機動武闘伝Gガンダムヴァンドレッド   作: ノーリ

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おはようございます。本来なら今回から原作第十話に行くところですが、その前に幕間回になります。
原作では次からファーストシーズンの山場ですが、その前の一休止といったところです。

では、どうぞ。


NO.22 幕間 ニル・ヴァーナの新たな日常その3 劇中にはなかったが必ずあったであろうこの光景

少々のアクシデントはあったものの、無事(?)にクリスマスを迎え、楽しむことができたニル・ヴァーナ一行。本来ならば、大きなイベントであっても終了したら普段の生活に戻っていくものだが、今回はそうでもなかった。それは、このすぐ後に迎える、もう一つの大きなイベントがあるからだ。

 

 

 

 

 

「……」

 

ブリッジ。ブザムがコンソールに座りながら右に目を走らせる。そこにはアマローネがウキウキとした表情で飾り付けを行っていた。

 

「……」

 

今度は左に目を走らせる。そこではベルデウェールが他のクルーと何やら打ち合わせいている。こちらも普段の様子とは違って楽しそうにしているのがわかる。

 

「…エズラ、周囲の「副長~」」

 

諦めてエズラに周囲の状況を確認しようとしたブザムだったが、機先を制してエズラが話しかけてきた。その手には、安産祈願と家内安全の御守りが握られている。

 

「どちらの御守りがいいと思います?」

 

そして、満面の笑みを浮かべながらそんなことを聞いてきたのだった。

 

(またか…)

 

つい一週間前も似たようなやり取りをしていたことを思い出したブザムが、その時と同様に深く溜め息をつくと、

 

「…好きな方にしなさい」

 

と、疲れたように返事をしたのだった。

 

「えぇ~…どうしよう~、決められな~い…」

 

態度こそ素っ気ないが言質を取ったということの方が重要なのだろうか、エズラはウキウキしながら困り顔になりつつも嬉しそうにその場を去っていった。

 

「はぁ…」

 

諦めたように一息つくと、ブザムはせめて己だけでもと仕事に復帰したのだった。

 

 

 

 

 

「またかよ」

 

医療室にて。タラークの男三人衆がダベっている。艦内の状況が映し出されたウインドウを見ながら、頬杖を着いて寝そべっているヒビキが呆れたように呟いた。

 

「女ってぇのは、どうしてこう催し物が好きなのかねぇ」

 

ウインドウの先で忙しなく動く女性陣を見ながら、ヒビキが続けた。

 

「催し物じゃなく、イベントって言うんだピョロ」

 

そこに、ピョロが突っ込んだ。

 

「イベント?」

「何か意味に違いがあるのか?」

「ないピョロよ」

 

バートの質問にピョロがあっさりとそう答え、ヒビキがズッコケた。

 

「ったく、何だよ、そりゃ」

「言い方っていうものだピョロよ。お前が乗っている蛮型だって、女たちはヴァンガードって言うでしょ? あれと同じだピョロ」

「成る程」

 

ピョロの説明に得心がいったのか、ドゥエロが頷いた。

 

「…んで、こいつらは何をやってんだ?」

「新年を迎える準備だピョロ。見たら大体わかるでしょ?」

「いや…」

「わからんな」

 

バートとドゥエロの返答に、先日のクリスマスの時と同様にピョロが訝しがった。

 

「じゃあ、タラークはどんなふうに新年を迎えているんだピョロ?」

「どんなって…普段と変わらねえよ」

「そうだねぇ。僕なんかは得意先への挨拶回りとかあったけど、やること自体はねぇ…」

「違う点と言えば、上層部から政見放送があるぐらいのものか」

「ああ。今年こそは女どもを滅ぼすぞって、あれでしょ? 毎年毎年同じこと言ってるんだもん。こっちとしては、ハイハイ御苦労様ってな感じだけどね」

「それだけかピョロ?」

「それだけだ」

「逆に何かあるのかよ?」

「…どうして男と女でここまで生育環境が違うんだピョロ…」

 

タラークとメジェールの違いにまたもや愕然とするピョロだった。

 

「…まあ今はそれは置いとくピョロ。とにかく、今女たちがやってるのは新年を迎える準備ということピョロ」

「ふ~ん…」

 

モニターの向こうであくせく動いている女たちを見ながら、ヒビキは興味なさそうに欠伸をして呟いた。

 

「お前たち、どうせ今ヒマしてるんだったら、手伝ったらどうピョロか?」

「手伝うってもなぁ…何すりゃいいのさ?」

「確かに。メジェールの新年を迎えるときの行事など知らないからな」

「内容はわからなくても、単純作業は出来るでしょ? 力仕事なんか男にはもってこいじゃないかピョロ」

「え~…」

 

