原作ご存じの方はよくわかってるでしょうが、あの男とその連れとの出会いです。大筋は改変しませんが、兄さんがいる以上は今後のために色々と動いてもらおうかと。と言っても、今回は導入部なのでそこまで動きはありませんが。
何はともあれ楽しんでいただければと思います。では、どうぞ。
何の因果か母星宙域から遠くまで弾き飛ばされた女の海賊団+男三人。そこに本来ならいるはずのない一人のイレギュラーを加えた一団が故郷に戻るために舵を取り、宇宙の海を航行し始めて早数か月。呉越同舟も少しずつ融合・調和の兆しが見え始めたある日。ニル・ヴァーナは一つの寄港地を探索していた。
『ねー、何かあった? 綺麗な服はジュラのものだからね!』
相変わらず我を通すジュラの発言をBGMに、ブリッジではマグノとブザムがその様子を確認している。
「これがミッション…初めて見ました」
ブザムが興味深そうな声を上げた。ミッション…それが現在探索している寄港地の正式名称である。
「植民地時代には中継基地として栄えたらしいが、今じゃ用済みさ。何か虚しく感じるねぇ」
マグノがミッションについて補足する。今ドレッド隊たちが足を運んでいるミッションというのは要するに打ち捨てられた廃墟のコロニーのようなものである。そこに火事場泥棒よろしく、何か使えないものがないか物資調達の意味を込めての探索なのだろう。あるいは、生存者発見による情報入手という側面もあるかもしれないが。そんな二人の会話を、
(ミッションか…。何かいい土産があればよいのだが…)
ガンダムシュピーゲルのコックピット内でシュバルツは聞いていた。ドレッドチームの指揮官たち+ヒビキがミッションの探索をしている間、シュバルツはニル・ヴァーナの護りを命じられたのである。探索中でも敵の襲撃がないという保証はない。母艦を空にするわけにもいかないのだ。何より、シュバルツ一人いれば探索に出ている連中が戻るまで持ち堪えることは難しいことでもないというこれまでの積み重ねがあった。
(戦果を期待するとしよう)
出撃し、ニル・ヴァーナの前方で腕を組んで周囲を警戒しながら、シュバルツは探索者たちの帰りを待つことにした。その頃、
「ふーん、結構使えそうなものはありそうね。食糧は何処かなぁ…」
先頭を切って中を確認しながら歩くのはバーネット。その後ろに続くのは当然ジュラ。どうやらこのミッションには彼女たちが言うところの『お宝』の気配があるようだった。一方、二人とは別の地点にて、
「お頭よくこんな宇宙ステーションのこと知ってましたね」
感心したように呟くディータはほえーっという感じである者を見上げていた。それはこのミッションの中央に位置する中央制御塔だった。そのあまりの規模に感心していたのである。
「宇宙ステーションではなく、正式にはミッションと呼ぶんだピョロ」
「ふーん」
何故かここにいるピョロの補足に更に感心しているディータに、
「無駄口を叩くな。作業にかかるんだ」
先にその制御塔をいじっていたメイアが振り返ることもなく釘を刺した。その脇では、ヒビキも同じように制御塔をいじっている。
「作業!? 海賊行為による強奪だピョロ!」
「放置された資源を有効利用しているだけさ」
ピョロがもっともな指摘をするものの、メイアは気にする様子もなく平然と答える。
「指示は正確に出すべきだピョロ」
「細かいなぁ」
そんな、ともすれば緩い雰囲気の中、彼ら彼女らの頭上を通っている無数の鉄パイプに踊る影があった。
「!? 何だ!?」
偶然か必然か、それに気付いたヒビキがピョロをお供に加えて後を追う。
「待つピョロー!」
「どこ行った!?」
商業区画の一角と思われる場所まで追いかけ、辺りを見回すと一人と一機。そこに突然、頭上から影が躍った。
