機動武闘伝Gガンダムヴァンドレッド   作: ノーリ

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おはようございます、前回の続き、原作ご存じの方はお分かりのようにあの展開になります。

今回は特にこれ以上書くこともないのでこれにて。

では、どうぞ。


NO.17 自分の言葉

「あの男、何か引っかかりますね」

 

場所は変わってマグノの自室。報告に訪れていたのだろう、ブザムが振る舞われたお茶を嗜みながら、そうマグノに伝える。報告を聞きながら、マグノはお得意のタロット占いをやっていた。勿論、あの男というのはラバットである。

 

「あたしらの星を知ってるね」

 

マグノが一枚カードを引き、それを見ながらそう呟いた。

 

「敵の正体…あるいは」

「敵そのものかも…。『隠者』か…」

 

手札として引いたそのカード。『隠者』を見ながらマグノが呟く。

 

「隠者の正位置。アウトサイダー、探究者…敵か、それとも…」

 

疑念は尽きない。そんな中、ラバットと一番の因縁があるヒビキはこちらも自室にてドゥエロに診察されていた。診察と言っても大した症状ではなく、先ほどモップ掛けしたときに崩してしまった荷物をぶつけたのだろう。額に絆創膏を貼られる程度のものだったが。

 

「ってて…」

 

痛みに顔を顰めるヒビキ。

 

「ラバットのことが気になるのか?」

 

そんなヒビキに、ドゥエロが直球の質問を投げかける。それに対し、ヒビキは何も返答しないがプイッと顔を背けた。

 

「あいつ、結構いいやつだぜ」

 

その傍で簡易ベッドに腰掛けてペレットを食べながらバートがそんな感想を述べる。先日、捕らぬ狸の皮算用を目論んだジュラと密談したときにワインを飲んでいたので、メジェールの食糧事情は理解したものと思われるが、それでもバートにとってはまだこちらが主食らしい。当然のように普通に食している。

 

「皆そう言ってるな。親切だと」

 

ドゥエロもそのバートの意見に追随した。だがヒビキは、

 

「お前らバカか! あいつは口先だけの下衆野郎だぜ! みんな騙されてるんだ!」

 

憤懣やるかたない様子でそう噛みつく。ヒビキ一人だけ完全に、いいようにやり込められてるのだから敵愾心を抱くのも仕方ない。そこに、

 

「商売人であれば、口が達者なのは大事な要素だ」

 

そう口を挟んだのはシュバルツだった。先程ラバットと別れた後で自室に戻る際にヒビキたちを見かけ、流れでこの場に顔を出したのだ。勿論、ただ単に遊びにきたからではなく、ヒビキのラバットに対する態度に懸念を抱いていたからという理由が主にである。そのシュバルツの発言に対し、

 

「オメェまでそんなこと言うのかよ!」

 

ヒビキの激高ぶりは相変わらずだった。だが、その程度の怒気がガンダムファイターとしてトップレベルの実力を持ち、未来世紀の世界で数々の修羅場を潜り抜けてきたシュバルツに通用するはずもない。

 

「マグノたちも目は付けているだろうさ」

 

涼しい顔で返す。そして、

 

「今のお前は駄々っ子と変わらんな。…いや、駄々っ子の方がまだマシか」

 

と、続けてヒビキに厳しい言葉を浴びせるのであった。

 

「んだとぉ!?」

「ミッションで何があったかは知らないが、ただ単に奴が気に入らないから癇癪を起こしているだけにしか見えんがな」

「いやいや、実際その通りでしょ」

 

バートがペレットを食べながらうんうんと頷いた。

 

「だったら何か!? テメェはあいつが信用できるとでも言うのかよ!?」

「まさか」

 

ヒビキの追及にシュバルツは首を左右に振る。

 

「だが、目的がわからん以上はどうにもな。気に入らんから、怪しいからで拘束したり殺したりするわけにもいくまい。尻尾を掴むまではどうにもできん」

「んな悠長なこと言ってられっか!」

 