単純作業の力仕事というワードにバートが露骨にイヤそうな表情をした。それに続けて、

 

「やなこった、めんどくせぇ」

 

ヒビキも否定する。唯一ドゥエロだけは、

 

「私は別に構わないが…手を出してもいいものなのかどうか」

 

と、前向きな返答をした。

 

「どういう意味だピョロ?」

「メジェールの行事にタラークの人間が手を出していいものかと思ってな」

「今更何言ってるんだピョロ? 先週、クリスマスやったでしょ? それに、女たちがその気ならお前たち捕虜なんかにならずにとっくに始末されてるピョロよ」

「それはまぁ、確かに」

 

バートが頷く。

 

「第一、もう手伝ってる男がいるのはお前たちだって知ってるでしょうが」

 

その言葉とともに、あるウインドウが拡大される。三人が視線を剥けたそのウインドウの先にいるのは、ここにいない唯一の男、シュバルツの姿だった。

 

 

 

 

 

トラぺザ。先週のクリスマス同様、正月用の料理の準備中で多くのスタッフが慌ただしくしている。もちろん、そこに詰めているスタッフは全員女性なのだが、その中で唯一の男の姿があった。シュバルツである。従来の料理の腕を見込まれ、クリスマス時と同様に調理を頼まれたのだ。

その周囲には少し空間…隙間があるものの、居心地、雰囲気としては悪くない。最初は男が料理なんて…と、露骨に警戒されたこともあったが、これまでの積み重ねと何よりシュバルツ自身の人間性もあって個人差はあるもののクルーたちの関係性は良好になっている。それは、この距離感からも見て取れた。最初はそれこそ遠巻きに怯えや敵愾心満載だったので結構な距離を取られていたのだが、共同生活を送る中で少しずつ関係性を良化させ、大分距離感が縮まっていたのだ。勿論、個人差はあるが。とはいえ、

 

「おっきい宇宙人さん♪」

 

独特の呼び名にシュバルツが振り返ると、そこには何の警戒心もなくニコニコ微笑んでいるディータの姿があった。このように最初から無警戒の、ある意味能天気というか距離感のないクルーもいるのだが。

 

「よ」

 

そして、その後ろにいるガスコーニュが軽く手を挙げた。

 

「お前たちか。珍しい組み合わせだな」

「そぉ?」

「レジとドレッド乗りだから別に珍しい組み合わせじゃないんだぜ? とは言え、ディータにはもう少しシッカリしてもらいたいけどね」

「えー、ガスコさん、ひどおぃ!」

 

直後、ガスコーニュはブーブー文句を言うディータの頭を抑えつけ、

 

「ガスコじゃないよ。ガスコーニュ!」

 

と、半ば脅しながら訂正したのだった。そんな、もう大分見慣れた光景にシュバルツがフッと微笑む。そして、

 

(在りし日の私とあいつのようだな…)

 

まだ弟が幼い時のことを思い出していた。だが、それも一瞬のこと。

 

「何か用か?」

 

突然の訪問に、シュバルツが用件を尋ねる。

 

「ねえねえ、宇宙人さん知らない?」

 

ある意味予想通りの言葉にシュバルツが苦笑する。そして、ウインドウの先のヒビキはゲッと言う表情になった。

 

「知らんな。自室ではないのか?」

「先に行ってみたんだけど、いなくて」

「そうか。となると、後ありそうなのは医療室か」

「そっか♪」

 

その会話内容をバッチリ聞くことになってしまったヒビキは、バッ、バカ野郎! 何やってやがんだ! と文句言いながら、慌てて医療室を退散した。その姿にバートとドゥエロが顔を見合わせると、共にやれやれといった表情になり、ピョロは本当に進歩がないピョロ…と呆れていた。まあ直後、ディータがトラぺザから退散したのでヒビキ的には正解の行動だったかもしれないが。

 

「やれやれ…」

 

シュバルツの言葉を聞いてトラぺザをすぐに後にしたディータに、ガスコーニュが肩を竦める。

 

「いいのか?」

 

ディータが去っていったドアをチョイチョイと指差しながらシュバルツが尋ねる。と、

 

「何を今更」

 

呆れたようにガスコーニュが答えた。

 

「こうなるのはわかりきった話だろ?」

「確かにな。愚問だった。それでガスコーニュ」

「ん?」

「改めて聞くが何の用だ」

「あー…陣中見舞い」

 

頭を掻きながらそう答えるガスコーニュだったが、どうにも取って付けた感が大きい。なので、

 

