機動武闘伝Gガンダムヴァンドレッド   作: ノーリ

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おはようございます。原作第十一話後半です。ファーストシーズンの山場とはいえ、十一話は序章なので静かに、淡々と進んでいきます。物足りないかもしれませんが、御了承ください。

では、どうぞ。


NO.24 死

「何だと!?」

 

その一報を聞いたブザムが珍しく感情を露にして怒鳴った。その怒気に、報告したアマローネがビクッと身体を震わせる。彼女自体は何もしていないのだが、それでも身を竦ませるのだからブザムが相応の怒気を孕んでいるのは明白だった。

だが当のzブザムとしては怒りよりもショックの方が大きい。そして、再度確認する。

 

「確かなのだな?」

「は、はい」

「パルフェ」

『はいはい』

 

呼び出されたパルフェがいつものように機関室から答えた。

 

「映像はあるか?」

『ありますよー。少々お待ちを…』

 

ブザムの指示に従い、ゴソゴソとコンソールを操作するパルフェ。程なく、ブザムの望んだ映像が表示された。

そこに映っているのは少し前の格納庫の様子である。そして捉えているのはガンダムシュピーゲルだ。ブザムをはじめ、マグノやオペレーターたちもその映像に目を向ける。と、ややあってある人物がそこに現れた。この機体の主であるシュバルツである。

シュバルツはガンダムシュピーゲルのハッチを開けるとそこに乗り込む。少ししてガンダムシュピーゲルが起動し、その直後、まるで手品のようにその場から消え失せたのだった。

 

「ホントに消えた」

「うっそぉ!」

「あらあら、凄いわぁ…」

 

オペレーター三人組がそれぞれらしい感想を述べる。そんな中、

 

「パルフェ、現地確認には行ったのか?」

 

ブザムがパルフェに尋ねた。

 

『行きましたよ』

「どうだった?」

『影も形も、跡形もありませんでした』

「本当か?」

『ええ』

『それだけじゃないよ』

 

そこに違う人物…ガスコーニュが割り込んでくる。

 

「ガスコーニュ」

「それだけじゃないってのは、どういうことだい?」

 

今まで成り行きを見守るだけで、口を挟まなかったマグノがここで初めて口を開いた。

 

『当時の熱源反応とか確認してたんですけどね、何も反応がない、数値に変化がないんですよ』

「何!?」

 

新たな事実にブザムが驚きの声を上げる。だがそれはブザムに限ったことでもないようだ。

 

『ウソでしょ!?』

 

ブザム以上に驚いたのがパルフェである。メカニックだけに、今ガスコーニュが言ったことがどれだけありえないことか瞬時に理解したのだ。

 

『それが本当でね。後で確認してみるかい?』

『うん。でもそうなるとどうやって…』

 

パルフェが難しい顔になって腕を組んだ。

 

『さあ? タネは本人しか知らないだろうよ』

『解析したくても、あの機体、セキュリティが異様なほど固くてあたしたちには歯が立たなかったからね。何度か挑んだけど、ことごとく弾き返されたから…』

 

パルフェがボヤく。最初、マグノたちの尋問で呼び出されたときにパルフェたちメカニッククルーがガンダムシュピーゲルを解析しようと奮闘していたのは周知の事実だが、その後も何度か挑んでいたのだ。ただ、その結果は今言った通りということである。

 

「今はその件は良い。それよりも、大事なことがある」

『あの機体…ガンダムシュピーゲルの戦線離脱か…』

 

ガスコーニュが思わずボヤき、その一言が各人の胸に重くのしかかった。それはひとえに、これまでの戦闘におけるシュバルツ…ガンダムシュピーゲルの戦果を重々承知しているからだ。メインの役割は防衛だったが、攻撃に転じたときの戦果は各ヴァンドレッドに勝るとも劣らない。その戦力が離脱したということがどういう意味をもたらすか、わからない面子はここにはいなかった。

 

(最悪の展開だな…)

 

ブザムが歯噛みする。ヒビキの離脱だけでも痛手なのに、この上シュバルツの離脱まで重なっては両翼をもがれたようなものだ。だが、嘆いていても始まらない。

 

「バーネットたちの様子はどうだ?」

 

ブザムが矢継ぎ早にオペレーター陣に尋ねた。

 

「今はなんとか落ち着きを取り戻してますけど」

「復帰するにはまだ時間がかかりそうですね」

「無理もないですよ。あれだけ力の差を見せつけられちゃ…」

「そうだな」

 

