機動武闘伝Gガンダムヴァンドレッド   作: ノーリ

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おはようございます、前回の続き、今回から原作十話に入ります。原作通りのんびり回というかまったり回というかそんな流れです。何しろ、次からがファーストシーズンのクライマックスですからね。その前の、まあ言うなれば嵐の前の静けさといったところでしょうか。

ですので、肩の力を抜いて読んでください。では、どうぞ。


NO.20 迎える聖夜

艦内。今日も今日とて故郷メジェールへの航海を続けているニル・ヴァーナ。だが今日はいつもとは雰囲気が違った。

 

「……」

 

それを否が応でも見せられることになっているブザムが時に右へ、時に左へと視線を移す。いつもよりも大人数で占拠されたブリッジは、そこかしこでカラースプレーによってデコレーション…メークアップされようとしていた。クルーたちは楽し気にその作業を進めているのだが、それに反してブザムの顔色は冴えない。

 

「…エズラ、彗星の分析データを」

 

気を取り直してオペレーター席のエズラに指示を出す。が、

 

「副長、どっちが可愛いと思います?」

 

エズラはいつの間にかブザムのすぐ側にいて、そんな質問をしてきたのだった。その手にはベルと星のオブジェ。

 

「好きにしなさい…」

「どうしよう…決められない…♪」

 

呆れながら返答するブザムに対し、エズラは身を捩りながらもウキウキしながら答えた。こうなっているのは別にブリッジだけでなく、艦内全体がソワソワと浮足立っている。そしてある意味、一番浮足立っていると言っても過言ではない人物が姿を見せた。

 

「お頭…」

「やっぱりあたしがサンタにならなきゃ始まらないだろ? クリスマスはさぁ」

 

いつも見せる厳しい表情ではなく、少し照れくさそうながらも満更でもない表情でそう尋ねるマグノにのところに、アマローネやベルデウェールをはじめとする数人が駆け寄った。

 

「はぁ…」

 

それに対し、ブザムは呆れたような疲れたような表情になって大きく息を吐く。そして、

 

「……」

 

珍しくブリッジに顔を出していたメイアが少し伏し目がちにブリッジを去ったのだった。そう、今日は12月24日。クリスマスイブなのである。そしてその様子は艦内全域に広がっているのだ。

 

「バーネット、チョコレートクリームはもっと一杯。ほら、粉砂糖も忘れないで…」

 

トラぺザのキッチンではケーキの作成に勤しむジュラとバーネットの姿があった。もっとも、正確に言えば勤しんでいるのはバーネットだけで、ジュラは指示を出しているだけだったりするのだが。そんなジュラが、あるものを見つける。

 

「あー…んっ。わぉ! 美味し~♪」

 

隠れてチョコレートクリームを味見という名のつまみ食いをしていたディータだ。その頭上に、ジュラの拳骨が落ちる。

 

「あ痛って…」

「あんたはターキー見てなさいって言っといたでしょうが!」

「はーい…」

 

お説教され、少しムッとしながら一応は素直に従うディータ。そのやり取りを見ることになったバーネットは呆れ顔だ。仕方なくオーブンに向かおうとしたディータだったが、直後にオーブンから黒煙が上がっているのを見てしまう。

 

「ゲッ、やっばーい!」

「あっ、ちょっと、ディータ!」

 

ターキーを台無しにしてしまったディータが慌ててキッチンを逃げ去った。その頃、着々と準備が進むブリッジを、タラークの男三人衆+ピョロが少し高いところから眺めていた。

 

「いったいこれは、何の騒ぎだい?」

「クリスマスハイだピョロ」

 

バートの質問にピョロが答えた。

 

「女たちは12月24日になると、ああしてハイになるんだピョロ」

 

ピョロが補足したが、タラーク三人衆は今一つピンとこない。

 

「お前たち、クリスマスも知らないのか?」

 

そのピョロの指摘にお互い顔を見合わせる三人だが、誰も明確に返答を返さなかった。その反応に、ピョロがズッコケる。

 

「お祭りだピョロよ! タラークにもあったでしょう!?」

「祭りはあったけど…」

 

バートがタラークの一般的な祭りの光景を思い浮かべた。整列して敬礼、武闘大会や組体操など、実に男臭いビジョンが次々に浮かんでは消える。それを思い出し、

 

