前回の続き、第三話の後編部分です。今話も前話ほどではないですが場面転換が激しくあっちこっちに話が飛びます。読みにくいとは思いますがそちらご了承の上お読みください。
では、どうぞ。
「いかん、吸排出のバランスが悪い」
機関室にて。ウインドウで艦の全体をモニタリングしながら、相変わらずドゥエロとパルフェがシステムの復旧に向けて悪戦苦闘中である。
「リンクルートが少なすぎるせいよ!」
「しかし、これ以上負荷はかけられん」
「諦めないで! 方法はあるはずよ」
現状打開のためのその方法をドゥエロが思案した。そして、
「迂回路だ」
ドゥエロが結論付けた答えがこれだった。
「渋滞するなら他の道に誘導してやればいい」
「バイパスね、それよ! あんた、いいエンジニアになれるわよ!」
ドゥエロの解答を聞いたパルフェが嬉しそうにその肩をポンポンと叩くと、すぐさまナビロボの許へと向かった。
「さあ忙しくなってきた、皆、聞いて!」
生き生きとした声色になったパルフェの後ろ姿を見送りながら、ドゥエロは今しがた叩かれた肩の部分をジッと見つめながらゆっくりと擦ったのだった。
「接近警報です」
ブリッジ。弱り目に祟り目、泣きっ面に蜂というわけでもないのだろうが、次から次へとアクシデントが発生する。
「今度はどうした?」
「小惑星規模の氷塊が、こちらに接近してきます!」
「聞いたろ、何とかおし!」
アマローネからの報告を受けたマグノが吸い込まれたバートに命令する。が、
『ヒッ! わーっ! 来んな来んな! 何とかしてーっ!』
「……」
返ってきた情けない返答にブリッジの面々は絶句して呆れ返る他なかった。と、
『お頭』
またもブザムから通信が入る。
「BCか。何だい?」
『今の報告、こちらでも聞きました。どうやらナビゲーターのあの男は使い物にならないようで』
「その通りだよ」
『では、もう一人のあの男に対処に向かわせようと思います』
「あの男か…」
その一言で、マグノやブリッジクルーの脳裏にシュバルツの顔が浮かんだ。
「どうにかできそうかい?」
『尋問のときの態度や対応から、四人いる男の中で一番話が通じるので問題はないかと』
「違う、そこじゃないよ」
『と、仰いますと?』
「あの男にこっちにやってきてる氷塊をどうにかできるのかってことさ。確かにさっきの手並みは見事だったが、それでも一機だけで小惑星規模の質量物をどうにかできるのかね」
『そこは何とも。ですが、いい試金石にはなるかと』
「試金石?」
『はい』
ブザムが頷いた。
『あの男と、そしてあの機体の力量を測るには。それに、上手くいけばよし。ダメでも損害はあの男とあの機体だけ。実質的に我々の損害はありません』
「言うじゃないか…」
ブザムの返答内容にマグノがニヤリと笑った。ここら辺はやはり宇宙海賊ということだろうか。
『ただ、あの男はもしものためにと残しておいたのですが、そのもしもが発生するとは正直思っていませんでしたが』
「ある意味、あんたの思惑通りってわけかい」
『これはお戯れを』
その受け答えに二人の間に少し緊張感が走ったような感じ、アマローネとベルデウェールが微小に身体を震わせたのは内緒である。
「上手く話を持っていけるかい?」
『そこは問題ないかと。先ほども申し上げましたが、あの男が一番話が通じるでしょう』
「わかったよ、やりな」
『ありがとうございます。では』
そこで通信が途切れた。相変わらずの暑さに参りながらもマグノが深く座り直して口元に笑みを浮かべる。
(試金石か…確かにそうかもしれないね。相手がさっきの連中みたいな兵器じゃなく、ただの無機物だから与するのは容易だと思うが、それでも小惑星規模ってことなら骨が折れるはずさ。そこをどう対処するのか、高みの見物とさせてもらおうじゃないか)
「いいかな?」
牢獄。ブザムにとってこれで四度目となる足の運びだった。そして今回の相手は男ではあるが、先ほどまでの三人とは異なる異物。