相変わらず人の話を聞かずムキになるヒビキ。その鼻先に、シュバルツがビシッと人差し指を突き付けた。

 

「うっ…」

 

ただ単に人差し指を突き付けられただけなのだが、その指先から反論を許さないオーラを感じたヒビキがたじろぐ。そして、

 

「んだよ…」

 

精一杯の悪態をついた。そんなヒビキに、

 

「ムキになっても勝てぬものは勝てぬわ」

 

と、冷たく言い放ったのだった。

 

「んだとぉ!?」

「今言ったようにミッション内であの男とお前の間に何があったのかは私は知らん。だが、お前の態度を見るに恐らく奴にいいようにあしらわれたのだろう。そして、あしらわれたということはそれが今の実力差ということだ。それを認められずに突っかかっても、同じことを繰り返すだけのこと」

「ッ! テメェ!」

 

挑発された形のヒビキがカッとなって思わず殴り掛かった。だが、そんな見え見えの攻撃がシュバルツに当たるはずもない。フッと姿を消すと、

 

「バカ者が」

 

という蔑むような一言がヒビキの耳に入り、直後に視界が上下反転して手近の壁に背中から叩きつけられたのだった。

 

「ぐわっ!」

 

思わぬダメージを喰ったヒビキがゲホゲホと咳きこみながらシュバルツを睨んだ。

 

「うわ~、痛そう…」

「今日はいつになく辛辣だな」

 

ヒビキの姿にバートが顔を顰め、ドゥエロはいつものように冷静な口調でシュバルツに目を向けた。

 

「真っ直ぐなのは悪いことではない。だが、何でもかんでもそれでどうにかなるわけがない。それでも我を通そうと思えばこういうことにもなりうる。それだけのことだ」

「成る程」

 

理解したようにドゥエロが頷く。シュバルツの今言った言葉はヒビキの耳にも届いているだろうが、それでも納得できないのか鋭い視線は緩まない。

 

(全く…)

 

そしてその姿は、やはり弟を思い出させた。

 

(まさかこんなところでドモンとオーバーラップする存在に遭うとはな…)

 

神の悪戯か、それとも悪魔の采配かと思わないでもないシュバルツだったが、己の身の上を考えれば悪魔の采配と言ったところだろうか。と、そこに、

 

「号外ケロ~。聞きたい聞きたい?」

 

ある意味ニル・ヴァーナの大多数の厄介ごとの主とも言えるパイウェイがいつも通り、カエルのバッグで腹話術しながら現れたのだった。

 

「ウルセェ! 後にしろ、後に!」

 

虫の居所が悪い上にシュバルツにまで諭され、あしらわれたこともあってヒビキが癇癪を起こす。だがパイウェイは委細構わず、それどころか煽るように、

 

「いいのかな~? ディータとラバットのことケロ~」

 

と、伝えたのだった。では、その話題に上った二人はどうしているかと言うと、

 

 

 

「ダメ!」

 

格納庫。ヒビキのヴァンガードの前に立ち、ディータは手を広げて拒絶していた。

 

「宇宙人さんの大事な相棒さんなのよ!」

 

目の前の人物をキッと睨みつける。だがその人物…ラバットは気にする様子もなくディータと距離を詰めた。

 

「ちょっと見るだけだよ」

「ダメ!」

 

再びの拒絶の言葉にラバットの顔からスッと表情が消えた。そして、

 

「どきな」

 

今までとはまるで違う、冷たい一言をディータに吐き捨てたのだった。そのプレッシャーに思わず怯むディータ。

 

 

 

「ッの野郎!」

 

二人がそんな状態だということをパイウェイ経由で知ったヒビキが走り出す。その後ろ姿を見送るドゥエロ、バート、パイウェイにシュバルツを加えた四人。と、

 

「おい、どう思う?」

 

不意に、バートが口を開いてそんなことを言った。その口調からは現状を楽しんでいる色がありありと感じて取れた。そのため、

 

