前回の続き。今回は原作での第三話の内容ですが、この回は原作のアニメでも元々場面転換が激しく、あっちこっちに話が飛びます。なので、この二次創作でも同様にあっちこっちに話が飛びます。読みにくいとは思いますがそちらご了承の上お読みください。
では、どうぞ。
「我々の艦は完全に取り込まれ、ブリッジ・居住区・エンジンルームは完全に吞まれてしまいました。幸い、ドレッドのプラットホームとレジシステムは無傷です。現在は清掃と、データベースのインストール中です。ペークシスプラグマの増殖も、とりあえずピークに達しているようです。ブリッジのスライドも艦内ガーデンにせり出した形で固定し、艦内の変化も休止しています」
とある宙域。ブザムがモニターに艦内各所の状況をスライドしながら、現在までの調査結果に基づく艦内の現状報告をしている。
「メイア」
「はい。ペークシスに巻き込まれ、変形した三機のドレッドは我々のプラットホームに収まらなくなり、男側の格納庫を改造して保管しています。その経緯でわかったのですが、この艦は長い間使用されていなかったらしく、回路やケーブルが枯れ落ちています」
ブザムに指名され、メイアがその後を引き継いで報告した。
「問題は我々の現在位置ですが…」
メイアからの報告が終了したところで、再度ブザムが報告を再開した。
「信じられないことにメジェール宙域を遥かに離れ、全く別の星系にいることがわかりました。時間にして、270日の距離です」
「はぁ…何でまたこんなことになっちまったのかねぇ…」
その調査結果の報告に、団扇で仰ぎながらマグノはうんざりした表情になっていた。言葉通り、わけもわからずこんなことになってしまったのだからうんざりするのも当然ではあるのだが。
「で、敵さんの情報は?」
「あ、はい。手が足りなかったので、志願者を調査に向かわせました」
メイアがそう報告するが、何故か申し訳なさそうな気まずそうな表情になった。
「志願者…って?」
マグノがその報告に首を捻ったその時、
「わー、凄い凄い! あ、あれアダムスキー型かなぁ!? ねえねえ、見てます!?」
「はぁ…」
その志願者であるディータは自分のドレッドを操縦しながら盛んにカメラを構えて浮かれていた。そしてその後ろで、同行者として窮屈な座席に座っていたガスコーニュは付き合ってられないとばかりに溜め息をついたのだった。成る程、この様子ではメイアの表情が曇るのも仕方のないことである。
「どう?」
「多分大丈夫」
「ありがと…」
場所は変わって先ほど報告の俎上にも上ったブリッジ。そこにはエズラともう二人のオペレーター、アマローネ・スランジーバとベルヴェデール・ココが己の職務を果たしていた。席はもう一つ空いているのだが、そこには「Reserved」と書いてある札を首から下げたクマのぬいぐるみがちょこんと座っているだけだった。と、
「ちょっとぉ、エアコン点けてよ!」
オペレーターの一人、金髪のショートヘアーのベルヴェデールが通信で文句を言った。艦内融合の影響か空調が上手く効いていないようで、現状は艦内気温が上昇している状況であった。
「28℃もあるよ!?」
『贅沢言わないでよ、こっちは30℃超えてるの!』
通信先のメカニッククルーがそう答えた。暑さからかその口調にイラつきが混ざっているのが読み取れた。
「こっちは反応なし…パルフェ、そっちは?」
対応不可と悟ったブリッジからの通信が切れたのとほぼ同時に、他のメカニッククルーがパルフェに連絡を入れて状況を確認する。
『かー、古いシステム。これプロトタイプじゃないの?』
スーツを身に着けたパルフェが通信に対して調査結果を報告する。その内容から、どうにも調査・解析に戸惑っているかのようだった。
『これじゃハジけんのも無理ないわ…』
「ねえ、早くこっち手伝ってよ」
パルフェと通信をしていたメカニッククルーが横からそう声をかけられた。どうやら、どこもかしこも人手が足りないようである。
「にー! こら!」
そのメカニッククルーが難産していたのが、先ほどからどうにも挙動が人間臭くなってしまったナビロボの調査だった。診察台のようなところに抑えつけて配線を接続して調査しようとしているが、暴れているため難航している。
「もー、ジッとしててよ!」
「これじゃ、まともにデータ取れないよぉ…」
「かくして敵の艦を乗っ取りつつも、マグノ一家は次なるピンチを迎えたのである」
居住区。上昇中の仮設エレベーターにちょこんと腰掛けながらパイウェイが傍観者のごとく無責任な感想を述べながらそうメモ帳に書いていた。
「パイ、暇なら手伝ってよ!」