「祭りなんて、そんな楽しいもんじゃないよなぁ、諸君」

 

正直な感想を述べた。そして、

 

「ああ」

「うむ」

 

ヒビキとドゥエロも反論することなくそれに同意したのだった。そこに、

 

「あ~♪ いたいた!」

 

ブリッジのドアが開きディータが顔を出す。

 

「宇宙人「ゲッ!」」

 

自分を見つけて嬉しそうに手を振るディータにヒビキがうんざりした表情になると脱兎のごとく逃げ出した。

 

「ああーん、待って、宇宙人さーん」

 

その後をいつものようにディータが追いかける。いつもの光景と言えばいつもの光景に、残されたドゥエロとバートはやれやれといった感じで見送るのだった。そんな中、

 

「そうか、クリスマスか」

「ああ。おかげでうちの子たちも浮かれちまってね。今日は商売になんないんだよ」

「成る程、それで私がお前の暇つぶしに付き合わされていると」

「さっすが、話が早いねぇ。ま、そういうことさ」

 

レジでそんな会話をかわしているのはシュバルツとガスコーニュ。そして、二人が興じているのはポーカーだった。ヒビキにとっては以前、ガスコーニュに身包み剥がされたあの因縁のゲームである。だが、今回の相手はヒビキより何枚も上手のシュバルツだ。そのため、今回はガスコーニュの方がヒビキの立場になっている。それでも全負けではないのは流石だが、勝率で言えば二割か…いいところ三割と言ったところだった。

だがガスコーニュはそんなことは気にせず、寧ろ久々に骨のある勝負にやる気が漲っているのか嬉々としていた。通算何回目かのディールを始める。

 

「いつでも漆黒の宇宙空間では、暦など意味は持たないと思っていたがな…」

 

配られた手札を確認しながらシュバルツがそんなことを呟いた。

 

「そんなこたないよ。それにこういう商売だからこそ、そういったことには敏感になるのさ。今日と同じ明日を迎える保証はどこにもないんだからね」

「成る程。そうかもしれんな…チェンジ」

 

二枚伏せ、山札から二枚を取る。

 

「んー…あたしも」

 

ガスコーニュは三枚チェンジした。

 

「勝負。スリーカード」

「ストレート」

 

互いに手札を見せ合い、ガスコーニュが顔を顰めた。

 

「あちゃあ…またかい…」

 

勝負の結果にボヤくようにそう呟く。

 

「残念だったな」

「やれやれ…まいったね…」

 

勝ち分のチップがシュバルツに流れた。実は先日ラバットに流したボトルもこれでせしめた品だったりするのだが、それはまた別の話。

 

「もう一勝負…と言いたいところだけど、それじゃキリがないからね。今日はここまでにしとこうか」

 

そう言って、ガスコーニュがチップやカードを片付け始める。

 

「私は構わんが、負け終わりでもスパッと終われるのは意外だな」

「勝敗は兵家の常って言うだろ? そりゃあ、常に勝てればそれに越したことはないけど、勝負事には勝ち・負け・引き分けの三つしかないんだ。どれだって引き得るんだから、引き際は肝心だよ。それに、いい女は引き際は弁えてるものさ」

「成る程。まあ、丁度いい頃合いか」

 

チラッと時計に目をやった。が、その言葉を聞いたガスコーニュが額に青筋を立てる。

 

「ほぉ…そりゃあ、あたしに喧嘩売ってんのかい?」

 

テーブルドンして顔をヒクヒクさせながらガスコーニュがシュバルツに詰め寄った。適当にあしらわれたように感じたのだろうか。程度の差はあれど、やはりガスコーニュも負けず嫌いなのだろう。

 

「落ち着け」

 

そんなガスコーニュの姿にはあっと一つ溜め息をつき、シュバルツが立ち上がった。

 

「この後先約があってな。時間的に丁度いいタイミングだということだ」

「ふーん? ま、そういうことにしといてやるよ」

「…感謝する」

 

これ以上刺激すると厄介なことになりかねないと肌で感じたシュバルツが出口に向かって歩いていく。

 

「また付き合ってくれよ」

「まあ…タイミングが合えばな」

「合わせるさ。ヨロシクぅ♪」

 

