機動武闘伝Gガンダムヴァンドレッド   作: ノーリ

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おはようございます、前回の続き、原作九話の後半です。いつも通り大筋は変わりませんが、細部は今回ちょこちょこオリジナル要素が入っています。それが今後生かされるか、あるいはフリだけで結局なかったことにされるのかはまだ未定です。(苦笑)
ま、せっかくなんで生かしたいことですが、どうなりますやら…。どうにも不安の方が大きいですが、温かい目で見ていただければと思います。

では、どうぞ。


NO.19 正しさはお互いに

「予言通りだ!」

「言い伝えは本当だったんだ!」

 

ニル・ヴァーナのクルー数名が降りているアンパトスの海上都市では新たな動きがあった。その都市の中心部に高くそびえる鉄塔。その先端から四本の鋭角上の角のようなものが現れたのだ。そして、それを見た市民が嬉しそうな声を出す。

 

「ムーニャ!」

「ムーニャがいらしたんだ!」

「準備を急ごう!」

「ええ!」

 

そんな会話を続け、市民たちは三々五々散っていく。そんな中、ファニータたちに先導されて街路を歩くマグノとブザム。そこに、

 

「婆さん!」

 

横から呼び止める声が聞こえてきた。歩を進めていた二人が足を止めて振り返ると、そこには自分たちに向かって走ってくるヒビキの姿があった。

 

「坊やかい。無事のようだね」

 

ヒビキの無事を確認したマグノが声をかける。

 

「ジュラはどうした?」

 

ブザムが顔の見えない一人について尋ねた。

 

「知らねえよ、あんなイジケ虫」

「では、シュバルツは?」

 

続けて尋ねる。そう、この場にはジュラだけでなくシュバルツもいなかったのだ。

 

「アイツは先に行っててくれって」

「ほう? 何故だ?」

 

ヒビキの返答にブザムが興味深そうに尋ねた。が、

 

「それこそ知らねえよ。アイツは色々確認したいことがあるって言ってたけど」

「色々…ね。ま、二人とも無事ならいいさ。あんたも一緒においで」

「ああ」

 

一行にヒビキを加え、三人はそのままファニータと共に目的地…先ほど変化を見せた鉄塔の中へと足を踏み入れた。内部は空洞になっていたが、その中心地に螺旋状の外路が設えられた塔があった。塔の内部に塔という奇妙な構造である。

 

「ここが聖なる道へと続く神殿です」

 

その塔の前まで歩を進めたファニータが三人にそう説明した。目の前の塔のあまりの大きさと威容に唖然としているヒビキ。と、

 

「で? あんたたちが待ち望んでいるムーニャとやらは一体何者だい?」

 

マグノが質問する。よく見るとマグノとブザムは二人とも何故か厳しい表情をしていた。

 

「私たちの祖先をこの星に導いてくれた方です。私たちは感謝しています。ムーニャは、アンパトスの礎なんです」

「一体、何をしに来るのですか?」

 

今度はブザムが質問した。

 

「ムーニャは私たちを必要としています。私たちもムーニャを待ち望んででいるんです」

「必要って、何を?」

 

ヒビキも尋ねた。返答の内容がどうも抽象的過ぎて意味がわからず、直情型のヒビキにとってはイラっとする会話のようである。それが口調にも出ているのだろうか、いつも以上にぶっきらぼうな感じだった。だがファニータは意に介する様子はない。

 

「ムーニャはスパイラルコードを必要としています」

「スパイラル…コード…?」

「何だそりゃ?」

 

聞いたこともない固有名詞にヒビキが手を頭の後ろで組んで呆れたように呟いた。だがブザムは今の単語、そして先ほどここに降りるときに見た旗の文様からそれが何を指すのか気づいてしまった。

 

「! 脊髄か!」

 

 

 

 

 

ブザムがアンパトスの謎について閃いたのと同時刻、衛星軌道上にある彼女たちの母艦、ニル・ヴァーナでは

 

『水と食料の補給はできるの!?』

『あの~ロッカールーム変わりたいんですけど…』

 

こういった苦情がバートに入っていた。一つ二つならまだよかったのだが、何十ものウインドウが開いてその通信をつなげた人間が好き勝手なことを言っている。お頭であるマグノと副長であるブザムがいなくなったからだろうか、ここぞとばかりに多種多彩、自分勝手な苦情がバートに寄せられていた。が、言う方はいいが言われる方はたまったものではない。

 

「あーっ! もういい加減にしてくれ!」

 

ワナワナ震えていたバートだったがついに堪忍袋の緒が切れたのか怒鳴った。それにより、一時的に全ウインドウの通信が切断される。責任者ではあるがあくまで臨時である。ここぞとばかりに文句を言われてはたまったものではない。それに、勝手に判断した結果後でマグノやブザムに文句を言われるのはバートなのである。言いたいことがあるなら正規の責任者に直接言ってくれというのがバートの偽らざる本音だろう。

 

(ちくしょう…)

 