「どっちを気にしているか…ってことか?」

 

その意図を正確に汲み取ったドゥエロがそう尋ねた。

 

「ああ。ディータか蛮型か」

「ああ、それいただき♪」

 

いいネタを拾ったとばかりにパイウェイがグッと指を上げる。そんな三人を尻目に、

 

「やれやれ…」

 

シュバルツは仕方のない奴だとばかりに一つ息を吐いた。そして、自身も歩を進める。その背中に、

 

「ヒビキのこと、よろしく頼む」

「派手なことになんないように、おなしゃ~す」

 

ドゥエロとバートが声をかけた。それに対し、

 

「まあ、善処はしよう」

 

それだけ返すと、ヒビキの後を追ってシュバルツも彼らの自室を出たのだった。

 

 

 

「ムキになるなよ」

 

二人…ヒビキとシュバルツが向かった格納庫では、威圧感を漂わせながらラバットがディータを見下ろしている。そしてそのまま、その頬に手を当てた。

 

「お前アイツの、何なんだ?」

「何って…」

 

質問の意図がわからず、返答に窮するディータ。

 

「アイツはお前のことなんざ、何とも思っちゃいねえよ。それどころか、女は皆敵だと思ってるのさ」

 

ラバットの指摘にディータの瞳が揺らぐ。

 

「さ、そこをどいてくれ」

 

そのまま顔を近づけていき、どういうつもりかディータに口づけをしようとするラバット。そこに、

 

「その手放せ!」

 

ヒビキの声が響いたのだった。

 

「宇宙人さん!」

「チッ」

 

ヒビキの救援に歓喜の声を上げるディータ。それとは対照的に、ラバットは忌々し気に振り返った。

 

「ったく、良いところだったのによ! 野暮な坊やだぜ!」

「坊やじゃねえ! テメェ、何処に目えつけてやがる!」

 

そう返したヒビキにラバットはモノクルのグラスを外すと、

 

「ここと、ここー」

 

己の両眼を指差した。

 

「こんのぉ…」

 

本当に挑発に乗りやすいというか耐性がないのだろう。ヒビキが額に青筋を立てながら唸った。

 

「テメェみたいな奴が同じ男だと思うと虫唾が走るぜ。とっとと出てけ!」

「イヤだと言ったら?」

「力づくでも放り出す!」

 

ヒビキを相変わらず適当にあしらうラバットだったが、その一言を聞いて表情が変わった。

 

「面白れぇ」

 

雰囲気を一変させ、ヒビキに近寄るラバット。その雰囲気に中てられたのか、それとも単なる怒りか、ヒビキの身体が小刻みに震えていた。そして、

 

「だああああっ!」

 

気合と共にラバットに向かって突っ込む。だがその直後、ラバットのかけているモノクルのグラスが激しく光った。

 

「っ!」

 

まともにそれを見てしまったヒビキが思わず目を閉じる。その直後、ラバットの左膝がヒビキの鳩尾に入っていた。

 

「がっ…」

 

ラバットに寄りかかる形で力なく崩れ落ちるヒビキ。

 

「ひ、卑怯も「あーん? よく聞こえねえな」」

 

ヒビキを小バカにするように耳をほじくりながらラバットが揶揄する。そして、左手をヒビキの頭に乗せて腕一本でその身体を持ち上げた。

 

「大体そりゃあ、オメェのルールだろ? 俺のルールじゃねえ」

 

まだ初撃のダメージが残っているのだろう、反論もできずに苦痛に歪むヒビキ。そんなヒビキを尻目に、ラバットは右拳を握って振りかぶった。

 

「誰に吹き込まれたか知らねえが、借りもんのセリフでテメェを語るんじゃねえ!」

 

そのまま右ストレートをヒビキの顔面に食らわせる。良い一撃をもらったヒビキは派手に吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

「喧嘩ぁ!?」

 

素っ頓狂な声を上げたのはブザムだった。いつものブザムから出すとは思えない声色は、それだけ通信の内容が予想外だったからだろう。

 