アマローネ、ベルデウェール、エズラの報告にブザムが頷いた。そしてモニターを開き、バーネットたちの様子を確認する。三人の報告通り、バーネットを始めとするシュバルツを制圧しようとした一団は、全員俯いて蒼い顔をしていた。変な気を起こさないように、また、これ以上厄介なことにならないように一箇所に集めて様子を見る…と言う名の監視をしている。

個人差により復活具合に当然程度はあり、早いものはまだ落ち着いているように見受けられるが、そうでないものは大分深刻な様子に見受けられた。

 

(これは…)

 

その様子に、ブザムが渋面を作った。悪いタイミングで悪いことが重なるものである。もっとも、今回に関して言えばここに映る面々を始めとする艦内のクルーの自業自得の側面もあるので擁護のしようもないのだが。

 

(全く…)

 

頭を掻いてボヤきたいのを我慢するブザム。だがそれは、ブザムに限ったことではない。

 

(やれやれ、派手にやってくれたもんだ)

(ウチの子たちに原因があるとはいえ、もう少し加減してもらいたかったもんだがねぇ…)

 

ガスコーニュとマグノも似たり寄ったりの感想を抱く。この三人は騒動が起こる前にシュバルツに話を通しておいたのだが、この映像を見る限り予想以上にキツい灸を据えたようだ。

この話は外に出してクルーに知られたらまた面倒なことになるので三人は口を噤んでいる。だからこそ、事情を知っても渋面を作ることしかできなかったのだが。

 

「それにしても、シュバルツは今どこに…」

 

何気なく呟いたブザムの一言に、バーネットたちとはまた違った重い空気が包む。これからカリトリを相手するにあたり、シュバルツが…ガンダムシュピーゲルが戦力として期待できなくなるというのがどれほどの痛手なのか十分にわかっているからだ。だからこそ、クルーたちに軽挙妄動は慎んでほしかったのだが、潮流は抑えきれずにこの現実というわけである。

 

(アイツのことだ、あの時の様子を鑑みてもアタシらを見捨てるとは思えないけど…)

(所在がわからないんじゃ、どうしようもないね。近くに潜んでいてくれることを祈るしかないか…)

 

ガスコーニュとマグノがそんなことを考え、ほぼ同時に溜め息をついたのだった。では、ブリッジで話題になっている当のシュバルツはと言うと…

 

 

 

「さて、始めるか」

 

ガンダムシュピーゲルのコックピット内。シュバルツはシステムを起動させるとそう呟いていた。外にはニル・ヴァーナの格納庫の一角が見える。そう、この状態からわかるように、シュバルツ…ガンダムシュピーゲルはニル・ヴァーナから消えてはいない。

では、どういうカラクリかというと簡単なことで、ガンダムシュピーゲルはその隠密性と、己の機体を構成するあの機能を十分に生かしてカメレオンのように擬態しているのだ。透明化といった方が正しいかもしれない。その上で、念のため、いつも設置してある場所からも移動させての擬態なので、パルフェもわからなかったのである。また、機体を動かしても熱源反応などがなかったのは機体の構成要素の機能によるものだった。つくづく外れた機体である。

そしてシュバルツがこれから何をしようとしているかと言うと、愛機であるこの機体…ガンダムシュピーゲルの調査だった。

 

(簡単には把握していたが、結局、今までまとまった時間は取れずじまいでそんな暇はなかったからな。良い機会だ)

 

あのとばっちり自体は迷惑極まりなかったが、それでもこうやってガンダムシュピーゲルを詳しく調査できる時間ができたと思えば悪いことではない。早速立ち上げたシステム各部を確認していく。

 

(さて…)

 

表示される内容に目を走らせながら、シュバルツはこの騒動のもう一人の大きな被害者である人物のことを考えていた。

 

(ヒビキの奴、どうしていることか…)

 

シュバルツも当然ヒビキが脱走したのは知っていたので、自然と思いを馳せることになった。いつものように無鉄砲に飛び出して、どうしようというのか。

 

(まあ、腹が減ったら帰ってくるか)

 

すっかりディータに餌付けされている姿を見ているシュバルツとしてはそう考えていたので、あまり悲観視はしていなかった。まだタラーク、メジェールまでは遠く、近隣の地理的なものもわからない以上は無鉄砲に飛び出しても迷子になるだけである。ヒビキ自身もそうだが、補給を受けられなければ早晩ヴァンガードも動けなくなってしまう。宇宙空間で機能停止してしまえば、待つのは死のみだ。