「本当か?」

 

と、シュバルツが突っ込んだ。すると、

 

「…後、冷やかし」

 

と、ガスコーニュはそっぽを向きながら白状したのだった。その返答に、シュバルツはクククと含み笑いを見せ、

 

「正直でよろしい」

 

と、珍しく揶揄したようなことを言ったのだった。その返答にバツが悪そうな表情になって頭をポリポリと掻くガスコーニュ。そんな光景を、他のクルーたちが遠巻きにしながら見ている。珍しい取り合わせということと、和やかな雰囲気に大半のクルーは目を丸くしているが。そこに、

 

「あら珍しい」

「ガスコさんじゃない。どうしたの? 何か用?」

 

近づいてきて声をかけたのがいつものジュラとバーネットだ。先日のクリスマス同様。また二人とも調理担当ということなのだろう。もっとも、相変わらず実際に調理するのはバーネットで、ジュラは指示を出す程度のことしかしないのだろうが。

 

「陣中見舞いさ。食いもんのことはあんたたちに任せっきりにしてるとはいえ、顔を出さないわけにもいかないだろ?」

「本業の方はいいのか?」

 

シュバルツが尋ねる。と、ガスコーニュがニカッと笑った。

 

「そっちが建て込んでたら、こっちに顔出すわけないだろ? 今やれることは全部終わってるさ。後は、正月を迎えるだけさね」

「そうか。まあ、それもそうか」

「そーゆーこと。だからこそ、こうやって陣中見舞いを兼ねてチョッカイ出しにきたんだよ。…後、バーネット」

「何?」

「ガスコじゃなくって、ガスコーニュ!」

 

お決まりの文句にジュラとバーネットが顔を見合わせて、やれやれといった表情になった。そこに、

 

「では丁度いい」

 

シュバルツが口を挟む。

 

「ん?」

 

何だと首を捻ったガスコーニュとジュラとバーネット。三人の視線の先でシュバルツは作っている料理を少し椀に盛ると、そのままガスコーニュに差し出した。

 

「味見してみてくれ。先程私も味見したし、問題ないとは思うが客観的な意見を聞きたい」

「おや、いいのかい?」

「ああ」

「それじゃ、遠慮なく」

 

ガスコーニュはその椀を受け取って口をつけ、胃の中に流し込みながら味わっていく。

 

「ぷはあっ!」

 

程なく、渡された味見用の椀を平らげたガスコーニュが満足した表情になって大きく息を吐いた。そして一言、

 

「いい味だよ」

 

と、正直な感想を伝える。

 

「そうか」

「ああ。これなら何も問題ないさ」

「ならばいい。お前のことだ、下手な世辞は言わんだろう」

「おや、あたしのことなら何でも知ってるってことかい? 嬉しいこと言ってくれるじゃないか」

「茶化すな」

 

シュバルツはガスコーニュから椀を受け取ると、そこでお互いに軽く微笑む。中々にいい雰囲気ではあるのだが、

 

(何よ…)

(何か…ムカつくわね)

 

ジュラとバーネットは目の前で見せつけられた(?)形になっている二人の雰囲気にモヤモヤとしたものを感じ、思わず口を挟んだ。

 

「ちょっと、ヒドイじゃない!」

「ん?」

 

いきなり割って入ってきたジュラにシュバルツが首を傾げた。

 

「何のことだ?」

「クリスマスの時のことよ! ジュラが味見しようとしたらあなた、フォーク投げて牽制したでしょ!?」

「おや、そんなことがあったのかい?」

「ああ」

 

何故おかんむりなのかがわかったシュバルツが頷いた。

 

「あのときはダメで、今はいいって言うのはどういうことよ!」

「都合よく記憶を改変しないでもらおうか。あの時お前がやろうとしていたのは味見ではなくつまみ食いだろう。それは咎めるというもの」

「何だよ。それじゃあんたが悪いんじゃないか、ジュラ」

「ーっ! だって、だって…」

「ハイハイ、その辺りにしときなさいよ、ジュラ」

「バーネットぉ~」

 

文句言ったがシュバルツとガスコーニュの両方から窘められて返り討ちを食らってしまいヘコんだジュラを、バーネットがよしよしと慰めた。

 

「面白くないかもしれないけど、言ってることはガスコさんたちが正しいんだからさ」

「でもぉ、でもぉ…」

 

諭されたのだが納得できない様子のジュラ。ジュラとしても無理から因縁付けたのを理解しているからか、強く言えないのだが、それでも精神性の幼さからか納得できずに駄々っ子のようになっている。

 

(やれやれ…)

 

