では、どうぞ。
予期せぬ闖入者との出会いと別れがあってから数日後。今までの日常を取り戻していたニル・ヴァーナは再び着陸が可能なとある惑星の宙域にいた。
「表面の99%が水で覆われた海洋惑星です。窒素と酸素を主とする大気もあり、人が住める条件は満たしていますが」
作戦室。その惑星について収集して得た情報をブザムがマグノに説明している。ブザムの説明通り地表のほとんどを海が覆っている中、収集した画像に移っていたあるものがその目に留まる。拡大してみると、それは人工島のようだった。
「島が見えます。住民はヒューマノイドのようです。海底に、植民船らしき残骸の反応もあります」
「フフ…お仲間に挨拶しておくかねぇ」
居住者の存在を知ったマグノが、良く見せる海賊の頭領の口調になった。その意思に従うかのように、ニル・ヴァーナは惑星へと舵を切る。眼下に見える一面青の綺麗な世界に、ブリッジのクルーたちが喜びの歓声を上げた。
「綺麗な星…」
ベルデウェールが感極まったように呟く。そこに、それとは真反対の無粋な警告音が響いた。
「何だ?」
「星の反対側に敵機!」
『に、逃げましょう!?』
エズラの報告にバートが平常運転の反応を返す。が、ブザムはそれを黙殺し、
「数は?」
と、エズラに尋ねる。
「キューブタイプが十数機と…何か、変な機械が見えます!」
エズラの報告通り姿を現したのは、いつもの一番小さなやられメカ…キューブタイプという呼称の敵機と、そして、チューリップのつぼみを思わせるような巨大な機械だった。
「何だ、ありゃあ!?」
ここに来ての初めて見る敵、そしてパッと見どのような性能のなのかもわからないその新型に、マグノが思わずそう口に出して驚いていた。彼我は互いに距離があったが、その距離が詰まったことによってキューブタイプがニル・ヴァーナを察知したらしくいつものように襲い掛かってきた。
「よっしゃー!」
敵の近接、襲来を知ったヒビキがいつもの如く格納庫へ駆け出した。が、その意気込みは自室を出た直後にいきなり挫かれてしまう。というのも、廊下にいきなり眩いばかりの光源が点灯したからだ。
(な、何だぁ…?)
突然の事態に驚きながらも手をかざして光を遮るようにしながら正面に目を向けた。と、
「オホホホホホ…」
その光源の中心で高笑いを上げている人物がいた。ジュラである。その横にはいつも通りバーネットの姿があり、ハンディカメラを片手に構えている。そして、
「来たわね」
と、片手を腰に当てながらジュラは空いているもう一方の手でヒビキをずびしと指差した。
「いいこと? 今度という今度こそ、ジュラと合体するのよ!」
「……」
相変わらず手をかざしたままだが、何が起こっているのか理解したヒビキは何も答えない。だが一方でジュラは演出や言いたいことを言えたことに満足したのかご満悦である。
「どう? 決まったでしょ?」
「バッチリ!」
バーネットがサムズアップしたが、その二人とは反比例するかのようにヒビキは一息吐くと、
「バカバカしい…」
と、呆れたように口にして別の経路へと足を運んだのだった。
「え!?」
半分無視された形になったジュラが青筋を立てる。
「ちょっと! 話はまだ終わってないわよ! ーっ! こうなったらバーネット、セカンドステージよ!」
「わかってるわよ」
ご心配なくとばかりにバーネットが肩を竦めた。実に付き合いがいいというか面倒見のいい人物である。
「くそっ! 出遅れちまった!」
ジュラとバーネットによる妨害工作(?)によって出撃が遅れたヒビキがようやく戦線に加わる。だが敵も学習しているのか、それともヒビキの行動が読みやすいのかブレードは空を斬り、逆にキューブタイプの突撃を食らった。
「ぐおっ!」
突撃を食らった余波で大気圏に放り込まれそうになったが、そこを一機のドレッドが助ける。
