定されるため、レパートリーが増えるのは喜ばしいことである。そう言った幾つかの事情が後押しして、手すきのときの食事時はこうしてキッチンに駆り出されることにもなったのだった。と、

 

「ねえ」

 

キッチンクルーの一人が不意にシュバルツに話しかけてきた。

 

「何だ?」

「デリに行ってほしいんだけど」

「出前か」

 

シュバルツが答える。お昼時とはいえ全員がトラぺザに来れるわけもなくそういうクルーは交替制なのだが、そんな暇がないときも当然あった。そういうクルーのために出前も受け付けているのだ。そして、これもまたここに詰めているときのシュバルツの仕事の一つだった。

 

「うん、お願い」

「わかった」

 

エプロンを外したシュバルツがモノを受け取る。面倒と言えば面倒な仕事ではあるのだが、キッチンに残っていても最近は明らかに仕事の比重が増えてきているので負担はどちらも変わらない。むしろ、調理から離れられるこちらの方がシュバルツ個人的には負担が軽減されるために望むところであった。が、

 

「まだ忙しいんで、なるべく早く帰ってきてね」

 

クルーは釘を刺すのも忘れない。見透かされていたのかと思わないでもないが、事実ごった返しているので思ったことを素直に言っただけなのだろう。そしてシュバルツも、それを無視して何処かでサボるほど不誠実なわけもない。

 

「わかった」

 

先ほどと同じ返事を返すと、用意されていたメニューを持ってシュバルツはキッチンを出ていったのであった。

 

 

 

「失礼」

 

ドアが開いたのと同時に中に声をかける。振り返ったのはマグノ、ブザム、アマローネ、ベルデウェールという見慣れた連中だった。そう、ブリッジである。

 

「おや」

「どうした?」

 

珍しい訪問者に声を上げたマグノとブザムに、シュバルツは手に提げていた配達バッグを持ち上げた。それを見て、

 

『ああ…』

 

二人は声を揃え、と同時に、

 

「あ、来た来た!」

「こっちこっち!」

 

残りの二人、アマローネとベルデウェールが表情を輝かせて手を振ったのだった。シュバルツは促されるまま二人のところに近づくと配達バッグを開け、中身を取り出す。

 

「どっちがどっちだ?」

「私はこっち」

「あたしはこれ」

 

二人がそれぞれ自分の注文品を手に取ると自席に置く。

 

「ご苦労だったな」

 

そんなシュバルツにブザムが労いの言葉をかけた。

 

「いや、仕事だからな」

「仕事…か」

「何か可笑しいか?」

 

シュバルツの言葉を聞いてフッと笑ったブザムにシュバルツが尋ねる。

 

「いや、本来ならばパイロット専任のはずのお前がデリとしてやってきて、『仕事だ』と断言するのがどうにも、な」

「良く似合ってるよ」

 

ブザムの尻馬に乗るかのようにマグノも茶々を入れた。

 

「キッチンに転職したらどうだい?」

「本気か?」

「そんなわけないだろ?」

「それは結構」

 

そこでお互いに軽く微笑む。

 

「エズラはどうした?」

「トラぺザに行ってる」

「あたしたちは今日は足を運びたい気分じゃなくってさ。悪いとは思ったけどデリお願いしたわけ」

「何? もしかして迷惑だった?」

 

それぞれ食事を頬張りながらアマローネとベルデウェールがシュバルツを見上げた。

 

「いや、別に」

「本当?」

「ピークからずらしたつもりだけど、それでもまだ立て込んでるんじゃない?」

「まあそうだが、システムとして出前があるのだから仕方ない。認められているものを使用しているだけなのだからな。それに今言ったように、ピークからはずれているから対応可能だった。それだけだ」

「ふーん、そっか」

「ありがと。…ところでさ」

 

ベルデウェール一度言葉を切ってシュバルツを窺う。

 

「何だ?」

「この料理作ってくれたの、あなた?」

 

そして、こんなことを聞いてきた。

 