「何用か?」
その異物、シュバルツが座ったまま答えた。空調の状態は隣のヒビキたちがいたところと変わるわけはないのに、先ほどのヒビキとは違って着衣が乱れることもなく、見た感じでは汗の一つもかいていない。
(この状況でも汗一つかかないとは…どういう身体構造をしているんだ…)
その様に内心で呆れながらも表面に出すことはなく、ブザムは話を始めた。
「お前の力を貸りたい」
「漠然とし過ぎているな。もう少し詳細を語ってもらおうか」
「よかろう。実は今、この艦に小惑星規模の氷塊…氷の塊が迫ってきている」
「ふむ。それで?」
「その対処をお前に頼みたい」
「成る程。そして私のところに話を持ってきたということは、他の連中は出払ったか、出られない状況にあるか、そのどちらかというわけか」
「流石に鋭いな。で、頼めるか?」
「いいだろう」
頷くとシュバルツが立ち上がった。直後、ブザムが錠と牢獄のロックを解除する。
「できるか?」
牢から出てきて己の横に立ったシュバルツにブザムが尋ねた。
「さて、実際にその場に行ってみないことにはなんともな」
「頼む。あれが直撃したらこの艦もただでは済むまい」
「まあ、努力はしよう」
それだけ言い残すと、シュバルツはそのまま牢獄を去っていった。
「さて、どれほどのものかな?」
見送った形になるブザムはそう呟くと、実に楽しげな表情になったのだった。
「ああー! いやー!」
各地で状況が目まぐるしく変化する中、ガスコーニュから指示を受けて艦に戻っている途中のディータも敵機の執拗な追撃と攻撃に悲鳴を上げて逃げ惑っていた。機体の性能差からか今のところ致命傷は負ってはいないが、敵機は執拗にディータを追いかけてくる。
「何て奴らだ…この状態から復活できるってのかい?」
取り残されたことで否応にもディータを追撃する敵の様子を目の当たりにすることになっているガスコーニュは焦りの色を隠せなかった。機能を停止し、スクラップ同然と思われたこの敵艦からわらわらと先ほどの小型敵機が出てくるからだ。と、近くから妙な音が聞こえガスコーニュが振り返る。そこにはいつの間にか、UFOキャッチャーのような形状の敵機の姿があった。
「ハハッ、あたしも材料ってわけか…」
アームをガシガシと開閉するその敵機の威容に、思わずガスコーニュが引き攣った笑顔を浮かべたのであった。
「あーん! しつこい宇宙人なんて大嫌い!」
一方でそのガスコーニュを救うべく融合艦へと急ぐディータだったが、敵機は相変わらず何処までもしつこくディータのドレッドを追跡してくる。と、そのとき、
「あ!」
レーダーが前方からもやってくる反応を捉えたのだった。
「前からもぉ!?」
挟み撃ちされる形になったディータが半泣きになりながらドレッドを操縦する。そのことに気を取られたたため、背後から被弾。その衝撃で思わず顔を伏せて前方にビームを発射してしまった。発射したビームは前方の反応に着弾したようで爆発が起こったが、
『おらぁ!』
聞きなれた声が通信から入ってきたためディータは伏せていた顔を上げた。
『これが迎えに来た奴に対する仕打ちか!?』
「宇宙人さん!」
通信から入ってきた声がヒビキのものであり、前方からやってきたのがヒビキの蛮型…ヴァンガードであったことを理解したディータが喜色満面になる。対して、
「げっ! あ、あいつは…」
救援に来た相手がディータだと気付いたヒビキが顔を引きつらせてその場に止まった。そしてディータのドレッドを避けようとする。が、予想外のことでパニクっているのかその場でジタバタするだけでまるで動けない。
「ディータを助けに来てくれたのね! やっぱりいい宇宙人さんだ!」
『ち、違う! 違ーう!』
必死で否定するヒビキだったがディータはそれを気にもせずにそのままヒビキのヴァンガードに突っ込んでいく。さながらヒビキのことが白馬に乗った王子様にでも見えることだろう。そして二機の機体は、再びあの人型起動兵器へと合体・変形したのであった。