「どぉ? 合体する気になった?」
ジュラだった。いつの間に戦線に加わったのかは知れないが、あの場から機材を撤収して戦列に加わったのだから大した早業である。にしても、無理やり合体しようとしないあたり、そういった分別は持っているのだろう。派手好きで目立ちたがり屋ではあるわりには意外である。
「テメェ!」
助けられたのが気に食わなかったのか、合体に固執するのが気に入らないのかはわからないがヒビキが先ほどのジュラと同じように青筋を立てた。と、
『宇宙人さん、危ない!』
ディータから通信が入ってきたのとほぼ同時にキューブタイプの突撃を再度被弾する。そこに横から入ってきたのはディータのドレッドだった。
「合体するなら、ディータと。ね♪」
救援したのはいいのだが、言うことはジュラと変わらない。
「ったく、どいつもこいつも!」
それが癇に障ったのか、癇癪を起こしながらその宙域を離脱し、
「しつけえんだよ!」
と、単機でキューブタイプに斬りかかったのだった。
(あの連中は全く…)
少し離れた宙域で同じように敵と相対していたシュバルツが、ヒビキを中心に自己主張するジュラとディータの様子に呆れている。
「いいのか?」
思わず通信を開く。相手先はメイアだ。
『何がだ』
同様に敵に対処しながらメイアが答える。
「あの連中だ」
シュバルツがヒビキ、ディータ、ジュラの機体の映像を送った。
「状況を弁えて行動しているとは思えんが」
『わかっている。だが三人とも、己の任務は遂行している』
「あの痴話喧嘩状態でか?」
『確かに褒められたものではないが、それでも戦果を挙げているのであれば問題ないだろう』
「そうだが…」
(あの様子がこのまま続くようでは、いずれ足元を掬われかねんと思うが…)
シュバルツとしては懸念がある。それに気づいたのだろう、メイアが軽く口元を歪めて、らしくない意地の悪い笑みを浮かべた。
『心配なら、お前が援護に行ってやってはどうか?』
「冗談はよせ」
キューブタイプをメッサ―グランツで撃ち落としながらシュバルツが呆れたように溜め息を吐いた。
「合体の件で揉めているのに、その意味では全くの部外者の私が無理やり仲裁に入っても収まるわけはないだろう」
『なら、黙って見ているのだな』
『そうそう』
不意に通信に割り込んできたのはバーネットだった。
「バーネットか…。ジュラのお守りではなかったのか?」
『やだ、やめてよ。確かによく一緒にいるけど、別に四六時中一緒ってわけじゃないんだからさ』
「まあ、それもそうだな」
頷いたシュバルツに、
『ジュラの方も半ば意地みたいになってるから、外部からの仲裁なんて納得しないと思うわ』
「つまり、傍観に徹していろと?」
『そういうこと。気が済めば元に戻るわよ』
「……」
流石にジュラとの付き合いが一番長く深いからかバーネットはよくジュラの性格をわかっているようである。
(もっとも、多少はその我儘な性格に辟易しているからこその、突き放した発言ともとれるが…それは邪推というものか)
それほど長く深く二人と交流したわけではないが、それでもジュラとバーネットの相性の良さ、お互いのお互いに対する信頼というものは感じ取れる。それを考えればジュラのことを最もよく知るバーネットの言に従うのが最善なのだろう。
(ただの杞憂になってくれればそれにこしたことはない…か)
そう結論付け、
「わかった」
と、シュバルツはバーネットに返した。
「バーネット、お前がそこまで言うのならばそれに従おう」
『理解してくれてありがと』
『話は決まったな。では、我々は我々で敵を叩く。お喋りはここまでだ』
「承知」
『オッケー』
そしてメイア、バーネット双方との通信が切れた。その後は引き続きカリトリ部隊との戦闘を続行する。
(しかし…)