「いや?」

 

それに対してシュバルツが否定する。

 

「違うが」

「何だ、そうなんだ」

「残念」

「? 何がだ?」

 

その返答に何故か落ち込むアマローネとベルデウェールにシュバルツがどういうことかわからずに首を傾げた。

 

「だって、クルーの中で噂になってるもの」

「噂?」

「そ。あなたの料理が絶品だって」

「ほぅ…」

「そいつは初耳だね」

 

良いことを聞いたとばかりにブザムとマグノも口を挟む。

 

「確かなのか?」

「らしいです。色んなクルーの子たちがそう言ってましたから」

「だから、あたしたちも一度味わってみたかったんですけど…」

「そうか。それは悪いことをしたな」

 

シュバルツが申し訳なさそうに謝った。

 

「だが、それは言いすぎというものだ。そこまでの腕はないと思うが…」

「そこのところが実際どうなのか知りたかったから、こうやって聞いたんじゃない」

「そういうこと」

「過大評価だとは思うが…。まあそう言うならば、次は私が作ろう」

『ホント?』

 

目を輝かせ、声を合わせるアマローネとベルデウェールにシュバルツが驚きながらもクククと笑い、そして、

 

「ああ」

 

と、頷いた。

 

「それじゃあ、早速今日の夕飯でお願いね!」

「気が早いな」

「噂が本当かどうか検証するには実際に経験しないとね♪」

「そうそう。だから」

「今日の夕飯はよろしくぅ♪」

「わかったわかった」

 

苦笑するシュバルツから言質を取った二人がハイタッチで喜ぶ。

 

「そこまでなら、私も一度頂いてみようか」

「BCだけじゃないよ。あたしもね」

「お前たちもか…」

 

便乗するように話に入り込んできたブザムとマグノにシュバルツも再びの苦笑を禁じ得ない。

 

「わかった。では、いずれな」

「うむ」

「期待してるよ」

「プレッシャーをかけんでくれ」

 

苦笑したままバッグを持つと、シュバルツはそのままブリッジを出ていったのだった。残されたアマローネとベルデウェールはウキウキの表情になり、そしてマグノとブザムはそんな二人の表情にお互い顔を見合わせて苦笑したのだった。

 

 

 

 

 

「次はこっちをお願い」

「わかった」

「それが終わったら、これ運んでね」

「うむ」

「それが終わったら、在庫整理お願いします」

「承知」

 

昼が過ぎて午後、シュバルツは場所を変えていた。今いるのはレジである。と言っても、注文を受ける表方の方ではなく、倉庫業務の裏方の方だが。シュバルツは現在ここで、黙々と与えられた業務に励んでいた。と、

 

「あんたたち、少しは遠慮ってもんを覚えなよ…」

 

不意に背後からそんな声が上がってシュバルツが首を捻る。そこにいたのはやれやれと言った表情をしているガスコーニュだった。そして、

 

「あ…」

「えっと…」

「すみません…」

 

心当たりのあるレジの裏方勢が各々バツの悪そうな表情になって申し訳なさそうに謝った。

 

「全く…」

 

ポリポリと頭を掻きながらガスコーニュがシュバルツに近寄る。

 

「すまないね。ウチの子たちがあんたを良いように使っているようでさ」

「気にするな。どうせやることも特にないしな」

「そう言ってくれると助かるよ。ただね、ヘルプって意識であんたに助力を頼んでるんならいいけど、自分がサボりたいがためにあんたをいいように使ってやろうって意識があるような感じがちょっとしたもんだからさ」

 

そして、チラッと周囲のレジクルーたちにガスコーニュが視線を向ける。視線を向けられたレジクルーたちは慌てて目を逸らした。それは注意されてバツが悪いからか、それともガスコーニュが指摘したスケベ根性を持っていたことが見抜かれたためかはわからない。とはいえ、この反応では大なり小なりガスコーニュの指摘した危惧の持ち主はいたようだった。そんなガスコーニュに、