厄介な役目を押し付けられてガックリと肩を落とすバートに再度通信が開いた。ウインドウに映ったのはパイウェイである。

 

「今度は何?」

 

うんざりしながら尋ねたバートに、パイウェイは意地の悪い笑みを浮かべ、

 

『サボるなよ』

 

そう釘だけ刺して通信を切り、その文句にバートは滂沱の涙を流したのだった。

 

 

 

 

 

「嬉しいことも辛いことも、全部ひっくるめて皆、これからって年の子ばかりじゃないか」

 

場面は再び移りアンパトス。ムーニャを迎えるための準備に大わらわな市民たちを見ながら、マグノが厳しい視線をファニータに返した。彼らの待つムーニャが何なのか、そして、その先で何があるのかに気付いたマグノたちだけに、そんな厳しい雰囲気になるのは当然である。

 

「ムーニャに迎えられる時こそが至福の時。迷う者などおりません」

 

だがファニータも自分たちのスタンス、態度を崩さない。そんなファニータに、忌々しそうにマグノが鼻を鳴らす。

 

「ふん、平然と振る舞っちゃいるが、その綺麗なおべべの下は恐怖で鳥肌が立っているんじゃないのかい?」

「恐れなどありません。全てムーニャのために。それがアンパトスのしきたりなのですから」

 

何処までも平行線。そんな中、衛星軌道上では一時期引っ込んでいたバートへの好き勝手な苦情が復活していたが、そこに突如としてアラームが鳴り響く。先程の接続によって新たな指令が下されたのか、再度チューリップのつぼみ型の敵が光ったのだった。バートがそのことをブザムに報告する。

 

『て、敵です』

「数は?」

『一機です。なんか、でっかいコンテナみたいな』

「カリトリ船か。お頭!」

「ふん、あんたたちが待ち望んでいたムーニャのようだよ」

「! 来ましたか! ああ、ついに時がきた…」

 

ムーニャの到来を知らされたファニータたちが表情を綻ばせた。それと同時に塔が震動し、先程姿を現した先端部分が灯台のように光を放つ。

 

「おお!」

「時がきたんだ! 行こう、神殿へ!」

「ああ!」

 

市民たちが口々にそう言いながら、己の衣服の胸に着いている仮面をつけて神殿へと足を運び始めた。ムーニャ…ヒビキたちから見ればカリトリ船の接近の影響からだろうか、潮が満ちてきて自分たちの足元まで浸し始める。

 

「おおっ!? 何だ、こりゃ!?」

「よく考えたものだ。こうすれば皆一箇所に集まる」

 

塔の先端の光源を放つ部分を見据えながら、皮肉とも賞賛ともつかない文句をブザムが口に出す。

 

「あんたらの言い伝えで、わたしらまで刈り取られるのは御免だよ!」

「私たちに抗うことは許されません」

 

マグノは引き続き怒気を孕んでいる。それに対してのファニータもまた変わらず、平然としたままだった。

 

「ふざけんな! おかしいと思わねえのか!?」

 

たまらずヒビキも割って入るが、

 

「それがしきたりなのです」

 

にこやかにそう返され、返す言葉もなくなってしまった。

 

「婆さん、これじゃ埒が明かねえぜ…」

「ふふふ…しきたり、言い伝え。便利な言葉じゃないか。自分じゃ何も決められない奴のね!」

 

ファニータの表情が少し変わる。手応えあったかとマグノが笑みを浮かべたが、

 

「…しきたりはしきたりです。運命は変わることなどないのです」

 

平行線なのはやはり変わらなかった。ファニータも他の市民たちと同様に己の衣服の仮面を着け、儀式の準備に臨もうとしたのだった。そして、バートがコンテナと称したカリトリの母艦からいつものキューブタイプが放出され始める。

 

「どうすりゃ…」

 

迫りくる敵にいつものように尻込みをするバート。そこに、

 

『決まっている』

 

また通信が入った。開いたウインドウの先にいたのはメイアだった。

 

『我々はここで防衛線を張る。そうだろう?』

「そうだよな…」

 

イヤそうな表情だがこの状況では反論出来るはずもない。否定などできないというのももちろんあるだろうが、負けてしまえば残るのは死なのだ。それを否定するには勝つしかないのである。故に、

 

「ドレッド隊、出撃!」

 

全くもって気は進まないものの、バートは出撃命令を下したのだった。それに対し、

 

『了解』

 

メイアが少しだけ微笑むとそう返した。そして、準備のできたドレッド隊が次々とニル・ヴァーナから出撃していく。

 

「全チームに注げる。防衛線の維持を最優先にするんだ。決して深追いはするな」

『ラジャー』

 

メイアの指示の下、各ドレッドは配置についた。その間もアンパトスでは、ファニータとマグノたちの舌戦が続いている。

 

「これは、正しいことなんです」

「本当にそうかい? 何故そう言える? 見たところ大きな船もなさそうだが、この広い水の惑星のちっぽけな陸地にしがみついているだけの奴に、何が知れる。その若さで何を悟る。宇宙で最も美しい星? 比べたことがあんのかい!?」