『お願い、誰か助けて! 宇宙人さんが死んじゃう!』

 

涙目になりながら必死に助けを求めてきたのは勿論ディータ。指示を仰ぐように、ブザムが後ろを振り返った。が、

 

「ほっときな」

 

マグノから返ってきたのはディータの望まぬ返答だった。だがマグノは躊躇うことなく続ける。

 

「男ってのは身体で色んなことを覚えていく生き物なんだからさ。…そうだろ?」

 

窺うようにマグノがブザムに視線を向ける。それに対しブザムも、

 

「了解」

 

と、一言返して終わった。そしてその喧嘩の当事者のヒビキとラバットだが当の喧嘩はまだ続いている。いや、喧嘩というより今のところは一方的なリンチといった方が正しいかもしれない。

 

「ぐはっ!」

「他人の仕掛けに乗せられて悟った気になってる奴ほどおめでたいもんはねえ」

「ぐっ…」

 

壁に叩きつけられたヒビキはズタボロになりながらも刺すような視線だけはそのままにラバットを睨み続けている。

 

「上っ面だけ真似たって、すぐに化けの皮が剝がれちまう。テメェみてえにな!」

「! うるせえっ!」

 

タックルを仕掛けるもののこれまでのダメージが蓄積されたのかラバットの足にしがみつくような形になってしまった。ラバットは面倒くさそうに息を吐くとヒビキの頭を無造作に掴んで己の足から引き剥がし、そのまま床に叩きつけた。

 

「本当に強い奴ってのは、テメェの言葉で啖呵切るもんだ。百万の格言よりもな!」

 

もう既にグロッキー状態のヒビキをラバットは容赦なくボコボコにしていく。傍から見ればただのリンチにしか見えないが、それでもその言葉の節々で諭すようなことを言っているのは不思議だった。だが、そんなことはこの状況下では些細なこと。物音を聞きつけたのだろうか、格納庫の入口では野次馬状態のクルーがハラハラした表情で二人の喧嘩を見ている。普段クルー同士で喧嘩することもあるだろうが、女同士ではここまで血なまぐさい本格的な殴り合いなどすることもなく、完全に固まっていた。と、

 

「やめてぇ!」

 

それでもどうにかしないといけないと思ったのか、ディータが叫ぶ。それに対し、ラバットは皮肉気な笑みを浮かべていたが次の瞬間、

 

「ぐわあああああっ!」

 

初めて悲鳴を上げた。ヒビキがその足に噛みついていたのだ。ボコボコにやられていたヒビキが、初めてやり返すことのできた有効打だった。当然手加減なく嚙みついたからか、ラバットが悲鳴を上げながら悶絶して尻もちを着く。

 

「宇宙人さん!」

「この、クソ、ガキィ! 放せ!」

 

苦悶の表情を浮かべながらラバットが自由になるもう一方の足をヒビキの顔面に押し当てて圧力をかける。負けじと抵抗するヒビキだったが、体格の差やこれまでのダメージの蓄積もあって吹き飛ばされ、ズボンの裾を嚙み千切るにとどまった。

 

「宇宙人さん! 大丈夫、宇宙人さん!? きゃあっ!」

 

慌ててヒビキの許に近寄ったディータだったが、憤懣やるかたないラバットはそのディータを蹴り飛ばした。そしてそのまま、ヒビキの顔を踏みつける。

 

「このガキ!」

 

そのままその顔を踏み潰すようにグリグリと足に力を入れていくラバット。ヒビキも引き剥がそうとその足に手をかけるものの、いかんせん体格差、これまでのダメージの蓄積でそれが叶うわけもない。

 

「ぶっ殺してやる!」

 

憎しみのこもった眼で物騒な言葉を吐いた直後だった。背後から羽交い絞めをされたのは。

 

「!?」

「そこまでだ、客人」

 

振り返るとそこにはいつの間にここに姿を現したのか、自分を羽交い絞めしているシュバルツの姿があった。

 