「うぉ!?」
「ふぉぃ!?」
二人の前に姿を現したその影は一拍置くと満足そうに微笑む。その姿は人ではなく、オーバーオールのようなものを履いた一匹のオランウータンだった。
「でっ…どっ…?」
「ピョ~…?」
予想もしなかった影の正体に、ヒビキとピョロは言葉を失うしかなかったのだった。
「何だ…コイツ…?」
恐らく初めて見るであろうオランウータンにヒビキはどう対処していいものかわからない。と、
「ウッ…キーッ!」
そのオランウータンが身体をかがめて全力でジャンプして飛び掛かってきた。
「うわっ!」
条件反射的にヒビキは防御するもののオランウータンはヒビキを素通りしてその背後に飛び掛かる。
「うひーっ! ひ、ヒビキーっ! 早く助けるピョローっ!」
悲鳴を上げたのはピョロだった。飛び掛かってきたオランウータンに拘束されたピョロは何故かその全身を舌で舐められている。ジタバタ抵抗するものの予想外に力が強いのか拘束から脱出できずに助けを求めることしかできない。と、
「やめろ、ウータン」
不意にあらぬ方向から野太い声が聞こえてきた。ヒビキがその声のした方向に振り返ると、そこにはがっしりした体躯で長身の壮年の男の姿があった。右目にモノクルの赤いバイザーをかけ、片手を腰に置いて佇んでいる。今の発言から察するに、このオランウータンはウータンという名前なのだろう。芸も捻りもないが。
「オメェ男か…? 男だな!?」
一方でヒビキはその男の姿を確認し、この状況下にあってドゥエロとバート、そしてシュバルツ以外の初めての男と出会ったため顔を輝かせていた。そして、
「助けに来てくれたのか」
と、その男に向かって走り出す。が、そのヒビキの挙動を見た瞬間、男は表情を曇らせると即座にホルスターに納めてあった銃をヒビキに突き付けたのだった。
「なっ! 何すんだ…」
男の行動の意味がわからずに思わず固まるヒビキ。と、不意に気配を察した男は更に表情を厳しくして即座にヒビキの背後に回り込むと屈みながら後ろ手にヒビキの左手を捩じ上げる。腕を捩じ上げられたことで苦痛に悲鳴を上げるヒビキの正面に再び人影が一つ。それは、その男に向けてリングガンを構えたメイアだった。
「女か」
メイアを確認した男がそう呟く。
「それがどうした?」
「女は殺さない主義でねぇ…」
そう言って、男は立ち上がりながらヒビキを解放した。痛みに顔を顰めたヒビキがゆっくりと男から距離を取ってメイアの横に立ちながら痛みを緩和させるかのように拘束されていた左腕をグルグル回す。
「……」
男はヒビキを解放したものの不敵な笑みを浮かべたまま銃を構えている。お互いに銃を突きつけ合った睨み合いは、とある金属音で終わりを告げた。
「はいはい…。どうも、分が悪そうだ」
男が肩を竦めながら銃の構えを解く。その背後、首筋には一本の剣が突き立てられていた。抜いていたのはジュラ。そして、先ほどの金属音はジュラが鞘から剣を抜いた音だった。
「なぁにコイツ? 男?」
「そうらしいわね」
バーネットがメイアと同じく銃を突きつけながら男の銃を奪う。こちらはメイアのようなリングガンではなく、普通の拳銃だ。ヒビキとメイアたち三人に四方を囲まれた男はそのまま両手を上げ、抵抗せずの意思を見せていた。
「お前ら追い剥ぎか?」
「海賊と言ってほしいものだな」
「ほぉう? そっちのお嬢ちゃんもかい?」
男がヒビキに視線を向ける。
「! 俺は男だ!」
「んん? ぶはっはっはっはっはっ…コイツは傑作だ!」
当然の返答を返したヒビキに、男が高笑いで返した。
「な、何が可笑しいんだよ!?」
「いやあ、悪い悪い。お前さんがあんまり可愛らしいんで、つい女かと思ったぜ」
(っ! コイツ!)