「これは決まっていることなのです。大体あなた方は突然押しかけてきて、我々の神を侮辱する。失礼極まりない話です!」

 

カリトリが接近していることが一番の原因ではあるのだろうが、風雲急を告げるように雷が光った。

 

「神ねぇ…これ以上話してもムダか…。仕方ないね」

 

怒りに震えるファニータを侮蔑するかのようにマグノが吐き捨てた。諦めたように踵を返す。

 

「婆さん!」

 

納得できないとばかりにヒビキが食い下がったが、ほぼ同時に

 

「っ! あ痛たたたたたたた…」

 

いきなり悲鳴を上げてマグノが蹲ってしまった。

 

「お頭」

「こんなときに腰が…これじゃ動けやしない…」

 

気遣うブザムとヒビキ。痛みに顔を顰めるマグノではあったが、その目や表情は諦めている者のそれではなかった。

 

「あたしゃこんなところで巻き添え喰らって死ぬのは御免だよ。坊や!」

「婆さん…おお! わかった!」

 

マグノの檄とも意志ともいうべきものを察したヒビキがニカッと笑うと外に向かって走り出す。が、

 

「さーて、どうやって暇潰そうかねぇ」

 

ヒビキを見送った直後、マグノの口調が意地悪いものに変わって揶揄するようにファニータを見上げたのだった。ひょっとしたら今の一連の流れは芝居だったのかもしれないが、それはマグノだけが知ることである。

塔から出たヒビキはそのまま辺りを見回す。海面が大分浮上し、海上都市の大半は海の下に沈もうとしていた。そしてヒビキは目当ての物…ジュラのヴァンドレッドと己のヴァンガードに向かって走り出す。

 

「おい! 出撃「遅い!」あぁ…?」

 

ジュラに声をかけた直後、逆に反論されてヒビキが思わず戸惑った。だが、そんなヒビキを意に介さずジュラは続ける。

 

「いつまでジュラを待たせるのよ! さっさと行くわよ!」

「お、おう…」

 

予想外の反応にヒビキが戸惑う。

 

(コイツ、一体何があったんだ…?)

 

訝しがるものの分かるわけはなく、かと言ってジュラに聞いたところで話すわけもないと思ったヒビキ。

 

(ま、いいや。やる気になってんならこっちとしては好都合だ)

 

そう考え、自分のヴァンガードに乗り込もうとしたヒビキだったが、あることを思い出した。

 

「おい、そういや、アイツどうした?」

 

キョロキョロと辺りを見渡す。だがそこに、ガンダムシュピーゲルの…シュバルツの姿はない。さっきまで機体があったのに、今は何処にも影も形もないのだ。と、

 

「さ、先に戻ったわよ…」

 

ジュラが口ごもる。さっきまでの威勢のいい勢いは何処へやら、何故か口ごもり、そして顔を赤くしていた。

 

(何だぁ?)

 

その態度に気になったヒビキが思わずジュラの顔を見てしまう。と、

 

「ホラ! それよりさっさと用意しなさいよ!」

 

それに気づいたのかジュラが先ほどまでと同じ様子に戻ったのだった。

 

 

 

 

 

戦場となっている衛星軌道上。カリトリとドレッド部隊の戦闘は激しさを増していた。だが戦況としては優位に進めている。それは勿論ドレッド隊各機の奮闘によるところが大きいが、シュバルツが戦線に復帰したのも大きかった。

 

「そこだ!」

 

いつものようにメッサ―グランツを投擲してドレッド隊各機を支援する。

 

『ありがとう!』

『助かった!』

「礼はいい! 戦闘に集中しろ!」

『了解!』

 

シュバルツの檄とも注意とも言える指摘に支援を受けた隊員たちが応を返す。そうしながらシュバルツ自身も己の役割は欠かさなかった。ドレッド隊が討ち漏らしたニル・ヴァーナに接近するキューブタイプを屠っていく。

最初にシュバルツが戦場に立った時の立ち位置がニル・ヴァーナの守備に回る形だったからか、今では自然とこういった形になっていた。ドレッド隊も最後の防衛の要としてシュバルツがいるということで、いつの間にか安心感と信頼を抱き始め、後顧をさほど気にすることなく戦えるのである。防御面はほぼ考えないことで攻撃に専念できるようになり、それが戦果を上げる要因にもなっていた。とは言え、流石に全機無傷で済むほど甘くはない。

 

『制御スラスターをやられた! 一旦帰還するわ』

「敵機、本艦に接近中!」

「シールド、第三レベルまで後退!」

 

バーネットからの通信がブリッジに入る。オペレーターたちも厳しい表情で状況を報告し、己の職務を遂行していた。

 

「機体は問題ないか?」

『一時撤退するけど、大破じゃないから。すぐに換装して戻るわ』

「無理はするなよ」

『わかってる!』

 

飛行状態が覚束ないバーネットと通信をかわして無事を確認すると、シュバルツはホッとしながら通信を切った。そして直後に再度メッサ―グランツを放つ。

 

(む)

 