「わー! 何これスッゴーイ!」
「こら動くな」
合体後のコックピットでディータが大はしゃぎする。先ほどは気雑していたのだから、ディータがここを見るのもこの形になるのもこれが初めてということになるため仕方のないことだと言えるが。ヒビキも一応注意するがディータは気にも留めた様子はない。そのまま振り返り、
「ディータね、信じてたの。きっと宇宙人さんが助けに来てくれるって」
「助けたわけじゃねえよ。探しにきただけだよ」
正面からの感謝に照れ臭いのか、ヒビキがそっぽを向いてそうぶっきらぼうに呟いた。タラークでは最下級の三等民だったためか、こうして真っ直ぐに感謝を向けられることは慣れていないし弱いのだろう。そんなヒビキに、
「ありがとう」
ディータは再度、今度は口に出して感謝の想いをヒビキに伝えたのだった。
「いい手際じゃないか。スカウトしたいぐらいだよ」
再びガスコーニュ。先ほどガスコーニュの姿を捕捉したUFOキャッチャーのような敵機が、ガスコーニュを拘束している無数の硬質化した筋を撤去作業で少しずつ除去している。先ほどのセリフはそれに対する皮肉だった。そして、除去作業をしていたアームの先端から一回り小さなアームを伸ばした。
「いよいよあたしの番かい…」
ワキワキさせながら近づいてくるそのアームに、ガスコーニュが顔を引きつらせる。
「うっ!」
指呼の距離まで迫ったアームにガスコーニュが呻いたが、その直後に横から突如何かの手が伸びてきてそのアームごと本体を捉えた。
「!」
ガスコーニュが振り返ると、そこにはヒビキとディータの機体が合体したあの人型起動兵器の姿があったのだった。そしてそのまま、UFOキャッチャー型の敵機を握り潰す。
「ギリギリまで引っ張るたぁ、憎い演出してくれるじゃないの…」
助かった安心感からか、微笑みを浮かべながらもガスコーニュは軽く悪態をついたのだった。
「第36までのバイパスを、何とか確保したわ。そっちは?」
「こっちはこれ以上無理だな。この量でやるしかない」
「ムリよぉ! 下手に仕掛けると、かえってバランスを崩すわ!」
機関室。本来なら呉越同舟のはずの男と女…ドゥエロとパルフェがともに力を合わせて難局を乗り切ろうとしている。が、会話の内容からもわかるように状況は芳しくない。しかし、
「こういうとき、医者はどうするか知っているか?」
ドゥエロが不意に現状とはあまり関係なさそうなことをパルフェに尋ねてきた。
「え?」
不思議そうな表情で顔を上げたパルフェに、
「患者を信じるんだよ」
静かに微笑みながらドゥエロがそう答えたのだった。その返答を聞き、パルフェが力強くうんと頷き、再び作業に取り掛かる。しかし、時間はもうあまりない。
「氷塊、さらに接近! ペークシス反応しません、コントロール不能!」
「距離12〇〇〇!」
ブリッジでは先ほど発見した小惑星規模の氷塊が刻一刻と迫ってきている状況なのが報告されている。
「ったく、何してるんだい、あの男は!」
ブザムが交渉をしくじったのかと思いながら歯噛みをするマグノだったが、直後に停止したサーキュレーターが再起動を始めた。それを契機に、融合艦も再起動を開始する。
「あはっ! コントロール回復しました!」
「ニキニキニキニキ…只今戻りました!」
機関室にてナビロボが復旧したのは、ベルデウェールがブリッジにてそう報告したのとほぼ同時だった。
「あはっ! やったやった! やったね♪」
嬉しさのあまりパルフェがドゥエロの手を握る。自然、それを握り返す形になったドゥエロ。二人は何故か赤くなってお互いに気まずくなったのだった。そして、
「! 艦上部に反応!」
「何だって!?」
再起動を果たしたブリッジでもまた状況が変化していた。
「敵かい!?」
「ち、違います! これは」
「映像、出します!」