 

「そう怖い顔をするな」

 

シュバルツが静かに微笑んで釘を刺した。

 

「あん?」

「長がそれでは下が萎縮する。そんな組織は立ち行かん」

「そりゃそうだが…随分と他人事みたいに言うじゃないか」

「ん?」

「こっちはあんたのためにウチの子たちに釘を刺したんだけどね」

 

制されるとは思わなかったのか、ガスコーニュがぼやいた。

 

「それはわかっている。また、感謝もしているさ。だが、私自身が特に気にもしていなかったしな。それに釘を刺した以上、ここのクルーたちはそれを素直に受け入れる人材だろう?」

「おやおや、随分と良い評価をしてくれるじゃないか」

「長が長だからな」

「ハッ、褒めても何も出ないよ」

「それは残念」

 

肩を竦めたシュバルツにガスコーニュが楽しそうに微笑む。実に息の合ったリラックスした雰囲気に、不思議と周囲のクルーたちも癒されることになった。

 

「とは言え、これぐらいのサービスはあるけどね」

 

そう言ってガスコーニュが一本のドリンクを差し出した。差し入れということだろう。

 

「そうか。では有難くいただくか」

 

シュバルツもその気遣いを受け取ると少し歩を進め、壁際にて腰を下ろす。

 

「休憩」

『はーい!』

 

それを合図としたかのようにガスコーニュがレジクルーたちにそう指示し、クルーたちは声を揃えて返事をしたのだった。

 

(全く…実によく統制の取れた連中だ)

 

差し入れのドリンクに口をつけながら、シュバルツはそんな感想を抱いたのだった。

 

 

 

 

 

「頼まれたものだが、ここに置くぞ」

「わかったケロー」

 

了承の返事を受けたシュバルツが物品を指定の場所に置いた。やってることは先ほどのレジでの裏方稼業と大差ないが、場所は違っていた。今いるこの場所は医療室。そう、レジでの仕事を終えたシュバルツは今度は医療班の手伝いに駆り出されていたのである。そしてここでの繋ぎ役となるのはパイウェイだった。実際、今の返事を返したのもパイウェイである。だが当然、パイウェイだけとやり取りをしているわけではない。

 

「あ、あの…」

 

不意に横から声をかけられ、シュバルツが振り返った。そこには、ここで何度か顔を合わせた医療班のクルーの姿があった。

 

「どうした?」

 

シュバルツが尋ねると、

 

「今度は、こっちもいいですか?」

 

と、おずおずとある場所を指差す。そこには、備品や部材の山があった。

 

「運べばいいのか?」

「は、はい」

「わかった」

 

頷いたシュバルツにそのクルーがホッとしたような表情を見せる。

 

「それじゃあ、みんなで仕分けしますから、仕分けが済んだものを運んでください」

「承知」

「キリキリ働くんだぞ♪」

 

穿った見方をすればいいように使われているシュバルツだが、本人は特に気にしていないようだった。そしてそんなシュバルツを偉そうに使うパイウェイという光景は、また一種異様とも言えるものだった。

 

 

 

「ふぅ…」

 

医療室にて言いつけられた作業を一通りこなしたシュバルツが一つ息を吐く。そこに、

 

「はい」

 

目の前にドリンクが差し出される。死線を向けると、そこにはパイウェイがプイッとそっぽを向いている姿があった。

 

(今日はこれで二度目か)

 

先ほどのレジ裏でのガスコーニュとのやり取りを思い出したシュバルツだったが、そんなことは口に出すこともなく、

 

「すまんな」

 

と言って受け取った。そして、そのまま手近の壁に背を預けるとそれを空けて咽喉の奥に流し込む。

 

「ふーっ…」

 

ある程度水分補給したところで、シュバルツが大きく息を吐いた。

 

「下僕にしてはよく頑張った。褒めてあげるケロ」

 