ヒビキの目が細く鋭くなる。先ほどのファーストコンタクトからよろしくない出会いだったが、少なくともここでこの男に対するヒビキの心証は最悪のものになったようだった。と、
「きゃああああっ!」
突然ディータの悲鳴が聞こえてきた。皆が視線を向けると、そこにはピョロを捕獲したオランウータン…ウータンがディータの足を掴んでいる光景があった。拘束から逃れようとするディータだったがそれは叶わず、思いっきり転倒してしまう。ピョロはと言うと気絶(システムダウン?)してウータンの腕の中でノビている状況だった。
「いやあ、何この汚いの! 放してぇ! 助けてぇ! うわーん!」
何をされるかと思ったら足を舐められ、ディータは鳥肌を立たせながら悲鳴を上げた。だが流石にオランウータンだけあって力は強いのだろう、拘束から逃れられず悲鳴を上げながら助けを求めることしかできない。
「……」
「……」
そんな光景を目の当たりにすることになった男がメイアとジェスチャーで無言のやり取りをし、結果、そのオランウータンの許へと男が足を運ぶこととなった。
「いい加減にしろよ、ウータン」
男が首根っこを捕まえてディータからウータンを引き剥がす。
「ウキィ…」
苦笑いしながら申し訳なさそうに頷くウータン。随分と感情表現が豊かというか人間臭いオランウータンである。それによってやっとウータンから解放されたディータはウッキーじゃない、もう…と、半泣きになりながら文句を言っていた。
「ったく、オメェは相棒がピンチだってのに、しょうのねえ奴だ、な!」
言い終わると同時に男がウータンの手にしていたピョロを掴み、メイアに向かって突然ぶん投げた。
「のおおおっ!」
「うわっ!?」
不意を突かれたメイアは投擲物と化したピョロの直撃をまともに顔面に受けて吹き飛んでしまう。
「このっ!」
バーネットがすかさず銃を構えたが、
「ウキーッ!」
「わっ!?」
ウータンが先ほどのピョロと同様に投擲物となってバーネットに飛び掛かり銃撃を防ぐ。そしてそのまま、ウータンはバーネットの顔をジャンプ台にして上空へ跳躍し、天井を走っているパイプの上に着地した。
「はああっ!」
ジュラが男に向かって剣を水平に振るう。が、
「ふっ!」
男は後ろに跳躍してその剣戟をかわすと、そのまま何度か後転して距離を取った。
「待て、この野郎!」
ヒビキがそう叫ぶ。が、その直後、ミッションを予期せぬ震動が襲ったのだった。
ミッションから次々に厚みのある五角形のモノリスのような物体が飛び出す。そして、その外周部分から無数の三角形の物体が解き放たれた。その三角形の物体が展開して銃口とアームを兼ね備えた形へと変態する。
(形状は大いに違うが、ジョルジュ=ド=サンドの愛機のガンダムローズのようなものか? あの五角形がガンダムローズ本体で、排出された三角形がローゼスビットみたいなものか?)
不意に姿を現したその敵に、シュバルツはそんな感想を抱いていた。そこに、
「総員、戦闘配置!」
ブザムの指示が飛んだ。直後、
「お頭」
ブザムがマグノに振り返る。
「何だい? BC」
「今回の戦闘、試してみたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「試してみたいこと?」
マグノが怪訝な表情になって首を傾げる。
「はい」
「内容によるね。何をしようってんだい?」
「シュバルツにドレッド隊の指揮を取らせてみようかと」
「えっ!?」
「副長!?」
「本気ですか!?」
その発言にには流石に度肝を抜かれたのか、アマローネ、ベルデウェール、エズラの三人がビックリして振り返った。
「正気かい?」
マグノも驚いている。だが、頭のどこかにその考えは元々あったのか、三人よりも落ち着いていた。
「はい」
それに対し、ブザムが頷いて答える。
「無論、全てのドレッドの指揮を取らせる気はありません。半数はメイアたちの救援、サポートに向かわせます。残った半数の指揮をシュバルツに取らせてみようかと」
「指揮官としての資質を計ってみようってのかい」
「はい。奴の個人による戦闘能力の高さはこれまでの戦いで十分見せてもらいました。では部隊指揮官としての能力はどの程度なのか…と、いうことです」