戦闘を継続しながらシュバルツは先ほど会話をかわした二人…メイアとバーネットに視線を向ける。この二人も相性は良いのか他の隊員たちよりも戦果を挙げているが、それよりも気になったのは何気なくこちらを支援してくれていることだった。
勿論傍目にもわかる形のあからさまな支援ではないが、何気ない敵への牽制や弾幕を張るなかでその効果がガンダムシュピーゲルにも及ぶようにするなど、それとない支援をこちらに向けてくれていたのだ。
無論、実際のところシュバルツにはそんな支援など必要ないのだが、それでもそんなことは関係ないとばかりに支援を向けている。
(ここまでの航海で、やはり確実に心境に変化が起こっていると考えていいのだろうな)
先日のラバットの一件でヒビキとラバットの喧嘩に早々に仲裁に入らなかったことを責められたことを思い出す。そもそも、明確な理由も説明されていないのにお互いがお互いを敵として教育されたのだ。その固定観念に凝り固まってしまってはどうしようもないが、そうでなければ共に過ごすうちに互いの行動や言動によって蟠りが氷解しても不思議ではない。逆に悪化することもあり得たが、どうやらニル・ヴァーナでは今のところそうはなっていないようだ。その結果が、この今ということなのだろう。特にメイアの頑なさを知っていれば、隔世の感があるとも言える。
(せっかく良化したのだ、また悪化はさせたくないものだな)
そう考えながら、メイアとバーネット、それと彼女たちに率いられるドレッド―チームにシュバルツは目を向けたのだった。一方、シュバルツが懸念したヒビキたちはと言うと、
「にゃろぉ…逃げ方覚えやがったな」
自分の攻撃がかわされる回数が多くなり、同時に被弾する率も多くなったことで、ヴァンガードのコックピット内のヒビキが忌々し気に吐き捨てていた。その状況はブリッジでも当然モニタリングできている。
「敵の動きが、以前に比べてよくなっているようです」
「こっちの手の内を読んでいるのさ。イヤな敵だよ…」
ブザムの指摘にマグノが辟易しながら答えた。そこに、
『みんな聞いて!』
突然、ジュラから通信が入る。
「ジュラ?」
何事かと、ブザムが珍しく首を捻った。
『今日こそ、あたしの華麗な変身を見せるわよ』
「はぁ…また始まった」
ジュラの宣言にアマローネがうんざりといった表情で溜め息をつく。そこに、
『勝手に決めんな! 誰がオメエなんかと合体するかよ!』
ヒビキが割って入ってきた。あまりにもハッキリした否定に再度ジュラの額に青筋が立つ。その間隙を突かれたのか、ニル・ヴァーナが被弾した。
「っ! 真面目にやれぇ! 遊んでる場合か!」
操縦システムと融合したバートが文句を言う。いつもおちゃらけているイメージの多いバートだが、この場ではその発言に理があった。カリトリがこちらを学習しているのだから、撃退に今まで以上に手間がかかるのは当然なのである。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
予想外に敵を撃退するのに手間がかかり、ヒビキがヴァンガードのコックピット内で肩で息をし始めた。そこに、ディータの悲鳴が通信を通して入ってくる。一機のキューブタイプに執拗に追撃を食らっているようだった。
「っ!」
どうすると考えようとするが、そんな暇はなかった。
『よそ見するな!』
すぐにメイアから通信が入ったからだ。ハッとして周囲を見ると既に遅く、自分を囲んでいる三体のキューブタイプ。そして、次々にそれがヴァンガードに取り付いた。
「ぐっ!」
短く呻き声を上げたヒビキを墜落させるかのようにそのまま大気圏へと突っ込んでいく。
「宇宙人さん!」
ディータが逆にヒビキの救援に向かおうと何とか自分を執拗に追跡しているキューブタイプを振り切ろうとする。だが、新たなキューブタイプの敵の攻撃を食らい、進路を変えざるを得なくなった。