その結果に、シュバルツが眉をしかめる。大半は撃墜したものの、それでも少数ではあるが機能停止に追い込めなかった機体があったのだ。大破しながらもニル・ヴァーナに迫ろうとするその数機のキューブタイプを再度のメッサ―グランツで撃墜する。

 

「……」

 

爆発を見、そしてまた他のドレッドたちを援護しながら、シュバルツは違和感を感じていた。

 

(やはり、少しずつだが撃墜率が落ちている…。いや正確には、一撃で仕留められなくなり始めている)

 

それが、シュバルツの抱いた違和感の正体だった。先程、アンパトスの海上の戦いでもあったが、今までなら問題なく一撃で仕留められていた攻撃が、二撃を要することになることが起こり始めていた。シュバルツの脳裏に、先ほどの軌道衛星上でのヒビキの言葉が思い出された。

 

(よけ方を覚え始めた…か)

 

別に不思議なことではない。いつまでもザコをザコにさせておく必要などないのだから。そんな、少し手ごわくなってき始めた敵と相対しながら、シュバルツはまた別の疑念を思い浮かべていた。

 

(これまで収集した情報から推察すると、カリトリの目的は恐らく体組織の文字通りカリトリだ。だが一体誰が、何のためにこんな真似をする…?)

 

シュバルツの脳裏にラバットの顔が浮かんだ。

 

(無理にでも聞き出せればよかったのだがあの男のことだ、簡単には口を割るまい。それに、そんな暇もなかったことも事実)

 

仕方のないことだとは思いつつも、それでもシュバルツは今更ながらに少しだけ後悔していた。だがラバットと会話したときの態度から、ある可能性が頭に浮かんでいた。そしてその可能性が、恐らくは当たることになるのではないかということも。

 

(外れてくれればいいのだが…)

 

そうは思うものの恐らくは当たってしまうのだろうなと考え、シュバルツの心中は穏やかではなかった。だが、そんなことを考えている間にもカリトリの部隊は襲ってくる。シュバルツは心中複雑になりながらも、とりあえずそちらに専念することを決めた。いずれ来るであろう、その時の真実を掴むために。

そうした中、

 

「逃げない…逃げない…逃げない…逃げない…」

 

操縦システムの中では自分に言い聞かせるようにバートが繰り返している。

 

(ほぉ…)

 

自分の思考を切ったシュバルツがバートに視線を向けていた。

 

(自己暗示か? それともただのやせ我慢か? どちらにせよ少しは成長の跡が見える)

 

感心したシュバルツだったが、その間隙を縫ってカリトリの攻撃がニル・ヴァーナを掠める。

 

「痛てっ!」

 

バートの決心を鈍らせるかのように艦体に被弾し、痛みで顔を顰める。ドレッド部隊、並びにシュバルツも頑張っているものの、どうしても被害は出てしまう。母艦となれば標的とされる率が跳ね上がるのは当然で、それ故に被弾が多くなるのもまた当然だった。

 

「だぁー、もうダメだぁ!」

 

悪化する状況にバートが思わず弱音を吐く。そこに、

 

『甘ったれるんじゃないよ!』

 

マグノからの叱責が届いた。その叱責に思わずビクッとしたバートだったが、マグノの発言はバートに向けられたものではなかった。向けられた先にいるのは今実際マグノの目の前にいるファニータである。

 

「あたしゃ今日まで数えきれないぐらいの死に立ち会ってきた。そのたびに自分の無力さを呪ったもんさ。死に行く者に何一つしてやることのできない自分にねぇ」

 

その数多く立ち会ってきた光景を思い出したのか、マグノがギリッと唇を噛むと顔を伏せる。

 

「どんなに無念だったろう…どれだけやり残したことがあったろう…思い出すたびに、身を引き裂かれる思いさ。でもね、それでも皆最後まで諦めなかった。最後のその瞬間まで輝こうとした。あたしゃねえ、そんなすごい奴等を知ってるんだ。知っているからこそ、自分の運命を人任せにするような甘ったれは、許せないんだよ!」

 

激高する。いつも落ち着いていて集団の頭領にふさわしい態度や振る舞いのマグノにしては非常に珍しい感情の爆発だった。その言葉をぶつけられたファニータは仮面を被っているため、その仮面の下がどうなっているかはわからない。ただ反論も反抗もなく、ジッとマグノと向き合っているだけだった。だが、その覚悟がしっかりと伝わっている者もいた。

 

「絶対に逃げない!」

 

戦火は激しくなり再び被弾したバートだったが、マグノの説教に覚悟を決めた。が、

 

『邪魔だ、どけ!』

 

そこにその覚悟を全否定するかのような通信が入って、せっかくなシリアスな表情も一瞬で崩れてしまった。そして思わずその言葉に従ってどいてしまう。その横を、アンパトスから戻ってきたヴァンドレッド・ジュラが抜けていった。

 

(つくづく損な役回りだな…)

 