「いいよ、やんな」
「お頭!?」
「シュバルツさんなら大丈夫だと思いますけどぉ…」
「本当にいいんですか!?」
「ああ」
アマローネたちが再度驚いたり戸惑ったりしているが、マグノは意に介さずに頷くだけだった。
「ありがとうございます」
許可が降り、ブザムが一礼する。そして、
「うひぇ~…大変なことになったなぁ…。大丈夫かね、あの人?」
今いる場所から自然とその内容を聞くことになってしまったバートが、自分たちの前方で腕を組んでいるガンダムシュピーゲルの後ろ姿に目を向けたのだった。
ニル・ヴァ―ナでそんな会話があったなど露知らず、ヒビキたちはアラームが鳴り隔壁が閉じる中、ミッションを脱出するために走る。
「くっそぉ、一体どうなってやがんだぁ!」
「我々のような者を歓迎しないらしい」
そのメイアの推察通り、今回のこの敵はカリトリではなくミッションの防衛システムだった。海賊行為の結果死んでいたシステムが生きかえってしまい、反応したのだろう。そうこうしているうちにミッションは砲塔を配備させたりシールドを展開させたりと着々と防備を固める。そして、この場に居合わせた闖入者はもう一組。
「出るぞ、ウータン」
男が自分の艦に戻り、助手席の相棒に象声をかけた。そして、ウキッと返事をするウータンの腕の中には、いつの間に回収していたのか未だ目を回しているピョロの姿があった。
「ナンデ…? ナンデ…?」
「おいおい、ウータン…」
男に呆れられたウータンは後頭部に手を回すと、『いやあ、面目ない』といった様子で笑みを浮かべたのだった。仕草といい行動といい、本当に人間臭いオランウータンである。
「みんな急いで! 攻撃ユニットを確認したわ!」
「ニル・ヴァーナに到達する前に、全て撃破する」
「おっきいのはディータに任せて♪」
バーネットの状況報告にメイアとディータがそう答えた。が、
「あれ? 宇宙人さんは?」
肝心のヒビキの姿がない。直後、
「くそ! 出遅れちまった!」
その一言と共にヒビキがミッションから発信してきた。
「あ、来た来た! 宇宙人さん、合体合体♪」
当然のように合体からの殲滅を望むディータだったが、
「やなこった!」
ヒビキはその脇をすり抜けて敵陣へ突貫したのだった。
「えぇー、どうしてぇ!?」
「ディータ、来るぞ!」
嘆くディータだったがそれで敵が止まってくれるわけもなく、ミッションの防衛システムが遅いかかり始めた。時を同じ頃、
『シュバルツ』
ブザムからシュバルツへの通信が入った。
「何だ?」
『今回、お前にドレッドチームの指揮を執ってもらいたい』
「何?」
唐突な、しかも予想していなかった内容にシュバルツの表情が怪訝になる。だがそれは、ドレッドチームの隊員たちも同じようだった。が、ブザムはそのあたりを黙殺して話を続ける。
『無論、全戦力の指揮を執ってもらうというわけではない。ドレッドチームの半数はメイアたちの援護へ。残り半数はここでシュバルツの指揮の下敵を迎撃してもらう』
「どういうつもりだ?」
突然のブザムの意図がわからず、シュバルツが尋ねた。それに対し、
『何、簡単なことさ』
ブザムがいつものような不敵な笑みを浮かべる。
『今回のようにリーダークラスの人間が出払っていた場合に備えての副次の策だ。隊員たちもそれなりの技量はあるので個人個人で戦ってもある程度の戦果は挙げられるが、効率的な戦闘ができるのであればそれに越したことはない。お前にそれが出来るのか、試験させてもらいたいだけだ』
「……」
その返答内容をシュバルツは黙って聞いていた。言ってることは確かにわかるが、そもモビルファイターは一対一の戦闘が基本である。故に小隊指揮、部隊指揮という分野は未知の領域に等しい。ギアナ高地から脱出するときに一時的にその真似事のようなことはしたがあれはあくまでも真似事。実戦で実際となるとまた勝手が違うだろう。それに、設計思想も兵器としての基本運用も異なるドレッドに対して適切な指揮が出せるかも怪しい。そして何より、一対一が基本のモビルファイターの中でもシュバルツ=ブルーダーとガンダムシュピーゲルはその個人、機体の特性から隠密や索敵、攪乱などの単独での運用を最も得意とする機体なのだ。その最も重要な特長を生かせないくなるのはどうかと思ってしまう。