「もう! 宇宙人さんに近づけないよぉ!」
『ディータ、前だ!』
「えっ!?」
メイアの指示で前方から飛来してきたキューブタイプを何とかかわしたものの、同時にヒビキとの距離は離れる。その間隙を縫うかのようにジュラのドレッドがヒビキへと向かう。
「ジュラ!」
「大気圏に突入します!」
メイアが制そうとしたものの効果なく、エズラからの報告にマグノとブザムが渋面を作った。そしてヒビキのヴァンガードはと言うと、大気圏との摩擦熱で機体が熱を持ち始める。それを裏付けるかのように、ヒビキを拘束したキューブタイプはそれに耐えきれず、爆発していった。
「だあああああっ! 蒸し焼きなんてゴメンだぜ!」
何とかしようと試みるものの、引力に惹かれてしまっているからかジタバタするだけで何もできない。そこに、同じく大気圏の摩擦熱でカラーリングが赤から金色へと変化したジュラのドレッドが迫る。
「バーネット、カメラ回ってる!?」
『そんなこと言ってる場合!?』
至極もっともな意見を言うバーネットだが、今のジュラの耳には届いていなかった。
「オホホホホ…見てなさい! サードステージの開幕よ!」
そのままスピードを緩めずにヒビキのヴァンガードへと突っ込む。そして、ディータやメイアの時と同じ光に二機は包まれた。
「ジュラ!」
「宇宙人さん!」
(さて…)
二人を慮るメイアとディータの通信を聞きながら、カリトリの攻撃激化に対処するためにいつものようにニル・ヴァーナの防衛に戻っていたシュバルツが映像を表示させる。そのまま二機は勢い緩まることなく地表に着水した。まるで隕石が落下したかのように派手に海面が吹き上がり、波紋と津波が周囲360度に広まっていく。
「都市部の近くに着水した模様です!」
「ジュラ、ヒビキ、無事か。応答しろ!」
ブザムの通信に二人はすぐに返答しない。
「ジュラ…そんな…」
「何ぃ!? どうしたのぉ!?」
「……」
『ジュラ! ヒビキ!』
何があったのか、どうなったのか見守るクルーたち。その中には当然シュバルツもいるのだが、シュバルツは彼女たちと違って心配はしていなかった。今までの合体シーケンスと同様のプロセスを踏んでいたのが見えたからだ。
援軍として大気圏を突破したキューブタイプが数機、二機の後を追って大気圏内に姿を現し、とどめを差すために着水地点付近にて待機する。と、その獲物たる二機の着水地点で派手に水飛沫が舞い上がった。そして程なく、その舞い上がった水飛沫は勢いを弱め、そして現れたのは…
「また、新しいのが出てきたね」
「しかし…あ、あれは…」
「カニ…」
見事、ヒビキのヴァンガードと合体した第三のドレッドの初お目見えとなった。そして、その姿を見たオペレーターのベルデウェールの素直な感想がこれである。だが、そう言われても仕方がないフォルムだった。
赤いカラーリングの本体部分から左右に長いアームが伸び、アームの付け根部分から前方に角を思わせるような二本のクローが伸びている。そしてその頭上には、円盤型のビットが8機浮遊しながら旋回していた。機体の直下にはそのビットたちのコアと思われる、少し大きめのビットが1機同じように浮遊している。せめてカラーリングが違えばまた他の感想も出たかもしれないが、幸か不幸か赤だったため、余計にカニっぽさが強調される形になってしまっていた。
(カニ、か。まさしく)
ガンダムシュピーゲルのコックピット内で同様にこのヴァンドレッドの爆誕を見ていたシュバルツも全く同じ感想を抱いていた。と同時に、少し眉を顰める。
(あの派手好きの目立ちたがり屋のジュラが己の機体の今の姿を見たらどんな反応を示すか…)
万に一つは目を輝かせるかもしれないが、恐らくは強烈に拒絶するだろう。そうなった時にどうするか…。