せっかく覚悟を決めたのに、その出鼻を挫かれる形で否定されては立つ瀬もない。シュバルツは思わずバートに同情していた。そして、ニル・ヴァーナに向けていたその視線をヴァンドレッド・ジュラに向ける。

 

「後は任せて昼寝でもしてろって!」

「モタモタしてると一緒にやっちゃうわよ!」

 

己以上に張り切っているジュラにヒビキがタジタジになり、

 

(機嫌は直ったようだな)

 

シュバルツは苦笑していた。と同時に、自身の行動が立ち直らせる一助になったことにホッと胸を撫で下ろす。そんなジュラの感情・心情にリンクするかのようにヴァンドレッド・ジュラの持つ8機のビットが四方に飛び、アンパトス全体を覆うバリアを発生させたのだ。

 

(これは…)

 

その離れ業に、流石のシュバルツも息を呑んだ。

 

(惑星一つを丸々覆えるバリアを展開できるとは…)

 

その防御性能に改めて驚いたが、同時に固い甲羅に覆われたカニらしい防御性能だとも思ったのは秘密である。そしてそのバリアが、カリトリからアンパトスへの信号…市民たちを誘導していた塔頂上部の光を遮断したのだった。発生した異変にざわめく市民たち、そしてファニータ。

 

「星丸ごと包んじゃうなんて、他には真似できないわよ!」

 

先ほどまでの不機嫌ぶりは何処へやら、ジュラは現状の結果にご満悦だ。そのジュラを、ヒビキがシートをぶつけて弾き飛ばす。

 

「喜ぶのはまだ早え!」

 

ヒビキの指摘通りカリトリの巨大な二機の敵が合体し、牙を剥いて襲い掛かってきたのだ。口を大きく開けるかの如くキューブタイプを吸い込みながらヴァンドレッド・ジュラに迫る。

 

「今たらふく食わせてやんぜ!」

 

近づいてくる敵にニヤリと笑みを浮かべると、ヒビキはコンソール上のスイッチの一つを叩いた。直後、アンパトスを覆っている8基のビットではない、コアビットが光り出す。そして、その駆動に呼応するかのようにアンパトスの海面から複数の水柱が立った。コアビットに吸い込まれるかのように水柱は成層圏も大気圏も突き抜けて宇宙へ。そして、基幹ビットを反射板にその方向を変えると、水柱は開いたカリトリの口へと突撃していった。

 

「なんて無茶を…」

「でもちょっと羨ましい…」

 

この攻撃を見たメイアとディータの偽らざる本音が出た。そうしている間にも水柱は勢いを増してどんどん口の内部へと突撃していく。だが実際のところ、

 

「ちょっと! 壊れちゃう!」

「黙って見てろ!」

 

ヴァンドレッド・ジュラのコックピットはそんな状況だった。攻勢を見せているものの、決して余裕がある状況ではないのだ。いわば意地の張り合い、我慢比べ。そんなギリギリのせめぎあいの中、先に音を上げたのはカリトリだった。無尽蔵とも思える許容量だったがついに負荷に耐えられなくなり、二機が合体したカリトリ機は内部から爆散したのだった。

 

「やった!」

「やりぃ!」

 

思わずジュラがヒビキに抱き着き、勝利の雄たけびを上げる。こうして、今回もカリトリを退けることに成功したのだった。

 

「何か…素直に喜べねえんだよな」

 

複雑な表情を見せながら、帰還してくるヒビキたちを見るバートはそう呟く。今回に関しては全くもってその通りだと言うしかない。付け加えるならばご愁傷さまと言ったところだろうか。

その様子にシュバルツがふ、と微笑み。そして今回ついにその姿を見せたジュラのヴァンドレッドを再度思い浮かべる。そして次に、ディータとメイアのヴァンドレッドも思い浮かべた。

 

(ディータの機体は攻撃型、メイアの機体は機動型、そしてジュラの機体は防御型のようだな。こうしてみると見事にタイプが違う。場面場面で使い分けが効くという意味ではありがたいことだが…こうなったのは偶然なのか?)

 

わからない。だがそのカギを握るのはペークシスであることは間違いなかった。何しろヒビキのヴァンガードを含めた四機はペークシスに呑まれた影響で機体が変貌を遂げ、合体ができるようになったと説明を受けた。であれば、その辺のことを解く鍵はペークシスが握っているのは間違いない。調査してわかるものかどうかはわからないが、一度確かめてみる必要はありそうだとシュバルツは思っていた。

 

 

 

 

 

一方アンパトスでは、ヴァンドレッド・ジュラがほぼ海水を吸い上げてしまったため海が干上がってしまい、先ほどまでと違って海水が地表からほぼなくなってしまっていた。

 

「な、何ということを…」

 

ファニータが愕然としながら頽れて膝を着く。その顔を覆っていた仮面もまるで役目は終わったとばかりに音を立てながら地面に落ちた。

 

「さて…」

 

杖を抱え直してマグノが口を開く。

 

「これであんたたちは自由だ。これから先は死ぬも生きるもあんたたち自身で決めるんだね」

「我々の神に対する冒涜は、決して忘れませぬ!」

 