そんなシュバルツに労いの声をかけるパイウェイ。一応、労いではあるのだがその内容が内容だけに一歩間違えればとんでもないことになるのだが、シュバルツはそんな真似はしない。

 

(というか、こいつも相手を見て言っているような気もするしな)

 

子供のくせに大した洞察力だと思いながら、

 

「そうか」

 

と、シュバルツは無難に返答した。が、パイウェイはその返答内容がお気に召さなかったようである。

 

「何その返事。褒めてやってるんだからもっと喜びなさいよ」

「これは失礼」

 

ムッとしながら眦を吊り上げるパイウェイにシュバルツは苦笑を禁じ得なかった。

 

「全くもう…立場がわかってないケロー!」

「ほう、そうか。では今後は手伝いに来なくていいか」

「わわっ、それはなしケロ!」

 

釘を刺してきたシュバルツの発言に慌てるパイウェイ。シュバルツが使えなくなると他の三人がターゲットになるが、三人ともあまり相性がいいとは言えない。その中でもましなドゥエロは力仕事に向いているようには見えないし思えない。後はお調子者のバートに喧嘩っ早いヒビキと、パイウェイ個人としてはあまり絡みたくない面子である。そのため、シュバルツという労働力を失いたくはなかった。だがそこのところをわかりきってクククと笑うシュバルツの姿も面白くはない。

 

(むー…)

 

あっちを立てればこっちが立たずの状況にパイウェイが頬を膨らませている。怒っているのは明白なのだが、子供がそうやってもあまり効果が薄いのもまた実情である。

 

(やれやれ、困ったお姫様だ)

 

その姿を肴に、シュバルツは再度ドリンクに口をつけたのだった。

 

 

 

 

 

夜。一日が終了する時間。それはシュバルツにとっても当然同様で、今日一日働いてきたシュバルツにとっての憩いの時間、休息となるはずであった。が、残念なことにまだ終わらない。

 

「ちょっとぉ、聞いてる!?」

 

そんなシュバルツの気配を察したのか、右斜め前から面白くないような声色で絡まれる。内心で溜め息をつきながら

 

「ああ」

 

とシュバルツが答えた。

 

「噓ばっかり!」

 

お冠なその人物…ジュラはムッとした表情そのままに手酌で自分のグラスにウイスキーを注ぐ。

 

「ちょっとジュラ、その辺にしなさいよ」

 

今度は左斜め前からそうやって窘める声が聞こえてきた。そこにいるのは勿論バーネットだ。絡み酒っぽくなってきたのに気づいたバーネットが釘を刺す。が、

 

「うるさいわね、ほっといてよ!」

 

それでジュラの曲がった機嫌が直るはずもなく、面白くなさそうにぐびぐびとグラスを仰いだ。その様子に、バーネットが眉間を押さえながらはぁ…と溜め息をつく。

 

(損な役回りだな…)

 

そんな二人のやり取りを見ていたシュバルツは、バーネットに対してそんな感想を抱いた。夜食でのキッチン作業を終えたシュバルツが自室に戻ろうとしたところを呼び止められ、こうして酒の相手をしている…させられているのである。無論、断ろうと思えば断れたのだが、どうにもジュラとバーネットが醸し出す雰囲気が気になったもので受けてみたらこの様だったのだ。と、

 

「もー!」

 

憤懣やるかたない状態だったジュラが遂に爆発した。そして、

 

「どうしてあいつと合体できないのよぉ!」

 

不満ありありでそう叫ぶと、そこで電池が切れてしまったのかジュラが高いびきをかき始めたのだった。

 

「やれやれ…」

 

言いたいことだけ言って好きなように愚痴って最後には潰れていいご身分だと思ったシュバルツ。それはある意味バーネットもそうだったようで、

 

「全く…」

 

と、ボヤいていた。しかし、それだけで終わらないところがバーネットのいいところというか苦労性なところである。散らかったグラスやボトルを片付けると、潰れたジュラに毛布を掛けたのだ。

 

「苦労しているな」

 