(まあ、個人のセンスばかりはわからんからな。意外に気にいるかもしれんが…)
自分で考えていて無理があるなとシュバルツは苦笑するしかなかった。
(しかし…)
改めてヒビキのヴァンガードと合体したジュラのドレッド、ヴァンドレッド・ジュラに目をやる。
(以前、ウニに模した敵が出てきたが、今度は敵ではなく味方ではあるがカニか…。これではそのうちエビも出てきかねんな)
海でもあるまいし、どういことだと思わないでもないシュバルツだったが、宇宙空間のことを宇宙の海という比喩表現もあるからな…と、戦闘中であるにもかかわらずそんなどうでもいいことを考えるまでになっていた。
さて、では当事者の二人はと言うと…
「いやー! もうこんなのジュラのじゃないー!」
合体した自機の映像を見たジュラがコックピット内で嘆いている。シュバルツの懸念通りやはりお気に召さなかったようだ。その対面で、ヒビキがどうにかしようとあたふたしていた。このヴァンドレッドは前二機のものとは違い、複座型のコックピットではなくセンターにあるコンソールを中心に円状の操縦席に対面に座る形になっている。遊園地にあるアトラクションのコーヒーカップを思い浮かべてもらえればイメージは掴めるだろうか。
「くそっ! どうやって動かんすんだよ、これ!」
悪戦苦闘しながら中央のコンソールを操作するヒビキ。カリトリも新たな敵だということを認識したのか、攻撃を開始してバルカン砲が周囲に着水する。そんな中ではあるのだがジュラはカッコ悪い! 最低! 元に戻して! と、わめきながら当たり散らしている。この状況下であることに加えてその言動が癇に障ったのだろう
「ウルセェ! そんな場合じゃねえ! 反撃しろぃ!」
ヒビキが怒鳴った。幼子のように怒鳴られて一瞬黙るジュラだったが、すぐ、
「イーヤッ!」
両手を振り上げるとドンとコンソールに叩きつけた。ただ叩きつけた場所が操縦系統のスイッチだったのか、海上直上をホバリングしたままものすごい勢いで後退し始めたのだ。不幸中の幸いと言うか、そのことでキューブタイプと距離ができたがキューブタイプもその程度で諦めることはなく追撃を始める。
「くそったれ…武器は何処だ、武器は…」
引き続き焦りながらも兵装を探すヒビキ。その間もヴァンドレッド・ジュラは後退を続けているのだが、その方向には先ほど確認した海上都市があった。
「マズいですね。海上の都市に向かっています」
「メイアとディータは?」
「軌道上の敵と未だ交戦中!」
「シュバルツ!」
『ここに』
マグノの呼び出しにシュバルツが答える。
「向かえるか?」
ブザムが引き継いで指示を出す。
『こちらは問題ない。艦の護衛はいいのか?』
「構わないよ。ウチの子たちに踏ん張ってもらうさ」
「頼む。向かってやってくれ」
『承知』
「出来ることならば、あの海上都市に被害が出ないようにしてもらいたい」
『努力はしよう』
「頼む」
ブザムの重ねての頼みに頷くと、シュバルツはいつも通りその場から姿を消した。それを確認したデリ、そして機関室がにわかに活気づく。
「さて、あいつがいなくなったんだ。いつも以上に腹をすかせた連中がやってくるよ。気合入れな!」
『はい、店長!』
「いっつもシュバルツには護ってもらってるんだから、こういうときぐらいはうちらの団結を示すよ!」
『オッケー!』
「おやまあ…」
予想していなかった各所の盛り上がりにマグノが驚きの声を上げた。
「こんな感じになるとは思わなかったね」
「ふふ…妙なものです」
ブザムが軽く微笑む。
「いつも騒ぎの中心にいるのはあのおチビちゃんなんだけどね」
「皆、わかっているのでしょう。今までシュバルツにどれだけ助けられてきたのかということを」
「そうみたいだねぇ」