立ち上がったマグノに対し、ファニータが親の仇を目の前にしたかのような殺気がこもった表情と視線を向ける。そんなファニータにに対し、

 

「神様ってのは何も言わない、何もしてくれない。ましてや、見返りなんか求めたりしないんだ。ただ見守っているだけさ。迷える、愚かな人間たちをね」

 

ファニータに近づきながら諭すようにそう語りかけるマグノ。だが、そんな言葉はファニータの耳には届いていない。憎しみのこもった視線は相変わらず変わらないままだ。

 

「邪魔したね」

 

そんなファニータの姿に一つ息を吐くとそう言い残し、マグノたちはアンパトスを後にした。

 

 

 

 

 

「ビデオ撮ってないって、どういうこと!?」

 

全機帰投後のニル・ヴァーナ格納庫。憤懣やるかたないといった表情でジュラがバーネットに詰め寄る。

 

「そんな暇あるわけないでしょうが!?」

 

反論するバーネット。ディータとメイアもその意見に同感なのか、ジュラに白い目を向けている。だがジュラは、

 

「まあいいわ…」

 

と、しょうがないといった感じで矛を収めた。

 

「とにかく次こそは、ジュラのマシンの華麗な姿をカメラに収めてちょうだいね。何たって、星を丸ごと包んじゃうぐらい、すっごいんだから」

 

得意満面のジュラに対し、バーネット以下三名は呆れ顔になっている。そして、

 

「ケッ…女って変わり身早ぇよなぁ…」

 

今回はジュラに振り回された形のヒビキが疲労困憊といった感じでズルズルと床に崩れたのだった。そこに、

 

「お疲れのようだな」

 

シュバルツの声が聞こえてきた。

 

「あん?」

 

ヒビキがゆっくりと声のした方向に振り返る。そこにはいつの間に戻ってきたのか、シュバルツの姿があった。

 

「疲れたのなら、さっさと休むといい」

「ああ。そうさせてもらうぜ」

 

疲れた体に鞭打ってヒビキが格納庫を出ていった。その後ろ姿を見送ったシュバルツが、自分も後に続こうとする。が、

 

「あ、おっきい宇宙人さん」

 

ディータに見つかってしまった。元々隠れていたつもりもなかったので仕方のないことかもしれないが。ディータの一言でシュバルツの存在に気付いた四人が一斉に顔を向ける。

 

「戻ったのか」

 

尋ねてきたのはメイアだった。

 

「ああ」

「そうか。無事で何よりだ」

「お互いにな」

 

互いに頷く。

 

「悪かったわね、今回も助けてもらっちゃって」

 

次いで話しかけてきたのはバーネット。

 

「気にするな。当然のことをしたまで」

「そう? ありがと」

「機体の状態は?」

「問題ないわ。今回は途中離脱しちゃったけど、次はそうならないように気をつける」

「そうか」

「ねえねえ、おっきい宇宙人さん。宇宙人さんは?」

 

軽く会話をかわした後、シュバルツの周囲にキョロキョロ視線を走らせながらディータが尋ねてきた。

 

「ヒビキならもう戻ったぞ。疲労がたまっていたようなのでね」

「ええ~、そんなぁ…。宇宙人さんったらぁ」

 

不満げな口調になったディータが走り出して格納庫を出ていく。どこへ向かうかなどはわかりきったことだ。

 

「我々も戻るか」

「そうね。ジュラ、行きましょ」

 

メイアとバーネットが言葉を交わすと、バーネットが自分の横にいるジュラに話しかけた。が、ジュラは少し俯いて反応しない。

 

「ジュラ。どうかした?」

 

ジュラの様子がおかしいことに気付いたバーネットが再度話しかける。と、

 

「ちょ、ちょっとね…。バーネット、先戻ってて」

 

と、何とも要領を得ない返答を返したのだった。

 

「はぁ?」

「過労か? 少し顔が赤いが…」

 

よくわからないといった表情になったバーネット。それとは対照的に、ジュラの変化に気付いたメイアが目ざとく指摘する。

 

「ち、違うって。良いから先に行ってて」

「…何なのよ」

 

バーネットがメイアに振り返るものの、メイアも訳がわからないのかフルフルと首を左右に振るだけだった。

 

「ま、そういうことならば我々は先に上がらせてもらおう」

「お疲れ~」

 

メイアとバーネットが肩を並べて格納庫を出ていく。あまり見ない組み合わせに珍しいものを見たなとシュバルツも二人の後ろ姿を見送った。

 

 

 

「あ、あの…」

 

メイアとバーネットの二人が去り、ジュラとシュバルツの二人だけとなった格納庫。少しの間逡巡していたジュラが、やがておずおずと口を開く。

 

「先ほどのことか?」

 

その機先を制するかのようにシュバルツが口を開いた。まさに言おうとしていたことをズバリ指摘され、ジュラがピシッと固まる。少し間を置き、

 

「う、うん…」

 

と、顔を赤らめながら頷いた。

 