そのため、作業中のクルーがそんな様子のパイウェイにムッとしながら手伝いを依頼した。が、
「暇じゃないもん♪」
そう言ってパイウェイは拒絶した。他者から見ればどこをどう見ても呑気にのんびりしているように見えるのだが。と、
「待って! 乗る乗る!」
そのエレベーターに乗り込む人影が二つ。
「まーた遊んでる!」
「あああ…もう!」
乗り込んできたのはバーネットとジュラだった。二人とも結構な大荷物を抱えている。
「お引越しー! お引越しー! よかったねー、あたしたちの部屋無事で。ケロッ!」
パイウェイがいつも持っているカエルのぬいぐるみで腹話術をしながらバーネットとジュラを揶揄した。揶揄されえた形の二人はムッとした表情になる。
「何かムカつく…」
「余計暑く…ん? 何このロープ」
バーネットが汗を拭きながら愚痴ろうとしたところで何かに気付いた。それは目の前に吊るされている一本のロープだった。そのロープはパイウェイの腰の辺りをグルッと一回りしている。ジュラも仏頂面でそのロープに目線をやった。と、
「このエレベーターはまだ仮設ケロ! 落っこちても知らないよ?」
パイウェイがとんでもない説明を二人に向けたのだった。そして、
「バッハハ~イ♪」
ニコニコ手を振りながらそのロープに引かれる形で上昇していった。どうやら先ほどのロープは命綱だったらしい。が、そんな危ない代物に残される二人はたまったものじゃない。
「ちょ、ちょっと、嘘でしょ!?」
「パイ!?」
事情を知ったジュラとバーネットが顔を見合わせた直後、エレベーターはそのままペークシスの結晶に突っ込んだのだった。
『ちくしょう、何しやが…おわっ!』
牢獄にて。自分たちの扱いに文句をつけようとしたヒビキだったが、それを言い終わる前に強引に口を塞がされた。何をされているかと言うと下着姿にさせられ、牢獄の外からホースで放水されるが如く消毒されていた。まるで炎上した燃焼物のような扱いだが、しかし何もそれはヒビキだけというわけではなかった。その横ではバートもドゥエロも同じ目に遭っていたのである。男にとっては理不尽な扱いだが、女にとってはこれは当然の行動なのだろう。
「後はこいつらか…」
その様子をモニター越しで見ながら、マグノが頭を捻った。
「この艦のシステムを把握するまでは、利用するべきですね」
「ああ、あんなのは初めて見たからねえ…」
マグノの脳裏に思い出されるたのは、先ほどの戦闘終了後にバートが融合艦のブリッジの先端部から吐き出されてきたときのことだった。
「まるでこの艦に意思があるようだったからねえ。ゾッとするよ」
「はい、そして…」
映像が横にスライドする。そこには同じように下着姿で消毒を受けているシュバルツの姿があった。その姿を目にしたメイアの表情が少し厳しいものになる。
「何よりもこの男です」
「そうだね」
マグノも頷いた。シュバルツに頼まれ、シュバルツだけはヒビキたち三人とは別の牢獄に収容させられていたのだ。メジェール側としてお願いを聞いてやる義理はなかったのだが、その言を信じるならばシュバルツはタラークの人間でもないということになるので、一応別隔離としたのだ。
「この男が何者か、先ほどの発言は何処までが真実なのか、その目的は何か…処理をするのはその後でもいいかと」
「ああ。それに正直言って、あの戦闘力は得難いものがある」
「ですが、いつ裏切るかわからない存在です。あの三人は先ほど副長の言われた通りこの艦のシステムを把握するまでは利用価値はありますが、この男は危険分子かと…」
メイアの発言は厳しい。どうにもシュバルツに対しての蟠りというか警戒感は高かった。それは男を敵視しているというのもあるがもう一つ、
「だがメイア、お前も先ほどあの男の力は目の当たりにしただろう? お前たちがてこずったあの敵艦を一撃で両断したのだ。右も左もわからないこの状況では、利用するのが得策だと思うが」
「ッ! それは! そうですが…」
ブザムの指摘にメイアが悔しそうに顔を歪めた。そう、戦闘要員として後れを取った形になったのがどうしても納得できなかったのだ。男に助けられた…しかも圧倒的な力で助けられたというのが屈辱なのだろう。だからこその蟠り、敵愾心の強さとも言えた。
(やれやれ、まだまだ青いねぇ…)
(全く、真面目過ぎるのも考えものだな…)
その表情からメイアの心情が何となく読み取れたマグノとブザムが心中で溜め息をついた。
「とにかく、今は手段を選んでいる場合じゃない。さっきの三人も含めて男どもは使う方向で行くよ。いいね?」
「…はい」