そんな、ある意味実の弟以上に手のかかるジュラに対してふーっと息を吐くと、シュバルツはもう一度、今度は椀二つに先ほどのガスコーニュと同じように調理中の料理を盛った。そして、同じようにジュラとバーネットの二人に差し出す。

 

「味見してくれ」

「ワォ!」

 

すぐさまジュラがパッと顔を輝かせてその椀を奪い取って口をつけた。対照的に、

 

「え…いいの?」

 

遠慮がちにおずおずと聞いてきたのはバーネットだ。

 

「ああ」

「そ、それじゃあ…」

 

おずおずと受け取って同じように味を見る。その二人の姿に、あんたも大変だねとガスコーニュにぽんと肩を叩かれ、シュバルツとしては苦笑するしかなかった。直後、

 

「美味しぃ♪」

 

ジュラが満足そうに笑みを浮かべ、少し遅れて、

 

「ごちそうさま」

 

と、バーネットが椀を置いた。

 

「相変わらずいいお味だったわ」

「そうか」

「ねえ…もう少し。ダメ?」

「調子に乗るんじゃないよ、ジュラ」

「むー…」

 

ガスコーニュに釘を刺され、ジュラが頬を膨らませる。その姿に、今度はバーネットまで含めて三人で苦笑するしかなかった。

 

「しかし何だね、あんた、ホントに料理が上手いね。驚いたよ」

 

ガスコーニュが先ほど味わった味見のことを思い出して感心したようにそう言う。

 

「そうか」

「だからかい? 他の連中とは違うもん作ってるのは」

 

周囲のクルーたちとシュバルツが作っている料理を見比べ、ガスコーニュが気になっていた点を尋ねた。確かに、今周囲のクルーが作っている品とシュバルツが作っている品は別物である。

 

「いや、そういうわけではない。単なる作業分担だ。他のクルーがお節を作るので、私は汁物を作ろうと思っただけだ。どうせなら色々とあった方がいいだろう?」

「それはまあ、確かに」

 

バーネットが頷く。今のシュバルツの言葉通り、クルーたちが作っている料理はお節であり、シュバルツが作っているのは汁物…雑煮であった。何しろクルーは相当数なので、デカい寸胴いくつかに分けての調理中である。そしてもう一つ。

 

「あっちは?」

 

そう言ってバーネットが指さした先には、やはり同じように寸胴が複数個あった。

 

「甘い匂いがするわ…」

「大した鼻だな」

 

ジュラの呟きにシュバルツがふっと息を吐く。

 

「あっちは汁粉だ。主菜は当然だが、甘味も欠かせんだろう」

「甘いものってわけか」

「いいわね!」

 

ジュラがぱあっと顔を輝かせた。その様子に三人はやれやれとばかりに苦笑する。

 

「両方とも大体完成してはいる。後は、最後のメイン食材を作るのみだ」

「メイン食材って?」

 

それを尋ねようとした矢先、トラぺザのドアが開く音がした。そして、

 

「おい、いい加減放せよ!」

「わかったってば」

 

いつも通りの賑やかな掛け合いが聞こえてきた。顔を向けると、そこにはディータに捕まって引っ張られてきたヒビキと、ヒマだったのか、後ろにはドゥエロとバートの姿があった。

 

「ほう、丁度いい」

「ん?」

「何よ?」

「どうかした?」

 

シュバルツの呟きに三人が首を捻る。が、シュバルツはお構いなしに調理の手を止めると、ヒビキたちに向かって歩いていったのだった。

 

 

 

 

 

「さて。では、よろしく頼む」

「チッ、わーったよ」

「何で僕まで…」

「ふむ、興味深いな…」

 

ヒビキたちがトラぺザに現れてから少し後、トラぺザの一角にはタラークの男三人衆の姿があった。ぶつくさ文句を言うヒビキの手には杵が握られ、横にいるバートの側にはもち米の入った臼があり、二人から少し離れたドゥエロの側には大きめのバットが何段か積んである。

そう、三人がこれからやろうとさせられているのは餅搗きである。正月のメイン食材であり、大量に必要なのが餅だ。それはメジェールの文化でも同じであるらしく、餅づくりも当然実施しなければならないことであった。普段は機械によって搗いているらしいのだが、臼や杵自体がないわけではないとのことで用意してもらったのだ。

 

「働かざる者食うべからず。御相伴にあずかりたいのならば協力してもらおうか」

「宇宙人さん、そのエプロン似合ってるよ!」

「ばっ、バカ野郎! んなことどーだっていいだろーが!」

 