「さっきはその…変なとこ見せちゃったわね」

「気にするな。誰にでもあることだ」

「そ、そうかな…」

 

シュバルツがその言葉通り、なるべくジュラに気にさせないように答える。だがジュラは懐疑的なのか照れ臭いのか、そんなことを呟く。そうしながらも間が持たないのだろうか、

しきりに髪をいじったり視線を方々に走らせたりと落ち着きがない。

 

(な、何なのよ、これ…)

 

どうにも説明のできないいたたまれなさに戸惑っていると、

 

「お前も休め。今日は色々とあっただろう」

 

そう言い残して、シュバルツも格納庫を立ち去ろうとする。それがわかったジュラが、

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

その足を止めた。

 

「何だ?」

 

足を止めて振り返ったシュバルツ。が、思わず止めてしまったものの何故止めたのか、止めてどうするのか、ジュラは考えていなかった。自然とそんな行動を起こしてしまったのだ。

 

(ど、どうしよう…)

 

困ったジュラは迷った挙句、

 

「そ、その…色々とありがとう」

 

一番無難と思われる言葉を発した。だがその発言内容にシュバルツが驚いた顔をしたのがジュラにとっては予想外の反応で思わずムッとしてしまう。

 

「何よ、ジュラがお礼を言うのはそんなに変!?」

 

自然と語尾が大きく、語気も強くなってしまった。それに対しシュバルツは、

 

「いいや」

 

と、返す。

 

「そうだな。今のは私が失礼だった。すまなかったな」

「ふ、ふん! わかればいいのよ」

 

腕を組み、ぷいっと顔を背けるジュラ。その顔は赤いままだ。その、ややもすれば駄々っ子と変わらない仕草や表情にシュバルツは内心で苦笑する。

 

(全く、手のかかる連中が多い艦だな)

 

そう思ってしまうのは年長者としての性なのか。とにもかくにも手のかかる年下の連中が大部分を占めているニル・ヴァーナ。こんなことになるのは容易に想像できることではあるし、一々戸惑っていたらそれこそきりがない。そのため、

 

「では、失礼」

 

ジュラに謝罪し、その感謝の念を受け取ったシュバルツは軽く頭を下げ、格納庫を出ていったのであった。

 

 

 

「あっ…」

 

シュバルツを見送る格好になったジュラが、思わず声を上げる。だがその時にはもうシュバルツの姿は格納庫にはなかった。

 

「…ま、いいわ」

 

どうにも消化不良感は拭えないが、仕方ないとばかりにジュラが一息つく。最低限、言いたいことは言えたのだ。

 

「ジュラも休みましょ」

 

そして、ジュラも格納庫を出ていく。その足取りは己のヴァンドレッドの姿に愕然としたときとは比べ物にならないほど軽いものになっていた。

 

 

 

 

 

艦内のとある廊下の一角。ジュラと別れたシュバルツはこの場にいた。そして、宇宙の海をジッと見つめている。その視線の先にあるのはアンパトス。先程の戦闘の舞台となった惑星だ。

 

(……)

 

漆黒の宇宙の闇を見ながら先程のアンパトスの一件を思い出し、考えてしまうことがあった。マグノの言った説教のこと、そして先程の戦いにおけるアンパトスへの被害だ。

 

(成る程、確かに普通に考えればマグノの言い分は正しいのかもしれん。だが、アンパトスの人間からしてみればポッと出の余所者が自分たちの慣習やしきたり、道徳や基礎概念を散々に否定して壊していったことになる。ふざけた話に映るだろうな)

 

最後まで平行線を辿ったマグノとファニータの舌戦。それは確かにマグノの立場からしてみればもっともな内容だったかもしれない。だがファニータ…アンパトスの人間からしてみれば大きなお世話の一言にすぎない。カリトリがアンパトスに対して施していたのは言い伝えや伝承という名に置き換えての洗脳に他ならない。それを理解したからこそ、それに従うままの人々に対して言葉がキツくなったのもわかる。確かに話の通じない連中ではあったが、他人様の価値観を頭ごなしに一方的に否定するのはどうなのだろう。

 

(神…ムーニャとの関わりが断たされたあの星の人間は、これから何を寄る辺にどうやって生きていくのか。偽りの秩序ではあったが、それでも身包み剥がされて後は勝手に生きていけはあまりにも無責任すぎる。海賊らしいといえばらしいとも言えるが、他人様の価値観を土足で踏みにじれるようなご立派な存在でもないだろうに…)

 

そこが、どうしても腑に落ちなかった。そしてもう一つ。カリトリを撃退するためとはいえ、アンパトスの海をほとんど干上がらせてしまったことだ。

 

(海は万物の生命の根源だ。それを奪ってしまえば、当然そこで生きる生命に影響は出る。端的に言えば生態系への影響、食物連鎖。あの星はそういったものが断たれてしまった。それも余所者によって無理やり断たされたのだ。ああいった惑星形態から、あの海上都市に生きる人間の主食は魚介類であることは疑いに相違ない。だがそれを断たれて、どうやって生きていけというのか。海底だった土壌を農業用地に転用するのが可能なのか、それがどれくらいかかるのか。そんなことを考えて…いるわけもなかろうな)