最終的な決定でもないだろうが、それでもあらかた固まった方針にメイアは不満を隠せなかった。しかし、決定には反対せずに従ったのだった。
「いやぁ、ゾッとしたの何の。味方が次々と倒れ、気が付いたら僕一人なんだから」
少し後、牢獄にて。バートが口を開き、しきりに喋っている。残りの二人、ヒビキとドゥエロは反応してはいないが、それを気にすることもなくバートの饒舌な論陣は続く。
「や、でも思ったね。ここで死ぬのは簡単だ。だが、生き延びていつの日か、女どもの手からこの艦を取り戻すのが僕の義務だとねぇ! 幸い、二人の仲間を得た。どうだい? 三人で手を合わせて…」
続くバートの論陣だったが、ヒビキとドゥエロは相変わらず。とは言え、その様子も少し違う。ドゥエロは黙っているなりにバートの論陣に耳を傾けているようだが、ヒビキは余程疲れたのかグッタリとしながらぼーっと考えごとをしていた。
(…ったく、変わったと思ったのに、結局これかよ)
疲労もあるのだろうが、変わらぬ己の立場、現状を憂いているのかもしれない。
(でも、あれは一体…)
「何だったんだ?」
明らかに自分に向けられた言葉に、ヒビキが僅かに顔を動かした。視線の先には、自分の目の前までやってきたバートの姿がある。
「あんな蛮型どこで造った。何故女と合体する」
「知るかよ! それよりテメェ、風呂場じゃよくも一発喰らわしてくれたな!」
「お~っと、怒らない怒らない。君のためを思えばこそだ」
「ベラベラうるせえんだよテメェ! ただでさえ暑いんだから「不安なのさ」」
二人の会話にドゥエロが口を挟む。まさかドゥエロが口を挟んでくるとは思わなかったヒビキとバートは思わず開いていた口を止めた。
「話すことで気を紛らわせているんだ。許してやれ」
「す、鋭いね。流石は特待生」
「気持ちはわかる。だがそれよりも…」
ドゥエロは黙って横を指差した。自然と、ヒビキとバートの視線もそちらに向かう。そして、
「私としては、あちらの御仁の方に興味が湧くがね」
と、心もち声を潜めて話し出した。二人にとってもそれは興味がある話題だったのだろう、お互い顔を寄せて同じように心もち声を潜めた。
「先ほどの尋問の様子は君も見ただろう?」
「ああ」
「我々もここで見た。で、率直なところどう思う?」
「僕は信用できないね」
真っ先にそう言ったのはバートだった。
「大体、あんなことを言われて信じろって言うのがムリってもんだろ?」
「お、おい、聞こえたらどうすんだ」
気持ちが入ってしまったからか、声量が大きくなってしまったバートをヒビキが窘める。慌ててバートが己の手で口を塞いだが、
「心配はいらない」
ドゥエロが二人を制した。
「? 何でだよ?」
「良く耳をすませば聞こえるが、僅かだが寝息がする。どうやら睡眠中らしい」
「凄いね、流石は医者だ」
「とは言え、大声で騒げば起きてしまうかもしれないので、そこは注意した方がいい」
「オッケー。そうするよ。…しかし、この状況でよく寝られるもんだ」
そして男三人は鼎談を再開することになった。
「先ほどの続きだが…君はどう思うね?」
ドゥエロがヒビキに水を向けた。
「俺ぁ…」
口ごもる。ヒビキらしくない態度と言えなくもないが、判断の決め手が欠けるから仕方ないとも言えた。と、
「私は嘘はないと思うがね」
「へえっ!?」
「は!?」
ある意味、もっとも信じそうにないドゥエロが肯定の意を表したことに、バートだけでなくヒビキまで驚いた表情になった。
「先日、乗艦予定の人員の名簿はあらかじめ目を通した。しかし、あの御仁の記録はなかった。ということは、少なくとも正規の乗組員ではないということになる」
「しかし待ってくれたまえ、実際こういうのだっているわけだし」
「おい、人を指差すんじゃねえ!」
ヒビキがバートに文句を言った。
「確かに。だがそれならそうしただけのそれ相応の理由や目的があるはずだ。それが明かされていない」
「明かしていないだけだろう?」
「そうかもしれない。では明かさないその理由は?」
「それは…わかるわけないじゃないか」
ドゥエロの指摘にバートが黙り込む。
「その通りだ。ここからは仮定の話になるのでそれを踏まえて聞いてほしい。仮にあの御仁が本当にタラークの人間だとしたら、女に対する価値観は我々と変わらないはず。であれば下手な真似をすればどうなるかは重々わかっているはずだ。にもかかわらずあんな受け答えをしたというのは理解できない。ならばいっそ、あの御仁が言ったことを丸々信じたほうが合点が合う」
「死後転生…ってやつか?」