(だが、奴の言うこともわかる)
ドレッドチームの人材育成という点では深いところはわからないが、目立った連中以外ではまだ指揮官レベルまで達している者はいないのだろう。であれば、近々で指揮官級が増えるとは考えにくい。それならば、使える可能性がある者は何でも使えと言うことなのだろう。
(もっとも、額面通りに受け取れるわけではないがな)
チラッとブザムの顔を見る。その態度や表情から腹に一物も二物も抱えていそうなのは間違いではないだろう。とは言え、敵の襲撃は今も迫りつつあり、時間がないのも事実。そしてここで断ればその初動の遅れが戦況を不利にする可能性もなくはない。
(選択肢などないに等しいものだな)
ブザムの思惑通りというのも複雑だが、二進も三進もいかない状況下なのもまた事実。故に、
「わかった」
そう、シュバルツは答えた。答えるしかなかった。そして、その返答を聞いたブザムが妖艶に微笑む。
「理解してくれて助かるよ」
ぬけぬけと…とは思わないでもないが、これ以上何を言ったところでどうにもならない。シュバルツは通信を切ると、向かってくる敵を見据えた。そして、それを合図としたかのように、
『聞いての通りだ。AチームとBチームはメイアたちの援護へ向かえ。残りはこの場でシュバルツと共に敵を迎撃!』
『了解!』
ブザムの指示が飛び、ドレッドチームの半数がメイアたちのところに向かったのだった。
「さて、後はお手並み拝見といこうかね」
「ええ。どうなるか、見物です」
海賊らしく悪い表情になるマグノとブザム。そして、
「無事に帰ってきてくれよぉ…」
そんなシュバルツの身を案じ、バートがシステムの中で祈ったのだった。そんな小さな応援がされているなどとは露知らず。シュバルツは一本メッサ―グランツを取り出すと、それを向かってくる小型の三角形…自律型ビットと思われる物に向かって投擲する。なすすべなくメッサ―グランツの直撃を受けたビットは大破した。
(ふむ、やはりあの小型ならばメッサ―グランツの一撃で落とせるか)
それを確認したシュバルツはドレッド隊に向けて通信を開く。
「妙な成り行きからこんなことになったが、よろしく頼む」
返ってきた返事はやる気に満ち満ちていたり不満そうだったり興味津々な感じだったりと千差万別だったが、当然の反応だったので気にしてはいない。それよりも今はやるべきことをやるだけである。
「では指示を出す。と言っても、ドレッド隊の特性や連携を把握しての指示など私に出せるわけはないので、シンプルに行く。こちらに向かってくる小型はすべて私が引き受ける。お前たちは連携して大型に当たれ。以上だ」
その指示内容にドレッド隊の各所で驚きや戸惑いや怒りの声が上がったが、
「文句なら後でブザムに直接言うのだな。では、作戦開始!」
そう切って捨てると通信を切断して無数のメッサ―グランツをビットに向けて投擲し始めたのだった。
「えぇ…」
「なんてゆうか…」
「大味ねぇ…」
シュバルツの指示内容は当然ブリッジにも聞こえており、その内容を聞いたアマローネ、ベルデウェール、エズラが驚きとも戸惑いとも呆れともつかない感想を述べた。そんな中、
「面白いこと言うじゃないか」
マグノは実に楽しそうに微笑み。
「はい。豪語した通りに対処できるのか、見せてもらいましょう」
ブザムも同様に楽しそうに微笑んだ。だが、その表情はすぐに驚きに固まることになる。と言うのも、
「はっ!」
気合を入れるかのように顔の前で腕を十字に交差させ、それを解いた直後にシュバルツが…ガンダムシュピーゲルが数体に分身したからだ。
『い!?』
「あらあら、凄いわぁ…」
分身したガンダムシュピーゲルの姿にアマローネとベルデウェールは絶句して固まる。エズラは一人いつもの雰囲気ではあるのだが、それでも言葉通り驚いているようだった。とてもそうは見えないのだが。そして、
「何!?」
「これは…っ!」
このことに関してはマグノとブザムも完全に予想外だったようでアマローネやベルデウェールとほぼ変わらない反応を返す。そして、
「はああああああっ!」