「旦那…」

 

シュバルツの顔を確認したラバットは一転、こわばった表情が収まっていく。

 

「格下相手に文字通り噛みつかれてカッとなったか? らしくもないな。周りを見てみろ」

 

その言葉通り頭を冷やして周囲に視線を走らすラバット。遠巻きにニル・ヴァーナのクルーが自分たちを取り囲み、そしてその視線は一様にラバットを非難するものだった。

 

「……」

 

状況を確認したラバットもこれ以上は無理だと判断したのだろう。ゆっくりとヒビキから足をどける。直後、ヒビキは糸が切れたかのように気を失った。それを確認したシュバルツも拘束を解く。

 

「宇宙人さん!? しっかりして!? 宇宙人さん!」

 

慌ててディータが駆け寄るとヒビキを抱きかかえる。そこに、

 

「お嬢ちゃん」

 

ラバットが頭上から声をかけた。条件反射的にディータがラバットを見上げる。

 

「そいつが目を覚ましたら言っときな。次に会うときは、テメェのセリフで語れってな」

 

それに対してディータは返答することなく、涙目になりながらラバットを睨み返した。

 

「やれやれ、とんだ憎まれ役だぜ…」

 

その視線が今自分がここにいる他のクルーから注がれているものと同じであると気付いたラバットが、肩を落としてゲンナリしながら大きく息を吐いたのだった。そして、

 

「ウータン、帰るぞ」

 

ウータンに通信を入れながらすたすたと歩き出す。その背中を、他のギャラリーと同様にシュバルツも黙って見送った。

 

「宇宙人さん…」

 

ラバットがこの場から去った後でディータが心配そうな声をかける。しかしヒビキはついぞ目を覚ますことはなかったのだった。

 

 

 

 

 

「ラバット艦、離脱します」

 

ブリッジ。アマローネが報告を入れる。あの後無事(?)ウータンを回収したラバットはニル・ヴァーナとの接舷を解除して発進した。そのラバット艦に対し、

 

「パルフェ、エンジン全開! 海賊流で行くよ」

 

マグノがそんな指示を出し、ニヤリと笑った。直後、ニル・ヴァーナが加速してラバット艦を追撃する。

 

「すごい、すごい! 通常稼働率の五倍だわ!」

「来てる、来てる、来て~る、来てる!」

 

機関室ではラバットから購入したパーツを組み込んだシステムの好調さにパルフェが悦に入りながら悶え、操縦システム内のバートもそれを感じるのか楽しくて仕方ないという表情をしていた。そして、

 

「逃がさないよ。身ぐるみ、剥がしてやる」

 

マグノがラバット艦を見据えながらそう宣言したのだった。先ほど自分が言ったように海賊流のやり方だからか、それともああは言ったもののヒビキに対する落とし前をつけさせるためかわからないが、とにもかくにもマグノはラバットをターゲットとして追撃を開始したのだ。一方、ラバット艦では、

 

「あのペークシスプラグマ…気になるな…」

 

腕を組み、指をトントンとさせながらラバットがニル・ヴァーナの機関室で見たペークシスを思い出す。そして、

 

(それに、あの男だ)

 

ラバットはシュバルツの姿を思い浮かべていた。

 

(地球を知ってる…。あのヤロー、一体何者?)

 

思考の海に沈もうとしたラバットだったがそれは許されなかった。操縦をしていたウータンがウインドウに追跡してくるニル・ヴァーナを表示したからだ。

 

「ウキッ! ウキキッキッ!」

「あーん?」

 

ウータンに声をかけられて思考から戻ってきてたラバットが、ウインドウに表示されてこちらを追撃しているニル・ヴァーナを確認する。

 

「ふん」

 

だがラバットは取り乱すこともなく鼻で笑った。それが合図となったわけでもないだろうが、システムが直後にダウンする。

 

「え!? 何!? どうしたの!?」

 