「そうだ。モニター越しにではあるが、あの御仁は女に対して我々のような価値観を持っていないように見えた。敵愾心どころか、警戒心もね。拘束されているのは自分の置かれた状況を何となくでも理解しているからこそ仕方ないとも思っていたように見えたし、だからこそ納得しているように私は思った」
「んじゃお前は、さっきあいつが言ったことは全部本当だと?」
ヒビキの問いかけにドゥエロが頷いた。
「勿論、丸々全てが真実かどうかは現段階ではわからない、だが私自身としてはそう思っている。何よりの決め手はあの人型起動兵器だ」
そこを突かれたバートとヒビキが黙り込んだ。確かに二人とも、蛮型以外の人型起動兵器の存在など知らないからだ。三等民であるヒビキはまだ仕方ないが、イカヅチの正規の乗員であったドゥエロやバートまで知らないのは無理があった。
「蛮型とはまるで違う。あのような人型起動兵器を上層部で開発していたという情報は聞いていない」
「しかしありえなくもない話じゃないかい? 機密は知る者が少なければ少ないほど機密としての意味を持つのだし」
「確かに特A級の機密でワンオフの機体であるという可能性もなくはない。だがそれならばなおのこと、それをタラークの者以外の乗り手に任せるわけがない。そうは思わないか?」
「それは…」
バートが口ごもった。筋道立てられて説明され、反論の余地がないのだろう。
「無論、これも私の個人的な一意見だ。だがそう考えると、あの御仁の行動や尋問の回答にも納得がいく。イカヅチの正規の乗員でもなく、潜り込んだのでもなければ明かせる理由があるわけはない、とね。…とは言え、現時点では判断材料が少なすぎるのもまた事実。良いか悪いかは別としてまだ時間はある。その間に、ゆっくりと判断させてもらおうと思っている」
「…ああ、そうだな」
ヒビキもそれに追随した。
「ま~ったく、どうなってるんだろうねぇ、この艦は。予想外のことばっかり起こるよ」
「骨董品を改修して運用したものだからな。色々と不具合が起きるのも仕方ないとは言える」
「こんなので女と戦えとか、上は何考えてんだか」
「上層部の仕事というものは、隠蔽が大きな比重を占めるからな」
「あー、ヤダヤダ…」
うんざりしながら肩を竦めるバート。その傍らで、ヒビキはぼーっと先ほどの戦闘のことを思い出していた。
(あの機体…)
思い出すのは当然ガンダムシュピーゲルである。自分たちが集団で何とか倒したあのクルミのような敵艦を、ガンダムシュピーゲルは苦もなく一刀で両断した。その爆発の後に姿を現したあの漆黒の機体を見たとき、ヒビキは恐れとも気後れともつかない、何とも不思議な感覚にとらわれたのだった。
(…あそこまで行ければ、俺は本当に変われるのか)
手を伸ばそうとするも届かなかったが、あの時の物理的な彼我の距離は僅かなものだった。だがその僅かの距離は絶望的なまでに開いている。少なくとも今はまだ…。先ほどの戦闘でヒビキはそう理解せざるを得なかった。と、
「楽しそうだな」
不意に外から声を掛けられた。いつの間にやってきたのか、そこにはブザムの姿がった。
「おめえは…」
「何を話していたのか是非聞きたいな。一緒に来てもらおうか」
ブザムが指名したのはバートだった。
「あっははは…お話だけなら喜んで…」
顔を引きつらせながら、バートはブザムたちに連行されていったのだった。
『宇宙船ってよりは、巨大な工場ってとこだね』
場所は変わって宇宙空間。先ほどの戦闘で破壊した敵艦にようやく到着したガスコーニュが、各部を調べながらそんな感想を述べた。その傍らで、
『わあ~、凄い凄い! ほら、あれ!』
今回のガスコーニュの相方であるディータがはしゃいでいる。ディータのドレッドで到着した二人はようやく調査に取り掛かることができていた。
「で? 何か手掛かりは?」
通信で報告を受けながらマグノが尋ねる。
『データベースを探してるんだけど、こうデカいと…』
いつ進展がありそうかわからない状況にガスコーニュがうんざりした直後、
『ねえねえ!』
『うわあああっ!?』
『向こう見てきてもいい?』
大はしゃぎのディータが通信に割り込んできた。思わずガスコーニュが悲鳴を上げるがすぐに、
『ダーメ! 仕事中!』
と、驚かされた腹いせか心なしか強くスーツの額を押した。
『わああああっ! 止めてーっ!』
無重力下故にそのまま止まれずに吹き飛ばされたディータの悲鳴にマグノが微笑を見せながら団扇を扇いだ。先ほどのオペレーターたちの通信からもわかるように、空調がいかれて艦内温度の上昇が止まらないのだろう。と、ガスコーニュたちとは違う回線から通信が入った。
「何だ?