アマローネがモニターに映し出したのは、融合艦の上で仁王立ちしているガンダムシュピーゲルの姿だった。
『すまん、少し遅くなった』
そして直後、シュバルツから通信が入る。
「全くだよ。その分ちゃんと働いてもらおうか」
『わかった』
それだけ返すとシュバルツは通信を切る。
「でも、どうするのかしら…」
「確かに…」
迫ってきている氷塊とガンダムシュピーゲルをモニタリングしながらアマローネとベルデウェールが呟く。そこはマグノも同意見のため、お手並み拝見とばかりに見守ることにした。
「念のため、いつでも逃げられる用意はしておきな」
「了解」
しっかりと、次善の策を用意して。
「これはまた…」
そんな会話がブリッジで行われているとも知らず、通信を切断したシュバルツが己の前方に目を向けた。そこには、こちらに迫ってくる小惑星規模の氷塊。
「大した迫力だな。だが、ただの質量物であればどうということはない」
シュバルツは不敵に微笑みながらそう呟くと、シュピーゲルブレードを展開させて氷塊へ突っ込んだ。
「ええっ!?」
「うっそぉ…」
「あの男、本気かい?」
その行為に、ブリッジの三人が信じられないとばかりに目を剥いた。あれであの小惑星サイズの氷塊を切り刻もうとでもいうのだろうか。無謀と思えたがしかし、三人の予想は見事に外れることになる。
「はああああっ…」
ガンダムシュピーゲルはシュピーゲルブレードを展開させたまま回転しだす。そう、その必殺技であるシュトゥルム・ウント・ドランクを繰り出したのだ。が、いつもの形とは少し違い、横に90℃倒れたのだ。そしてそのまま氷塊に突っ込んでいく。
「うおおおおおおっ!」
氷塊へと到達したガンダムシュピーゲルはそのまま回転し、氷塊を削りながら登っていった。そして氷塊をぐるりと縦に一回転して戻ってくる。
「もう一撃!」
周回を終えたガンダムシュピーゲルが一度シュトゥルム・ウント・ドランクを解除すると、今度はいつもの形のシュトゥルム・ウント・ドランクを繰り出して再び氷塊を一周して戻ってきた。今度は横に一回転した形のため、終わった後には当然十字の斬創が刻まれた氷塊が出来上がりというわけである。そしてガンダムシュピーゲルは一度氷塊から離れて再び融合艦の上に仁王立ちした。
やったこととしてはそれだけなのだが、ガンダムシュピーゲルの…シュバルツの見せた離れ業にブリッジは唖然としていた。
「ええー…」
「あんな真似、出来るものなの…?」
「こりゃたまげたね…。しかし、これからどうするつもりなんだろうね」
マグノのその指摘に、アマローネとベルデウェールもハッとなった。確かに凄かったが、シュバルツがガンダムシュピーゲルでやってのけたのは氷塊に十字の切り込みを入れただけであって、まだ氷塊自体は健在である。問題自体は解決していないのだ。そしてその疑問は何も彼女たちだけが抱いていたわけではない。
『この後どーすんだ?』
ブリッジに吸い込まれたバートも当然その光景は見ることになったため、その中で今後の展開が読めずに首を傾げている。だが、この後のシュバルツの行動に彼女たちは全員度肝を抜かれることになった。
「……」
シュバルツは無言でメッサ―グランツを一本取り出すと、それを先ほど自身が刻んだ氷塊の十字傷の交点へと投げつけた。直後、ガンダムシュピーゲルも再び突っ込む。そして、
「はああああっ!」
寸分違わず氷塊の交点に突き刺さったメッサ―グランツにガンダムシュピーゲルは全力の蹴りを入れたのだった。さながら杭や楔を地面に深々と打ち込むかのように。メッサ―グランツは圧力に従って氷塊に深々と突き刺さっていき、そしてそれがスイッチになったかのように先ほど刻んだ斬り込みに沿って亀裂が深く走っていく。その結果、直後に轟音と共に氷塊が文字通り四散したのだった。四散した氷塊はそのときの衝撃で全て融合艦の直撃コースから外れたため、結果的に融合艦は被害を被ることはなかった。
『……』