その数体のガンダムシュピーゲルが散らばると無数にメッサ―グランツをビットに向けて投擲したのだ。シュバルツ自身の技量の高さと、相手が自律兵器とは言え所詮は機械ということもあってメッサ―グランツはただの一度も外れることなく、全てビットを撃墜、大破させていた。
「凄い…」
それは誰の呟きかわからない。が、少なくともこの光景を見ることになった全員の意見の一致だろう。何しろ一撃も外さずに数多の敵をすべて撃墜しているのだ。勿論、分身などという離れ業をしているだけでも十分凄いのだが、目の前の戦果はそれと同等、あるいはそれを凌駕するものと言っても過言ではなかった。そんな、一種の白昼夢のような状況を破ったのもまたシュバルツ自身だった。
「何をしている! 大型が来るぞ!」
その一言に、ドレッド隊がハッとして再起動する。シュバルツの指摘通り、業を煮やしたのか痺れを切らせたのかはわからないが、小型の排出だけで様子を見ていた大型のモノリスが数台、ニル・ヴァーナを目指して近づいてきていた。
「各自、チームメンバー同士で互いの死角を補いながら当たれ! 役割を明確にし、攻撃、防御、情報分析などを互いに補完し合って常に有利な状況で戦闘を支配するんだ!」
『了解!』
ドレッドチームが返答すると三機一組、あるいは四機一組といった形になって大型のモノリスへと攻撃を仕掛けた。
今回の指示もまたシンプルなものだったがその内容は的確であり、ドレッド隊も隊員の一人一人の技量にバラつきはあっても連携を取ることでその差を埋めて攻撃できていること、何よりこの大型は搬送や搭載がメインだからか輸送艦としての特性が高く、戦闘能力自体はあまり高くなかった。これらの要素が噛み合った結果、ニル・ヴァーナに襲い掛かった防衛システムは程なく全滅することになったのだった。
「ふぅ…」
襲い掛かってきた防衛システムを退けることに成功したシュバルツが分身を収めて一息つく。
「…すっげ」
その戦果を、ある意味特等席で見物することになったバートは半ば呆然としながらぽつりと呟いていた。それはブリッジのオペレーターたちも程度の差はあれ同じである。そんな中、
「こりゃあ…予想以上だね」
驚きながらも戦果に対して適切な発言をしたのがマグノだった。
「はい。勿論、シュバルツの技量の高さがあってのことですが、まさかここまでとは…」
ブザムも追随して頷く。
「こりゃあ、正式に組み込んでみるのも検討しなきゃならないかね」
「確かにそうですが、それを奴が承知するかどうか…」
マグノはまたにやりと笑ったが、ブザムの歯切れは悪い。
「何か懸念があるのかい、BC」
「はい。組み込んだ結果奴に頼りすぎる状況が発生して、万に一つでも先日のメイアが離脱したときのようになったら本末転倒かと。それにシュバルツもやはり単独運用のほうが制約もないでしょう。相変わらず超人的な働きでしたが、それでも大なり小なりドレッド隊に意識が行っていたのか、今までの動きよりほんの僅かですが鈍いような気がしました」
ブザムが今回の戦闘に対する己の所見、意見をマグノに伝えた。
「成る程ね」
「とは言え、副次の策としては十分に機能するのは確認できました。今回はそれで良しとしてはどうかと」
「そうだね。どちらにしろ、色々と利用価値があるのはわかったよ」
「はい。では、シュバルツ指揮下のドレッド隊をメイアたちの援護に向かわせます。シュバルツは念のためこの宙域に待機させます」
「わかった。そうしてくれ」
「はっ」
マグノの了解を取ったブザムが今進言した内容の指示を飛ばす。それに従い、今回シュバルツの指揮下で戦ったドレッド隊が全機、メイアたちの援護に向かったのだった。
(何とかなったか…)
その後ろ姿を見送りながら、シュバルツは今回の戦闘に関する正直な感想を心中で呟いていた。
(やはり、個人戦闘と部隊戦闘は違うな。できぬこともないとは思うが、ガンダムファイターである以上は個人戦闘の方がよほど気は楽だ)
部隊指揮となると、己の判断ミスで部隊構成員の生死が左右されかねない。それはシュバルツにとってはとても大きかった。母や弟の師、そして何より己自身。色々な生命を見てきたシュバルツだけに、他人の生命を預かるということには気が進まないというか二の足を踏むのだった。
(もうこのようなことがなければいいが…)