 

先程の戦闘でのヒビキの様子から、シュバルツはそう結論付けた。ヒビキとしては敵と戦う、そして撃退するためのナイスアイディアぐらいにしか思っていないだろう。だがそれにより、ヒビキはアンパトスの人間を窮地に追いやることになっているのだ。

ではあのままカリトリにやられれば良かったのかと言うと当然そんなこともない。つまるところ先程の状況では、生き残るのはニル・ヴァーナしかなかったとも言える。ニル・ヴァーナが戦いを放棄したところで、アンパトスの人間はモルモットとして刈り取られることに従うだけだ。それを考えれば生きる意思のある人間が生きるのは正しいかもしれない。

だが、カリトリならば苦しむのは恐らく一瞬で済むが、こうなってしまってはアンパトスの人間は生活不安や食糧不足から長く苦しむことになるだろう。前向きに考えようとも、テラフォーミングして新しい生活環境を整えるには気の遠くなるような時間がかかるに違いない。そしてそれだけの時間は人の短い一生でどうにかなるわけがない。

 

「……」

 

今更ながらにその点に思い至ったシュバルツが額を抑えて大きな溜め息をついた。

 

(八方塞がりか…もうどうしようもないことではあるが、決して忘れてはいけない。誰彼を詰るような真似はする気はないが、せめて私だけでもこの業は背負わねばならん)

 

それが、アンパトスの人間に対する最低以下だが通すべき筋だとシュバルツは思っていた。例えそれがただの自己満足にすぎないことだとわかっていても。

 

(全く…度し難い…)

 

どんな存在になろうとも、どうしようもできない事象は存在する。今一度その事実を突きつけられ、シュバルツはやるせなかった。と、

 

「シュバルツ…?」

 

そこに、横から声をかけられる。それに気付かずに驚いたが、それだけ今回の件に囚われていたということなのだろう。無理やりにでも振り払うように小刻みに頭を左右させて視線を声のした方向に向ける。そこにいたのはメイアだった。

 

「メイアか…」

「どうかしたのか?」

「何がだ?」

 

言葉の意味がわからず、シュバルツが尋ね返す。と、メイアは少し表情を暗くした。

 

「少し、沈んでいるように見えた」

「……」

「いや、沈んでいるというよりは、もがいている、苦悩している…と言った方が適切かもしれん」

「!」

 

メイアのその指摘に思わず目を見張ってしまう。そんなに表情に出てしまっていたのかと思いながら、場違いではあるがそれを読み取るメイアの洞察力にも感心していた。

 

(これも、ドレッド隊を率いている指揮官としての洞察力の賜といったところか)

 

その高いリーダー資質の適正にシュバルツは改めて感心した。そして、それに感づいているからこそ、適当なことを言ってもメイアは納得しないだろうということも。

 

(敏いのは結構なことだが、それも時と場合によるな)

 

目の前の少女の資質に感心しながらも、こういった時は厄介だなと思いながらシュバルツは、

 

「そうか」

 

と返事をしたのだった。

 

「何かあったのか?」

 

メイアが更に尋ねる。

 

「少し、な…」

「そうか」

 

シュバルツの返答に頷いただけで、メイアはそれ以上は尋ねようとしない。その代わりと言ってはなんだが、シュバルツの横に立った。そして、同じように宇宙の闇に目を向ける。

 

(? どういうつもりだ…?)

 

思いがけないメイアの行動に少し訝しんだシュバルツだったが、こちらで強いたわけではない以上好きでやっているのだろうと放っておくことにした。

 

「とっくに自室にでも戻っていると思っていたが」

「お頭に今回の戦闘の報告をしていた」

「成る程」

 

生真面目なメイアらしい返答にふ、と少しだけ相好を崩す。と、

 

「さっきの格納庫のことだが…」

 

今度はメイアが話しかけてきた。

 

「ん?」

「…あの後、ジュラと二人で何をしていたのだ?」

「何…と言われるようなことは何も。ちょっとした会話だけだ」

「そうか」

「それがどうかしたか?」

「い、いや、何でもない」

 

シュバルツの質問に思わずメイアが顔を背ける。

 

(???)

 

質問の意図といい、今見せている態度といい、どうにもいつものメイアらしくないなとシュバルツは不思議に思っていた。と、メイアは誤魔化すかのように一つ咳払いをする。

 

「私はそろそろ戻る。邪魔したな」

「いや」

「お前も早く戻って休め。穴を開けられたら迷惑をするのはこちらだ」

「わかった」

 

メイアは顔を伏せたままシュバルツの横を通り過ぎて自室へと向かった。そのため、その顔が僅かではあるが赤くなっていたことにシュバルツが気付かなかったのはまた別の話。そして、

 

「……」

 

メイアを見送った後も、シュバルツはまだ暫く宇宙の海をジッと見ていたのだった。色々考えさせられた、考えてしまったアンパトスでのことを思い出しながら。

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