そう言って軽くウインクしたガスコーニュに、こちらも軽く手を挙げて応じると、シュバルツはレジを後にしたのだった。

 

 

 

 

 

「へぇー…」

 

艦内の廊下の一角でそんな声が上がった。

 

「ホントにクリスマス知らないの?」

「知らねえったら知らねえ」

 

肩を並べて歩いているのはヒビキとディータ。あの後、結局ヒビキはディータにつかまり、こうなっているのだ。その脇にはピョロの姿もある。ディータからの質問が鬱陶しくなったのか、ヒビキは歩調を速くした。

 

「可哀相に」

「男って貧しい人生送ってるピョロ」

 

憐れむディータにピョロも同意する。

 

「美味しいディナーに甘ーいケーキ!」

 

ピョロのその一言にヒビキの足がピタッと止まる。想像してしまったのか、顔がにやけて軽く涎が垂れそうになっていた。

 

「それだけでも素敵なのに!」

 

煽るようにディータが補足した。

 

「ま、まあ、人生何事も経験って言うしな…」

 

結果、ヒビキは見事につられることになった。その背後では、しめしめとばかりに満面の笑みを浮かべるディータと、呆れ顔で顔に縦線が入っているピョロの姿があった。食い物につられていいようにあしらわれているのだから、男の矜持もへったくれもない。これでいいのかと思わないでもないのだが、三大欲求はやはり偉大なのである。

 

「ヒビキ~? 女たちの手伝いをすれば、お前も御馳走にありつけるピョロよ」

「しゃ、しゃあねえな~。たまたま暇だし、手伝ってやるとすっか」

 

反論にもならない反論をしながら再び歩き出す。その背後でほくそ笑むディータが一度振り返ると、慌ててヒビキたちの後を追った。口を挟んでいなかったが、背後には興味津々だったのか、ドゥエロとバートの姿もあったのだった。

 

 

 

「ったく…一体ここで何しろってんだよ」

 

物置と思われる一室に移動したヒビキが、ダンボールに腰を下ろしながら悪態をついた。

 

「ん? ツリーに飾る電飾を探すんだピョロ」

 

ピョロがいくつも積んであるダンボールをひっくり返しながら答える。

 

「へー…こんな部屋があったんだぁ…」

 

入口のところで物珍し気にディータが室内を見渡した直後、大きな騒音が響き渡った。

 

「痛てて…」

 

見ると、ヒビキが背後に倒れている。どうやら寄りかかっていた壁がドアだったらしく、そのまま開いて背中から倒れ込んだようだった。

 

「うわー…」

「何だこりゃ?」

 

図らずも隠し部屋になっていた部屋に足を踏み入れた四人が、そこにあるものを見て声を上げた。椅子や食器棚、テーブルに人形など、どうやらこの部屋はリビングダイニングらしい。だが勿論、そんなことはわからない四人は戸惑っている。

 

「植民船時代の品のようだな」

 

ドゥエロがそのうちの一つ、無造作に置いてあって埃を被っている画材のキャンバスをなぞりながらそう答えた。長い年月の経過で埃を被ったキャンバスには、当然のように指を滑らせた跡が線になる。

 

「植民船時代?」

「ああ」

「ねえねえ、これ何かな?」

 

ドゥエロとヒビキが言葉を交わした直後、室内を物色していたディータがあるものを手に取って尋ねた。それは、『Xmas with family』というラベルの貼ってある、一本のVHSテープだった。

その頃、トラぺザ。未だにクリスマスディナーの調理の真っ最中であり、いつの間に増えたのか、キッチン以外のクルーたちも調理を手伝っている。そしてその中にはレジから場所を移しているシュバルツの姿もあった。これが先程シュバルツの言っていた『先約』である。他のテーブルでは数人で合同作業しているのが普通なのだが、シュバルツの調理しているテーブルにはシュバルツ以外には誰もいなかった。

クルー個人個人によって距離感に違いはあるものの、まだそこまでガッツリ踏み込めるクルーはいないようである。もっとも、周囲の注目はキッチリと集めていたが。それは、男が料理をすることに対する興味・関心と、その腕前が自分たち以上であることに対する羨望・嫉妬といった複雑なものが絡み合っていた。勿論、シュバルツ自身はそんな視線をわかってはいるが、面倒なので特段反応しない。