突然現れた正体不明の戦士がここまで皆に受け入れられていることに驚きながらも寄せる期待や信頼は二人もそう変わらない。それを確かめるように二人…いや、ブリッジのクルーたち全員がシュバルツが向かったヴァンドレッド・ジュラを移しているモニターに視線を向けた。
「チッ、好き放題してくれるぜ!」
一方でその目標であるヒビキとジュラはカリトリからの攻撃に晒されていた。距離はなんとか取れているものの、執拗な追撃は収まっていない。今もバルカン砲に被弾しているのだ。
「もういやぁ! 下ろして!」
「うっせぇ! ちったぁ協力しろぃ!」
まるで駄々っ子のようにプルプルと首を左右に振り続けるジュラにヒビキが叱責する。そこで初めて見つけたレバーに手をかけた。
「コイツか!?」
そのレバーを思いっきり前に倒す。と、後退が停止し、前方に出ているクローがフレキシブル形態になってキューブタイプの一機を叩き落とした。
「へっ、これもアリか…」
半笑いになりながらやっと見つけたその武器(?)で他のキューブタイプも落とそうとする。が、振りかぶるためにモーションが大きく、その上キューブタイプ自体がそもそも小さいとあって中々クローの攻撃が当たらない。
「ったく、ちょこまかしやがって…」
苦心しながらクローを振り下ろし続けるヒビキだったがやはり状況は改善しない。が、そのキューブタイプが急に爆発した。
「! 何だぁ?」
何が起こったのかわからずにいると、
『まだ機体の把握は出来ていないようだな』
よく知った声が通信から聞こえてきた。その声を聞きヒビキと、駄々をこねていたジュラが映像を展開させる。だがその姿は映らない。
『ここだ。お前たちの頭上にいる』
再度聞こえてきたその通信に慌てて二人が自分たちの機体の全景を映す。そこにはヴァンドレッド・ジュラの上に乗っていつものように腕を組んでいるガンダムシュピーゲルの姿があった。
「オメェ、いつの間に…」
『つい今しがただ』
通信に答えながらシュバルツがメッサ―グランツを三本投擲する。それは寸分違わずキューブタイプ三機を捉えたものの致命傷にはならず、半壊しながらも攻撃を仕掛けてきた。
(む?)
再度、メッサ―グランツを投擲し、今度は撃墜に成功する。だがシュバルツは、一撃で倒せなかったことが気になった。そしてそれが、さっきのヒビキの言葉を思い出させる。
(よけ方を覚えた…か。自律兵器であれば機械学習はおかしなことではないが…)
敵が見せたその変化に少し嫌なものを感じたシュバルツだったが、そこを深く掘り下げている場合ではない。
『で、どうにかなりそうか?』
引っかかるものを感じながらも残りのキューブタイプを牽制しながら、シュバルツが二人に尋ねた。
「今どうにかしようと「いやぁ、もう下ろしてぇ!」ウルセェ! ちょっと黙ってろ!」
『……』
コックピット内のドタバタぶりを知ることになり、シュバルツがこれはどうしようもないなとばかりに溜め息をついた。
(まあ、やはりお気に召さなかったか)
ジュラの反応に予想が当たってしまったシュバルツが二人にわからないように渋面を作った。と、
「コイツはどうだ!」
ヒビキが右手を振り上げると先ほどのジュラと同じように勢いよくそこにあったスイッチに振り下ろした。それに反応し、機体下部にあった円盤状のビットのコアと思われるものが8機のビットの更に頭上に移るとエネルギーを直下の8機のビットに充填し始める。
(むっ!?)
その挙動から放出系の光学兵器を予想したシュバルツがヴァンドレッド・ジュラの頭上から姿を消し、海上都市とヴァンドレッド・ジュラを結ぶ位置の中間点に移動した。直後、コアビットから充填されたエネルギーがビームとなって八方向へ放出された。その攻撃によってキューブタイプは全滅したものの、そのうちの一つが海上都市へと迫る。
(! やはり!)