目の前の展開に度肝を抜かれたままのブリッジの三人。そんなブリッジに、
『任務終了。帰投する』
という短い内容の通信が入りガンダムシュピーゲルは姿を消したのだった。そしてそこで三人は、ようやく己を取り戻した。
「は、はい!」
「了解!」
アマローネとベルデウェールが思わず普通に対応してしまう。今の立場としてはシュバルツを含めた男連中は全員捕虜のためそれなりの対応でいいのだが、見せつけられた圧倒的な力に思わず通常通りの対応をしてしまったのだった。
「とんでもないね…」
マグノもまだ呆然としている。だがその反面、
(こりゃ、大した拾いもんかもしれないね。もっとも、扱いを間違えたらこっちの寝首が搔かれかねないから、諸手を挙げて歓迎ってわけにもいかないが…)
改めてそんな思いに囚われていた。そのため、後でBCあたりと対応策をもう一度協議しようかね…という結論に達したのだった。そして、その光景を目の当たりにしたのはブリッジ要員だけではない。
『は、はは…ウソだろ…?』
笑うしかないといった様子で失笑しているバート。だがすぐに気を取り直すと、
『これは是非、お近づきになっておかないとな』
その技量の高さに全力で擦り寄るべく、バートはニヤリと悪だくみの笑みを浮かべたのだった。そして、
「すごいすごーい!」
合体機の中でディータが瞳をキラキラさせながら無邪気にはしゃぐ。自分たちがあの氷塊をどうにかしようとした矢先に、ディータたちは氷塊の四散を目の当たりにすることになった。そして四散した氷塊の先に融合艦の上で仁王立ちするガンダムシュピーゲルの姿があったので、これが誰によるものなのかを理解したディータがガンダムシュピーゲル…シュバルツに手放しの賛辞を送っているのである。
「あのバカでっかい氷の塊を、あの単機でどうにかしたってのかい? 信じられないことするね…」
手放しで喜ぶディータとは対照的に、ガスコーニュは驚きと戸惑いといったマグノに近い感情を抱いていた。まだ扱い次第でどう転ぶかわからない相手ということがわかっているだけに、手放しで喜ぶ気にはとてもなれないのだろう。
(確かに味方ならこの上なく心強いが、男と女の関係を考えればうちのクルーの子のどれだけが受け入れるか…。それが一番の問題だね)
状況が悪くならないように、場合によっては釘を刺しておいた方がいいかもしれないねと改めてガスコーニュは考えていた。そして、
(凄ぇ…)
疲労でグッタリとしながらも、その光景を目の前で目の当たりにしたヒビキは驚くことしかできなかった。自分は愛機の蛮型を駆っても、今のところ己の証などはまるで立てられてはいない。だがあの漆黒の機体…ガンダムシュピーゲルを駆るシュバルツは、そんなことがちっぽけに見えてしまうほどの手の届かない場所にいる…。ヒビキはまたしてもその差を見せつけられたのだ。
(俺は…あそこまで…)
辿り着けるのか? そう再び自問自答する。だが答えなど出るはずもなく、蓄積した疲労もあってヒビキはそのまま気を失ったのであった。
『お頭との協議の結果、我々の置かれた状況をクルー全員に知らせることにした』
システムが復旧したことで無事星雲を抜けた融合艦内に、ブザムの全艦放送が響き渡り始めた。
『敵の残骸より入手したデータを解析した結果、一部だが、敵のことがわかった。この映像を見てもらいたい』
そこで画面が切り替わる。そこには、何かの文様が描かれたようなくすんだ色の球体が表示されていた。
『これが敵の本星だ。座標も星系も不明だが、かなりの戦力を有しているらしい』
「変な星」
「だね」
パルフェとナビロボがその映像を見た正直な感想を口にする。
『我々は、この未知の敵の領域に入り込み、侵入者として攻撃を受けている。我々がメジェール宙域に戻る進路上で、再び同じ理由でこの敵との交戦が予想される。何故ならば、敵の目的がメジェールと男の星タラークに対し、【カリトリ】という暗号作戦を展開していることがわかったからだ。つまり、少なくとも彼らは何らかの理由により我々の星の壊滅を目論んでいることになる』