 

(あるいは、違う展開になるかもしれんが…)

 

とは思いつつも、現状では状況もわからないし何もできることはないので、気休めとはいえ無事を祈った。さて、そのヒビキはと言うと…

 

 

 

 

 

「ったく、俺が何したってんだ…」

 

脱走したヒビキはそうボヤきながら先程の一件を思い出していた。何をしたかといえば先ほどのラッキースケベだが、それに対しての仕打ちにしてはあまりにも重すぎるのも事実。まあ、実際はパイウェイの不満と鬱憤が爆発し、それが導火線となっての扇動・暴挙となったのだがヒビキが知る由もない。

 

「ちっくしょお…」

 

裏切られたような思いになって俯きながら歯噛みする。そのため、コックピット内に警告音が鳴っていたことに気付くのが遅れた。

 

「!?」

 

慌てて顔を上げると彼方に光点が見え、眉を顰めた直後にそれが自分に向かって放たれた砲撃だとわかった。何とかかわすものの、そのうちの一つが装甲を掠めて右腕がダメージを負う。

 

「だああっ!?」

 

何とかバランスを取り戻しながら機体を立て直すと、

 

「にゃろおっ!」

 

出力を上げて突進する。その相手側は、

 

「識別急げ!」

 

こちらも、こちら側にとっては正体不明である機体…ヴァンガードの確認を急いでいた。

 

「艦長、データにない機体です」

 

側にいたオペレーターの報告で威嚇射撃が続く。だがそれでもここまでの実戦経験からかその射線をかいくぐり、ヒビキが肉薄した。

 

「オラオラ、やんのかオラぁ!? 合体なんかしなくたって、俺はやれんぜ!」

 

相対したヒビキが威嚇含みでそう気勢を上げる。言葉だけは勇ましいが、その文句の内容は自己暗示をかける意味合いもあるのかもしれない。と、

 

『何者だ!? 何故このエリアに侵入した』

 

突如として通信が開き、そこに映った一人の男がそう尋ねてきた。

 

「あぁ? たまたまだ、文句あっか!?」

 

その質問に対し、ヒビキがそう答えた。実際考えもなく当て所なく飛んでこの宙域に紛れ込んだので嘘ではない。

 

『何処の者だ?』

「タラークだ! それがどうした!?」

「タラーク?」

 

ヒビキの回答にタラークを知っているのか、艦長と呼ばれた人物が声を上げた。一方その頃、

 

 

 

「ふー…おチビちゃんには困ったもんだね」

 

マグノが座席に背を預けながら深いため息をつく。この『おチビちゃん』というのが今回の事態を引き起こしたパイウェイを指すのか、出ていったヒビキを指すのかはわからないが。

 

『ふえーん…お頭ぁ…』

『どうしましょう?』

 

モニターの先でディータが涙目になりながら訴え、メイアが善後策を尋ねてきた。とは言え、どうすることもできないのが実情である。迎えに行こうにも追えるかどうかわからず、艦内がこの状況ではクルーの同意が得られるわけはないだろう。何より、

 

(シュバルツの件が拍車をかけたからな…)

 

ブザムが表情には出さないが内心で溜め息をつく。先程の映像通り、シュバルツにあしらわれた件で捕獲に向かったクルーたちは軒並み心をへし折られてしまい、悪いことにそれがまた溝、隔たりを大きくしてしまった。

 

(まったく…次から次へと…)

 

副長として苦悩は尽きない。先程も思ったことだが勿論今回の件は喧嘩を売ったこちら側が全面的に悪い。悪いのだが、それでももう少し穏便に対処してもらいたかったというのが本音である。逆に言えば、それほどバーネット・パイウェイたちの行為はシュバルツの逆鱗に触れたと言えないこともないが。

 

「どうしたものかねぇ…」

 

困ったように再度ボヤくマグノに、ブザムも適切な返答は出来なかった。そして、今話題に上ったヒビキはというと、先ほどまで相対していた連中に事情聴取のため、彼らの旗艦に連れられているところだった。程なく、ブリッジに到着する。そこには、オペレータークルーの姿が何組かあった。どちらかといえば好意的な眼差しであり、そして特徴的に肌の色素が白い。