誉められたのが気恥ずかしいのか、それともただ単に自分の姿が恥ずかしいのかヒビキが噛みついた。ドゥエロ、バート共に同じエプロンをしてはいるのだが、ヒビキにしか声援がない当たりやはりディータである。

 

「やり方は先ほどの説明通り。それから、タイミングを外すと杵で手を搗きかねんからな。くれぐれも返すときには気をつけることだ」

「で、そういう危険な役目は僕…と」

 

ガックリとバートが肩を落としていじける。

 

「別にどちらがどちらでも構わんが、杵を振り回す方がいいか? これも中々の重量物だから、身体がパンパンになると思うが」

「いーです、いーです。要はタイミングさえ間違えなきゃいいんでしょ? わかってるよな?」

 

バートがジト目になってヒビキを睨んだ。

 

「あぁ!? 俺がそんなマヌケな真似するわけねえだろ!」

「さっすが宇宙人さん!」

 

鼻息荒くヒビキが噛みつくものの、それを真に受けるのはディータぐらいのもので、他の面々は半信半疑だった。

 

「…とにかく頼む。お節の進捗具合は私の担当ではないためわからんが、雑煮と汁粉に関しては後は餅だけだからな」

「わーったよ!」

「頼むぜ、ホントに」

「うるっせえ! ごちゃごちゃ抜かすな!」

(不安しかないな…)

 

ヒビキとバートのやり取りを少し離れたところから見ているドゥエロの偽らざる感想である。だが、変に口を挟んで余計な火の粉が飛んできてもらっても困るため何も言わない。何とも不安な雰囲気の中、こうしてタラークの男三人衆協賛による餅づくりが開始されたのだった。

 

 

 

 

 

『いただきます!』

 

トラぺザ。全員の言葉が重なって楽しいお食事が始まった。紆余曲折あったものの、あの後どうにかこうにか餅も完成し、マグノ一家は新年を迎えることができたのである。思い思いに歓談しながら料理に舌鼓を打つクルーたち。

 

「はい、宇宙人さん。あーん…」

 

当然のようにヒビキの横に陣取ったディータがヒビキに手ずから食べさせようとする。が、

 

「やめろ! テメエで出来るよ! ガキ扱いすんな!」

 

当然のごとくヒビキは拒絶し、雑煮の入った椀に齧り付いた。そして、

 

「うまっ!」

 

その初めて味わう味に目を輝かせながらがっついていく。

 

「あぁん、もう。ディータが食べさせてあげるのに…」

 

無視された形になったディータは残念そうな表情だ。そんなディータの声が聞こえなないのか、それとも聞こえているがこれ以上絡まれたくないからあえて無視しているのはかわからないが、ヒビキはディータに反応することなく椀に齧り付く。

その、ある意味ではいつもの光景にドゥエロがふっと軽く微笑みながら自分も雑煮に口をつけた。

 

「…成る程。初めて味わうが、確かに美味だな」

 

タラークにずっといたらついぞ味わうことのできなかったであろう味わいに深く感動して何度も頷いた。そして、隣に目をやる。

 

「大丈夫かな?」

「大丈夫なわけないでしょ…」

 

さめざめとバートが涙を流した。バートの前にも当然椀や、何だったらテーブルの中央にはお節もあるのだが手は伸びない。シュバルツの危惧通り、ヒビキの杵がバートの手を直撃したため、手を使えない状態になってしまっているのだ。そのため、せっかくのご馳走もありつくことができないのだった。

 

「もう…何でいつもいつもこうなるのさ…」

「仕方ないピョロねぇ…」

 

さめざめと涙を流すバートに同情したのか、ピョロがレンゲを持ってきて雑煮を掬った。

 

「ホラ、食べさせてやるから口開けるピョロ」

「お! 悪いな!」

 

思わぬところからの救いの手にバートの表情が一変してあーんと大口を開けた。その口の中に、ピョロが掬った雑煮を流し込んでいく。

 

「おお、こりゃ美味い!」

「お気に召したようだな」

「召す召す! ほら、次早く」

「…図々しい奴だピョロ」

 

呆れはするものの、バートの現状から拒否する気にはなれずにピョロはその後も給仕してあげたのだった。

 

「手の具合については食事の後に改めて診察しよう」

「あ、お願いしや~す!」

 

手厚い看護を受けてすっかり機嫌をよくしたバートがいつもの軽い調子になって答える。こうして、賑やかな食事は続くのだった。

 

 

 

「相変わらず賑やかだねぇ…」

 

ヒビキたちのいるテーブルから少し離れたとあるテーブル。そんなヒビキたちを肴に雑煮を味わい、呆れとも関心ともつかない様子でそう呟いたのはガスコーニュだった。

 