そんなバーネットを労うようにシュバルツが声をかける。と、

 

「もう慣れたわ」

 

バーネットが肩を竦めてソファに掛け直した。

 

「ホントはこんなこと慣れたくなかったんだけどね」

「それはわかる」

 

シュバルツとバーネットが顔を見合わせるとお互いフッと微笑んだ。そして再度ジュラに視線を向ける。ジュラの不満は潰れる直前の最後の言葉通りのものだった。先日のヒビキとディータの一件があってからこれまで、数回小競り合いがあったがジュラはヒビキとの合体ができなかったのだ。タイミングが合わなかったりフォーメーションが乱されたりそもそも合体するまでもなく敵が殲滅されたりと理由は様々だったが、とにもかくにもジュラはヒビキと合体できる機会が得られていないのである。そのくせディータとはあの後も数度合体しているので、余計にそれが癇に障って鬱憤がたまったのだろう。シュバルツが今日誘われたときに感じ取ったジュラからの雰囲気の正体はその鬱屈だった。そしてそれがわかったからこそ誘いに乗ったのだ。何故なら断ったらそれに巻き込まれるのがバーネット一人になるからである。そしてバーネットから感じ取った雰囲気の正体はそんなの御免だわという辟易したものだった。そのため、バーネットの負担を軽減するためにジュラの酒の相手に付き合ったのである。

 

(わがままに振り回される方はたまったものではないからな)

 

そう考えるシュバルツの脳裏にはレインの姿が思い浮かんだのは秘密である。と、

 

「ねえ」

 

そのバーネットから声をかけられた。

 

「何だ?」

「この後って何か予定ある?」

「いや」

 

シュバルツが首を左右に振った。

 

「予定があれば、そもそも最初から受けてはいないさ」

「それもそっか。それじゃあ、もう少し付き合ってよ」

 

そう言ってバーネットが新しいボトルを空けるとシュバルツに向けた。それに対し、シュバルツは黙ってグラスを差し出す。シュバルツのグラスに注いだところで、今度はシュバルツがそのボトルを手にした。同じように差し出したバーネットのグラスにシュバルツがボトルの中身を注ぐ。そしてお互いグラスを持つと、チンと音を鳴らした。

 

「……」

「……」

 

喋るでもなく、お互い雰囲気を楽しむかのようにゆっくりとグラスを傾けていく。

 

「ありがと」

 

そんな言葉がバーネットから聞こえてきたのは、グラスの中身が空になろうかというときだった。

 

「ん?」

 

言葉の意味がわからず、シュバルツが首を傾げる。

 

「私が一人でジュラのお守りをすることにうんざりしてたの、察してくれたでしょ?」

「ああ…」

 

意味がわかったシュバルツがゆっくりと呟いた。

 

「まあな」

「で、その負担を担ってくれたわけでしょ?」

「そうだな」

「助かったわ。ジュラも悪い子じゃないんだけどね…」

 

そう言って、夢の中にいるジュラにバーネットが視線を向けた。

 

「どうにも幼いっていうか、わがままっていうか、そういうところがあって」

「そうだな」

「だから、助かったわ」

「それは何より。いつも割を食わされてばかりではたまったものではないだろうしな」

「ふふ、そうね」

 

そこで、お互いのグラスが空になる。

 

「もう一杯、いけるでしょう?」

「いただこうか」

「そうこなくっちゃ♪」

 

はにかみながら微笑むとバーネットは再びシュバルツのグラスに注いだ。そしてまたシュバルツもバーネットのグラスに。そんな、しっとりとした大人の時間はこの後も少しの間続いたのだった。

 

 

 

 

 

時間を超え、空間を超え、本来交わるはずがないイレギュラー。そのイレギュラーを加えたニル・ヴァーナは、本来辿るべき歴史を少しづつ変化させていく。その結果が彼ら彼女らに、そして何よりイレギュラー自身に何をもたらすのか。

その答えを知ることになるのは、今はまだ先のことである。

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