『ナビゲーターを連れてきました』
「今行く」
そう返答すると通信を切る。ブザムがバートを引き連れてブリッジに戻ってきたのである。
「じゃあ引き続き頼むよ、ガスコーニュ」
『はいよ』
そこでガスコーニュとの通信を切ると、マグノはブリッジへと座席を自動移動させたのだった。
「ど、どうも。僕になんか御用で?」
「ああ、あれだよ」
おっかなびっくりのバートに、団扇でマグノがある方向を指し示した。そこは先ほどまでバートが引きずり込まれていたブリッジの先端部だった。
「ちっとも動きゃしない。あんたどうやったんだい?」
「ああ~…それは無理もない。仕方ない、お見せしましょう」
(よくも口が回るものだ…)
わざとらしく腕をカチャカチャやるバートに、ブザムが内心で呆れながらその腕を拘束している手錠を解除した。
「いいですか、これは男の艦」
芝居がかったわざとらしい口調と振る舞いでバートがそこへと向かって歩き出す。
「動かせるのは男だけ。いやまあ幸い、僕が乗り込んでいたからこそ今の皆さんがあるわけで、つまり、皆さんにとって僕は必要不可欠な存在。だか…いや、ちょっと!」
バートが大論陣を終わらせるのを許さないかのように、ブリッジ先端のシステムが再び青い光を上げながらバートを中に引きずり込んだのだった。
「やっぱりわかんないねェ、このシステム…」
マグノがぼやくがそれはバートも同じこと。
「へへ、ざっとこんなもん…って、えっ、ちょ!」
と、システム内部でバートが大口叩いた直後に融合艦はいきなり猛スピードで発進しだしたのだった。
「ど、ど、どうしたんだい急に!」
急発進によって艦内各部が被害や影響を受ける。それはブリッジも例外ではなかった。
「突然システムが立ち上がりました!」
「目標座標調べます!」
「あんた! 何をしたんだい!?」
「お、お待ちください! え~っと、今すぐ…」
マグノに詰問されて何とかしようと試みるバートだったが何とか出来るわけもなく、暴走した融合艦はそのままその宙域を飛び去った。そのため、
『データコピーしたよ。…お頭?』
『うん?』
情報収集にあたっていたガスコーニュとディータの二人は置き去りにされることになってしまったのだった。
「ガスコさん! ディータ! 応答してください」
勿論ブリッジも手をこまねいているわけではない。エズラが通信で呼びかけてはいるものの、通信範囲外まで離れてしまったらしく、二人からの返答はなかった。
「マーカーを打て」
「了解」
ブザムの指示でベルヴェデールがマーカーを打つ。その直後、妙な物音が聞こえた。
「? ! エズラ、どうした!?」
物音のした方にブザムが振り返ると、そこにはコンソールに突っ伏したエズラの姿があった。顔が赤く息も荒い。空調が効いていない状況下ではあるとはいえ、明らかにそれだけが原因ではないことが見て取れる状態だった。
『お前は誰だ! 俺に何をさせたい!』
再びあの蒼い世界にて、ヒビキが何者かに問いかけている。だが虚しいかな、その問いかけに対する答えはなかった。
『あのでっけえロボはなんだ! お前が仕組んだのか!? 俺はどうなる!』
相変わらず返答はない。しかし、その身体を雷撃のような痛みが直撃し、ヒビキは悲鳴を上げた。その雷撃のような痛みが、ヒビキの記憶を呼び起こす。
『ヒビキ…』
『じっちゃん…』
荒野を耕す一人の老人。その老人が口を開いた。
『街行け、ヒビキ』
『な、何で?』
『己を知るためじゃ』
乾いた風が吹き、外にある風車が音を立てて回りだす。
『俺は、十分知ってるよ』
『いやー、わかっとらん』
そして老人があるものを投げる。それは今、ヒビキが首にかけているものだった。ペンダントやネックレスのようなしゃれたものではなく、何らかのICカードのように見える。
『仲間こそが己を映す鏡。人と出逢い、仲間を創れ。己を知るためにな』
「じっちゃん…なあっ! な、何すんだテメェ!」
そこで目が覚めたヒビキ。どうやら疲労の果てに眠ってしまった夢の世界での出来事だったらしい。そして悲鳴を上げたのは、目を開けた瞬間にドゥエロの顔がどアップで目の前にあったからだった。
「熱を測っていただけだ」
「だ、大丈夫。何でもねぇよ…」
身の危険を感じたのか、あるいは本能的にこういった行為は男同士でやるものではないと悟ったのかはわからないが、ヒビキが警戒するかのようにドゥエロから距離をとって身体を縮めた。
「うわごとを言っていたな。じっちゃんとは?」
「じっちゃんはじっちゃんだ。俺の育ての親だよ」
「ふむ…妙だな、第一世代と三等民に接触があるとは思えないが…」
ヒビキのその説明にドゥエロの表情が少し険しいものになった。と、
「ドゥエロ君…だったかな?」
再び牢獄の外から声を掛けられる。そこにいたのはまたしてもブザムだった。
「今度は君の番だ。一緒に来てもらおうか」
振り返ったドゥエロが黙って頷く。そうしてブザムは今度はドゥエロを連行していった。
「結晶反応45%ダウン!」