「ホント」

「ディータも良く飽きないわよね」

 

同テーブルのジュラ、バーネットも同意する。二人ともガスコーニュと同じようにしっかり雑煮を味わいながら同じような感想を述べていた。

 

「しかし、本当に美味しいわね。このお雑煮」

 

バーネットが感心したように自分の椀を覗き込む。

 

「あたしらの味付けとはまた違うからね。その辺りも関係してはいるかもしれないけど、それでも美味いのは間違いないさね」

 

ガスコーニュも感心する。そして、

 

「おかわり、行ってくるわ」

 

満足げな顔でもう椀の中身を食べつくしたジュラはそう言って席を立ったのだった。

 

「良く食うことで…」

 

ガスコーニュが苦笑する。そして、

 

「あ、あたしも…」

 

少し遅れ、バーネットも同じように席を立った。ジュラがガスコーニュに揶揄されたの聞いたからか、何となくきまり悪そうな顔をしているが、それでも食欲には敵わないのだろう。

 

「はいはい、ご勝手に」

 

ヒラヒラと手を振るガスコーニュを尻目に、バーネットはそそくさとジュラの後を追ったのだった。

 

(そう言やぁ、これ作った本人は何処行ったんだ?)

 

連れのいなくなったテーブルでガスコーニュが辺りをキョロキョロ見回す。ガスコーニュが不思議に思ったようにこの雑煮と汁粉を調理した人物であるシュバルツの姿はトラぺザになかったのだった。ではその頃、当のシュバルツはと言うととある場所にいた。

 

 

 

 

 

「わぁ♪」

「美味しそう…」

「ありがとうございます~」

 

ブリッジ。いつもの三人と、そしてクマの着ぐるみがパチパチと手を叩いて喜んでいた。

 

「喜んでいただけたようで、光栄だな」

 

その側にいるのはガスコーニュがトラぺザで姿を探していたシュバルツだった。正月と言えども全員が持ち場を離れられるわけではなく、運用上、こうやって通常業務をこなさなくてはならない人員はどうしても出てくる。そう言った連中のためにシュバルツは正月料理の出前に来たのだった。そして、まずそのターゲットになったのがブリッジというわけである。

三人+一匹は自分たちのコンソールから一番近いテーブルに集まるとそそくさと雑煮を椀に盛り、お節を広げ始めたのだった。

 

「お前たち、仕事を「BC」」

 

緩んだ空気と、仕事放棄ともとられかねない態度に口を挟もうとしたブザムだったが、そのブザムをマグノ制した。

 

「はい」

「言いたいことはわかるよ。でもね、持ち場を完全にほっぽり出してるわけじゃないんだ。あたしの顔を立てて、目を瞑ってくれないかい?」

「…わかりました」

 

正直納得してはいない様子ではあったが、確かに持ち場を完全に放棄しているわけではないことと自分たちがここにいること。そして、自分が目を光らせることができることを考え、ブザムは了承した。

 

「…ということだ。節度をもって、羽目を外しすぎない程度に楽しみな」

「はーい」

「わかりましたー」

「お頭、ありがとうございます~」

 

ニコニコしながら返事をするブリッジクルーたちの姿にマグノも目を細める。そして、賑やかな年始の食事が始まったのだった。

 

「あ、これ美味しい!」

「ホントホント!」

「次はどれにしようかしら~」

「ふわぁ…」

 

賑やかな様子にマグノは引き続き目を細め、ブザムはやれやれといった感じでふうっと息を吐く。そこに、

 

「お前たちもどうだ?」

 

と、いつの間にかやってきたのかシュバルツが二人の側にあるサイドテーブルに雑煮と一人分のお節を置いたのだった。

 

「シュバルツ…」

「おや、いいのかい?」

「ああ」

「ありがとうよ」

 

頷いたシュバルツに礼を言うと、マグノが雑煮を取って口をつけた。

 

「…美味いね。出汁が効いて良い味付けだ」

「それは何より」

「ねーねー、シュバルツ」

 

二人の相手をしていたシュバルツを、料理に舌鼓を打っていたアマローネが呼んだ。

 

「何だ?」

「これ、あなたが作ったの?」

 

その質問に、ブリッジの衆人の視線がシュバルツに集まった。

 

「汁物はな。お節は他のクルーの作品だ」

「へぇ…」

「ちなみに、その汁物に入っている餅は他の男連中による合作だ」

「え?」

「皆さん、お餅作れたんですか?」

 

予想外のその一言にベルデウェールが驚いて固まり、エズラが首を傾げる。

 

「いや、だから教えて作らせた。あの連中も食うのであれば、それなりに働いてもらわねばな」

「……」

 