予想外の事態に驚きを隠せないパルフェ。直後、システムに連結している回路がショートして煙を吹いてダウンした。となると当然、航行も不能になる。ニル・ヴァーナは急速に速度を落として宇宙の海に停止したのだった。

 

「おーい、何やってんだ機関室!? 逃げられるぞ!?」

『よくわかんないけど、例のシステムがパンクしたみたいなのよ!』

 

絶好調でラバット艦を追っていたバートが急な停止に慌てて通信を開く。それに対し、パルフェは煙で咳きこみながら現状を返答するしかなかった。

 

『きっと不良品だったんだわ。誰かクレームつけてよぉ!』

 

続いてのパルフェの返答はブリッジでも聞こえていた。

 

「やられたね…」

 

マグノがギリッと歯を鳴らす。一方で、

 

「アバよ~、お嬢さんがた♪」

 

ラバットは仕込んでいた爆弾が予想通りに弾けてくれたことで得意満面の笑みを浮かべながらサムズアップし、祝杯とでも言いたいのだろうかシュバルツからいただいたボトルを開ける。ウータンもニル・ヴァーナのクルーを嘲笑うかのように笑いを繰り返しながら、そのまま高速で宙域を離脱したのだった。

 

 

 

 

 

まんまとラバットに出し抜かれて取り逃がしてから暫くした後、ヒビキの姿はテラスにあった。負けたこと、散々痛めつけられたこと、何もできなかったことなど色々とあり、又思うところもあったのだろう。地面に腰を下ろしてガックリとうなだれている。そんなヒビキを遠目から心配していたディータが声をかけようと一歩踏み出そうとするが、不意にその肩に手が置かれた。

 

「あっ」

 

思わず振り返ると、そこにはドゥエロの姿があった。

 

「こういう時の男は、そっとしておくものだ」

「ん…」

 

ディータには今のドゥエロの言葉の意味がハッキリとは分からなかったが、それでも何となくは察することができたのか小さく頷く。そして、ドゥエロと共にテラスを後にした。

 

「……」

 

テラスを流れる小川のほとりに胡坐をかいて座り、佇むヒビキ。ドゥエロの処置を受けたものの、その顔はボコボコにはれ上がって痛ましいものだった。と、

 

「気にすることはない」

 

不意に、近場から声がする。それはメイアのものだった。

 

「あの男は詭弁を弄したに過ぎない。所詮は詐欺師の戯言だ」

「いや…」

 

慰めに、ヒビキが重い口を開く。

 

「俺が甘かった。卑怯だろうが何だろうが、あいつが本気だったら俺はとっくにおっ死んでた。…悔しいけど、今の俺に俺自身の言葉はねえ。借り物の言葉しかねえんだ」

 

そこで俯いていた顔を上げる。

 

「俺が俺自身の舞台に立った時、どんなセリフを吐くんだろうな…。楽しみでもあっけど、薄ら寒いよな。どう考えても、喜劇にしかなんねえよ」

「それがどんな無様なセリフでも、嘘偽りのない心の叫びなら誰も笑ったりしない。少なくとも、私はな」

 

ヒビキがはれ上がった顔で振り返る。だがそこには、もうメイアの姿はなかった。そして、

 

「……」

 

二人から離れた物陰にもう一つの影があった。シュバルツである。ヒビキの様子を窺っていたが、その結果としてメイアとの会話まで聞くことになったのは予想外だったが。

 

(この分なら問題ないか)

 

二人の…というより、ヒビキの吐露した心中にそう判断すると、シュバルツはテラスを去る。そして、自室に向かって歩いているときだった。

 

「ねえ」

 

不意に横から声をかけられる。

 

「ん?」

 

シュバルツが振り返ると、そこにいたのはジュラとバーネットだった。だが、いつもの二人とは少し雰囲気が違う。

 

(ほぉ…)

 

その雰囲気を瞬時に読み取ったシュバルツが、

 

「何だ?」

 

と、答えた。すると、

 