 

(ふむ…次は何にするか)

 

現在調理中の一品を作り終えたシュバルツが考え込む。クリスマスディナーということと女の調理ということもあってメニューは当然洋食ばかりだ。そのため、シュバルツはあえて和食関係のメニューを作っていた。いくら美味しい料理でも似たようなものばかりではどうしても飽きが来てしまうのは拭えない。そこで、箸休めというか目先を変えるために、一人だけ和食を中心とした料理を作っていたのだった。そこかしこからいい匂いがするが、それはシュバルツの作った料理でも当然同じであり、それに引き寄せられる面々が近づいてくる。

 

「美味しそう…」

 

思わずそう呟いたジュラが煮物を一つ手に取ってパクッと口にした。次の瞬間、パアッと顔を輝かせる。

 

「ヤダ! すっごい美味しい!」

「どれどれ…」

 

いつものように一緒にいるバーネットもひょいっと煮物に手を伸ばして味わい、

 

「んん!」

 

じっくりとその味を堪能しながら目を丸くした。

 

「ホント、美味しいわ」

「でしょでしょ♪」

 

自分が作ったわけでもないのに誇らしげに言うジュラ。そして、それを皮切りに何人かシュバルツのテーブルに集まる。そしてそこに並んでいる料理を見て、ほほーと感心したり、うわぁと目を輝かせたり、初見のものでもあるのか何これといった表情で首を捻ったりと多種多様な表情をしていた。が、彼女たちは弁えているのかジュラやバーネットと同じように手を伸ばしてつまみ食いをしようとはしない。が、

 

「どれどれ、こっちは…」

 

よっぽど気に入ったのか、ジュラは違う料理に手を伸ばそうとした。と、手を伸ばそうとする少し先の位置にフォークが突き刺さる。

 

「っ!」

 

ビックリして顔を上げると、

 

「行儀が悪いぞ」

 

呆れた声と表情でシュバルツがジュラを見ていた。

 

「う…」

 

指摘され、ジュラは渋々ではあるが手を引っ込めた。威嚇したわけではないのだが、思うところがあるのそれとも恥ずかしかったのか、珍しく素直で少し顔が赤くなっている。

 

「全く…」

 

続けて呆れ顔でシュバルツが溜め息をついた。それを見て、バーネットをはじめとするテーブルを取り囲んでいた連中は同じ真似をしなくてよかったとホッと胸を撫で下ろしていた。

 

「食欲が旺盛なことは結構なことだがな、つまみ食いはいただけんな」

「何よ、ちょっとぐらいいいじゃない。ケチ!」

「子供か」

 

イーッと不満を表すジュラに三度シュバルツが呆れ、そして取り囲んでいた連中の何人かがシュバルツの指摘にプフッと笑いを漏らした。その漏れた笑い声に、ジュラが不服そうにキッと睨み、心当たりのあるクルーは慌てて笑いを収めるか目を逸らすのだった。

 

(やれやれ…)

 

成熟したボディラインとは対照的に精神年齢が幼いジュラにシュバルツは内心で溜め息をつく。もっとも、そのギャップがジュラの魅力でもあるのだろう。バーネットがなんだかんだジュラを見捨てないのはその辺りも関係しているんかもしれない。

 

「でもま、本当に美味しいわよ」

 

事態を収めるためだろうか、それとも素直に称賛しているのか、バーネットがそんな感想を口にした。

 

「そうか。では、額面通りに受け取っておこう」

「まだるっこしい言い方するわね…。素直に受け取りなさいよ」

「失礼」

 

ムッとしたバーネットにシュバルツが苦笑しながら謝罪する。そのやり取りに、集まったクルーたちがクスクスと笑いだした。と、いきなり食堂にウインドウが展開する。

 

「ん?」

「なになになに~っ?」

 