 

(コイツら、一体…)

 

怪訝になるヒビキではあるが、それ以上にジロジロ見られるのが本人的には気分がよろしくないのだろう。

 

「何だ、テメェら、ジロジロ見やがって。そんな真っ白い顔でよ! あぁ!? いつでも俺は相手になってやんぜ!」

 

周囲を威嚇しながら凄む。ヒビキもここまで色々経験し、人間的に成長してはいるとは思うがどうにも喧嘩っ早いのだけは直らない、初対面の、それも話し合いや情報交換を目的とした場でのっけから喧嘩腰なのはどうなのだろう。幸いだったのはここにシュバルツがいなかったことだろうか。いれば、恐らく肉体言語を駆使した説教があっただろう。と、ここで初めてヒビキがオペレーターたちが男女ペアであることに気付く。

 

(?)

 

その、タラークとメジェールの生育環境下であればありえない光景にヒビキが思わず周囲に視線を走らせた。そこに、

 

「手荒い真似をした」

 

艦長が口を開いた。

 

「許してくれ。我々も刈り取られまいと必死なのでな。恐らく、君の星も同じだろう」

 

頷くでも同意するでもなく、ヒビキは艦長の話に耳を傾けている。

 

「だが、カリトリを待つぐらいなら最後まで抵抗しようとここに防衛ラインぞ張っているのだ」

「防衛ラインだと…?」

 

“防衛ライン”という言葉に引っかかったヒビキの表情が険を帯びたものになる。

 

「そんな受け身だから間違えんだよ! 俺だったら、やられるまえにやってやんぜ!」

 

威勢良く吠える。実情も何も知らない部外者が好き勝手言っているのだから反感を買っても良さそうなものだが、艦長は頼もしそうに微笑んだ。無茶苦茶なことを言っているのはよくわかっているのだが、その無鉄砲さが専守防衛の自分たちには羨ましかったのかもしれない。

そのような経緯があり、無事(?)引見を終えたヒビキは格納庫へと案内された。目の前には当然、自分の愛機であるヴァンガードの姿がある。そしてこれも当然ながら、先程のビームでの損傷で右腕はダメージを負ったままだった。その故障個所を慮るようにヒビキが己の右腕に手を当てる。実は先ほどの戦闘でヒビキ自体も同じ場所に切り傷を作っていた。偶然とはいえ機体と肉体の同じ部位が損傷しているなど、まるでモビルトレースシステムだが。そうやって自分の相棒を見上げながら佇んでいるヒビキに、

 

「まずはあなたからね」

 

不意に、後ろから声がかけられた。ヒビキが振り返ると、そこにはバンダナをした一人の女性が近づいてくる。年かさとしてはディータやメイアと同年代に見えるので、女性というよりは少女と形容した方がいいのかもしれない。

 

「さ、腕を見せて?」

 

そう言って朗らかに笑う少女。その手には、救急箱が握られていた。そしてその中から消毒液を取り出すと、ヒビキの服の腕をまくる。

 

「な、何すんだよぉ!」

 

戸惑いながらも何故か跳ね除けることは出来ず、ヒビキはそう悪態をつくのが精一杯だった。そんなヒビキに少女はお構いなく、

 

「いいから。私に任せて。ね?

 

と、微笑みかける。その笑顔に、思わず赤くなって動きを止めたヒビキだが、すぐに痛みに顔を顰めた。消毒液が傷口に滲みたのだ。

 

「ぐっ!」

 

痛みに顔を顰めながらも意地なのか声を上げることはしない。と、

 

「私の名はセラン。この船のメカニックよ。あなた、名前は?」

 

彼女…セランが自己紹介し、ヒビキにもそれを求める。

 

「お、俺は…」

 

気恥ずかしいのか照れ臭いのか、ヒビキが口ごもる。そこに、

 

「勇気あるお客さん…なんちゃって」

 

セランがからかうようにそう言ってクスクスと笑った。思いがけない反応と態度にヒビキはどう反応していいかわからず停止してしまう。そして、穏やかな雰囲気の中で応急手当は進んだ。

 

「はい、これでよし」

 

処置を終えたセランが自分のバンダナを包帯代わりにヒビキの腕に巻くと離れる。そして、

 

「あら? お礼の言葉はないのかしら?」

 

と、冗談交じりに尋ねた。

 

「!」

 