予想通りの光学兵器だったことでガンダムシュピーゲルは海に潜った。そして、海中でシュトゥルム・ウント・ドランクを展開して竜巻の水柱を吹き上げさせる。その水柱がシールドとなったことでビームのエネルギーが減衰し、海上都市に被害を出すことは避けられた。
「あらあら、凄いわぁ」
「ひゃー、相変わらずとんでもないわね」
「全く、期待に応えてくれるよ」
その光景を目の当たりにすることになったエズラ、パルフェ、ガスコーニュが正直な感想を述べる。もっともそれを目の当たりにすることになった全員、似たり寄ったりの感想を抱いたのだが。その頃、ヴァンドレッド・ジュラのコックピットの中では、
「よし!」
敵を全滅させたことに犬歯を剥き出しにしながらグッと拳を握るヒビキと、愕然として肩を落とすジュラの姿があった。惑星下で一応の終結を見たのとほぼ同タイミングで、衛星軌道上でもドレッドチームが敵の襲撃を撃退し終えたところだった。
『敵、キューブタイプは撃破しました。しかし、あの妙なマシンは攻撃を受け付けません』
「とりあえず戻っておいで。ご苦労さん」
『了解』
メイアの通信が切れる。その報告通り、キューブタイプは全滅させたもののチューリップのつぼみのような敵は無傷のままだった。しかも、向こうからは何もしかけてこないがこちらの攻撃もきかないとあってどうにも打つ手がないというのが本音だろう。
「あれはもしや、カリトリ用の装置でしょうか」
モニターでその新型を見据えながらブザムが尋ねるように呟いた。
「さてねえ…。下の連中に聞いてみるか」
マグノがそう答え、視線を直下の惑星が映るモニターに移したのだった。その惑星の大気圏内、戦闘終了してプカプカと海面に漂っている状態のヴァンドレッド・ジュラのコックピット内に通信が入る。
『見たわよ~、華麗な姿。バッチリカメラに収めたからねぇ♪』
バーネットが楽し気に話しかけるがヒビキもジュラも答えない。ヒビキは戦闘で疲れ果て、ジュラは自分のヴァンドレッドの姿にまだショックを受けているのだろう、涙ぐみながら呆然としていた。
『ジュラ! ジュ~ラ! 聞こえてる? 返事して』
バーネットの声だけが無常にコックピットに響いていた。
(やれやれ…)
二人の状況を確認したシュバルツがそのままガンダムシュピーゲルをその海上都市に上陸させる。そしてコックピットから降りると後続の到着を待った。
「交信できますぅ」
「メインモニターに出しとくれ」
「は~い」
マグノの指示にエズラがモニターに交信をつなげた。あの後、ニル・ヴァーナは惑星軌道上から海上都市にコンタクトを取り、それがようやく返ってきたのだ。モニターに映されたのは胸の部分に妙な仮面をつけた服を身にまとった、長い癖っ毛の金髪の若い女性だった。
『初めまして。わたくしの名はファニータ。ようこそ、宇宙で最も美しい星、アンパトスへ』
通信の向こうの女性…ファニータはそう挨拶をした。その言葉に一瞬マグノが怪訝な表情になるが、すぐにその険を収める。
「アンパトス? その星の名前かい?」
『そうです。わたくしたちはそう呼んでいます。本当にお待ちしていました』
その発言にはブザムも何か引っかかったのだろう。先程のマグノのように表情に険が走る。
「待っていた?」
『あなた方が、ムーニャですね?』
「…残念だけど、あたしたちはムーニャとやらではないよ」
『ええっ!?』
そこで初めてファニータの声色が変わる。
「悪いんだけど、そっちに降りて行ってもいいかい? 色々と聞いてみたいことがあるんだよ」
『儀式の時が迫っておりますので、大したもてなしはできませんが』
「構わないよ」
そう返答すると、マグノは今度は通信を操縦システムへとつなげた。
『バート、聞こえるかい? あたしたちはこれから惑星に降りる』
「ええ…ああ、はいはい」
その内容にイヤそうな声色を出すバート。
『後のことはあんたに任せたから。留守番しっかり頼むよ』
「ええっ!? そんなぁ!」
予想外の重要な任務を任され、バートが困惑した返事を返した。が、マグノはそんな文句を黙殺して話を続ける。
『ああ、後ね、逃げるの禁止だからね』