もしゃもしゃとお節を口に運びながらクマの着ぐるみの中身のブリッジクルーがコクコクと頷く。

 

(中々に可愛い顔立ちだが、なぜクマの着ぐるみを着ているのだろうか…)

 

その顔を見ながらそんなことを思うシュバルツ。その理由がわかるのはもう少しだけ先のこと。

 

「成る程…」

 

マグノと同じように雑煮の椀に口をつけていたブザムが口を離して呟いた。

 

「確かに、いつもの雑煮とは味付けが違うな。だが、お頭の言われたように美味い」

「そうか」

 

ブリッジの面々のお気に召したようで、シュバルツは内心で胸を撫で下ろしていた。問題ないとは思っていたものの、人の好みというものだけはわからないから仕方ない。

 

「…そう言えば以前、ここに出前にやってきた時にいずれ我々もと言っていたが、何やかんやあってそれは出来ていなかったな」

「ああ、そういえばそうだったね」

 

その時のことを思い出したのかマグノも頷く。

 

「思いがけなくもあるが、あの時言っていたことがこうして果たされたというわけだ。ありがたく頂戴しよう」

「そうしてくれ」

 

頷くと、シュバルツはブリッジクルーたちに背を向ける。

 

「おや、もう行くのかい?」

「ああ。まだ行くところがあってな」

「そこも出前か?」

「そういうことだ」

「そうかい。それじゃ、待たせるのも悪いね。行ってやんな」

「ああ。では」

「はいよ」

「すまんが、よろしく頼む」

「ありがと~!」

「またね~」

「ごちそうさまです~」

「……」

 

六者六様の姿に見送られ、シュバルツはブリッジを後にしたのだった。

 

 

 

 

 

「いっただっきま~す!」

『いっただっきま~す!』

 

機関室。音頭を取ったのはパルフェ。そしてそれに倣うかのようにメカニッククルーたちも手を合わせ、正月料理に齧り付いた。その側には、この料理をここに持ってきたシュバルツと、そして、

 

「……」

 

少し離れたところでメカニッククルーたちと同じように椀に口をつけるメイアの姿があった。

 

 

 

時間は少し遡り、ブリッジを後にしたシュバルツが料理を携えて次にやってきたのが機関室だった。動力は止めるわけにもいかにないためメカニックたちも交替で正月に臨んでおり、半数は機関室で年を越したのだ。

 

『失礼』

 

そこに、シュバルツが顔を出す。

 

『わっ!?』

 

突然の来訪にクルーの中でもまだ男への警戒が高い面々が驚いて距離を取る。だがそれとは対照的に、

 

『あれ? どうしたの?』

 

パルフェは何も気にせず平然と首を傾げる。そして、

 

『シュバルツ…』

 

そこにいたメイアが驚いたように呟いたのだった。だが、メイアの姿に驚いたのはシュバルツも同じ。

 

『トラぺザにいないからどうしたのかと思ったが…妙なところで顔を合わせたな』

『そうだな。お互いにな』

 

そこでシュバルツとメイアはフッと微笑み合う。

 

『機関室に何か用事でもあったのか?』

『ああ。パルフェたちにドレッドの整備を依頼しにな』

『ふむ…。お前たちの職分がどうなっているのか私はよくわかっていないのだが、そういうのはガスコーニュの案件ではないのか?』

『整備だけならガスコさんでもいいんだが、チューニングの余地があるかどうか確認してもらいたくてな。本来ならもっと早く行うべきだったのだが、色々とあってすっかり忘れていたんだ』

『成る程』

 

そういうことならば確かにパルフェたちメカニッククルーの領分だろう。シュバルツは納得して頷いた。

 

『それより、お前は何の用だ? …いや、愚問か』

 

口に出しながらも、シュバルツが運んできたものを見てメイアがすぐに察した。

 

『あ、もしかして差し入れ!?』

 

パルフェも気づいてぱあっと表情を明るくする。寸胴やお重を乗せたカートが横にあるのだから当然だが。そして、他のメカニッククルーたちもそれに気づき、表情を明るくさせる。

 

『ああ』

 

苦笑しながら答えると、機関室に歓声が上がった。その後は恐るべき速さで機関室は即席の食堂へと変貌したのである。

 

 

 

「あー、美味し!」

 

椀から口を離したパルフェが至福の表情でそう呟いた。

 

「ホントですね!」

「例年とは少し味が違うけど…」

「これもまた十分美味しいですね!」

「うんうん♪」

 

パルフェの感想を捕捉するかのようにメカニッククルーたちが次々と賞賛の声を上げる。その無邪気に喜んでいる様子にシュバルツはまたフッと微笑んだ。と、

 