ヒビキがいっ!? という表情になり、次に再度顔を赤くした。そして忙しなく周囲に定まらない視線を這わせた後、ようやく、

 

「あ、ありがとな…」

 

っと、ぶっきらぼうにボソッと呟いたのだった。

 

「うふふ、どういたしまして」

 

セランが朗らかに笑う。明るい、人好きのするとてもいい笑顔だ。そこに、

 

「パイロットくん」

 

横から再び声がかけられた。ヒビキが顔を向けると、そこには最初にコンタクトしてきたウインドウの人物がいつの間にここに来たのか立っていた。

 

「腕の傷は大丈夫か?」

「リーダー」

 

セランがそう呼ぶ。その呼び名から、彼がこの艦体の機動兵器部隊のリーダーなのだろう。

 

「大した事ねえよ、これぐらい」

 

ヒビキが答える。随分緊張がほぐれたのか、それともセランの影響か先ほどまでとは打って違って穏やかになっていた。

 

「君にはすまないことをした。メカの破損個所も、直ちにメンテする」

「俺もやんぜ。相棒のことは、俺が一番よくわかってる」

「そうだな」

 

和やかな雰囲気が流れる。そこに、

 

「じゃ、その前に」

 

セランが口を挟んできた。その両手には、スポーツドリンクのボトルが握られている。

 

「一息入れましょ? はい。セラン特製ドリンクよ。飲んでみて」

 

そして片方をそのままヒビキに差し出し、リーダーの許に向かった。

 

「まあ、遠慮せずに飲んでみたまえ。もっとも、味の方は保証しないがね」

「もー…」

 

おどけた感じでそう促すリーダーにセランが少しムッとした表情になり、

 

「リーダーも飲まなきゃダメ」

 

もう片方をそう言ってそのまま渡したのだった。その、タラークとメジェールの育成環境下ではありえない様子を見ていたヒビキが、

 

「あのよぉ…おメェらは何つーか…その、ずっと一緒にいるのか?」

 

と、疑問に思ったことを二人に尋ねた。

 

「ん? どういう意味だ?」

 

リーダーが尋ね返す。言葉通り、質問の意図がわからなかったのだろう。

 

「いや、だから…」

 

その返しに、どう説明していいのかわからずヒビキが口ごもる。と、

 

「生まれたときからずっと一緒よ。そして、これからもね」

 

セランが当然のようにそう答えた。その返答、そして仲睦まじく見える二人の姿に自分たちのことで思うことがあったのだろうか、少しの間フリーズする。ややあって、その戸惑いを誤魔化すかのようにセランの特製ドリンクにヒビキが口を付けた。直後、

 

「ぶはっ!」

 

その味を認識したヒビキが思わず吐き出してしまう。タラークでのペレットだけの生活であったらこんな反応はしなかったかもしれないが、メジェールの食文化…料理というものに触れた今となっては、とてもではないが口に合わなかったらしい。そのヒビキに、

 

「ビタミンBとCを配合。お肌にいいのよ?」

 

と、セランが説明した。

 

「肌?」

 

何気なく聞き返したヒビキだったが、次のリーダーのセリフに固まることになる。

 

「うむ。敵は我々の皮膚を狙っている」

「! 皮膚…」

 

突然引き戻された現実…カリトリの脅威にヒビキの顔がこわばった。直後、まるで図ったかのように艦内にアラームが鳴り響き、三人は顔を上げた。

 

「とうとう来たか…」

 

そのアラームに、リーダーがポツリとそう呟いた。その対象となるのは巨大な敵の旗艦。細長い角柱状で、形状としてはおでんの具の一つであるちくわぶによく似た形だが、似ているのは形状だけで可愛さなど微塵の欠片もない。その証拠というわけでもないだろうが、側面から小型艦が無数に放出されて次々に戦闘態勢に移行している。

 

「な、何だコリャ!? 初めて見んぞ、こんなデカいの!」

 

その威容をモニターで確認したヒビキが顔を引きつらせながら驚きの声を上げた。

 

「敵の旗艦よ。手ごわい相手なの」

「お前ら、こんなヤツを相手にしてたんか…」

 

振り返ったヒビキが表情を曇らせながらそう問う。同時に、先程のブリッジでの大口がどれほど身の程を知らないものなのかここに来て初めて理解していた。が、

 

「戦わなければ刈られるだけよ。私たちは、最後まで生きることを諦めない」

 