今までどこにいたのか、パイウェイがひょいッと顔を出してウインドウを覗き込む。他のクルーたちも。いきなり出てきたウインドウに何事かと作業の手を休めて見ていた。ウインドウはある映像を映し始める。暗転から始まったその映像は暖炉、クリスマスツリー、そして豪華なディナーを前にソファーに座って談笑する母親と娘の姿があった。母親の腕の中にはまだ生後間もない赤ん坊の姿もある。その微笑ましい光景に、クルーたちも和んだ声を上げた。と、娘が映像を撮影している人物にこっちに来るように手招きする。カメラを固定するために少し映像が乱れるが、やがて撮影者が現れてソファーに座った。その人物に今度はクルーたちが戸惑いと驚きの声を上げる。そこに座ったのは男だったからだ。

目の当たりにしたその光景に、クルーたちのざわめきは収まらない。

 

「お、男と一緒に…」

「う、嘘…」

 

その、タラークとメジェールの価値観からすれば衝撃映像にジュラたちも、ヒビキたちも、メイアも固まっている。そんな中、

 

「凄い! 凄い! すっごい!」

 

一早く復活して歓喜の声を上げたのはディータだった。クルーの中で男女の在り方に対して現状一番フラットに捉えられているのがディータなのだから当然かもしれない。また、その中に着眼点が違う者も一人。

 

「ちっちゃい人間…ピョロと同じぐらい…赤ん坊…」

 

ピョロである。初めて見る赤ん坊の姿に何か思うことがあったのか、そんなことを呟きながら映像の赤ん坊だけをジッと見ていた。そしてもう一人、

 

「そこの調味料取ってくれるか?」

「えっ? あ、う、うん…」

 

シュバルツである。クルーから調味料を受け取ったシュバルツは、

 

「ありがとう」

 

と礼を言うと、調理を再開し始めたのだった。

 

「何か…随分と…淡々としてるわね」

 

今も続きが流されている映像のショックからようやく復帰したバーネットがシュバルツに尋ねた。

 

「あの映像か?」

 

親指で背後を指し示したシュバルツに、ジュラやバーネットを含めた周囲のクルーたちが一様にうんうんと頷く。

 

「お前たちには衝撃映像かもしれないが、私にとっては普通の映像だからな。一家のクリスマスの家族団欒の映像など、物珍しいものではない」

「でも、男と女が一緒なのよ!?」

「それがどうした」

 

食い下がったジュラを、シュバルツが一刀両断した。

 

「ど、どうしたって…」

 

当然のようにそう返されて、ジュラが思わず口ごもる。

 

「今も言ったな、お前たちには衝撃映像であっても、私にとっては普通の映像だと。そういう環境下で私は育ってきたのだ。私からしてみれば、男だから女だからという理由だけで争い合うお前たちの方が理解に苦しむ」

『……』

 

ハッキリとそう言われて、その場にいたクルーたちは返す言葉がなかった。今までも自分たちに敵愾心を見せないどころか普通に向き合うシュバルツに対して、その加入経緯から異質な存在だということは理解していたものの、こうまで当然のようにハッキリと言われてしまうと絶句してしまう。と同時に、疑問に思い始める者もチラホラ出始めるていのだ。果たして自分たちの価値観は本当に正しいものなのかと。

 

「それよりさっさと持ち場に戻れ。作りかけの状態でいつまでも料理を放置しておくな」

 

シュバルツに指摘されてハッとなったクルーたちが慌てて自分たちのスペースに戻って調理を再開し始めた。各員の心に大小とはいえしこりが残り、それがまた後に起こる事態に微妙に影響を与えるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

「お、男と女が一つ屋根の下にー!」

「鎮静剤だ。飲んでおけ」

 

医療室。興奮しながら吠えるバートに、ドゥエロがいつもの淡々とした様子で鎮静剤を渡す。バートはそれをひったくるように受け取ると、勢いよく体内に流し込んだ。その側で、

 

「……」

 

ヒビキは床に腰を下ろし頬杖を付きながら先程の映像を思い出していた。あれが本来の在り方なのかもとヒビキが考える一方で、素直にそれを受け入れる者も。

 

「素敵、素敵、素敵~!」

 

ディータである。自室に戻り、先ほどの映像に大興奮、大満足のディータがテンション上がったままベッドに身を預けた。

 

「素敵すぎる~♪」

 

そして、うっとりとしながらそう続ける。ディータの膝の上には彼女謹製と思われる、お手製のクリスマスプレゼントがあった。勿論、それを渡す相手はヒビキである。そこに、その幸せを邪魔するような震動がニル・ヴァーナを襲った。