ここで、メッセンジャーがブザムからマグノへと交代する。
『我々は海賊だ。メジェールにもタラークにも義理はない。だが、わけのわからない奴らにムザムザお得意さんを滅ぼされるってのも面白くない。そこで、我々は敵よりも先に母星に戻り、この危機を伝えようと思う。そのためには、捕虜となった男たちもクルーとして取り入れる必要がある』
『ええーっ!?』
ブリッジのアマローネとベルデウェールが声を揃えた。恐らく、艦内のそこかしこで同じ反応が多々上がっていることだろう。
「ははっ、やっとわかってもらえました…?」
その発言内容に先ほどのヒビキよろしく、グッタリした状態でブリッジに打ち上げられていたバートが力なく呟いた。しかし、マグノはそれを黙殺して続ける。
『この船といいあのデカいロボットといい、わからないことだらけだが、旅を続けていくうちに一つ一つ確かめていかなきゃならない。クルー全員の協力に期待する。以上』
そこで全艦放送は終了した。
(まあ今のところ、もっとも訳がわからないのはあの兄ちゃんとロボットだがね…)
先ほどの光景を思い出してそんな結論に至ったマグノが全艦放送を終えて一息ついた。と、そこへ、
「すみませんでした。持ち場に戻ります」
ドゥエロに付き添われたエズラがブリッジに戻ってきた。
「微熱の原因はわかったのか?」
「えっと、それが、その…」
ブザムの質問に何故だかエズラは言いにくそうだ。それを察してというわけでもないのだろうが、ドゥエロがエズラの代わりに代弁する。
「この患者の体内に、別の生命体が寄生している」
「えっ!?」
マグノがその説明内容に驚いたが、
「違います」
エズラが照れ臭そうに身を捩りながらその代弁内容を否定した。そして、
「私…赤ちゃんが、出来たんです」
そう、訂正したのだった。
「えぇー!?」
「エズラ、いつの間にファーマになったのよ!?」
「オーマは誰!?」
「子供って工場で創るんじゃなかったのか…?」
エズラの報告に色めき立つアマローネとベルデウェールだったが、ビックリした表情でそんなことを言うバートに呆気にとられたように彼を見た。
「女は体内で複製を創るとは聞いていたが…」
ドゥエロもバートとはベクトルは違うが、子供ができたこと…妊娠に興味津々である。
「す、すみません、お頭。今度の仕事が終わったらお話しするつもりでした」
ある意味事後報告となってしまったことにエズラが申し訳なさそうに詫びた。が、
「謝ることじゃないよ、エズラ」
マグノは優しい表情になるとそう告げる。そして、
「いい子を産むんだよ」
と、続けたのだった。
「もーエズラったら、何にも言わないんだから」
「ねえねえ、オーマは誰よ?」
懐妊が判明したエズラの許にアマローネとベルデウェールが駆け寄って早速詳しい話を聞こうとする。
「何だそれは?」
“オーマ”という単語の意味がわからないドゥエロが二人に尋ねた。
「オーマは卵子を提供して、ファーマがそれをお腹で育てるの」
「何にも知らないんだね」
「初耳だ」
ドゥエロも含めてワイワイと賑やかかつ和やかな一団から少し離れたブザム。本来ならその輪の中に入ってもいいはずの彼女だが妙な行動をとっていた。他の面々に気付かれないようにオペレーター席に軽く触れると、小型のカードタイプのディスクのようなものを取り出して回収したのだ。そしてそれを、同じように誰にも気づかれないようにしまう。
「全く驚かされることばっかりじゃないか。だろ? BC」
そんな、謎の行動を見せるブザムにマグノが話しかけた。
「! は、はい、お頭」
妙な行動をしていたため内心では飛び上がるほどの驚きだったが、そこは強靭な精神力で平静を装ってブザムが回答する。一瞬自分の行動が気付かれたかとも警戒したブザムだったが、表情を見る限り感づかれた様子はなく、内心でホッと一息ついていた。