「ねえねえ」

 

パルフェがひょいっと首を伸ばしてシュバルツに話しかける。

 

「何だ?」

「これ、貴方が作ったの?」

「ああ」

 

その返答に、機関室のそこかしこから“凄い…”“嘘ぉ…”といった、驚きとも賞賛ともつかぬ声が上がった。

 

「汁物はな。お節の方はキッチンクルーによるものだ」

「そうなんだ。…でも、やっぱり他の男連中とは違うのね。男なのに料理ができるなんて」

 

他のクルーたちもパルフェに追随するようにうんうんと頷く。

 

「何だ? 疑っていたのか?」

「そういうわけじゃないけどさ…」

 

パルフェが口を尖らせて答える。実際、こんな感じでおちゃらけて返答しているが、一番最初にマグノたちからの尋問中にガンダムシュピーゲルを調査したのはパルフェたちメカニッククルーだ。そのため、あの機体がタラーク、ましてやメジェールとの技術とは全くの別物の産物であることはわかっているので、何よりメカニッククルーたちが一番その辺りを理解していた。

 

「あたしたちには理解しがたいのよ。男が料理できるってことがさ」

 

その言葉に、再度メカニッククルーたちがうんうんと頷いたのだった。

 

「…まあ、別に無理やり理解しろとは言わんさ。それならそれで好きにすればいい。それより、せっかくなのだからゆっくり味わえ」

「そうするよ。ねえ、みんな?」

『はい!』

 

図ったような大合唱にシュバルツが驚きつつも苦笑した。そして、

 

「いかがかな?」

 

視線を横に向けてそう話しかける。そこには一人、同じように味わっているメイアの姿があった。

 

「あ? あ、ああ、うん…」

 

いきなり自分に話が回ってくるとは思わずに油断していたのだろう。メイアが戸惑いながらも答えて雑煮の入った椀に口をつけた。

 

「…あったかい」

 

そして、正直な感想を漏らす。だがその感想に、シュバルツは再度苦笑した。

 

「それはまあ、汁物だからな」

「ああ、悪い。美味いぞ」

「そうか。それは何より」

 

いつも通りの素っ気ない、受け取り様によっては社交辞令のような事務的な返答と捉えられかねないが、もう大分付き合いも長くなりこういう反応になることは予想できたのでシュバルツは気にもしない。そして、

 

(本当に、あったかい…)

 

雑煮に口を付けているメイアがその温かさと味に昔を、オーマとファーマと幸せに暮らしていた頃を思い出していた。味付けも料理も全然違うのだが、不思議とシュバルツの料理はそんなことをメイアに思い出させた。

 

(何でだろう…)

 

考えるもののその理由がわかるわけもない。ただ、決して悪い気分ではなかった。

 

「ところでさ?」

 

メイアがそんなことを考えながら正月料理を味わっていると、パルフェが再び口を開く。

 

「何だ?」

「寸胴二つあるじゃない? 両方お雑煮なの?」

 

寸胴に目をやりながら尋ねるパルフェ。メカニッククルーたちもそれに従うかのように顔を寸胴の方向に向けた。

 

「いや」

 

それに対し、シュバルツが首を左右に振って否定する。

 

「じゃあ、もう一つは?」

「汁粉だ。甘味も欠かせないと思ってな」

「わぉ♪」

 

その返答にパルフェが歓声を上げ、メカニッククルーたちも同様に歓声を上げたり拍手をしていたりした。そして、

 

「もらおうかな」

「あ、私も」

「私も」

 

早々に雑煮を完食したメカニッククルーたちがそうやってそそくさと自分の椀を持ってもう一つの、汁粉の入った寸胴へと向かったのだった。

 

「あ、ちょっと!」

 

文句を言おうとするパルフェだが、そんなのは聞こえないとばかりにその後もメカニッククルーたちは並んでいく。

 

「こうしちゃいられないわ!」

 

その光景に火が点いたのか、パルフェがまだ残っている雑煮を慌ててがっつき始めた。その一方で、

 

「……」

 

メイアは既に汁粉の寸胴に並んでいたりする。恥ずかしいのか、顔を少し赤らめながらやや俯いているが。その姿に、

 

(これは、珍しい光景だな…)

 

シュバルツが自然とそんなことを思ってしまい、内心で微笑んだのもまた仕方ないことであろう。

 

 

 

 

 

こうして、まったりとした雰囲気の中、ニル・ヴァーナは宇宙の海を走って行く。そしてこの穏やかな一時が嵐の前の静けさだと知るのは、もう少し先のことである。

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