 

「え?」

「何だ!?」

「敵襲か!?」

「いえ、何も見当たりません」

 

ブザムの問いに対し、アマローネがコンソールを操作して周囲の状況を確認し回答する。

 

「彗星のデータは、まだか」

「は、はい」

 

指示を受けたエズラがデータを分析し結果を報告する。彗星というのは先程少々話にも上った件の彗星である。ニル・ヴァーナの進行上を並走するように移動している彗星の姿があるのだ。

 

「表面は全て氷のようです。人工物は何も見当たりません」

「一体、どういうことだ」

 

つい先ほどの震動の原因として一番考えられる彗星が何も変化がないことが報告され、ではなぜあんな震動が…と訝しんだ矢先、ブリッジのすぐ側で爆発音とついで黒煙が上がった。

 

「タハハ…やっちゃったぁ…」

 

晴れた黒煙から姿を現したのはパルフェだった。

 

「やっぱり無理ですかね、雪、降らせるの」

 

メカニッククルーの一人が煤まみれになったパルフェと煙を上げるマシンを交互に見ながら話しかけた。このクルーの言った通り、煙を上げている機械は降雪機である。クリスマスの演出用に調整を頑張っているのだが、状況は芳しくないようだ。だが、

 

「まだまだ! 絶対ホワイトクリスマスにしてみせるんだから!」

 

上手くいかないことに逆に火が点いたのか、パルフェは俄然やる気を漲らせていた。

 

「でもこのままじゃ、イブのパレードに間に合いませんよ?」

「そっかぁ…。やれそうなこと…」

「ダメ!」

 

クルーから指摘を受けて軌道修正しようとしたパルフェ。そこに横槍が入った。パルフェが顔を向けると、そこには憮然とした表情のジュラと一緒にこの場に来たバーネットの姿があった。

 

「ジュラはイヤよ。雪のオブジェのないクリスマスなんてイヤ!」

「って言われてもねぇ…まあ何とか頑張ってみるけど…」

 

不満を漏らすジュラに力なく答えるパルフェ。そして、

 

「何やってんだ、あいつら」

 

ヒビキが少し離れたところでその様子を呆れながら見ていた。

 

「スノーマシーン」

「んん? うおっ!?」

 

横から声が聞こえたことで思わず驚いてしまう。誰に聞かせるつもりもなかった愚痴に反応があったのだ。驚くのも無理からぬことではなかった。そしてその声の主…パイウェイがひょこっと顔を出す。

 

「パルフェがアタシたちのために、このニル・ヴァーナ内に雪を降らせようとしているのよ」

 

いつものようにチェック用のメモを走らせながらそこまで話し、そして、

 

「男と違ってなーんて気が利いてるケロー!」

 

後半はいつものようにカエルのバッグを使用しての腹話術でヒビキを揶揄する。少しの間呆然としていたヒビキだったが、

 

「お前、普通に話できねえのかよ!」

 

毎度の腹話術での会話にイラっとしたのかヒビキが詰め寄った。だがパイウェイ、腹話術用のカエルバッグ共にツーンと横を向いて口を閉じてしまう。そして間髪入れず、

 

「で? あなたは何にするつもり?」

 

と、ヒビキに尋ねた。

 

「あぁ?」

「プレゼント。まさか用意してないなんて馬鹿なことないわよねぇ?」

 

パイウェイが詰め寄る。その様子を、盗み見というわけではないが操縦システムと融合したバートがシステムの中から見ていた。

 

「女にとっては、ハートが通じ合う大切なイベントなのよ?」

 

その指摘に、ヒビキがたじろぐ。そしてそこを見のがなさいといったばかりにパイウェイとカエルがジト目でヒビキを睨んだ。結果、

 

「うっとうしいんだよ。どいつもこいつも浮かれやがって」

 

そう悪態をつきながら、ヒビキはその場を逃げるしかなかったのだった。その振る舞いから、何も用意していないことは明らかである。もっとも、タラークにはクリスマスの文化がないのだから責めるのは酷というものだろう。そして、

 

「ふ~ん…」

 

そのやり取りを図らずも聞くことになったバートがニヤリと悪そうな笑みを浮かべたのだった。

 

「ったく、バカバカしい…」

 