シュバルツにしては珍しく弱気、後ろ向きな感想を抱きながら、ヒビキたちの援護に向かった今回限りの部下たちに思いを馳せたのだった。
その頃、当のヒビキたちはと言うと、
「見たか、ウータン…」
男が唖然とした表情で自分の艦内で相棒のウータンに語り掛けていた。ウータンも驚愕しながらウキ、ウキと何度も頷いている。その腕の中では今だピョロが目を回しているのはご愛敬というものである。
ではこの二人(一人と一匹?)の驚愕した理由は何なのかと言うと、シュバルツたちの働きではなく目の前のミッションが吹き飛んだことによるものだった。
合体したヴァンドレッド・ディータの両肩のペークシス・キャノンでミッションが跡形もなく四散し、そのことに度肝を抜かれていたのである。まあ当のヒビキたちはと言うと、その前段として合体のモーションをかけるジュラに対してディータが横から搔っ攫い、一悶着あったりしたのだが。だが、そんなことは男たちが知る由もないし、知っていたとしてもどうでもいいことである。
「こいつは、思わぬお宝に巡り合ったみたいだ」
その証拠に、男が不敵に微笑んだ。だが直後に艦を震動が襲う。ミッションを沈黙させても残存戦力が襲い掛かってきたのだ。
「おっと」
それに気づいた男が舌打ちする。そして、
「そろそろいいか…。ウータン、行ってこい」
「ウキ!」
出撃許可の下りたウータンは表情をいっぺんに明るくさせて格納庫へと走った。さっきも一度出してくれとせがんだのだが、その時はまだ早いとストップをかけられていたのだ。解禁となり、欣喜雀躍と言ったところだろう。程なく、艦の格納庫が開いて一体の人型兵器が姿を現す。…まあ正確に言えば、姿を現したそれは確かに人型だが人として見るには大分体のバランスが悪かった。操縦者であるウータンを模したかのような、人よりは猿に近い体躯の人型兵器だった。そして、
「ウッキーッ!」
溜まった鬱憤を晴らすかのように大きな掛け声とともにウータンが両手に握った電車のつり革のようなレバーを思いっきり引く。と、その全身から四方八方にバルカンやミサイルなどの実弾やビーム砲が無数に放出されたのだった。
無数の銃弾は宙域を縦横無尽に駆け巡り次々と敵機を落としていく。だが、
「はぁ…」
男は頭を抱えて渋い表情をしていた。戦果としてみれば十二分以上のものを上げてはいるのだが、その代償としてエネルギーや弾薬は急激に減っていく。そして、
「ウッキ~…♪」
全弾撃ち尽くしたウータンが、堪んねぇ…という感じの恍惚の表情になって大きく息を吐いたのだった。確かに残存戦力は壊滅させたが、その代償はエネルギーや弾薬の全使用である。男が頭を抱えたくなる気持ちもわからないではなかった。そして、
(先客か?)
これまで見たことのない艦と人型兵器の存在を、シュバルツはニル・ヴァーナの近くで確認したのだった。
「やれやれ、せっかくの商売が台無しだよ」
『お互い様だ。そっちに情けをかけたおかげで、エンジンにダメージを受けた。どうしてくれるんだい?』
戦闘後、マグノと男がお互いに通信でやり取りを行う。何しろお互い相手が何者かも知らないのだ。意思疎通ができるのなら情報収集、話し合いをするのは基本と言えた。
「誰に物言ってんだい。あたしらは海賊だよ」
『ほーう、そうかい。じゃ、こいつは捨てても構わないな?』
そう言って男とウータンがスクリーンに映したのは未だに目を回しているピョロの姿だった。
「あ!」
「いっけない! 忘れてた!」
しまったとばかりにディータが口を抑えた。ピョロの姿を見たマグノが渋い表情になる。
「仕方ないね…乗ってきな」
『よっしゃ、商談成立だな。商売させてもらうぜ』
男からの通信はそこで切れた。
「よろしいのですか?」
ブザムがマグノに尋ねる。それに対しマグノはいつもの不敵な笑みを浮かべ、
「ピョロもクルーの一人ってことさ。それに、少しでも妙な真似したら身ぐるみ剥いでやるまでのことさ」
そう、宣言したのだった。そして、
「これあまた…一癖も二癖もありそうな御仁だな」
ヒビキたちと行動を共にせず、一人格納庫で成り行きを見守っていたシュバルツがそう呟いた。かくしてマグノ一家はここにきて、久しぶりの珍客を迎えることになったのだった。