「少し話があるの」

「付き合ってちょうだい」

 

二人がそう言う。言葉こそそのような内容だったが、その口調からは拒否は許さないといった色が見えた。

 

「いいだろう」

 

それを理解したからというわけでもないが、シュバルツは了承する。そして三人はその場から歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

三人に連れられてやってきたのは格納庫である。その隅に移動した四人。すると、ジュラが突然壁ドンした。まるで逃げ道を塞ぐかのように。

 

「聞きたいことがある」

 

が、質問をしてきたのはメイアだった。ここに来るまでの間にバーネットが通信を入れ、メイアが合流していたのだ。

 

「何だ?」

 

ジュラやバーネットと同じ雰囲気であることを感じたシュバルツがメイアに尋ね返す。

 

「単刀直入に聞こう。シュバルツ、お前、ヒビキがあの男にやられているときに止めに入ったが、そのタイミングを見計らっていたのか?」

(ふむ…やはりか)

 

彼女たちの雰囲気、そしてその表情から、彼女たちが聞きたいことが自分が考えていることから当たらずとも遠からずだったことがわかり、シュバルツが内心で首肯した。

 

「何故だ?」

「質問に質問で返さないでくれる? 聞いてるのはこっちなんだけど」

 

ジュラが詰める。が、元からすんなり口を割るとは思っていなかったのか、バーネットがシュバルツの疑問に答える。

 

「残りの男たちがちょっと口に出してたのが耳に入ったのよ。あまり間を置かずに追いかけたのに、どうしてあんなにボコボコになってるんだって」

「成る程な」

 

何故その辺りを知っているかを理解したシュバルツが頷いた。

 

「で、どうなんだ?」

 

メイアが再度尋ねる。シュバルツは一度三人を見据えると、

 

「確かに」

 

否定することもなく、そう頷いた。そしてその返答を聞いた瞬間、三人の雰囲気がまた変化する。眼差しもシュバルツを咎めるような、非難するようなものに変わった。

 

(まあ、当然の反応か)

 

雰囲気の変わった三人を見てそう思う。だが同時に、

 

(メジェールの連中がタラークの男に対する態度とも思えんがな)

 

そうも思っていた。タラークとメジェールの因縁がどれほど深いのかはシュバルツにはわからないが関係性は理解したつもりでいるため、彼女たちの態度に思うところはあった。だが、当然のようにそれは口に出さない。と、

 

「何故だ?」

 

メイアが尋ねた。

 

「ん?」

「何故すぐに止めなかった」

「タイミング見計らってたって…?」

「趣味がいいとは言えないわよ」

 

メイア、ジュラ、バーネットの三人に次々に非難される。つくづくメジェールの女がタラークの男に対して取る態度だとは思えないが、これまでの航海は彼女たちの心境にもハッキリとした変化を生んでいるらしい。

 

(朱に交われば赤くなる…といったところか。もっとも、指摘したところでハッキリとイエスとは口が裂けても言わんだろうがな。今はまだ…な)

 

こういう変化が発生することを殊更望んだわけではないが、それでも男女の本来あるべき姿に少しずつでも近づいていることは喜ぶべきなのかそうではないのか判断に悩むところだった。と、

 

「何とか言ったらどうなんだ?」

 

メイアの視線が鋭くなる。何も反論してこない、意見を言ってこないシュバルツに少し苛立ったのだろう。

 

(おっと)

 

いかんいかんと内心で首を振り、シュバルツは自分の正直な思いを述べることにした。

 

「止めたところですんなり止まると思うか、あの猪が?」

「猪って…」

「ぶふっ!」

 

ヒビキを端的に比喩した表現にジュラが思わず表情を崩してしまった。バーネットも噴き出して小刻みに肩を震わせる。それだけヒビキを的確に表しているとも言えるが。

 

「だとしても、だ」

 

二人とは対照的にメイアは表情を崩すことはない。もっとも、内心では爆笑しているかもしれないが。だが少なくとも、表面上は変化はなかった。

 