そんな捨て台詞ともとれることを言いながらヒビキはブリッジを後にするべくエスカレーターで昇っていく。その背後で、

 

「確かに、パルフェのミスなんだな?」

 

先程の震動がどうにも気になるのか、念を押すようにブザムがクルーたちに確認している。アマローネ、ベルデウェール、エズラといったいつもの面々の中に、何故かクマの着ぐるみがいることを記しておく。だが誰も気にしないので、ある意味いつもの光景なのだろう。

 

「はい」

「パルフェちゃんは、私たちのために雪を降らせようと頑張ってくれているんです。叱らないであげてくださーい」

「わかっている。しかしだな…」

「副長、雪のオブジェのないクリスマスなんて、悲しすぎますよ」

 

エズラ、ベルデウェールが訴える。ブザムは直接はその訴えに返答はせず、顔を上げてスクリーンに視線を向けた。そこには、ブザムがどうにも気になっている彗星の映像が表示されていた。

 

「このままいけば、ジャストクリスマスに彗星付近を通過する。今年はそれで十分だろう」

「でもぉ…外にあっても眺めてるだけになっちゃうし…」

 

諭されても納得いかないのか、ベルデウェールが食い下がる。離れた場所ではあったが図らずも彼女たちの会話内容を聞くことになったヒビキが彗星の映像、そして彼女たちに交互に目をやって何か思いついたのだろう、ニヤリと微笑んだ。

ブリッジでそんなことになっているのと同時刻、格納庫ではメイアが出撃しようとしていた。

 

「ん?」

 

エレベーターの駆動音に気付いたガスコーニュが振り返る。ディータたち三機のスペシャルドレッドのメンテナンスをしていたようだ。

 

「おや、パレードはいいのかい?」

「こういうときこそ油断していられない。周辺を調査してきます」

「おや、ご立派なことで…」

 

その姿に頼もしく思いながらガスコーニュが微笑んだ。と、

 

「店長」

 

自分の補佐をしているクルーの一人が呼びかける。

 

「ん?」

「この椅子、大きすぎて入らないんですけど…」

「うわあっ…」

 

指摘されて設計をミスったことがわかり、ガスコ―ニュはがっくりとうなだれたのだった。そうしている間にも各所ではクリスマスの準備が刻一刻と進んでいる。トラぺザでは相当数のクルーが今も調理中だ。そんな中に、

 

「宇宙人さーん?」

 

こういう状況下だというのにいつもと変わらずマイペースにヒビキを探すディータの姿があった。そして、

 

「……」

 

ブリッジではブザムが一人作業に励んでいる。そこに、

 

「今日ぐらい、あんたものんびりしたらどうだい?」

 

サンタコスに身を包んだマグノが少し呆れた口調でそう伝えた。仕事熱心なことはいいことだし頼れる副長なのだが、息を抜くときは息を抜くのもまた必要なのである。しかし、

 

「そうは言っても」

 

やはり進行上にある彗星が気になるのか、ブザムからは芳しい返答は聞かれなかった。マグノも半ばこうなることは予想していたのか無理強いをしようとはせず、

 

「おっと、準備が完全じゃなかった。あー、忙しい、忙しい」

 

と、手を挙げてその場を去ったのだった。その後ろ姿と、デコレートされたブリッジ各所に目をやったブザムが疲れたように息を吐くと、作業を再開した。そのブザムを、

 

「……」

 

ブリッジの入り口付近でドアに寄りかかりながら腕を組んでバートが見ていたのだった。何故かその口元に笑みを浮かべながら。一方でメイアは、先ほど自分が言ったように彗星の調査のためその先端部へと到達しようとしていた。そしてその死角にはもう一機の機影の姿が。

 

「へへ…」

 

ニヤリと笑みを浮かべたのはヒビキである。

 

「あんだけデカきゃ、文句はねえだろ!」

 

そう言って、そのまま彗星へと突っ込んだのだった。各人が各人の思惑で動く中、先程ヒビキたちが偶然見つけたリビングダイニングにも思惑を抱いている者が一人、姿を現した。シュバルツである。そして、

 

「……」

 

薄暗いその中を光源で照らすと、シュバルツはリビングダイニングを静かに物色し始めたのだった。

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