「艦内温度さらに3℃上昇!」
メカニックルーム。メカニックたちが何とか事態の解決に当たろうとしているものの、状況は芳しくない。
「どうなった~?」
戻ってきたパルフェがツナギの上半身部分を脱ぎながら進捗状況を尋ねる。
「どっから手を付けていいかわかんない」
「なんだかなぁ…そっちは?」
「う~ん」
煮え切らない返答にパルフェが近寄る。そこにいたのはナビロボを調査中のメカニッククルー。
「うんて何よ…あ」
「でしょう?」
パルフェがナビロボを覗き込む。と、
「病気~…病気~…」
そんなことを言いながら、ナビロボがグッタリとしていた。機械がグッタリしているというのも変な表現だが、実際そうなので仕方ない。そして、
「病気ぃ!?」
その発言内容にパルフェもまた驚いたのだった。それと前後してドゥエロが連行されたのは艦の医療室。奥のベッドには先ほど倒れたエズラが付き添いに付き添われて横になっている。
「微熱が続いているらしい。診てやってくれ」
「妙だな。女の医療技術は進んでいると聞いていたが」
「ふ…さすがエリート。会話の端々に探りを入れてくる」
こんなちょっとしたやり取りが楽しいのか、ブザムが微笑を浮かべた。まあ、拘束されている三人の中で一番実のある会話が出来そうな人物だということもあるかもしれないが。
「いいだろう。今、この艦は90%近くが制御不能で、医療システムもそこに含まれている。…これでどうだ?」
「患者を診よう」
ブザムの返答に、今度はドゥエロが微笑を浮かべたのだった。
「あれ~…」
変わって再び宇宙空間。ディータが双眼鏡を覗きながら眉を顰めた。
「どうだい?」
「マーカーしか見えなーい」
「こりゃ何かあったね…。長居は無用だ、すぐここを出るよ」
「ラジャー」
異常事態を察知したガスコーニュが素早く指示を出して離脱しようとした。が、
「!」
突然感じた気配にガスコーニュが振り返る。そこには、先ほどの戦闘でヒビキとディータの合体した機体を拘束した触手のようなものがすぐ背後まで迫っていたのだった。
ディータとガスコーニュの話題に上がった融合艦。その進行方向に星雲が確認され、そこに猛スピードで突っ込んでいこうとしているところだった。
「艦の前方に、星雲が見えてきました」
「コントロール回復できません」
「ったく、至れり尽くせりだねぇ…」
頭に氷嚢を乗せ、サーキュレーターで風を受けながら涼をとるマグノが報告を受けて憮然とした表情になって呟いた。
『こちらメイア、ドレッド発進不能です。これではディータたちを…』
『エレベーターに閉じ込められました~』
『誰か助けなさい!』
そうしている間にも各所からブリッジに状況報告の通信が入ってくる。
「どわっ!? あそこに突っ込むのかぁ!? バカ! よせ! やめろーっ! 止まれーっ!」
星雲がどんどん迫ってくる状況にバートが悲鳴を上げながら何とかしようと試みるものの、実際は現状何もコントロールできないためその願いは叶うことなく、そのままのスピードで星雲に突っ込んだ。その影響でドゥエロたちがいる医療室も電源が止まってしまう。
「機関室、患者がいるんだ。医療室への供給を優先してくれ」
ドゥエロが早業で側にいた隊員の通信機を無理やり奪い取るとそう通信を入れる。通信機を奪われた隊員は怒りを隠せないようだったが。と、
『誰よ、勝手なこと言うのは!』
応答したのはパルフェだった。
『男文字読めりゃ、すぐにでもやってあげるわよ!』
そんな返答が返ってきたので、
「私なら読めるが?」
ブザムの様子を窺いながらドゥエロがそう返した。それに対し、
「よかろう」
ブザムは軽く笑みを浮かべながら了承したのだった。そして、この事態を招いた直接の原因とも言える星雲への進入は未だ終わりが見えない。星雲の中には大小無数の氷塊があるようで、それが融合艦の各部を襲った。
「イテっ! 防護壁ぐらい出せ、チクショーっ!」
そのダメージをモロに食らうことになっていたバートは、ブリッジに聞こえないことをいいことにここぞとばかりに悪態をついていた。そんな状況下、ドゥエロが機関室に足を踏み入れる。
「ん? わっ、男!」
エレベーターから姿を現したドゥエロの姿に、近くにいたメカニッククルーが慌てて後ずさった。タラークとメジェールとの関係もあるのだろうが、体格的に自分よりはるかに背が高い上、顔の半分が髪で隠れているような容姿なのでそんな反応を返すのも仕方ないかもしれない。が、
「あ、こっちよこっち」
パルフェはまるで気にした様子もなくドゥエロを招いた。
「ペークシスの状態を知ろうにも、このデータじゃ全然わかんないのよ…」
「比式六號…何故これを?」
配線に繋がれ、高速で処理が走っているナビロボに目をやったドゥエロがパルフェにたずねる。比式六號というのはこのタイプのナビロボの男側の正式名称である。
「理由はわかんないけど、こいつとペークシスの波形がリンクしてるの。だから、センサーになると思ったんだけど…」