「あれだけボロボロになるまで放っておく必要はないだろう」

「安い挑発に乗ったのは奴だ。喧嘩を吹っ掛けたのもな」

「確かにそうだけど…」

「手を出す以上は返しがあるのは当然のこと。そこを理解せずに喧嘩を吹っ掛けたのであれば自業自得というものだ。それに…」

「? それに?」

「やりあう前、あるいはやりあってすぐに止めたところで奴は納得はしないだろう。負けを前提で喧嘩を吹っ掛けるわけないのだからな。己の行動が導いたことに対する結果の責任はある程度は身をもって知ってもらう必要はある。それだけのことだ」

『……』

 

そこまで言われて三人は黙ってしまう。シュバルツの言わんとしていることはわかるし何となく理解はできるのだが、一方で上手いこと宥めすかされて煙に巻かれているような気にもなっているからだ。

 

(納得はせんか…)

 

三人の表情からそれが手に取るようにわかったシュバルツだったが、仕方ないなとも思っていた。だが、先ほどから感じているがヒビキの受けた仕打ちに対してこういった感情をシュバルツに向けるということがメジェールの女にとってどういうことなのか…。無意識だとは思うが、それは確実な心境の変化だった。そして、それを起こしたのは、起こしているのは間違いなくヒビキである。

 

(そういう意味では、あの無鉄砲さは少し羨ましくはあるがな)

 

色々と経験し過ぎた自分にはもう二度と踏み込めない領域である。今回ヒビキの起こした騒動はとても手放しに誉められたものではないが、それでも少しだけその無鉄砲さがシュバルツには羨ましかった。そんなことを考えていたシュバルツだったが、

 

「もういいか?」

 

不意に、目の前の三人にそう尋ねた。シュバルツの指摘に固まっていた三人だったが、そう言われて呪縛が解けたかのようにハッとなった。そして、無言でお互いがお互いの顔を見合わせる。

 

(どうする…?)

(どうするって…)

(どうしよう…?)

 

実際の彼女たちの内心はわからないが、その表情からまるでそんなアイコンタクトをかわしているかのようだった。少し待ったが誰もアクションを起こさないので、シュバルツは壁ドンしていたまま自分を遮っているジュラの腕を掴む。

 

「! ちょ、ちょっと、何すんの!?」

 

いきなり自分の腕に触れられたジュラが驚いて文句を言った。

 

「もう用はないようなのでな、私は戻る。それにはこの腕が邪魔だったのでな」

「そ、それならそう言えばいいじゃない!」

 

ジュラがムッとした表情で文句を言った。

 

「言えば引っ込めたのか?」

「引っ込めたわよ!」

「そうか。それは失礼をしたな」

 

シュバルツが軽く頭を下げた。ジュラの言っていることが本当か嘘かはわからないが、本人がそう言っている以上はそうなのだろう。それに、こんなことで問答しているのもバカバカしいことだ。と、

 

「ふ、ふん! わかればいいのよ」

 

相変わらずの態度でそっぽを向くジュラ。態度はいつもと変わらないものの、その表情は赤かったりする。あまりにも素直にシュバルツが矛を収めたので振り上げたこぶしの落としどころがないのだろう。そうとわかったシュバルツがジュラたちにわからないように少しだけ微笑んだ。

 

(やれやれ、面倒な連中が多い艦だな)

 

そうは思ったものの、そんなことを馬鹿正直に言えばまた面倒なことになるのでそれは胸の内に秘めた。そして、

 

「では、失礼」

 

と返すと、シュバルツはその場を去った。

 

『……』

 

その後ろ姿を三人は無言で見送る。かける言葉も引き留める理由もなくなってしまい、そうするしかできなかったと言う方が正しい表現かもしれないが。

 

(さて…)

 

そして三人に見送られる形になったシュバルツはある場所に向けて歩を進める。こうして、闖入者を迎えたことによる今回の一波乱はここに幕を下ろしたのだった。

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