「えっ!? ちょ、ちょっと待ってくださいよ! そりゃないですよ…」
しっかりと釘を刺され、バートはがっくりと肩を落とした。まあ逃げたくてもそんな真似をしたら残ったクルーにキッチリとケジメを取られるのが関の山だろうからそんなことは出来ないだろうが。
とにもかくにも、こうしてマグノとブザムはジュラ、ヒビキ、そしてシュバルツが滞在することになったアンパトスへと降りて行ったのだった。その頃、そのアンパトスではヒビキが海上都市に降り立っていた。都市の人々は自分たちを見てザワザワしているが近寄っている者などはいず、遠巻きに見ているだけだった。それよりも他にやるべきことがあるのだろうか、己の生活に戻っていく。
「祭りかな…」
そんな人たちの様子を見て、ヒビキがそう呟いた。そこに、
「かもしれんな」
横から突然声が聞こえる。
「うおっ!?」
ビックリして振り向くと、そこにはいつの間にいたのかシュバルツの姿があった。
「お、オメェ…ビックリさせんなよ」
相手がシュバルツだとわかったヒビキがホッとしつつもムッとしながら文句を言う。
「それは悪かったな」
「…ったく」
微笑みながら謝罪するシュバルツに毒気を抜かれながら、ヒビキは今度は背後に振り返った。そして、
「おい! おい! 行ってみようぜ!」
同じく海上都市に到着していたジュラに声をかける。だがジュラは、ドレッドの上で膝を抱えてうつむいたまま動かない。
「おい! おい!」
再度呼びかけたがやはり反応はなかった。その態度にムッとするヒビキと、腕を組んでジッとジュラを見ているシュバルツ。そこに飛行機の降下音が入ってきた。ヒビキが振り返ると、降下してくる飛行機の姿が。マグノとブザムの乗っている機である。到着した二人をファニータと、お付きの人間二人の計三人が迎えた。
「ん?」
マグノの後に着いてタラップから降りようとしたブザムが、不意にあるものを視界に入れる。それは、このアンパトス…あるいは海上都市のどちらのものかはわからないが旗だった。“~”を縦にして螺旋状にした感じのデザインが中央に記されている。
「あの形…」
それが何か引っかかったのか、ブザムが少し厳しい表情になった。その頃、衛星軌道上ではディータがいつもヒビキのヴァンガードが配置してある場所の手前で行ったり来たりを繰り返していた。
「む~…宇宙人さんとジュラ、二人っきりで何してるのかな」
そんなことを呟きながら落ち着きなく行ったり来たりを繰り返すディータ。一般的にそれは心配に見えるが、実は違う感情だったりする。が、それをそういうものだとハッキリ理解するのはまだ先の話。
「少し落ち着いたらどうだ?」
少し離れたところで壁に寄りかかり腕を組みながら、メイアがそう諭した。
「でもぉ! ジュラと二人っきりなんですよぉ!?」
諭されても納得がいかないのだろう、ディータが反論する。
「お頭と副長もいるだろう? それにシュバルツも」
「でもぉ!」
ディータが身を捩りながら反論した。その姿に溜め息をつくものの、メイアも今自分が言った一言に思わず考えを馳せる。
(シュバルツも一緒か…)
そう考えると、何故か不思議と心がザワつくのを感じた。それがこの場にシュバルツがいないことの不安からくるものななのか、そう考えてしまった自分への戸惑いなのか、それともそれとはまた別の感情なのか。考えても今はまだ答えは出てこない。
「……」
己の心情に戸惑っているメイアに構わず、ディータは再び宇宙人さん…と、納得いかないように呟いたのだった。そんな状況だったからか、あるいは襲撃がなかったからか、自分たちのすぐ側で一時停止したようにみえるチューリップのつぼみ型の敵に、その対と思われる敵が接近していたこと、そしてその対と思われる敵から枝のような物が伸びてそれによって二体が接続されたことをニル・ヴァーナでは感知していなかった。そして、元からいた敵に接続機関を通じて飛来してきた敵から何か指令が送られたのだろう、その内部が赤く光った。上でも下でも状況が動いている中、
「……」
ジュラは引き続きドレッドの上で膝を抱え、潮風に吹かれながらイジけていたのだった。