「成る程」
状況を理解したドゥエロがナビロボに近づいて操作を始める。
「どう?」
「機関内部に不純物が増殖している。急激な変化による反発現象らしいな」
表示されている処理内容を目で追ったドゥエロがそう答えた。
「元々、結晶体の成長時に生じるエネルギーを利用するシステムなんだけど、こんな反応は初めてなのよ…」
「二つの艦が融合した影響か」
「多分ね。何とかなる?」
「悪いが、私は機関部員ではない」
「何言ってんの!?」
当然の回答を返したドゥエロだったが、その内容に突然パルフェが怒った。
「動くものは全部生き物よ! あたしはそう思ってる。生き物を治すのは医者の仕事でしょう!? 違う?」
そしてこう続けた。その発言内容にドゥエロは一瞬だけ呆気に取られた様な表情をしたが、すぐに笑みを浮かべる。
「君は面白いことを言うな…」
よく考えれば暴論だがその言葉に思うところがあったのか、ドゥエロが羽織っていたコートを脱ごうとした。そのとき一際大きな振動が艦内に走る。制御不能だった融合艦が星雲内のエネルギー結晶の海に艦の下半分を突っ込んだのだ。それにより、制御不能だった融合艦はやっと停止することになった。
「全艦、完全停止しました」
「やっと止まったと思やあ、こんなとこかい…」
制御不能の融合艦に振り回された形になったマグノが、うんざりしながらそうボヤいた。直後、サーキュレーターが運転を停止してしまう。
「ん?」
どうしたんだとサーキュレーターに目をやった直後、
「お頭」
ベルデウェールから報告が上がる。
「んー?」
「再び艦の一部が変形を始めました!」
その報告通り、艦の一部からペークシス結晶の枝が伸びる。その変化は機関室にも影響を及ぼしていた。
「艦の数値の一部が変動を始めた」
「こっちもよ。何だろう、急に」
状況の変化を確認し合うドゥエロとパルフェ。と、
「ん、ん、ん…ピョローん!」
比式六號…ナビロボがそのボディを小刻みに左右に動かすと、蒸気を噴き出して配線を引き抜いた。そして、
「あー、生き返るピョローん…」
モニターに温泉マークを表示させ、穏やかな表情になったのだった。
「何だコイツ…?」
「この星雲の成分に関係がありそうだな」
「そっか! 溜まった不純物を排出して中和を図ってるんだ!」
「ふ、面白い。確かにまるで生き物だ」
予想外の展開に、それでもドゥエロは彼にしては珍しく、その言葉通りに実に楽しげな表情になっていた。
『お頭、提案があります』
ブリッジ。突然、ブザムからマグノに通信が入った。
「何だ?」
『艦内を調べたところ、男のヴァンガードなら出動可能とわかりました』
「だから?」
『あの男を、ディータとガスコーニュの捜索に向かわせてはどうかと』
「…あの坊やだけかい?」
『はい。もう片方は、万一何かあったときのために残しておくべきかと。何しろ、こんな状況ですので』
「ってことは、あの機体も出れる状態ではあるってことだね?」
『はい』
「わかった。おやり」
『はい』
ブザムからの提案にマグノが了承を出す。
「ところであんた、そんなところで何してたんだい?」
マグノが尋ねた。その背後に映る室内の様子はどこかの物置のような場所だったからだ。しかしブザムはその質問に直接回答することなく、
『お頭の補佐が役目ですから。では』
と返答になるのだかならないのだかわからない報告だけをすると、通信を切ったのだった。
「全然ダメだぁ…」
宇宙空間にて。先ほどの会話に上がったディータとガスコーニュの二人。ガスコーニュは硬質化した触手に雁字搦めにされて動きを封じられてしまっていた。ディータが光線銃でそれを焼き切ろうとしたが、全く効果がない。
「あたしとしたことが、とんだヘマをしたもんだ」
「待ってて、ドレッドから道具を…」
「その必要はないよ」
ディータの行動をガスコーニュが止める。
「え?」
「忘れたのかい? これは仕事なんだよ。データを持って船に戻りな」
「でもガスコさんを置いて行けない…」
「だーれが見捨てろって言ったよ、三流ドラマじゃないんだから。助けを呼んで来いって言ってんだよ」
ガスコーニュが釘を刺す。その返答に、ディータが悲しそうな表情をした。強がってはいるもののいつものように自分の呼び方を訂正しない辺り、ガスコーニュも平静ではないのだろう。
「わかった…。すぐ戻るから、待っててね!」
ディータは身体を反転させるとデータを持って離脱する。
「ふっ…」
世話の焼ける駄々っ子だよとでも言いたげな表情でガスコーニュがディータを見送った。が、その直後、機能を停止したはずのこの敵艦の残骸から先ほどの小型敵機がわらわらと出てくるのを見てしまった。
「チッ、しつこい奴らだ!」
言葉通りのそのしつこさ、しぶとさにガスコーニュが忌々し気に悪態をついたのだった。
「あー…あー…あぢぃ…」
その頃艦内の牢獄にて。一人残っている形のヒビキが横になって暑さに参っていた。正規のクルーが空調の恩恵を受けられていない以上、当然捕虜である彼も同じように暑さにあえいでいた。そのため、ヒビキは今下着姿…赤フン一丁である。