「あたしらもうかうかしてられないよ。生まれてくる新しい生命のためにもさ」
「はい。…長い旅に、なりそうですから」
その言葉通り、融合艦は宇宙の闇を突き進んでいく。男と女、そこにある数多の思惑を乗せて。そして…
「ねえ、ジュラ…」
「ん?」
「あたしら、いつになったら出られるの!?」
「誰か、助けて…」
エレベーターに閉じ込められたジュラとバーネットはすっかり忘れ去られ、身動きできないエレベーターの中でさめざめと涙を流していたのだった。更にもう一つ。
「パルフェ」
機関室。機関部員のクルー数名が戻ってきた。
「お疲れ、お帰りー」
「そっちもねー」
労いの言葉を返すパルフェに、お互いにパーンとハイタッチする。
「いやー、手こずったわ」
「けど、何とかなったみたいじゃない?」
「まーね。ま、実際のところなんで復旧したのか詳しいところはわからずじまいだし、男にも助けられたしね」
「ふーん」
「えぇ? 男に?」
帰還してきたクルーの一人が渋面を作った。が、
「しょうがないじゃん、男文字読めないんだもん」
パルフェは気にも留めない。そして、
「それより…そっちはどうだったの?」
興味津々といった感じで眼鏡をかけ直してクルーたちに尋ねた。が、
「それが…」
クルーたちの表情が曇る。ハッキリとした返答は返ってきていないものの、その様子でパルフェは何となく状況を悟った。
「ダメだった?」
「うん」
「はい、これ」
「どれどれ…」
クルーの一人から渡されたデータにパルフェが目を通す。しかし、
「うわ…」
その結果に絶句するしかなかった。
「fail、disconnect、no-signal、error…見事に何もできなかったわけね」
「そ」
「あんな固いセキュリティ、初めてだったわ」
「しかも、それだけじゃないのよ」
「何々? どうしたの?」
パルフェが興味津々といった感じで先を促す。
「接続してハッキングしようとしたら、逆にこっちを乗っ取ってこようとしたの」
「ウソ!? マジ!?」
「マジもマジ、大マジよ」
「おかげで大半はそっちの対処で防戦一方」
「たまにこっちから仕掛けられても結果はその通り」
「うわ…」
その光景を想像したのか、パルフェがげんなりとした表情になった。
「ったく、この艦は骨董品って言ってもいいほど古臭いヤツだってのに、何でまたそんな両極端な機体があるかな」
「知らないよ」
「でもこうなると、さっきの全艦放送であの男が言ってたこと…」
「うん、俄然信憑性を増すね」
パルフェをはじめとするその場のクルーがうん、と頷いた。
「死後転生か…」
「男の言ったことだし、信じられないけど…」
「でも、この結果を見る限り…」
「少なくとも、タラークの男じゃないことは確かか…」
パルフェの指摘にクルーがまたうん、と頷いた。そう、彼女たちはガンダムシュピーゲルの調査に回っていた機関部員だった。そして、その結果を今パルフェに共有しているのである。そしてその結果は報告通り惨憺たる有様だった。
「暫く様子を見た方がいい…か」
「そーね。今手を出しても同じ結果になるのは目に見えてるし」
「分析や対策はできそう?」
「わかんない。けど、あまり期待しない方がいいかな」
「ま、そうよね」
ことごとくハックが跳ね返された、のみならず逆にハックを仕掛けられそうになったのであれば進展を期待するのは酷というものであろう。
「こりゃ、一筋縄じゃいきそうにないわね。…とにかく、情報収集だけは怠らないことにしましょ」
「わかった」
「オッケー」
「にしても…」
パルフェがシュバルツの姿をモニターに映す。
「こんなタイミングでタラークの男以外の不確定要素が入り込むなんてね。お頭じゃないけど、何か暗示してるのかしら…」
シュバルツの映像を取り囲むクルーたちは、パルフェのその呟きに各々様々な思いを馳せたのだった。