厳しい表情を見せながらも、セランは堂々とそう言い切った。その覚悟に、ヒビキの瞳が揺れる。

 

「砲撃開始!」

 

ブリッジにて艦長の攻撃命令が下ったのはその直後だった。それを合図に、艦隊から一斉にカリトリに向けて砲撃が開始される。その援護を受け、先程のリーダーをはじめとする戦闘ユニットのパイロットたちも敵へと突っ込んでいった。

 

「ここで食い止めるんだ! 我々の星に、一歩も近づけるな!」

『了解!』

 

存亡をかけた一戦が開始される。だが何分分が悪い。物量的にカリトリ側が上だし、何より向こうは機械ということもあって肉体や精神の疲労で削られることもない。徐々に戦線が押され出し、キューブタイプが戦艦に取り付き始める。取り付いたキューブタイプが爆弾をセットして艦体に穴を空け、そこから四足歩行の甲虫のような機械が侵入してクルーに襲い掛かった。まさに、人を『刈り取る』のが目的のためのマシンであるようだ。犠牲となった仲間の姿、また、いくら銃を撃ち込んでも変化のないマシンにクルーたちも絶望の表情になり怯む。

そんな不利な状況は艦内にも逐一報告される。

 

「右舷に敵、集中砲火! 装甲持ちません!」

「第4ブロックに敵キューブ進入! 被害甚大!」

 

その悲壮な状況報告に艦長が歯噛みする。その状況を打開すべく、ヒビキはセランと共に急ピッチでヴァンガードの修理を進めていた。

 

「こっちは終わった! 俺も出る!」

 

コックピットで作業をしていたヒビキが振り返る。

 

「待って。こっちももう少しよ」

 

セランがそう返した。続けて、

 

「この子は、絶対直してみせる」

 

外装の溶接を担当しているからか、スパークを散らせながらも力強くそう続ける。その姿に、ヒビキは恥ずかしそうに嬉しそうに少し顔を赤らめながら微笑んだ。と、

 

「よし、終わった!」

 

宣言通り、直後にセランが修理を完了させた。

 

「お待たせ! 発進準備、オッケーよ! 頑張って!」

「おお、任せろ!」

 

サムズアップしてウインクするセランにヒビキが力強く答えた。だが…

 

「うわあっ!」

 

ヒビキが思わず悲鳴を上げながら腕をかざした。というのも、急に格納庫が閃光に包まれたからだ。ほぼ同時に轟音も格納庫を包む。瞼の裏で眩しさが和らいだのを感じ取ったヒビキが目を開けると、自分の目の前…先ほどまでセランがいた場所が土煙で覆われていた。

 

「セラン!?」

 

思わずセランの名前を呼びかけるヒビキ。だが返答はない。その姿を探し求めて横に顔を移したヒビキの目に入ってきたのは、ズタボロになって格納庫の床に横たわったセランの姿だった。状況から察するに不運にもカリトリの攻撃が近くに被弾し、その誘爆に巻き込まれてしまったのだろう。

 

「うああああっ!? セラン!」

 

ズタボロになった姿を目にしたヒビキは悲壮な叫びを上げながら急いでセランに駆け寄った。

 

「おい、大丈夫か!? おい、しっかりしろ! おい!」

 

軽くその身体を揺すりながら声をかける。その声が聞こえたのか、セランはゆっくりと目を開けた。だが、その表情は弱々しいものであり、

 

「み、みんな…みんなは、大丈夫…かしら…」

 

と、息も絶え絶えにそれだけ呟くと、再び瞼を閉じて全身の力が抜けた。そして二度と、目を覚ますことも言葉を発することもなくなったのだった。

 

「お前…嘘だろう? 嘘だよなぁ!? おい、セラン…!?」

 

瞳孔を揺らしながらヒビキが必死でセランに話しかける。だがセランは、二度とヒビキの言葉に反応することはなかった。その事実にヒビキは暫く言葉もなくし、呆然とその場に立ち尽くすことしかできなかった。そして外では、その絶望的な状況を裏付けるかのように激戦が繰り広げられている。

 

「ぐうっ! 負けるものか!」

 

リーダーが敵の砲撃によって機体を掠め、歯噛みしながらそう呟いた。その言葉通り、戦況は刻一刻と悪化している。彼らが迎撃に使用している兵器はドレッドタイプの戦闘機のため、白兵戦闘より砲撃、射撃戦闘に向いていた。だがそれでも、ジリジリとカリトリ側に押されていく。圧倒的な物量と、犠牲を苦にしない機械というアドバンテージゆえの戦術であった。それを表すかのように、旗艦が被弾して大きく揺れた。