「おやおや、凄い格好だな…」
と、そこにブザムが三度顔を出した。
「あ、何だ!? 今度は俺の番か!?」
「とんでもない。頼みがあってきたんだ」
「頼み?」
ヒビキが怪訝な表情になる。
「正直に話そう。仲間を二名、置いてきてしまった。お前の力を借りたい」
「ハッ、何でお前らに手ぇ貸さなきゃなんねえんだよ」
ブザムの申し出にヒビキが鼻で笑った。しかし、ブザムも素直に引き下がりはしない。
「今は男だ女だと言ってる場合ではない。お前も見ただろう、あの未知の敵を。あの恐ろしい相手を難無く倒した、お前ならと思ったからだ」
「チッ…」
「強い者が弱い者を救う…男の世界では常識だと聞いていたが…。仕方ない、隣の男に声をかけるか」
「わーかったよ!」
わざとらしくかぶりを振ってその場を後にしようとするブザムに、ヒビキが上体を起こした。
「確かにお前にはみっともねえとこ晒したよ。だがこれっきりだぞ、二度と脅しには乗らねえからな!」
「フッ、脅しだなんて、思いもしなかったよ」
ブザムが足を止めて振り返る。その心中はしてやったりといったところだろう。流石に副長の立場にあるだけあって、相手を見抜いた上での交渉術や人身操作は見事なものだった。
とにもかくにも言質は取り、これでヒビキを救援に向かわせる段取りが整ったのであった。そして…
「行ったか…」
ヒビキがブザムに連れていかれて牢獄を出た直後、シュバルツが目を覚ました。まるでそれを待っていたかのように。そう、シュバルツは待っていたのである。こうして一人になってゆっくり考えられる時間を。寝息を立てていたのも演技だった。そうすればヒビキたち三人が安心して何か有用な情報を口に出すかもしれないと判断したからだ。そして目を覚ましたシュバルツは身体を起こすと座禅を組んで目を閉じ瞑想を始めた。まず思ったことは、
(やはりこの世界は、私がいた元の未来世紀の世界とは違うようだ)
というものだった。
(タラークにメジェール、ヴァンガードにドレッド、ペークシスプラグマ…まるで聞いたことのない単語がポンポンと出てくる。そしてそれを当然のように受け入れる私以外の人間たち…。少なくともここが未来世紀の世界ではないのは間違いないようだ)
(私を騙しているという可能性もなくはないだろうが、では何故そんなことをする? その目的は? という観点から考えればそんなことをする理由が考えられない。であれば、やはり彼ら彼女らのこの状況は真実なのだろう)
そこを皮切りに、状況整理もかねて現在の情報でわかること、推測できることを考え始める。
(男女が争う世界。その根源的な理由は現状でわかるわけはないが、そんな状況下で大多数の中に男は私を含めて四人だけ。いっそ私一人なら好きなように立ち回れるが、彼ら三人のことを考えればそうもいかんな)
(とは言え、ここのほぼすべてを占める女性たちは海賊。それでも、力ずくで物事を解決するような連中でないだけまだましだが、賊であるだけに利には敏い。我々に利用価値がある間は生かしておくかもしれないが、利用価値がなくなったら『処分』されるだろうな。その『処分』がどのような形のものになるかはわからないが)
(今はそうならぬように立ち回る他はない。そして同行していればここの連中の全体像もいずれ見えてくるはず。その結果、同じ道を行くことになるか違えるか…。海賊ということを考えれば違えることになるかもしれんが、その時は仕方のないことだ)
(しかし、宇宙海賊か…アルゴ=ガルスキーを思い出すな)
シュバルツの脳裏に弟の仲間の一人が浮かび、思わず微笑を浮かべた。が、それも一瞬。すぐに表情を戻して再び思索の海に耽る。
(私は…何故生きている?)
次にシュバルツの頭に浮かんだのはこの疑問だった。
(確かに私は死んだ。弟によって討たれ、二つに分かれてしまった心と体はその間際に一つに戻ってあの光の中で消えたはずだった。本来ならばもう二度と意識を取り戻すことも目を覚ますこともないはずだ)
(なのに何故かここにこうして生きている。しかも元々の未来世紀ではなく、このような価値観の全く違う世界でだ)
(死んだはずのこの身が再び生を受け、そしてこんな縁もゆかりもない世界にこうしてあるということの意味は一体何か…)
(運命のいたずらか? 神の意志か? それとも…【悪魔】の所業か?)
【悪魔】というフレーズに、シュバルツの脳裏にあの機体のことが思い出される。
(神ならぬこの身ではわかるわけもない。だが、間違いなくここにこうして私がいるということは、必ずその意味があるはず)
(それを得るため、今はただ進むとしよう。その過程で見えてくることもわかることも、そして私がこうして今一度の生を受けた理由もわかる日がくるかもしれん。今はそれを期待することにしよう)
シュバルツは一旦そこで思考を切ると、座禅を解いてゆったりとした姿勢で座り直したのだった。