 

「怯むな! 我々の意地を見せてやれ!」

 

ブリッジに響いた悲鳴に艦長が己自身をも奮い立たせるかのように全クルーにそう命令する。その真っただ中に、ヴァンガードの修理を終えたヒビキが参戦した。だが、その様子はいつもと違い、愕然とした表情のまま額に無数の汗を滲ませている。

 

「あんな…簡単に…逝っちまうのかよぉ!!!」

 

その脳裏に刻まれているのは先ほどのセランの姿だった。やり場のない怒りをぶつけるかのようにブレードを抜くと、ヒビキは叫びながら手当たり次第に向かってくるキューブタイプを一刀両断にする。

 

「うおおおおっ! 何でだあっ!?」

 

怒りと悲しみに囚われたヒビキはその情動のまま敵への加速を辞めず、手当たり次第に斬り刻んでいく。シュバルツがこの場にいたら怒りのスーパーモードと評し、間違いなく止めただろう。だが、残念なことにこの場にシュバルツの姿はない。

そして、怒りに囚われ冷静な判断が出来なくなったヒビキには、いつも以上の隙が出来ていた。

 

「オラァ! 次はどいつだぁ!」

 

セランを失った悲しみを紛らわせるかのように敵陣へ突っ込むヒビキ。もしこの敵がデスアーミー軍団で、率いているのが東方不敗マスターアジアだったらほくそ笑むこと間違いない光景である。だが、ここは残念ながら未来世紀ではない。

 

「あの少年が…。皆、あの少年に続け!」

 

それを裏付けるかのように艦長が号令を出す。このまま護っていてもジリ貧のため間違った判断とは言い切れないが、さりとて正解とも言えない判断だった。だが、ここを好機とみたのか、艦長の号令に従って戦闘員たちはヒビキの後に続く。が、それを嘲笑うかのように敵機関の中心部から極太のビーム砲が射出され、そしてその直撃を受けた旗艦は跡形もなく爆散した。

 

「あぁ…」

 

後方に広がった惨劇にヒビキが再び愕然とした表情になって振り返り、動きを止めてしまった。その、いつも以上の隙に死神が鎌首をもたげる。

 

『危ない!』

「っ!」

 

突如として入ってきた通信に振り返ると、自分に向かって突っ込んでくる一機のキューブタイプの姿。このまま突進の直撃を食らうかと思った直後、

 

「うおおおおっ!」

 

通信を入れた人物…リーダーがそのキューブタイプに特攻をかけ、道連れに爆散したのだった。

 

「な、何で…」

 

短時間で次々に短いながらも世話になった人物が死んでいくのを目の当たりにし、ヒビキがやり場のない怒りを抱えながら思わず呟く。そして、

 

「うおおおおっ! どいつもこいつも、バカ野郎だぁぁぁっ!」

 

怒りや悲しみといった感情を爆発させたヒビキが側面から敵の旗艦に特攻を仕掛けた。だが、その身に到着する直前で目標地点が光り、

 

「うわあああああっ!?」

 

ヒビキは悲鳴を上げながらその光に呑まれた。そして、

 

 

 

「宇宙人さん…」

 

遠くニル・ヴァーナにてヒビキの身を案じてテラスで佇むディータ。その身を案じるあまり、視線の先で光源を放った空間があったのに気付くことはなかった。その光源…光に呑まれたヒビキは気絶したものの生命を失うことなく、宇宙を彷徨うことになっていた。そのまま当て所ない宇宙の旅を過ごすことになるかと思ったヒビキのヴァンガードを捕獲するアームの姿。そしてそのアームは、ヴァンガードを己の内部に回収する。

 

「ウキッキッキッキッ。ウキ…?」

「……」

 

そこにいたのは一匹のオランウータンと因縁の相手、ラバットだった。ヒビキを回収したラバットは艦のエンジンに火を入れると、速度を上げてこの場を後にしたのだった。




前書きにてあんな煽り文句を書いていて申し訳ないのですが、私生活が少々立て込みそうなので少しお休みします。
いずれ必ず戻りますので、それまでお待ちいただければと思います。申し訳ありません。

では、暫しのお別れです。
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